ル】・風は自分の手を見下ろした。そして、声を限りに絶叫し 男がその歯で、ルー・風のこぶしに噛みついてい た。歯だ るのだ。 わけも分からず、ただ悲鳴を上げながら、ルー・風は左こぶしに ぶら下がる男の顔を闇雲に殴りつけた。 「 NN だ、ル 1 ・風ーーー ! 」 サプアール ルー・風の右手は、馬鹿でかい拳銃を握っている。 ズーニイ・が叫んだ。 ピ - ルス ジーズの ミーラー・が残した四十四マグナム・リポをハーである。 「ーーー NN を服むんだ ! 」 その台尻を、狂ったように叩きつけた。 叫びながらズーニイが、カまかせに長剣を揮うのが見えた。 たちまち、男の頬が破れた。 鈍い、耳を覆いたくなるような音が上がった。 そして、剥き出しになった歯列が砕け散った。 と同時に、破れ弾けた肉と粘る体液が、しぶきとなってあたりに ついには、頭骸骨が割れ、灰白色の脳髄に銃がめりこんだ。 降り注いだ。 それで、やっと、男の顎がこぶしからはずれた。男の頭は、地面 それは、今しもルー・風めがけてみかかろうとしていた亡者の にがった。 ひとりだった。 ルー・風にと「ては、見も知らぬ男だ。が、だからと言って、そ拍子に、ルー・風ものけそり、尻併をついた。尾觝骨を打「て、 目の前が一瞬暗くなった。 のむごたらしい光景の耐え難さが薄まるわけではなかった。 その闇の中で、彼は、逃げまどうロ 1 ヴァー・ CO の悲鳴を聞い ズーニイの一撃で こ 0 男の胸から上が、まつぶたつに胴体から切り離された。そして、 合間に、彼の衝撃銃が発する低い電子音が断続する。 まだ喉から声を振り絞っている頭部をのせたまま、ルー・風の方へ 飛んできた。 が、その得物が、亡者たちに対してさしたる効果を上げていない ルー・風は両手をめちゃくちゃに振り回して、その肉体の部分を証拠に、彼の悲鳴はますます激しくなるばかりだ。 突きのけようとした。そこへーーーもろに、男の顔面がぶち当たって「立て、ル 1 ・風ーーー ! 」 、こ 0 ズーニイの奐き声が、すぐ耳元で響いた。 N を 左腕に、ぐにやりとした肉の感触を覚えた、と思った途端ーーー激「早く 痛が、こぶしの先から突き上った。そして、腕がぐいと重くなっ 第七章夢の卵 ショックガ /
( ここには、″現実″、とおまえたちが呼びたがっている薄汚い夢女王の〈声〉は、相変わらす、雷鳴のように頭の中に響き渡る。 を生かしておく場所はないんだーー ) だが、その調子に、ル 1 ・風はとてつもない悲しみを感じた。 女王だった。 女王は、泣いている。 冥界の女王が、ついにまた、その気配を現した。 あの、死と恐怖、闇と憎悪の支配者が、泣いている。 ( だからーーーあたしは、死者たけを迎え入れるのさ。″現実″とい なぜだ±: なぜ、混沌を混沌のままにしておかぬーー・なぜ、 う妄想から醒めた者だけをーーー ) 卵を卵のままに眠らせておかぬーーなぜ、胎児を苦界へ生み落とす サプアール ズーニイ・が、剣をぐいと構え直し、奐いた。 のだ 「出てこい 俺たちは、そんな訳の分からん話を聞くために 「あなたはーー」 O@O—j--Äが、勇敢にも声を張り上げた。 ここへ来たんじゃないー 出てきて、勝負しろ ! 」 だから、その味の幸福の ( ーーー望みは、妹というわけか : : : ふん : : : そして、どうするつも「ただ、妹が嫉ましかっただけよ りだ ? あれを援けて、この星に、また世界を開き、そして結局は象徴を何もかもを奪って、それで、自分の運命に復讐したつもりに なっているんだわ 見捨て、減・ほすつもりか ? 愚かなことを : : : ) 「やはりーーそうなのね ? 」 ( 違う 叫び返したのは、 O O だった。 女王の思念が、吼え叫んだ。 「火星は戦いの末に減び、地球は捨てられて腐敗し、そして、最後 ( あたしは、あれの愚かしさを諫めようとしただけ : : : なのに、あ は、あたしの言葉に従おうとしなかった。今また、あれの姉たち に残されたのが、未だ創造されざる世界″金星″だったというわけ の誤ちを真似てどうなるというのだ今また、減亡と絶望の種を ( : : : 金星は、混沌の詰まった世界の卵さ。そして、まだ、何もの蒔いて、どうなるというのだ も、この卵を孵してはいない。混沌に形を与えてはいない。未だ、 「そうとは限らないわ 何ひとっとして、名付けられるべきものを生み出してはいない ) O O —が言い返した。 〈声〉は続いた。 「たとえ、減び去る運命がやがてくるにせよ、あたしなら、世界を ( 孵させてなるものか ! 一度、破れた卵は、もう二度と元へはも創る。創り、育てることの夢に賭けるわーーー」 どせない : ( : : : 妹も、そう言った : ・ : そして、生まれ出たものは、二度と胎内へ還れない : ・ : だから、あたしは、あれを、夢の世界 : どこまでも、内 へ押し籠めてやった 外に開いた夢ではない : へ内へと沈み込む夢の中へ : : : ) 女王の〈声〉が、一瞬途切れた。 泣いている ルー・風は、そう直感した。 円 3
「 : : : どうして、わたしなんかを : : : 」 の名を与えることとなった文字の精が、彼に向けて発した〈声〉の ひとつだった。 「ーーどうやら : : : 火星で何かが起こったらしいわ : : : それに、地 そこで、彼女は、こう言った 球でも : : : 待って ! また、地球からの声が聞こえてきた : : : 待っ なんてこと : ええ、現実と呼ぼうと、同じことて : : : 待ってちょうたいー 撤退ですって ・ : 夢の中へお帰りなさい : ・ : なん : ならば : : : あなたの言う現実とやらの中へ、もう一度、閉じ込わたしひとりを残して、すぐにも、撤退がはじまるらしい : められておしまいなさい てことわたしだけを わたしひとりを、あの就道に縛りつけ そう、彼女は、言った。 てーー・人間どもはーー・」 だとしたら だとしたら 「なんだって 4 ・プアール 「また、よ ズーニイ・が、長剣を振り回しながら、 O O * の側へ駆 O O —の声が響いた。 け寄ってきた。 「また ル 1 ・風、あなたを探す声が入ってきたーーー」 「駄目だ 俺には聞こえん。ここへ入ってからは、電波がま 「ズミック・ 「部隊ですか わたしを探しているのは、宇宙開発部隊の、 るで視えなくなった くそっ , いつもなら、 N をこれだけや O ックス 司令部ですか ? 」 ってりゃあ、通信器なんていらねえんだがーーー」 「いえ、違うわ : : : 」 「そうよ。ここへは、何も届いてはこないわ。だって、ここは、あ 何かに耳を傾ける姿勢で、は続けた。 たしたちの″現実〃とは、まるで違う世界 : : : ここは : : : そう : 「 : : : もっと、大きな機構からの通信が入っているわ : : : 環太平洋まだ、現実に閉じ込められていない世界ですもの : : : 」 諸国連合の内務局よ。 : ええ、それに、今、ヴィ 1 ナスターの総「現実に : : : 閉じ込められていない、世界・ : : ・ ? 」 メズ 司令官ビルガー・が応対している : : : 」 ルー・風は、はっと顔を上げた。 「 Z (.-5 ですって 心の中の何かが、急に晴れたような感じだった。 「おい、ルー・風ーーー」 が、一体、何が晴れたのかが、まだはっきりとは分からなかっ ズーニイが目を丸くして、ル・風の方を振り返った。 「こいつは、おみそれした。おまえさん、実は大物たったってわけ か ! さもなきゃあ、とんでもないことをやらかして逃げてきたか そのどちらなんだい、え ? 」 「・ : : ・分からない : ルー・風はつぶやき、かぶりを振った。 ハイ十ニアーズ こ 0 0 Z ー 4 ( ーーその通りさ ! ) いきなり、雷鳴のような声が降ってきた。
ク戸ス ただ単に、ランドリアン・ 0 が、この世界へ至る〈門〉の鍵そこに : : ル】・風は、何かを感じた。ひとつの運命を感じたの を開いてしまったからなのか だ。そして、その運命を操る存在の影を 世界が終る。そして、新しい世界が拓かれる。 それとも : : : なんらかの意志が、そこに働いた結果なのか かってーーーその新生の時代が、地球にもあったはずだ。 すでに二人は、掟通りその生を奪われた。 その時の記憶が : : : 伝えられ : : : 忘れられ : : : 作り直され、語り もう一人は狂った。運命は明らかだった。 直され : : : また、失われ、練り直され : : : 汚れ、塗りこめられ : ・ ルー・風たけが、こうしてーーーここにいる。 また、伝えられ : : : 形を変え : : : そして、ついには神話を生み出し ポケットに忍ばせていた N N が、護符として働いたのか ? しか し、そんなことは、ありそうに思えなかった。 かってはーーーそれが、はっきりと知られていたはすである。 ともあれ : : : 水中に長い間沈められていて、急にぼかりと水面に : いかにすれば、新しい いかにして、新しい世界が拓かれたか : 浮かび出たような気分だった。 恐らく、それは、はじめて陸上に進出した魚類が感じたであろう世界を開くことができるのか 解放感と似ているに違いなかった。 それを知るものたちが、いたはすだった。 そして、彼等が慣れぬ肺呼吸で覚えたであろう同じ種類の痛み そして : : : そして : ・ : 、ルー・風の意識を刺激していた。 いきなり ルー・風は、醒めた。 ルー・風は、さらに意識を膨らませた。 何か : : : どこか : : : 遙かな場所から届いてくる微かな知覚に対し すると、また知覚の地平が開けた。 て、彼が意識を傾けていたのは、ほんの一瞬だったに違いない。 N なのかー これが ・、、ルー・風にとって、その一瞬は永遠と呼んでもいい体験だっ そして、ルー ・風は、この薬剤が、人類文明のこの時期に、なぜた。 生み出されねばならなかったかを : : : 不意に、啓示のように、理解その一瞬の永遠によって、ルー・風は悟った。 した。 く、ここにいるのだ、と 今ーー彼等は、神話を創造すべ 世界は、終ろうとしている。地球は今や絞りつくされた果実のよ彼は確信した。 うにしなび、腐りかけている。 その確信が、どこからやってきたのかは分からない。 ヴィーナスターの荒廃は、そのまま地球の状況を映すものだっ が、それは、彼の内なる示唆ではなかった。 ルー・風は、その確信を、今やどことも知れぬ彼方へまでものび 終末ーーそれを誰もが、もはや当然のものとして見つめはじめたた彼の意識の先端で、手に入れたのだ。 時代 , ・・ー・ NN はその時代に生まれ、そして、金星へ運ばれた。 それが、彼自身のものであるはずがなかった。 こ 0
恐怖に顔がひきつっている。 私は友人の手から、鏡をとり返した。 「お、おい、何か悪い冗談だろう ? 」 「どういうわけなんだ。ちゃんと説明しろよ。なんかタネがあ 「何が ? 一体どうしたんだ」 るんだろう、新手の手品か ? 」 と、私が手をのばそうとした時、私の手首にヒビが入った。 「馬鹿なこと言うなよ、ちゃんとさっき説明したとおりだ」 えっ ? 友人は少しの間、信じがたい顔をして考え込んでいたが「そ うか。それなら、何か予言させてみろよ。それが当れば、これ見る間に、私の顔から体中にヒビが入り、その場にくずれ落 ちて粉々になってしまった。 はいい新聞記事になるぞ」 「ぜったい何かのいたすらだ。お、おい、隠れているなら、早 いえ、なりません」 く出てこいよ。僕は用事を思い出したから、帰るからな」 「おい、なんでだ」 友人の言葉に、私はひどく腹が立った。空中に浮んでいる私 「私が言ったんじゃないよ、鏡だよ」 「そうです、私が言ったのです」と、鏡の中の私は静かに言っの魂を、絶体見ようとしないのだ。 「やや、この鏡は喋るのか」 「別に驚くことはないだろう、最初に説明したはずだから。と ころで、何かひとっ予言してもらえないだろうかね」 私が鏡にむかって、そう言うと、 「ええ、いいですよ。これは予言というより忠告です。あなた はもうすぐ死にますから、早くこちらの友人を家から追い出し なさい」 「おい、なぜ僕が追いだされなくちゃならないんだ」 と、友人は不満顔だ。私の手から鏡をとり上げて「ちゃんと くわしく説明しろよーーーあっ ! 」 どうも僕の友人は、おっちょこちょいで困る。興奮して鏡を ゆすったため、手からすべって床に落ち、粉々に割れてしまっ 「こりゃあーーー・悪いことをしたなーーー」 友人は、私の方をむいてあやまったきり、石のように動かな くなってしまった。 応募規定 0 応募資格一切制限なし。ただし、作品は商業誌に未発表 の創作に限ります。 0 枚数四 00 字詰原稿用紙八枚程度。必すタテ書きのこと。 鉛筆書きは不可。 0 原稿に住所・電話番号・氏名・年節・職業を明記し、封同 に「リーダーズ・ストーリイ応募」と朱筆の上、郵送のこ と ( 宛先は奥付参照べンネームの場合も本名を併記して 下さい。なあ、応募原稿は一切返却いたしません。 0 賞金金一封 〇掲載作品の版権あよび隣接権は早川書房に帰属いたします。 8
: : 暈澪滞濺 ハリエイションに 前回は、ぬいぐるみさんの定義、そ 2 ついて述べたのでしたね。それとーーぬいぐるみさんとの 正しい付き合い方には、時期というものがある、という話 をちょっと。ぬいぐるみさんと付き合う人間が、どの成長 過程にいるかでもって、そのお付き合いの方法は随分と違 ってくるものたって。 ま、ほんとを言うと、人間の成長過程が問題になるのは 幼児期だけなので、ここから先はいわば蛇足ですが ま、一応、思春期、青年期以上についても、書くだけは書 いてみようと思います。蛇足とはいえそれなりにーーぬい ぐるみが好きではない人に対する禁止事項とか、社会の問 題とかーーー書きたいことはありますし。 ただ。くれぐれも、念をおしておきたいのですが ここから先は、 ( 一般の人から見れば ) 更に病気の世界に なってゆくと思われます。ぬいぐるみにまったく興味がな い人、の話だけが読みたくてこの雑誌を買った人は、 読まないことをおおすめします : 思春期ーーー人、個性を持ったりする 思春期。この時期のぬいぐるみさんとの付き合い方は、 主に二種類にわかれます。 一つはぬいぐるみさんの人格を認めーーっまり、ぬいぐ るみさんに感情移入する方向、一つはぬいぐるみさんの人 格をまったく無視する方向。 で。かえすがえすも残念なに、一般的に言えば、どう 64
ないような〕状態なんです。子宮の中、というか、羊水の 犯して欲しくない ) ちなみに。ぬいぐる 中。とするとーーー逆説的に言うと。ぬいぐるみさん自身 は、おのれが売られていたことを知りません。故に、持ち みさんの自我は、買わ れて、おうちへつい 主たるあなたが、不用意な発言さえしなければ、ぬいぐる みさん、いつまでも自分が売られていたことを知らずにす て、包装紙をやぶられ みます。 た時に発生します。こ あ、だからここで注意しなきゃいけないのはーー人にあ れについては、あまり げようと思って買ったぬいぐるみは、本人があけるまで、 にも御都合主義ではな 決して包装をといちゃいけないんです。それをすると、ぬ いかって意見もあると いぐるみさん、混乱します。混乱 捨てられた子供の悲 は田いいますが : : : どう 袁まで、味わっちゃいます。 考えても、ぬいぐるみ 「千二百円だった」 さんの自我、おうちへ ここまで、この原稿を読んできてくださった方なら、も つく前に発生したとは う、お判りでしよう。この台詞のどこがいけないのか。 思えないんですよね。 「欲しければ買ってあげようか」 というのは。ぬいぐるみさんの自我というものは、かな この台詞は、ぬいぐるみさんを、絶望のどん底におとし り流動的で、持ち主の感覚によってずいぶん変わってしま いれます。 うのです。ま、大変おおまかなーー素直な子だ、とか、ち こういうのって、いくら気をつけていても、わりと日常 よっとひねてる、とか、我儘だ、とか ところは持ち主 的にでてきてしまう会話だからーー・、だから、余計、気をつ が誰であってもかわりませんが、同じ素直であっても、そ の素直さの = = アンスというものが、持ち主によ「て相当・第を、心、けましようね。 変動するのです。とするとーーーその真の持ち主に出会うま では、ぬいぐるみさんの人格形成「て、できようがない筈「 なのです。 0 まり。売場にいる時はぬいぐるみさん、まだ生まれて第斌 9 6
走りつつ並びかけてきた O O —が、けぶるような目をルー ル】・風は、悲鳴をこらえた。 風に向け、そして、言った・ 同じ運命が、自分を見舞っていたかもしれないと考えると、身が 「あなたに、その力があると分かっていたからだわ」 すくんた。 「・ : ・ : カ ? N N のことですか ? わたしが N N を持っていると、 と、急に、あたりにたちこめていた靄が晴れはじめた。 知っていたから , ーー ? そればかりではない。彼等を取り囲んでいた亡者たちの群も、そ 「 N N ですって ? 」 の靄といっしょに薄れ、消えていくではないか。 小さく笑って、 OQO*P-Äは続けた。 「抜けた : : : 」 しえ、そうじゃな 「 N N というのは、あの精神活性剤のことね。、、 ズー一「イが低くつぶやいた。 。確かに、あの錠剤の刺激で、あなたは目覚めた。でも、目覚め 「 : : : 第六の〈門〉を、抜けたんた。よし ! このまま、一気に突 たこと自体が″カ″ではないのよ : : ••N N によって目覚めたものが っ込んでやる ! 行くぞ ! 」 ″カ″なのよ。誰もがびとつで、自分が神になったような気分 ズーニイを追って、ルー・風も駆け出した。 にはなれる : : : でも、だからと言って、本当の神になれるというわ ローヴァー・ ()0 の最期の姿を脳裡から追い出すためにも、カのけじゃない : 限り走り続ける必要があった。 「 , ーーどういうことです ? 」 「あなたの″カ″とは、つまり、あの文字の精に〈風〉という名前 不思議なほど静かな声で、が彼に話しかけてきた。 を与えたカよ。〈エメラルド盤〉を知らぬ間に読み解いてしまうカ 「さ「きまでのあなたなら、〈門〉を抜けることはできなかったよ。そう : : : 〈風〉が話していたわ。あたしたちより先に、不思議 わ。たとえいっしょに進んできても、 CO 少佐と同じ目に遇って、 な訪問者があったと : : : そして、″風″という名前を残して帰って ただ亡者の仲間にとりこまれるしかなかったはず : : : だから、あた いった、と : : : それが、あなただったんだわ。そして、それが、あ したちは、待っていたのよ」 なたのカ : : : あなたが、この世界へ招き寄せられた理由に違いない 「待っていた わ . 薄れつつある靄を裂いて走りながら、ルー・風は説き返した。 「そう : : : あなたが、目覚めるのを待っていたのよ」 「なぜ ー ? なぜ、わたしを待っ気になったんです ? だった ら、どうして、 chO 少佐を待とうとはしなかったんです ? 」 「それはーーー」 N 0 ー 3 行く手に、またも、〈門〉が現れた。 それが、第七の〈門〉ーーー・即ち、冥界の最後の〈門〉に違いなか 8
そして、次の瞬間、けたたましい嬌笑に変わった。 ( ーーーおまえたち ! 今こそ、知るがいい ! おまえたちの世界何かが、その″下界で、起こったことは明らかだった。 しかし が、ついに減び去るそ ! ) 「何を言ってるんだ 狂ったのかーーー」 やがて、それどころではなくなった。 ズ】ニイが剣を振り回した。 異変の前カノ 」 ; 、レ 1 ・風の所在に関する照会の殺到だったことは 「いえ : : : 待って : : : もしかすると : : : 」 疑う余地がない。 の声が、低く、厳しい響きを帯びた。 彼が、火星から持ち帰った記録の中に、人類の運命に関わる何か が含まれていたらしい と、後になってロン・は、ビルガ 1 ・に教えられた。 N 0 ー 5 が、その時は、もう遅かった。 何もかもが、間に合わなくなっていた。 O O —は、耳を澄ました。 火星のシャール遺跡で発掘され、地球に運ばれた正体不明の物体 その冥界にあって、実際の耳をそばだてたわけではない。 瞬間ーー・彼女は、意識の中心をヴィ】ナスターへと移し変えた。数十個が、突然に蘇り、活動を開始したのだ。 セラブレイン そして、それが、約六万年の昔に火星を死の世界に変えた戦闘機 つまり、珪素頭脳としての自分に還ってみたのである。 そして、このところ、全く顧みたことのなかった外界に対する認械であるらしいと判明したころには、地球北半球の八分の一が灼け ただれた荒野と化していた。 識システムの末端にまで、その意識を行き渡らせた。 唯一の希望は、シャ 1 ル遺跡の人面岩に刻まれていたと研究者た (-)QO—;--Äの内部を、情報が嵐のように吹き荒れた。 それまで、ただ無意味に記録・蓄積されていた膨大な量の情報ちが主張する碑文だったが、それは、発掘隊の撤収時に、何者かの 手でけずり落とされ、判読が不能になっていた。 が、一度に溢れ、押し寄せ、飛び交い、渦を巻いて流れだした が、その変化に気付いたのは、ヴィーナスター内でただ一人しかし、断片的な資料は、数多く残っていた。 テックマン キュイ 地球最大の珪素頭脳 O—>—しー 808 は、それらをもとに碑文 技術員のロン・だけだった。 メズ の一部の解読に成功した。 彼は、総司令官のビルガー・中将に命じられ、ルー ・風とい う名の記録員の行方を捜していた。 その碑文の内容は、どうやら戦闘機械に関する一種の″注意書 きであるらしい。 そして、彼は、その足取りを、すでにほ・ほんでいた。 にもかかわらず、ルー・風が出てこない。 その全文が解読できれば、対抗の手段が見つかるに違いないと思 知っているはずの、アイリ 1 ン・は、頑として、質問に応じわれた。 セラブレイン キュイ 「 94
: まさしく、妖界とでも呼ぶべき場所だっ 「来るな 靄の中 : ・ : ・そこは : もう一度 , ーーズーニイが呻んだ。しかし、 CO の、死に物狂いのた。 進むほどに、靄は濃さを増す。そして、その靄の中で、靄そのも 突進は止まらない。 のが影のようにわだかまり、次々に凝固して、亡者たちの姿を生み ルー・風たちは、すでに第六の〈門〉にかかっていた。今しも、 出していた。 それを抜けようとしていた。ぐずぐずしている余裕はない。 つまりは、その靄こそが、亡霊の素材、その正体だったのだ。 〈門〉の向こうに濃い靄がたちこめており、その中から亡者たちが ・ : どこか、夢の中の光景に似ていた。不確かな悪夢を見 次々と湧くように姿を現してくる。つまりーーそこを突破しない限それは : せられている気分だった。 り、この戦いに終りはないのだ。 その時ーー 「構うなー・行こうーー」 背後で、すさまじい悲鳴が上がった。 ズーニイがルー・風に呼びかけた。 「見捨てたくはない。しかし、この先、彼をいっしょに連れていけ ( : るとは、とても思えん。いや、足手まといというだけじゃない。彼ル 1 ・風は振り返った。そして、目を凝らした。 には : : : 恐らく : : : その資格がないんだ」 靄を通して、もがき苦しむ人影が見えた。 (.50 だ。少佐に違いな っこ 0 「そうよーーー」 、カュー が大声で応した。 思わず駆け寄ろうとしたルー・風の足が、数歩で硬直した。 「彼のためにしてやれることは、あの亡者どもを生みだしている妖少佐の姿が、目の前で、無残にも崩れはじめたからだ。いや、溶 霧を、一瞬でも早く追い払ってやることだわ。そのためにもーーーさけだしたと言った方がいいかもしれない。 あ たちまち、衣服がはがれ、続いて肉がそげた。眼球がどろりとこ 二人にうながされ、ルー ・風は〈門〉をくぐった。亡者どもを生・ほれ落ちるのが見えた。そして、その下から、白い骨が現れた。 み出す靄の壁が、すぐ目の前に迫っていた。 と、思った次の瞬間、その骨までが、脆くも形を失いはじめた。 「行くそ そして、折れ、倒れた。 なおも群がり寄ってくる四、五人を、太刀のひと振りで薙ぎ倒し 悲鳴は、すでに止んでいた。しかし、その余韻がまだ、ルー・風 たズ 1 ニイが、ひと声叫んで、靄の中へ突っ込んだ。 の耳に残っていた。それだけの時間たった。ただそれだけの間に、 O O — >-äが続く。その後を、ルー・風も追った。 (.50 少佐の姿は完全に崩れ果て、掻き消えた。 びりりと肌を刺す刺激を感じた。 亡霊を生み出す霧が、生身の彼を逆に溶かし込んでしまったの そして、ルー・風は見た。