ルード - みる会図書館


検索対象: SFマガジン 1984年6月号
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1. SFマガジン 1984年6月号

澄郎は二人の女に迫られて、ただルシフアを抱きかかえて立ちっ 「ルシフアはわたしが育てる 。・、ールには渡さないわー くすだけだった。 「 : : : イシス。本気なんだな」 イシスは説得はあきらめたという様子で、もはやルードに声はか「もちろん」 けなかった。ルードの血で染ったシーツを丸めて手に持ち、第三眼「きみには母親の資格があるか ? きみが持っている資格といえば をいつばいに開いた。 理論士のものだけだ。きみには愛せないだろう、ルシフアは」 イシスの持ったシーツがまばゆい金色の炎を噴き上けた。炎は獲「わたしは自分の理論を信じているし、愛してる。ルシフアもその 物を襲う豹のような勢いでルードの身に移った。 一部よ」 ルードが悲鳴をあげてペッ トの上で身を丸めた。部屋が金の輝き「がなくても子供は育っというわけだ。ルシフアに恨まれないよ で満たされ、部屋やマンション全体を崩壊させ、樹樹をなぎたおうにうまく育てることだ。おれのようにならないように気をつける し、大地を消減させ、広がった。 、力しし おれはーーー理論士の母を、死んだいまでも許せん」 澄郎は瞬間スローンの姿になり、第三眠を開いてイシスのカから「自分で変えられない運命はない。あなたはその恨みをあなた自身 自分とルシフアを守った。 で生んでいるんだわ。あなたの母親のせいじゃない」 ルシフアが泣き声をあげている。 そのように言われてしまえば、返す言葉はなかった。 イシスは第三眼を半眼にもどした。光は消えていた。ルード の身「恨みは他人に移るわ、スローン。気をつけなさい。恨みはあなた に最も近い者に移ると思うの。あなたのまだ生まれない子に。その の金色の炎も消えていたが、その身体全体にまだ火花が踊ってい る。イシスは手のシーツを広げて、ル 1 ドの身から発している黄金子はきっとあなたと同じようになるわ。無意識のうちに、あなたは 自分の子に、あなたが両親から受けた恨みをその子にぶつけて復讐 の火花をそれで吹き消そうとでもするように、ばんと打ち振った。 シーツから金色の光が散り、そしてすべてがもとにもどった。 するにちがいない」 「嘘だ。そんなことはしない」 「きれいになったわよ、シーツ」 イシスが言った。ルードの流した血はどこにもついていなかつ「恨みや不安は、可能事象べクトルを消してしまう : : : 現実を固定 た。血もルシフアを包んでいたルードの胎盤もなかった。 してしまって、あなたはそこから出られない。なんの可能性もな だがルシフアはいた。澄郎の腕の中に。 、恨みで固定された未来しか実現しない」 イシスは無言でスローンに近づき、当然という顔で、まるで自分「それがきみの理論か」 こそ母親なのだという態度で、ルシフアをスローンの手から取りあ「よくわからないのよ、スローン、わたしにも : : : でもだんだんわ げ、自分の胸に抱いた。ルシフアはその小さな手でしつかりとイシ かってきた気がするわ 。・ハールの事象に巻き込まれたせいで。スロ スにしがみつき、唇を動かして乳首を探した。 ーン、セラフを求めなさい。愛はおそらく可能事象べクトルに強く 226

2. SFマガジン 1984年6月号

作用するにちがいない・ : = ・信じられないけれど、き 0 とそうだわ」包まれ、イシスの姿が宙に浮いた。イシスの身は現実空間から離れ たかのようだった。すっと澄郎から遠ざかる。 「セラフは : : : おれを見ようとしない」 「どこへ行くんだ、イシス」 「恨みを聞くために一緒になろうという女はいないわよ、スロー : ・、ールから 〈ダゴム司令を助けて、それからルシフアを育てる : 離れたところで〉 「おれは言った覚えはない」 イシスは澄郎の部屋の窓ガラスを幽霊のように抜け、ルシフアを 「満井澄郎はロに出したわ。それに、第三眼で放射してるのよ、あ なたにも他人にもほとんど意識されないほどでも、あなたはそんな抱いた姿を澄郎に向けたまま空〈と浮かび、上昇し、小さくなり、 きらりと金星のように輝き、消えてしまった。 気持を全宇宙に向けて放っているのよ」 ・ヘランダまで出てイシスを追った澄郎はしばらくイシスの消えた 「おれにどうしろと言うんだ ? 親を換えることなどできるもの 空を見上げていた。 か」 「なにをしてるの ? 」 「ーーできるわ」 澄郎は振り返った。 「なんだって ? 」 からだ ・ : 身体はなんともないか ? 」 「自分で変えられない現実はないのよ、スローン。事実をあなた自「ルード : 「なんで ? 」 。理論以外のカで。アシリスのように」 身で生むがいい 「イシス、きみは : : : きみはアシリスを愛しているんだろう ? 愛「少し前、きみはルシフアという男の子を生んだんだよ」 ルードは笑った。そのなんの屈託もない笑いに澄郎は、・ハールや している、そう言ってくれ」 イシスの力にあらためて畏れを抱いた。ルードは理論によって創ら 「わたしはどんどん変わってゆく。擬動を重ねているから : : : ルー れた幻なのだと思い、幻に同情し、ルードの髪に触れようとした。 ドは大丈夫よ。彼女は普通の女の子になったわ」 ルードはその手から逃がれたので、澄郎にはルードがたしかな肉体 「きみは、きみの理論で、アシリスから離れてゆく : : : それでいい を持っているのかそれとも霧のように実体のないものなのかどうか のか ? 」 を確かめることができず、苛立った。 : ・ハールに対抗できるのはわたしだけ : 「わたしは理論士よ : 1 ルに負けてはいけない。負けたら全宇宙から愛は消えるわ : : : わ「やーだ、あたしまだ子供なんか欲しくないもん」 「だれが。おまえみたいな小娘を相手にするもんか。 たしは、わたしはーーー・やるしかないのよ、スローン。ありがとう、 ルシフアのことは忘れてしまったのか ? 」 わたしのことを心配してくれて。あなたはいい人。アシリスはい、 「ルシファって ? 」 友をもった : : : スローン、アシリスのことを頼んだわ」 母親とは生を受けた瞬間に出会う他人だと澄郎は思った。・ イシスはルシフアを抱きなおして、第三眼を開いた。金色の光に ン スーン : ほんとに 227

3. SFマガジン 1984年6月号

2 っていた。そのあたりまえのことに澄郎は感動した。指というのは イシスはルシフアをきれいに洗い清め、シーツにくるんで。ハスル ームから出てきた。そして和やかな笑顔でーースローンはそんな柔年をとるごとに一本づっ増えて五本そろうわけではなくて、生まれ 和なイシスの笑顔を見るのは初めてだったーーースローンの方を見たときからある、ということを初めて知ったように、澄郎はルシフ こ 0 アを飽かずに見つめた。ルシフアはまったく普通の、五体満足な、 「もう出てきてもいいわよ、スローン」 地球の赤子だった。額のかすかな赤痣を別にすれば、背に翼も、指 スローンを縛っていたカがふと失せて、スローンの前にあった見に鋭い鉤爪も、そんな異常な、人間ではないことを表わす印はどこ すみお えない障害物がなくなった。スローンは澄郎の姿で自分の部屋に立にもなかった。額の赤痣にしたところで珍らしいものではなかっ た。それがカミス人の第三眼の能力をもっているらしいのはスロー っていた。 リンス ンにはわかったが、地球人には決してわからない。ルシフア自身も 「テレビの中に押し込めたな、イシス。おれはどんな顔でテレビに 映っていた ? 」 教えられなければその能力には気づかないだろう。その赤痣は第三 , 「父親の顔をしてたわよ」 眼の痕跡であり、いわば悪魔の子である証である、という事実は、 、そのほうがしあわせだーーー澄 ルシフアには知らせないほう力しし か再びうめいた。イシスは 失神していたように静かだったルード・ によレンフアの首筋を支えて、そっとルードの方へ差し出そうと の後産の良。 / 、 生まれたばかりのルシフアを澄郎にそっと渡して、ルード し、イシスの声に止められた。 処置をした。 「ルシフアに母親はいないわ」 が汗と涙のにしむ眼で澄郎を見上げた。「わた 「スローン」ルード 「わたしの子よ」 しのルシフアを見せてよ」 「スローン、ルシフアをルードに渡してはだめよ」 「ああ、うん」 「返してよ、わたしの赤ちゃん」 ルシフアはとても軽くてやわらかくて、頼りなく、小さかった。 「いけない、スローン、情緒に流されてはいけない。ルシフアをこ 額に第三眼はなかったが、その位置に五ミリほどの赤い痣があっ た。スローンの第三眼にはそのルシフアの赤痣は螢光を発しているちらによこしなさい」 リンポスすみお かのように鮮やかだったが、地球人の澄郎の眼ではほとんど見えな「返して ! 」 っこ 0 、カ子ー ルードは疲れきった身を起こした。汗で濡れた髪が頬に張りつ き、ルシフアをとりもどそうと澄郎を見つめる眼は幼い少女のもの 「ちゃんとしてる ? 」 すみお トが訊いた。澄郎はうなずいた。小さいのに、ちゃんと人間ではなく、澄郎は思わず後ずさった。 の形をしているんだから、赤ん坊って不思議だと澄郎は思った。ル「返して、わたしのルシフアを」 才しし力にも小さかったが五本そろ「スローン ! 」 シフアのしつかり握られた手の旨よ、、 225

4. SFマガジン 1984年6月号

澄郎はおちついていられず、腰をあげると、分娩室のドアを薄く 開いた。その中はしかし天色の靄に包まれてなにも見えなかった。 澄郎はカミス人のスローンに変身して、第三眼を開いた。霧が晴れ て、澄郎の部屋が見えた。 イシスはスローンがのそいているのに気づいたにちがいなかった が、それにかまっている暇はなかった。 澄郎のべ、 ソドの上で大きく両足を広げたルード の身体からルシフ アが出てこようとしている。 「ほら、もう少しょルード、 ; カんばって」 イシスは、拳ほどに広がったルードの膣口に指を入れてルシファ を探った。ルシフアは正常に位置していたが、もう少しというとこ ろで出てこない。イシスは産口に指をあてて、それから第三眼を開 いた。イシスの第三眼から細い赤色の光が延びて、ルードのそこに 命中した。肉が切れ、血が薄くにじんだが、それで産口が広がっ た。すかさずイシスはその中に手を入れて、ルシフアを探り、そし て、ひねるようにしてルシフアを引き出した。 ルシフアの顔が出てきた。赤くて、くしやくしゃの顔のルシファ だった。狭い産道から身体が出て、肺の中の羊水がし・ほられ、ロか らどろりと吐き出された。クリーム色のその液体を吐き出したルシ フアは初めて外気を肺いつばいに満たすと、産声をあげた。 イシスは第三眼で臍の緒を切った。それからぎごちない手つきで ルシフアを抱いてパスルームへと姿を消した。 スローンは、自分が閉じ込められたのは・ハスルームではないこと に気づいた。ここは、どこだろう ? ドアを大きく開いた。出よう として透明の壁にぶつかった。そこに張りつけられたように動けな くなる。 アシリスは姉のイシスと、禁じられた恋愛関係にあった。さらに イシスの同僚セラフはアシリスを、そしてアシリスの親友スロ】ン はセラフに恋をしていた。イシスはあらゆる事象を司るアスタート 制御体を操作し、自分と弟がリンポス日地球の人間として恋を成就 させる事象を作り出そうとした。ところが、事象操作による世界征 覇をもくろむ悪党・ハールも同時にアスタート制御体を操作したた め、誰もが予期せぬ奇怪な事象が現出した。時間の存在しない地球 上に、アシリスⅱ淳、イシス彩子、セラフ日星香、 琉、スローン " 澄郎の二重存在が生じてしまう 。くールは自らの手 足となる味方を得るため、地球の女ルードを身ごもらせる。さらに 警察本部のコン・ヒュータに理性を与えて支配し、通信網を掌握する など世界征服への手を次々と打つ。一方、ルードを保護したスロー ンはイシスと接触して事態を理解し、・ハールの抹殺を決意する。他 方、理論を超越したカで独自の世界を築いていたアシリスのもとを セラフが訪れた時、パールに操られる警察が彼らに襲いかかった。 しかし、アシリスの世界は ' ハールの影響下から自らの秩序へと警察 を動かしてしまう。異常事態に気付いた・ハールはイシスの助けを借 りようとするが、逆にアメリカ軍を動かしたイシスによって、ソ連 に追いやられてしまう。そうするうちにも、ついにく 1 ルの子が産 まれ出ようとするのだった。 登場人物 アシリス / 月の詩人。イシスの弟日如月淳 / 作家 イシス / 月の理論士 " 如月彩子 / 精神衛生研究所員 セラフ / 月の理論士関本星香 / 精神衛生研究所員 スローン / 月の治安士満井澄郎 / 警官。淳の友人 ' ハール / 月の元理論士。月の犯罪者Ⅱ磨琉養一一 / 広域手配中の犯 罪者。 ダゴム / 月のアスタート中枢機構司令ⅱ多夢 / 警察本部長 ルード / パールの子を身ごもった少女 カース カ第ス カース カミス カース カース 224

5. SFマガジン 1984年6月号

あ、この宇宙は」 「いや、もういいんだ」 「ね、早く行こうよ」 理論士イシスは理論的にこの状態をスローンに説明したのだが、 「どこへ」 それでもスローンには信じられなかった。イシスの理論を疑っては あっし 「如月淳さんのところ」 いない。ただその理論をスローンは完全に理解できなかった。理解 ルードは淳の世界日アシリス事象面へ行くということは忘れては できない現象は魔法と同じだと澄郎は思った。魔女には魔法は現実 、よ、つこ 0 だろう、しかし理解できない者にとっては、それは現実とはいえな : ルードではないな。いったいだれだ ? 」 「きみは : 「あたし ? 」 澄郎は部屋に入って、如月淳の本の並んだ本棚を見つめた。『ま その少女は真面目な表情で、ほんの短い間自分はだれなのかを考ばゆい空へ落ちてゆく』だけがなかった。それがある事象へと擬動 えたようだったが、すぐ峡笑みを浮かべて、思い出すことができしなくてはならない。 て嬉しいとでもいうように、はずんだ声で言った。 澄郎はスローンの姿になり、第三眼を開いた。 「きやはは、カッコ、 「瑠璃子。瑠璃子だよ、うん」 「いっから」 「笑うな。調子狂うんだよなあ、たくもう」 「たってえ、おっかしいよ」 「生まれたときからだよ」ルードだったその少女はロをとがらせ 「黙れ」 「あたりまえじゃん 「生まれたときから、ねえ。ふな」 擬動、という状態がどういうものなのかスローンにはよくわから 瑠璃子はイシスによって創られたのだ。いま生まれたばかりの被なかったが、一応イシスから聞かされていた。 いまの状態、・ハ ール事象面では時間はなかった。この事象面での 造人だった。もはやルードではなかった。瑠璃子はルシフアなどと いう子供は生まなかった。たぶん、と澄郎は思った。イシスはこの動きはすべて擬動だった。・ハ 1 ル事象面にはあらゆる事象が載って いた。歩く、というのは、足を上げて、次にその足を前に出す 娘を、・、ールに利用される前の状態にもどしたのだろう。もどすと いうよりも、最も自然な、いかにも存在しそうな、事象の整合性をという状態が連続したもので、スローンはそれら連続する事象を 乱す危険の少ない少女として創りなおし、その上で、アシリス事象意識のうちにつないで、歩く、という状態を実現させていた。しか 面へ容易に移れるようにアシリスⅡ淳への興味を持続させているのし、いまは無い『まばゆい空へ落ちてゆく』という如月淳の本があ しまのスローンのいる事象からは離れていた。スローン る事象は、、 あっし 「アシリス事面か。『まばゆい空へ落ちてゆく』の世界だ。淳のはその非整合事象へと擬動しなくてはならない。 書いた小説の中へ入るわけだ。なんだか減茶苦茶になってきたな スローンは息を深く吸って、止めた。第三眼を大きく開いて、動 228

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野田昌宏のセンスオフ・ワンターランド①。 0 スペース・オペラの書き方 ( その五 ) 「海のイメージについて」 私はこの欄で、きみがス。ヘース・オペラを書く拾が付かなくなってきて、はっと気がついたら、 つもりなら、自分の頭に浮かんだあの事その事な もう雑誌の数が増えすぎて、きめのこまかい整理 んでもいいから、とにかく、手当り次第に、とり なんか出来るような状態ではなくなっていたとい あえずカードにしておく事を勧めて来た。 うわけだ。 とはいえ、このカードの数が増えてくると問題 それに今回はもっと始末が悪い。 が起きてくるのである。 今まで散々言ってきたような目的に使うのだか アクセスに時間が掛ってしようがない。 ら、アクセスのキーワードをよほど沢山慎重に用 そんなら、分類して置けばいいじゃないかと言意して置かないと、ごく月並な使い方しか出来な うかもしれないが、とンでもない。もし、これをくなってしまう : やったら、カードの価値は半減してしまう。 もしも、キーワードを、無数ーーと言っては何 材料はランダムな状態にしておかないとふくら だが、無数に近い位用意できて、これをまたラン んでいかない。まったく関連のないカード同志ダムに組合せてアクセス出来るようにまで持って ・、、なにかのきっかけでとンでもない繋りかたを いければ、これこそ、「ンビ、ーターに出会ってフトの問題なんだからね = : するからこそ面白いんであって、カードにしてお良かった ! という事になるのかもしれないが : く意味もあるのだ。だから意地でも函の中はつね まア、そんな訳だから、カードは不精をしない にゴッタゴタにしておかないといけない。 ところが、キミはもうとッくに思い知らされてで、とにかく、まめにせっせと目を通していくし コンビューター化 ? ・ いる通り、コンビューターなどというやつは、メ 、刀事 / し あたしもとっくに考えたのだが、もう駄目だ ーカーがけたたましく宣伝しているだけのこと しかし、これが数千枚、数万枚に達したら : ね ! やるにしても、カードが増え過ぎて、イン で、まだまだ、われわれごとき何の素養もないド プ , トに時間が掛 0 て、とてもじゃないが、やれ素人が、デスクサイドで日常的に、 ( ここが大事それまでには、私の下手糞な文字でも平気で読 るものではない。 なのだが ) ペンやノートよりもずっと高能率、かみとって、どんどんイン。フットしてくれる本物の コンビューターではないが、もう三〇年も昔、 つ、ずっと便利に役立ってくれるような代物には コン。ヒューターが生まれている事を祈るしかない 雑誌の掲載内容をちゃんと整理するについてなっていないのだ。 キーワードまでランダムに発生してく も、私は同じような過ちを犯した事がある。なあ すでに充分、その能力を秘めながら、人間にこれる奴が : に、整理なんかしなくたって、全部頭のなかにはんなことを言われているコンビーター本体には いっていらアでやってきて、そのうちどうにも収ほんとにお気の毒だとは思っている。要するにソ キーワードでふと気がついたのだ、カードを イラストレーション・加藤直之

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0 ◆ くバーンの竜騎士 > シリーズ パーンの電土① 竜の戦士 「 / ヾーンの竜騎士」キャラクター・カード 竜の探索 : 第アン・マキャ物、 / 4- 第第 ーンの電 0 , ーンの第土 0 レヾーンの竜騎士」 を一をの当イ、 当を、を、影を 、住 ra パーンの竜騎士』 そういう意味からは、『 ゲームはよくできていると言えるだろう。っ まり、原作の装飾性という長所を充分頭に入 ミ 1 、れ、ポードや箱絵をファンタジイ・アートで の人気のあるヒルデブラント兄弟に描かせたほ 既 か、中で使用するキャラクター・カードなど もじつに美しく描いたのだ。そうしておいて、 ゲームの方は、思いきって焦点を竜騎士同士 の主導権争い、およびそれに付随する各城砦 との交渉、糸胞との闘争という形にまとめた のである。つまり、戦略的。ハワー・ポリティ カル・ゲームというスタイルだ。この形式は すでに『デューン』のゲーム化で行なわれて パーンの竜騎士』の方がも いるけれども、『 っとシン。フルである。なにしろ、盤には六角 マス目どころか、地理区分もない。あるの は、六つの大岩窟と、それそれが保護する城 砦、それに十の主工舎だけだ。駒も大して使 用せず、竜編隊をはじめとして、百枚弱ほど があるにすぎない。 でよ、・ とうして小説部分をシミュレートし ているのかと言えば、作品での事件をまとめ たカードが百枚ちかくあり、これによってゲ ームにアクセントをつけ、と同時に各プレイ ャー同士の協力・対抗によってゲームが進行 するというわけである。各童騎士はいがみ合 ってばかりいると、糸胞の侵略により全員が 敗れることになる。かといって、・協力して糸 胞と闘っても、油断すれば主導権を奪われ る。ゲーム・システムはシンプルだが、原作 の ( 特に『竜の戦士』の終章と『竜の探索』 の前半 ) キャラクター関係をうまく引きだし て、勝っためにはかなり頭を使わねばならな 「バーンの竜騎士」マップ

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ってゆく。ィッビーの理想だろうか。″歌を is ( 0 do" ソクラテス、会 TO do is ( 0 be" 出すか、いかに自分の歌を歌うか、というこ サルトルときて、シナトラが続くトイレの落 となのだ。の上にを創る。ハインラ基調にして、夢と希望と現実を包み込んだ、 書きが出てくる。前者をどこで読んだか思い この『ソングマスター』が今月の収獲。 むインを基としたジョン・ヴァーリイのよう 出せないんだけれど。それはともかく、六五 に。今はリメイクの時代なのだ。お気に召す ″「ロを開くたびに、冗談を言わずにいられ年から七三年までのエッセイ他を収めたこの なら、メタといってあげてもい を だから、カードのこの長篇の舞台も、銀河帝ないんですね」そのとおりであった。どうに本、ヴォネガット・ファンでなくとも、最初 収国、権謀術数渦まく、アメリカ人の好きな中もならない悲惨さに対応するわたしの唯一のの「サイ = ス・→ク〉 = 」だけでも読 の世風銀河帝国にな 0 ている。そこに世界に確手段は、冗談を言うことであ 0 た。 ( 本書一んでほしい LL 固とした独立を手にしたソング ( ウスがあ九四頁「ビアフラーー裏切られた民衆」よ 創元推理文庫から『ラヴクラフト全集 3 』 る。歌が目的であり手段であり、そのすべてり ) ヴォネが出たが、前に「傑作集」として出ていた 2 であるコミューン。歌が世界を変えると信じ 五月に来日する予定というカート・ た六〇年代末の人間ならではの設定。フラワガットの = ッセイ・講演速記・脚本を収めた冊を含めて全七巻の全集になるという。季刊 ・チルドレン。優しさの世代。ソングハウス 『ヴォネガット、大いに語る』は、原題をの「幻想文学」六号でも、″ラヴクラフト症 ″ワンビーター、フォーマ & グランファルー候群み特集。栗本薫、荒俣宏、鏡明他で七人 で生まれた史上最高のンング・ハード、アンセ ットの一代記といった構成を本書はとって、 しンという。″はしがき。にあるように、日のラヴクラフティアン ( ! ) ・インタビー る。歌という目に見えないものの描写が美し本初紹介長篇だった「猫のゆりかご』からとがあったり、ラヴクラフト入門には最適。ク い。歌詞ではなく、音の持 0 情感、豊かさを、 0 た三つの言葉からな 0 ている。 " もともとトウルー、あるいはク・リトル・リトル ( ! ) カードは明確に描く。類まれな強い節制と無縁だった多くの人々がそれを中心としてい神話を中心に、青心社、国書刊行会からもラ っしょに回転しはじめるもの " 純朴な人々ヴクラフト関係の翻訳・研究出版が盛んな状 歌をそなえたアンセットは、皇帝のソングパ O ードとなり、そして歌を忘れたカナリアとなを慰めるために語る無害な不真実のかずか況。ファンにとっても気になることだ。 って、今度は声で ( " デ = ーン。でいえばヴず。 " 人々が結成する、自尊心に満ちた、意少しだけスタンスをとりながら、幻想文学、 オイスだろうか ) 政治を司り、自ら皇帝とな味のない協会ないし連合。のこと。これらは怪奇小説、世紀末文学へ流れていこう。 『スラツ。フスティック』で″ロンサム ・ノー・モア″のスローガン・・ ( ッヂ・『ソングマスター』 Songmaster\ オース 0 一評 となる。近刊の『チャンビオンたちのン・スコット・カード著 / 五二四頁 / 六〇 0 円 / 文庫 / 早川書房 朝食』の最後で、涙を流したあとで、 ヴォネガットは再び、フォーマを見つ・『ヴォネガット、大いに語る』「 ampe ( e . めだすのだ。同じ " はしがき。に発表 Foma 年 G 「 anfalloons\ カート・ヴォネガ ット著 / 飛田茂雄訳 / 三六〇頁 / 五六〇円 / された詩を見て、思い出したこと。 "Tobe or not to be" シェイクス文庫 / サンリオ 。ヒア、 "Dooley do. dooley d0. ・『ラヴクラフト全集 3 』 The Shadow d00 一 0 do" ヴォネガット、 "DO be Out 0 ( Time And 0 ( he 「 S ( 0 「一 00- / ・ ・ラヴクラフト著 / 大瀧啓裕訳 / 三四一一頁 / 9 do be d0 はフランク・シナトラとい うもの。ヴォネガットの最新長篇『デ四三〇円 / 文庫 / 東京創元社 ッドアイ・ディック』には、 TO be 白

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屈すると、自分が異国の異邦人のよう ラヴ・ソング。カードは喪われて に感じて本を置いてしまう、その結必 しまったラヴ・ソングを謳いあげ 果、読み了えるのに一ト月かか 0 てし気川 良 まったのだ。最初からパ 1 ティに出か る。 『ソングマスター』 けるつもりなら、気分もまた違 0 てい ただろう。だから、読後の第一に残っ 高 まずは先月の続き、『獣の数字』から。ど たのは違和感だった。 うも読み方を間違えてしまったようで、ポッ違和感。私にとってのハインライン リポツリ読みながら一ト月くらいかかって読観は、『獣の数字』を書くような作家 了した。長さのせいではない。六の六乗の六ではなか 0 た。『月を売 0 た男』『地第、 乗 ( " 獣の数字 ) の数のパラレル・ワールド 球の緑の丘』『人形つかい』『夏への を瞬時に移動できる連続体飛行機。それを発扉』『宇宙の戦士』『異星の客』 : : : 、ウ′ 明した科学者ジ = イコ・フ・・ハロウズとその美「猿は歌わない」「輪廻の蛇」「大当 ー・ソリ . ス・ しい娘デジャ ハロウズ。その父りの年」「時の門」・ ・ : 。ジョン・・キャすることなど一度もなかった。好きな中篇 娘と結婚したヒルダとゼ・ハディア・ジョン・ ン・ヘル・スクールのエリート 卩下生としての「深淵」をベースにしたという次作『フライ カーター。さらにその発明を狙う異星人 " 黒 ( インライン。彼はキャンベルの唱えるエクデイ』に期待したい。 帽子″ ( Ⅱ悪魔 ? ) 、と道具立てがそろったストラボレーション ( 外挿法 ) を第一義と ところで、逃走と追跡の旅が始まる。訪れるし、思考実験をしていたはずだ。ペイジル・ ″「夢ね、夢ばかり」彼女は言った。「あな 並行宇宙は、・ ( ルスームにオズの国、小人国ダヴ = ンポート編の講演評論集″ザ・サイエたって成長しきってない人みたい」″ ( 本書 にアリスの不思議の国にレンズマンの世界 : ・ンス・フィクション・ノヴェル″のなかで三一六頁より ) と、何度もガールフレンドか プイクトン ″サイエンス・フィクション【その性質、欠ら言われたのではないかと思わせるオースン 量子や光子と同じようにフ架空子″を 想像 / 現実の一単位だとっ想像″はそれが点と美点″と題してハインラインが述べた ・スコット・カードの『ソングマスター』が ート・ンレヴ . アーく 何であれ″現実〃と同じものだ ) 」というア観とは何だったのか ? をスベキュレ出た。ロく ーグの『夜の イディアもでてくる。 イティヴ・フィクションと呼んだハインライ翼』のように、には美しい小説がいくっ : これでな・せノれないのか。ファン ンはどこへ行ったのか ? かある。本書もまた、美しい。世の中の素晴 によるファンのためのでかいホラ話、だ もともと、ハインラインは作家としては無しいものは、すべて、″愛″に到る。ラヴ・ と思っていたのが、実はメイン・キャラクタ骨な人間だ。洗練といったこととは縁がな ソング。カードは喪われてしまったラヴ・ン 二組の天才夫婦のジョ 1 ゼッな会話によ い。史に残るアイディアがあっただろうングを謳いあげる。設定に、そんな新奇なも るマッド・ティー ・ハーテイだったのだ。パ か。タイム・・ハラドックスはお得意だった。 のはない。いや、もっといえば、五〇年代以 ーソナルな ( インライン宇宙内でのファ世代宇宙船というのもあった。もっとも有名降、漸新なアイディアが史の上で現われ ンのホーム ・パーティに呼ばれたのだ。それなのは彼の未来史だろう。ェクストラボレー てなどいないのだ。の描く世界が、読者 はやがて、大会での小・ ( ーティ会場へとション。キャンベルの協力で完成した未来にとってコンセンサスとなってしまった後に 移っていく。だから、別に面白くないわけで史。彼の魅力は、物語を読ませる力、ストー 現われた作家たち。七〇年代にスタート はないのだ。会話に参加しているうちはいし リイテリングではなかったのか。どんなテー をきった作家たちにとっては、それをジャン けれど、あまりにも内輪の会なので、やや退マを扱っても、 ( インラインの小説で、退屈プ・ポードにして、いかに自分の作品を生み

10. SFマガジン 1984年6月号

レートの手を握ったときにみせたイシスの哀しみはこれだったの だとスローンは思った。ルシフアは・、ールによって無から創られた 8 ( 承前 ) のだ。・ハールの子、というのは正確ではなかった。ルシフアはル トの腹を借りて生まれる。ル 1 ドはルシフアの母親ではない。ルシ ・ハールが悪魔なら、その子ルシフアは悪の子供だな、と澄郎は フアには両親はいない。なにもないところから生まれたルシフア」 思った。魔力をもっているだろう。第三眼能力だ。その力はスロー は、存在の根になるものをなにも持っていない。成長したルシファ一 ン自身も、おそらくはルシファよりも完全な形でもっているわけだ から、すると、とスローンは思う、自分もまた人間に対しては悪魔は、あるとき自問するだろう、自分はどこから来たのか、と。その 的な存在なわけだ。そんなことはしかしスローンにはまるで実感でこたえはひとつだ。 きなかった。スローンは治安士スローンであると同時に地球人の刑「ルシフア」スローンはつぶやく。「おまえは無に等しい すみお まえはどこにもいない者なんだ」 事満井澄郎でもあったし、カミス人としての彼は第三限能力をパ ルやイシスのように理論的に意識して使用することはなかった。第ルードのうめき声が入ってきて、スローンはわれに返った。ルー 三眼の能力は、他の感覚に比べて特殊なものではなかった。眼を開 トの陣痛の間隔は短くなってきていた。澄郎は・ハスタブから手をは けば物が見え、ロを開けば喋ることができるというのは、スローン なした。力をこめて白くなっていた手に、さっと血の気がもどっ にはあたりまえのことだった。第三眼の力も同じだ。 た。しびれて、血の流れにじんと鳴る音が聞こえた。 リンス しかし地球人に第三の眼がないなら、彼らには見えないものが自澄郎は顔をあげた。立ちくらみのようにふらりときて、再びパス 分には見えるのだ。それはあたりまえのことではない。地球人と変タ・フにつかまろうとしたのだが、それはなかった。・ほっと発生した わらぬ姿のルシフアが第三眼能力をもっているとすれば、たしかに天色の霧の中に・ハスルームは消えていた。澄郎は身体の・ハランスを それは異能のカであり、悪飃の技なのだ。澄郎はふと、まだ生まれ崩して一歩二歩前につんのめった。硬い床の感触があった。、 ぬルシフアに憐れみを感じた。・ハスタ・フにたまってゆく湯が澄郎のナイト・フル 1 の光が視覚に広がっていった。静かだった。・ハスルー 手を生温く濡らすと、まるで血を浴びたかのような気がして澄郎はムのドアの方を振り返った。ドアは大きく白く、そこにあったが、 手を振って湯滴を散らし、コックをひねって湯を止めた。それから澄郎の・ハスルームのドアではなかった。 ・ハスタゾに両手をついて湯面を見つめた。人肌ほどの温度の湯が揺病院の廊下らしかった。イシスが自分をここへ追い出したのだ れる。ルシフアを早く洗礼しろという不安な声が底から聞こえてく と、スロ】ンは頭をゆっくりと振って、廊下の長椅子に腰をおろし るような気がした。悲劇の予感があった。澄郎は・ハスタ・フの縁をカた。夜の産院だろう。分娩室のプレ 1 トが自照している。ルシファ をこめてつかんだ。それで湯面の動揺を鎮めようとでもするようがその中で生まれようとしているのだ。 イシス ル 1 ドを励ます彩子の声がドアの向こうから聞こえていた。 リンス スロー / 223