男泣きに泣く。と同時にますますファイト がわいてくる。こうなったらもう意地だ。 たとえ死んでも魂パクこの世に止まりて 資料学の普及につくすそーーーと曽祖父のつ つくった仏像に誓う ) 。 ⑩以上の各種的・非 t-n 的業務のため の書状類の作成授受。 これらが一月末から三月中旬の間になし た主要な業務でして、そのためへとへとに 疲れてしまったのです。 というような訳で、今月は物 理学の「基礎の中の基礎」である『単位 系』の宇宙普遍化の問題に入るはずでした が、学生さんの『単位数』の計算でおわ ってしまって、そこまでゆきませんでし 平伏してお詫びいたします。 ド 9 お詫びの印にもなりませんが、ハー のに 的数学のお話しをひとっ 士室 売九質問「蠅が五匹います。ひ 0 ばたいて二 原研匹殺しました。あとに何匹残るでしよう 解答「死んだ蠅が二匹残ります」 [ これはかの海野十三が学生時代に学会雑 こ 0 0 0 誌に投稿した『論文』なのです。しかも先 に記した「テレビで教育をい」という大予 言 ( 云っときますけどテレビのテの字もな かった大正一〇年の発言ですよ ) と同じコ ラムで述べているのです。 日本の父ってやつばり偉い 先月号の新青年昭和二年は三年の間違い でした。お詫びして訂正いたします。 なお、このところ海野十三の話しがやた ら出てきますが、先輩の読者だけではなく 一〇代の読者からも見直したとか感激して 涙ぐんでしまったとかいうお便りをいただ いたり、海野古書集めを始めた若い人がい るという情報がはいったり、嬉しい思いを しています。 無意識の先駆者「押川春浪」、意識した 先駆者「海野十三」、この二大の父と、 その他の「今から見れば偶然だった作 品をときたま書いていた戦前作家群」と を同一視する意見のあることに疑問を感 じていただけに、その喜びはひとしおでし 歴史を大切にしない国、先駆者を大切 にしない民族は発展しません。日本の 界とて同じことではないでしようか・ こ 0 9
肋骨がぼこばことはずれ、腸が流れ出し、細胞のひとつひとつに変転し、きらきらとまばゆく光り輝きながらどこへともなく疾走す まで分解されてやがてその細胞膜すら消えてしまうと、ジェリイはるかれら。 核のふたをそっとあけ、なかの二重螺旋をほぐしにかかる。裸の ばくはそのすべてである。 Z< たちは彼女の掌のやさしい愛撫にうっとりし、でれでれし、そそのすべてが・ほくである。 のうち興奮してくる。さんざ焦らしたあげくボルテージが頂点に達これはたぶん、ミニマム・ビッグ・ハンなのだ。 かれら しようとするとき、ジェリイは遺伝情報を思いきり高く放り投げ しかしこの光景に″未来″の像はない。ひとつもない。それは意 る。 図的に取りのぞかれているのだ。ジェリイが、それをした。彼女は そのとたん彼女いつばいに , ーーそしてジ = リイと同じ大きさの・ほぼくの遺伝子というオモチャ箱をひっくりかえし、ぶちまけられた くの意識野いつばいにーーー地球の全生態系が。 ( ノラマのように展開宝石をひとつひとっためっすがめっして調べていく。おぞましい進 される。射精のオルガスムスが噴きあがり、それはジェリイの原形化の予兆、突然変異の萠芽をみとめるとそれらを痕も残さず摘みと 質もふるわせる。 ってしまうのだ。あとには何も残らない。ノーマルな、・ ひかびかの いや、違う。それは地球の生態系ではない。架空の生物相だ。・ほ遺伝情報がジェリイを満たす。 くの遺伝情報をベースに、ジェリイが展開してみせたファンタジー そして逆転がはじまる。大収縮。ジェリイに。フールされていた ・こ。だがそれは地球の生物相とよく似ている。あたりまえだ。・ほく力、・ほくをぼくであらしめていたカがおそろしい勢いで流れこんで の遺伝子は地球の最初の代謝系から現在にいたる進化の道程を記億くる。それは肉体的な快感だ。それを足がかりに、ぼくは再生す している。それが解きはなたれているのだ。ばくの遺伝情報のすべる。大パノラマは洗濯物のように取りこまれ折りたたまれて てが白日のもとにさらされ、そのひとつひとつがこんなにも生き生に収納され、二重螺旋に巻きもどされて核に封入される。細胞が形 きと投影されている。なにもかもが近しい存在だった。トカゲに似成され組織となり配列されて器官に成長する。ジェリイのなかに拡 たもの。ウグイスに似たもの。アマリリスに似たもの。チョウザメ散したそれらが一挙に収斂して・ほくのかたちをとると、その上に骨 に似たもの。マストドンに似たもの。スミレ。ドードー鳥。マウン格が組みあげられ筋をまとい皮膚をかぶり毛を植えられ、そして顔 テンゴリラ。ィネ。アオダイショウ。トリケラト。フス。ヒッジ。ヤにふたつの目玉が嵌めこまれると・ほくになる。 シ。ヒマワリ。タ・ハコウイルス。名も知らない多くの生きものたち イスの上で、目がさめる。 と、そしてヒト。意識と感情のありったけを使って、・ほくはかれら いや、目はしばらく閉じておこう。鼻が埃のにおいを、耳が空調 を感じる。・ほくの背後にあって・ほくを支えるかれら、・ほくと同じ時の音をとらえる。ここは元の部屋だろうかと、・ほくはよみがえった を生きてぼくを支えるかれらのなにもかもをむさ・ほるように感じる身体の重さに苦笑しながら考える。そしてこの身体はほんとうに元 味わう。一瞬たりとも同じ貌は見せない。絶えまなくうつろい と同じなのだろうか。たとえば指紋、たとえば味蕾、たとえば記億 きもの 幻 8
が今度はドレス姿で食事のサービスをして くれる。一瞬銀座のクラ・フを連想する。し かしすぐに自分の娘の衣装代が頭に浮かん でしまう ) 。 ⑩電子通信学会・全国大会の座長をつとめ るため久し振りに東京に出張 ( その帰りに 早大の図書室で海野十三学生時代の資料を いくつも発見し、興奮して寝られなくな ⑩新卒研生のガイダンス。 ⑩新卒研生のテーマの準備 ( 大勢の知人に 様々なことを依頼。みな快く助けてくれ る。ただ感謝Ⅱ ) 。 ⑩新学期から始まる二つの新しい講義の準 備。 の新学期から担任となる新三年生の成績調 査 ( つまり『単位数』の計算 ) 。 の昨年暮に書いた四つの論文の校正。 さて最後にその他のことについて 〔残念だったことやばかばかしかった 事として〕 ①光瀬龍さんの本に出てくる裏山の尾根道 に作った柵を壊されたのでその修理の相談 ( これがないとハイキングに来た人がみん な石原博士の書斎の前に降りてきてしまう 9 のだリ ) 。 8 ②受験雑誌・コン・ヒ、ータ雑誌などのイン 6 タビュー多数。 ③筑波科学博に関する下河辺淳さんよりの 依頼、大学行事と重なって涙をのんで辞 退。 ④日本電気副社長との対談依頼、同じ理由 で涙をのんで辞退 ( 日電さんは社長の関本 さんはじめ多くの重役さんとご一緒したこ とがあるのだが、大内さんは初めてなので ・せひお会いしたかった。残念 ) 。 ⑤某テレビ局より出演の依頼、同じ理由で 涙をのんで辞退。 ⑥『さよならジュピター』の試写会、同じ 理由で泣いて諦める ( あとで見る ) 。 ⑦いま使っているワー・フロでは画面が小さ くて眼が疲れるので、大型機種に変えよう と思い トラ・フルに巻き込まれて苦しむ ( 執筆に向かない機種にうつかり契約 押印してしまったのだ ) 。 ⑧その解決後様々な機種のメーカーに電話 するが、鎌倉は僻地なのでちっとも来てく れず、ひがむ ( それでいて新聞や雑誌には やたらと広告が出ているい ) 。 ⑨これまでにつくった TJ インデックスの 類約五〇〇冊を廃棄処分 ( 日本の税法では 持っているだけで税金がかかり、かっ倉庫 代で破産しそうなので止むを得ない措置。
賓なのだから。しかし・ほくの疎外感はそんなことが原因ではなか 0 る。酒はロあたりがよく、上等のワインのようで、・ほくは酔た。 しい酔い心地だ。気持のいい酔に浸るのは久しぶりだった。 た。いままでずっと感じてきた、もう慣れてしまっていたものなの 姉が・ほくの初仕事を祝って焼きあげたケーキは食後に出た。 だ。それがいま強く感じられるのは、やはり初仕事をひかえている 切り分けられたそれを受け取り、ロにした・ほくは、台所に入った せいだろう。家族に会っていながら、喜んで迎えてもらいながら、 ときと同じ強い疎外感を再び感じた。ケーキがまずかったらそんな 仲間はずれにされていると思うなんて、どうかしている , ーー・ほくは 気持にはならなかったかもしれない。だがそれは上出来だった。弾 こんな気持を悟られないように姉にぎこちない笑みを返したが、い ホイツ。フされた生クリ かにも不自然だったのだろう、なにも照れることはなくてよ、と姉力のあるスポンジべースの焼け具合といい し、・ほくは師の焼いたケーキでこんなにうまい ームのロあたりと、 は言った。 帶と感したのは初めてだ。 制服のままでテー・フルについた・ほくの前に並べられたタ食は、ー 「おいしい ? 」 服という正装にふさわしいものだった。 この晩餐に間に合うように帰宅した父は、学会のときに買「たと姉は自分のケーキにフォークをあてて、上目づかいでぼくに訊い いう酒、峰乃白梅のロを切った。 横の父が、最高だと言った。・ほくは父の言葉にあわせてあいまい 「高い酒しゃないが、うまいというんで手に入れてもらったんだ。 にうなずいている。 おまえと呑もうと思「てな。本当の門出というわけだ。しつかり あっし 「どう、淳」 彩子はもう一度・ほくにその出来具合を尋ねた。答えなくてはなら 「うん。入社して半年もたって、やっとだよ。会社から無視されて よ、。・ほくの身振りや表情ではには通じないのだ。口に出して言 る気分だった」 わなければならない。 「海の仕事は大変だろう」 「まずくはない」 「実習船とはちがうだろうとは思うけど」 こんな言い方は姉を悲しませるのではないかとぼくは思い 「大丈夫さ。海の男になる。その制服は、三等航海士か」 、と期待し、その自分の冷酷さに感し てほとんど、悲しめば℃ 「三等航海士と同じだけど、実際は次三等なんだ。サードだよ。 た。残酷な快感の予感。 見習いってわけだな」 「最初はだれでもそうさ。どんな仕事でも同じだ。焦ることはな「そう」 姉の彩子は目を伏せた。 みんなそうやって一人前になるんだ」 なにか言おうとしたがきっかけがっかめなか「た。 馬刺しがうまかった。わさびの香りもよく効いていた。鮫皮のお ろし器でおろしたわさびは金臭さがなくて、あざやかな緑の味がす「少し甘すぎたかしらね」 こ 0 242
イが大声をとどろかせた。「でも、わたしの方がひどいかな。エル 理由がすこしずつわかってくるんだもの」 マよりも月数がたっているんだもの。リ ゼッタ、わたしたちみたい に吐き気がしたいでしょ ? 」 幸せな死者たちは火山性の砂礫によって保存されてきたが、それ 「何を言うの。わたしも同じよ、同じよ。わたしだって夜が明けるにはおそらくゴルゴスのエッセンスか、他の絶倫世界固有の物質の 前に気がついたんですからね。ね、わくわくしない ? 」 力もあずかっていたはずだ。彼らは死人とは思えなかった。感触は 「もちょ。こんなにわくわくする吐き気は生まれてはじめてだわー かなりやわらかかったし、あたりの大気と同じに生あたたかく、ひ そして、ジュディはわくわくしながら戻したのだった。 んやりしたりはしていなかった。指でおすと、かすかな弾力さえあ ったが、これはふつう生体にのみ見られることで、死体ではありえ 三人の女性がそろって妊娠の最初の徴候を示すとは、、 しささか尋ぬことだ。彼らは絶倫世界独特の身軽な衣裳に身をつつんでいた。 常ではない。三人同時につわりというのも、奇妙な話だ。わけてもどうとは言いきれなかったが、何らかの形でホワイトオーク隊のメ 奇妙なのは、彼女たちが吐き気に大喜びしていることである。絶倫ン・ ( ーと血縁関係にあった。美しい謎めいた人々だが、といってこ 世界にはすべての経験をーー嘔吐さえもーー幸福なものに変える何とさら謎めかしているわけではない。もし死者の舌と生者の耳を橋 かがあるらしい わたしする手段がありさえすれば、知りたいことには何でも答えて さて、段丘の死者たちだが くれただろう。 こんな幸せそうな死者にははじめて会ったわーとエルマ・。フ だが、いささか巧言令色を弄するところがあるという印象を、こ ランダは断言した。「何がうれしくてこんなに幸せなのか、つきとの新来の探険家たちはひとしなみ死者から受けなかったろうか ? めなくちゃ。じかに教えてもらえたかもしれない、この人たちの話しかり。巧言令色の面はそこここに散見した。しかし、誰がそれを が聞ける耳がわたしにあれば。わからないわ、そんな風に話しかけ責められよう ? たって。え、何 ? 何と言ったの ? 」 「だけど、ちょっと待って」リゼッタ・カーウインは死者・生者の 「わたしは何も言っていないよ、エルマ」とラシ、モアが答えた。両方に向かって言った。「あなた方、この星でのよき友であるみな 「あなたになんか言っていないわ、ラシュモア」そう言うと、エルさんの服装のことを、わたしたちはみんな″絶倫世界独特の身軽な マは黄金の体を・フルッとふるわせた。「え、何 ? よく聞きとれな衣裳と言ったり、考えたりしてきました。事実、われらがよき指 い」そこでエルマ・プランダはお腹をトントンここ、こ まる揮官であるフェア・フリッジは、手帳にこの通りの言いまわしで書き で、そうすると感度がよくなるとでもいうように。 つけたところです。でも、これが″絶倫世界独特の身軽な衣裳〃だ と、どうしてわかるの ? 第一、それがどんなものか誰も見たこと 「お腹に耳はついていないよ、エルマ」ラシュモアはたしなめた。 がないのよ。しかも、記録によれば、絶倫世界にはいまだかって原 「あら、ついているかもしれなくてよ。だって、たたくと、幸せな 8
にもかかわらず、造型文化は浅彫り、深彫り、丸彫り、荒彫りと なかったのである。 さまざまな手法をとって、信用ならぬという火山の南腹にくりひろ食事は芸術だった。絶倫世界の料理は二つと同じものがなかっ げられた。夜の間に、火口から新しい溶岩の帯がうねうねと吐きだ た。食卓は毎回饗宴であり、複製することも模倣することもかなわ されていることがよくあったが、そうした朝は、かならず、溶岩のなかった。 こうした日々がかなりの期間 ( 当地の基準でだ ) つづき、三標準 壁の冷めきらぬうちに、一同総がかりでやわらかく艶々した壁面に ーしまでは全員同じ とりくむのだった。うねうねとつづく壁にはとりどりの色がとりま月近くが経過した。絶倫世界生まれの者たちょ、、 ぜになり、ギラギラとした色もあればしっとりとした色、目のさめくらいの年齢に見えたーー、親と子の世代差があったというのにを るような色にもこと欠かない。まことに多彩な溶岩の化学変化だ 3 が、そこに押しだされていたのは、まさしく蚯の岩たった。 ふつう、彫刻の素材には火山自身がモチーフを与えていた。火山 の下準備は出来がよく、カにあふれていた。彼は大雑把にせよ、生「何もかもとことんやってしまった」ある日、チャラ・・フランダは 、え、わたしたち全員、もう何も 物や人物や出来事を思わせる形をつくりだすことができたのであ言った。「何人か、大部分か、いし る。しかし、彼はいわば手のない、腕だけの天才彫刻家だった。ほ かもやりつくしてしまったわ。いまこそ最後の仕上げにとりかかる とんど生きている壁面に細かい仕上げを加えるのは、みんな人間のとき。すべてをやりつくすって、うっとりしない ? 」 「でも、あなたはやりつくしてはいないわよ、あっかましい子ね」 役目だった。 この文化で上演される劇は六つの作品群に分かれた。大半の劇は とリゼッタは言った。「子供を生んだことがあって ? お母さん 段丘各層の死者たちゃ、その先住者たちが上演したもののヴァリエや、お祖母さんのわたしみたいに」 ーションであり、継承でもあった。それらはすべて、深層の悠久た「ええ、生んだわ。わたし、わたし自身を生んだわ。母さんのコー る演劇の流れの一部をなすにすぎなかったのである。目下かけられラを生んだわ。あなた、お祖母さんのリゼッタも生んだわ。あらゆ ている芝居は、火山のある循環期の第四百幕第五場にあたるはずる人を生んだわーーー絶倫世界生まれの人も、他星生まれの人も。わ だ。前の幕を演じたのは往時の人々であり、先住者たちであり、ア たしたちがやったというのは個人としてやったのではなく、共同し フソニア熊であり、劇の外側では生命をもたない人物たちゃ超常現てやったのよ。わたしたちの種族は、もう、何もかもやりつくした わーーわたしと同じように。だから、後は結末をつけるだけよ」 象であった。 ここでは、詩は特別ないとなみではなかった。絶倫世界の人々は絶倫世界種族の美々しい若者八名は、もうやり残したことは何も 詩であり、詩を生き、詩を食べ、コツ・フから詩を飲んでいた。だれないと、全員同時に悟るにいたった。彼らはあちこちで呼びかわし もがおたがいに韻を通じあっていたので、ことさら朗読する必要はあい、知らせはウシクサケ丘から果樹林、山々へとかけめぐった。
にとってア。ハート の部屋は船のキャビンの この作品は、現代の〈ペテル・フルグ物ともあるが、見つかったためしがない。 ア / ート の住人たちが自由に建物に出入ようなものだった。彼とナデンカの五歳の 弓語〉である。知ったかぶり屋のウラジ ル・・ヒロシコフは目下失業中。ある朝、彼りしていることはもちろんだった。ところ息子、トー = クは部屋を氷山のあいだを進 ルを外へ連れだそむ船に見立てて、船長ごっこをして遊ぶ。 のが、だれかがウラジーミ はまったく見覚えのない他人のア。ハート 見 部屋で目を覚ます。昨夜、すっかり酔い潰うとすると、たちまち階段は不思議な性質若いナターシャという娘は、彼の運命に同 深 れてしまって、ここへ連れ込まれたらしを発揮して二人とも出られなくなってしま情するが、それがいつのまにか恋に変わ る。二人が一緒に階段を下りていくと、不 。ところが、。せんぜん覚えていない。彼 その閉ざされた階段の環は、・ヒロシコフ意に彼は消え失せてしまう。彼には、壁を は部屋からこっそり抜け出すと、前日のこ とを懸命に思い出そうとしながら、階段をの人生と連命を象徴している。問題は、生透して彼女の姿が見えるのだが、そばには だれもいない : 〃下りていく。ふと気がつく 彼の寂しさを描写しているファンタステ と、いつまでたっても階段が ィックな場面は暗示的であり、ウラジーミ 終わらない。そこで、こんど ルの人生と人間にたいする態度の新たな一 はと・ほと・ほと引き返すが、階 面を浮き彫りにし、哲学的な意味をもって 段はどこにも通じていない。 そればかりか階を何度も通過 出口はどこにあるのた ? : ・ : ・ ン」問いかけ・ しているうちに、階段が環に ながら主人公は出口を探しつづける。最後 なっていて、かならずもとの の場面は純粋に寓話的である。主人公は、 員ところへ戻ってくることに気 男の子と一緒に屋根裏部屋の窓から屋根に がつく。同じ階、同じ壁、踊 出るが、バランスを失って倒れ、屋根の端 〃キり場に寝そべっている同じ猫 にむかって転がり落ちていく。だが 結局、外へ出るのを諦めて、一夜を過ごまれつき才能のある彼が貴重な人生を無駄 したもとの部屋へ戻ってくる。それも、部にし、友人をつくらず、他人はもとより己・ジチンスキーは、レ = ングラードに 屋へ入ってからそのことに気がつくしまつにも責任をとろうとしないことにあった。住む若い作家。象徴的な意味をもっ幻想的 レ だった。他に行くところがないので、しか隣人たちとの関係も象徴的な意味をもってな描写が現実と見事に融和した独特の雰囲 1 レノ ドストエフ いる。例えば、ナデンカの部屋の床がだれ気をもっ短篇と中篇が多い。 たなくそこで暮らしはじめるが、やがて、 0 ン の住人たちの日常生活に係わるよにとっても水平であることは言うまでもなスキーが〈ファンタスティックなリアリズ ア / 1 ト いが、彼にだけは急勾配になっていて、立ム〉と呼んだロシア文学の一つの傾向にそ うになり、恋愛、密通、口論などやっかい 段ク ル自レな事件に巻き込まれていく。だが、それでとうとしても倒れてしまうし、家具がひ 0 のルーツを求めることができる。 アもときには思い出したように出口を探すこくりかえりドアのほうへ転がっていく。彼 9 一
く、それが薄れるまで、彼は存在しないと同じだ。 ているわけではない。 0 ーシッ・フ いかなる場合においても、人間の操作を必要としなそうや 0 て、彼は、何かをまぎらそうとしたのか。 軌道船は、 が、彼は、ルー・風にもしつこく NN をすすめた。その、言葉に ℃いかなる事態が発生しようとも、だ。 メイ / ・プレイ / 全てに、船の制御脳が対応する。制御脳は絶対である。絶対し難い体験を熱 0 ぼく語り続けた。」 それは、な・せだったのか 的な能力を与えられている。 そして、ここ、絶対が支配する空間にあ 0 ては、その能力に人間金星へとおもむく彼に、今、ここで、何を教えようとしたのか ? 彼をで酔わせ、人事不省の状態で船から送りだそうとしたの がつけ加え得るものは何もない。 は、な・せか にもかかわらず 0 ーシッ・フ しかし、ルー・風は、それを知ろうとしなかった。ためらった。 戦道船には、常に、最低一名の操舵士が乗り組むことになってい 当然のことでもある。そして、やはりーー、怖れてもいた。 ズーニイはズーニイだ。 理由は分からない。あるいは、明らかにされていない 1 船の制御脳が、な・せか生身の相棒を欲しがるからだと聞いたこ彼の考えを、自分のものにする必要はない。ルー・風は、また彼 なりの、整理しきれぬ自分があるのだ。 と・がある。 それを抱えて、ここまでやってきた。 ともかくも、それが規則だった。 ナプアール ステアマ / テーブマ / 0 ーシップステアマノ サプアール 記録員ルー・風ーー彼も操舵士ズーニイ・と同じく、この仕 ズーニイ・は、三年前、就道船の操舵士に志願したという。 報酬が魅力だったのか、他に彼なりの動機があったのか、それは事に志願した。 そして着任のため、虚無の海を越えてきた。 知らない。 ステアマン 彼がこれから射出される先には、彼にとって全くの未知の世界が 操舵士には変わり者が多い。 待っている。 ズーニイも例外とは言い難かった。 など用いるまでもない。その未知の予感だけで充分すぎた。 しかし、ともあれ、ここでお別れだ。 ム セカン・ト・ 第二段階の目覚ましが鳴った。 ただ一人の乗客だったルー・風は、ここで途中下船してしまう。 メイン・プレイン この先、彼は独りだ。もしくは、制御脳と二人きりで、長く単ルー・風は、確認の思考波を送り返した。 マインドスコー・フ その思考波は、頭皮に接着された聴心器によってひろわれ、制 調な旅に耐えねばならない。 ン・プレイン そのことを思って、彼は別れの前に、自分自身を消してしまった御脳に伝えられる。 カウ / ト / ウン メイン・プレイン のか ? 制御脳はそれを感知し、アラ 1 ムを止めた。そして、秒読みを 、、レー・風は知らない。ともか開始した。 の効果がどの位続くものカノ こ 0 ステアマノ ストッブオー
リⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅡⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢ日ⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅡⅢⅢⅢⅢ日ⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅧ 額の宝石之巻』 T んに司 / ″〃 『ルーンの杖秘録 2 ・ ( 1967 ; 國 1977 ) 、 赤い護符之巻』 S の“尾廚ス川″ ( 1968 ; 國 1977 ; 圜 The ー ad God's ス川 4 / 英、のちに米 ) 、『ルーンの杖秘 録 3 ・夜明けの剣之巻』 Sw 。に の 4 在 ( 1968 ; 國 1977 ; 圜 The S20 可、 / の”英、のちに米 ) 、『ルーンの杖 秘録 4 ・杖の秘密之巻』 The Sect 哲研 the 火″れおガ ( 1969 ; 國 1977 ; 圜 T んに Ⅷ英、のちに米 ) 以上で前半 の 4 部作を構成し、さらに C 側厩召ぉ ( 1973 ) 、 T ん C ん 4 襯が 0 れ G の・んの・襯 ( 1973 ) 、そして T ん Q 立ア 0 Ta れ e ん ( 1975 ) で後半の 3 部作が完結する。特に 最後の巻は、、永遠のチャンヒ。オン″を描く 全作品のクライマックスにして正式の完結 篇となるものである。また最初ェドワード ・ P ・フ・ラッドベリ名義で書かれ、後に本 名で出版された同系のシリーズに、エド ライス・ノく口一ズの模作があり、 『野獣の都』Ⅳの・。可、 Ma ” ( 1965 ; The 0 / お ea 立米、のちに 英 ) 、『蜘蛛の王』月な d 」” ( 1965 ; T んん 0 the S, がイ夜・ s 米、のちに英 ) 、そして『鳥人の森』 おの 4 4 加イの・ s ( 1965 ; 圜 The イの the 乃米、のちに英 ) の 3 作から成る。 ヒロイック・ファンタジイのマルチヴァ ースが形をとりだしてゆく期間、ムアコッ クは同時にもっと野心的な計画を練りはじ める。彼はきわめて初期から、ジャンル小 説のあり方に強い疑念を抱き、 SF とファ ンタジイに人間性と文学性の軽視が見られ ることを悲しんでいたが、 1964 年の 5 / 6 月号をもってニュー・ワールズ誌の編集長 に就任するとともに、後にイギリス・ ユ ・ウェープの典型と見なされるようにな る小説傾向を積極的に奨励しはじめる。ム アコックは同誌の 142 号から、それが雑誌 形式としては廃刊になる 1971 年 5 月の 201 号まで編集長をつとめた。 ワーノレ ズは以後も 1976 年までペーパーパックのア ンソロジー・シリーズとして続くが、その うちの 6 巻 ( 1971 ー 3 ) まではムアコック が、残りはムアコック夫人が編集にあたっ た。 1960 年代のなかばから末にかけて、 ・ワールズとニ ウェープは事実 IV 上同じものと見なされ、ムアコックは形式 ・内容いずれにおいても実験的な小説を掲 載した。同誌に作品を発表した作家には、 ムアコック自身をはじめ、フ・ライアン・オ ールティス、 J ・ G ・パラード、トマス・ M ・ラ - ィッシュ、 M ・ション・ノ、リスン ション・・スララ - ック、ノーマン・スヒ。 ンラッド等々がいる。この時期デズモンド ド、エドワード・ P ・フ・ラッドベリ のほか、ムアコックが使ったペンネームに は、ビル・パークレイ ( 2 冊のノン S F 長 篇に ) があり、共作ペンネームにマイクル ・スリントン ( バリントン・ J ・べイリ と共作 ) 、浮動ペンネームにジェイムズ・ コルヴィン ( この名義で NW 誌に小説や書 評を発表、他の作家もときたま書評を寄稿 した ) がある。また彼はコルヴィン名義で The Deep 窺ェ ( 1966 ) も出版してお り、このうち表題作のショー ト・ノヴェル ほか 2 篇の短篇は The T / ”尾 Dw 〃夜・ ( 集 1969 ) に再録されている。同じくこの 時期に発表したジャンル S F 、 The lce & ん 00 れ催 ( 1966 S F インパルス誌 ; 1969 ・ 國 1977 ) は、ジョーゼフ・コンラッドの長 篇 T んビぉ翩 ( 1920 ) の改作にしてオマ ージュであり、新氷河期の文化を、気温が このシリーズは最終的には、 《ジェリー・コーネリアス》ものだろう。 上に重要なのは、 1965 年にスタートする 力をもって描きだしている。しかしそれ以 ふたたび上がりだした時点にしぼり、説得 268 つぎにあげる
そうか、そうだったのかー・ 「劇団員はみな無事だ。ロニと、姉のサキを除いてはな」 マーシェンカ一族は、宇宙の語り部として、遺伝子をフィックス 「サキが ? 」 「おお、そうだ。それで思い出したが、きみはあの娘が妊娠して いされた存在だったのだ。自らの進化の可能性を閉ざすことによっ て、他の生を演じる才能を与えられていたのだろう。だが、ある たのを知っていたか ? 」 「ああーそうだったなと、ぼくは思った。かわいそうに。一度にふ日、その才能の中から″反乱″が始まった。一五七代ぶんのツケが いっぺんにまわってきたのだ。カロもロニもサキも、そしてサキの たつの生命を失ったのだ。 「彼女が死んだのは、屋根のせいじゃなく、ショックか、自分で倒子も、みんな同じ生物なのだ。それで他の生を担う苦役から逃れた れて頭を打ったかしたらしい。ところが、その子供が見当たらんのがっていた筈だ。どうしてそんなことにすぐ気がっかなかったのだ ろう ? ・ほくは、地球行の使に乗るまでそれから三日間、シャーリイと抱 「え ? 」 「死産した様子もなし。かといって正常に産んだ筈もなし。剖見でき合って、死んだように寝ていた。 は、妊娠してたのは確からしい」 ・ほくは何だか気分が悪くなってきた。「父親は誰なんだ ? 」 ・ほくは地球でシャーリイと結婚し、その後も仕事であちこちの星 「何だって ? 」 を転々とした。しかしふたりとも、あのマーシ = ンカ一座と暮らし 「父親だよ。サキの亭主は誰だったのか調べただろ ? 」 た日々をかたときも忘れることはなかった。 「きみは、知らないのか ? 」 そして、あれから三〇年ぶりに、・ほくらはメネムシアにやってき 「ああ、聞いてみなかったからな」 「そうじゃない。マーシェンカ一族の生態をだよ。連中はセックス 劇場はとり壊され、跡地は公園になっていた。その一角に、ひと をしないんだ。みんな単為生殖でふえるんだぜ」 つの碑が建っているのをシャーリイが見つけ、・ほくを呼び寄せた。 「なんだって ? 」 ぼくは不思議な緊張感に包まれながら、その前に立った。 ロポットは困ったというジェスチャーを不器用にした。 それはまさしく口ニの記念の碑だった。そして、・ほくの理不尽な 「マーシェンカの一家には雄はいよい。全部雌で、卵は受精なしで妄想は本当になった。そこに刻まれている文はこうだった。 発生を開始する」 ″また会ったね、きみ。もう幕はおりてるんだぜ訂 「なんてこった。・ ・ : とすると」 「連中はすべて親と同じーーークローンてことになるな。天然のね」 ばくは呆然とした。自分の馬鹿さかげんにもあきれ返った。