言っ - みる会図書館


検索対象: SFマガジン 1985年4月号
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1. SFマガジン 1985年4月号

私はデスクに向かって、褐色ペリカンの状況についての報告書を「とりあえす、それしかわかりません」 きまり悪げに長官が言った。私はあと何秒間か厳しく長官を見詰 読んでいた。と、その時、国務長官がとびこんできて、 め、むこうが進退きわまっているのを他所に、勝ちを決めた。ペリ 「大統領閣下」 カン報告書に眼を戻し、退「ていいと言ってやる。私なら絶対に、 と眠を剥きながら、 進退きわまるようなことはしない。近い所で、職務中に進退きわま 「エイリアンが来ましたツ」 った大統領というのは、たったひとりしか思いっかないけれど、そ ″ェイリアンが来ましたツ″私だっ まったくもう、こうくる。 の人がどうなったか誰でも知っている。国務長官が執務室を出てド 。ししか、わかるわけがないじゃないか。 て、どうすれま、 アを閉めた時、私は = ッコリした。ェイリアンも、たぶんそのうち 「なるほど」 には、いやったらしい問題になるだろうが、まだこちらの問題では ″なる 私はそう答えた。第一期の初めのうちに憶えたことだが、 ない。少しは時間がある。 いかなる状況で使うにしても、安全で便利至極 ほリ」″ A 」い、つのは、 とはいえ、べンギン問題に集中できないのにも気がついた。合衆 なコメントなのだ。私が″なるほど″と言う時、それは私がニュ スを腹に収めたこと、更なるデータを物わかり良く物静かに待 0 て国大統領とい「ても、多少の想像力はある。仮に国務長官がしい いること、を意味する。それでポールを補佐官側「ートに打ち返しなら、しきにそのィリアンどもに会わざるを得なくなるだろう。 たことになる。私は期待をこめて国務長官を見や「た。これで向こ子供の頃には、 = ィリアンの小説も読んだし、映画やでは、あ りとあらゆるエイリアンを見た。が、今度のは、本当にお喋りに立 うに何も付け加えることがないような場合、こちらの次なる発言は ち寄った一ィリアンなのだ。とにかく、別世界からの客人の前で阿 というのた。これは、 決まっている。次なる発言は″それで : 私に問題は把握できたこと、しかし充分な情報なしでは行政決定を呆面をする、最初のアメリカ大統領にだけは、なりたくない。事前 オ ! ヴァル . オフィス 説明よ受けておきたい。私は国務長官に電話をかけ、こう言った。 ーししかないこと、その情報もないのに大統領執務室にと一一ー日。 下すわけこよ、 「こういう万一の場合に備えて、何か計画が立ててあるはずだろ びこむべきではないことを、意味する。なればこそ、外交儀礼とい う。ありそうな状況のためには、何だって計画があるんだから」 うものがあるのであり、なればこそ正規な手続きがあるのであり、 これは本当の話だ。国防総省ときたら、ありとあらゆるシナリオ なればこそ補佐官がいるのではないか。有権者の皆様は、充分な情 報もなしに私が決定を下すことは望んでいない。長官がそれ以上をを取揃えていて、リヒテンシタインに帝国主義ファシストが勃興 伝えることができないのなら、そもそも、とびこんできてはいけなするとか、全世界のセレ = ウムが一気に涸渇するとかいう、とんで もない事態にも対応できるのだ。 かったのだ。私はもうしばらく、長官を見やり、それから、 「ちょっとお待ちください、大統領閣ド」 「それで : : : 」 と長官は言った。誰かに囁いているのが聞こえる。私は受話器を と尋ねた。 3

2. SFマガジン 1985年4月号

と伝えてくれ、ルイス。それなら誰かを、そうさ 「ありがたい、 定するまで、地球人に姿を見せないでくれ、と。これは私の推測で すが、政府はそこまでやらなかったんでしよう。で、ヌー。フが去るな、三十分後に寄越してもらえるかな」 オーヴァル・オフィス と、この件を研究しただけで棚上げにした。年月がたつうちに、そ「現在、スー。フの御三方が、大統領執務室に向かっています。ひと りは今回の遠征隊の隊長、もうひとりは母船の司令官です」 もそも最初の会見があったことすら知る人がいなくなったんでしょ う。今回、ヌー・フは大挙して来ています。民衆の心構えもそろそろ「母船 : : : 」 できている頃だ、とわ。歓迎されて当然、と思っていた節もありま と私は訊きかえした。 して」 「まだご覧になっていませんか。モールに繋留してあります。ワシ ントン記念碑にやってしまったことは、大変申し訳ないと言ってま 「ふうん」 して、明日にも何とかするそうです」 と私は言った。何を言っていいやら、さつばりわからない時の、 私はただ身震いして、電話を切った。秘書を呼んで、 普通の返事だ。 「もちろん歓迎する、と伝えてくれ。アイゼン ( ワー政権での、そ「もうじき三人 , ーー」 の研究が完了しているとは思えんな。この知らせを一般に伝えるた「いま、お見えになりました。大統領閣下」 私は、ため息をつき、 めの計画が、実在するとも思えない」 「残念ですが、大統領閣下、そういうことのようです」 「お通しして」 「ふうん」 そうして、私はスー。フに会った。アイゼンハワー大統領と同じよ 共和党員ど、もなんて、そんなもんさ、と私は考えながら、 、 : レイス。アイセ ニコニコと握 「ちょっと、そのヌーゾに尋ねてみてくれなしカノ ヌー。フは見栄えのする民族だった。気立てもいい。 ンハワーに何を教えたか、知っているかどうか。宇宙の知恵に満ち手し、この歴史的瞬間を写真に撮ってはどうか、と言った。それで マスコミを呼ぶことになった。そうなると、我が全政治生活でも最 た諸君のことだ。もしや、これをどう処理すればいいか、アイディ アがあるかもしれない」 重要の外交会見を、いわば即興で果たすことになったのだ。まずヌ しフを地球に歓迎した。 またも間があって、 「大統領閣下、アイゼンハワー氏と話したのは、ゴルフのことだけ「地球へようこそ。そして合衆国にようこそ」 「ありがとう」 トの矯正を手伝ったそうです。でも、知恵 だと仰有ってます。 と答えたヌー。フは、あとで。フリーンという名前だとわかったが、 に満ちているのは確かです。いろんなことを知ってます。私のスー 「来られたことを喜ばしく思います」 。フがーーーっまり、 ーヴと言うんですがーーーとにかく、言うには、 「どのくらい御滞在ですか : : : 」 喜んでアドヴァイスしたい、そうです」 5

3. SFマガジン 1985年4月号

たまえ」 す。 「はい。門外漢としての意見を述べさせていただきますと、そう、 構造的には、こいつは有機的電子回路です。金属元素は、そのた 寄生生物が非本来的な生命活動を行った場合、ふつう利益を受ける めに使われています」 のは宿主ということになっています。寄生という事実を、何らかの 「電子回路 ? 」 「そうです。生育に関するかぎり、そんなのもは必要ないにもかか見返りによ「て、宿主に容認してもらうわけです。ただし、この場 合、寄生と言うよりーー」 わらず、この、″もじゃもじゃ〃の全身が、一種の電子回路の役割 を果たしています。つまり、コン。ヒュータの支援システムのような「共生ね。 フェリスが。ほっりとつぶやいた。 「コン・ヒュータですって ? すると、そいっーーーその″もじゃもし「その通り。共生と呼ばれます」 「しかし、どよーーこ や″には、知性があるの ? 」 つかみかかれそうな論点を見つけて、勢いこんだスタンが水をさ 丿ー・チャン・ケイオムは、ゆっくりと首を横に振った。一 「ないでしよう、おそらく。われわれの定義によれば、コンビューす。 タには知性はありません。それは、単なる電子信号ネットワークに 「この場合、寄生されたのはナヴコムだろう。しかし、コンピ「一 , ー すぎない。一定のルールに従って、そのネットワークを利用する者タのほうは、あまり利益を受けていないようだけど」 「いかれただけだ」 がいて、初めてそれは、論理機能を持つのです」 と、ヒロノリが同意する。 ハジム・スファラダが首をひねった。 「″もじゃもじゃ″の場合はどうなるんですか。今の考え方は、基「そのへんは、私にもわかりかねます。何と言っても 本的には正しいと思うけれどーーー」 「専門外、だろ」 丿ー・チャンは軽く肩をすくめた。 「ありがとう、スタン、そう言おうと思ったんだ」 「どうかね、ハジム。何か意見は」 「基本的には、そのへんは私の専門外です。応用生物学か、生態学 ンヤレレ : 、 ノノカ足を床につけ、再び腕を組み直しながら、″工学 の領分でしようね。それからーー」 「電子工学」 屋″のディス。ハッチャーをうながした。 「ありがとう、ソリア。そう、電子工学と情報工学基礎論だ。そう「そうですね、生物学のことはよくわかりませんがーー」 いった分野は、むしろスファラダさんのほうが詳しいんじゃありま「やれやれ、先生も″専門外″かい」 そもそもそういったものに″寄生″されて、″利益を得る″ せんか」 チャン、先を続けとしたら、いったいどんなことが考えられるでしようか ? 」 「自然科学分類命名法はもうけっこうだ。リー・ 4

4. SFマガジン 1985年4月号

か、あるいは、その危機に瀕していた可能性があります」 合いを象徴してます」 暢気なものだ、と、ソリア・スヴ = ンソンは思った。巨大な鉄と 「それなら、たいていの建物がそうだよ。 ミックとコンクリートの塊が、次々にこの船におそい ガラス、セラ そっけなく、スタンが言い放つ。 かか「て来るというのに、みんな博物館の話などしている。 「いや、選択の意図のようなものが感しられます」 ソリアは、右舷スラスターの一列をふかし、 " フィンランディア 「それにしてもーーー」 総合商品流通管理センター″をやりすごした。 賛成とも反対ともっかぬ表情で、シャルルが言った。 「あんなものを軌道に浮かべて、何の意図が , ーー意味があると言う「とにかく、そこには誰かの意思の存在が感じられる、そうだな」 と、船長が断定的に言った。 んだね。あるいは、そんな幻覚をわれわれに見せてーーー」 にたいしたことではないのだというふうにう チャンよ、」 ーーかも知れません。しかし、今のところ、現実のように見 「幻覚ー なずいた。 えるものを疑っても、たいして意味はないでしよう。機器は、ビル 「しかし、誰の の存在を記録しています」 1 ・カーが割って入った。 と、スタン・ 「それはそうだ」 「 ( ジムが見たというものーー・・奇妙な異星人の、かい」 「だとしたらーー」 ( ジム・スファラダは、自分の体験を茶化されたような気がして 1 こ、 ジム・スファラダが一一一口った 「軌道に浮いた建物には、何らかの意味がある、ということになり横を向いた 「かも知れません」 ますね」 し J リー・ チャンがかわりに答える。 「少くとも、そう考えたほうが、建設的と言えるだろうね」 ソリアは、胸の奥底から、むずがゆいようないらだたしさと、は 「博物館、かしら」 「きり正体をつかむことのできない、異常なほど強い怒りがわき上 フェリスが自信なさそうに言った。 がって来るのを覚えた。 「博物館 ? 」 全く、男たちときたらー 「ほら、あるしゃない。古い建物を保存する協会とか 「何のために 「誰かが保存しているというのか、あれを ? 」 ヒロノリ・ガムは、疑わしげに肩をすくめた。 ヒロノリの言葉に、フ = リスは肩をすくめて口をつぐんだ。 「何のために、そいつはそんなことをするのだろう」 「あり得ないことではありませんね」 「人類の減亡を記念するために、というのはどうですかね」 ・チャンが助け舟を出した。 1 カーが皮肉な口調で言い、自分でもそれを信じてい スタン・ 「あの建物は、五十年乃至百年前に、既に失われてしまっている 9-

5. SFマガジン 1985年4月号

とかこの約東を成就させるまで、堪忍袋の緒を切らすまいと思っ と ) ( リイが言った。口調が、ひどく面白がるようで、信しられな いというふうだ。 「私、スーラは好きよ」 と一アイクシイが一一一口う。 私が大学にいた頃の話だが、二年生の時のルームメイトが、バリ 「ま、そりゃあね」 イ・リンツという痩せて背の高い男だった。・ ( リイはモジャモジャ と・ハリイは一一一口い の黒髪で、鋭い顔つきだったが、その顔は、本来ならハンサムでま 「スーラも別に、悪くはないけれど」 ともな顔の上に誰かが尻モチをつき、ふたっ折りにしたようだっ 「どういうこと : : : 」 た。やたらに顔をしかめたのは、視力に問題があったからではな 「・・チャ 1 チは知ってるかい : く、自分が常に世間の値踏みをしているという印象を与えたかった からだ。これは真実でもあった。人がたまたま出くわした物に、何とパリイ。 「・誰だって : : : 」 についてでも、実勢価格と市場価格を言える男だった。 と私。 フット・ホール試合のある、とある週末、私たちは同じ市内の別な 「来てごらん」 カレッジの女の子たちとダ・フル・デ 1 トした。試合の前に落ちあっ ・ハリイに引きずられるようにして、みんなアメリカ絵画の展示室 て、女の子たちを大学美術館に連れて行った。かなり大きな美術館 で、立派な収蔵品を誇 0 ている。私の相手はブリジ , ドという名に行「た。・・チャーチ ( 一八二六ー一九〇〇 ) はアメリカ人 の、可愛いらしい初等教育科学生で、私たちふたりは展示室から展の素晴らしい風景画家で、驚くほど美しい輝きを示していた。 バリイが感に堪えぬように言った。 示室へと歩き回りながら、お互いの美術への嗜好がとても似てい る、と言いあっていた。ふたりとも印象派が好きで、超現実派が好「あの光を見てくれつ。あの空間をつ。あの空気を見てくれつ」 ・フリジッドはディクシイにチラリと眼をやり、 きだった。ルノワ 1 ルの小品が二枚ばかりある所では三十分ほども 楽しみ、あとは、マグリットやダリやデ・キリコの画の中で何が起「空気を見る、ね : : : 」 と囁いた。 こっているかについて、学生らしい他愛もない冗談を言いあった。 立派な画だったし、みんなそう言った。が、・ハリイはしつこい。 ・ ( リイとお相手のディクシイと私たちとは、たまたま彫刻の間で ・・チャ , ーチこそ、アメリカ史を通じて最高の芸術家であり、 四人が通り過ぎる時、行き会った。 世界的にも最高クラスだという。 ・フリジッドがディ . クシイに言った。 「あっちに、素敵なスーラがあるわよ」 「チャーチなら、ファン・ダイクやカナレットと肩を並べられる」 「カナレット : 「スーラね」 - 1 0

6. SFマガジン 1985年4月号

オーウ = ルと医者は、遠ざかっていく所長の後ろ姿を、仲良く並 308 にも近づかなくなり、所長室に閉じこもって、終日、アル んで見送った。 カセルツア 1 をがぶ呑みしてすごしていた。 所長の背中は、すっかり打ちのめされた者のそれだった。 そんな所長を、医者が、一日に一度、必ず見舞いに訪れた。 二人は、どちらかともなく顔を見合わせて、肩をすくめた。 そして、こう言うのだ。 「あいつよ、、、 冫ししやっさ」 「〈イ・マック。ドールトンのやっ、今度は何に変「たと思う ? 」 医者が、言った。 「ドールトンの話はやめてくれ」 「ただ、現実を杓子定規に考えすぎるのが、玉にキズだけどな」 所長は、片手で眉のあたりをおさえて、顔をしかめてみせた。 オーウ = ルは、かすかにうなずいて、賛意を現わした。 トクター ? ・ 「わかってるのか、 明日は、やつの執行日なんだそ ? そして、言った。 ドールトンが今、どんな姿をしとるのか知らんが、そんなものを、 「ドールトンが、どこまで退行してるか、明日が楽しみですね」 検事局の連中の前に出せると思 0 てるのか ? 魚だかタ「だかカ = 医者が考え深げに言った。 だかわからない物を、それも、水漕に入ってるやつを持っていっ 「水槽を用意しておいた方が、いいかもしれん」 て、これが ドールトンですって言って、誰が信用する ? 」 事実、その通りになった。 「落ち着けよ、マック」 医者は、相手をなだめる手つきをして、言った。 「たしかに昨日までのドールトンは、生きていた。たとえ、アメー ・ ( みたいな、ぐちょぐちょの原形質のかたまりにな「ても、生きて 朝、 308 の扉を開けるごとに、ドールトンの姿は、過去〈過去いることに変りはなか 0 た」 へと遡っていた。 「そりや、どういうことだ ? 死んだのか ? 」 肢のある硬骨魚になり、アンモナイトになり、三葉虫になり、さ「自分の目で見てみろよ、「 ' ク」 らに下等な甲殻類へと退化し続けた。 医者は、所長を手招きしながら、言った。 「うまくいけば、死刑執行日までに、間に合うかもしれんそ」 「ドールトンがどうなったかを。やつは、今、 308 号室で、生命 医者は、言ったものだ。 の究極の姿に達したんだ」 「間に合う ? 」 「そうさ。ドールトンが次に何に変化するかは、おおよそ見当がっ所長は、しぶしぶ、ついてきた。 く。興味のあるのは、最後に、・ とうなるかだ」 308 の扉の前には、オーウ = ルが二人を待ち受けていた。 一方、所長は、日に日に青ざめていった。 「どうなってる ? 」 230

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さんが遊びにくる度、あきさんになついて。あき さんが来ると、「リナだよ』ってすり寄っていっ て。いつの間にか、あの過激なまでの、『リナ可 愛い ? 』がなくなり、あきさんがリナを判別でき るようになる頃には、妹苛めもすっかり影をひそ めたのでした。 あたしの場合、親ですから、どれか一匹の子を 特別に可愛いって言う訳こよ = = ー冫いかないんですよ ね。そういう場合、誰か、友達でも親戚でもいい ですから、その子を贔屓してくれる人を作るこ と。それができると、どんなぬいぐるみでも、随 分精神状態が向上します。 さて、モナ・ティル。 この子はとっても素直でおとなしくて、人の言 うことをすぐ信じてしまう子でーーで、一番ひど く、ルナの『プス ! あんたなんか・フスだ ! 』攻 撃にあったんです。 ( 早い話、一番美女だった の。ルナの苛めは、一種、あたしの愛をとられた 劣等感の裏返しみたいな処があったから、当然美 女のティル程苛められた ) で。モナ、素直に屈折しました。何かあるとと にかく『いいんだもん。モナ、プスだから何だっ ていいんだもん。何されたってモナ、ブスだから 仕方ないんだもん』って具合に納得しちゃって。 モナの・フス・コン。フレックスには、もう、ほと ほと手をやきました。どんなにあたしが『モナは 可愛いんだよ』って言ってやったって、あたしが ナそう言うのより、ルナに『プス ! 』って言われる 方が絶対数が多いですもんね。どう手をつくそう が、この・フス・コン、治りそうになくて。 で、もう、しようがなく、最後の手段に頼るこ とにしたんです。ルナとの隔離。どっちかのティ 、・、、′叱 - 一ルを里子にだそう。 ( これは、偶然、里親にと 0 ても適した人がいたからできた芸当です。普通、 里子になんか、だすもんじゃないです。確実に拗 ナ ノねますから ) いろいろ考えまして。ルナは、もう、極限まで 拗ねてる。とすると、そのルナを里子になんかだ したらーー・どっちに転んでも、ルナにとっていし 結果は得られまい。そんな訳で、うちに来たばっ かりで可哀想だったのですが、モナの方を里子に だすことにしました。それも、モナだけを里子に だすと、捨てられたんだって思われてしまうかも 知れないから、モナを含め、数匹のティルを。 ( これは、当然、美女ばっかでした。モナ程はひ どくなかったけれど、ポナも・フス・コンゾレック スを抱きそうだったし、ルナの風あたりは、美女 程当然きついので : : : あ、一匹だけ、別の事情で

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「これには趣味の余地などありません。極めて厳密かっ明確な批評花を咲かせてくれ。や「てみるがいい。戦争と貧困と疾病をなくし 、くつでも新しい知恵を示して、残飯処理すると ーベンの最高です。しかてくれ。し 基準に照らして、協奏曲第五番こそべー も、あの名作ですら、人類が生み出した最高傑作ではありません」わったら呼んどくれ」と。 ーいかに遠くか神のみ 恐怖が不信に変わり、それがじきに希望に変わった。スー。フは砂 私は少々不愉快になった。こんなスー。フこ、 こち ぞ知る怪体な惑星から来て、我々の伝統や文化とは一切のつながり漠に、本当に花を咲かせたのだ。連中は四カ月ほしいと言い、 ヘートーベンの第九が人らよ、 冫いくらでも時間をかけてくだすって結構、と言った。連中は のない . ー 会こ属する、こんなスー。フに 間の魂の内に呼び起こすものなど、わかってたまるものか。 ナミブ砂漠の周囲に高い柵をめぐらし、何をやっているのか誰にも ーティを催して、 「なら、。フリ ーン、言ってみてくれ」 覗かせなかった。四カ月後、盛大なカクテル・ 世界中に、スー。フの業績を御披露目した。私は国務長官を名代とし と私流に不気味な小声で、 「何が人類最高の曲なのかね : : : 」 て送ったが、それが素睛らしいスライド集を持ち贔ってきた。広大 ー』の音楽ですな。ミクロス・ロ , ーザ作曲」 「映画『べン・ な砂漠が、植物学上の奇跡に変じている。単調で生気のない砂と小 石の海に代わって、何マイルも何マイルも華開く植物なのだ。もち ンはあっさりと言う。私としては黙ってうなずくしか、 ろん、この巨大な植物園にはタチアオイしかない。何百万本という ないじゃないか。惑星間紛争を起こすほどの問題ではなかった。 こう言ってみた。地球の人間は、 タチアオイだ。私は。フリ , ーンに、 そして恐怖から、我々のヌー。フへの反応は、不信に変わった。ス もう少し変化に富んで、ついでに多少なりとも実用的なものを望ん フが本性を顕わすのを待ち続ける。人当りの良い仮面が剽がれ、 その裏にひそむはずの悪夢の相貌があらわれるものと待ちかまえでいたんだが、と。 。フリーンはこう応えた。 た。結局、スー。フは月曜から一週間たっても帰っていかなかった。 「どういうことですな、″実用的″とは : : : 」 地球が気に入り、我々が気に入ったという。いましばらく留まるの 「つまりーーー食料ですよ」 だそうだ。我々は自分たちについて、何世紀ごしの問題について、 ヌー。フに語った。すると、むこうは、ヌー。フお得意の気軽な口調「食料の御心配はいりません。もうじき、我々が飢餓についても何 で、ちょっとしたことなら何とかなるし、ささやかなお手伝をしまとかします」 しよう、そうすれば地球上のみんなにとって生活が楽になる、など「結構、結構。でも、タチアオイ : : : 」 「タチアオイで支障がありますか : : : 」 母船をモー と言った。そのお返しは求めない。我々の歓待ぶり 「ありはしませんが」 ル上に停めさせ、世界中でコーヒーのお代わりが無料ということー と言うのだ。我々はためらったけれど、 「タチアオイこそ、地球随一の美しい花です」 ーに感謝の意を表したい、 「蘭を好む人もおりますし、薔薇を好む人もおりますが。 虚栄心と欲が先に立った。「やってみてくれ」と言った。「砂漠に 7 3

9. SFマガジン 1985年4月号

こ 0 「そりやそうだよ」 「どうした、スタン ? 」 下から、スタンがわめき返す。 言いながら、シャルルはスロー・フの方へ歩を進めた。 「でなきや、こんなふうに六面の壁全部に操作盤くつつけるなんて 最初にスタンを見つけたのは、フェリスの方だった。 できないし、そうする意味もないさ」 「何してるのよ、スタン ? 」 「意味がないと言うなら、わたしには、こんなところにユニコーン 笑い出そうか泣き出そうか迷っているような口調で、フェリスは ・コントロールが存在すること自体、とんでもないナンセンスに見 彼に声をかけた。 「何してるって ? ちょっと、そのスロ , ー。フを下りてみろよ。おれえるな」 シャルルは、ビニロイン・ローゾの残りをとり出したが、どうに が何してるかわかるから」 下の床から三メートルの高さで、ゆっくりと自転しながら、スタもそれを扱いかねていた。無重力では、ロー。フを下ろすこともでき ンは答えた。 ないし、命綱を結びつける取手もない。 「フェリス、船長、飛ぶんだ。スロ 1 、。フをちょっと進むと、重力が 「くるくる回ってるように見えるわ」 「おれには、そっちがくるくる回ってるように見えるよ . なくなる」 ーカーは、緩慢な速度で床の方へ漂って行き、頭を下にして通そうするしかなさそうだった。何かの原因で、重力が戻ったとし たら、スロ 1 。フを上がって来ればいい。 信コンソールの一台にしがみついた。『 3 』という回路セレ クターが鼻の頭をかすり、モニター板上の通信モードが、『 ふたりは、飛んだ。シャルルは天井を経由し、フェリスは直接、 。号可のところ、 3 』に変わった。だからどうだってんだ、とスタンはひとりごちスタンのそばに到着して、手近の物にしがみつく糸ー , ーマンなのだ。 ふたりともスペースヒュ た。ジャズでもかけてくれるのかい 「いらっしゃいませ」 「フェリス、前へ出るな。スタン、そこは無重力なのか ? 」 と、スタンは声をかけた。 シャルルの問いに、スタンは逆立ちしたまま答えた。 「でなきや、こんな軽業みたいな真似はしませんよ。さっきなん「 ( ロー、御機嫌いかが ? 」 三人は、用心深く、ちょっと空中をとんだり、機械のキャビネッ か、いったん天井まで舞い上がったんだから」 トを伝わったりしながら、あたりを調べ始めた。 スタンは、星図を指差した。 「ふ 1 む、無重力か」 機器類は、三人の見る限り、埃をかぶった形跡もなく、正常に機 一ニコーンと同じね」 能しているようだった。もっとも、それは、ユニコーンの″模型″ 5 こういった装 が作られた時期について、何事も物語ってはいない。 不安そうに、右足を止げたり下げたりしながら、フ = リスが言っ、

10. SFマガジン 1985年4月号

「どうされるんです。コンビュータの選択を無視して、あたしたち を任務から外すんですか ? 」 「それは、できない」部長は弱々しくかぶりを振った。 「だから、こうやって、きみらと話しているんだ。きみたちは、こ 「言いたいことはわかっとる」部長はゆっくりと首を振りながら言 の事件の解決にもっとも適した人材だと判断された。願わくば、す っこ 0 んなりと、平穏無事に片付けて帰ってきてほしいのだよ」 「つまりは誰がやっても、そうなる事件だったと : ・ : ・」 「それでガキの哀れつぼい嘆願ディスクですか ? 」 「そうです」 「まあ、そういうことだな」 あたしはうなずいた。 「あの子、かあいかったわあ」 「今度の事件は、ノグロスのときよりもささいだ」 ュリが言った。今度は、あたしと部長が一緒に死んだ。 部長はもう一度ため息をつき、デスクの上に置いてあったぶ厚い 「 , ーーそれで、今回の事件なんだが : : : 」 ブラスチックファイルを取り上げた。 「ーーなのに、中央コンビュータはあまたの犯罪トラコンの中からややあって正気に戻り、部長は本題にはいった。 きみたちを選びだした。正直言って。わたしは怯えている。誰が担「場所は、惑星チャクラだ」 「チャクラ ? 」 当してもああなる事件に必ずきみたちが指名されるということは、 あたしとユリは合唱して首をひねった。の養成所でたっ この事件もそうなるおそれが多分にあるということなのだ」 うげげ : ・ 。あたしは呻いた。部長の危倶は杞憂ではない。ほとぶりと叩きこまれたから、あたしたちはほとんどの惑星国家の名を 諳んじている。でも、チャクラなんてけったいな名前の惑星は初耳 んど事実だ。 ・こっこ 0 「くすんくすん : : : 」 「知らないのも無理はない」あたしたちの反応を見て、部長は静か ュリはまだ泣き声をあげている。 一もういし 、おやめ」 に一一一口った。 「チャクラはマンダーラが保有している鉱業惑星だ」 あたしは左の肘でユリの脇腹をこづいた。 「かに座宙域の : : : 」 「うん」 ュリは小さくうなずき、両手を膝に戻してにつこりと笑った。ち「そうだ」 惑星国家マンダーラなら、あたしたちもよく知っていた。鉱業惑 くしようめ。目は充血してないし、化粧も崩れていない。部長は、 星をいくつも保有している、いわゆる大国の一つだ。 がつくりと肩を落とした。 「でーーー」気をとりなおして、あたしは言った。 二一一一年。人類はワー・フ航法を手に入れた。それは爆発的な人