ビルス す。どうです、博士。そうすべきじゃないんですか ? 」 吐き捨てるように言いながらも、は、まんざらでもなさそ 「ほう : : : 手を組む、だと ? ふん : : : それだけ虫のいい提案をすうな表情で、ローヴァー・ eo とアイリーン・の二人を一一度三 るからには、余程の覚悟が必要なはすだ。で、その、おまえさんの度と見比べた。 言う″我々″とは、誰と誰のことなんだ、え ? そこにいる女狐そして、ぐいと顎を引き、言った。 も、″我々″の一人に入っているのかね ? 」 「しかし、どうなんだ、え ? アイリーン、おまえは、儂と組む気 「もちろんです。彼女には、全ての記録を提供してもらう。そし があるのか ? 」 て、博士からは、知恵と知識を貸してもらう : : : 」 「もちろんーーー」 「記録 ? そんなもの、今、ここで取り上げてしまえば済むだろう銀髪を揺らし、彼女はうなすいた。 「異存はなしよ。とにかく、最悪の事態が、もしかすると最良の結 「いえ、取り上げたら、いつまた取り返されないとも限らない。お果を生んでくれたのかもしれなくてよ」 分かりでしよう。そんなことの繰り返しに神経を磨り減らすくらい 「ふん ! 」 ビルス ならーーー」 はしかし、まだ構えた銃を下ろそうとしない。 「取り返させない方法は、し 、くらでもある。中でも一番簡単で確実そして、横目でルー・風をじろりと一瞥してから、ローヴァ 1 なやり方を、儂は知っているそ」 CO に話しかけた。 ビルス は、玩具を弄ぶ子供そっくりの仕草で、マグナム拳銃を突 「問題は、この若僧た。しつかりと口止めできるならいいが、もし き出してみせた。 心配なら、考えた方がいい : 「いえ、しかし : : : それでは、わたしだって、いくらなんでも、博ルー・風は、またも緊張した。 ビルス 士に協力できませんよ。そうでしよう。用が足りたら、始末される の言う″考えるとは、一体、何をどう″考えることな んじゃないかと、いつもびくびくしてなくちゃならない。逆に、そのか れならいっそ、こっちが先に : : : ということにも : : : 」 床にへばりついたままのルー・風は、本能的に、目で逃げ道を探 「なんてこったーーー」 そうとした。 ビルス が、大袈裟に肩をすくめた。 その時ーー 「銃を突きつけられていながら、儂を脅す気でいるんだ」 「ちょっと、待って。何を考えるっていうの ? 彼ももちろん、 「そうじゃありませんよ、博士。手を組むには、ます、疑心暗鬼をつしょに連れていくのよ」 解かなくてはならないと言ってるんです」 アイリーン・だった。 「ふん ! もっともらしいことを : ・ : こ 「なに ? いや、駄目だ」 ビルス ミーラー・ \--a が、言下に決めつけ
ハッチが開いた。 「それから、おかしな真似は、もう、絶対に許さんからな。いいな その向こうに、男が二人立っていた。 「これはこれは、アイリーン・中佐ーーーお久しぶりです」 「ええ、これからは、すべて博士との約東通りに : 二人は、連盟のユニフォームを着用していた。 「ようし、よし : ・ : こ ビルス しかし、階級章を付けていない。 うなずきながら行きかけて、または振り返った。 どうやら、嘱託の研究員らしい 今度は、迎えに来ていた二人をにらみつけて、詰問する。 ビルス とすると・ ・ : : ミーラー・博士と同じ立場の要員ということ「おまえら、まさか、儂のいない間に、研究室をこそこそ覗いたり になる。 はしなかったろうな、え ? 」 ピルス 「まさかー だって、あそこは、立入禁止区画じゃありませんか。 その彼等が、に気付いた。 二人の表情が、急にこわばった。 本来なら、あなただって、あの一帯には入り込めないはずだ : : : そ ビルス うでしよう ! 」 が、は知らぬ顔だ。 一人が、憤然と言い返した。 彼等を押しのけるようにして、»-ä博士はハッチの外へさっさ ピルス しかし、 ()0 は平気だ。 と足を踏み出した。 「ふん ! 儂には関係ない。あそこは、儂の領土だ。儂の許可なく その右手に、例のマグナム拳銃を剥き出しのままぶら下げてい る。 侵そうとする者は、容赦せんからな ! 」 ビルス 馬鹿でかい前時代の武器を振り回しながら、 そして、もう一方の腕で、記録カートリッジのガードケ 1 スを、 ミーラー・ r.n 博 しつかりと抱えていた。 士は去っていった。 その中には、アイリーン・から取り上げた、カーリイ・「どういうことです、中佐 ! 」 の″遺品″も収められているはずだった。 出迎えの一人が、アイリーン・の前で、こぶしを掌に叩きっ ビルス け、言った。 いったん、ハッチを跨いでから、がくるりと振り向いた。 そして、言った。 「あいつは、ヴィ 1 ナスターの拘東室に入ってるはずじゃないんで 「いいか、三時間経ったら、立入禁止区画〈〉の中にある儂の研すか ? 」 究室まで来るんだ。それまでは、誰も近付くんじゃないぞ。 「そうね。でも、出てきたってわけよ。どうやってかは、あたしも か」 知らないけれど : : : 」 「三時間後ね。分かったわ」 「それより、約東って何です ? 奴と、一体、何を約東したって言 ドール アイリーン・が応えた。 うんです ? 」 24
、アツを : 、ただの遮蔽壁ではなく、気閘になっているようだ。 石盤だ。ほぼ完全な円形で、ふた抱えはありそうな大きさだ。厚 「ここから先は金星服を着なくちゃならん。試験抗道たから、気密さが、三十センチほどか が完全じゃあないんだ」 全体が暗い緑色を帯びているように見える。 ビルス そして ミーラー・ tn が説明した。 ヴィーナスーツ その表面全体に、びっしりと何かが刻み込んである。 「気閘内に、試掘中、工夫どもの使った金星服が五、六着残ってい る。どれも、汚れてはいるが、作動は完全た。好きなのに人って、 儂についてこい」 アイリーン・ Q の、微かに上ずった声が聞こえた。 全てが、有無を言わせぬ命令である。 「〈ネティの地図〉、または〈エメラルド盤〉 そう、儂は名 付けている」 三人は、黙々と、それに従った。 グイーナスーツ ピルス 全員が金星服に収まったのを見届けると、ミーラー・ pa co は、 ミーラー・博士は、誇らしげに、そう告げた。そして、付 おもむろに気閘のハッチを押し開いた。 け加えた。 その向こうは、闇だ。 「そうとも ! これこそが″世界〃の、いや″宇宙″の原図に違い ビルス »-a が、作業用へルメットにデュアルで装着されているヘッド そう信じ得る証拠がーー見るんだ ! ピルス ランプを点灯した。 は上体をかがめ、そして、その緑色の石盤に刻まれている 三人も、スイッチを手探りし、彼にならった。 図形とも象形文字ともっかぬ、奇怪な紋様群の一部を、グラ・フの先 周囲は、剥き出しの岩肌である。 で軽く拭った。 突きあたりに、幅一メートルほどの裂け目が、ざっくりと口を開その瞬間は、まだ誰一人、気付いていなかった。 けていた。 岩の裂け目の向こうから、何かが、彼等をじっと見つめているこ ビルス その一角を、 ミーラー・が指差した。 そして、叫んだ。 ( 以下次号 ) 「見ろ ! おまえたちに見せたいのは、これだ ! 」 ビルス 回路によって増幅されたの声が、耳にびりびりと響く。 三人は、彼の回りにのろのろと集まった。そして、彼の腕が差し 示すあたりを見下ろした。 そこに 岩の裂け目から、″それ″がのぞいていた。 ヴィーナスーツ とに・ 28
ビルス ですよ。恐らくは、マッシホールを目にするのも、今がはじめて ま先でひょいと踏みつけ、は短く笑った。 そして、その拍子に何かを咽喉に詰まらせたらしく、げほげほとのはずだーー」 そんなことはなかった。 咳込んだ。 訓練センターには、実物ではなかったがモックアツ。フがあり、そ 両手でかろうじて支えられている四十四マグナムが、ぐらぐら れに組み込まれたシミ、レーション装置で、降下 / 離昇の基礎訓練 揺れた。 はひと通り受けてきている。 とはいえ ・風はまた自分の頭をかかえ込んだ。 思わず声を発し、ルー もちろん、今いきなり、訓練の成果を見せろと言われても、状況 「おまえ ! 」そこへ、声が浴びせられた。「おまえだ、若僧 ! 」 が状況だけに、とても自信はない。の言う通り、確かに無理な 「坊や、言う通りに ! 顔を上げて ! 」 注文だった。 アイリーン・が、厳しい調子で、ささやきかけてぎた。 ・ルー・風は覚悟を決「う、うるさい ! 」 どうやら、今度は、こっちの番らしい ピルス CA\--ÄTJ が声を張り上げた。 め、首を起こした。 「誰が貴様に質問した、え ? 喋ってくださいと、誰が頼んだに」 その目の前に 闇を呑んだマグナムロ径の空洞が、がくがくと上下に揺れた。 銃口があった。 少佐の唇が、危険を察知した貝そのままにびたりと合わさっ 息が、止まった。 恐怖の余り、見開いたきり、目蓋が凍りついた。 それきり、開かない。 「どうなんだ、え ? 」 ルー・風の喉から、笛のような音が、細く、長く、流れ出た。 ピルス ビルス ミーラー・»-a が繰り返した。 それを、の苛立たしげなしわがれ声が、絶ち切った。 ・風は慌てて、首を左右に、激しくぶるぶると振り回した。 「おまえ、マッシュポールを操縦できるか ? 」 「だ、駄目です ! 一度も : ・・ : 見たこともーー・僕には、できません ええっ ? 」 ルー・風はうろたえた。 ・トロツ・フ 「ふん・ : : ・ヘん ! 」 「こいつを下界まで降下させられるか、と訊いているんだ ! 」 ビルス ーラー・が、すすり上げるように、鼻を鳴らした。 「無理ですよ、博士」 「そうかい。だったら、おまえに用はない。そこで死んたふりを続 横からロをはさんだのは、ローヴァー・ 0 だった。 タッチダウン 「彼は、ついさっき、ヴィーナスターに到着したばかりの記録員けているがいい : フォーティフォー こ 0
「ふん ! 待たせおってーー」 二人は、あとに続いた。 コズ : 、ツク・ ミーラー・ i-äの声が、その明りの方角から聞こえてきた。 もっとも、、即ち宇宙開発部隊が、タンムーズ基地に主力を そして、彼の小悪魔そっくりなシルエットが、近付いてくるのが 置いていないのは事実だった。 部隊の拠点は、アフロディテ大陸にあり、その基地は、美神アフ見えた。 ロディテの侍者の名に因んで〈ヒメロス〉と呼ばれていたのであ「しかし、あの記録はなかなかのものだったよ。大いに得るところ る。 があった : : : 」 ピルス は続けた。 そのことは、ルー・風も承知していた。 「ことに、ランドリアン・ O ()n の馬鹿騒ぎだ。問題のありかのひ なんであれ、この世界は、その命名からしてすでに、神話時代の とつが、あれではっきりした。奴は、必ずとっまえる。そして、 暗示を余りに多く受け継ぎすぎていた。 それが、あるいは、あらゆる狂気の温床となっているのかもしれあの、 ″ネティの鍵″を、取りもどさねばならん。そうとも、奴ご ↓な . かっ ~ 0 ときの手に持たせてはおけん ! 」 「″ネティの鍵″ですって ? 」 ルー・風は、そんな気がしてならなかった。 ともかく : ・一行は、セクション〈〉を目指して、基地内を進アイリーン・がき返した。 ビルス んだ。 ラー・の耳には届かない。 セクション〈〉は、地底約四十メートルに突出する試験抗道彼は、独りで喋り続ける。 : とにかく、ここへ来たからには、おま ・どが、しかし、・こ・ の、その入口付近にあたっているという。 えたちにも、あれを見せてやることとしよう。ふん、どうせ、おま 三人は、エレベ 1 ターで、一気にその深階層へと下った。 セクション〈〉の表示があり、″立入禁止区画″危険″などえらには、理解できんだろうが、一度見せておかんことには、話に の注意が一面に書き付けられた金属性の分厚い遮蔽壁が、そこからならん。あれは、いわば、全体の手引き書のようなものに相違ない 先、三人の行く手に立ちはだかっていた。 んだ・ : ・ : 儂は、そう信じておる : : : ふん ! まあ、しかし、ともか いいだろう。さあ ! 儂についてくるんた。さ が、その下部に取り付けてある連絡ロの扉が、開け放たれたままく、だ : : : よしー になっていた。 あ ! 早く ! 」 ビルス ビルス 勝手にあれこれ勿体をつけたあげく、いきなりミーラー・ ミーラー・ \--Ä博士の仕業に違いなかった。 は、三人にくるりと背を向けて、すたすたと歩きだした。 その向こうから、明りが洩れてくる。 アイリーン・を先頭に、三人は次々に、その開口部をくぐりそして、細い脇道に、ついと折れる。 抜けた。 その先にまた、遮蔽壁があった。 パイオニアーズ ピルス グはス ー 5 7
ルー・風の目の前に口を開けていた巨大な死の洞穴は、意外にあ彼女もまた、一時のショック状態から脱して、本来の冷笑的な余 っさりと、遠のいていった。 裕を取りもどしはじめているようだ。 ビルス とうしようもない震えと汗で、ぐしゃぐしゃ 瞬間、彼の全身は、・ その答え方に、は目を剥いた。 こよっこ。 「なんだと操縦はしたくないと言うのか ! 」 ルー・風は耐えた。 「したくないんじゃなくて、出来ないのよ、残念ながらー・・・・」 ビルス 床にへばりついた格好のまま、目だけを動かして、その洞穴の行彼女は、・平然と、に答えた。 コ / トロール 方を追った。 「これの制御卓には、ただの一度も、触ったことすらないわ」 目を離すわけにはいかなかった。 「嘘をつくな ! 」 ビルス ともかくも、今、全ての運命は、その洞穴の向こうに凝縮されて ミーラー・ }--Äの顔色が変わった。 いるのだ。 「おまえは、一体、何年このヴィーナスターに棲みついてる、え ? 「 : : : さあて、アイリーン・」 しつもど 触ったこともない、だと ? ふん ! じゃあ、下界へは、、 ピルス 嘲笑と憎悪がないまぜになった調子で、は続けた。 うやって降りてるんだ、え ? 歩いてか ? それとも、専用の階段 マッシュ 「ならば、おまえさんだ。おまえさんに、この傘を動かしてもらでもあるというのか ? 」 「あたしは、機械が嫌いなのよ。それに、、 うことにする。さあ、アイリーン : しつだって、誰かが、あ ピルス ミーラー・は、今、急速に、回復しつつあるように見えたしを行きたい場所へ連れていってくれるわ」 こ 0 アイリーン・は言い放った。 「機械が嫌い ? 何を言う ! おまえは医者だろうが、え ? 」 そのことが、声の張り具合からも分かった。 彼の身体を、ところ構わず波打たせては走り回っていた痙攣の発「ヴィーナスターであたしに与えられている正式の職務名は、諸構 ・アナリスト 作も、次第に間遠になりはじめている。 造分析官よ。医者じゃないわ。それに、医者が下等なエンジニアの ナしカえ ? 真似をしはじめたのは、ほんの、ここ一世紀ほどのことで、それ以 「さあ : : : 儂といっしょに、地獄の底へ降りようじゃよ、、、 もちろん、二人きりで、だ : : : さあ、アイリーン、どうかね ? な前の医者は、誰も病気を直すのに、機械なんか使いはしなかったも のよ。言葉よ。、、 ししこと ? 大抵の病気を、医者は、言葉で直せる 、なかに、シャレた道行きが楽しめるんじゃないかね ? 」 「そうね、確かにシャレた考えだとは思うわ : : : 」 のよ。このあたしも、医者の仕事には、言葉を使うわ。機械に頼る トール アイリーン・が、応じた。 ほど落ちぶれちゃいないつもりよ」 「ただし、あたしは、あなたの話し相手ぐらいにしか、なってあげ「ええい、うるさい 関係ないことを喋るんじゃない ! 」 ピルス られなくてよ」 が声を張り上げ、そしてアイリーンをにらみつけた。 シスナム ー 42
・前回までのあらすじ・ が、ともかくも、発射された弾丸は、誰にも命中しなかった。 かわりに、それは、マッシュポールの超硬材で鎧われた球型キャ 記録員であるルー・風は金星調査隊の欠員補充のために、金星の 衛星基地《ヴィーナスター》へと派遣される。だが、ー 引着した彼を ビンに当って弾かれ、跳弾となってどこかへ飛び去った。 待ち受けていたのは無人の発着ルームであった。彼は酷寒の発着ル しかし、撃たれた側にとっては、その弾頭の行方を気にするどこ ームで内部への通路を探すうち、エレベーターを見つけるが、そこ ろではなかった。 で白衣の女性アイリーン・に出会う。あまりの寒さに意識を失 すぐ目の前で撃発した大口径実包の発射炎に網膜を灼かれ、轟音 ったルー・風は彼女の部屋へ連れていかれ介抱される。そこで彼は で鼓膜を麻痺させられたルー・風たち三人は、衝撃でその場に叩き 金星で撮ったといわれるあきらかに人造物を撮ったと思われる不思 議な写真を見せられる。その後ローヴァー・少佐らと死んだ前 伏せられ、頭をかかえてうずくまるしかなかった。 ピルス 任者であるカ »-a のコ。ヒー・アンドロイドのところへ、情 ひとり、ミー ラー・博士だけが、馬鹿でかい拳銃を持て余 報の引き継ぎに行く。そこでルー・風らはカーリー ・ :--; の死に関 し気味に構えたままの同じ格好で、そこに立ちつくしていた。 係のある映像記録を受け取りそれを見るのだが、ミーラー・ 今の突然の撃発が、たとえ彼の意志によるものだったにせよ、少 博士に邪魔をされる。アイリーン・が博士を衝撃銃で倒し、ル ・風らは金星へ降下しようとするが、またしてもミーラー・ なくともそのすさましい銃声は、なんらかの形で彼を脅かしたはず 博士に行く手をはばまれる : である。 にもかかわらず、彼の様子に変化はなかった。 登場人物 あるいは : : : 彼の神経はまだ、外界のそうした刺激に正しく反応 できるほどには、回復していないのかもしれなかった。 ルー・風 : : : 宇宙開発部隊所属の記録員。 アイリーン・ : : : 国際宇宙連盟所属、中佐。 ( だとしたら : ・・ : ) ロ 1 ーヴァー・ : ・・ : 部隊の先任士官、少佐。 ビルス ルー・風は、なおも全身を硬直させてひれ伏したまま、目蓋だけ ミーラー・ : ・・ : 連盟の嘱託研究員、惑星地質学者。 をかろうじて持ち上げ、あたりをうかがった インスーツ 火薬の臭いが、つんと鼻を刺した。 言いながら彼女は、ゆっくりと船内服のポケットに掌を滑り込ま ドール アイリーン・が、慎重な身のこなしで、床から起き上がろうせた。 としているのが見えた。 そして今度ばかりは柔順に、命じられたものを掴み出すと、ミー ビルス その彼女が二、三度口を開閉してから、引きつったような声で、 ラー・博士の足元へ放り投げた。 自分に擬せられている銃口に応えた。 「ふん、ふふん : ・ ししザマだ、え ? アイリーン : : : ふは、うは ピルス 「・ : : ・博士 : : : 分かったわ : : : 言う通りにする。だから、おは : ・ : ・」 願い : : : その : : : その拳銃を、あたしに向けないで : ・ : こ 。フラットホームの上を転がってきたダーク・ブルーの衝撃銃をつ ショックが / 9
そして、再び、 ()5 シートに深く身体を沈め、横たわった。 かった : : : まったく・ : : ・」 さっき、窓の外に見えたあの巨大な山塊が、イシュタル大陸のは 「気流に気流のせいにしようっていうのか ! 」 「じゃあ、わたしが ? ご冗談を わたしには、そんな度胸ずれにそびえるマクスウエル山だとすれば、着底予定地は、そう遠 も、ウデもありませんよ」 「だったら、なぜだなぜ、今日に限って、こんなことが起こる「誰が儂は怪我などしておらんそ ! 」 ビルス んだ、え ? どうしてなんだ」 ミーラー・は、まだ喚き足りないらしい ピルス は執拗だ。あの動揺と落下で、余程の恐怖を味わったので「それより、儂は知りたいんだ。どうして、この降下機が、墜落寸 あろう。 前の状態になったかをーーー」 「どうしても、わたしがやったとおっしやるんならーーー」 「理由は簡単よ」 さすがに、うんざりしたらしい声が、制御室から返ってきた。 絶ち切るように、アイリ 1 ン・が応えた。 「いいでしよう、わたしは、ここを出ます。それとも、上昇気流を「それは、あたしたちが、歓迎されていないからじゃなくて ? 」 見つけて、もう一度、強風地帯まで上がってみましようか ? そう「歓迎 ? 一体 : : : 誰から ! 誰が儂等を歓迎したがらんというん すれば、誰が、あるいは何がイタズラを仕掛けてきたか、分かるは ール ずだ」 が、アイリーン・は、もうそれ以上、彼の相手をしようとし 「なんだと ? また、儂を、その手で脅そうとしてもーーー」 なかった。 「おやめなさいー 一一人ともーーこ 彼女は、ついと首を巡らし、ルー・風を見つめた。 アイリーン・ Q が、凛と響く声で、割って入った。 そして、ひどく優しい声を出した。 「それよりも : : : 早く、着底地を探してちょうだい。怪我人がでて「だいじようぶ ? 」 いるのよ」 ルー・風は、うなずき返した。 怪我人とは、ルー・風のことであろう。 確かに、彼の顔から胸にかけては、ほとばしった生乾きの血にま彼女が、誰に言うともなしにつぶやくのが聞こえた。 みれている。 「 : : : きっと : : すぐに、はっきりするわ : : : あれが、誰に対 ドール 隣のシートのアイリ 1 ン・から見ると、さそや、すさまじいする、何の警告だったのかが : : : 」 有様に違いない。 N 0 、ー 4 ここで、ただの鼻血だとは、告白しづらい。ルー・風はロをつぐ んだままでいることにした。
/ インディングが、素直に弛んだ。 すると、・ホディ・・、 あとに・ーー赤い色がこびりついて残った。 彼はシートから身を乗り出し、窓に顔を押しつけた。 顔面が、ごわごわして感じられた。 驚いて、ルー・風は、自分の顔に手をやった。 見えた。 ぬるりとした感触があり、掌が、やはり赤く汚れた。 ( 地表だ 舌の先で舐めてみると、血の味だった。 それが、手をのばせば届きそうなくらいの眼下を、するすると流しかし、痛みはない。の圧迫で逆流した血液が、弱し れ去っていく。 り、鼻孔から噴き出たたけのようた。 その時ーー すぐ前方に、高みへと急激にそびえ立っ巨大な山腹が迫ってい 「ローヴァー・ c.5 0 ! き、き、貴様は と、マッシュポールがぐいと傾いた。 びきつけたような罵声が、湧き起こった。 が、今度は、大丈夫た。 「わ、わ、儂を : : : うう、ううう・・ : : ど、どうするつもりだったん それは、完全にコントロールされた滑らかな機動だった。 ビルス ボディ・・、 / インディングも、そのハーネスを緊張させはしなかっ ミーラー・ r.n だ。 こ 0 完全に逆上しきっている。 ヴィーナス 「博士、お怒りになられても、困ります。文句なら、この星の女神 とうとう、やってきた。 に言ってやってください」 この黄昏の世界へ、ついに降りてきた。 制御室からの声も、当惑げだ。 さすがに、感激があった。 「いや ! 違う ! わざとやったんだ。わ、儂を脅そうとして、故 何もかもが、部厚い粗悪なガラス板を通して見るように、歪んで意に : : : 決まってる ! クソッ、汚いことをしおってーーー」 いる。そして、ゆったりと揺らめいている。 「そんな ! そんな馬鹿な : : : 」 : こんなヒ こんなことは : 高密度な大気の、液体なみの屈折率のためだ。 「いや ! 貴様の仕業だ。そうとも ! まさしく、ここは、水底に似ていた。 い降下は今までに一度だってなかった。こ、こんな目に遇ったこ 液体と気体の、未だ分離せざる領域に見えた。 とは : : : 」 ′ロップ その底を、クラゲの形を真似たようなマッシ = ポールが、ゆらゆ「それは認めますよ。確かに、わたしも、こんな降下ははじめて らと、たたよい進んでいく。 だ。ヴィーナスターへ来てから、もう、二百回はマッシュポールに ルー・風は、大きく息をつき、窓の表面から顔を引き剥がした。乗り組みましたがね、こんなに荒れ狂う気流に出食わしたことはな こ 0 、血管を破 ー 50
た。「余計な人間はいらん。おまえたち二人だけで、沢山だ」 「でも、彼は記録員よ。必す、役に立つはずだわ」 アイリーン・ Q が言い返した。 「ふん ! そりゃあ、おまえさんにとっては、若僧も役立てようが あるかもしれんさ。しかし、その他に、記録員が何を手伝える ? そんなものは、 いらん。そばで、うろちょろされて、邪魔なだけ ピルス は、にべもない。 「そうじゃないのよ。彼は、このルー・風って坊やは、ここへ来る 前、火星のシャール遺跡で発掘作業に参加していたのよ」 その一言の効果は、文字通り、電撃的だった。 金星の錬金術師は、瞬間、ショック・ビームを浴びでもしたよう に身体をこわばらせ、目を剥いた。 「本当かおまえ、本当に、シャ 1 ルにいたのか ? 」 ルー・風は、こくりとうなすいた。 拍子に、額が床に当って、鈍い音を立てた。 「見たのか、遺跡を卩」 「え、ええ : ・ やっとのことで、声が喉を通過した。 「地球年で、一年と少し : : : 発掘が中止になるまで、遺跡のキャン ・フで暮らしていたんです」 ルー・風は答えた。 ′ンヤーレ。こ。 それにしても : : : またしても、 ここ金星には、火星に関して余程荒唐無稽な情報が伝えられてい るらしい いや、情報が誤って伝わっているのではないかもしれない。 疲れていた。 何も考えたくなかった。 何をどう考えていいのかが、まず考えられなかった。 ドロップモード 円形キャビンの湾曲した内壁に沿って、降下形態のポジションで が並んでいた。 耐 c.5 シート 全部で七席ーー・そのひとつに、ルー・風は身体を沈めた。 それを受け取る側が、そもそも、根本的に狂っているのかもしれ ないのだ。 「だったら、記録はどうした ? 」 ピルス »-äが、打って変わった熱つぼさで、畳みかけてきた。 「大丈夫、持たしてあります。残らず、そのケースの中にーー」 アイリーン・が、まるで我が子をかばう母親のような周到さ で、ルー・風に代わり、すかさず応答した。 ピルス ミーラー・ cn が、低く呻いた。 「連れていきましよう、博士。彼にもまた、我々に加わる資格があ る」 ビルス 0 少佐が、 I-Äに進言した。 「 : : : ああ、もちろんだ。連れていくとも : ・・ : 」 ピルス が、左右両手の銃口をふたっともルー・風に突きつけて、 叫んだ。 「誰にも渡してなるものか ! そうとも ! その若僧は、我々のも こも渡しやしないーーー」 のだ、誰冫 N 0 Z ー 3 ー 45