えただけで、身ぶるいがきた。 するようなエネルギー源は存在しない。 しかも、あの惑星の円盤の 惑星はすべてのディス。フレイのなかで着実に大きくなってきてい縁を見てみたまえ。ほら、輝きが弱くなっているだろう。わたしの 4 2 た。ディス。フレイの鮮明度が増してくるにつれて、わたしはふい目がおかしくないとすれば、あれは大気のせいで縁が暗くなってい に、なぜ目の前の画像と頭のなかのイメージがつながらないかに気るんたーーー今度は大気だそ、宇宙空間と同じくらい冷たいはずの惑 がついた 9 ヴァンデルは目に見えているのだーー可視光線の波長星に。筋が通らん。まったく筋が通らん」 で。わたしはシ、ートにすわったまま、ディス。フレイの中心の、星々 わたしたちは〈マーガンサー〉のデータ・ ハンクからこちらのコ をちりばめた暗幕を背にして、おだやかな明るいビンクの螢光を発ンピーターに送信され、順次画面に表示されてゆく内容を見つめ する、小さな球を見つめた。見ているうちに、その表面に、きらきた。ふいに、左手のディス。フレイで狂ったように色彩が渦まいたか らと光るごく細い線が無数に走るのが見えるようになった。 と思うと、純然たる暗黒が映しだされた。マッカンドリュ 1 、はそれ マッカンドリ 1 もその姿を見つめていた。彼はひとっ驚きのうを見やり、毒づいた。 なりを発すると、両手を顎にあてがい、前に身を乗りだした。二分「この意味を説明してくれんかね、ジー = ー。ジャンとスヴェンの 間黙「て観察してから、彼はターミナルに手を伸ばし、ひとっ簡単接近の最終段階では、ヴァンデルはスペクトルの可視領域であのよ な質問を打ちこんだ。 うに見えていたーーー暗黒そのもので、目には見えなかったのだ。そ 「なにをするつもりなの ? 」さらに二分後、ロをきく気配を見せなれが、その二日後にきてみると、われわれの目にはちゃんと姿が見 いマックに向かって、わたしは訊ねた。 えている」 「〈マーガンサー〉のメモリーになにが入ってるか知りたい。彼ら 船が接近するにつれ、着実に大きくなっていくヴァンデル。その が最初に接近したときの画像が入っているはずだ」うなり声をあ姿を映しだした中央ディス。フレイにマックは手をふって、「停泊軌 げ、かぶりをふって、「この画面を見たまえ。ヴァンデルがこんな道に乗ったとき、ウイクランドが作成した記録を見てみるがいいー ふうに見えるはずはないんだ」 ー可視光線の輻射、熱の輻射、大気の気配、いずれもなしだ。とこ 「可視領域で見えるなんて驚きだわ。でも、なぜ見えるのかはよくろがわれわれの記録ではどうか。惑星は見え、温度は氷点よりも高 わからない」 く、雲に覆われている。まるでウイクランドが描写した世界は別に 「ネルギーの供給源があるからさ」彼は肩をすくめたが、その目あって、われわれはまったくちがう世界にきてしまったかのような はディス。フレイに釘づけになったままだった。「いいかね、ジ 1 ニ あんばいだ」 あの惑星にエネルギーを供給しうる唯一の源は、内部にしかな マックはしばしば、わたしには想像力がないという。だが、彼の しかしこれまでわたしの聞いた範囲内では、あの周波帯でこれ話を聞いているうらに、ロにこそ出さなか 0 たものの、わたしの頭 ほど多量の輻射を行ない、な . おかっ長時間にわた「てそれを可能とのなかにはあるとほうもない考えが駆けめぐりだしていた。人間が
していた。暖炉のちらっく火をたよりに、かろうじて見えるぼんや ・ホーダムは賢しげにうなずいた。「四十年あまりもわしはここで りした物のかたち、そして、壁にはめこまれた二つの窓。 暮らしてきた。大瀑布の上から落ちてくるものなら、見せてあげよ 「あの窓も、やはりご自分で ? 外をのそいてもかまいませんか 求ーダムは付け木を暖炉の中につつこみ、それでラン。フに火をつ 「どっちも、作るのにまる一年ずつかかったよ。そのペンチのヒにけると、カーターについてくるよう手招きした。二人は部屋を横ぎ 立ってみなされ、ちょうど いい高さになる。特別製の強化ガラスで ポ , ーダムはランゾの明りを大きな鐘形のガラス容器に近づけ な、しつかりはめこんであるから、まわりの壁とおんなじように丈た。 夫た。こわがることはない。近寄ってごらん。窓は安全だ。ガラス 「これが岸に流れついたのは、もう二十年も前だったな。体じゅう のとりつけぐあいをよく見りやわかる」 の骨がぜんぶ折れていた。それをわしが剥製にしたんだ」 カーターが見ているのは、ガラスではなく、外の大瀑布たった。 カーターは顔をガラスにくつつけ、靴のボタンのような目と、大 この建物が落下する水にこれほど近いとは、 いまのいままで知らなきくあいたロと、とがった歯をのぞきこんだ。四肢は不自然にこわ かったのた。断崖のいちばん端に載っかったここからは、右手にあばり、毛皮におおわれた胴体には妙なでこ・ほこがある。ポーダム る黒く濡れた花崗岩の絶壁と、はるか下のほうの泡立つ大渦巻のほ は、けっして上手な剥製師とはいえない。しかし、おそらくは偶然 かはなにも見えない。あとは、正面ぜんたいと、上はどこまでも、 にだろうか、その動物の表情と姿勢の中には、ある恐怖感がうまく すべての空間が大瀑布に埋めつくされている。これだけの厚さの壁とらえられていた。 でさえ、その轟音を完全にさえぎることはできない。指先をガラス「犬ですね」カーターはい「た。「そこらの犬によく似ている」 に触れてみると、水の衝撃がびりびり伝わってきた。 ポーダムは気を悪くしたらしく、どなり声としてはこれ以上ひや 窓は、大瀑布が彼におよ・ほす影響を弱めはしなかったが、そこにやかなものはないほどの声が、返ってきた。「そりや似とるかもし 立ってそれをながめ、考えることはできた。これは外ではとうていれんが、そんじよそこらの大じゃない。、 しまもいうとおり、体じゅ できなかったことだった。それは溶鉱炉の火をのぞき穴から見るよ うの骨が折れとったんた。ほかに、どうして大がこの湾の岸に流れ うな、いや、地獄を窓からのぞくようなものだった。身の危険なしつくわけがある ? 」 にそれをながめることはできるが、むこう側にあるものへの恐怖は「すみません。そんなつもりでいったんじゃない。 もちろん、大瀑 弱まらない。 と、なにか黒いものが、落下する水の中にちらりと見布の上から落ちてきたに決まってますよ。わたしがいいたかったの え、たちまち消えてしまった。 は、こういう意味なんです。みんなの飼っている大にあんまりよく 「ねえーーあれを見ましたか」彼は呼びかけた。「なにかが大瀑布似ているから、ひょっとすると、あの上にはまったく別の新しい世 の上から落ちてきた。いったい、なんたろう ? 」 界があるんしゃないか。大も、なにもかも、ちょうどこの世界とお 6 3
れのまったく知らない別の世界があるんですよ」 て、見ませんか。まだ落ちてくるかもしれない」 ・ホーダムは棚の上のカツ。フをとるために、力強い腕のひと振りで ポーダムは、流しでゆすいでいたコーヒーポットをがちゃんと置 3 カーターの手をもぎはなした。 いた。「あんたの新聞は、わしのどういうことを知りたいんだね ? 「わしの大は大瀑布から落ちてきた。わしがそれを見つけて、剥製ここで四十年以上も暮らしてきたからな、おもしろい話はどっさり にしたんだ」 あるよ」 「もちろん、あなたの大もそうです。それは否定しません。しか「あの上には、なにがあるんですか ? 大瀑布の上、あの断崖の上 し、あの船にはひとびとが乗っていて、誓ってもいいがーーーわたしには ? あそこにも人が住んでいるんでしようか ? あそこには、 は正気ですよーーー彼らの肌は、われわれとはちがう色でした」 われわれがまったく知らない、別世界があるんでしようか ? 」 「肌は肌さ。肌色をしとるだけだ」 ポーダムはロごもり、眉をひそめて考えこんでから答えた。 「そうです。われわれはそうです。しかし、ほかの色をした肌だっ 「あの上には、きっと犬がいると思う」 てあるはずじゃないですか。こっちがそれを知らないだけで」 「ええ」カーターは拳で窓の下枠をなぐりつけながら答えた。笑っ 「砂糖は ? 」 ていいのやら、泣いていいのやら、よくわからなかった。水は落下 「おねがいします。二つ」 をつづけ、床と壁はその威力にびりびり震動した。 カーターはコーヒーをすすった。苦くて熱いコーヒーだった。知「ほら、あとからあとから落ちてくる」カーターは、静かにひとり らず知らず、彼はまた窓ぎわにひきよせられた。彼は外をながめ、 ごちた。「どういう物だか、見分けもっく。あれはーーあれは木じ コーヒーをすすりーーそして、ぎくりとした。なにか黒くて形のさやないかな。それから、あれは柵の一部分。もっと小さいのは、死 だかでないものが、上から落ちてきたのだ。そして、ほかのもの体か、動物か、丸太か、それともほかのなにか。大瀑布の上には、 も。水しぶきがまた家のほうへ吹きつけられてきたので、それらが 別の世界があって、その世界ではなにか恐ろしいことが起こってる なんであるかはわからなかった。底にコーヒーのかすが残っているんだ。なのに、われわれはそのことをなにも知らない。あそこにど のを見て、彼は最後の一口を飲まずに、カツ・フをていねいにわきへんな世界があるかも知らない : : : 」彼は拳が痛くなるまで、石の上 置いた。 をなぐりつけた。 ふたたび、気流の変化で水しぶきの幕は一方に吹きよせられ、つ太陽が水の上に照りつけ、そこに変化が生まれた。最初はあっち ぎの物が落ちてゆくのをちょうど見てとることができた。 こっちに、ちらちらと見えたものが : 「あれは家だ ! まるでこの家みたいにはっきり見えた。しかし、 「おやーー水の色が変わってきた。ビンク色だ。赤じゃない。どん 石じゃなく、木でできているらしい。それに、もっと小さい。おまどんそれがふえていく。あっ、いまなんかは一瞬真赤になった。血 けに、半分焦げたみたいに黒くなっていた。あなたもこっちへきの色だ」
ないような〕状態なんです。子宮の中、というか、羊水の 犯して欲しくない ) ちなみに。ぬいぐる 中。とするとーーー逆説的に言うと。ぬいぐるみさん自身 は、おのれが売られていたことを知りません。故に、持ち みさんの自我は、買わ れて、おうちへつい 主たるあなたが、不用意な発言さえしなければ、ぬいぐる みさん、いつまでも自分が売られていたことを知らずにす て、包装紙をやぶられ みます。 た時に発生します。こ あ、だからここで注意しなきゃいけないのはーー人にあ れについては、あまり げようと思って買ったぬいぐるみは、本人があけるまで、 にも御都合主義ではな 決して包装をといちゃいけないんです。それをすると、ぬ いかって意見もあると いぐるみさん、混乱します。混乱 捨てられた子供の悲 は田いいますが : : : どう 袁まで、味わっちゃいます。 考えても、ぬいぐるみ 「千二百円だった」 さんの自我、おうちへ ここまで、この原稿を読んできてくださった方なら、も つく前に発生したとは う、お判りでしよう。この台詞のどこがいけないのか。 思えないんですよね。 「欲しければ買ってあげようか」 というのは。ぬいぐるみさんの自我というものは、かな この台詞は、ぬいぐるみさんを、絶望のどん底におとし り流動的で、持ち主の感覚によってずいぶん変わってしま いれます。 うのです。ま、大変おおまかなーー素直な子だ、とか、ち こういうのって、いくら気をつけていても、わりと日常 よっとひねてる、とか、我儘だ、とか ところは持ち主 的にでてきてしまう会話だからーー・、だから、余計、気をつ が誰であってもかわりませんが、同じ素直であっても、そ の素直さの = = アンスというものが、持ち主によ「て相当・第を、心、けましようね。 変動するのです。とするとーーーその真の持ち主に出会うま では、ぬいぐるみさんの人格形成「て、できようがない筈「 なのです。 0 まり。売場にいる時はぬいぐるみさん、まだ生まれて第斌 9 6
でいた。カーティスたちも、遠くの戦いながら、息をこらして見つ強靱そのもののからだっき。全体に貴族めいた風采の持ち主だ。 これがウムスロポガース。ズールきっての戦士の印象である。 めているようだった。その戦いの結果に、私たちの命運がかかって ウムスロポガースはひややかに私たちを眺めたが、やがて私に気 いることを、よく承知していたのだ。 ふたりは、なおもめまぐるしく戦い続けている。いまのところふ付くとその目におどろきの色が走った。ゆっくりと立ち上がった。 。二十年近くも会わずにいたのだ たりの力は互角のように見える。足場のわるい斜面で、さながら舞ズール人の記憶力はきわめていし 踊のようにしなやかな動きを見せていた。 が、私が誰かすぐに分かったようである。 クース・・ハ / ・、よ ! この世の最大の知恵 と、斧で横殴りの一撃をくわえようとしていたウムスロポガース 「おお、マクマザーンー が、草にすべったらしく、前のめりに倒れた。すかさず隊長がおど者、ライオンより賢い男、象を殺す男よ ! 勇敢なる男、敏捷な りかかるとアサガイを突き刺そうとした。だが一瞬はやくウムスロ男、用心ぶかい男よ ! : : : 狙った相手を一撃で倒す男、死ぬまで友 ポガースは横に転がるとはねおきた。土にめりこんだ槍を抜くのに人の手をはなさずにいる男よ ! まことの友人よー わずかに手間取った隊長めがけて、すさまじい勢いで斧をふりおろ 熱狂的な挨拶がなおもながながと続きそうだったので、私はいそ : 隊長の首が一瞬血しぶきをあげて宙を飛んだのが見え いでさえぎった。 ・ : 元気そうで た。胴体だけの体が、ゆっくりとのめり落ちた。 「ウムスロポガース。偉大なるク】ス。わが友よ。 それまで徴動だにしなかったズール人たちが、い っせいに槍をう ちふって喚声をあげた。ウムスロポガースは斧をふってそれに応え ズール人はことばをもてあそぶ種族としても知られている。美辞 た。ズール人たちは槍で楯を打ち鳴らしながらきびすを返すと、勝麗句をちりばめた長い挨拶を好むのだ。気がむけば、三十分でも一 者をたたえる歌を歌いながらゆっくりと姿を消した。 時間でもしゃべりつづけることがある。クースとは″族長〃という 私は次の瞬間、思わず牛車のあいだから飛び出していた。カーテ意味で、・ハ・ハとは″父なる人〃という意味である。 ふたりの友人はウムスロポガースの魁偉な顔に気を取られている イスとグッドもあとにつづいた。私たちは丘を駆け上がっていっ た。ウムスロポガースは、敵の死体のかたわらに座り込んで、愛用ようだった。みじかく髪がちちれた頭に、ゴムでつくった輪を巻い の斧を、いつも身につけているらしい砥石で研いでいる。私たちのている。ケシュラと呼ばれるもので、ズールの成人した男のしるし 姿に気付いた筈だが、立ち上がろうともしなかった。・ ・ : 白人とい なのだ。・ ・ : さらに、その額には三角形の穴があいている。かって うものを馬鹿にしきっているのだ。 のはげしい戦闘の名残りである。 私たちが近付くとようやく顔をあげた。 彼が持っている斧は、長さ四フィートはあろう犀の角の柄に幅広 おどけたような口元。白いものがまじったもじゃもじゃのあごひの斧をはめこんだもので、みるも凄まじいしろものだ。 げ。鷹のように鋭い目。・ : ・ : 長身だが、針金のようにほっそりした「さよう。・ : ・ : わしはこの通り元気ではあるが、いささか悲しくも 5 9-
難波弘之 イラストレーション米田仁士 は、いわば、俺の事業の顔さ。 少し遅れるけど、〇コンマ何秒ってとこだ。ま、及第点だろ ? 俺の好きなもんは、女と金儲けだな。馬鹿言え。科学ってもんは 誤動作の確率は極端に低い。そのかわり、こいつの胴体の中じゃ、 ・、、。よ、今度の新事業も・ほろ モニター・スクリーンとスビーカーだけを頼りに、まるつきりいつ人間が利用するもんだ。儲けて何が悪しオ い話さ。まあ、聞いてくれ。 もと同じにやってもらわなきゃならない。できるかい ? 何十年も前にウッドストックで、でけえコンサートがあったろ。 もう″伝説″になっちまってるのか。馬鹿な若い奴が世界中から集 俺の名は : いや、そんなこたあどうだっていいやな。おい、 まってきやがってよ。愛だの平和だのと夢みてえなことほざきなが こんな野卑な口調だからってんで、俺のこと馬鹿にしてんだろ ? 俺はな、こう見えたってたいした野郎なんだぜ。オレンジってコンら、結局は俺と同じさ。セックスと葉っぱをたつぶり楽しんだって ビューター知ってるだろ ? ありや俺の会社だぜ。ただ俺は根っかわけよ。 あれをもう一度やるのさ。なに、金はいくらでもある。何十万人 らはみ出し者みてえなとこがあってな。だから表には出ねえんだ。 と集めてみろ。儲かるぜ。別会社作ってな、何とか・フロジェクトっ スポークスマンがいる。優秀な奴さ。知ってんだろ ? そうさ。 つも公式の席やパ 1 ティーや会議にはあいつを出すんだ。俺が出ちてやっ、あるだろ ? もう動いてんのさ。根回しも・ ( ッチリよ。政 まったんじゃぶち壊しだもんな。信用もっかねえだろうし。あいっ治力で、どんな大物・ ( ンドだってウンと言わせてやる・せ。 ◆ショート・ショート競作◆ 奧の手 56
高度へとポッドを上昇させていた。これからは母船を見つけるため からして、嘔吐寸前であったことがうかがわれた。 に、ぐるぐる惑星を周回していくだけでいい。 「嵐が襲ってきたときには、これはひどいと思ったけど」とジャン マッカンドリューは蒼白で汗びっしよりの額を手でぬぐった。ひ が口を開いた。「そんななまやさしいものじゃなかったわ。わたし てつきりポッドが分解してるんだどい顔つきではあったが、何分か前の瀕死の酔っぱらいのようなよ たちをどうしたの、ジーニー ? うすよりはましになっていた。 と思ったわ」 「わたしもよ」わたしは〈ルメットをはずすと、うしろに手をのば「たしかに意味が通らなかったさ」と彼はかすれた声で言った。 し、首すじゃ肩の痛む筋肉をもみほぐした。「ほとんど廃船一歩手「なにごとも、理解するまではなにひとつ意味が通らないが、わか コン・ヒ、ーターも死んじゃったし、通信装置もディス・フレイもってしまえば明白なように思えるものだ。〈ホアチン〉でポッドに なにもかもね。ともかく、なんて気ちがいじみた惑星なの、こ乗りこむ直前、わたしはあることがおかしいと気づいていたし れは。自然の法則は宇宙どこでも共通だと思ってたけど、ヴァンデスヴ = ンもまったく同じ疑問を抱いていたのだが、どちらもそれほ ルは特殊な例外みたいだわ。いったい全体、あなたたちふたりしど重要なことだとは気づかぬままだった。スヴ = ンたちが最初にこ こに到着したとき、ヴァンデルについて記録した物理的データを億 て、この星になにをしたの、ジャン ? あなたたちがくるまで、こ えているかね ? 電磁場もなく、自転速度もゼロに近いほど遅く、 こは墓地みたいに静かな場所だったのよ」 「もうすぐまたそうなるところだったのだよ」と「ツカンドリ、ー大気もなくて、地獄の底のように冷たい。この観測結果のどれかか ら連想されることはないかね ? 」 、もしきみがあんなふうに : : : 」 が言った。「ジーニー わたしはふたたび・ハッドを施されたシートにもたれかかった。こ 彼はことばを切って、その先をのみこんだ。「われわれにはなに が起こったのかわか「ている。きみがわれわれをばらばらにしてしの三十分、肉体的に酷使されることはなかったが、緊張のあまり消 まう前に三人で話していたのは、そのことだ 0 たんだ ~ もしわれわ耗しきっていたのである。わたしは彼を見や「て言「た。コ、ツ ク、わたしはクイズをやってられるような状態じゃないのよ。もう れがもう少しうまくたちまわっていたなら、嵐の前にそこまで推測 して、こんなことにはならずにすんでいただろう。離陸する途中、へとへとなの。頼むから、その先をつづけてちょうだい」 彼は同情の目でわたしを見つめた。「ああ。きみの言うとおりだ きみはわれわれの話をどれだけ聞いていたのかね ? 」 な。まずは、すべての発端からはじめさせてくれるかね。そのほう わたしはかぶりをふった。「あなたたちの声は閉めだしたじゃな が話もわかりやすい。われわれは〈マーガンサー〉のポッドが地表 いのーー。億えてるでしよう ? わたしにはほかに考えるべきことが あったんだもの。あなたは、下の大嵐の原因がわかってると言ってるに着陸するまで、ヴァンデルがきわめて静かだったことを知ってい わけ ? たしか、まったく意味が通らないって言ってたと思うけど」る。その着陸後数分のうちに、大規模な地震活動とすさまじい電磁 喋りながらも、わたしは〈ホアチン〉とランデヴーできる正確な場の攪乱が起こった。地震の波が惑星全体に広まっていたのは、先 2 5 7
たくなかったんだ ) ついで。『どこで買ったの』。これも、決してぬいぐる 何故ならば。ぬいぐるみ、というのは、種族名だからで 第みの前では言「てはいけない台詞です。何故「て。 す。 ( おまけに、人間が勝手に決めたイメージとして、な第 しいですか、この一言で、ぬいぐるみさん、自分が売物 あんとなく、生きていない、人格がない物体のような感じ 、ムであった、自分は買えるもんだって事実を、知ってしまう をんです。これがショッ クでなくて何ですか。 もっきまとってるし ) ( 昔、あたしこれで失敗したことがあるんですよね。とあ だって。たとえば人の家へ行って、そこのうちの子供が る人にぬいぐるみ買ってあげて、その人が同じぬいぐる でてきた時に。 み、もう一つ欲しいって言った時。 「あれ、この人間、あなたうんだの ? ね、ちょっとこの 人間抱いていいかな。あ、ちょっと、人間ったら、照れな 『あ、じゃ、もう一つ買っときましようか ? 千二百円で いでよ」 『ちょっと ! 』 「やー、うちの人間まだ五つだから、人見知りすんのよ」 と、その人、真剣になって。 こんな会話を、常識的に考えて、します ? 常識的に考 『いいの、今の。この子 えて、許せます ? ( これをする、許せる、と答えた人は、 、聞いちゃったよ』 その時、あたし達の間には、間題のぬいぐるみがいて : も、この続き、読まなくていいです。あなたはぬいぐるみ の扱いが悪いんしゃない、、 単に失礼なだけだ ) 当然、ぬいぐるみさんには固有名詞ーー・ - ・名前というもの があるのです。 ( 何 ? あなたのうちのぬいぐるみには名 前がついていない ? じよっだんじゃないわよ。すぐっけ なさい。ただちにつけなさい。今つけな綣い。これは、ぬ いぐるみのレーゾン・デートルに関する題です ) 名前が ある人を、名前で呼ばないのは、それは失礼というもので す。 だから、先刻の会話の冒頭はこうなるべきなのですね。 「ね、この子、 x x っていうんだけど、可愛いでしよ」 あ、しまっ た』 二人して慌 てて話題変え ーて。これは失 い敗でした。こ ういう失敗 を、他の人に 0 8 6
彼は薄暗い部屋に向きなおると、微笑をうかべようとしたが、唇いてある」 がめくれて歯をむきだしただけだった。 「うん。しかし、意味がわからん。わしの知らん言葉だ」 「わたしもです。これでも四カ国語が話せるんですがね。これにな 「血 2 ・そんなはずはない。全世界から寄せ集めたって、あんなに にかの意味があるんでしようか ? 」 たくさんの血はない。あそこではなにが起こってるんだ ? なにが 「あるはずがない。こんな言葉に」 起こってるんだ ? 」 彼の絶叫にもポーダムは驚かず、うなずいて同意を示しただけだ「人間の言葉じゃない」カーターは唇を動かして、その文字を読み ーしナ「ただ、そのあげた。「エイチ : : : ィー った。「いいものを見せよう」とポーダムよ、つこ。 ことは書かんと約東してくれ。みんなの笑いものになるかもしれん「なんのことだ、とは ? 」ポーダムはいっそう大声でどな った。「子供が書いたんだろう。意味などあるもんか」彼はその紙 からな。わしはここで四十年以上も暮らしてきた。それは笑いごと きれをわしづかみにすると、くしやっと丸めて、火の中にほうりこ じゃない」 んだ。 「名誉にかけて誓いますよ。一言も書かない。ぜひ見せてくださ 「わしの記事を書きたいんだったな」ポーダムは誇らしげにいっ ひょっとしたら、上で起こっていることと、なにかの関係が : た。「わしはここに四十年以上も暮らしてきた。もし、この世界で ただ一人、大瀑布についての権威がいるとしたら、それはわしさ。 ポーダムは大きな聖書をとりだし、テー・フルの上、ラン・フのわき 大瀑布のことなら、わしの知らんことはなにもないよ」 で、それをひろげた。中のページはくろぐろとした活字で印刷され ていて、実にいかめしく、印象的だった。そのページをめくってい くうちに、やがてごくふつうの紙きれが出てきた。 「これも岸で見つけた。冬のあいだにな。その前の数カ月、だれも ここに来ておらん。大瀑布から落ちてきたもんかもしれん。そうだ といっとるんじゃない。そうかもしれんというだけだ。あんたも、 その可能性はあると思うだろう」 「ええ、もちろんその可能性はあります。でなくて、どうしてここ で見つかるというんです ? 」カーターは手をのばしてそれにさわっ た。「たしかに、ごくふつうの紙きれだ。破りとったみたいに、片 方がちぎれている。くしやくしゃなのは、濡れたのを乾かしたから ですね」彼は裏を返した。「おや、こっち側には、なにか文字が書
SF 側Ⅳ W 『魔獣狩り』 夢枕獏著淫楽編 248 頁 / 暗黒編 238 頁 / 鬼哭編 248 頁ネ云社 / 新書 / 各 690 円 ・ (J)D ー〇ー・テーマやスタイルみたいな型の部分とこだわりや勢いといった流れの部分、翻訳と日本の本とで入り込み方がどうやらまるで逆らしい。 『魔獣狩り』が完結してしまった。どうせのミイラを盗み出した謎の宗教組織〈ばんし 〈キマイラ〉とおんなじで、話が収拾しない がる〉。高野山から派遣された異端僧美空、 でずうっと続くと思いこんでたものだから、他人の意識の底に潜り込む〈精神ダイ・ ( ー〉 虚を突かれてアセった。・ほくたけでないみた九門鳳介、復讐鬼文成仙吉の超人三人がそれ いでね。「わっ、終わってる ! 」とアセってぞれの目的を抱え〈ばんしがる〉に果敢に挑 レジにとんでったのが知ってるだけでも数人んでいく。 ゥーム。読んでる時は一気であって気にな 走り出したストーリーがとどまりもせず拡らなかったけど、こうやって咀嚼してるとど がっていくのも。ハワーなら、終わりそうもな うも TJ としてはもうひとつよろしくない。 い話を強引に完結させるのもパワーだ。今の小説としてではなくとしてね。 夢枕獏にはたしかに勢いがある。プロックバ あとがきで触れられているように スターにのつかったところはある文成仙吉にリードされて作品が組み けれど、少くとも今のところは状立てられていったせいだろう。獣人 悟が伝わってくる。喰らい喰らわ逃げまどった男が屈辱にまみれて修 こ一れ、ひとつにくつつく黒御所とい業を重ね、復讐の念に燃えて蟠虎を うのは今の作者にほかならない。 追うーー、 - ・となると空海もばんしがる 最終的には喰らわれてしまうのでも精神ダイ・ ( ーすらけとばされてし ないかという不安はある。寿行でまう。それは言ってみれば『幻獣変 れどシン・シッダールタ・ゼンに照応する。 さえかなりの部分を喰らわれてし化』でシッダールタの代わりにシンが主人公 にもかかわらず、『幻獣変化』をはじめて読 ま「たという思いがある。あるにな「たみたいなもので、そういうかたちでんだときに感じたものたらなさと、『魔獣狩 が、今のところはプラスに出ている。作品にあの本を読み返してみればいし シンが主人り』を読み終えたときの満足感は、あるいは 勢いがある。のりがある。のりだけでからっ 公だと、魔境ファンタジイが唐突ににな読書の醍醐味というのが結局どのようなこと 。ほの話でも強引に読ませる勢いがある。誤ってしまうあのクライマックスには絶対なら が聿冖かれているかということより、作者にど を招く言い方だけどね。「この本は絶対におないはずである。 れだけの勢いがあるか、そしてそののりにど もしろい」とあとがきで書いてるところに賛『幻獣変化』を久しぶりで読み返して驚いたれだけ読者を巻き込めるか、その一点にかか 否がわれているけれど、この文章は調子を落のは次々と開陳されるイメージとアイデアの っていることを意味しているのかもしれな とした時に非常にやばい背水の布陣だ。あえ数。めったやたらと詰めこまれている。『魔 い。かもしれないだからね、絶対そうだと絶 てそういう状況に自分を追い込む姿勢は真似獣狩り』三冊の数倍はある。それどころか対言わない。 これは危険思想なのだから。 できないだけに感動する。 『魔獣狩り』に出てくる設定、イメージの相そしてもひとつ。『魔獣狩り』の勢いを借 で、『魔獣狩り』である。 当数が『幻獣変化』のなかから派生してい りて読み返した『幻獣変化』は初読みのとき 不老不死の秘密をもとめて高野山から空海る。文成・九門・美空の三人も少しぶれるけよりずっと充実して読めた。