ゴーレム - みる会図書館


検索対象: SFマガジン 1985年6月号
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1. SFマガジン 1985年6月号

とって、出血のダメージを癒そうとしたのだ。 額が割れた。 押し上げようとする用心棒たちと揉み合いになった。 賭けのストツ・フラン。フが消えた。攻守の立場が入れ代わる。 ーが時間を まとわりつく用心棒の腕を巧みにかわし、サミ 勝ち誇った笑いを浮かべて、リングの中央でうずくまっていたゴ ーレムが立ち上がった。 ゴーレムは激昻した。せつかく優位に立ったのに、このままずる そのさまは、まさに伝説の巨人そのものである。 サミー・リーが逃げた。マットを転がり、エ。フロンからリング外ずると休まれたのでは、試合がまたふりだしに戻ってしまう。 一声咆えて、ゴーレムはロープをくぐり、リング下に降りた。 に出た 来ないなら、こっちから行くまでだ。フロアで EO してリングの ゴーレムが怒りの雄叫びをあげた。腕を高く振りあげ、サミ 中に放りこんでも、試合は成立する。ルール上、問題はな、。 丿ーを追ってロープ際に進んだ。 ゴーレムはそんな決断をくだしたらしい あたかも、その雄叫びに応えるかのように、リングサイドのテー サ ミー・リーに襲いかかった。レフェリーと用心棒が止めには、 ・フルの間から、屈強な男が数人、わらわらと飛びだした。男たちは るが、ゴーレムが相手では、素手で暴走する・フルドーザーに立ち向 みな、黒っぽい制服を着ている。 かうようなものだ。止められつこない。逆に跳ね飛ばされて大ケガ コーナー。ホストの下で頭を抱えながら呻いているサ をする。 駆け寄った。 レフェリーも用心棒も払いのけて、ゴーレムがサミー・リーに追 ーをリングの上に押し上げようと 一斉に手を伸ばし、サ、、 いついた。 する。 ミー・リーも逃げてはいられない。向き直り、正 こうなると、サ 「ラン・ハ ジャック・デスマッチだ。レスラーがリング外に出た ら、カウントせずにクラ・フの用心棒が中に入れることになってい面からゴーレムを迎え討った。 ーは、突進してくるゴーレム る」 両者が四つに組み合う。サミ ジェフが一一一口った。 を抑えきれない。組み合ったまま、ずるずると後退する。 ラン・ハージャック リングサイドのテー・フルになだれこんだ。 ージャック・デスマッチーー大昔、何十人もの木こりが テー・フルが吹っとび、椅子が砕ける。二人のレスラーは、そこ 並んで輪をつくり、その中にケンカする二人を閉じこめて決着がっ くまで戦わせたことからはじまった。逃亡を許さない地獄のルールで、からんだまま殴り合いをはじめた。観客がまきこまれ、悲鳴と 怒号が激しく飛び交った。 「やばい ! 」 ーは逃げだそうとしたわけではない。そうではない が、しかし、すぐにリングに上がることは拒んだ。少しでも休みを ュリが立ち上がった。 ー 55

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◆ - 」 0 ゴーレムがロー。フを利用して、関節をきめられたままの膝を無理 ミー・リーめがけて、その巨体を浴 コーナーの端から、倒れたサ ーのからだが、ずるずると引きずられる。 矢理立てた。サミ びせかけた。 ミー・リーが顔を真っ赤にしてふんばっ 文字どおり肉弾重爆撃である。三百キロの肉塊が三メートルくらなんという膂力だろう。サ これで関節が砕けないなんて、 いの高さから振ってくるのだ。まともに受けたら、内臓破裂どころているのに、まるで役に立たない。 ーセラミックスを使ったサイボーグじゃない ゴーレムってばスー。ハ ではない。 骨も肉もつぶれて、平たくなってしまう。 の ? 非常識よ、これ。 ミー・リーがマットの上で転がった。 サ ミー・リーこ届 ~ 、ようこ 膝と腰を曲げたので、ゴーレムの腕がサ その数センチ脇をかすめて、ゴーレムが落下する。 なった。ゴーレムは右手をロー。フから離し、上体をねじ曲げてサミ 地響きが轟き、リングがぐらぐらと揺れた。間一髪、サ。 ーの頭 ーの頭を鷲損みにした。髪の毛じゃない。サミ 】はゴーレムの圧殺を免れた。 すかさず身をひるがえし、自分の胴ほどもあるゴーレムの両足をを丸ごと損んだのだ。ゴーレムの掌は、二十インチのスクリーンく ミー・リーにしてみれば、巨大な袋を頭にすつぼりか らいある。サ 押さえる。 脛と脛を交差させ、そこに自分の足をこじいれて膝と股間の関節ぶせられて、そのまま絞めあげられたようなものだ。 ーを自分の足から引きはがした。レフェリ ゴーレムがサ、、 をロックする。そして、全体重をそのロックした関節にかける。 ーが反則カウントを数える。ゴーレムとサミー・リーがからんで、 これは怪物といえども痛い。まるで猛獣の咆哮のような悲鳴をあ ー・リーにはロー。フ・・フレイクが彑・ ロー。フにもたれたからだ。サメ げて手近なロー。フにしがみついた。 は止めえられている。 ーは、それにかまわず絞りあげる。レフェリー ふ厚い筋肉 ーを投げ捨てた。・ ゴ 1 レムが面倒臭そうにサ、、 の中央に飛ぶ。 ーのからだがマット に鎧われたサミ 「ロー。フよ ? 」 肩口から落ちて、大きく跳ねた。 ュリがジェフを見た。 「きゃーん ! 」 「あれもハンディなんだ。ゴーレムにはロー。フ・・フレイクがない , ュリが口を両手で覆い、悲鳴をあげる。そこかしこのテー。フルで ジェフが早ロで答えた。 は、カードをスリットに運ぶ手が忙しい 観客が総立ちになった。わあんと喚声が響き、耳をつんざいた。 あたしは腰を浮かして、ランディスの様子を見た。ランディスは 周りのテー・フルに目をやると、何人かが興奮してカードをスリット ミー・リーのボタンを押している。甘い。そんなん悠然と試合を眺めている。どうやら、まだ金を賭けてないらしい に差しこみ、サ じゃ、カモにされちゃうよ。どう見たって、試合はこれからなんよく見ると、リングサイドのテー・フルでは、誰ひとりとしてスリ トにカードを差し入れていない。さすがに常連。試合の流れという 3

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まるつきり聞こえない。 。今夜の挑戦者 ! 」 ジェフが大声を張りあげて答えた。 リングアナが、いまひとりのレスラーを紹介した。 サミー・リーとは反対側の床から、チャンビオンがせり上がって くる。 でかい。あたしは思わず目を剥いた。とにかくでかい。二メート ーの頭はチャン。ヒオンのヘ ル五十はあるね、あいつは。サ、、 とう見たって肩まではない。 そのあたりというと大袈裟だが、・ 「ザ・ゴーレム。不敗のチャン・ヒオンだ」 訊かれる前に、ジ土フが説明した。不敗ねえ。そうだろう。あの サミー・リーが素早く間を詰めた。コーナーからコーナーヘリン 巨体じゃ、倒しようがない。体重なんて三百キロくらいありそう。 グを対角線状に走り、いきなり高く跳んだ。 人類の範疇に入れたくないね。あたしが生物学者だったら、あいっ そのまま空中でくるりと向きを変え、長く伸ばした足を鋭く振 のために種だか目だか科だかを新設してやるよ。 る。 のっそりとチャンビオンのゴーレムがリングの上に降り立った。 コ 1 ナーで棒立ちになっていたゴーレムは両手で唸りをあげて顔 リングがきしんでる。 冗談じゃな、。 ミー・リーの右足を払った。 面に迫ってくるサ リングアナに代わって、レフェリーがリングに昇った。 ーの蹴りはフェイントだった。かわされることは承知 両者を呼び、注意を与える。 で放っている。払われたその勢いで最上段のロー・フをみ、左足の 「だめよ。こんなんじゃ賭けにならないわ。大人と子供の試合じゃ蹴りをゴーレムのこめかみに叩きこもうとしたのだ。 ない」 しかし、その読みには計算違いがあった。 ゴ 1 レムの人間ばなれしたカだ。普通のレスラーならば、思わず ュリが言った。 ミ 1 ・リーをリングに向かって弾き飛 「だから、ゴ 1 レムには ( ンディが与えられている」ジ = フが言っ払いのけただけの動きが、サ た。「賭け率は十対一だし、サ ミー・リーはゴーレムの目を狙って ーが頭からマットに落ちる。パウンドしない。めりこ もいい。首を絞めることも許されている。ゴーレムが同じことをし たら反則になる」 む。 ゴーレムが飛んだ。 なるほど。でも、それぼっちの ( ンデイしや、あんな怪物どうに もならないだろう。あたしなら、ハンド・・フラスターの使用を許可 してもらう。 歓声がびときわ大きくなり、フロアー内の緊張がたかまった。二 人のレスラ 1 が、それぞれのコーナーに分かれて睨み合う。 ゴーレムの瞳の色は赤みがかった黄金色。それがまるで燃えあが る炎のようだ。 ゴングが鳴っこ。 2

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ゴーレムの上体が揺らいだ。両膝をがつくりとっき、まったく反 のをよく心得ている。 ~ しいように蹴られている。目が 5 撃しようとしない。サ、、 あたしは視線をリングに戻した。 ちょっと目を離しているスキに、またサミー・リーが攻勢にでてうつろだ。 ーは生きがいい。ス。ヒードと技の切れで、。ハワー いた。サ、、 とっぜん、スリットの横にあるランプが赤くともった。賭けをい と体重の差を補っている。それにダメージから回復するのも早いよったんストップする合図だ。これがついたら、もうカードは受けっ けてもらえない。どうやら胴元の方も、この試合をこれまでと見た ーはゴーレムの大振りパンチをかいくぐり、一抱えは ありそうな怪物の太ももに、連続して蹴りを叩きこんでいた。ゴー しかし、ゴーレムはサ、、 ーを欺いていた。観客や胴元もだ ワーショベル レムはなんとかしてサヾ ーを捕まえたいが、・ハ ましていた。ダメージは見せかけだった。 とうしてもサミー・リーのス のようにぎくしやく動くその腕では、・ ーの蹴りの切れ味が、わずかに鈍ったときだった。た ・ヒードについていけない。 てつづけに何十発も蹴りこんで、さしものサミ ーも攻め疲れ サミー・リーの十何発目かの蹴りが、ゴーレムの太ももの神経を・たのだろう。ふっとテンポが狂い、威力が弱まった。 その一瞬をゴーレムは見逃さなかった。太い腕をすうっと伸ば 抉った。 ーの肩を抑えた。 怪物は苦悶の絶叫をほとばしらせて、膝を折った。右の太もものし、サミ 裏側が腫れあがり、皮膚がどす黒く変色している。 がつくりと垂らしていた頭を弾みをつけて起こし、サミ の額に思いきり叩きつけた。 ゴーレムの頭とサミー・リ ーの頭が並んだ。絶好の位置だ。サミ ハンマーがコンクリート の壁を砕くような音が響き、サミ ーの肉体が、しなやかにしなった。 1 のからだが宙に舞った。 凄まじい連撃がはじまった。キック、キック、キック。ゴーレム の後頭部、こめかみ、顔面をサ ミー・リーは容赦なく蹴りまくる。 サミー・リーは本物のファイターだ。蹴りや・ハンチで相手のスタミ ナを奪い、最後は関節技か絞技で決める。この試合は賭けの対象に なっているんだから、曖昧な終わらせ方はできない。・ とちらかが サミー・リーが大きく泳いでマットに落ちた。糸の切れた操り人 0 されてはじめて観客は納得する。あたしには、この小柄なレスラ形のように、くたくたとくずおれる。 1 が、どうしてきようチャレンジャーに選ばれたかがはっきりわか鮮血が飛んだ。 った。これは、こんな場末のナイトクラ・フでやるにはもったいない 紅の花が、白いマットを華やかに彩る。 試合だ。 ーの額だ。ゴーレムの頭突き一発で、サ、、

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りと切り裂く長い爪。漆黒のからだは深い艷を帯び、火と燃える双 凄絶な表情になった。 あたしはヒートガンを下に向け、 トリガーから指をはずした。こ眸は嵐の激しさをその奥に秘めている。いかな化物、魑魅魍魎とい んな怪物、いくら足を灼いたってひるみやしない。かといって殺しえども、立ち向かうには、それなりの覚悟がいる。 。と、なれば、相手ができるのはただ一 ちゃうわけにもいかなし 黒い破壊者、クアール。 人。いや一頭か : ムギが低く構え、静かに歩を進めた。ゴーレムの真正面である。 「やめろっ ! 」 距離は約三メートル。眠光が炯々と燦き、全身からは敵意が噴き出 している。まさに殺気の塊だ。ゴーレムにしてみれば、抜き身の剣 あたしとゴーレムの間に飛びこんできた。 あたた。あたしは頭を抱えた。あんたじゃない。ジェフってば、 を喉もとに突きつけられている気分だろう。血の気を失い、身じろ だめだよ。 ぎひとつできないでいる。 ばきつ。 「ランディスはどこ ? 生きてるの ? 」 鈍い音がした。ゴ 1 レムが軽く腕を上から下に振りおろしたの ュリがあたしの横にきて凝然と立ち尽くしている客たちをひとわ たり眺め、凜とした声で言った。レイガンはまだ右手に携えたまま カ吹っとび、ジェフ ジェフがひっくり一﨤った。テンガロンハット : だ。ホルスターに戻していない。 のからだがフロアに叩きつけられた。 「お、俺のことかな ? 」 あたしのすぐ左脇に、テー・フルやら椅子やらの残骸がうず高く山 あたしは倒れたジェフに駆け寄った。アスラヴィルのシェリフは になった一角があった。その山の中から返事があった。、」 。ハンサム台無しだよ。 白目を向いて失神している。まずいよ 山が盛りあがり、崩れた。 「やったわね ! 」 上着をずたずたに引き裂かれ、顔のあちこちに青あざをこしらえ たランディスが、うっそりとあらわれた。どうやら一一、三発、殴ら あたしはゴーレムを睨みつけた。 「だから、どうなんだ ? 」 れたところで、この残骸の中に逃げこんだらしい。常連だけに、修 ゴーレムは胸を張る。近くで見ると、本当にでかい。象だって「羅場には慣れているみたいこ こいつに較べたら、もう少し控えめだ。 「あんたがランディス ? 」 あたしは訊いた。 黒い影が宙に躍った。 ひらりと舞い降りて、あたしの斜め前に音もなく立った。 「十一鉱のランディスです」 怪物レスラーが、うっとたじろいだ。 とまどいの表情を浮かべ、ランディスはぼそばそと答えた。 フロア全体にざわめきが広がった。一時の緊張がほぐれ、客の間 揺れ動く触手。剥きだしになった鋭い牙。合金ですらすつば 29

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すかさずュリが消火力プセルを炎の中に投げこみ、ついでに天井 の熱センサーをレイガンでぶち抜いた。鎮火したあとに消火剤をか ぶるのは、美容によくないもんね。 火が消え、煙が薄れたあとには、リングを支えていた四本の鉄柱 阿鼻叫喚のるつぼに到着した。 だけが黒焦げになって残るのみ。 リングサイドでは、 レスラーに客が近づくもへったくれもない。 客とレスラーと用心棒が、い っしよくたになって転げまわってい ナイトクラ・フ全体が静まり返った。 る。客は用心棒を殴り、用心棒はレスラーとやり合う。レスラーは しんとしすぎて、かえって耳が痛いくらい 誰でもいい。手当たり次第に蹴散らす。さすがにサ ミー・リーは相レスラーも客も用心棒も、動きを止めて茫然とあたしたちを見つ 手を選んでいるようだが、額から吹きだす血で視界を失っているらめている。あたしたちが、あまり美しいので目をそらすことができ しく、結果は手当たり次第と大差はない。ゴーレムに至っては、本ないのだ。 というのが冗談だってことは、すぐに明らかになっ」 当に手当たり次第だから、まるで荒れ狂うハリケ 1 ンである。人もた。 調度も食器もおかまいなく空中に舞い散らす。 最初に我に返ったのは、用心棒の一人だった。 「きさま、なんてえマネを ! 」 とりあえず、あたしはこの騒ぎを鎮めることにした。ランディス を捜すのは、それからだ。生きてるといいけど、この有様じゃ、ど大声でわめいて、あたしに詰め寄ってきた。あたしはヒートガン うだかわかんない。 で応対した。用心棒は泣き声をあげて、どっかに失せた。 「ふざけたねえちゃんだ : : : 」 あたしはヒートガンの狙いをリングにつけた。そう。やるのはシ ック療法だ。いうまでもなく、ショックは大きいほど効果があ太い声が、あたしのすぐ横で響いた。恐竜の咆哮が言葉になった る。 ら、今みたいに聞こえるのだろうか。ざらついた、石と石とをこす マットの中央に照準を定め、熱線のゲージも最大にして、あたしり合わせるような、耳に障る声だった。 はトリガーを引き絞った。 テー・フルやら椅子やらの残骸を押しのけて、恐竜の声の主 , ー・・・ザ 次の瞬間 ・ゴーレムが、あたしの前にやってきた。 マットが爆発的に燃えあがった。大音響が耳を聾し、目もくらむ「ふざけてんのは、そっちじゃない」あたしはゴーレムに言い返し こ 0 炎が火球となって天井に届かんばかりに丸く広がった。 やったあたしが、びびったくらいだから、ホントそれはすごかっ 「フロレスはリングの上でやるもんよ ! 」 「なにい 零コンマ数秒で、リングが灰になった。 ゴーレムの顔がどす黒くなった。怒りで形相が歪み、それはもう こ 0

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らしい それよ、 「見て ! 」 ュリが叫び、空を指差した。太陽とは逆の方角だ。ムギの視線「わたしの山荘にやってくれ。場所は知っているな。急ぐんだ。こ も、そっちを向いている。 うなったら見せたいものがある」 ロー。フでヘリに救助され、座席に着くやいなや、シートベルトを 「何か、こっちに飛んでくるわ。飛行機みたいよ ! 」 「本当か ! 」 締める間もなく、メイヤーは早ロでまくしたてた。」 メイヤーが立ち上がろうとした。板切れがぐらりと揺れる。ばか「見せたいものって ? 」 あ。状況をわきまえてよ。ぶないじゃない。 あたしは訊いた。 「ヘリよ ! ヘリだわ ! 」 「着いてのお楽しみだ」 ュリがビノキュラーで確認した。あたしには、まだ黒い点にしか また勿体をつける。 ヘリだとしたら、ムギが電波を操って位置を教えたの 見えない。 ムギが上がってきた。これでみんなヘリに移乗した。トビラを閉 だ。巻き毛が振動していたのは、そのためである。 め、ジェフが操縦桿を鮮やかに操る。 機体が、ゆっくりと旋回した。 ュリが驚きの声を発した。ビノキュラーを手に、激しく興奮して ジェフがここへ来たのは、くやしいことに、あたしのためではな いったい何を見つけたというの ? また何か飛んできたの ? かった。純粋にシェリフの仕事としてやってきたのだった。 「ジェフよー ジェフが操してるわ ! 」 ザ・ゴーレムに殴られて病院に運ばれたジェフは、治療を受けて ュリが叫んだ。ぬわんですって ! ジェフですって ? すぐに意識を回復し、三時間ほど休んでから事務所に戻った。あた あたしはユリの手からビノキ、ラーをもぎ取った。ヘリを捜し、 したちが〈エル・サント〉に乗船した頃だ。そして、事務所の片付 あせってピントを合わす。 けをはじめた。その途中で緊急通報があったのだ。通報者は、ヨッ んまあ、そうよ。ヘリに乗ってるのジェフじゃない。 ーの管理人で、オータナ湖に周遊にでたクルーザーからメ 「どうしてジェフが : : : 」 1 デーが発せられたというものだった。メーデーは船舶救難信号で ュリがつぶやいた。 ある。この信号は船のコン。ヒュータが、非常時に自動的に発信す たわけ。そんなの決まってるだろ。・ る。おそらく、爆発した潜水艦による最初の衝撃をくらった時点で あたしを追ってきたんだよ。 発せられたに違いない。 ジェフはただちに出動した。ヘリはシェリフ専用のものが、近く ロ 6

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に好奇心がめばえだしたのだ。 わしの部屋でいかがだろう ? ここなら、レスラーも不粋な用心棒 もいない」 あたしは少し声を大きくした。 「けっこうね」あたしは言った。 「あたしたちはのケイとユリ」歯切れよく言った。 「あなたに伺いたいことがあって、ここに来たわ」 「ランディスも連れてくわよ」 一瞬、ざわめきが失せた。いあわせたすべての人間が息を呑む気「もちろん、かまわない」 テレストフアネスは右手を軽く振った。 配が伝わってきた。あのザ・ゴーレムですら頬をひきつらせ、目を 「それから救急車を一台呼んで」ュリがつけ加えた。 丸くした。 「ダーテイベア・ : : こ 「シェリフが殴られてのびてるわ」 ロカが、つぶやいた。一 「すぐに手配する」 それがきっかけになった。一 大きくうなずき、太ったオーナーは濃い三角形の眉毛をはねあげ またフロアが甲高い喧噪に包まれた。 そのときだった。 スクリーンが・フラックアウトした。 「お静かに、みなさん : : : 」 「失礼の段、平にお詫びします」 穏やかだが、有無を言わせない重々しい声が、クラ・フ ( ウス全体マネージャーがやってきた。 に響き渡った。 「ーーどうぞ、こちらへ。オーナーの部屋に御案内いたします」 たちまち喧噪が消えた。 うやうやしく頭を下げた。 あたしは振り返った。 巨大な二面のスクリーンだ。あのスクリーンの映像が、いつの間 にか変わっている。 スクリーンには、男の顔が映っていた。年齢は五十代といったと細身でひょろっと背の高いマネージャーに案内されて、あたしと ころか。でつぶりと太っており、顎が三重になっている。目は小さュリ、それにランディスはクラ・フ ( ウスの奥へと進んだ。ランディ くて丸く、まるで小さな褐色の木の実のようだ。髪は銀髪で薄い スはきよろきよろと周囲を見回して、態度が落ち着かない。鉱山の 「わしは、オーナーのテレストフアネス」スクリーンの男は言っ 仕事を終えてから、そのまま〈サル・ハトーレ〉に来たのだろう。暗 こ。 緑色の作業着を身につけている。身長は並で、別に太っているわけ 「のお嬢さん方には失礼をした。なにしろそこは殺気立つでもないが、技師などというイメージからはほど遠い。ただの風采 たプロレス会場。穏やかに話し合うにはちと不向きだ。つづきは、 のあがらないおじさんである。 こ 0

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「ランディスのテー・フルだ ! 」 「どかないと、一発かますわよ」 レスラー二人が乱入したの あたしも腰を浮かせた。間違いない。 「こりや、威勢がいい」用心棒は、せせら笑った。 「で、どんなふうにかましていただけるんで ? 」 は、ランディスとお・ほしき人物がついていたテー・フルである。ここ でランディスにケガされたり、行方不明になられたのではかなわな「こんなふうよ ! 」 。とにかく何はさておき、保護しなきやだめだ。 あたしはヒートガンを抜いた。抜くと同時に、その用心棒の足も あたしとユリは椅子を蹴ってフロアに出た。テー・フルとテー・フレ ノとめがけて、一発ぶっ放した。 の間をすり抜け、前に進もうとした。 オレンジ色の熱線が、床を灼いた : ところが、それを禁止している連中がいた。 ついでに用心棒の靴も少しだけど灼いた。 「どこへ行かれます ? 」 黒っ。ほい制服の用心棒が二人、あたしとユリの正面に立ちはだか用心棒は声もない。顔をひきつらせ、髪を逆立てて二メートルく らい真上に飛び上がった。 「てめえ ! 」 「リングサイド」あたしは言った。「そこ、どいてよ ! 」 「恐れいりますが、レスラーに近づくことは不正防止のため禁止さ もう一人の用心棒が血相を変えてあたしに飛びかかってくる。 れています。御自分の席にお戻りください」 そっちの方は、ユリが引き受けた。 用心棒が応じた。慇懃無礼の見本みたいなしゃべり方である。 銀色のホット。ハンツから伸びたすらりと長い足を真横に蹴上げ 「不正なんかじゃないわ。乱闘に知り合いがまきこまれてるのよ。 助けに行くのは当然でしょ ! 」 そこにちょうど用心棒の顔がくる。 「規則です。お戻りください。お客さまは、われわれがお守りしま編上げ・フーツの七センチのヒールが用心棒の顎をカウンターで蹴 り砕いた。 「ケイ ! 」ュリが叫んだ。 悲鳴をあげて用心棒は、すっ飛ぶ。落ちたところにテープルがあ 「ぐちゃぐちゃになってるわ、リングサイド ! 」 った。天板が真二つに割れ、食器やグラスがけたたましい音を響か せて散乱した。 あたしは視界をふさいでいる用心棒の肩越しに首を覗かせた。 あちゃあ、こりやひどい ゴーレムは客も用心棒もみさかいなく足を灼かれた用心棒は、びよんびよん跳ねながらフロアを踊り回 投げ飛ばしている。リングサイドは大混乱で、人もテー・フルも区別っている。 がっかない。 邪魔者は排除した。あたしとユリはリングサイドに向かって再ス 「そこ、おどき ! 」あたしは目の前の用心棒に向かって言った。 タートを切った。 こ 0 6

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な。 ( トロール艇が空中に静止し、新しく切りひらいた畑のまわり 間に初歩の人類学など、あっと驚くほどのことでもなかろう」 に、防護スクリーンをはりめぐらしている。コナン・ラングは額の 「まあーーこ 「いいんだよ」コナン・ラングは感慨深げに相手を見つめた。この汗を拭い、足もとの堀割をごぼごぼ流れていくきれいな川の水で手 若者を眺めていると、ある人間をどうしても思いだしてしまうのだを洗った。 んじゃないか、アンディ」彼は疲れた声で言った。 「だいたいいい 昔々、大冒険にのりだしたコナン・ラングという名の若者を。 「シグナル 4 を送れ」 「ぼノ、は : : うーん : ・・ : その、きみはもう知っていると思うが、テ ンで・ほくといっしょに仕事をすることになっている」 アンディ・アーヴィンは小さな制御盤のレオスタットを 4 にまわ アンディは、コナンからハーレムをのせた銀の皿をさしだされたし、スイッチを入れた。二人は川を吹きわたる夜風のささやきに耳 目に見えるものもない ような顔をした。「ノウ・サー」と彼は言った。「知りませんでしをすませながら待った。なんの変化もない、 た。サンキュ】 力。 ( トロール艇から強力な放射線が畑に注がれ、大地に浸透し、 . 「名前はコナンだ」 種の中の生長因子の働きを何千倍も加速させている。フロセスを、彼 「イエス・サー」 らはほとんど感じられるような気がした。 「まいったね」とコナン・ラングは言った。こうやってまた目をき「うまくいったな」コナン・ラングは言った。 らきら輝かせているやつがそばにいてくれて幸せなんだというこの 「レリース・シグナルを送れ」 気持をどう伝えればいいのだろう ? 阿呆らしく聞こえないように アンディはパトロール艇にシグナルを送り、制御盤のスイッチを 伝えるには ? 答えは簡単・ーー・伝えないことだ。 切った。小さな船はふらふらと揺れているように見えた。かすかな 「待ち遠しいですよ」アンディは言った。「遂になにかをやるって 辷航船は うなりがして空に白熱の光点が見えた。それだけだった。巛 いうのは , ーーすばらしい気分です。うまくやれるといいですが」 飛び上り、彼ら二人がとりのこされた。 「もうそろそろだよ、アンディ。、 しまから二十四時間後にはきみも 「長い夜だったな、若いの」コナン・ラングはあくびをした。「ち ・ほくも仕事にとりかかる。乳母車の旅ももうじきおわりだ」 よっとひと眠りしたほうがいし 夜が明けないうちに眠っておく 二人はふっとだまりこみ、積みあげられた茶色のきれいな袋の山必要がありそうだ」 「ぼ を見つめた。星間宇宙船が、巨大な原子 = ンジンの轟音とともにか「どうぞやすんでください」アンディ・アーヴィンは言った。 すかに震動するのを足の下に感じながら。 くは眠くありませんから。ここの日の出はきっとすばらしいにちが いないです」 「日の出はすばらしいにちがい シリウス・テンは夜だったーーー・蒸し暑い夜、月がひとつ、暗い空「ああ」コナン・ラングは言った。 に凍りついた火のようにかかっている。巡航船から飛びたった小さない」 247