の時計に目をやった。午前一〇時一二分。 た。訊かれたほうはすぐには答えないで、六角ナットに見せかけた アキュムレーターを坐っている警官に手渡した。すると、受け取っ やりとりが途切れたところへ、警官がーーー捕獲されたボクシーのたほうが、下半身が隠れる仕切りの裏側へ入って、逮捕された若い ェア・カーがおいてあるところへ出ていったやつが戻ってきた。そ二人にはわからないなにかの操作をアキ = ムレーターにした。 、・ハッテリーで動く電動切断器のようなものを握「法律には、二つあってはならんとは書いてない」汚れた手に切断 いつは汚れた手に 器を持っているほうがいった。「三つあってもかまわんさ」スリ っていた。もう一方の手に、外側は外気にあたって錆びているが、 それにひきかえ内側は風雨に耐えて、まるつきり別のものにみえるクはその〈三つ〉ということばにビクッとした。「規則では、一つ はなくてはならんといっているにすぎん」彼は強調してみせるため ・エレ 六角ナットを持っていた。どうやらそれは真新しいマイクロ に指を一本立てた、「一つは、だ」。 クトロニクス装置の部品らしい ボクシーとスリックは、警官の独白を魅入られたように聞いてい スリックはプルーの目でそれをじっと見つめた。ボクシーもな・せ た。「しよっちゅうあることだが、車のアキュムレーターが工場か かうっとりと見とれていた。 「ほう、驚いているな ? 」坐っているほうの警官がいった。自分にら出荷されるとき、どういうわけかよくぶつこわれている」彼はス 向かっていわれたことがわかっているのに、スリックはなにもいわ リックを見つめて、皮肉まじりに穏やかな口調でことばを続けた。 なかった。「車にアキュムレーターが取り付けてあるのに気がつい 「べつだん珍しくはない、ありきたりの傷だ。ま、よくやること て、。ヒンで穴を明けたんだろうが ? 」 さ」スリックは目を伏せ、ボクシーは視線をそらして壁の時計を見 彼からもの問いたげな視線を送られると、もう一人のほうがそれる。午前一〇時一五分を指していた。 を受けていった。 「これでわかったろう」独白を続けていた警官がいった。彼が連中 「もう一つ見つかったが、そいつは壊れていた。だが、こっちは無 のなかでも口数の多いほうであることは明らかだった。「われわれ 傷だ」といって、彼はアキュムレーターを持ち上げて見せた。 がなぜこんなことをするのか。二台の車が衝突すれば、そのあとで スリックは、発見できなかったので手を触れなかった無傷のアキ捜査をするさいに責任の所在をはっきりさせなきゃならん、責任が ーにあるのか、それとも両方にあるのか、 ュムレーターから目を離さなかった、まるで懐中時計を振って催眠どちらか一方のドライ・ハ 術をかけられたみたいに。彼は、その無傷の、だからこそ逆に彼らあるいは、車に機械的な欠陥があるということだってままある。そ に致命傷をあたえることになりそうなアキ = ムレーターに見入っての場合には、ドライバーは拘留されない。われわれは、どんな車に も取り付けてあるアキュムレーターの記録を再生して、事故の原因 「二つあったとはどういうことだ」ボクシーが、一方の手に切断器となったデータと状況証拠を調べる。わかっていると思うが、もし を、もう一方の手にはそのヤ・ハい部品を持った警官に問いただし事故を起こした車が : : : あー : : : 最初から壊れていたアキュムレー
「上はマリウス一人だ。俺をひつばりあげるのは不可能ーーーお前と「何でえ、おおかた、そんなこったろうとは思ってたがーー・じゃ礼 をいうのは、おめえにじゃねえ、この岩ってわけだ」 二人なら、何とかなるかもしれん」 「わかったよ。うへえツ、おれの生命があのオカマ野郎の細腕ひと「あんたと心中なんてふるふるごめんだものな。さあ、グインを助 けなきや。手伝ってよ、イシュトヴァーン」 つにかかってるのか」 うめいてドライドンの印を切るや、イシ = トヴァーンはナワに身マリウスはナワをまた崖下へ放った。 、 ? イシュトヴァーンはぶじついた。こんど をゆだね、数回カまかせにひつばって見、それからおっかなびつく「グイン は、あんたの番だよ ! 」 りでナワをたぐって、それに身を支えつつ氷の崖を上りはじめた。 谷底から、ききなれた声でいらえがあり、ふいに、岩がぐらりと 一足ごとに剣で足場をつくっての荒業である。しかも、グインよ りははるかに軽いとしたところで、イシトヴァーンの方がマリウうごいた。わっといってマリウスはとびつく。 スよりずっと重いのだ。マリウスのほそうでが、どこまでもちこた「うわっ、やつばりグインの体重はケタがちがうんだ。おい、イシ ュトヴァーン、手伝ってくれよ」 えられるか、イシュトヴァーンならずとも肝の冷える綱渡りであっ こ 0 「しようがねえな」 「ドライドンよ、イミー ルよ、モスよ、ヤヌスよ、ヤーンよ、サリ イシュトヴァーンはいやいやマリウスの腰をつかむ。マリウスは 必死になって岩をおさえている。 アよ、イラナよ、ルアーよ ! 」 ナワがはりつめて、途方もない重量にきしんだ。 ありったけの神々の名をわめきつつ、イシュトヴァーンは必死に の・ほった。どのくらいの時間そうしていたのか、中途でふっと灰色「グイン ! 」 とうに マリウスのひたいにじっとりと汗がにじみ出、かれは喘いだ。 のもやにつつみこまれたときは心臓のとまる思いをしたが、・ かそこもぬけ出して、手が崖のてつべんにかかったときは、さしも「グイン、ぶじかい ? 早く、上ってきてくれ。でないと、ナワが の天性の冒険児も、頭が白くなる心地だった。 切れちまいそうなんだ ! 」 「ああ、イシュトヴァーン、ぶじなの ? 」 ナワよりも、岩の方がさきにヘし折られてしまいそうに、氷の根 、こよミシ、ミシといやな音を立てている。 「ううつ、マリ公、おらあおめえが嫌いだが、今回ばかりはほめてカナ冫 やるぜーーよくそもちこたえてくれたな。おらあ、その細うでに、 おれひとり支えきる力があろうとは、てんからーー・ん ? 」 イシュトヴァ 1 ンは、マリウスがベルトやサッシュをしつかりつ なぎあわせてつくったナワが、崖の上の岩にかたく結びつけてある のを見て、ペッと唾を吐いた。 4 5 いっ・ほう、谷底のグインは、イシュトヴァーンがどうやら上って 4 ゆくのを見とどけると、改めて白い妖怪の方へ向き直った。すでに
ロドニイ・クー ところが警官は立ちさらなかった。そいつにはまだやらなくてはるか、もしくは、知識を与えるかして、ミスター ならないことがあったのだ。クリツ。フポードをぎごちなく持って言 】と共に、同反重力車両、マーク・ 9 ・フェートンに細工をする 8 ロ・トニイ・ク スリックは〈なんだ〉とのに係わりを持ったろう ? 」 た。「ミスタ いうような表情をして顔を上げた。 「ああ、そうだとも ! 」 「質問に答えてもらう」 「以上で尋問を終わる」といって、警官はほとんど踵をカチッと打 「どうぞ」とスリック。 ち鳴らさんばかりにした。立ちさりかけたがもう一言いうことがあ 「まだ話は終わっていない」警官がいった。「あらかじめ断っておった。「きみたちの右手にメニュー選択盤がある。腹がへっていた 主なコースが四つあるから、その中から選ぶんだ くが、質問にたいして否定的な答えをしたら、きみを嘘発見機にから食べていい。 ける。わかったな ? 」 な」 リックがこばかにした。 「わかった」スリックがいった 「この店の特別料理かね」ス 「もっと大きい声で ! 」 警官がふたたび立ちさりかけると、ボクシーがそばへ驤け寄って 「わかったよ」スリックが答えた。この上なく快適なこのラウンジねだった。「おい、マック、タ・ハコをめぐんでくれないか ? 」 のどこかに音声採取装置が仕掛けられていることがこれではっきり 警官は腕を上げてポケットへ手を入れると、ミスター した。 ムズ ( ボクシー ) ・スミスにタ・ハコをくれてやってから出ていっ 「では質問をする」クリツ。フポードをもった警官がいった。「ロド ニ′っ・クー きみは、反重力車のマーク・ 9 ・フェートンに細 工をして、アルフア・タイ。フの道路で合法的に認められている下限 「どうしてあんな真似をしたんだ ? 」スリックが訊いた。「タ・ハコ 高度以下で歩道を横断できるように改造したんじゃないのか ? 」 をもってるくせに」 「したよ」スリックがいった。そして、隠しマイクにむかって怒鳴 「知りたかったのさ」ボクシーはをハコに火をつけながらいった。 った。「ああ、したとも ! 」 「やつが人間かどうかをな」 こんどは、クシーにむかって警官がした。「ミスター 「しゃれたことをするじゃないか」スリックがいった。「なにか食 ームズ・スミス」 おうぜ」そういって、彼はメニュー選択盤のボタンを押した。ボク シーもそれにならったが、そのとき部屋の向う端にドアが二つある 「ああ」 「あらかじめ断っておくが、質問にたいして否定的な答えをしたのに気がついた。ドアのあいだの壁にクロノメーターがかかってい る。時刻は、一〇時三一分。 ら、嘘発見機にかける。わかったな ? 」 「では、訊ねる」警官がいった。「きみは直接手を貸すか、黙認す午前一〇時三三分。食事が届き、若い被拘留者たちはガッガッそ こ 0
それらとぶつかったらしく、イシ = トヴァーンとおぼしい叫び声 てんでに持った石をばらばらと投げつけ、わめきたてながら小さ がきこえてくる。 な手をのばしてつかみかかってくる。グインがえいとばかり太い腕そのうちに、小人の内のひとりが何か叫んだ。すると、何人かが をふると、たちまち二、三十人がふっとんで壁に叩きつけられる奇妙なことをはじめた。いきなりふところからナワのようなものを が、次のやつらがワアッとむらがり、足によじの・ほり、仲間どうしとり出すと、一人がその端をもち、もう一人がもう一方の端をもっ の肩車や岩にかけの・ほってとびおりて、グインの肩、腕、頭にしがて、ぐるぐるとグインのまわりをかけまわりはじめたのである。 みつき、槍や剣でちくちくと刺しまくる。 「何をする これにはさしもの巨人も閉ロした。なまじあいてが小さいだけはじめ、かれらの意図するところがわからなかったグインだった に、何百匹の蚊にとまられたようなものである。力がよわいので、 ・、、 ( ッと悟ってとびあがろうとしたときには、はやくもナワが彼 ぐっと彼が力を入れれば、剣でもたいしていたでを与えることもでのひざにぐるぐるとまきっきはじめていた。 きないのだが、しかし苛々させられること、おびただしい。 小人どもはキャッキャッと大はしゃぎだ。グインは身をかがめ 一人一人、つかんで叩きつけていては切りがない。グインはぶんて、ナワを切ろうとしたが、丈夫なナワで切れない。足をひきぬく ぶんと手をふりまわし、足をふみならした。剣をぬくほどのゆとりと、次のやつのナワがぐっとしまってくる。 はない。洞窟はせまく、彼が大剣をふりまわす空間はないのだ。も「おのれ、このちびどもめ ! 」 しぬけば、かえってじゃまになるだろう。 グインは剣をぬこうとしたが、いきなりナワの両端をぐっとつよ 「ウォーツ」 くひかれて、たまらずどさりと横ざまに倒れた。たちまちその上に グインは吠えた。すさまじく、その野獣そのものの声が反響す数知れぬ小人どもがならがり、ほとんど彼のすがたをおおいかくし る。小さなアリか、蚊の大群におそわれた巨豹をそのままに、グイてしまった。 ンは身をよじり、小人どもを払いおとし、壁に体ごと叩きつける。 かれらは足のナワを総がかりでひつばり、手といわず首といわ グインにはりついたまま壁に叩きつけられた小人がグインの体とず、やたらにナワをかけてはしめあげた。さしもの勇者もこの勝手 壁のあいだでグシャッとつぶれる。 のちがう敵あいてではとるところがなく、ついに高手小手にいまし あとからあとから、そうする間にも小人どもはふえた。それは無められてしまった。 数にいるかのようにさえ思われた。グインひとりでは、とうてい防「アイララ ! 」 ぎきれず、中にはかなりの数、グインのかたわらや足の間をかけぬ「アイヤャー 小人どもは大喜びで、こんどは何百人がかりでナワをひつばり、 けて、まっしぐらに洞窟の奥へとかけこんでゆく黒小人もいたので ある。 鯨でも陸にひつばりあげるようにグインの巨体をひつばりはしめ っこ 0 225
妖怪は、無数といってもよいくらいの数にふえ、じわじわと音もなちてきた。グインは数回それをひつばって、安全をたしかめると、 く、グインにむかってすり寄って来つつあったのである。 思いきってナワに全体重をかける。 ( お前は、何だ ? ) とたんにナワがいやな音をたててきしんだ。そして グインはロでなく、思念でそう力いつばい念じてみた。しかし、 ( 行くな ) ( 行くな ) ( 行くな ) っそうつよく、さきほどのぶきみな思い ( 行ってしまう ) ( 行ってしまう ) 反応はなかった。ただ、い あやしいざわめきがおこった ! が、彼をうった。 白魔がのろのろと、のつべらぼうの顔に何やら妙に人恋しげなよ うすをただよわせて、近づいてくる ! ( 欲しい ) ( ほんとうのからだが ) ( ほんとうの目鼻が ) さしものグインも恐怖にかられて必死にナワをたぐり、巨体をも ちあげて、崖を這いの・ほる。 「お前たちは何だ。なぜ、そのようなすがたをしている。俺のいうその足に ことがわかるか」 ふうわりと、白魔の一群がとりすがったー とたん、グインは全身を硬ばらせた。 もういちど、グインはこんどはロに出して語りかけてみた。その ときには、じわじわと寄ってくる怪物は、ほとんどグインから二十白魔がふれたところから、冷気、とも寒気ともっかぬものが忍び こんできた。 タッドとないところへまで近づいていた。 それでもなお、グインは剣をふるおうとしなかった。というよりそれはゆっくりと脳を麻痺させ、同時にグインの手足の中に入っ も、万が一にも、剣をふるうことで、せつかくいまのところ政撃的てきた。そうとでもしか云いようのない、異様な感触であった。細 なふるまいには出ていない、この怪魔どもを刺激し、おそいかから胞の一つ一つにまで、何か触手が這いこみ、まさぐる、そんな気が した。 れる結果を招くのを、おそれたのである。 が、さしものグインにとっても、実のところ、じりじり、そわり ( 目だ ) ( 目だ ) ( 目だ ) ( 鼻 ) ( 鼻 ) ぞわりとすりよってくるこのえたいのしれぬ化け物どもに対して、 そうして冷静に待っているには、、 しつもの数倍の自制心が必要だっ ( 手足ーー手足 ) おそろしく長い、長い時間がたったように思われたあとーー・・よう グインのからだはしびれた。手足から、カがぬけてゆき、何とも やく、上からマリウスが叫び、同時にパサリと音をたててナワがお しいようのない気味のわるい、生きながら体の中をのそかれ、つつ こ 0 2
ようとしない世間の冷たさが私は悔しくてなら宙、そしてコンビ、ーター・グラフィックスの作まりにもリアル過ぎて浮いてしまう程 : ・ それだけに、制作費のせいだろう、ヘルマスそ ず、あれこそはスミソニアンかどこかの技術史博る空間は、む躍る。 ( ラレル・スペースなのであ 物館に人るべき貴重な文化遺産だと事あるごとに の人はコンビューター・グラフィックスなのに、 わめいているのだが : ・ そんな訳だから、〈レンズマン〉のアニメ化に子分の、いってみればダース・ペーダーの役回り まあ、それはさておき、東洋現像所が導人した コンビ、ーター・グラフィックスを駆使するとすの異次元生物どもがセル・アニメだというのが、 せつかく格好は奇ッ怪なクラゲ風など実にいいの その〈スキャ = メイト〉を我々がいじっている時ればあそこしかないそ : : : と、ひそかに心にきめ の事である。噂を聞いて関西から見にやってきた に、その質感の差がどうにも気になって仕方がな ていたら、やつばりちゃンとやってくれていた。 あるコン。ヒューターの専門家が、その作業を逐一悪の惑星・ポスコーンー かったりしてしまう : 見たあと、このシステムの能力の限界をきわめた それに、キムール・キニスンがレンズを受け わざとワイヤーフレーム風に簡略化された悪の 人間はまだ居ない : : ・という説明を聞いて、ふと親玉ヘルマスその人を始めとして、異次元空間と取るシーン、コンビ、ーター・グラフィックスに つぶやいた言葉が今も忘れられないのである。 いうのか、異次元の惑星というのか、とにかくそよる鮮烈なイメージも見事なもので、意表を衝い た音楽の使い方と相まって、あたしはとても嬉し 『うむ ! 要するにこれは、ひとつの宇宙を所有のポスコーンからみの部分が、これまでのアニメ しているという事ですな ! 』 かった。 にない異様なイメージを縦横にふくらませてい これなのだ ! それでいて尚かっ、この程度のイメージはコン て、これはもうコンビューター・グラフィックス コン。ヒーター・グラフィックスはひとつの宇ならでは到底不可能な世界、そこだけ、質感があビ、ーター・グラフィックスの持っ可能性からす
脱線というわけでもないが、今回はちょっと、 それから五年後に単行本になった『英雄群ケールを誇る〈レンズマン〉原作の下敷きまでを 別の事を書きたくなった。 像』のあと書きで、″〈レンズマン〉が日本語でそっくり忠実にア = メ化する事は、目下の事情で 君はもう見たでしよう ? 読める時代が来るなどとは思っても見なかった : ・ は望むべくもないし、やっても当りようがあるま アニメの〈レンズマン〉である。 。手を抜かず最後までちゃんと真面目に読んで おいてよかった : : ″などと書いており、まった そのあたりをどう整理するかな ? と私は深い 私が、・・スミスの〈レンズマン〉シリー く今昔の感に耐えないが、この〈レンズマン〉関心を持って見ていた。 ( なにしろ、私が噛み込 ズを日本に初めて紹介したのは一体何時の事だっ が、それも私と縁の深い人達の手によって、ア = むと当らない : : というジンクスが出来かけてい たんだろう : : : と思い付き、〈河内の番長〉池田 メ化される日までやって来ようとは、それこそ想るので、怖くなって、遠慮したのだ ! ) 敏 ( 親分 ! お元気 ? ) と〈気違い手品師〉三田像する事さえ出来なかった : ・ それで、君もまだ見ていなければ、是非とも見 晧司の二人が、当時、〈マガジン〉に私が連 結構な時代が来たものである。 てごらん。面白いから。 載していたコラム「英雄群像」の部分だけを 一一宮の御隠居・小隅黎氏が不満を漏らしたとい 切り抜いて製本してくれた、″世界で只一冊の″ なにしろあれだけの大作だ。 うが、それは多分、端的に言ってその、〈レンズ 貴重な「英雄群像」をひさしぶりにひっくり ″二十年のむかし、二つの銀河系が擦れ違い マン〉の〈レンズマン〉たる部分に関しての事だ 返してみると、それは一九六四年の四月、奇しく ″に始まる壮大な導入から、この空間の″善″ ろうと私は思うのだが、それはそれで頷ける見解 も今から二十年前の事になる。 と時空の流れ者″悪″との対決という桁違いのス でよく分るのだけれど、そいつはいずれ、〈レン 野田昌宏のセンスオフ・ワンターラント⑩ スペース・オペラの書き方 ( その八 ) キミはも一つ《レンズマン》を見たかな ? イラストレーション・加 ~ 滕直之
イヤラシイ わねつ , っーも・ ☆ ☆ ☆☆ 「 0 いあ かで 悪かった わねっ ☆や☆☆ ばくはこんな力を持っ / ぼく自身を 「放射テレバス」と 呼んでいます 、えなカか 他人に自分の考えを \ 、 一ませてしま、つ 一〃 , 能力なのです ー 2 2
い起こしてーーーそれも警部たるものの仕事の一部であったーー電話 機の・ホタンを押した。それは、カンザス州、チャ 1 チル・シティ、 ロイド・ライト・ガーデン、第四象限、一〇に繋がり、シンシア ・マリ 1 ・デサンティスの母親、エヴァ・マリーと連絡がとれるは ずであった。 午前一〇時〇九分、すでに警官のジョン・クラムドソは無電誘導 で積荷とともに、チャーチル・シティのロイド・ライト・ガーデン にほど近い建物に向かっていた。 未来の犯罪捜査を扱った物語は多いが、この作品もその一つで、 最初に〈事件〉の発生を通報してきた場所からたつぶり二七キロ おそろしく能率的な警察の事件処理を簡潔かっ非情に描いて、肌寒 離れたところで、大型車両が、時速二〇〇キロでぶっとばしている い後味を残す。アナログ誌六六年三月号に掲載された。 ボクシ 1 とスリックの最高速度レ 1 ン専用車に追いつくのに、まる アレグザンダー ・・マレックは一九二九年生まれのアメリカ まる六分かかった。時刻、午前一〇時〇七分。 人。化学研究所の技術者、ニューヨーク・セントラル駅の労務者な 、つけら 最初にそれに気づいたのはスリックだった。「ボクシー ど、さまざまな職業を経験、一九六五年にコロラド・クオータリー 誌に発表した短篇 Pro lnhumane" が、ジュディス・メリル れているそ、見えるか ? 」彼はうろたえて大声をあげた。 の『年刊傑作選』に収録された。マレック自身にいわせると、十三 ボクシーは振り返って息をのんだ。「畜生 ! ・ハクリ屋だぞ ! 」 年かかって書きあげ、百十三回もポツになった作品だそうである。 「逃げろ」スリックがどなり返す。 これらをおさめた短篇集『外挿』が一九六七年に出ている。最近は ボクシーはアクセルをいつばいに踏みこんだ。 消息を聞かない。 ( 浅倉久志 ) 午前一〇時〇八分、警察の捕獲車〈パクリ屋〉がスリックとボク シーの小型車を捕捉した。その瞬間、 ′クリ屋は、普通のドライ・ハ ーには認められていないターンをやってのけると、ふたたびいま来需要を生みだした文明の副産物なんだからしかたがない。 たコースを引き返し、これまでの追跡で一三三キロほど離れてしま ボクシーが、左右上下に急旋回をしてパクリ屋の手を振り切ろう ったセンターに向かって、最高速度で帰還の途についた。その旅にとしてみてもまた、道連れにしてくれるとばかり虚勢をはって、彼 はほ・ほ一七分を要するだろう。 らを捕獲した車をぶつこわそうとしてみてもーーなかにはそういう ことをするやつもいるーーーしよせん成功する見込みはなかった。な ハクリ屋にとつつかまるなんて、あまりそっとしない経験だが、 そうそうあることではない。だがそれも、・ハクリ屋とそれに対するにしろそんな悪あがきは、ごく限られた範囲でしかできないから グ 4
とんねこたんめめしべっ それはそうだろう。もしおれがオンナだったら、絶対にこんな奴 頓音古丹と女々雌別の中間地点でクルマがエンストしてしまっ らと旅行になんかいかない。二人の魂胆はもう見えているのだか 大沢と吉川がクルマを降りながら、口々に奐きたてた。「この下ら。それに大体が、どの女のコも夏休みの間に遠ければセーシェル か ' ハリ、もう少し近ければグアムかサイ・ハン、どんなに悪くても沖 手糞。きよう一日で、もう五回もトラ・フりやがった」「早く直せ。 なにしろ、このあたりは周囲三十キロ、一軒の人家もないんだか縄あたりで肌を真っ黒に焼いてきているのだ。北海道旅行くらい で、しかもクルマの運転までさせられて、身の危険を賭けるのでは ら」「早くしろ。このノロマ」「日が暮れるそ、この愚図」そうい あまりに割りが合わない。 いながら、二人とも落ちついて煙草をふかしている。 さすがにおれもカッとして、怒鳴り返した。「そんなにいうな結局、男の学生たちも次々と断り、この話に乗ったのは、海外渡 航経験ゼロ、北海道に行ったことさえないという貧乏学生のおれた ら、自分たちで運転しろ。おれ一人に運転を押しつけやがって」 奴らも負けてない。「誰のおかげで、北海道までこれたと思う。けだったのだ。 「おい、まだ直らないのかよ。日が暮れて寒くなってきたそ」大沢 最初つから、おまえは運転手としての役割だけを期待されて、ここ が白い息を吐きながら、怒鳴った。 に来たんだ。それを忘れるな」 本当にタダより高いものはない。二週間前、大学の学生食堂で昼「大きな声を出すな。人間の声を聞きつけて、ヒグマが出てくる 飯を食べていると、同じクラスの大沢と吉川がニャニヤしながらおぞ。このあたりじゃ、先月もハイカーが二人、ヒグマに喰い殺され れのテープルにやってきた。てつきり代返の依頼かと思ったら、違てるんだからな」出鱈目をいうと、二人とも小さな声で罵るだけに よっこ 0 った。タダで北海道に連れていってやる、というのだ。 前の日、渋谷で入った学生相手の馬鹿でかいパプで、開店以来十それから三十分たった。おれはオイルまみれになりながら点検し 万人目の客になって、北海道旅行無料御招待というチケットを三枚ているのだが、故障箇所は依然としてわからない。 とんねこたん 貰ってきたらしい。ただし自動車会社の協賛なので、つい最近売り そのとき頓音古丹の方向から、クルマの近づいてくる音が聞こえ に出された新車を貸りて、東京から北海道まではフェリー、道内のた。おれは故障箇所を探すのに熱中していて、ポンヤリと聞くとも 移動は当然そのクルマを使うことというのが条件になっている。 なくその音を聞いていた。 ドライ・ハ あいにく大沢は免許を持っていないし、吉川はペー クルマの・フレーキの音。哀願口調の声。そして、ドアを閉めるパ 1 だ。それで、おれに話がまわってきたらしい タンという音につづいて、 めめしべっ もっとも後で知ったことだが、大沢と吉川は何十人もに声を掛け「おおい、女々雌別の旅館で先に待ってるからなあ」「ひと晩中で てすべて断られ、ほとほと途方に暮れた末、おれにこの話を持っても、そうやってろお」と叫ぶ大沢と吉川の声が聞こえた。 きたようだ。 呆然と眺めるおれに向かって、通りがかりのクルマにちゃっかり 最初は自動車免許を持っているクラスメイトの女子大生たちを片乗り込んだ二人が窓から手を振っている。 つばしから口説き、片つばしから拒否されたらしい それからすぐにトラ・フルの箇所がわかり、修理はあっけないくら こ 0 幻 0