「役者に知り合いはおらん。しかし、出演するエレンデルラ劇場の ことわっておくけど、・ほくは決して″マーシェンカ・フリーク / なんかじゃなかった。それどころか、・ほくはマ 1 シ = ンカ一座の存支配人とは親しい。連絡すればどうにかしてくれるでしよう 「しかし、公演先はどこも一年も前から札止めらしいじゃないです 在を知らなかったのだ。 もちろん、いくつかの公演で、ギャルたちが群らがっていたのか」 は、目の片隅で見ていた。でも、そういうものからは無意識のうち「心配はいらんよ。どうにかなるさ」 ラウル氏は、つまらぬことというように軽くせきこみながら、葉 に遠ざかろうとしていたのかもしれない。 ・ほくがマ 1 シ = ンカと会ったのは偶然だと思う。でもそれは、雨巻に火をつけた。 ・ほくはこの星、メネムシアに来てからというもの、マーシェンカ 水が川と出会うような偶然だったかもしれない。支流から、あるい 一座のにふりまわされていた。マーシェンカ、マーシ = ンカー は道や屋根の上から排水溝を伝って、一本の川に出会う。その川 たかが旅芸人の一座に人々がな・せこうも興味を示すのかっ・ は、・ほくが大いなる水のサイクルに生きていることを教えてくれた 「ほくだけのためにお誘いくださるのなら、ご遠慮申し上げますが のだ。 川は蛇行しながら、遙かなる海を目指す。水がどうして蛇行し、 「なになに、わしも孫たちが騒ぐロニ・マーシ = ンカを一度見てみ くねりながら流れてゆくのか、人間には残念ながらわからない。マ 1 シ = ンカ流に言うなら、この川そのもの , ーー水一滴、一滴のやむたいでな。それに、わしが行こうと行くまいと、支配人は切符を送 ってくるんじゃよ」 にやまれぬ就跡こそがーー物語なのだ。 ロニ・マーシェンカは一匹のトカゲだ。しかし、その中にはとう「こちらでは凄い人気のようですね ? 」 「こちらでは ? 地球じや人気がないかね。前売券の奪いあいなん とうたる大河が流れていた。 ぞはひどいもんさ。もっともこうも熱狂的なのは、都市部だけかも しれんが」 「そうだ、あなたにいい物を見せてあげよう」 ・ほくはいささか恥ずかしさを覚えながら聞いた。「ところで、マ ラウル氏の話がまた脱線した。もう商談なんかそっちのけだ。 ーシェンカって、どんな男なんです ? 」 「カロ・マーシェンカの一座が、今この星に来とるんだ。よかった ラウル氏は、ちょっと鼻の頭にしわを寄せた。「知らんのかね ? 」 ら、明日の晩あたり、みなで観に行きはせんですか ? 」 「残念ながら : : : 」・ほくは肩をすくめる。 「マーシェンカの一座ですって ? 」 「ふむ。まあ、そう言われてみると、ここの人気の方が少々異常か ・ほくはいっぺんで眠気がふっとんだ。 もしれん。 「マーシェンカをご存じなんですか ? 」 マ 1 シ = ンカは一家で作られた旅の劇団で : : : その ラウル氏は、葉巻を指で軽くはじいて、ふんと鼻を鳴らした。
「ホワイトオーク隊の人間じゃないだって、フェア・フリッジ ? 」・フ て生埋めを待っ必要はなかったはずだ。周囲の平原は無傷だったの 冫ドしカえした。「これ以上明るくな 7 レーズはわかったというふうこ、、 ・こから。 「まあ。この人たちはほがらかに死んでいてよ。それに、ちっともらないように祈った方がいい。いまならまだ幻がうろうろしている から。そこにもいくつかちらちらしている。耳とか眉とか顎の線と 傷んでいない」リゼッタは声をあげた。「こんなにすてきな人たち が本当にいたのね。みんな、そう思わない ? どことなく、とても かの幻がな。あそこの女性だが、見お・ほえないか ? われわれが会 なっかしい感じのする人もいるーー・まるでどこかで会ったことがあったことのある或る御婦人とよく似ているーー・妹か娘だと言っても るみたい」 通りそうだ。実際、ホワイトオーク隊の何人かと酷似した特徴がこ 「死後どれくらいだろう ? 」フェア・フリッジはヒラリー・。フリンド こではそろそろ目につく」 ルスビーに尋ねた。 「馬鹿な。ホワイトオーク隊はここに六標準月しかいなかったんだ 「おそらく二年。長くともそれぐらいだ」 そ。もしこの謎めいた生き物と会っていたというなら、な・せ報告に 「馬鹿な、ヒラリー。君は細胞屋だろ。さっさとサン。フルを採取し書かなかったんだ ? 」 たらどうだ」 「もちろん採取するとも。しかし、死後二年は動くまいな」 作業はそれまでにして朝を待った。彼らはかなりの砂礫を運びあ 「たとすると、ホワイトオーク隊が調査していた時、彼らは生きてげ、底をもうすこしさらえた。 いたことになる」 「この地盤を保存したまま、彼らを動かさないようにして、下の地 「おそらくな」 層を掘れないかしら ? 」リゼッタ・カーウインが尋ねた。 「じゃ、な・せホワイトオーク指揮官は報告しなかったんだ ? 」 「できるが、なぜだい ? 」フェア・フリッジはビリ。ヒリしていた。こ 「ホワイトオ 1 クも例の一人じゃなかったか、フェア・フリッジ、 んなにすてきな一団とめぐり会ったのに、そのすばらしさに気がっ ″どうせ信じはすまい″という言葉を使った」ラシュモア・。フラン く余裕さえないようだった。 ダが割ってはいった。「おそらく、彼はその一言で事たりると思っ 「あら。この人たち、前に何回も何回も使われた場所を選んだんじ たんだろうー ゃないかと思って」 「しかし、彼らは何者なんだ ? 」フェア・フリッジは依怙地になっ た。「すべての隊の隊員一人一人にいたるまで、説明はついている 日が高くなると、ジュディ・・フリンドルスビーとエルマ・。フラン んだ。この連中はわれわれと同じ人間だが、ホワイトオーク隊の人ダがにぎやかに騒ぎながら、一同のいる段丘の最上部にあらわれ 間ではない。わたしは隊員全員に会ったことがあるし、彼らはみな 無事帰遠している」 「ねえ、みんな、わたしたち、ひどい吐き気がするのよ ! 」ジュデ
しまうだろう。 うとしている。 三杯めのグラスが出てこなかった。 信じられるか ? うすい、ひらひらした布。ビラミッド型の石。 イスの脇からパネルを引き出しキーを叩いた。だめだ。・ハル・フの 青いガラス瓶。それが、人間だというのだ。正常な両親のあいだか 故障をインジケータが示す。修理に多少の時間を要します。 ら生まれた、われわれの子供たちだというのだ。 布を拡大してみると織り目からメッセ 1 ジが読みとれた。指がほてっていた。目のふちが・ほうっとし、動悸が速くなった。 合成ノウ ( ウだった。石はひつばたくと旧約聖書を朗読した。栓を身体の芯が熱く、頭をふると視界がぶれた。喉がかわく。 「あ」 された瓶には手紙が入っている。殴り書きで、「助けて」。 どうやらジェリ 生物として生まれてきたもののほうがもちろん圧倒的に多い。で次の瞬間、・ほくは爆笑した。ひっかけられた ! もその方が救いがあるとは誰にも言えないだろう。慣習的に優生措イはさっきのジ = リイの中に媚薬を混入していたらしい 置が発生の初期に行なわれ、劣悪遺伝子は補正されているし、異常「やったな」 もつれた足で立ちあがると 出産が増えてからは措置の回数が増やされた。しかし効果はなかっ 亠めはははははははは た。ひどい例では出産直前の胎児像と、生まれてきた子が全然べっ よよまよよよ ふふふふふふ のものだった。 ままま一まよままよま 生産制限も意味がなかった。女性たちは単為生殖をはじめた。中 花のような、鈴をころがすような笑いが部屋の空気を一変させ、 絶すると、掻爬した組織が逃げたした。医師たちは争ってそれを殺 したそうだ。男性の肩の瘤を切開したらリスの胎児がねむ「ていたあざやかに染めあげた。なにもかもが、目を見張るほどうるおいあ ふれた色に見える。ジェリイ、おまえはいったい何者なんだ。 例もある。 そう。ことは人類だけではおわらなかったのだ。 来て 単刀直入に言えば、十年前から地球上のあらゆる生物が突然化物 来て をせっせと産みはじめたということだ。原因、メカニズム一切不 明。 ジェリイの表面がざわりと動き、数十本の触手があらわれて・ほく 支離減裂だ。 進化圧に耐えきれず個体はほろび、世代交替がおこなわれる。その身体にしなやかにからみついてくる。際限なくそれらはのびて、 うかもしれない。そしてこうも考える。もし種そのものが進化に耐顔に手に胴に足にぐるぐると巻きっきたがいにからまりあう。ほど えられなかったら、どうなるのだろう。特殊化の果てまで行きついけない。ほどこうとも思わない。かすかな・ハイ・フレ 1 ションが伝わ た、あるいは準備のととのわない種に、なおも進化がゴリ押しをする。ジェリイの息づかいが聞こえてくる。 ジェリイ。 れば ? その種は遺伝子のなかみをぶちまけながら、摺り潰されて 2 に
「あげるとは言わないわ。持っていて。お願いだから」 「姉さんのこと、頼むよ。心配事があるらしい。ぼくではだめだ」 白色のペンダントが銀のチェーンの炎を引いて飛んできた。・ほく「初めてだわね、淳が彩子のことを頼むなんて言ったのは」 はノ・フから手を離して姉が投げたそれをとっさに受け取った。 母は笑った。・ほくも笑おうとしたが、できなかった。 「お願いだから」 いま・ほくのむには二人の姉がいた。一人は・ほくがいままで想って 姉は立って、言った。 きた姉、もう一人は、・ほくのことを『あなた』と呼び、『愛してい 彩子の唇の感触がよみがえる。 るわ』と言う、姉だった。一方だけならどうということはなかっ 「本気なのか ? 」 た。片想いには慣れている。でももう一方の姉の出現は衝撃だっ 返事はなかった。・ほくは部屋を出た。ドアは閉めなかったが、彩 と・ほくは思った。だが現実には、 た。この二人の姉だけならいい、 子はそこから出てこなかった。 ・ほくの心の外に、この二人の姉とはまったく異なっているかもしれ 父が、もう行くのかと言った。父と母が夜の戸外、玄関を少し出ない、現実の姉、彩子がいるのだ。それでもーーーその三人とも、・ほ たところまで送ってくれた。 くにとって姉であることには変わりない。姉と弟は、女と男の関係 「うまい酒だったな、父さん。 感謝してるよ」 にはなれない。 「なんだ、他人行儀だな。婿に行くわけでもあるまいに」 「なにかあったのか」 他人行儀、他人、という言葉から連想されたのは、彩子だった。 笑うでもない中途半端な・ほくの表情が父にそう言わせたのだろ 「いっ帰ってくるの、今度は」 う。父は彩子の変身に気がついたろうか ? 「そう、たぶん」 「いや、別に」 母を前にして、もう二度と帰ってくるつもりはないとは言えなか ぼくは制帽をかぶった。 「じゃあ、行ってくる」 「四航海くらいしたら休暇がとれるよ」 「行ってらっしゃい」 「いつなの ? 」 父は無言だった。普段からロ数の多い父ではなかったが、・ほ 「 : : : 一年くらい先だと思う」 は、この父の無言が意味あるものに思えてならなかった。 「そう。気をつけてね」 ・ほくは両親に背を向けると、親船の待っ神戸に向かった。夜は濃 ・ほくは彩子を思った。姉は他人ではなかった。どうして他人行儀かった。彩子のドレスの色、 ミッドナイト・フルー、真夜中の色。そ と姉が結びつくのだろう。・ほくは姉を他人だなどと思ったことは一 の上にあのペンダントそのままの白い淡い光を放っ月が出ていた : 度もなかった。美人だと思ったことはあっても、唇を合わせたあと のいまでも、姉は姉であって、姉ではない別の女、ではなかった。 ( 以下次号 ) っこ 0 253
「なんて口を利くの。姉さんに向かって」 「わたしがわるかったわ」 普段の・ほくなら母に従っていたろう、しかしいまは絶頂を求めず姉はもう一度・ほくに謝った。 にはいられなかった。その後にやってくるのは満ち足りた平安では 「しつかりがんばるのよ」と母が言った。 なく、空しさとやりきれなさだというのはわかっていたが、それで 「おめでとう、航海士さん」と姉が言った。 も、その虚脱感や自己嫌悪をも欲しいと・ほくは願った。できるもの ぼくの不安は父のものとはちがうだろう。この温かい雰囲気や優 なら彩子の心を残忍な方法で破壊しつくしたいとさえ思った。罠のしさはぼくの不安を高めるだけだった。 輪はもう閉じている。あとは捕まえられた姉がそこから抜け出そう「今夜ーー、発つよ」 とぼくは言った。母と姉は止めたが、父は反対しなかった。ただ ともがきはじめるのをただ待てばよかった。もがけばもがくほど、 姉は傷つくだろう。・ほくの心はその姉の傷からしたたる血を求めて黙ってコーヒーカツ。フを両手に包み込んでいるだけだった。 ふるえた。 荷物は航海士のスーツケースが一個で、家に寄ったあと直接乗船 姉はナ・フキンで目頭をおさえた。そして姉は、彩子は こう言する予定だったから、旅立ちの支度などはもうすんでいて、久しぶ っこ 0 りの自分の部屋に入ってもやることはなにもなかった。 ・ほくの部屋は、大学へ入学するとき出て以来ぜんぜん変わってい 「ごめんなさい、淳」 彩子は徴笑んだ。その徴笑は、どうみてもぼくに対する軽蔑でもない。 憐れみでもなかった。本物の怒りでない悲しさ、ぼくはそう判断で 壁には子供のころにマイコンで描いた絵が張ってある。木の机、 きるほど冷静だった。なんということだ「姉はきれいに罠から抜け椅子、本棚、板張の床。それらはどこにでもある物にすぎない。愛 出している。 着など感じなかった。感じるとすれば、それらの道具ではなく、そ 「なぜ謝まるんだ ? 」 れらが吸収してしまった、もはや決してくり返されることのない過 「おまえは」黙っていた父が言った。「わたしが初めてメスを持っ去の時間に対してだった。子供のころはすべてが平和だった。 だが一つだけ、単なる物ではない、生き物がこの部屋にはいた。 ことになった、その前夜の自分にそっくりだ。手術の手順もなにも かも頭でくり返して、大丈夫うまくいくと信じようとしているの ミリアスという名の、コン。ヒュータ・セット。こいっと対話すると に、自分では落ち着いていると思っているのだが、やはり昻奮してきがいちばん心の休まるときだった。それはいまでも変わらない。 いるんだ。最初というのはそんなものだ」 電源を入れれば、彼女はいつだって・ほくの相手をしてくれたし、・ほ 父はその経験を・ほくには感じられない例の手段で姉に伝えたのだ く以外のだれかの思惑に左右されることはなく、つねに・ほくだけの ろう。これはフェアなやり方ではなかった。だがそれを言う気力はものだった。 , もう・ほくこよよ、つ - こ。 木の地肌の暖かさに包まれたぼくの部屋だが、ミリアスだけは金 245
男は、どこか疲れたような声を出した。 「私は、急いでるんです」 「そうじゃないかなって、思ってましたよ」 良一は、片手を頭のうしろにあてて、あはははと笑った。 「あははは : : : 」 と、つられて男も笑った。 << / 1 牛との遭遇 「じゃ、・ほくはこれで : : : 」 「つかぬことを、うかがいますが : : : 」 歩きかけた良一の腕を、男がむんずとっかんだ。 と、その男は言った。 顔をくつつけんばかりにして、 「このへんで、牛を見かけませんでしたか ? 」 「どうなんです」 「うし : : : ですか ? 」 「どう・ : : ・。何がどう」 良一は、思わず、相手の顔を、まじまじと見つめてしまった。 「牛ですよ。見たんですか、見なかったんですか」 ダーク・スーツに黒いサングラス。うさんくささを、絵にかいた「牛 : : : 」 ような男である。 良一は、首をかしげた。 冗談を言うようなタイ。フじゃないな。 「どんな牛ですか ? 」 と、良一は思った。 「どんなって : ・ : ・」 たしかに、男の顔は、えらく真剣た。切羽つまっている、とさえ今度は、男が首をひねる番だった。 一一一口える表情である。どう見ても、冗談を言っている様子ではない。 「だから牛ですよ。白と黒のまだらで、こう二本つのがあって、こ その証拠に、男は大真面目な声で、こう言った。 れくらいの大きさで : : : 」 「決して、冗談を言ってるわけではありません。私は本当に牛を探男は、漠然と両手を拡げてみせた。 してるんです」 「これくらい ? 」 「なるほど」 と、良一も両手を拡げる。 と、良一は大きくうなずいた。 「いや、もっとでかいですけどね」 「もっとでかい」 「するとあなたは、こうおっしやりたいわけですねーーー・牛は、どこ 「そう」 「あのですね」 「で、白と黒のまだらで」 古来、インドでは 牛は、世界そのものの 象徴であった。 ーマラタ書より 5
そうか、そうだったのかー・ 「劇団員はみな無事だ。ロニと、姉のサキを除いてはな」 マーシェンカ一族は、宇宙の語り部として、遺伝子をフィックス 「サキが ? 」 「おお、そうだ。それで思い出したが、きみはあの娘が妊娠して いされた存在だったのだ。自らの進化の可能性を閉ざすことによっ て、他の生を演じる才能を与えられていたのだろう。だが、ある たのを知っていたか ? 」 「ああーそうだったなと、ぼくは思った。かわいそうに。一度にふ日、その才能の中から″反乱″が始まった。一五七代ぶんのツケが いっぺんにまわってきたのだ。カロもロニもサキも、そしてサキの たつの生命を失ったのだ。 「彼女が死んだのは、屋根のせいじゃなく、ショックか、自分で倒子も、みんな同じ生物なのだ。それで他の生を担う苦役から逃れた れて頭を打ったかしたらしい。ところが、その子供が見当たらんのがっていた筈だ。どうしてそんなことにすぐ気がっかなかったのだ ろう ? ・ほくは、地球行の使に乗るまでそれから三日間、シャーリイと抱 「え ? 」 「死産した様子もなし。かといって正常に産んだ筈もなし。剖見でき合って、死んだように寝ていた。 は、妊娠してたのは確からしい」 ・ほくは何だか気分が悪くなってきた。「父親は誰なんだ ? 」 ・ほくは地球でシャーリイと結婚し、その後も仕事であちこちの星 「何だって ? 」 を転々とした。しかしふたりとも、あのマーシ = ンカ一座と暮らし 「父親だよ。サキの亭主は誰だったのか調べただろ ? 」 た日々をかたときも忘れることはなかった。 「きみは、知らないのか ? 」 そして、あれから三〇年ぶりに、・ほくらはメネムシアにやってき 「ああ、聞いてみなかったからな」 「そうじゃない。マーシェンカ一族の生態をだよ。連中はセックス 劇場はとり壊され、跡地は公園になっていた。その一角に、ひと をしないんだ。みんな単為生殖でふえるんだぜ」 つの碑が建っているのをシャーリイが見つけ、・ほくを呼び寄せた。 「なんだって ? 」 ぼくは不思議な緊張感に包まれながら、その前に立った。 ロポットは困ったというジェスチャーを不器用にした。 それはまさしく口ニの記念の碑だった。そして、・ほくの理不尽な 「マーシェンカの一家には雄はいよい。全部雌で、卵は受精なしで妄想は本当になった。そこに刻まれている文はこうだった。 発生を開始する」 ″また会ったね、きみ。もう幕はおりてるんだぜ訂 「なんてこった。・ ・ : とすると」 「連中はすべて親と同じーーークローンてことになるな。天然のね」 ばくは呆然とした。自分の馬鹿さかげんにもあきれ返った。
ールとはいわないまでも、二ヨールか三ヨールのうちに、かれらの 「結構です」 ために自分が委員の座を追われることもあるわけですね ? 」 相手の話をいちいち記録しなくても、当然がそれを行 「理屈ではそうです。そして、それでいいのです。そのほうがコパ 、 01 にも送信しているはずである。この瞬間には気がっかな コパ全体のためには得なのですから。しかし、委員筆頭というのは いような事柄も、 T20b-«はデータとしてたくわえ、あとで分析し総 委員として最高の実績をあげたからなれたので、そう簡単にあたら合してくれるであろう。彼は会話をつづければいいのである。「そ しい人には負けはしません。それに、成績が低下しかけたら、ふつれから : : : 差し支えなければ、このハビヤについて、もう少しお話 うの委員にされる前に委員そのものを辞任するのが通例です」 し願えますか ? 」 「ははあ」 パャサ・、よ頷、 「これで、今のご質問に対するお答えになっていると思いますが、 「わかりました。私に許された範囲内でお話ししましよう。 しかがですか」 ・ハビヤのコバコパには れまで申し上げた事柄は除外するとして : ・ 「ありがとうございました」 ほ・ほ六十のコパがあります。このコ。ハコパを中心にして、エ。ハがた 彼は会釈し、次に移ることにした。「それにしても、お話を伺っくさんありますが、エバの者すべてが ( ビヤのコバコパに来るとは ていると、みなさんがたはひとつひとつのコパをたいじにしてらっ限りません。コ。ハコ 。 ( へは来たこともない者もあるし、他のコバコ しやるようですね。これには何か理由があるのですか ? 」 ハへ行くのがふつうの者もいるからです。ですから、ハビヤを支え 「理由があるというより、これが私たちの慣習なのです」 るエバの数や「エバに住む者の数は、はっきりしたことがいえない ・ ( ャサ・ハはいう。「私たちの間には、全体が集まって利用するコのです。そのときどきによって、ハビヤがさかんになったりさびれ ・ハのほうが本来の姿で、エバのようなものはあたらしいやりかたた たりすれば、来る。フ・ハオヌの数も変りますからね。コ。ハコパにすっ しい伝えがあります。はるか昔には、私たちは一般に、コと住んでいるほうの数は、委員や委員候補、それにコ。 ( コパのこま ハのようなところに住むのがふつうだったのだーーーという者もいま かい仕事をする者や附属施設の者、さらに何となく住みついた者な すが : : : 本当かどうかはわかりません」 どを合わせ、約百人というところでしようか」 「そうですか」 それは、あるいはプ・ハオヌたちが数千年前には高度の文明を持っ 百人というのは、案外すくない感じであった。 ていたらしいこと : : : そのころのかれらのありかたを暗示している「コ。 ( コ。 ( には、コパのほか、附属施設があります」 のかも知れない、 と思いつつ、彼はいった。 ・ハヤサ・ハはいうのだ。「前面の広場と堀。広場は種々の用途に使 「よろしいですか ? 」 われるので、草木が生えて来ないように施工され、手入れされてい と、パャサ・ハ ます。堀は防御用と同時に、貯水池でもあります。飲み水はコバコ
SF REVIEW ・サ 1 ガ」の② ( 上下かよ ) とか「ゴッドマももう誰も何もききかえさないと思うけれど このところ、私は、本を読むどころではな ジンガー」①とかーー「デューン砂漠の神皇も、私はむしろ、そうしたくつきりとファン いのである。 とにかくあと二ヶ月で長篇三本書かんとな帝③」ーーーシリーズばっかし ( 人のこと云えタジーらしい話より、「踊りのはじまり」 らんのでね。毎日、半狂乱になって書きまくんけど ) しかたないので「ソングマスター」や「ビジテリアン大祭」や、「ボラーノの広 っているところへ、突然、もう〆切だといわを買ってきたけど、うう、何か厚くて手が出場」のような作品にひかれる。しかしいずれ ない。しばらく読んでないんで、小説の読みにせよ、宮沢賢治の世界そのものが ( あまり れて、ハタと困った。 につかい古されてしまって云いたくないが ) とにかくこのところ読んだものといえば、方、忘れてしまったみたいなの。 そうだな、「逃走論」と「チ・ヘットのモーツ編集部からは、しようがないから料理の本奇跡のようなセンス・オヴ・ワンダーの真髄 アルト」、それに「私の中のシンデレラ・コでも何でもやって、私のヘリクツでにこであり、賢治の世界を見る目そのものにふれ ン。フレックス」ぐらいのところではなかろうじつけろ、というのだが、いやさすがにそこることで、私たちはいわば感性の賦活作用を まで厚顔にはなれないしー得るのである。 ーと思ってたらいいものが真にすぐれた作品、文学とは、何もファン タジ 1 でなくとも、でなくとも、そうで あった。宮沢賢治「ボラー あるべきだし、そうであってこそ、人は物語 ノの広場」これ、これ。 角川からすでに詩集入れを決して読むのをやめようとはせぬのだと思 広 て七冊、宮沢賢治作品集がう。そのうちくわしく書きたいのだが、私は の / 店 ノ円書出てますが、あいにく、こ最近のますますつのってきた、デリカシーや の「ボラーノの広場」がそ感性はむやみと重視するくせに、生真面目さ ~ 鐓 ~ 、 : ~ 、物一物、 ~ 〕ラん中でいちばん的、とや高潔さ、正義感や情愛とい 0 たごくかいい ・・・・、、 ( ( ・ ~ ポ沢頭庫はどうも云いかねるが、しで基本的なものを、正静から相手にしまいと 『宮文かし、私は、実は何をかくしたり、おちよくったり、まともにそれらを そう宮沢賢治フリークなの描くのをダサイとする風潮が嫌である。繊細 です。 な感性も優しさも、高潔さや勇気や公正の観 か。これをどうやってレビ = ーせよ、と高校のとき図書館にぶあつい全集があった念にうらづけられていなくてはただの逃避で いうのであるか。 けど、ほとんどいつも私がどれかをかりていあり現実に直面しまいとする卑怯さにすぎな 。宮沢賢治の世界に満ちている、ふしぎな そこでしかたないので、駅前の本屋に、新て、他の人にかしてやらなかったもんね。 刊をあさりにいった。本当は「風の谷のナウ「鹿踊りのはじまり」「風の又一一一郎」、「クねくらい高い志と澄んだ公正なまなざし、滑稽 梓シカ」を大絶讃大会しようと思「たら、なんずみ」「なめとこ山の熊」「ビジテリアン大さをも悲哀をも正面からうけとめて逃げぬ繊 か事情があってあれはダメだそうです。でも祭」ーーーどんなにか私は、すべての、独特の細な感性もあることを、現在こそ多くの人に 好きなんだよなーわたし。 宮沢賢治 ( いかん、宮か賢治と書きそーにな私は知ってほしいのである。 島ま、それで新刊をみてみたけど、これがま 0 た。ウゲ ) 世界としか云いようのない作品 たーーー「獣の数字」なんて読む気力あるわけ群の一つ一つを愛していることでせう。 中 「銀河鉄道の夜」がの傑作だ、といって ないし、文庫の新刊をみると、「エグザイル 円 3
賓なのだから。しかし・ほくの疎外感はそんなことが原因ではなか 0 る。酒はロあたりがよく、上等のワインのようで、・ほくは酔た。 しい酔い心地だ。気持のいい酔に浸るのは久しぶりだった。 た。いままでずっと感じてきた、もう慣れてしまっていたものなの 姉が・ほくの初仕事を祝って焼きあげたケーキは食後に出た。 だ。それがいま強く感じられるのは、やはり初仕事をひかえている 切り分けられたそれを受け取り、ロにした・ほくは、台所に入った せいだろう。家族に会っていながら、喜んで迎えてもらいながら、 ときと同じ強い疎外感を再び感じた。ケーキがまずかったらそんな 仲間はずれにされていると思うなんて、どうかしている , ーー・ほくは 気持にはならなかったかもしれない。だがそれは上出来だった。弾 こんな気持を悟られないように姉にぎこちない笑みを返したが、い ホイツ。フされた生クリ かにも不自然だったのだろう、なにも照れることはなくてよ、と姉力のあるスポンジべースの焼け具合といい し、・ほくは師の焼いたケーキでこんなにうまい ームのロあたりと、 は言った。 帶と感したのは初めてだ。 制服のままでテー・フルについた・ほくの前に並べられたタ食は、ー 「おいしい ? 」 服という正装にふさわしいものだった。 この晩餐に間に合うように帰宅した父は、学会のときに買「たと姉は自分のケーキにフォークをあてて、上目づかいでぼくに訊い いう酒、峰乃白梅のロを切った。 横の父が、最高だと言った。・ほくは父の言葉にあわせてあいまい 「高い酒しゃないが、うまいというんで手に入れてもらったんだ。 にうなずいている。 おまえと呑もうと思「てな。本当の門出というわけだ。しつかり あっし 「どう、淳」 彩子はもう一度・ほくにその出来具合を尋ねた。答えなくてはなら 「うん。入社して半年もたって、やっとだよ。会社から無視されて よ、。・ほくの身振りや表情ではには通じないのだ。口に出して言 る気分だった」 わなければならない。 「海の仕事は大変だろう」 「まずくはない」 「実習船とはちがうだろうとは思うけど」 こんな言い方は姉を悲しませるのではないかとぼくは思い 「大丈夫さ。海の男になる。その制服は、三等航海士か」 、と期待し、その自分の冷酷さに感し てほとんど、悲しめば℃ 「三等航海士と同じだけど、実際は次三等なんだ。サードだよ。 た。残酷な快感の予感。 見習いってわけだな」 「最初はだれでもそうさ。どんな仕事でも同じだ。焦ることはな「そう」 姉の彩子は目を伏せた。 みんなそうやって一人前になるんだ」 なにか言おうとしたがきっかけがっかめなか「た。 馬刺しがうまかった。わさびの香りもよく効いていた。鮫皮のお ろし器でおろしたわさびは金臭さがなくて、あざやかな緑の味がす「少し甘すぎたかしらね」 こ 0 242