のビルの屋上に常備されている。 なことを言う人、あたしはじめて。でも、そこが、いかにもジェフ オータナ湖の上空に来ると、レーダーに反応があった。数値が正らしくて素適。吹かないで納得しちゃう。 しければ、水面から一メートルのところに何かが浮かんでいるとい ヘリが舞い上がり、蒼空に姿を消した。 うことになる。 「まったく変わり者だな、あいつは」 ジェフは、そこへ急行してみた。すると、あたしたちが板切れに メイヤーが肩をすくめた。真面目な好青年というのは、メイヤー 乗って漂流していたのである。 には理解できない存在らしい 事情がわかってしまえば、この偶然も、なあんだという話だ。む山荘の中にはいった。山荘は目つきの鋭い男たちで、要所要所が しろ必然といった方がいい。事件や事故があれば、シェリフが出動固められていた。かれらが、の公安スタッフだろう。私服だが、 するのは当り前である。 身のこなしが一般市民とぜんぜん違う。 ーティに使われているらし 山荘は、ア . スラヴィル郊外、小高い丘の中腹にあった。オータナ居間に通された。広い部屋だ。主に。ハ 湖から、ヘリで十分ほどの距離だった。 い。低いテー・フルがいくつか造りつけになっており、カーベッ 飛行中の襲撃をちょっと心配したが、なんということもなく、へ上にクッションがやたらと転がしてある。はいって右手にはパ リはメイヤーの山荘に到着した。ジェフはあたしたちとメイヤーをカウンター。百人くらいなら楽にもてなすことができそうだ。 山荘の庭に降ろした。 「適当にくつろいでください」 「では、また事務所で : : : 」 メイヤーが言った。あたしたちは念のために窓際を避け、真ん中 あたしたちに手を振り、すぐに飛びたとうとする。 のテー・フルの前に腰をおろした。脚を揃えて横に投げだし、クッシ 「寄っていかないのか ? 」 ョンにからだを預ける。ああ、気持ちがいい。船で痛めつけられた 首やら腰やらがすうっと楽になる。ムギが、あたしとユリの間にも 驚いてメイヤーが訊いた。あれだけ機内で勿体をつけたのだ。い くら関係なくても、シェリフの権限をひけらかして話に加わろうとぐりこんで、長々と寝そべった。 するのが普通である。 「行きますよ」 「いいのよ、遠慮しなくても : : : 」 。ハーでごそごそ動いていたメイヤーが、こっちに向かって言っ あたしはあたしで、別の理由でジ = フを引き止めようとした。した。 かし、ジェフは丁寧にかっきつばりと、その誘いを断わった。 テー・フルの中央が丸く開いた。中からカクテルの満たされたグラ 「シ = リフは、むやみに事務所から離れてはいけません。市民が迷スがしずしずと上がってくる。何がくるかと思ったら、お酒ではな 惑します」 いか。なるほど、客をいつばい呼んだときには、こういう仕掛けは 涙のでるようなセリフである。冗談ならいざしらず、マジにこん便利である。
あたしが言った。 「プロレス ? 」 「そんな徴候はまったくなかった」ジェフはきつばりと否定した。 カードの文字を読んで、あたしとユリは顔を見合わせた。 「だから、こんなことになって驚いているんだ」 ・フロレスどわってエ , 事務所のドアカ目しナ ・、目、こ。グレイの制服に身を包んだ初老の男性が はいってきた。制服の胸には検視官のマークがプリントされてい る。ついさっき、電話でジェフが呼んだのだ。ガル・ハルディの屍体 はこれから病院に運ばれて解剖される。アスラヴィルには検視局な事務所の片付けを済ませてナイトクラ・フ〈サル・ ( トーレ〉に行く んてしゃれたものはない。 と、試合はもうはじまっていた。 自走タイ・フの担架がしやりしやりとキャタピラの音を響かせて事ナイトクラ・フなんてしゃれているが、しよせんは場末の鉱山町、 務所の中に進んできた。あたしたちは端に寄って場所をあけた。むよーするに酒場のでかいやつである。客は、そのほとんどが鉱山の ろん、あたしはジェフにびったりと寄り添っている。 技師。あとはレストランの経営者とか役所の職員くらい。とー・せん 「ところで : : : 」ジェフがあたしの耳に囁いた。 高級なんて文字は頭にはつかない。だだっ広いフロアのど真ん中に 「特報が一つあるんだけど」 七メートル四方のリングがこさえてあって、その周りをぎっしりと 「特報 ? 」 テー・フルが取り囲んでいる。フロアの端っこ、向かい合う二面の壁 あたしはジ = フを振り仰いだ。特報って、あたしだけを食事に誘に巨大なスクリーンがしつらえられているのは、あちこちの体育館 ってくれるとか。あたしのためにドレスを用意したとか。あたしに なんかと同じゃり方で、観客の死角をなくすための工夫だろう。内 だけダイヤの指輪をプレゼントしてくれるとか : 装や調度は安物だが、こういったところには金をかけている。今も 「ランディスに会えるんだ」 腕と首の関節をきめられて苦悶しているレスラーの表情が大写しに ジェフは一一一口った。 なっているが、もちろん、これは試合の細部を純粋に観客に見ても 「ホント らいたいからではない。観客は、この映像を参考にして、レスラー あたしと = リは合唱した。予想とはちょっと違うけど、これは本に金を賭けるのである。耐え抜くかギ・ファップするか。一瞬にして 当に特報だ。 判断し、カードをテー・フルの中央にあるスリットに入れてボタンを 「さっき、偶然、ランディスを知っている人に会ったんだ。かれは押す。当たれば現金が届き、外れれば口座から賭金を引き落とされ 毎晩、ここに顔をだしている」 る。重要なのは、貰う金は現金、取られる金は口座ということであ ジェフは一枚のカ 1 ドをあたしたちに見せた。カードはナイトクる。このシステムのおかげで観客はとめどなく熱くなり、やがてす ラ・フのものだった。そこで毎晩おこなわれているのは : : : 。 ってんてんにされてしまう。 ー 50
いない。だから、クアールはあくまでも、その可能性がある保護動 「無事を祝って、乾杯」 物なのだ。 メイヤーがやってきて、グラスを捧げた。 「この像の材質は、なんだと思います ? 」 「ムギの活躍に : : : 」 あたしは最大の功労者に乾杯した。ムギは大あくびで、それに応メイヤーが逆にあたしたちに訊いた。 えた。 「石 : : : に見えるけど」 ュリが答えた。 「それで : : : 」一息にグラスを干し、ユリが言った。 「合金です」メイヤーはかぶりを振った。「合金よりも高硬度 「見せたいものって、なに ? 」 の。それが、機械的に加工されています」 「これです」 メイヤーはテー・フルの脇の・ハネルに並ぶ数字のボタンをいくつか「えっ ! 」 押した。 あたしたちは息を呑んだ。合金よりも硬い金属が存在し、そ またテー・フルの中央が開いた。しかし、今度、せり上がってきたれが機械的に加工できるなんて聞いたことがない。あたしたちの持 のは、グラスではない。なにやら、石のカケラのようなものであっている・フラッディカ 1 ドは合金よりも硬い特殊合金でできて 、。高ま二センチくらい。長さは十センチ弱 いるが、これは熱的加工でしか成型できない。それも、ものすごい る。細長くて、丸っこし中。 といったところか。 設備が要る。 「なに、これ ? 」 「わたしが人類外文明の産物だと述べた理由が、おわかりいただけ あたしは訊いた。 ましたか ? 」 「一か月月ほど前に、ここの鉱山で発掘されたものです」 「わかったけど、それ、どうしたの ? 誰かが掘りだしたのを貰っ 「何かの像みたいね」 たんでしよ」 ュリが言った。 ュリが言った。一 「わたしは″チャクラの天使″と呼んでいる。人類外文明の産物で 「さすがに鋭い」メイヤーは手を打った : 「掘りだしたのは、ガル・ハルディという技師です」 「人類外 ? まさか : : : 」 「ガル・ハルディ ! 」あたしは目を剥いた。 あたしの表情がこわばった。人類外文明とはただごとではない。 「それってば、シェリフの事務所で于に殺された : : : 」 たしかに、そういったものは稀に存在する。だが、その実体はほと「そのガ化ハルディです」 んど明らかになっていない。ムギがそうだ。クアール族は先史文明「オーナーは、像のことを知ってるの ? 」 の実験動物だといわれている。けれども、その証明は未だなされて ュリが訊いた。」 ロ 8
「ランディスのテー・フルだ ! 」 「どかないと、一発かますわよ」 レスラー二人が乱入したの あたしも腰を浮かせた。間違いない。 「こりや、威勢がいい」用心棒は、せせら笑った。 「で、どんなふうにかましていただけるんで ? 」 は、ランディスとお・ほしき人物がついていたテー・フルである。ここ でランディスにケガされたり、行方不明になられたのではかなわな「こんなふうよ ! 」 。とにかく何はさておき、保護しなきやだめだ。 あたしはヒートガンを抜いた。抜くと同時に、その用心棒の足も あたしとユリは椅子を蹴ってフロアに出た。テー・フルとテー・フレ ノとめがけて、一発ぶっ放した。 の間をすり抜け、前に進もうとした。 オレンジ色の熱線が、床を灼いた : ところが、それを禁止している連中がいた。 ついでに用心棒の靴も少しだけど灼いた。 「どこへ行かれます ? 」 黒っ。ほい制服の用心棒が二人、あたしとユリの正面に立ちはだか用心棒は声もない。顔をひきつらせ、髪を逆立てて二メートルく らい真上に飛び上がった。 「てめえ ! 」 「リングサイド」あたしは言った。「そこ、どいてよ ! 」 「恐れいりますが、レスラーに近づくことは不正防止のため禁止さ もう一人の用心棒が血相を変えてあたしに飛びかかってくる。 れています。御自分の席にお戻りください」 そっちの方は、ユリが引き受けた。 用心棒が応じた。慇懃無礼の見本みたいなしゃべり方である。 銀色のホット。ハンツから伸びたすらりと長い足を真横に蹴上げ 「不正なんかじゃないわ。乱闘に知り合いがまきこまれてるのよ。 助けに行くのは当然でしょ ! 」 そこにちょうど用心棒の顔がくる。 「規則です。お戻りください。お客さまは、われわれがお守りしま編上げ・フーツの七センチのヒールが用心棒の顎をカウンターで蹴 り砕いた。 「ケイ ! 」ュリが叫んだ。 悲鳴をあげて用心棒は、すっ飛ぶ。落ちたところにテープルがあ 「ぐちゃぐちゃになってるわ、リングサイド ! 」 った。天板が真二つに割れ、食器やグラスがけたたましい音を響か せて散乱した。 あたしは視界をふさいでいる用心棒の肩越しに首を覗かせた。 あちゃあ、こりやひどい ゴーレムは客も用心棒もみさかいなく足を灼かれた用心棒は、びよんびよん跳ねながらフロアを踊り回 投げ飛ばしている。リングサイドは大混乱で、人もテー・フルも区別っている。 がっかない。 邪魔者は排除した。あたしとユリはリングサイドに向かって再ス 「そこ、おどき ! 」あたしは目の前の用心棒に向かって言った。 タートを切った。 こ 0 6
◆ - 」 0 ゴーレムがロー。フを利用して、関節をきめられたままの膝を無理 ミー・リーめがけて、その巨体を浴 コーナーの端から、倒れたサ ーのからだが、ずるずると引きずられる。 矢理立てた。サミ びせかけた。 ミー・リーが顔を真っ赤にしてふんばっ 文字どおり肉弾重爆撃である。三百キロの肉塊が三メートルくらなんという膂力だろう。サ これで関節が砕けないなんて、 いの高さから振ってくるのだ。まともに受けたら、内臓破裂どころているのに、まるで役に立たない。 ーセラミックスを使ったサイボーグじゃない ゴーレムってばスー。ハ ではない。 骨も肉もつぶれて、平たくなってしまう。 の ? 非常識よ、これ。 ミー・リーがマットの上で転がった。 サ ミー・リーこ届 ~ 、ようこ 膝と腰を曲げたので、ゴーレムの腕がサ その数センチ脇をかすめて、ゴーレムが落下する。 なった。ゴーレムは右手をロー。フから離し、上体をねじ曲げてサミ 地響きが轟き、リングがぐらぐらと揺れた。間一髪、サ。 ーの頭 ーの頭を鷲損みにした。髪の毛じゃない。サミ 】はゴーレムの圧殺を免れた。 すかさず身をひるがえし、自分の胴ほどもあるゴーレムの両足をを丸ごと損んだのだ。ゴーレムの掌は、二十インチのスクリーンく ミー・リーにしてみれば、巨大な袋を頭にすつぼりか らいある。サ 押さえる。 脛と脛を交差させ、そこに自分の足をこじいれて膝と股間の関節ぶせられて、そのまま絞めあげられたようなものだ。 ーを自分の足から引きはがした。レフェリ ゴーレムがサ、、 をロックする。そして、全体重をそのロックした関節にかける。 ーが反則カウントを数える。ゴーレムとサミー・リーがからんで、 これは怪物といえども痛い。まるで猛獣の咆哮のような悲鳴をあ ー・リーにはロー。フ・・フレイクが彑・ ロー。フにもたれたからだ。サメ げて手近なロー。フにしがみついた。 は止めえられている。 ーは、それにかまわず絞りあげる。レフェリー ふ厚い筋肉 ーを投げ捨てた。・ ゴ 1 レムが面倒臭そうにサ、、 の中央に飛ぶ。 ーのからだがマット に鎧われたサミ 「ロー。フよ ? 」 肩口から落ちて、大きく跳ねた。 ュリがジェフを見た。 「きゃーん ! 」 「あれもハンディなんだ。ゴーレムにはロー。フ・・フレイクがない , ュリが口を両手で覆い、悲鳴をあげる。そこかしこのテー。フルで ジェフが早ロで答えた。 は、カードをスリットに運ぶ手が忙しい 観客が総立ちになった。わあんと喚声が響き、耳をつんざいた。 あたしは腰を浮かして、ランディスの様子を見た。ランディスは 周りのテー・フルに目をやると、何人かが興奮してカードをスリット ミー・リーのボタンを押している。甘い。そんなん悠然と試合を眺めている。どうやら、まだ金を賭けてないらしい に差しこみ、サ じゃ、カモにされちゃうよ。どう見たって、試合はこれからなんよく見ると、リングサイドのテー・フルでは、誰ひとりとしてスリ トにカードを差し入れていない。さすがに常連。試合の流れという 3
った。ときおり、秘密に心がはちきれそうな気がした。だが、彼のっぷっと噴き出していた。 「間違いなのよ。間違いなのよ」 眼を見つめる眼はなかった。 ヴィックとカ 1 ルが食堂の両側から彼女に駆けよった。ヴィック とうとうタ食のときにマーナをつかまえた。食事のあいだじゅ う、彼はマーナの注意を引こうとした。彼女はツンとして彼を無視が先に着き、彼女のそばにひざをついた。 しつづけた。カールは、自分の彼女に対する態度は間違「ていたと「よしよし、マーナ。だいじようぶだよ」彼は腕を肩にまわし、彼 考えはじめた。そのとき、聖餐をとりおこなう係のごみ箱が音もな女を立ちあがらせた。 「家に帰って、シャワーを浴びよう。ここにいてできることは何も く彼女のよこを通りすぎた。 ないからね」 ゾリキ野郎 ! 」 「それをちょうだいー 「彼女から離れろ」カールはヴィックをおしやった。ヴィックは身 彼女が叫んだ。グラスをつかみ、ごみ箱に投げつけた。 構えながら、とぶように立ちあがった。 「よこしなさい ! 」 「何をしようとしていたんだ ? 」カールが言った。「彼女を連れ出 客たちの恐怖の声に食堂は騒然とした。カールのほかはウェハ し、彼女が苦しむのをぼくたちに見せないようにするつもりだった スを受けとるやいなや、すぐにむさぼり喰った。 「わたしが何をしたっていうの ? 」マ 1 ナがテー・フルからテー・フルのか」 ースをみんなに見えるように高くかかげ カールは自分のウェハ へとよろめきながら、助けを求めて歩きまわった。彼女の友人たち た。ヴィックの拳がだらんと下がった。マ 1 ナはぎらぎらした眼で は身を縮めるようにして、彼女から逃れた。 ースを見つめ、攻撃をしかけようとしている蛇のように身体 「なにかの間違いよ」恐怖に彼女の顔はゆがんでいた。「そんなばウ = ( 1 スを二つに折り、彼女に与えようとし かなこと。ねえ、聞いてる ? ねえ、わたしの言うことを聞いてをまげた。カールはウ = ( た。その瞬間、彼女がとびかかった。驚いて彼はあとずさった。マ ースを受けと「たチッゾをじ「とみつめ、彼ーナの分を取り落とすと、彼女はそれにとびついた。 彼女は最後のウェハ 「それじゃあ、足りないそ、カール」ヴィックが言った。「きみた にとびかかった。 「それをわたしによこしなさい、チッ。フ、それはわたしのよ。さちのどちらにも足りないそ」 カールはマーナを荒々しく引き起こした。 あ、チッ・フ。あなたには別のをくれるわ。チッ・フ ! 」 / カウ工、 】スを口に押しこむと、マーナは突進した。チッ。フは「行きなさい」彼は言い、彼女をドアのほうに押しやった。 椅子から押しだされ、腕をあげて彼女をふせいだ。マーナはうめ き、テー・フルの上に大の字になった。テー・フルは傾いて、マーナを「ごめんなさい」 床に放りだした。彼女は食器や割れた皿のあいだに倒れた。血がぶ マーナは拷問にあってすべてを自白したような様子をしていた。 5 7
ロイゼ・マイヤースが、空になったグラスをテー・フルに置くと、 ロイゼ・マイヤーヌが、折から押されてきた台車に手を伸ばし、 、 . し 0 ノー ーエルにすすめ アルコール飲料の入ったグラスをとりあげて、 た。トーエルが受け取ると、次のグラスをェイゲルに、その次をま「何じゃ ? 」 と、ト た別の人に渡す。ほかの人も台車からグラスを取って、近くの人間 にすすめはじめた。 ト】エル様は、この前の舞踏会で、わたしと踊って下さいません でしたわねー キタも、あたらしいのを受け取った。 「ところで ロイゼ・マイヤースは、挑発的な口調になった。「わたしと踊る しいかけるトーエルを、エイゲルがやわらかくさえぎった。 のには耐えられないほどお疲れなら、仕方ございませんけど : : : や はり、おいや ? 」 「叔父上、実は、お願いがあるのですが」 「わしが逃げると思うのかね ? 」 「何かね ? 」 ーエルは胸を張った。 トーエルが、そっちを見る。 「今しがたの、司政官殿とロイゼ・マイヤーヌのみごとな踊りつぶ「それじゃ、まいりましよう」 ロイゼ・マイヤーヌは、ト ーエルの手をとって、フロアへ出て行 りに、乾杯したいと思うのですがね」 く。行きながら彼女は、こちらへ顔を向けて、ウインクしてみせ と、エイゲル。「ここはひとつ、叔父上に乾杯のご発声を頂かな ければ、さまになりません。お願いできますか ? 」 残された人々は、何となく、ほっと息を洩らす。 「よろしい。結構結構」 「われわれも、ダンスを楽しむことにしましよう」 ーエルは、大きく頷き、グラスを高く持ちあげた。 「ふたりの、感激すべき踊りに : : : 飲みさしはいかんそ。ぐっと空 ェイゲルが声をあげた。「マイヤーヌがトーエル叔父の面倒を見 ナが必要 てくれている間に : : : 司政官殿には、彼女に代るパートー けて頂こう。ふたりの感激すべき踊りに、乾杯」 ですな」 トーエルがいい、 みんなはグラスを挙げて飲んだ。 キタも飲んた。 「エステーヤ、お相手して頂いたらどうかね」 横のエステーヤを見てすすめたのは、トパネット・ロイジャだっ ーエルの言にもかかわらす、女性の中には飲み乾さない者もい たようだが : : : その場の空気として、彼はグラスを空けないわけに はいかなかった。アルコールは身体中にひろがり、彼は、気分が良その瞬間、キタは、昔の彼を覚えているといった年配の婦人や、 くなってゆくのが自分でもわかった。 ェイゲルといった人々の表情が揺れたように思ったのである。錯覚 トーエル様。今度は、わたしからのお願い」 だったかも知れない。はっきりそう見て取ったのではなく、気配と 6 2
した。ムギはいうまでもない。テー・フルは真二つになり、椅子は粉魂消る悲鳴が、スクリーンのスピーカーから飛びだした。 と、同時に。 粉に砕けた。メイヤーは破片で顔を切った。しかし、気丈だ。血を スクリーンが真っ白になった。光の粒子が砂嵐のように画面を襲 見ても平然としている。 船の上下動は、しばらくつづいた。だんだん収まっていくが、途った。 「何が、しナし : 中から横揺れも加わり、立つに立てない。揺れに合わせてテ 1 ・フル 頬を鮮血で染めたメイヤーが、あたしたちの方に向き直った。目 の天板が転がってくるので、それを足で蹴とばす必要もある。 が焦点を結んでいない。 「メイヤー ! 」 しかし。 壁の一角がとっぜんスクリーンになった。奥の隅の方だ。そこに 船長の顔が映った。船長の顔は蒼醒め、額に血がにじんでいる。飛茫然としているヒマもなかった。 突き上げるようなショックがきた。 ばされちゃったのだろう。帽子もかぶってない。 さっきのほど大きくはない。だが、鋭さが違う。さっきのが、ぐ 「どうした ? 何があった ? 」 メイヤーがロばやに訊いた。少し震えているが、しつかりした声うんという感じなら、今度のは、ぐん ! というやつだ。 だ。負傷はダメージになっていない。 気を抜いていたメイヤーが吹っ飛ばされた。あたしとユリは仰向 「潜水艦が : : : 」船長は言った。「爆発しました。原因は不明でけになってコーナーで手足を突っぱらせていたが、それもまるで役 に立たなかった。 「やられた ? あれが ! 」 斜めに飛んで、壁に激突する。火花が散り、息が詰まる。全身が メイヤーの双眸が吊り上がる。 痺れ、苦痛で意識がふうっと薄れる。 「はい。あっ ! 」 床に落ちた。後頭部から。首の骨が嫌な音をたててきしむ。手で スクリーンの中で、船長が後ろを振り返った。 かばったけど、かばった腕にも激痛が走った。 一回転して、平たくなった。うつ伏せである。耳に、何かこすれ 「なんだ ? おい るような音が響いてくる。 声が悲鳴になる。 「うわあ ! 」 朦朧となって、目を開けた。目は床すれすれのところにある。首 をもたげたつもりだが、ぜんぜん動いていない。 逃げだした。 「キャ。フテン ! 」 ノナ窪カ傾いているのだろう。脚を刀 メイヤーが叫ぶ。船長が逃げたので、スクリーンには誰も映って音の正体が見えた。テー・フレ・こ。き、 ・フリッジのそれとお・ほしき壁だけが見える。 失って天板だけになったテー・フルが、あたしの方にまっすぐ滑って
が少しはわかったか ? 」 ておきますから ? 〉 〈どうするつもりなんでしよう ? 〉 松崎は長いテー・フルの端にたどりついた。人の形をした生き物は 「まさか自分のからだに塩をふれとは言わないだろうがな。このま彼を見ている。しかし、瞳の区別がっかないので正確な視線がわか らない。一様に赤い、不気味な眠だ。 ま消化しちまう可能性はあるぜ。とんだレストランだ」 〈武器はありますか ? 〉 からだは小さい。一四〇センチぐらいか。頭部には薄い毛がまと 「ハーナーと携帯爆薬だけだ。しかし、おれには金を持ってないこわりつくように生えている。鼻は低い。ロは大きさは普通だが唇が との方が心配だよ。ここが飯屋だとしたらな。食い逃げなんて到底ない。そして顎が異常に発達していた。 できそうもないし」 「コンビュ、通訳しろーーーハ 松崎がそう言い終わらぬうちに、空洞が急に広くなった。まばゅ 〈何語に通訳しろって言うんですか ? 〉 いばかりの光が押し寄せる。広間のようになった空間の中央に石で「何語でも、とにかく親愛の情を示す言葉を思いついただけ言えっ 造られたような楕円のテー・フルが置かれ、いちばん奥にーー人の形て」 をしたものがすわっているー 松崎は自分の声の語尾が震えるのがわかった。わかったら今度は 松崎はポッドの丸窓にへばりついて叫んた。 膝も震え出した。 「おい、見ろよ。何てこった」 「通訳はいらない」 〈見てます。武器らしいものは持ってませんし、中の空気も呼吸に 宇宙人が喋った。松崎は血液が背中を滑りおりてゆく感覚を味わ 適しています〉 「それは、つまり、おれに出ていけってことか ? 」 「ここで二年も待っていたんだ。言葉はすべて覚えた」彼はほとん 〈おや、それが当初の目的でしょ 2 それにともかく一度は挨拶でど口を開けずに喋っている。喉のところに細いスリットが左右一組 もしないと帰るに帰れませんよ〉 入っていて、声はそこから出るらしい 「ここへ来たということは、わたしのメッセージを受けとったと理 松崎は舌打ちした。わきの下が冷汗でぐっしよりになっている。 彼はゆっくりとポッドの与圧装置を解除した。そしてハッチを手動解していいか ? 」 で解放。残っていたわずかな圧力差がなくなる音がして、 ( ッチは「ああ」〈その通り〉松崎はコンピ、のでしやばりに舌打ちする。 ゆっくり外側に開いていった。 「それでは食べ物を出そう」 松崎はゆっくりステッ。フを降りる。相当にスローモーな動作だ 宇宙人は掌をテープル上でひと振りした。船体に穴があいたよう が、テープルの端にすわった生物はじれた様子もなかった。 にテー・フルに大小の穴があき、そこから不思議なものがいくつもと 〈ス。ヒーカーに切りかえます。ヘルメットをはずしても回線は開けび出してきた。 5
とって、出血のダメージを癒そうとしたのだ。 額が割れた。 押し上げようとする用心棒たちと揉み合いになった。 賭けのストツ・フラン。フが消えた。攻守の立場が入れ代わる。 ーが時間を まとわりつく用心棒の腕を巧みにかわし、サミ 勝ち誇った笑いを浮かべて、リングの中央でうずくまっていたゴ ーレムが立ち上がった。 ゴーレムは激昻した。せつかく優位に立ったのに、このままずる そのさまは、まさに伝説の巨人そのものである。 サミー・リーが逃げた。マットを転がり、エ。フロンからリング外ずると休まれたのでは、試合がまたふりだしに戻ってしまう。 一声咆えて、ゴーレムはロープをくぐり、リング下に降りた。 に出た 来ないなら、こっちから行くまでだ。フロアで EO してリングの ゴーレムが怒りの雄叫びをあげた。腕を高く振りあげ、サミ 中に放りこんでも、試合は成立する。ルール上、問題はな、。 丿ーを追ってロープ際に進んだ。 ゴーレムはそんな決断をくだしたらしい あたかも、その雄叫びに応えるかのように、リングサイドのテー サ ミー・リーに襲いかかった。レフェリーと用心棒が止めには、 ・フルの間から、屈強な男が数人、わらわらと飛びだした。男たちは るが、ゴーレムが相手では、素手で暴走する・フルドーザーに立ち向 みな、黒っぽい制服を着ている。 かうようなものだ。止められつこない。逆に跳ね飛ばされて大ケガ コーナー。ホストの下で頭を抱えながら呻いているサ をする。 駆け寄った。 レフェリーも用心棒も払いのけて、ゴーレムがサミー・リーに追 ーをリングの上に押し上げようと 一斉に手を伸ばし、サ、、 いついた。 する。 ミー・リーも逃げてはいられない。向き直り、正 こうなると、サ 「ラン・ハ ジャック・デスマッチだ。レスラーがリング外に出た ら、カウントせずにクラ・フの用心棒が中に入れることになってい面からゴーレムを迎え討った。 ーは、突進してくるゴーレム る」 両者が四つに組み合う。サミ ジェフが一一一口った。 を抑えきれない。組み合ったまま、ずるずると後退する。 ラン・ハージャック リングサイドのテー・フルになだれこんだ。 ージャック・デスマッチーー大昔、何十人もの木こりが テー・フルが吹っとび、椅子が砕ける。二人のレスラーは、そこ 並んで輪をつくり、その中にケンカする二人を閉じこめて決着がっ くまで戦わせたことからはじまった。逃亡を許さない地獄のルールで、からんだまま殴り合いをはじめた。観客がまきこまれ、悲鳴と 怒号が激しく飛び交った。 「やばい ! 」 ーは逃げだそうとしたわけではない。そうではない が、しかし、すぐにリングに上がることは拒んだ。少しでも休みを ュリが立ち上がった。 ー 55