ロの増加で飽和状態にあった人類にとって最高の福音であった。人「事件は、標準時間で十二日前に、アスラヴィルで発生した 類は宇宙に乗りだし、地球型の惑星を捜して植民を聞始した。 部長は言いながら、あたしとユリを交互にじろりと睨んた。どー そして、三十年。人類は銀河系のほ・ほ全域に進出し、三千以上のやらユリの軽口が聞こえたらしい。あたしはごまかそうと、せい℃ 太陽系に植民星を得て、あらたな国家を形成した。地球から独立しつばい愛らしく微笑んた。部長は顔をしかめて、それに応じた。 た植民星は、惑星一つを行政の単位としているので惑星国家と呼ば「実に他愛のない事件だ」軽く咳払いしてから、部長は言った。 れている。惑星国家のうちでも資源に富み、国家予算に余裕のある「鉱山技師の一人が、正体不明の動物に足を噛まれたのだ」 国はさらに別の惑星に移民を送り、独自の統治領を持った。統治領「へ : の多くは貴重な鉱物や元素を産出する鉱業惑星である。 あたしは耳を疑った。 かくて富める国はいよいよ富み、地球連邦もかくやという大国へ「噛まれたんだ。足をがぶりと : ・ : ・」 と発展していくのである。チャクラを保有するマンダーラは、いわ部長は一語一語くぎりながら、ゆっくりと繰り返した。 ばそういった惑星国家の代表のようなものであった。 「生命は ? 」 「チャクラは開発をはしめてから、まだ日が浅い」部長は言葉をつ あたしは訊いた。 づけた。 「無事だ」 「みなみのうお座域という辺境にあるので、なかなか発見されな「足がもげたとか ? 」 かったのだ」 今度はユリ。 「銀河系のヘりじゃない」 「ちゃんと、くつついている」 ュリが言った。ようやくまともなことを話すようになった。たし「じゃあ、すごい重傷」 かに、みなみのうお座宙域は銀河系の一番端っこにあり、この「全治三日だ。歯型が残ったが、それも一週間で消えた」 本部のある惑星リオネスからはなんと十一万光年以上も離れて「そんなの事件にもなってないじゃない ! 」 あたしは叫んだ。どんなにチンケな事件であろうと中央コンビュ 「人口はおよそ一万五千。まちは大陸の真ん中に一つきりだ。しか ータが派遣を決定したら現地に飛んでいくのがの犯罪トラ し、一応、都会らしい外観は整っていて、人口の大半は、そのまちコンとはいえ、これはあんまりだ。こんなの、あたしたちの任務じ あん ーアスラヴィルに集中している」 ゃない。現地のハンターか、警察の兄ちゃんが処理することだ。 「鉱山町なんて、遊ぶとこもないし、 しし甲もいないのよ 「驚くのも無理はないが : : : 」 ュリがあたしの耳もとで囁いた。ためた。まだ、まともじゃな してるんじゃない しかつめらしい表情で部長が言った。べつ、彦、 ゃい。怒っているんだ。 ほほえ ー 5 2
しか私たちには言えませんね。でも、そう もちろん″再生″をテーマとするものは当に重要なものとなってきたように思いま いう時代から考えると、今はなんと恵まれみな、というわけではありません。僕す。えらいこ「ちゃ。 ているのでしよう。みなさん、もっともつ自身まだをよく知りませんからね。 ( ペンネーム・川崎のりお ) 0 と本を読みましよう、ね。 ( 田 ) の定義をやろうとは思わん。ただ、こう いう見方もできる、ということです。 オールディスの定義を拡大解釈した大田 もう一つ。「ユ ート。ヒア探し・ : : ・」で角 虫垣氏の小文が契機となったらしく、ワイド どうも、はじめて手紙を出します。とい ハロックに関するおたより れられた、「全体小説」。その概念はよくスクリーン ってもたいした話じゃないんですが。 わかりませんが、文字通り「世界全体、人が、この他にも何通かありました。 しかし、オールディスの定義をもとに論 父親が買ってきた一冊の雑誌。あの岩波間全体を書こう」というものなら、それは が出した季刊「へるめす」の創刊記念別巻によって可能なんじゃないですか。大じたものは何一つなく、全て、感じで述べ しささかがっかりさせ です。すごかったですな。その誌上シンポ江氏が言うように、それが『吉里吉里人』られていたのには、、 ジウム「ユート。ヒア探し物語探し」。大によってなしとげられたのなら、なおさらられました。 江健三郎、井上ひさし、筒井康隆の三氏にの側のものといえるでしよう。そうい / ロックと 何冊かのワイドスクリーン・ よる討論の記録です。 えば二月号の本欄で大田垣氏が「八〇年代呼ばれるを読めばわかると思います その中でのに対する強い意識ー の TÅはワイドスクリーン ノロックだ」がワイドスクリーン ・ ' ハロックとはスペ ゃー、久しぶりに感動しましたよ・たとえと発言され、国産での代表として『宇 1 ス・オペラを継承するものであり、雄大 ・ば大江氏の、次のような発一一口。 宙船オロモルフ号の冒険』をあげられましな舞台に奇想天外なアイデアを濃密度につ 「 ( 戦後の文学は ) 片方は死を主題として た。僕は『吉里吉里人』もワイドスクリー めこんだ、深遠さと軽薄さをあわせ持つ、 ・推理小説的な方法をもつ。もう片方は再生ン ・・ハロックだと思うのですが。ひょっと ;.æならではの小説なのです。 がテーマで、的な方法があると : : : 」すると「全体小説」とワイドスクリーン・ 今までなかったわけではなく、ヴァン・ ・″再生″をえがく方法としての。こう ハロックは非常に似たものなのかもしれなヴォ 1 トやベスターの作品にそういう型の ワイドスクリーン いう方向からを見ると、かなり今まで ハロックのいわゆは存在していて、オールディスが『十 の考え方も変わるのではないか。「逃避文る「凄さ」とは、小説全体の気違いじみて億年の宴』の中で、それらをワイドスクリ 学」というへの悪口がありますが、こ複雑で混乱した構造に由来するものだと思 ハロックと命名したことから、この ・の「逃避」というのは再生への方法の一つ います。もし「世界全体」を書くとすれ言葉が定着してきたのです。 0 ではないか。そんなことも考えたわけです。ば、同じように複雑で混乱した構造をつく『十億年の宴』とまでいかなくとも、『キ 事実、「つまり悪夢から醒めたいのでりあげなければいけないんじゃないたろう ャッチワールド』と『カエアンの聖衣』の す、物語の力を借りて」 ( 大江氏 ) などのか : : かなり強引に結びつけてしまった。解説ぐらいは読んでおいて損にはならない 発一言もありましたし。 しかし世の中にとって、 ;-q 的思考が本と思います。 ( 阿 )
里子にだした、キャナがいますが ) ここで特筆すべきは、里親になってくれた人の愛情で すね。その人、何やかやとモナ達の世話をやき、モナっ て可愛いんだよって日々言ってくれて : で。モナは、ルナに苛められてひがむことさえなけれ ば、元々はとっても可愛いティルなんです。そもそもブ ス・コン。フレックスを抱く方がどっちかっていうとおか しい、どっからどう見ても、美人のティルなんです。 里子にだしたとはいえ、仮にも親ですから。あたし、 頻繁に、その友達の処へティル達の様子を見にいきまし た。それはほんとに : : : 驚くような、変化よ。 女の子って、あんたは可愛い、あんたは可愛いって言 われ続けると、ほんとに可愛くなっちゃうんです。病は 気からってよく言いますけれど、そんなもんなのかも知 確実に、本当に、モナ、可愛くなってゆくんです。可 愛くなってしまったんです。 で。 もともと美女たったんだし、今ではもうどっからどう 見ても可愛いティル以外の何者でもない。こんな状態 で、本人が自信を持ってしまうと。もう、槍でも鉄砲で ももってこいって気分になっちゃうんですね。誰に何と 言われようと、あたしは可愛いティルなんだ ! って具 合に、盛り上がっちゃう。 今ではもう、わが家へ帰ってきてますが、ルナにおび えてた当初の影なんか、形もないの。リナ・ティルもそ うですが、何か一つのことに自信をもってしまうと ( リ ナの場合、あきさんが一番好きなのはあたしたって自信 ね ) 、大抵のことは何とかなるみたいです。モナ・ティ ルの場合、その自信の根拠は、『自分は美しい』ってい う事実でしたが 別に、それじゃなくてもいいみた マナ・ティルみたいに、知性に根拠をおいた自信で も、それなりこ、、 いししこに育つようです。 要するに。無意味なーー・・あるいは、それなりの根拠は もっていても、それを持っていることが何の足しにもな らない コンプレックスを持っているぬいぐるみに 別な面での自信をあたえてあげること。これは、な かなかいい方法のようです。 ・ : と、書いてきて。枚数が、尽きました。 ( ってい うか、本当はもう、ラストまで書いちゃったんだよね。 で、それが : : どうも行数計算したら、予定の倍近くに なっちゃったのお ) だもんで、不本意ながら、今回はここで切ります。で ・ : その : : : 三回連載の予定が、四回連載になってしま ったのでした。 次号にもう一回、のりますんで、よろしく。
どうしてそうだとわかったと思う、モー 「そうです : : : でも、このさい杓子定規なことはいわないことにし ませんか、 e ・重大な情報があるんです : : : 彼は昨日よりまた っム 彼女は首を振る。 いちだんと疑惑を深めていますよ。連転手のチャ 1 ルズと秘書は : 「覚えているだろう、先月、新聞に載っていたことを」 「ええ、例の強盗の一件ね ? 」 「プロジ = クトのメイ ( ーの名前と職名には触れるな」・がそ 「そうだ : : : あれは家の前で起こったんた。ぼくと運転手が同時に つけなく警告した。 車から下りたところへ、やつが生垣のうしろから現れてリポル・ ( 「うつかりしてました。ー 14 とー 1 の報告によれば、本部の を取りだした。ところが、そいつが、有り金を出せ、と言いおわら = ージ = ントが偶発的な出来事に見せかけている仕事に、彼がしだ ないうちに、まわりから一斉射撃が起こってね : いに疑惑を深めはじめているそうですが、それは当たっています 警察の話じゃ、そいつは弾を二十六発も食ら「ていたそうだ。だよ。彼は絶えす監視下におかれていることを完全に感づいていま れが射殺したんだと思う ? ぼくを護るためにや「たんだ、ほかにす。尾行を追いつめようとしたようです・・・ : ・」 理由が考えられるかい ? なぜ連中は正体を現さんのだろう ? 」 「ああ、承知している。 e ー 2 が五分前に報告してきた。その試み タールの椅子が、背後のテーブルの椅子とぶつか「てかすかにきは失敗したよ。 , 5 の迅速な判断には感謝している」 しんた。その椅子にすわっていた男が不意に立ち上がって、レスト ー 3 は早ロで淀みなくしゃべった。電話回線にとりつけられた ランの建物の中へ消えた。 レコーダーが、ファイル用のテー。フに = ージ = ントのことばを記録 べつの男がその席〈すわ「た。一瞬、モードの目が相手の目と合してい 0 た。その内容は、中庭のテー・フルでタールが秘書と交わし った。彼女はすぐにタールに視線をもどした。 た話であった。 ・は一度たけ口をはさんだ。それは、秘書が新聞を読みあげ 町の中ほどに目立たないビルが建っている。その五階にあるオフ たことにー 3 が触れたときたった。 イスで電話が鳴った。せこけた冷静な表情の中年男が電話にで 「光速について聞かされたとき、彼は反応を示したのか ? 」 こ 0 、え。しかし、ー 1 には今後二度と引金になることばを口に 「もしもし ? 」 しないように警告しておくべきだと思いますよーー・・あなたがおっし 「本部ですか ? 」 やるように、それが行動を誘発する可能性があるんでしたらね」 「ああ、こちらは本部た : : : わたしは本部長だが : ・ : こ 「彼女にはよくいっておく」・は請け合った。 「ー 3 です。報告を送ります」 「任務に復帰させてもらえませんか ? 」ー 3 が訊ねた。 「きみは正式に任務を外されているんじゃないのか 「ためだ、訊くまでもないだろう ! 同じ任務につけるのは一カ月 ? 」彼は不意に訊い
「ぼくは尾行されている」タール・・フレントは女秘書を歩道まで安「謎ですって ? 」モードは眉を吊り上げた。 全にエスコ 1 トするといった。「間違いないよ、モード。確信がな「そうとも、謎だ。なぜかという疑問のすべてに答えを出さなきや ならない : : モード、きみも知ってのとおり、たった三年前・ほくは きや、こんなことはいいやしないさ」 彼女は眉をひそめていたが、ようやく車の警笛がおさまったの無一文だった。ところが、いまの・ほくはどうだーー百万ドル近い財 産がある」 で、人通りの多い歩道で彼のほうへ体を寄せてきた。 「ばかばかしい ! 」彼女は唇をす・ほめていった。「尾行されている「でも、そんなことは秘密でもなんでもないじゃないの。事業をは んですって、あなたが ? 冗談はよして ! 」 じめたのは、十万ドルの遺産を : : : 」 彼は真昼の人込みの中を足早に進みながら、左手にちらっと目を「会ったことも聞いたこともない親戚から相続したからだ」彼は秘 やって商店の柱をながめた。それは鏡張りになっていて、背後一帯書のことばを補った。 「そんな親戚がいたなんて、真面目な話、いまもって眉唾もんだと の光景を映しだしていた。 思っている」 モードはなんとなくあたりに目を走らせた。 二人はつぎの交差点で信号が変わるのを待った。彼はふたたび肩 「どうしてあなたをつけたりしなきゃいけないのかしら ? 」 「一週間分の給料を賭けたっていい」彼は質問を無視し、鏡から視越しにうしろをうかがう。そして道を横断した。 「それにだよ、すごい経営の才能があって事業に成功したともいえ 線をそらさなかった。 「つけてるやつは、茶の帽子をかぶった細縞のスーツを着ている男ない」彼はつづけた。 ・こ : : : 待て ! 」彼女の腕をきつくつかんだ。 「いま振り返っちゃだ「きみも知ってのとおり、なにをやってもやたらとついていたから めた ! 」 : 仲買人がこっちの指示を書き間違えていなかったら、つい先 二人は店の前を通りすぎてしまったので、鏡に映っている相手の週もぼくは株の相場で五万がところ大損をしていたところだ」 姿は、もう観察できなかった。 「すてきな間違いね」彼女は笑った。「五万ドルの利益をもたらし 「どのみちすぐわかる」 てくれたんでしょ ? でも、どうしてそんなことを気にするの ? モードはからかうような笑いかたをした。 わたしだったら、つきに見放されないかぎり、そんなふうには考え 「まだ訳を聞かせてもらっていないわ、尾行されるような訳でもあないわ」 るの ? 」 タ ールはお婆さんの横をすりぬけ、斜めに歩道を横切って、テー 「ずいぶん長いあいだきみは秘書をしている。だから、ぼくのことブルを並べた日除けで覆われているレストランの中庭のほうへ秘書 は多少わかっているはずだ。ぼくには自分で解かなくちゃならない を引っぱっていった。 「しかし、モード、過去三年のあいだに起こったことは、なにもか いくつかの謎がある。尾行がつくってこともその一つなんだよ」 233
「なにがあったの ? 」 彼の目が考え深げになった。 「逃げられてしまったよ」タールは彼女の隣に腰を下ろしながらい 「不可解なことが進行していると思い始めたのは、なにも昨日今日 のことじゃないんだ」彼は腕を組んでテー・フルによりかかった った。「絶対に間違いない。あいつはぼくをつけていたんだ」 彼女は声をあげて笑うと、前の客が椅子の上においていった新聞「最初に変だと思ったのは、遺産のことを知らされてニューヨ】ク を手にとった。 へやってくる途中のことだ。金がなかったから、貨物列車にもぐり 「こちらのほうが話題としては面白そうね。ほらーーー〈物理学者、こんで乗り継ぎながらやってきたんだが : : : ところが、あぶなくこ 光速に新説 : : ↓」 こへ来れなくなるところだった。小さな駅でちょっとした事件が起 「ぼくのやることにひどく興味をもっているやつがいるとしたら、 きてね。列車が待避線に入ったときに、ぼくは操車場にいた酔っぱ それはなぜだと思う ? 」タ 1 ールは顎をつまんで、じっと宙をにらんらい二人と喧嘩をおつばじめてしまったんだ。 連中が割れたビール瓶でぼくをかたづけようと思えば、ものの一 「〈本日、少なくとも三名の著名な合衆国の物理学者が : : : 〉」彼女分とはかからなかったはずだ。そいつらが瓶を振りまわしながら近 はかまわずに新聞の記事を読みつづけた。「〈ランドル・ステフィ づいてきたときだ、貨車のあたりから浮浪者が三人現れて、酔っぱ ントン博士が計算した光速の新しい数値を確認した。それは昨日スらいを片付けてくれたんだよ。ところが、こっちは礼をいう間もな テフィントン博士が実験室で立証したものである〉 かった。連中があんまり姿を消すのが早すぎたんでね。 「〈三人の科学者がそれそれ個別に実験を行ったところ、光の速さ それいらい、なにか事があるたびにそれに似たようなことが起こ は、秒速一〇二、三〇一・一マイルであって、これまで考えられてる : : : 車の流れに足を踏み出しそうに見えると、きまってどこから いたよりも、八四、〇〇〇マイルほど遅いという同じ結論に達したともなく人が現れて、腕を抑えるし : : : ョットに乗ってでかけて も、波が少し荒くなると、どこからか・ホート が飛び出してくる : 彼は不意に笑いだした。 「わかったよ、きみの勝ちだ」 数週間前に、そうしたことをつなぎ合わせて考えてみるまでは、 ウェイターが現れて注文をとっていった。ー : 彼よすわったまま黙りどの事件も無関係でべつだんどうという意味もなかったんだ。とこ こみ、秘書は彼の顔に刻まれたしわをじっと見つめていた。そのまろがいまじやわかっている、全部一つの。 ( ターンにびったりとあて ま数分が経過した。 はまるんでねーーー個人かグル ] 。フか知らないが、ありとあらゆる手 「タール」ようやく彼女が口をきいた。「あなたがそんなに考えこを使ってぼくを保護するために最善をつくそうとしているものがい むのなら、もうその話題を避けたりするのはよすわ : : : 早くかたづるってことさ。肉体的にも、経済的にも、考えうるかぎりの手立て けてしまいましよう : : : 」 をこうじてだよ :
わが国は東、西、南の三方を高い山脈にかこまれ、外敵の侵入をさぼり食ってしまうのじゃ。 ふせぐ天然の防壁となっておることは、あんたがたもご承知じやろ さしものわれらも、かれらに抗することはかなわなんだ。たちま ち追い立てられ、国じゅうが大恐慌におち入ったのじゃ」 しかし北側だけには山がなく、谷がひらけている。昔はしばしば「待「てくれ、カファー」 そこから黒人の部族が侵入して来たが、ここ四、五十年は絶えてな 私はロをはさんだ。 けんめいちせい っこ 0 ・ : 内乱がおわったあと、イグノシ王の賢明な治政によっ 「そのおそるべき軍隊を指揮しているのは、 いったい何者なのかね て国は栄え、戦士たちの数もふえ始めた。 しかしとっぜん、その北の谷から外敵が侵入して来たのじゃ。半 カファーはぼんやりとかふりをふった。 年前のことじゃった。わしらの父親たちが戦った黒人の部族につい 「その姿を見たものは、誰もおらぬ。 どう : しやがでは、世にも美 ては、話をよく聞かされたものだ。かれらは獰猛で、死をおそれぬしい女人だという。精霊のように美しいが、同時に魔法もっかい、 ぐんゼい おそ 戦士ではあったが、しよせんわれらの敵ではなかった。 部下の軍勢はうやまうとともに大いに畏れているということじゃ」 だがこんどの敵は様子がちがった。まずかれらは黒人だけではな 私はカーティスと顔を見合わせた。 く、白人もまじっておる。 ・ : 白人たちはちょうどあんたがたと同 世にも美しい女人。精霊のような姿。 じように、黄金いろや栗いろの髪、白い肌を持っておる。 あの″夢″で見た女人の姿にそれは重なる。彼女は、やはりこの かれらは光りかがやく甲胄で身をよろい、白衣をその上にまと「世に存在していたのか。 ておる。腰に剣をおび、槍と楯をもち、そして馬と呼ばれる動物に ( 以下次号 ) 乗っておる。シマウマに似たけものじゃ」 読者諸氏はこのことばを奇異に思われるかも知れないが、ククア ナには馬はいない。戦士たちはすべて歩兵である。したがって初め て騎兵を見た時のおどろきは、大きかったにちがいない。 「かれらのよろいは、わしらの槍やトーラスも受けつけぬ。かれら せんれつ の″馬″は狂暴で、わしらの戦列を苦もなくふみにじってしまう。 しかも、おそろしいのは、かれらが伴って来た黒人たちじゃ。や むかし つらは、われらが昔相手にした部族とはちがうらしい。忌むべき食 人種なのじゃ。その姿かたちは人間というより、巨大な猿に似てお る。われらを倒すと、素手で胸を引き裂き、心臓をつかみ出してむ かっちゅう
発言者の隣にすわっていた男が、その肩に手をかけてむりやりす ・がささやくようにいっこ。 ) 「はい」彼女は身震いをした。「あれが彼とは関係なく独自に行動わらせた。拳を握りしめて彼はいった。 「たしかに e ・のいわれるとおりです。たとえ、あれがもしわれ を開始したということです」 「しかもだ」彼は手をテ 1 ・・フルの上にのせた。「事実上、問題がわわれとコンタクトしてくれたとしての、われわれの秩序をそのまま にしておいてくれる可能性は、百に一つでしよう」 れわれの手から完全に離れてしまったということでもある : : : 参考 「みなさん」マーセラが立ち上がった。「事態がそんなに絶望的な ヒタゴラスの定理だ」 のために教えると、今度の場合は、。 んでしたら、ああいう恥ずかしいことをーーあんなインチキをわた 「ビタゴラスの定理 ? 」彼女は舌をもつれさせながらいった。 しがつづけなくてはならない理由がわかりません」 「そうだ。定理が成り立たなくなってしまったんだ。これまでは、 「しかし」・は非情な目をした。「きみにはそうしてもらうし 直角三角形の二辺の平方の和は、斜辺の平方に等しいという定理が わかっておらんのだよ、きみは ! きみだけが唯一の頼 受け入れられてきた。ここの数学部が、調査。フロジェクトをつづけかない ! ていて、つい一時間前にその定理が成り立たないことを発見したんみの綱なんだ ! 」 だ。もちろん一般の科学者たちがそのことを知るのは、まだ数日先「なぜ、あんなことをつづけなくてはいけないんですか ? 」彼女は のことだ。数学部の連中は、それがいっ起こったかも突きとめてく食いさがった。「わたしはファイルに目を通しました : : : 彼のファ れた。あの火事が発生したときと時間が一致するんだ ! 」 しい人です。立派な人だといってもいいわ。それにとって も純真なんです、あの人は。彼を愛するようになったのはまったく ふたたび静寂が部屋を支配した。 の偶然からです。こんなふうにだましつづけるなんて、わたしには テー・フルの端にすわっていた男が立ち上がった。 「提案があります。事態がここまで進行した以上、われわれに残さできません。わたしたちがこれまでやってきたように、彼を愚弄す れているのは、彼を呼んで、彼の意識と潜在意識を通して、あれとるなんて真似はもういやです・ーーこういう恥ずかしいことが、あれ と戦うか、おとなしくさせるかするための武器にもならないんでし の接触を試みるしか方法はないと思いますよ」 「やめろ ! それはだめだ ! 」メンデルがトど。どが、冖 町んナナ彼の狂ったら、よけいにそうです」 たような抗弁は、ほかのものが抗議する声に掻き消されてしまって「しかし」本部長は承服しなかった。「われわれがだましている相 手は彼じゃない。彼の背後にいるものだーー彼の中にいるやった。 聞こえなかった。 「そんなことは不可能だ ! 」 e ・は反対派にくみした。「まるでそいっからわれわれは身を守ろうとしているんだそ」 話にならん。やつが、こちらのことをコミニュケーションをもっ価「結局のところそれは彼なんだわ、わたしにはそうとしか思えませ 値のある存在だと見なしていると思っているのかね ? あいつがなん」彼女はいいかえした。 にかに価値があると見なしているとでも考えているのか ? 」 「きみに一役かってもらうことが、この計画の一部になっているん 256
SF REVEEW ラヴ・ペア・シリーズ①『魔女でもステデイ』 岬兄悟著 / 284 頁 / 0 円 / 文庫 / 早川書房 く、本人の人柄そのものの魅力なのだろう。呼んだ。ちっとも日常ではないにせよ、これ 岬兄悟を読むのは風にプギ」以来である。 ) 設定は版「ケる星やつら」といったとは平井和正や、大変身夢枕獏や、或いはとん 後輩の大学生青年が、「これいい、絶対いい、 七、タミステリクラブ ころで、とりツきの絵がとてもかわいくてで林真理子やなにかと同じ一面をもっている 最高、 , このごろサチ ( 要するに >—O) では岬兄悟がびかいちの注阯株」だと力説すよくマッヂしている。あの、コイン・ランドと思う。岬兄悟については、それでまったく るから、読むことにしたをなるほどいい、、少 リーにいっそ裸の女の子をひろう話は何だつよいのであって、どうこう云うのではない 少失礼な云いかたになるが、】ずいふん小説がけな、似た話があら = たなゞと思 ~ っそ ) 上く考ー , = 、。 = が ) 少し、 = 不安な気がしないで駕ない。い うまくなったなあ、と感じた。正直いって、 えたら「風にプギ」だった。突然出現する正の読者は、そういう「願望充足小説」に自己 まだ固いなあと思うとこ、ろもかなりある。体不明の美少女、というのは、物呪悟の根源同一化して、それをせこい日常をファンタジ ーに変える魔法とするのだろうか。それはそ 「小説道場」で直したいようなささいなとこ的なファンタジーなのであろうと思う。本人 ろ ( たとえば「この会社に就職してから、すがあとかき下ぼく好みのせこい日常フア、 でに半年近くたつが、早ぐもうんざりしていッジョ」とい、つはいるのは名言で 0 何が何な た」というようなここは , 「まだ、、、をのかさ「ば屮解決をつけずにおわ「ている前 半年にしかなら いが早も」の = 一篇はとなもよく、「向うの世界」が出て か、「すでに半年近くに亠な「 ' ぐる・→ート一 = イ一 = ル」にな不 て、すっかりうんざり」のどっちると、少し彼のよさ減殺される。↓かし かでしよ。「すでに」と「早く杉山がいろ詼動物を想像するシ…ンはす ) 」 も」、、を組みあわちゃおかしい 、、よ ) がときどき、として文章に私自身はそ「せこ日常ファタッ」 見られるし、決まり文句の出しかというやつが番苦手で、 , せこく ~ ない非日常 たやなんかが、また決まるところ′ファンタジⅱでないとダメなのだが 0 岬兄怦 までい 0 てなくて読んでいて少々′の感性や、をのよ 0 てきたるところは「、ぐ 、、、、、】な ? とも田 5 う。 ) 。んによぐ合 気恥かしいときもあるし、人物のデフォルメ伝わるし ももう少しやわらかくなるといのにな、と 0 ていて、ムリをレていオいところがいちば ( れでいいが、時には、日常そのもを根源から 。今後、す ) 」い変身をみせてくれるもゆさぶられる読書経験をもあわ持 0 てほし 思う。しかし、そこが気になって読めない、 ということはなくな 0 てきたし、岬兄悟の場よし、いつまでもそのぼく好み」一をし、みじ 。新井素子や岬兄悟個人は私は好きだが、 合、その固さがひとつの持ち米い = 魅力どもなーーみとつらぬくもよしゞいずれに、せよ「 = = 彼のよーーかれらの小説しか読まない若者は私にはペム の如き存在に思える。「願望充足小説」が小 っている。他の若手作家と比べてみてとてもさを大切にしてほしいと思う。 好ましいのは、他の若手が、うまくなるのとそれにしても、考えてみると新井素子は自説の本道になって貰っては、やはり辛いので ひきかえにナイ , ーヴさをどんどん失い、いわ分のキャラや空想が実体化する話ばかり基本ある。小説は元々願望充足的側面をもってい モチーフにしているし、岬兄悟のは「美少女るにせよ、その根源の幻想はやはり世界解釈 ば悪ズレしてくるきらいがあるのに対して、 岬兄悟はナイーヴさをのこしたまま、すんな突然出現」ともいうべきで、いみじくもの野望であってほしいのだ。裏表紙の写真は りとのびてきたことである。これはおそらこれをの編集長は「願望充足小説」とすごくかわいかった。また遊びに来てね。 ・ <ND()< Z<Y<N—>< ・臻堂進君、私の文がああいうものだってことは私のあとガきを読めば誰だって知ってる。文法ミスと同一線上で論じないでほしいね。
各惑星国家から銀河連合に出向してきているか、直接、連合に採用 された人ばかりなのだ。 蒼空に躍りでた。 しかし、だからといって、これはひじようにやばかった。とにか 高度を低くとり、三体の影とムギを捜す。 くやばかった。あたしたちは犯罪トラコンだから、同じ銀河連合の かれらの移動ルートは、すぐにわかった。わざわざ捜すまでもな ってみれば戦闘員である。だが、このまちに住んでい 。通ったところは炎と煙に覆われているからだ。そこだけ建物が職員でも、い かき消え、道路が抉りとられ、 = アカーや・ ( ス、トラックがひ 0 くる職員の大部分は、非戦闘員である。かれらをこんな危険にさらし ていいという理屈はあり得ない。なんとしても早急に影どもを捕捉 りかえっている。燃えているのは、おもにそういった乗物のたぐい し、その戦闘力を奪わねばならなかった。、」 だ。ビルはほぼ完全に崩れているので、あえて火災を免れている。 「いた ! 」 たまに半分ほど残った建物が火を噴いていたりするが、それは少な 通信機にユリの声が飛びこんできた。キヤノ。ヒー越しにユリの機 い。まちは緊急車両のサイレンと野次馬の暄噪とでかまびすしい 体を見ると、降下にかかっている。右三十度の方角だ。あたしも遅 その合間合間に爆発音がびりびりと響く。 あたしは呪いの声をあげた。先ほどの嫌な予感は、実にこのことれじとレバーを操作した。 ハ二で地上に突っこむ。 を指していたのだ。一つだけ救われることがあるとすれば、それは いきなり、前方に聳え立っていたビルが砕けた。部長のデスクが まったくの民間人に被害を与えていないことである。 リオネスはの惑星だ。大陸は目立ったのが三つほどあるばらばらになったのと同じような感じだ。ビルの中央よりちょっと が、そのどれもにの主要な施設が置かれている。ことに最上のところが、細かく裂けて破裂した。ビルは、そこで二つに折れ 大の大陸アラーディアには、この本部のある都市、ダンプ・ユウる。 ( いまあたしたちの眼下に広がっているまち ) が存在し、もっと重あれだー 崩れ落ちるビルの蔭からやつらがあらわれた。いびつな三角形の 要な活動を日夜、繰り広げている。 ーー。世界福祉事業協会編隊を組む三つの邪悪な影。 まっすぐに、こちらに向かってくる。 O 0 0 —— 0 Z ) は民間の私的な企業ではな 。また財団でもない。全銀河系で三千余に及ぶ惑星国家が加盟し ている銀河連合に付属するれつきとした公共事業機関の一つだ。し しわゆる民間人とい たがって << の惑星であるリオネスには、、 うのは一人もいない。みんな銀河連合の職員なのである。ドラッグ ツ。フの売り子も、一人残らず、 ストアの店長も、ハンパ ( 以下次号 ) 3