弟の絆は血の絆だ。兄弟は、互いに復讐の誓いを交わしている。シ ニッキーは、そっと立ち上がり、身を低くして、現場に背を向け コロフの一党を密告した奴、法延に引きずり出した奴、殺した奴はた。 三十秒後、家のほうから、かん高い女の悲鳴が、風に運ばれて来 白い手に続いて、やはり白っぽい頭が見えた。″真犯人″の白髪た。 ニッキー・シコロフは、悲しみは感じなかった。あの男は、責任 ニッキーは、のんびりと、人差し指をトリガーにのせた。 を果たし、その報いを受けた。それだけのことなのだ。それがいや 黒い矩形が急に縮まり、白い頭が中にひっこんだ。 なら、責任を分担すべきではない。 ニッキーの殺し屋としての理性が、彼の肉体に、「落ち着け」と 例え、五十億分の一の責任であろうと。 命じる。 ニッキーはただ、早いところコーヒーにありつきたいと思った。 急な電話か、忘れ物か、家族に言いつけることでも思い出したの 2 ) わ、つ 0 「ネットワーク投票システムの基礎となる、第二の歴史的制度は、 案の定、ドアは、閉まりきらないうちに、再び大きく開いた。ニ十七 ~ 二十世紀の、各国の銃殺隊に由来するものである。 ッキーは、銃身をシュミツツの頭に向け直し、固定した。 当時、死刑の執行は、政府によって任命された専門家がこれにあ あの男は、もう、死んでいる。ニッキーの銃ロは、彼がたおれるたるのが常であった。 ついて、はなれはしない。 まで、標的にくい 例外的と言えるのが、緊急事態下、軍隊あるいはそれに類似する まだ、首を家の方へむけて何ごとか叫びながら、シュミツツはポ組織における、即決裁判の結果としての、手軽な処刑方式、即ち、 ーチの階段を降り始めた。まだ、まだだ。花壇のところで、奴は必数名の射手による銃殺である。 ず立ちどまる。その時が、一番当てやすい。スコープの中で、シュ しかしながら、もともと職業的な処刑人ではない兵士たちにとっ ミツツの派手なチェックのポロシャツが踊っていた。 て、かっての同僚、戦友を自らの手にかけることは、相当な心理的 あと二秒、一秒 圧迫をともなった。 冷静に、何の感情もこめず、ニッキーは引金をしぼった。 そこで、各地で、射手たちの持っ銃の弾丸を、あらかじめ抜いて 色彩のない、 目に見えぬ光が、百万分の一秒で、三百五十メートおくという方式が行われはじめた。 ルの距離をはしった。 銃殺にあたるのが八人の射手だとして、六丁ないし七丁の銃に アイビースに押しあてたニッキーの目に、両眼の間を撃ち抜かは、空弾を装填しておくのである。無論、射手たちは、どの銃に実 れ、レーザーで脳を焼かれた男が、舞うように倒れて行くのがうつ弾がこめられているのか、知らされることはない。結果として、轟 る。 然たる銃声とともに、死刑囚がたおれたとしても、誰の銃弾が彼を る 2
ー・シコロフは、交換局にしかけた発信器からの。ハルス ・シコロフに殺されたんだ。ビンチョン、もういいそ。つながりは を、高速光学レコーダに記録した。記録できたのは百通話前後。今 わかった。報復だ。ロイーー」 回の目的には、それで充分だ。一人か、二人の社会保険ナン・ハ 手に入れば、それでいし 「あと、どのくらいだ」 ニッキ 1 は、レコーダを動かし、情報を引き出しにかかった 「三分足らずですな。投票がさつぎのペースで進んでいるとする 天皿に置いたマリファナが、一本灰になる前に、十人の番号が手 ニッキーは、レコ イエス″と答えた十人の連中 スキツ。フ警部は、カンガルーもかくやというストライドで、情報に入った。″ 】ダの出力端子を、汚れたデスクの上のユニコムにつないだ。 端末にとびついた。 これでよし。あとは、ナイハーを選び出すだけだ。短くなったマ 「どうする気です ? 」 狂ったようにキイボードを操作し始めた警部に、。ヒンチョンが説リファナが天皿からころげ落ち、くすんだ灰色のデスクの上で消え るのを、ニッキーは冷たい目でながめた。 「どうする ? 決まってるだろう。投票を延期させるんだ。さもな こんなものだ。何だって、これと同じだ。 いと、また一人、ライフルで殺られることになる」 ニッキーは、中央データ・ハンクを呼び出し、住所・氏名の照会を ロイ・ミラーは、ものうげに日本製のフィルム・デジタルをのそ始めた。社会保険番号は、別に秘密でも何でもない。個人の暗唱コ ードに用はなかった。ニッキーは金を引き出そうとしている訳では いた。こいつはひどい。ひどすぎる。シコロフ兄弟は、仲間がアゲ られた責任を、端末のキイをたたいただけの男に負わせたのだ。そない。彼が欲しいのは、住所と名前だけだ。 の男のキイが、厳密に言えばシーグの訴追を決定したのだという訳実に単純だ。この単純さこそ、シーグの仇をうっと同時に、ニッ で。 キーの命を救うものなのだ。 命と、そして自由。二つは、一緒でなければ意味がない。 ニッキー・シコロフは、ターミナルの表示部にずらりと並んだ、 「ネットワーク投票システムは、民主々義の最も困難な課題ーーー司 法への国民の参画という課題に対すゑ一つの究極的な回答と言う銀色の数字とアルファベットの列をながめると、にんまり笑った。 シーグを殺した奴ら ことができる。言うまでもなく、真の民主々義の実現には、立法 府、行政府に対する、国民の積極的介入に加えて、司法権への参与右手をデスクの抽斗につつこみ、折りたたんだ武器をとり出す。 ニッキ 1 ・シコロフは、仕事の前に、必す道具の手入れをするの ということが、不可欠になって来るのだ」 ライツ・。フレントン ( 前掲書 ) と」 7
スコー。フの視野いつばいに、白いドアがうつった。ステンレスの 「現在の司法制度をささえるネットワーク投票システムは、実は、 ドアノブが、十字線のあたりを、ふらふらと揺れ動いている。 全くその起源を異にする二つの歴史的制度を基にしている。 ニッキー・シコロフが、 トリガーに触れると、銃身に装着してあ 一つは、十八 ~ 二十世紀英米法の陪審制度である。当事者主義の 法廷において、被告側と原告側のシンポルである弁護士並びに検事る二重ジャイロが作動して、ライフルは急に倍も重くなったように が対決劇を演じてみせ、解説者として位置づけられる″判事″が、 感じられる。白っ。ほく光るドアノゾは、視界中央でびたりと静止し この勝負にコメントを加える。 ニッキーは、かすかな笑い声をもらすと、指をトリガーから離し 最終的な決定は、無作為に抽出された自由な観衆たる陪審団が、 た。完璧た。窓を狙うのもいいが、今回は確実を期したい。思わぬ 他から影響されない判断力をもって下すのである。 起訴、不起訴の判断、あるいは行刑の判断は、善良なる一般市民反射に足をすくわれたり、人違いをしたりするのは願い下げだ。ニ の、妥当性に関するなかば無意識の見解にかかっていた。陪審団ッキー・シコロフの復讐は、きれいで、スマートで、的確なもので は、判断の筋道とその根拠となる事実を開示する必要はなく、最終なければならない。 標は、間もなく、庭の手入れのために出て来る。それまでの時 的な結論のみを告げるにとどめたーー」 ライツ・。フレントン著 " 訴訟手続法ーー手段としての正間を惜しむほど、事態は切迫してはいない。 ニッキー・シコロフは、待った。 義″ ニッキーと、彼の & ・スティンガーは、間もなく報いられた。 二〇六七年刊 頑丈なスティールのドアが、スコー。フの中で、ゆっくりと開き始 = ッキーは待っていた。彼の両手には、重い、・スティンめた。ドアと、框に仕切られた黒い矩形が、次第に大きくなる。 最初に見えたのは、いやに白っぽい手首だった。その手が、ドア ・レ 1 ザーライフルが握られている。昼夜両用の、電子サポー タ付スコープは、五百メートル先の標的も、十字線の中央にくつきの内側のノ・フをつかんでいる。 くら白く見えて ワルタ 1 ・・シュミツッという男の手だ。い りととらえることができる。直線を描いて進むレーザーは、弾着占 を調整する必要もなく、反動も全くない。遠距離射撃には理想的なも、その手は、シーグの血で汚れている。この男が、シーグを殺し 武器だ。 た第一の男なのだ。ニッキー・シコロフは、自分が既にシーグを死 ニッキ 1 は、ストリング・プラスティックのグリツ。フを握り、ス人と考えていることに、皮肉な満足を覚えた。 ワルター・・シュミツツ シーグを殺そうとしている五十億 コーゾをのそいた。無反動銃には、銃床は不要だ。ニッキーが腹ば いになっているのも、単に人目につかないようにという配慮による人のうちのひとり。古典的な意味で、シーグを法延に追いやった男。 この男だ。そして、シコロフ兄 ″真犯人〃は判事殿などではない。 もので、姿勢を安定させるのが目的ではない。
「そろそろだな」 「何だ ? 」 スキツ。フ警部の唇には、楽しそうな徴笑がはりついていた。 ィアホンに聴き入る警部の顔に、笑みが広がる。通話スイッチを ″フラウス″の部屋にいる、ロイと。ヒンチョ ネットワーク投票は、機械の故障を理由に丸二日、延期され、今切ると、スキツ。フは、 朝、再開された。 ンにうなずいてみせた。 その間に、当局は、空港と・ハスターミナルで、貴重な情報をつか「よし、かかったそ。三・フロック東に、ニッキーが現れた。徒歩 んでいた。 で、小ぶりのアタッシェケースを持っている」 ニッキー・シコロフは、今、このクレアポイント市にいる。しか「しかし警部」 も、法務省の集計センターから、伝票なしで修理に現われた ロイ・ミラーがアゴをなでた。 社員に関する報告も入っている。 「やつだって、くさいと思うんじゃないですかね。何せ、ここはー 賛成票は、今にも、ポーダーラインの四十パーセントに達しよう としている。最後の社会保険ナイ、 、 , ーが、ターミナルを通過した「一〇二分署の筋向かいです」 時、ニッキー・シコロフは行動を起こすだろう。次の標的が、今、 と、。ヒンチョンが割り込む。 自分と同じ市にいるという幸運にほくそ笑みながら 「奴さんには、どうしようもあるまい ? 来るさ。奴はきっとく しかし、社会保険ナイ ( ー三四一二五、フラウス・カリテる。多分、あのビルから狙撃して来るだろう」 イスという男は、この世には存在しない。 警部は、通りをへだてたストロン・ビルを指さした。 このマンションで待っているのは、三十人の警官隊だけだ。今度三人は、なるべく窓から離れて、下の通りを見下ろした。七階の ばかりは、シコロフ兄弟が泣きを見る番だ。 高さで、そういった努力は、不可能に近い 「十一時二十七分です」 窓際の壁にはりついた。ヒンチョンが、最初にニッキーを見つけ 。ヒンチョンが、静かな声で告げる。 た。茶色のセットイン・スーツにアタッシェケース 。非宅勤務のセ 今、フラウス・カリティス氏のナノ・、 ルスマンといった感じだ。 ったのだ。 「よしよし、 - ささ、一」っちへ来るんだ」 「よし、気をひきしめてかかれよ」 スキップが薄気味の悪い声を出す。 カリティス氏の次のナンーで、シーグ・シコロフはフライにな スキツ。フ警部の予感は外れた。 った。仇をうとうとしたら、今度はニッキーがフライになる。 スーツ姿のニッキーは、一〇二分署のあるビルの前で立ちどまっ 十五分後、スキツ。フのトランスミッターが、ビーツという音を立こ。 てた。 「どうする気だ ? 」 、ノーカ、ターミナルを流れ下
0 0 0 0 3 ニッキー・シコロフは、二度も同じ手を使うほ ど馬鹿ではなかった。 ()n のサービスマンにな りすまして、集計回線に手を加えるのは、一度限 りだ。既に当局が動き出している今、集計機に盗 聴器をとりつけることは不可能と思ったほうがい 。やや均整を欠くが、次善の策で行くより仕方 あるまい。 法務省には、金でやとったおとりを送り出して 早おいた。とつつかまえるか泳がせるかは、奴らの 好みのままた。 ニッキーは、クレアポイント市内のマンション 一階を借りた。一階は、ネットワーク集合情報回 線のターミナルが設置してある地下室に最も近 。法務省の回線集計センターより、はるかに危 AAAAA 険は少なく、当面の目的にと「ては充分だ。 ニッキー・シコロフは、目立たないグレイのト レ 1 ニング・ウェアを着て、地下室へ降りるステ イ 1 ル・ドアにすべり込んだ。職業的犯罪者にと って、この手の電子錠など、子供だましに等し 彼はこれから、次の標的の選別にかかるのだ。 ーワルタ ー . シュミツツの時よりも、はるかに易し い作業となるたろう。 「警部、えらいことです ! 」 低速ドアを、もどかしけに両手で引きあけて、 ダーゲット 5
スキツ。フはひどく年とってみえる、とビンチョンは思った。 ・ヒンチョンが、神経質そうに眉を寄せて、つぶやく = ッキー・シコロフは、二度ほど上階を見上げて、一〇二分署に「奴は考えていたんた。四十・ ( ーセントのラインなど関係ない。い っ投票しようと、賛成票を投じた者は、シーグを殺した二十億人の 入って行った。″カリティス氏〃のマンションには、目もくれない。 ひとりであることに、かわりはないんだ。奴は、そのうちから一人 「何てやつだ」 スキツ・フは、たまげた顔つきで、部屋を横切り、間に合わせのコを選んで、責任をとらせた。誰でもよかったんだ」 「そんな。ーー」 ヒー・テー・フルに腰かけた。 「確かに、無茶だ。しかし、連中の考え方には合う。一つの命には 「確かに、あのビルからでも狙える」 一つの命を。死には死をもって報いる」 ロイ・ミラーが、ゆっくりと顔を拭った。 「しかしーー」 「それにしてもーーー」 ビンチョンが、警部の横に腰をおろしながら、質問した。 。ヒンチョンが言いかけた時、コミ 「どうして自首など ? 」 が、思わず立ち上がる。 「安全だからだよ。警官に射殺される心配もない。奴は法の保護下 「おれだ」 ィアホンをかけたスキップ警部の顔から、見る見るうちに血の気におかれている」 ロイ・ミラーが、けげんな顔でスキツ。フを見た。 、刀コし / 「わからんか ? ニッキーは安全なんだ。ロイ、おまえやおれと同 「馬鹿な いや、わかった」 スキップは、イアホンを乱暴にむしりと「た。。ヒンチ , ンと卩イじくらい安全なんたそ。シ「ロフ兄弟は、まだ二人残っている」 ロイの顔に、理解と怒りの色が広がった。彼は完全に理解したの が、警部を見つめる。 ! 」 0 「ニッキー・シコロフが、自首したーーー・」 「ちくしよう。くそったれのニッキーめ」 警部は、のろのろと床にへたりこんだ。 スキツ。フ警部は、。ヒンチョン刑事に、こわばった笑顔を向けた。 「何ですって」 「ここではなく、別のマンションで、女をひとり殺して、自首してそれから彼は、ふるえる指で、煙草に火をつけた。 「シコロフの復讐のやり方がわかった今、誰も、ニッキーの起訴 来たんだ」 や、処刑に投票する者はいない。誰ひとり、責任を分担しようとは 「人違いか、何てこった」 しないだろう」 と、ロイが叫んだ。 スキツ。フは、放射ライターを床にほうり出した。 「やつめ、ナン・ハーを読み違えたんだ」 「責任ーーー例え、五十億分の一の責任たとしても、な」 「そうじゃない」 ュニケーターが鳴った。警部
言葉を途中で切ると、ロイ・ミラーは、目を伏せた。シコロフ兄 殺したのか知るすべはなく、射手たちの心理的負担も、それだけや 弟の残る三人の居所がわかれば、シコロフ特捜班はこんなところ わらげられるというわけである。 で、みのりのない書類仕事に甘んじてはいない。 この素朴な方式は、二十世紀の絞首刑の執行にもひきつがれた。 囚人の首に縄がかけられると、三人の執行官たちは、それそれ自分スキップも、部下を叱りつけることの無意味さを悟り、ロを閉じ の前に置かれたボタンを、同時に押す。三つのボタンのうちひとった。奴らの立ち回り先がわからなければ、動きようがない。それだ が、ひとつだけが、囚人の足許の、死刑台の床を開くメカ = ズムにけのことなのだ。別に、部下たちが手を抜いている訳ではない。警 部は、時計を見ないようにつとめて、体の力を抜いた。 つながっているというしくみであった。 さて、言うまでもなく、わがネットワーク投票システムは、これそれにしても、シ 1 グ・シコロフの処刑を前にして、奴らが手を こまねいているとは、信じられない。報復は、奴らの第一の掟なの らの原始的な制度を、さらに改良、洗練したものであってーーー」 だ。だが、どう動くか ? これまでの例とは違って、シ 1 グを密告 ライツ・。フレントン ( 前掲書 ) した女は、正真正銘の事故で。ほっくり行っちまった。 「警部ーー」 しつだ」 「やつの処刑は、、 ードコビーを片手に、声をかけた。 スキップ警部は、明らかにいらいらしていた。今日になって、彼ビンチョンが、地方紙のハ 「ニッキー・シコロフのファイルを貸してくれませんか ? 」 が同じ質問を発するのは、もうこれで八回目にもなる。 「ファイルを出すまでもない」 「あと二十分ほどですよ」 スキップ警部は、唇にはさんだ煙草の後ろから、不機嫌な声をも ビンチョン刑事が、時計を見もせずに答えた。 らした。 「何か報告はないのか ? 」 「ニコライ・ニコラウス・シコロフ。二〇五一年一月十日、第二の 「報告 ? 」 シチリアと呼ばれる、北海のフリクサン人工島北部に生まれる。通 ロイ・ミラー刑事が、机の上に雑然と散らばる、電子新聞のシー 称、ニック、ニッキー、アイスビック・シコロフ、ドライアイス・ トの山から、馬鹿にしたような顔を上げた。 ニッキー、金髪、瞳は・フル 1 、身長六フィ 1 ト二インチ、体重百八 「何の報告です ? クレイ・シコロフがヒマラヤにいるという報告 が二件、 = ッキー・シコロフが月面にいるという報告が一件、あり十二ポンド。主たる職業、殺人請負ーー・・」 ますがね。あとは、フラップ・シコロフが土星あたりにいるという「武器は ? 奴は何を使うんです ? 」 エレクト 「好きな得物は、長射程のレ 1 ザー・ライフル。コルト・ 報告を待つばかりだ。こういったヨタが入り用でしたらーー・」 ロ・ハッファロー二〇、 ()0 ・スティンガー、二一四五など 6 「たわ言はたくさんだ。やつらはどこにいるんた ? 」 の単発モテルを好む。ただし、通常反射板は用いず、直接射撃に限 「それがわかったらーー」
小柄でハンサムな刑事が駆けこんで来た。 スキツ。フ警部は、ひっくり返った灰皿を、。フラスフォームの床に 「何だ ? 」 はらい落とした。 一瞬、ビンチョンが戻って来たのかと思って立ち上がりかけたス ロドリゲスが話を続ける。 キップ警部は、ロドリゲスの浅黒い顔を見ると、再びずるずると椅「最後の回答者もわかりましたーー」 子の中に落ちこんだ。 「最後の回答者 ? 」 「警部、法務省のコンビュータが盗聴されていたのを御存知です ロイ・ミラーが眉を上げた。 「秤の針を押し上げた男ですよ。三十九・九九九九パーセントか イン・ロドリゲスは、一「三のデスクにつきあたりながら、スキら、四十パーセントへの橋わたしをした人間。決定的瞬間に、賛成 ップの所まで突進した。 投票をした男ーー言うなれば、シーグの起訴を決めた一本の藁で 無論、スキップはそんなことは御存知ではなかった。 「集計機に、データ送信器がとりつけられていたんです。一週間前 「そうか , ーー勿論、そうに違いない」 ちょうど、シーグの起訴投票があった頃に、です」 スキップ警部は、ひとりうなすいた。 今度こそ、スキツ。フ警部は立ち上がった。 ロドリゲスが、いよいよ運命の男の名を告げようとした時、。ヒン 「何だと ? それが、今になってわかったのか ? 」 チョン刑事が、薄いファイルを小わきにかかえて、しめつぼいオフ 「情報五課が、この件を極秘扱いに イスにとびこんで来た。 「馬鹿が ! 」 ・シュミツツのどこをたたいて 「お手あげですよ、警部。ワルター スキツ。フは、こぶしでデスクをたたいた。派手な金属音とともも、シコロフとのつながりなんか出て来ません。十いくつの情報タ に、銅の灰皿がひっくり返る。 ナルとアクセスしましたが、全くわからんのです。こいつはー 「けちなマスコミ・ ス。 ( イが、そこまでするものか。シコロフの奴ー」 らだ ! 」 べらべらしゃべりながら入って来た。ヒンチョンは、彼の横で、あ 「あたしも、そう思いました。で、情報源に確認してみたところがんぐりと口を開いているロドリゲスに気づいて、言葉をとめた。 「どうかしたんですか ? 」 ロイ・ミラーは、皮肉な目付でロドリゲスを見やった。ニュース 「おまえ、どこからその、ワルターの名前を拾い出した ? 」 ・ソースは、例によって、不器量な女秘書か何かだろう。 「名前 ? 」 「盗聴されたのは、投票時のネットワーク回線、しかも、シーグの スキップは、煙草に火をつけた。 起訴承認回答がちょうど四十パーセントに達する前後の時間です」 「ロドリゲス、シーグを起訴した一本の藁はな、三日前にニッキー 6
それがどうかしたか ? 」 ある。一つは、起訴決定機能である。重罪犯の起訴決定にあたり、 事実上、全国民が、家庭用端末のキイをたたくことによって、その 。ヒンチョンは、手にした感熱シートを振りかざした。 「ニュージーランドで、男がひとり、殺されています。レーザー 。フロセスに参画する。法務省のコンビュ 1 タが結果を集計し、投票 ライフルの一撃で、眉間をどんびしやり。現場の状況から見て、四権者の四十パーセントの賛同が得られた時点で、起訴を決定するの 百ャード近い距離から狙撃されたらしい。地元の警察じゃ、誰がやである。 ったか見当もっかないと。殺されたのは、ワルター 第二の機能は、行刑確定機能である。法廷の第一次判決により、 四十九歳、ギャングとのつながりはなく , ーー」 行刑が定まると、やはりネットワーク・システムにより、全国民の 情報化社会とはこんなものだ、と、スキツ。フ警部は思った。全国評決にかけられることになる。 の警察組織に送った回状の答えより、マスコミのほうが早い。 この段階でのネットワーク評決は、」 の執行機能も兼ねている。 「資料室のコンビータを使え、ビンチョン。そのホトケと、シコ行刑確定から、遅滞なく刑の執行にうつらねばならないという司法 ロフ兄弟との関係を洗うんだ。優先度 2 、コードはど理念から、投票権者の四十パーセントが、行刑承認のキイ操作を行 の衛星回線を使ってもかまわん。ニュージーランドだろうとアフ - リ った瞬間、死刑囚監房の天井にある・フラックポックスーーー中性子装 力だろうと、好きなところと即時オンラインでつなげ」 置が作動し、刑の執行が行われる。国民の総意が刑を執行するので 早ロでまくしたてると、スキツ。フは椅子の背に体をあすけ、フィ あり、実際に″手を下す処刑人は存在しない。終身刑ないしは有 ルターまでくすぶり出した煙草を、唇からむしりとった。 期刑の場合、囚人はすみやかに護送機にうっされ、しかるべき収容 「ニッキーでしようかね , 施設に送られることになる。 注意すべきは、このネットワーク・システムが、起訴、判決の各 ロイ・ミラーがアゴをなでながら首をかしげる。 「違うかも知れん」 段階で、国民の拒否権として機能することである。司法権力による スキップは、新しい煙草を引きずり出すと、放射ライターで火を不当な起訴、判決を、国民の意思によって回避することが、このシ つける。 ステムの最も大きな目的である。 すべての国民は、端末器のキイに手をふれる際、自らが、一人の 「奴らが動き出したのかも知れん。ロイ、あと何分だ ? 」 「十五分」 被疑者の運命に対して重い責任を・ー・ー五十億分の一に稀釈されてい るとはいえ、極めて重い責任を負っていることを、自覚しなければ ロイは肩をすくめ、時計ぐらい自分で見ればいいのに、と思っ ならない ライツ・プレントン ( 前掲書 ) る 「ーーー大ざっぱに言って、ネットワーク投票制度には二つの機能が
′プルエクみ >•< x 型のボディ・く ノインディングが、やんわりと彼を締めつけプ、オール・グリーン : てくれる。 センターの実習で教えられた通りの、始動チェックだ。 その圧迫感には、言いようのない安らぎがあった 夢のはざまで、ルー・風はそれを聞いていた。 ルー・風はシートの抱擁に身を委ね、目蓋を閉じた。 「 : : : 閉鎖完了 : : : よし ! それじゃあ、 oæo—= 、装填してく すぐ隣に、アイリーン・がいる。 れ : : : そっとだそ、大事なお方が、乗っていらっしやるんたからな 狂博士ミーラー・は、一番端のシートを選んだ。 コクピット ローヴァー・ 0 少佐だけが、制御室に入っていた。 O O —»-äーーっまり、ヴィーナスターの中枢制御知性体に対し コクビット マシ / デッキ 制御室は、キャビン下層の機械甲板に、半ばもぐり込むような形て、ローヴァー・ CO がそう指令すると、キャビンがゆるゆると回 転をはじめた。 で組み込まれており、必要な場合、もう一人が補助に就けるよう、 タンデム複座になっている。 ( : : : しかし ) ::: そのとは、アイリーンの言葉を借り メインプレイン 最初、ルー・風は、少佐から、いっしょに制御室に入るよう申しるなら、″自閉症気味″の、狂った制御脳であるはずだった。 渡されていた。 漠とした不安が、昏睡の手前にいるルー・風の心の片隅を横切っ が、ミーラー・ *-a が反対した。 二人がその密室内で、何事か企むのではないかと、彼は疑ったの降下機といった複雑なシステムを運用するには、やはり、どうし ても、〈彼女〉の支援が必要なのであろう。 そんな余裕は、しかし少なくともルー・風にはあり得なかった。 しかし : : : ( それにしても : : : ) ドロップ たとえ制御室に連れ込まれ、少佐から何らかの計画に加担するよ「チェイハ う持ちかけられたとしても、やはり彼は、目蓋を上げていられなか ったに違いない。 この声は、 O O だ。 キャビンに入り、シートに抱かれて目を閉じたその瞬間から、ル 女性的でありながら、はっきりそうとも言い切れぬ、妙に耳章り ・風の意識はもう濁りはじめていた。 なその人工音声カノ ・、、レー・風の泥のような意識の底にまで泌み込ん でくる。 そんな彼の耳に、制御室内の少佐の声が、切れ切れに届いてい キャビンの動きが停止した。 ビルス これもミーラー・の命令で、降下機内の音声回路は、全てすぐに、カウントダウンがはじまった。 オー。フンさせられていたのだ。 ドロップ 「 : : : オーケー、 OQO—=••・ : ・モード確認・ :: ・ラン 「じゃあ、行ってくるぜ、べイビイ。この茸ポールを、うまく、女 こ 0 コクビット マッシュ こ 0 ・ローディング・ゲイト、ロ