子供 - みる会図書館


検索対象: SFマガジン 1984年6月号
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1. SFマガジン 1984年6月号

とである。閉じたといっても、閉鎖的とか自由を奪われているとかて、生後十九日目の女の子を知恵おくれ呼ばわりしたものだろう ではない。人生の四時がおのずから定っているということだ。終幕 か ? 本を読むことぐらい、コーラは朝飯前だった。ちょっとその はそもそもの幕あけから、影をおとしている。 気になり、カンの耳をそばだてれば、どんな本だろうとまっすぐ核 ちい姫、ヒーローズ・。フランダ、コーラ・カーウインは逆説的な 心に切りこめた。だが、たいていの場合、子供たちは三人とも本を 子供だった。弛緩した緊張、愚昧な賢慮、冷静なヒステリー 、明朗読むのをおっくうがった。 ヒラリー・ な憂鬱、陽気な自殺衝動などと言ったら、馬鹿げて聞こえるだろう プリンドルスビーは、科学的な考え方や方法のきざし か。こうしたあれこれの性質を、子供たちは矛盾したままかかえこさえ見せないといって、子供たちに小言を言った。しかし、科学的 んでいた。彼らは両親やその場にいあわせた大人たちと、つねに親な考え方や、それに必要な体系だった学習法では、現に彼らがやっ 密で言葉をこえたコミ 、ニケーションをもっていたが、しかし同時ているような迅速な理解は望むべくもない。彼らは三人とも直観的 に、まったき異星人でもあった。まごっくほかない子供たちだが、 に理解し、厖大な量の知識をたちまちにして得ていたのである。 彼ら自身は間違ってもまごっいたりしなかった。自分のやっている子供たちは段丘の死者とたいそう親密だった。 ( フェアプリッジ こと、やりたいことぐらい常に知りぬいていた。自分の進む方向に が恐怖の気散じ仕事に没頭してくれたおかげで、段丘の発掘は全層 迷いのないことにかけては、円周上の円弧と同じだった。 にわたってほ・ほ完了していた ) 子供たちは死者一人一人の姓名をあ リゼッタ・カーウインは娘が知恵おくれではないかと、いささかげ、こみいった関係を説明した。リゼッタ・カーウインは聞いた通 気が気ではなか 0 た。少女は知恵がまわらなか「たのではなく、よりを記録したが、瞠目すべきは、それが各隊員の姓とび「たり一致 そにまわしているだけだった。読書をおっくうがったからといっしていることだった。 完璧な理想社会の紊乱者ーー・ レダという何ものにも束縛されない女 匪に出会った少年イヴ。彼は、レダに 魅了され、同時に理想社会ファーイー ストの在り方に疑問をもち始める。 、ー四六判上製 定価一八〇〇円 評発売中 ! 早川書房 3 8

2. SFマガジン 1984年6月号

た。彼は事実から顔をそむけ、発掘作業に埋没している。今では地なかった。神童で通っていたんだがね。それに、あんなに姿の立派 下四十五メートルの竪坑の底に埋すもれていた。ああ、この男は追な人間が古今東西どこにいただろう ? 段丘の死者たちといい勝負 じゃないか。ひょっとしたら、同じ血をひいているのかもしれない いつめられている ! 「想像だが、同じことはガイアでもおこっているかもしれないな」な。どう思う ? 」 とにかく、 ラシ、モアは問わず語りにつづけた。「あんまり長い間、ひとっ星「掘ーーー掘れよ。さもなきやくたばるがいい にいたので、受胎の際、惑星が第三の親として関与していることがそんな話はやめるんだ。そんなことはないんだ。あるはずないん わからなかったんだ。それにようやく気がっきだしたのは、カミロ イやダ ( 工やアサナロスに住むようになってさ。ある星では妊娠期「エルマによると、子供は段丘の死者たちと心が通じあうらしい 間が二十日短く、別の星では十二日長いというようにね。生物学がやはり三分の一は兄弟のわけさ。絶倫世界という共通の親がいるの 環境を無視して成りたたないくらい、前から知られていたけれど だからな。これもエルマの説だが、子供たちは三人とも思春期にさ も、絶倫世界がこんなとんでもない星だとは、誰も夢にも思わなかしかかっている。思春期特有の超常現象も発現するが、その強烈な ったんだな」 こと、ツボにはまっていること、周囲を強引に巻きこんでいくこと 「そ , ーーそんな話はやめてくれ」フェア・フリッジは泣言を言った。 にかけては、ガイアやカミロイやダハエでの比ではない。ガイア日 三十日間なんだ。もーー、・もう十四日たった。掘れよ。掘っ地球のポルターガイスト現象のような不毛で痕跡程度の現れ方とは てくれ」 ュニケーションの失敗といって 大違いというわけさ。実際、コミ 「何が三十日間だい、フェア・フリッジ ? この調査が三十日間なのも、ポルターガイスト動くらいこじれにこじれた例はないから か ? それは初耳だ。フ = ア・フリッジ、いいかい、君はビックリすね。 るのがこわくて、穴掘りに逃避しているだけなんだよ。九日であん エルマによると、この星の超常現象はケンタウロン日ミクロンの なに大きくなった子供がどこにいる ? ところが、この星では、木子供たちの三天使パラドックスをはるかにしのぐのだそうだ。い だって一日二十メートル育つんだぞ。それに、ジュディ・・フリンド や、しのがぬわけがあるだろうか ? われわれの母星でさえ、あの ルスビーの髪の伸びつぶりを見てみろよ。彼女は人間なんだそ ! ようなすばらしくも奇々怪々な前兆現象がおこったのだ。妻のエル いや、子供たちだって人間でないわけではない。三分の二はれつきマの考えでは、こうした思春期の超常能力は ( 火山はこの能力の一 面でもあれば、体現者でもあるが ) じきに発現しはじめるはずだ。 とした地球人だからな。 あと二日、おそくとも三日とかかるまい」 フェア・フリッジ、あの子たちは三人とも、前代未聞の利発さだ。 わたしはあの年齢では ( おっと、生後九日じゃなくて、見かけの年「掘ーー掘れよ。そーーそんなこと考えないで」 齢の九歳か十歳ということだが ) すべての面で、あんなに切れはし絶倫世界で″大人になる″とは、閉じた人生をあゆみはじめるこ と

3. SFマガジン 1984年6月号

しても、・ほくは特殊なのだ。長い間・ほくはそれに気づかなかった。 唐突に出た自分の声にぼくは驚いている。 姉の彩子は・ほくが帰る日はいつもそこにいた。独身の彩子はこの両親は・ほくを特殊学級などには入れなかったから、・ほく自身が、自 家から父と同し病院へ通う精神医だったが、弟の帰省するときは休分はどうやら普通の子供たちとは違うのではないかと思い始めたの は中学校に入ってからだった。 みをとったり当直をずらしたりして、・ほくが家に入るとき、いない ことはなかった。・ほくはそれをあたりまえのように思っていた。姉とりたててどこがおかしいという目立ったものではなかった。 ・、、・ほくには、他の人間たちが苦もなくやっていること、目くばせ というのはそんなものなのだろうと、別段不思議だとも感じなかっ た。大学時代の帰省のときは、そうだった。しかしそれが重なるや身体全体で意志や感情を表現し交換するということができなかっ た。それは言葉以外の手段によるコミュニケーションだ。人間とい と、いつもいつもいつもそうだとなると、鈍感な・ほくでもこれはな うのは言葉以外で様様な感情や想いの気というようなものを放射し にかあるのではないかと疑うようになった。弟の帰るというのが、 それほどのことなのだろうか ? 息子、というならわかる。だが姉ているのだが、・ほくにはそのいわば波動を放射することも感じとる こともできなかった。・ほくの心は他人からは鉄の箱に閉ざされた、 は母ではなかった。姉はたぶん、・ほくを迎えるのが嬉しいのではな く、父と母にそうしろと命じられているのだろう。子供のころには他人から隔離されたところにあった。・ほくは眼も耳もちゃんとして、 ナまくの眠には他の人間の心は 気づかなかったが、両親は・ほくを彩子とは違う特別な目で見てい いたし、喋ることだってできた。どがに た。男の子だから、ということもあっただろう。・ほくが欲しいとい見えず、耳にも他人の心の変化は聞こえなかった。それを感じとる えば、すぐにではなかったが誕生日やクリスマスには、野球のグロ能力があれば口が利けなくてもさしたる不便はなかった。が、ま ートパイが・ほくのものになった。父の眠や耳はその能力の代用とはならず、かろうじてロだけが、他人 ー・フや、ラジコン飛行機や、オ ュニケーションの窓を開く道具となっていた。こんな・ほく は時間をさいてよくキャッチボールの相手をしてくれたし、将棋もとのコミ 教えてくれた。姉もフランス人形やら。ヒアノやらを買ってもらっては他の子供から嫌われることはあっても尊敬されることはなかっ いたが、それでも・ほくをうらやんでいたようだ。どこがどうちがう こ。・ほくは出しやばり屋だとよく言われた。あたりまえだろう、グ ルー。フに入っているぼくは、そこで暗黙のうちに了解されているこ のかよくわからなかったのだが、いまから思えば、父が姉と一緒に とを、それに気づかないため、ロを出して減茶減茶にしてしまう。 遊ぶというのは見たことがない。女の子だからというのは理由にな らないだろう。父は忙しかったから、子供の相手をする暇がなかな自分がどうも他人とは違うと知りはじめてからは、・ほくは″鈍いや かっくれなかったが、その貴重な時間をもつばら息子のために費やっ〃と言われるようになった。・ほくはいつもおとなしくしているよ うになった。そして口数も少なくなっていった。高校生になるこ したのだ。なぜ ? それは・ほくを特別扱いするということだ。 ・ほくは特殊なのだ。 ろ、・ほくは完全に特殊者だった。人間相手の仕事はできないのは明 家族の一員としてだけでなく、もっと大きな意味でもーー人間とらかだった。それでぼくは船を選んだのだ。・ほくは人間よりも機械 9 2

4. SFマガジン 1984年6月号

「でまあ、子供にトズトーが出たということで、私はみなに迷惑欲的な委員らしいことは窺えるが : : : そうなったのも彼女の娘にト をかけたぶんたけ、コ。、 コパにつくさなければならない、 と、努力ズトーが出来たとの負い目のせいだった となれば、これは必然 2 しました。いろいろコ。ハのあたらしい使いかたも考えたりして : 的だとはいえないにしても、全くの偶然とは見做すわけには行かな 私が現在ハビヤの委員をしているのもそのおかげと思えば、多少は いであろう。そこにかすかで細いかも知れないが、一本の糸がつな 感謝していいのかも知れません」 がっている、とも解釈出来るのではあるまいか ? ともあれ、彼はこれでまた、あるいは活用出来るかもわからない 手札を得た感じがしたのた。 彼は、相手にどういったらいいか、わからなかった。 が、その心の一方では、思わぬものにぶつかったという気持ちが 「この位で、よろしいですか ? 」 あったのだ。 。ハヤサスがしナ うまく行けば : : : 自分は案外早く、本物のトズトーに会えるかも「いろいろ、貴重なお話を、ありがとうございました」 知れない。 このパャサ・ハに頼んで、。ハヤサ・ハの娘というのに会わせ彼も答えた。 てもらえるかもわからないのである。なろうことなら、彼はすぐに 答えながら : : : 今度はそちらの番だ、と、彼は心の中で呟いてい もそのことを、パャサ、、ハに頼みたいところであったけれども : : : き た。パャサバが、情報提供の代償として、何事かを要求するはすな よう顔を合わせたばかりの相手に、すぐそれをいうのは、やはりまのである。 ずいだろうと考えたのだ。いすれ頼むとして : : : きようのところは いでしようか 「それでは : : こちらからのお願いを申し上げて、 遠慮しよう、と、彼は思いとどまった。 ハヤサくよ、 それにしても、これは偶然である。トズトーと知り合いになれる ノーしいたした。 / ビヤに 機会なんて、なかなか得られないと覚悟していたのに : 雨はすっかりゃんで、外は再び日光に照らされているようであっ 来て最初に話をしたプバオヌの娘がトズトーだったとは、話がうま た。部屋の中もあかるくなり、。ハヤサバの表情も黄と黒の服も、よ 過ぎるのではないか ? く見えるようになっている。そして、これから何を持ち出されるの しかし。 かという気のせいか、彼の目に彼女は、さきほどまでよりもたいふ 彼は、それが、決してまぐれ当りの幸運などではないことを悟っ大きく映るのであった。 た。偶然であり幸運であるとしても、これまでの経緯を想起する「どうそ」 と、司政官を迎え入れ、話をしようと決心したのはこのパャサ。 ( 彼は応じた。 で、あとの委員たちはそれを承諾したたけだということではなかっ 「お願いというのは、ふたつです」 たか ? そして。ハヤサバ自身の話でも、彼女がきわめて進取的で意 パャサ。 ( は目を向けた。「ひとつは、私が自分の管理するコパの

5. SFマガジン 1984年6月号

フェア・フリッジは彼女は実在しないと思 ( もちろん、アフソニアクシャミソウは別だが ) 。しかし、彼女は では、ちい姫は ? いこんでいたが、彼女は現実の存在だった。二十四日前のあの日、時々、ユーモアたっぷりにフェア・フリッジを追いかけまわした ただし、コ追われる方はちちみあがった。 彼女は古今未曾有、比較を絶する美しい子供だったーー 1 ラとヒーローズが生まれるまでの数時間のことだが。彼女はいま「背の君はわたしをこわがっておいでだ」と彼女。「本当はわたし でもほぼ完璧な美人だった。唯一、欠点といえるのは、一種あふれを好いていらっしやるのに、わたしのことを妖怪変化と思いこんで いる。あの方は妖怪変化の類が恐しくてならないのだ。おお、わた んばかりの人なつつこさで、美人の枠にはおさまりきらなかった。 彼女はもはやちい姫ではなかった。母親と肩をならべるほど大きくしのせいであの方は顔蒼ざめ、わたしのせいで意馬心猿、鼻血を噴 きだされるのか。そそりたっ血の塊となられるのか。あの方に七つ なっていたからだ。彼女はコーラやヒーローズよりも大きかった。 スタイルのよさと品格の高さは母親をさえしのいでいたが、それはの恐怖をすべて与えるほかないわたしなのに、わたしはあの方がい としい。フェア・フリッジ、フェア・フリッジ、あなたの恐怖、あなた 彼女が絶倫世界で生まれたからである。 しかし、一方は優雅な美女、一方は無骨な醜男にもかかわらず、の窮地は岩さえ笑っている。そしてわたしの笑いはどんな岩よりさ 彼女はフェア・フリッジ・エクセンダインに生きうっしだった。ちよらに謂われない笑いだ」 ああ、岩たちはこの途方にくれた哀れな男を、カタカタ笑うハイ うど娘が父に似、妻が夫に似てくることがあるように、彼女は彼に エナさながら、笑いのめすのだった。 似ていた。絶倫世界流に言えば、彼女は「彼に向かって成長した」 のだ。この星ではこのような成長はきわめて迅速におこなわれるこ もっとも、ちい姫はちょっぴり泣くこともあった。絶倫世界では とになっている。 涙はどっとあふれだす。水量厖大なことといったら、すこしの間で 彼女はすこぶるユ 1 モアに富んでいた。このちい姫という娘はユやまなければ、星中涙びたしになってしまうほどだ。ある日、彼 ーモアを必要としたのだ。彼女はヤワな育ちではなかったし、それ女はコップもあふれよとばかり泣き、大きな青ガラスのコツ。フを実 は他の子供も同様だ ( もう子供ではなかったが ) 。急速な成長のみ際に涙でいつばいにした。そこで不意に気分が切りかわり、彼女は られる惑星や準惑星は他にもあったが、質に問題があった。たちまそのコツ・フをフェア・フリッジの食事の席においておいた。彼は首を ち樹木なみに育っても、実質は巨大な草にすぎない場合がある。急かしげながら一口飲み、すぐに吐きだしたが、いあわせたみんなは 激な成長に内実がついていけなかったのだ。絶倫世界では違った。 どっとふきだし、彼はほとんどいたたまれぬ思いだった。 ( 絶倫世 この星の動植物は急速に成長したが、組織は稠密であり、諸器官は界の涙は塩からいのを通りこして。ヒリリと苦いのだ ) 十分に分化し、完熟の域に達していた。人間も同じであり、とりわその時、フェア・フリッジは妙なことをした。彼はコツ・フのロをナ けちい姫がそうだった。 ・フキンで覆い、その上からタオルでくるなと、自分の独身居住区へ 7 彼女は育ちすぎの草ではない。草はユー壬アを欠いているものだ持ち帰り、そのまま保管したのである。

6. SFマガジン 1984年6月号

おぼえないわけがあって ? 」ちい姫は一本とった。年にしてはみごじで、彼女には端麗な容姿と鋭敏な知性がある。二人はジュディに とな切りかえし方である。はたして、説明は簡単至極だった。娘は先をこされることぐらい先刻承知だった。たしかに、二人は今度も 母親から言葉を学んだのである。 先をこされたーーーわずか数時間だったが。 しかし、フェアプリッジ・エクセンダインは恐怖のあまり顔色を 失ったままだった。しかも、この独身者は彼女とは縁もゆかりもな「さて、これはたしかに難問だそ」ラシュモア・プランダはある い。彼はな・せかくもおびえるのか ? 日、浮き浮きしながら語りだした。「われわれは全員人間だが、人 そのすこし後、ジュディはわが子にたずねた。 間の妊娠期間が五日だなんてことはない」 「知ってる ? おまえは絶倫世界で生まれた最初の人間の子供なの 「そーーーその話はやめろ」フェア・フリッジはどもった。「掘ーー掘 よ」 れよ」 「あら、母さん、それ絶対違う」ちい姫は言った。「わたしの計算「もちろん、可能性としては、三人とも九カ月前に受胎していたと では、二百一人目というところね」 いうこともある。それなら合理的だ、つじつまがあう。だが、非合 理の虫のやっ、こう囁きかけてやまないのだ。″そうじゃないこと そのすこし後、・フレーズ・カーウインは少女に尋ねた。 くらい知ってるくせに″と。しかも、子供は三人ともお腹の中には 「君、歩ける ? 」 五日しかいなかったと言っている。たしかにここですごした最初の 「あら。そんなこと無理にきまってるじゃない」彼女は言った。夜、われわれはみんな異様な生命力の高ぶりにおそわれた。君は別 「おけいこをはじめるのだって一標準時間後だわ。ちゃんと歩ける だったがね、フェア・フリッジ」 までには一標準日はかかるわね」 「やーーやめろよ、そんなくだらん話。掘・ーー掘れよ、クソ」 一方、フェア・フリッジ・エクセンダインは発掘現場に戻ってい 「ここは奇跡の星さ、もちろん。奇跡の物質があふれている。しか た。地下のあらたな謎もこわかったが、それ以上に少女がおそろしし、それにしても、今回の狂言、奇跡の主もちょっと悪趣味がすぎ かったのだ。 るんじゃないか。わたしがあの小さな息子を愛していることといっ それにしても、彼女のかわいらしさは比較を絶していた たら、言葉ではあらわせないほどだが、それでもあの子には異質な までのところは、だが。 何かを感じてしまう。わたしともエルマとも違う何かをね。彼の親 「わたしたちのやることなんか、ジ、ディとくらべたら、すべて竜の一人は絶倫世界なんだな」 頭蛇尾ね」とエルマ・プランダはたわむれに・ほやくのだった。黄金「く くだらん話だ。そーーーそんなことはおこらなかっ の体と堂々たる美貌をもっエルマは、実はジュディ・・ フリンドルスたんだ、掘ーー・掘れよ」 ビーなど歯牙にもかけていない。それはリゼッタ・カ 1 ウインも同臆病さと神経過敏にかけては、フ = ア・フリッジは空前絶後だっ

7. SFマガジン 1984年6月号

に、ひどく急な話だと思うでしようね。わたしだって、ここまで進なふうにほめるなんて、夢にも思わなかったよ。いくら我が子でも んでいるなんて思ってもみなかった。こんなことが絶対あるはずなね」とヒラリーは誇らしげに・ほやくのだった。「この子はとっても こんなちいさなお いことぐらい承知しています。だけど、わたし、いまにも生まれそちっちゃいが、どこにも非のうちどころがない。 うなの」 姫様は、はじめて見たよ」 一同は唖然として彼女を見た。 「すてき。きれい。こんな子、天地開闢以来だわ」ジ、ディは我を 「″いまにも″と一一 = ロったのよ、ヒラリー 」ジ二アイはほとんどこわわすれて讃めたたえるのだった。「この子は完全無欠。この子は燃 ばった声で夫に迫った。「わからないの、いまにも子供が生まれてえる星、きらめく大海原。この子は希世の名花。この子はーー」 しまうのよ」 「ねえ、冷静になって。冷静になって、お母様」と、ちい姫が言っ こ 0 さて、ジ、ディは大女だったが ( しかし、スタイルのよさと品格 の高さにかけてはホヴァークラフトに匹敵する ) 、胎児がきわめて 小さいことは一目瞭然だった。しかし、全員が科学者の目をもち、 大小を見わける訓練をつんでいたとはいえ、ジ二アイのさしせまっ フェア。フリッジ・エクセンダインがこの椿事に見せた反応はただ た出産に気がついた者は皆無だった。 ただおじけずき、恐怖にかられた拒絶状態におちいることだった。 もちろん、心配はなかった。ヒラリー自身、医者だったし、ブレ一方、他の面々はすこぶる好意的に事態をうけいれた。もちろん、 1 ズもしかり。それを言うなら、リゼッタ・カーウインもそうだっ説明は必要だ。必要なら、みんなで説明をさがそうではないか。 た。もっとも、リゼッタは目下、間近に迫った自分のお産で手いっ 「″おませな女の子事件″に結論をだそう」とラシュモアが言っ 。したったか。たが、心配は無用。絶倫世界では、すべてがやすこ。 フリンドルスビーは やすと、気持よく、自然にはこぶ。ジュディ・・ 「誰か意見のある人は ? 」 やすやすと気持よくお産をした。とてもちいさな女の子が生まれ「あなたの子供よ、ジュディ」エルマが言った。「答えなさいよ。 さっきみんなが聞いたと思った言葉は本当に聞こえたの ? 」 はたして、この子は常の赤ん坊と違い、醜悪でもなく、赤い肉の 「あら、この子はあんなにはっきり喋ったじゃない。みんなもちゃ かたまりでもなく、はるかに姿形が整っていた。しかも、たいそうんと聞いたでしよ。だけど、なぜ、わたしに訊くの ? 喋った当人 ちいさかった。みんなは堰を切ったようにほめそやしたが、このち がここにいるじゃない。ね、おまえ、どうやって言葉をお・ほえた いさな娘の尋常ならぬ端整さを伝える言葉はない。 の ? 」ジュディは愛娘のちい姫に尋ねた。 「なんてかわいいんだ。おっと、自分の口から赤ん坊のことをこん「わたし、五日間もお喋り母さんのお腹の中にいたのよ。どうして こ 0 2 0 8

8. SFマガジン 1984年6月号

「なんて口を利くの。姉さんに向かって」 「わたしがわるかったわ」 普段の・ほくなら母に従っていたろう、しかしいまは絶頂を求めず姉はもう一度・ほくに謝った。 にはいられなかった。その後にやってくるのは満ち足りた平安では 「しつかりがんばるのよ」と母が言った。 なく、空しさとやりきれなさだというのはわかっていたが、それで 「おめでとう、航海士さん」と姉が言った。 も、その虚脱感や自己嫌悪をも欲しいと・ほくは願った。できるもの ぼくの不安は父のものとはちがうだろう。この温かい雰囲気や優 なら彩子の心を残忍な方法で破壊しつくしたいとさえ思った。罠のしさはぼくの不安を高めるだけだった。 輪はもう閉じている。あとは捕まえられた姉がそこから抜け出そう「今夜ーー、発つよ」 とぼくは言った。母と姉は止めたが、父は反対しなかった。ただ ともがきはじめるのをただ待てばよかった。もがけばもがくほど、 姉は傷つくだろう。・ほくの心はその姉の傷からしたたる血を求めて黙ってコーヒーカツ。フを両手に包み込んでいるだけだった。 ふるえた。 荷物は航海士のスーツケースが一個で、家に寄ったあと直接乗船 姉はナ・フキンで目頭をおさえた。そして姉は、彩子は こう言する予定だったから、旅立ちの支度などはもうすんでいて、久しぶ っこ 0 りの自分の部屋に入ってもやることはなにもなかった。 ・ほくの部屋は、大学へ入学するとき出て以来ぜんぜん変わってい 「ごめんなさい、淳」 彩子は徴笑んだ。その徴笑は、どうみてもぼくに対する軽蔑でもない。 憐れみでもなかった。本物の怒りでない悲しさ、ぼくはそう判断で 壁には子供のころにマイコンで描いた絵が張ってある。木の机、 きるほど冷静だった。なんということだ「姉はきれいに罠から抜け椅子、本棚、板張の床。それらはどこにでもある物にすぎない。愛 出している。 着など感じなかった。感じるとすれば、それらの道具ではなく、そ 「なぜ謝まるんだ ? 」 れらが吸収してしまった、もはや決してくり返されることのない過 「おまえは」黙っていた父が言った。「わたしが初めてメスを持っ去の時間に対してだった。子供のころはすべてが平和だった。 だが一つだけ、単なる物ではない、生き物がこの部屋にはいた。 ことになった、その前夜の自分にそっくりだ。手術の手順もなにも かも頭でくり返して、大丈夫うまくいくと信じようとしているの ミリアスという名の、コン。ヒュータ・セット。こいっと対話すると に、自分では落ち着いていると思っているのだが、やはり昻奮してきがいちばん心の休まるときだった。それはいまでも変わらない。 いるんだ。最初というのはそんなものだ」 電源を入れれば、彼女はいつだって・ほくの相手をしてくれたし、・ほ 父はその経験を・ほくには感じられない例の手段で姉に伝えたのだ く以外のだれかの思惑に左右されることはなく、つねに・ほくだけの ろう。これはフェアなやり方ではなかった。だがそれを言う気力はものだった。 , もう・ほくこよよ、つ - こ。 木の地肌の暖かさに包まれたぼくの部屋だが、ミリアスだけは金 245

9. SFマガジン 1984年6月号

きおり、この父と母は他人だと子供心に思ったものだ。なぜだろ虫の音が聞こえている。 : いきなり夜 3 う ? 二人ともおれには優しかった。彩子には厳しかったが。それ〈いまのは幻覚だ : : : 擬動したわけではないだろう : っ 4 : このおれの事象面では昼と夜がめま になったから夢を見たのだ : ・ を言うと母はこたえたものだ。『父さんは男の子のおまえがかわい ぐるしく入れ換わるらしい いのだ』と。彩子が生まれたとき、すでに母は三十半ばを越えてい た。子に恵まれなかったんだ。その後、もう一人男子を望み、そし夏の夜気はどことなく生臭かった。淳は息を浅くして本堂にひき ておれが生まれたーーー本当にそうだろうか ? 〉 返した。さきほどの僧がすっと姿を現わした。 「如月さん、そういえばこれをお預かりしとりました」 淳は墓石を見つめた。両親の遺骨の納められた黒い小さな墓石の 僧は小包を差し出した。淳は本堂に上がり、受け取った。如月淳 周りは夏草がきれいに刈られていて静かだった。 〈こたえてくれ。おれはいったい誰なんだ ? おれは本当に父さんに宛てられたものだった。 と母さんの子なのか ? そうではないとするとおれはどこから来た「だれからです」 「あれ、如月さんがうちのところへ送られたものですが。原稿用紙 んだ。こたえてくれ。あなたたち二人は知っているはずだ〉 淳は眉を寄せた。額の間がふと冷たく感じた。半眼に閉じた淳のでしよう、ここでお仕事なさって下さい。先代のときと変わらずに 視野が薄暗くなり、そして本物の闇がおちた。冷たい風が吹いて墓どうそ気がねなどいりませんで」 「ーーーありがとう」 地の竹藪がざわりと鳴った。 小包を裏返した。僧の言うとおり、自分が自分に差し出したもの 墓石が青い燐光を発した。燐光は妖しく美しかった。霧が風に吹 かれてゆくようにその妖火は薄れてゆき、闇がもどった。白い光がだった。 〈しかし : : : おれには覚えがない〉 満ちていて、墓は消えていた。夏草が茂っていた。 目を上けると僧はかき消すように消えている。 「淳」 振り返った淳の目の前に母が立っていた。母は大きく、淳は見上〈喋るときだけ普通の時間になり、そうでないときは速く流れるの げて、母さんと言った : 見かけはそうだったが、理論ではちがう。アシリス事象面では可 「また寝・ほけて。夜露は身体に毒よ」 家に入りましようと母親は言って白い手を差し出した。頭上に白能事象と時間が合成されているーー淳はスローンから聞いたイシ い満月が出ていた。子供の淳は母の手をとろうとしたが、感触がなスの説明を思い出した。アシリスはこの世界の時間に自分の身を同 期させるために無意識のうちに擬動しているのだった。 〈理論より問題はこの小包だ。これはどこから来たんだろう。この 「母さん」 墓石が形をとりもどしている。しかし夜は消えてはいなかった。事象面のある事象からであることはたしかだ〉

10. SFマガジン 1984年6月号

「そうでしようか ? 」医師が重々しい口調で言った。「彼が独れた すよ。脱獄は不可能だという事実を否定したのです。ここにこそ、 とりわけ危険な、とくに恐 彼の種族が恐るべき、危険な存在である理山があるのです。あるこら燃えっきてしまうはずの防御壁は とが不可能であるという事実は、彼らには障壁とはならないのでろしい武器であるはずの防御擘はどうです ? 」 す。これこそが、われわれには決して到達できない段階にまで彼ら司令官は医師をじっと見つめた。 を到達させる秘密だったのです」 「だがーー」司令官は言った。「防御壁は切ってあったのだ。もち 「だが、その前提は間違っている ! 」司令官が反論した。「彼らはろんそうだ。食事当番を通すためにな。ドアも開いていた。たぶん 自然の法則を破ることはできない。彼らも、宇宙の物理法則には縛 「わたしは調べました」医師が言った。その眼はしっと司令官をに られているはずだ」 医師はまた笑った。その笑い声は荒々しかった。司令官は医師をらんでいた。「彼が逃げる前に、防御壁のスイッチは入っていたの 見た。 「だが、彼は逃げた ! まさかーー」 「薬をやっているな」司令官が言った。 「ええ」かすれた声で医師が言った。「もっとやりたい気分です司令官の声は震え、とぎれた。三匹は突然、石のように押し黙っ よ。われわれの種族の減亡に乾杯しましよう」 た。見えない手に操られたかのように、ゆっくりと、彼らは向きを 「ヒステリーだ」指令官が言った。 変え、雲ひとつない空を、その先にひろがる宇宙を見あげた。 「ヒステリー ? 「まさかーー」 ・」医師がおうな返しに言った。「い いえーー罪悪感 司令官がまた言いかけて、またロをつぐんだ。 です ! われわれ三人は罪を犯したんじゃありませんか ? 彼らに は触れるな、彼らの爆薬に点火してはならない、と伝説は教えてく「そうですとも ! 」医師が小声で言った。 れました。だが、われわれは点火してしまったのです。あなたとあ なたとわたしとでね。いまやわれわれは敵を宇宙に送り出してしま銀河のただなかで、感受性のつよい種族の子供が、叫び声をあげ いましたーーー彼は何年分もの食糧を積んだ宇宙船に乗り、死なない て、眠りから覚め、母親にしがみついた。 「恐い夢を見たよ」子供はささやいた。 身体をもって、銀河を渡っています。彼に与えた学習能力を使い 故郷の星のありかを知ることのできる星図をもち、われわれの科学 「よしよし」母親が言った。「よしよし」 だが、母親はじっと横になって、天井を見あげていた。彼女もま を理解する鍵となる手掛りをたくさん持っています」 た、夢を見たのだった。 「だが」司令官は断固として言った。「彼はそんなに危険ではない いまのところはな。いまのところ、彼はなにもしていない。彼 は何も異常なところを見せてはいない」 どこかで、エルドリッジは星々に微笑みかけていた。