の霧怪がよりあつまってこちらへのびあがって来ようとしている何百タールもありそうな、この崖からおちて、ふしぶしはいたむ ものの大した怪我もしておらぬのは、谷底にふかふかと雪がつもっ が、マリウスは、それには気づかぬ。 いや、でも、たていたためだった。その雪がクッションの役割を果して、かれらの ( やつばり、死んじゃったのかしら。まさかー ぶん、けがをして、動けないか、それとも気を失ったかしているに生命を救ってくれたのだ。 困ったな。ョッンヘイムのクリームヒルド ちがいない。さてー ( 妙だな ) も心配だし。さあ、どうしたもんか : : : ) グインは首をかしげた。ローキや小人たちは、そのくらいのこと ここぞ頭のつかいどきとばかり、マリウスは谷のふちにすわりこは、予期していなかったのだろうか ? が、ともかくも助かったのだ。それだけで良しとしなくてはなる むと、あれこれと考えをめぐらしはじめた。 まいと、彼は身をおこしてよろよろとイシュトヴァ 1 ンをさがしは じめた。 3 イシュトヴァーンは、グインから二、三百タッドはなれたところ によこたわっていた。顔がなかば雪に埋もれ、手足は氷のように冷 二つの、人影が、谷底の雪の上によこたわっていた。 グインと、イシュトヴァーンである。その、グインの方が、びく「イシトヴァーン。しつかりしろ。イシ、トヴァーン」 グインは、・ とこかひどい怪我をしておらぬかとそっと体じゅうを り、と動いた。そしてもう一度。 さぐってみ、少くとも骨折や、いのちにかかわる怪我はないとみる と、かかえあげて活を入れた。 痛そうなうなり声をあげて、やがて完全に意識をとりもどす。 「ううつ : : : 」 「おう イシュトヴァーンはやがて、うめき声をあげて目をあいたが、グ 同時に、呻くような声がもれた。 インをみるなり、 グインは気がつくなり、反射的に腰に手をやった。剣の無事をた 「ヒィッ」 しかめて、ややほっとする。 悲鳴をあげてとびのぎ、いっぺんに正気に戻ってしまった。 それから改めて、自らのおかれた境遇をはかるようにまわりをく 「な、な、な、なんでえ、グインか。おどろかせやがるぜーーーひえ まなく見回した。 ツ、心臓がちちみあがっちまった。目工さましたら、でけえ獣が、 周囲は高い崖、切り立った崖であった。上がどうなっているか は、下からはまったく見えない。もやもやと分厚い灰色の雲がすっロあいておれののどぶえにくらいっこうとしてるんだもんな。雪ヒ ョウにやられたか、と思っちまったぜ。へつへつへ」 かり視界をさえぎってしまっているからだ。 238
それらとぶつかったらしく、イシ = トヴァーンとおぼしい叫び声 てんでに持った石をばらばらと投げつけ、わめきたてながら小さ がきこえてくる。 な手をのばしてつかみかかってくる。グインがえいとばかり太い腕そのうちに、小人の内のひとりが何か叫んだ。すると、何人かが をふると、たちまち二、三十人がふっとんで壁に叩きつけられる奇妙なことをはじめた。いきなりふところからナワのようなものを が、次のやつらがワアッとむらがり、足によじの・ほり、仲間どうしとり出すと、一人がその端をもち、もう一人がもう一方の端をもっ の肩車や岩にかけの・ほってとびおりて、グインの肩、腕、頭にしがて、ぐるぐるとグインのまわりをかけまわりはじめたのである。 みつき、槍や剣でちくちくと刺しまくる。 「何をする これにはさしもの巨人も閉ロした。なまじあいてが小さいだけはじめ、かれらの意図するところがわからなかったグインだった に、何百匹の蚊にとまられたようなものである。力がよわいので、 ・、、 ( ッと悟ってとびあがろうとしたときには、はやくもナワが彼 ぐっと彼が力を入れれば、剣でもたいしていたでを与えることもでのひざにぐるぐるとまきっきはじめていた。 きないのだが、しかし苛々させられること、おびただしい。 小人どもはキャッキャッと大はしゃぎだ。グインは身をかがめ 一人一人、つかんで叩きつけていては切りがない。グインはぶんて、ナワを切ろうとしたが、丈夫なナワで切れない。足をひきぬく ぶんと手をふりまわし、足をふみならした。剣をぬくほどのゆとりと、次のやつのナワがぐっとしまってくる。 はない。洞窟はせまく、彼が大剣をふりまわす空間はないのだ。も「おのれ、このちびどもめ ! 」 しぬけば、かえってじゃまになるだろう。 グインは剣をぬこうとしたが、いきなりナワの両端をぐっとつよ 「ウォーツ」 くひかれて、たまらずどさりと横ざまに倒れた。たちまちその上に グインは吠えた。すさまじく、その野獣そのものの声が反響す数知れぬ小人どもがならがり、ほとんど彼のすがたをおおいかくし る。小さなアリか、蚊の大群におそわれた巨豹をそのままに、グイてしまった。 ンは身をよじり、小人どもを払いおとし、壁に体ごと叩きつける。 かれらは足のナワを総がかりでひつばり、手といわず首といわ グインにはりついたまま壁に叩きつけられた小人がグインの体とず、やたらにナワをかけてはしめあげた。さしもの勇者もこの勝手 壁のあいだでグシャッとつぶれる。 のちがう敵あいてではとるところがなく、ついに高手小手にいまし あとからあとから、そうする間にも小人どもはふえた。それは無められてしまった。 数にいるかのようにさえ思われた。グインひとりでは、とうてい防「アイララ ! 」 ぎきれず、中にはかなりの数、グインのかたわらや足の間をかけぬ「アイヤャー 小人どもは大喜びで、こんどは何百人がかりでナワをひつばり、 けて、まっしぐらに洞窟の奥へとかけこんでゆく黒小人もいたので ある。 鯨でも陸にひつばりあげるようにグインの巨体をひつばりはしめ っこ 0 225
べィリーがうめいた。「そうとも、今度はおまえだ。確かにわしと、ディーナはそれを握りしめた。 に借りを返してくれたよ、な ? わしがおまえを麻薬から救ってや「放してやろう」ペイリ 1 はかすかな声で言った。「泣いたりした 7 : にせもの衆のあまっこみてえ ら、たたき出しちまってたのにな : ・ り、長年おまえを支えてきたそのお礼を、払ってくれたよ」 「ああ、とつつあん」ディーナはすすり泣いた。「こんなことをすだ : : : わしを殺しておいて : : : 泣きやがる : : : おまえ、わしのこと : : : ドロンーはちがった : ・ : ・」 るつもりはなかったんだよ。あたしはただ、ドロシーを助けようを一度も認めてくれんかった と、あんたを助けようとしただけなんだ。わかっておくれ ! なに「手が冷たくなってきた」ディーナがつぶやいた。 「ディーナ、あの帽子、わしといっしょに埋めてくれ : : : それぐら かできることはない ? 」 「あるともさ。わしの背中と胸に開いたでつかいふたつの穴をふさい、できるだろ : : : おい、ディーナ、ドアの外から、ペー中使いの いでくれ。わしの血が、息が、ほんものの魂が出ていっちまう。天サルが声をかけてきたら、誰に助けてもらうつもりだ ? 誰に・ や 空の長老よ、なんという死にざまだろう ! 気の狂った女に殺られ : ・」 女たちが押しとどめる間もなくべィリーはいきなり起きあがっ ちまうとは ! 」 た。と同時に、すぐ側に雷が落ち、その光で、ペイリーの目が二人 「静かにして」ドロシーは言った。「体力を使っちゃだめよ。ディ ーナ、ガソリン・スタンドまで走っていってよ。まだ開いてるはずをすかし、闇をみつめているのがわかった。 ペイリーはロを開いた。その声は、体に開いた穴から生命が逆も だわ。お医者さんを呼んで」 どりしていったかのように、カのこもったものだった。 がとめた。「手遅れさ。 「行くんじゃねえよ、ディーナ」ペイリー 今んとこ、魂がかろうじて爪先で引っかかってるけどな。もうちつ「天空の長老がわしにすばらしい送別をしてくれとる。稲妻と雷。 とで、そいつを放してやらなきゃならん。魂のやっ、ウサギを追っ功徳だ。長老は安つばいまねはしなさらんな、え ? なぜか ? れがわしの探索の旅の最後だと、知っとりなさるからさ。長老をあ かけるビーグルみてえに、跳んでっちまうだろうよ。 がめる者の最期・・ : : ペイリー一族の最期 : : : 」 ドロシ ドロシー、あんたをそそのかしてこんなことをさせた ペイリー は血で喉をつまらせ、ばたりと倒れると、二度と口を開 のは、邪悪な大地の聖母だったのかね ? あんたに言わなくちゃな んねえことがある : : : 花の下で : : : その方がいいかもしれんが : : こんなわしではな あんとき、わしは神さまみてえな気持だった : ・ くてな : : : きちがいの。ハタ屋のじいさん : : : 路地裏の住人 : : : ちょ っと考えてくれ : : : わしの背後には五万年の年月が : : : アダムとイ ・フよりずっと古い : : : もう、これで : : : 」 ディーナが泣きだした。ペイリーが一本しかない手を持ちあげる
ペイリーはガミイにビールびんを投げつけた。びんは空だった。 だけどなあ、わしにはわからん。この帽子を手に入れてからこの いつばいにしろ半分にしろ、ビ】ルが入っているとすれば、それをかた、なんだって悪い運しかめぐってこないんだろう。こんなはず むだにするほど、酔っていない。しかし、びんが壁にぶつかって割じゃなかったはずなのに。かってのペイリー一族と同じように、幸 れると、ニッケル貨の払い戻し金がばあになったため、ペイリーは 運がもたらされるはずなのになあ」 ガミイを悪意ある浪費家だと責めた。 とつつあんはドロシーをにらみつけた。「あんた、なにか知って 「おまえがおとなしくしてりや、びんは割れずにすんだんだ」 るな ? あんたにあの場所を、あの花を見せるまで、わしは運がよ ふたりのやりとりには、ディーナはなんの注意も払わなかった。 かった。そして、あんときから、わかるな、あんときから、古い 「お会いできてうれしいですよ、あんた。でも、今夜は家にいなすルクみてえに、なにもかも、すつばくなっちまった。あんた、なに った方がよかったかもしれませんよ」 をしたんだ ? なにをして、わしからカを奪っちまったんだ ? わ ディーナは顔を壁に向けて釘で打ちつけられたままになってい しの通り道に天空の長老が置きなすったものを、わしがみつけた る、母親の写真の方を身ぶりで示した。「とつつあんたら、まだ険ら、このわしからカと幸運と生命とを奪うよう、あんた、大地の聖 悪な気分から回復してないんです」 母にさしむけられたのかね ? 」 「そうともさ」ガミイがつぶやいた。「とつつあんは片足の悪い ペイリーは安楽椅子からよろりと立ちあがり、冷蔵庫からビール ゥーランにビストルで撃たれそうになったんだよ。荷造り用の箱のを二本取り出して胸にかかえ、ふらふらとドアの方に向かった。 家に住んでるやっさ。横っちょにジャンセンの水着のポスターを貼「ここの臭いにやがまんできねえ。わしの臭いはといえばだ、魚や ってある家だよ。そいつがほんの冗談で、とつつあんの頭から、ペおめえらの生ぐさい臭いにくらべりや、わしは甘いスミレの花よ。 ィリー王の帽子をひったくろうとしたんだ」 わしは新鮮な空気のあるところに行く。外へ出て、天空の長老と話 「そうだ、ひったくろうとしやがった」とペイリー 「わしは力い し、雷がなんと言っとるか聞く。長老はわしのことをわかってくだ つばい、その手をなぐってやった。すると、あいつ、もう一方の手さる。わしが半分サルの、醜い老人だからといって、悪く思ったり で上着のポケットから銃を取り出し、銃の台尻でわしの目をなぐりしなさらねえ」 つけおった。そんなことでひるむわしかね。わしが仕事に遅れたとすばやくディーナがかけより、やせこけたのらネコが怒ったよう きみてえに、やつに向かっていくと、やつは言ったさ。もう一度手に、・ ヘイリーに爪をたてた。 を触れたら、撃つ、とな。わしのとつつあんは、ばかな息子はひと「やつばり、そうなんだね ! この娘さんをはずかしめるために、 りも育てんかった。で、わしは突っかかるのはやめた。だが、遅かみだらなまねをしたんだね ! この、悪性者のけだものめ ! 」 れ早かれ、いずれ片をつけてやる。やつめ、もし歩くとしても、両とつつあんは足をとめ、ふらふら揺れながら、床の上にビールの 足とも不自由になるんだ。 びんをそっと置いた。そして足を引きずってディーナの母親の写真
ごらんになれば、納得できます。わたし、確信してるんですよ」 「現代的な意味での″侵入者″ということではないよ」と教授は言 「やれやれ、わたしは雲をつかむような追求に溺れるわけにはいか った。「旧石器時代のあいだに、ヨーロッパに入りこんできた新しんのだよ。わたしの時間は貴重なのだ」 い種だか、人種だか、部族だか、とにかく彼らは、小さなグル 1 ゾ そういうことだった。次の日、ドロシ 1 はペイリーに、日歯が抜 であちこちに移住してきたのだろう。移住が完了するのに、千年かけたことがあるか、あるいは歯のレントゲンをとったことがある ら一万年はかかったかもしれない。 か、と尋ねた。 そしてまた、千年間というもの、ネアンデルタレンシスとサビエ 「ねえよ」とペイリーは答えた。「わしの歯は脳みそよかずっと頑 ンスは、たいした争いすらせず、共存していた可能性の方が強い。 丈なんだ。それに、歯を失くしたりするもんかね。わしが帽子を守 どちらも生きていく闘いに懸命だったからね。あるいは、おそらくっているかぎり、わしは歯も、胃袋も、男らしさも、しつかりした 数の問題で、ネアンデルタール人は周囲の人間に吸収されていったものさ。そのうえ、分別だって、なくしやせん。州立病院のねじゅ のかもしれない。一部の人類学者は、ネアンデルタール人が金髪碧るみの直し屋どもは、ひと晩じゅうかかって、わしを徹底的に調べ 眠だったと推測し、その明かるい髪の色は、北部ヨーロッパ人に直おった。あっちへ行かされたりこっちへ行かされたり、昇ったり降 接受け継がれていると考えている。 りたり、出たり入ったり、結局、エレベーターのすぐ脇の寝る部屋 どのように推測、推量しようと、そのように明白な差異のある少には、入れてもらえんかった。で、わしが・ヘつに狂ってるわけじゃ 数派が、五万年という年月にわたって、独特の肉体的文化的特徴をないと証明されたのさ。やつらはてめえの髪をかきむしり、どこか 維持できる可能性は、ない。ペイリーという男は、自分の異常な醜まちがってるにちがいないとわめいとったが。特に、わしの帽子の さ、劣等性、疎外感を埋め合わせるために、自分にだけ通じる神話ことでひと悶着あったあとはな。わしは検査用の血を採らせなかっ をでっちあげたのだ。神話の素となっているのは、漫画本やテレビ た。やつらはわしの血に水を混・せーー・グ日ャガの魔法だ , ーー血を水 からの知識だろう。 に変えてしまうんじゃないかと思ったからだ。身体検査で服をぬい しかし、きみの若さゆえの熱意と純真さという点を考えると、きだときも、帽子をぬぐ気はなかったんで、帽子をかぶったままでい みがその男のネアンデルタール人的肉体的特徴を、証拠として持ったら、あのエルキンズのやつが目ざとくみつけやがって、ひったく てくれば、わたしも判断を再考してみる気はある。たとえば、そのったんだ。だもんで、わしは降参よ。帽子を奪われるということ ばぎゅうし は、魂を奪われることだ。すべてのペイリーは、帽子の中に魂をこ 男に牡牛歯があることを証明してみせれば、控え目に言っても、わ たしはびつくり仰天するだろうな」 めておる。わしは帽子を取り返さなきゃならなかった。だから、し 「でも、教授」ドロシーは訴えるように言った。「なぜご自分で直かたなく屈辱をがまんした。体じゅう、突っつかれ、いじくりまわ 接に調べてごらんにならないんですか ? とつつあんの足をひと目されるに任せたし、血も採らせた」
妖怪は、無数といってもよいくらいの数にふえ、じわじわと音もなちてきた。グインは数回それをひつばって、安全をたしかめると、 く、グインにむかってすり寄って来つつあったのである。 思いきってナワに全体重をかける。 ( お前は、何だ ? ) とたんにナワがいやな音をたててきしんだ。そして グインはロでなく、思念でそう力いつばい念じてみた。しかし、 ( 行くな ) ( 行くな ) ( 行くな ) っそうつよく、さきほどのぶきみな思い ( 行ってしまう ) ( 行ってしまう ) 反応はなかった。ただ、い あやしいざわめきがおこった ! が、彼をうった。 白魔がのろのろと、のつべらぼうの顔に何やら妙に人恋しげなよ うすをただよわせて、近づいてくる ! ( 欲しい ) ( ほんとうのからだが ) ( ほんとうの目鼻が ) さしものグインも恐怖にかられて必死にナワをたぐり、巨体をも ちあげて、崖を這いの・ほる。 「お前たちは何だ。なぜ、そのようなすがたをしている。俺のいうその足に ことがわかるか」 ふうわりと、白魔の一群がとりすがったー とたん、グインは全身を硬ばらせた。 もういちど、グインはこんどはロに出して語りかけてみた。その ときには、じわじわと寄ってくる怪物は、ほとんどグインから二十白魔がふれたところから、冷気、とも寒気ともっかぬものが忍び こんできた。 タッドとないところへまで近づいていた。 それでもなお、グインは剣をふるおうとしなかった。というよりそれはゆっくりと脳を麻痺させ、同時にグインの手足の中に入っ も、万が一にも、剣をふるうことで、せつかくいまのところ政撃的てきた。そうとでもしか云いようのない、異様な感触であった。細 なふるまいには出ていない、この怪魔どもを刺激し、おそいかから胞の一つ一つにまで、何か触手が這いこみ、まさぐる、そんな気が した。 れる結果を招くのを、おそれたのである。 が、さしものグインにとっても、実のところ、じりじり、そわり ( 目だ ) ( 目だ ) ( 目だ ) ( 鼻 ) ( 鼻 ) ぞわりとすりよってくるこのえたいのしれぬ化け物どもに対して、 そうして冷静に待っているには、、 しつもの数倍の自制心が必要だっ ( 手足ーー手足 ) おそろしく長い、長い時間がたったように思われたあとーー・・よう グインのからだはしびれた。手足から、カがぬけてゆき、何とも やく、上からマリウスが叫び、同時にパサリと音をたててナワがお しいようのない気味のわるい、生きながら体の中をのそかれ、つつ こ 0 2
一瞬、間をおき、ペイリーとつつあんは深い息をつくと、次のこが雇った剥製師は、ひどく好奇心を燃やした。しかしドロシーは、 とばのロケットを発射する力をたくわえた。そのあいだに、ふと思これはシカゴの文化人類学会の展示に使うもので、男根崇拝の秘儀 いついたことをドロシーがロにした。「帽子といえば、青二才王のを行なう、インディアンの秘密結社の呪い師が使う頭飾りに相当す 娘がペイリー王から盗んだという帽子よ、、 ーしったいどんな形なの ? るものなのだ、と説明した。剥製師はしのび笑いをもらしながら、 とつつあんが見たら、それだとわかる ? 」 そういう儀式が見られるのなら、自分の大歯をやろうと言った。 ペイリ 1 は一瞬、青い目をいつばいにみひらき、ドロシーをみつ このもくろみに好都合だったのは、ドロシーが同行すると、路地 めた。そして、がなりたてた。 のゴミ集めに幸運がつづくことだった。ペイリーは大喜びで、自分 「わしにわかるかだと ? 線路の側にすわっている犬が、機関車にはなにか特別の発見をするためにさしむけられているのだと断言し た。いよいよ運が向いてきたのらしい 尻尾をちょんぎられたら、それがてめえのもんだとわかるだろう ? もしあんたが誰かにナイフで腹を刺され、心臓がどきんと打ったび「大あたりさね」ペイリーはまばらにはえている墓石のように大き に血が噴き出せば、それはあんたの血だとわかるだろう ? そうとな歯をむきだし、にやにや笑った。「稲妻みてえなもんだ」 も、わしにはペイリー王の帽子だとわかるさ ! ペイリー一族の者二日後、ドロシーはいつもより早く起き、著名な医師の家の裏ま はみんな、おふくろの膝で、ことこまかに話して聞かされてるんで車を走らせた。新聞の社交欄で、医師の一家がアラスカに休暇旅 だ。あんた、帽子のことを聞きたいんだな ? ま、もうちっとがま行に出ているという記事を読んでいた。そのため、ドロシーはその んするこった。そうしたら、徴に人り細にわたって話してやろう」家のゴミ罐が、ゴミや、着古した衣類の詰まったダンポールで、い つばいになっているとしても、あやしまれるおそれはないと考えた ドロシーは一度ならず、こういうまねはすべきではないと、自分のだ。ドロシーは家の中に人がいると見せかけるために、自分のア ートから生ゴミを持ってきていた。古い衣服は、一点をのそけ に言い聞かせた。もしペイリーに信頼されているとしても、ある意 味で自分はにせの友なのだ。しかしまたある意味では、とつつあんば、救世軍で買ってきたものばかりだった。 その朝九時、ドロシーはとつつあんと予定のルートに従い、路地 を助けているのだと、自分を元気づけた。帽子をみつけることがで きれば、とつつあんは自分をゴミの山や、路地や、大を恐れるこをトラックで走っていた。 とや、劣等で抑圧された市民だという意識に縛りつけている、さま先にとつつあんがトラックから降りた。ドロシーはわざと遅れて ざまなタ・フーからのがれ、自由になれるかもしれない。そのうえ、降り、発見の報を待った。 それはとつつあんの反応を記録するというドロシーの科学上の研究とつつあんは一枚ずつ、箱から衣服を取りだしていく。 に、大いに役に立つだろう。 「ほれ、ディーナが着られるようなベルペットの服がある。あい 5 必要な材料を集め、それを望みの形に造らせるために、ドロシー つ、長いこと新しい服が手に入らないと、ぶつぶつ言っとったから
「上はマリウス一人だ。俺をひつばりあげるのは不可能ーーーお前と「何でえ、おおかた、そんなこったろうとは思ってたがーー・じゃ礼 をいうのは、おめえにじゃねえ、この岩ってわけだ」 二人なら、何とかなるかもしれん」 「わかったよ。うへえツ、おれの生命があのオカマ野郎の細腕ひと「あんたと心中なんてふるふるごめんだものな。さあ、グインを助 けなきや。手伝ってよ、イシュトヴァーン」 つにかかってるのか」 うめいてドライドンの印を切るや、イシ = トヴァーンはナワに身マリウスはナワをまた崖下へ放った。 、 ? イシュトヴァーンはぶじついた。こんど をゆだね、数回カまかせにひつばって見、それからおっかなびつく「グイン は、あんたの番だよ ! 」 りでナワをたぐって、それに身を支えつつ氷の崖を上りはじめた。 谷底から、ききなれた声でいらえがあり、ふいに、岩がぐらりと 一足ごとに剣で足場をつくっての荒業である。しかも、グインよ りははるかに軽いとしたところで、イシトヴァーンの方がマリウうごいた。わっといってマリウスはとびつく。 スよりずっと重いのだ。マリウスのほそうでが、どこまでもちこた「うわっ、やつばりグインの体重はケタがちがうんだ。おい、イシ ュトヴァーン、手伝ってくれよ」 えられるか、イシュトヴァーンならずとも肝の冷える綱渡りであっ こ 0 「しようがねえな」 「ドライドンよ、イミー ルよ、モスよ、ヤヌスよ、ヤーンよ、サリ イシュトヴァーンはいやいやマリウスの腰をつかむ。マリウスは 必死になって岩をおさえている。 アよ、イラナよ、ルアーよ ! 」 ナワがはりつめて、途方もない重量にきしんだ。 ありったけの神々の名をわめきつつ、イシュトヴァーンは必死に の・ほった。どのくらいの時間そうしていたのか、中途でふっと灰色「グイン ! 」 とうに マリウスのひたいにじっとりと汗がにじみ出、かれは喘いだ。 のもやにつつみこまれたときは心臓のとまる思いをしたが、・ かそこもぬけ出して、手が崖のてつべんにかかったときは、さしも「グイン、ぶじかい ? 早く、上ってきてくれ。でないと、ナワが の天性の冒険児も、頭が白くなる心地だった。 切れちまいそうなんだ ! 」 「ああ、イシュトヴァーン、ぶじなの ? 」 ナワよりも、岩の方がさきにヘし折られてしまいそうに、氷の根 、こよミシ、ミシといやな音を立てている。 「ううつ、マリ公、おらあおめえが嫌いだが、今回ばかりはほめてカナ冫 やるぜーーよくそもちこたえてくれたな。おらあ、その細うでに、 おれひとり支えきる力があろうとは、てんからーー・ん ? 」 イシュトヴァ 1 ンは、マリウスがベルトやサッシュをしつかりつ なぎあわせてつくったナワが、崖の上の岩にかたく結びつけてある のを見て、ペッと唾を吐いた。 4 5 いっ・ほう、谷底のグインは、イシュトヴァーンがどうやら上って 4 ゆくのを見とどけると、改めて白い妖怪の方へ向き直った。すでに
「やめてよ ! 」ディーナは吐き出すように言った。「その娘さん、 うしゃないかね ? 見なせえ ! 満月に向かって、煙が上がってい 上品で頭のいいひとにきまってる。とつつあんのことなんか、サル く。まるで腐りきった人間の幽霊みたいに、死んでも魂が害毒を運 の一種としか見やしないわよ」 んでいくんだ。なあ、じようちゃんや、おまえさんはこのとつつあ 「あんた、サルにくわしいんだ」ガミイは大昔の冷蔵庫から、冷たんが、害毒なんて仰々しいことばを知っとるとは、これつ。ほっちも いビールの一クオートびんを取り出した。 思わんかったろ ? 市のゴミ捨て場で暮らしてると、みんなこうな ビールを六クオート飲んでしまった頃になっても、とつつあんは るのさ。わしはおえらいさんたちから、そういうことばをしよっち まだ帰ってこなかった。魚は冷えて脂が固まってきたし、空には七ゅう聞いとるよ。おえらいさんたちゃ、臭くてたまらん市庁舎から 月の大きな月が昇った。ひょろりとやせた薄汚れた白いのらネコ逃げたい一心で、ここの臭気を検分に来るんだ。わしは無学文盲じ が、裏庭の柵の上で神経を尖らせているように、ディーナは掘っ立やねえよ。テレビだって持ってんだから。ヒャツ、ヒャツ、ヒャッ て小屋の中をうろうろと歩きまわった。木枠で作ったべンチにすわ く小屋の中の女たちは、とつつあんが膝を しばらく静寂がつづ っているガミイは、背中を丸くしてビールを飲んでいる。やがてガつき、上体をそらして空を見あげていると、見当がついた。 いっかあ ミイはよろよろと立ちあがり、おん・ほろテレビのスイッチを入れ「ああ、うるわしの美しい月よ、天空の長老の花嫁よー た。だが、遠くでがたのきたエンジンがなさけない音をたてているる日、ラム・ア・ダム・ア・ダム、誓って、いっかある日、天空の のを聞きつけると、テレビを消した。 長老のご婦人よ、もしあんたがわしに手を貸して、わしやご先祖さ 咳こみ破裂しそうなエンジンの音は、ドアの外で吠えるような音んたちが五万年ものあいだ探しつづけてきた、もう長いことなくな に変わった。古ぼけ、錆びついたロポットが、両側肺炎にかかった 鉄の肺で咳をするように、エンジンは一発、すさまじい排気音をあ げた。そして、静かになった。 フェア開催 ! それも長くはつづかなかった。身をすくめ、不安そうに耳をすま していたふたりの女は、遠くでごろごろ鳴る雷のような声を聞いた。 『は今イマジネーション』 「気楽にしなせえ」 この夏、にチャレンジ それに対し、眠そうな、低い声。 「ここ : : どこ ? 」 期間昭和五十九年七月十九日 ~ 八月三十日 雷のような声。「家でさ。楽しきわが家。頭を休めるところ」 場所紀伊國屋書店梅田店 ( 阪急三番街 ) 「ゴミ焼き場の煙のせいでさ。まったく、ウジ虫だってゲロ吐きそ 3 3
ここはひとっ やるつきゃないい 不良少女で 悪かったわ , わっこわいっ、 0 ててもここて新」可た ? 職にまた あぶれるし : 変な声が 聞こえるぞ 第テキストの ページから はしめます っ何カ″ 入おな な奴 ひきうけた 2 ・サ ~ ' ( ) ガらには 先生ペー なんとか ぜーんぜん 世サワド てきるたけ やってみるさクッ第 集めた塾で こんな高等な むりだせ ア本こ ホ当い たのっ ロ 3