思っ - みる会図書館


検索対象: SFマガジン 1985年6月号
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1. SFマガジン 1985年6月号

彼は倒れた。 音と気配でだいたい想像がついた。 誰かがわざと足をひっかけたのだということはわかったが、どう「来たわよ。乗らないの ? 」 することもできない。左の肘を強く打って、その痛みに一瞬意識を「先に行けよ」 とりもどす。 うすく目をあけて女を見る。ジルはハッとするーーー女ではない、 「だいじようぶかい ? 」 いや、なんといえばいいのか : : : 少女だけではない、白 少女だ 足をひっかけた男が優しく彼を抱きおこしながら性器を愛撫してい肌は優しくて柔らかそうで触れてみたくなる、そっと、だ。少し くる。見ず知らずの奴なんかにそんなことをされるのはきっと自分だけ。触わるだけ。 「そう : : : 」 が悪いのだ。自分が挑発しているから、自分のせいなのだ : : : 罪 : ・ 少女は言って、すっと大型の昇降機に乗りこんだ 1 ジルはその扉がゆっくり閉まるのを、まるでスローモーションの 「いまから、どうだい ? ・ ように見つめていた。いつも出遅れる。気おくれして、はじかれ そこを撫でられる一瞬の陶酔に、これまでいく度となく身をまか て、おしのけられ、いつも世界になじめない。 せてきた。とても抗しきれない戦慄のような快感。 彼は興奮とあきらめのないまぜになった気分で、次のエレベータ 彼は、ふいに相手の分厚い胸板を強くおしのけた。 1 を待った。 相手は少しよろけてそれから腹を立てた。 ジルは椅子の背につかまりながらやっと立っていた。怒った男に床はもちろん壁も天井もすりきれたワインカラーのビロウドの張 胸ぐらをつかまれながら、魂が涙に濡れはじめた : : : ゆるして、ゆられた昇降機は、激しい下降感といっしょに彼を地獄まで連れおろ してくれた。 るして、・ほくが : ほくが、ぜんぶ、悪い 殴られると思い、身を硬直させ、彼は言った。 沈んだ気分のまま扉があくのを待って、外へすべり出した。そし 「たのむから : : : ゆるしてくれ」 て冷えきった酸性雨に頭をなぶられふっと目を上げたとき、心臓が するとそれまで怒りでふくらんでいた男のこぶしがスウッと力をキュウと鳴った。 失った。男はあわれむような低い声で言った。 「こんばんは。また会ったわね ? 」 「行けよ、ジル。この臆病者が」 もう行ってしまったと思ったのに。 ジルは暴力という人間関係からさえ拒否されて、再び重い足で出彼の胸は信じられない勢いで高鳴る。 口を求めて前進しはじめた : ・ 「 : : : まってたの ? 」 「ええ」 旧式のエレベーターを待っていると、店から女が飛び出してきた。 ジルは目を閉じて、ヒビ割れた壁によりかかっていたが、匂いと少女は白い微笑みのイメージだけを残して、くるりと背を向け歩

2. SFマガジン 1985年6月号

彼は畑を横切って、原住民の小屋に外見はよく似ているけれども「あそこにいるよ」 中はまったく違う建物の中に入った。疲れがひどいので服を脱ぐ気「あのう : : : 面倒なことになるんでしようか ? 」 にもなれず、そのままべッドに倒れこみ、暗闇の中で静かに体を休「まだだね、この取り引きがうまくいっているとして。われわれが めた。 彼らを怖れている以上に、彼らはわれわれを怖れているから」 異境の世界の奇妙な物音、どこかに聞きお・ほえのあるような、不「うまくいっていないとしたら ? 」 コナン・ラングは徴笑した。「はて、どうなるかな」と彼は言っ 安をかきたてる物音が、ゆったりと流れている川のほうから湿気を ふくんだ風にのってやってきて、小屋のまわりでざわめいている。 遠くの灌木の繁みで獣が咆哮する。コナン・ラングは目を閉じ、な若者は苦笑した。よくわかっているんだ、とラングは思った。は にも考えまいとしたけれども、頭は言うことをきかなかった。正常じめてああいう気持になったときのことを思いだす。あのときがく に回転し、問、 るまでは思いもっかない、それからとつじよがんとくらわせられ しを投げ、答を出し、なっかしい思い出や、忘れてい たほうがいい思い出をまざまざとよみがえらせた。 る。それは不意に、教科書やビュウワーやアカデミーのクラスで教 「キット 」彼はそっとつぶやいた。 わったものとはまったく別のものになってしまう。ひとりだそ、た 疲れがひどいので「今晩はもう眠れないだろう、と彼は思った。 ったひとりだそ、異境の風が耳もとでそうささやく。名もない十地 でたったひとり、森を吹きわたる風がつぶやく。わたしたちの目が おまえを見張っている、わたしたちの世界は根気よくおまえを押し インフェル / かえしてやる。わたしたちのなにを知っているのだ ? おまえの知 日の出は壮観たった。シリウスのブルー ・ホワイトの焦熱地獄は 畑のむこうの森の上に頭を出し、やがて夜明けの空にのぼってい識がなんの役に立っフ く、白い小ぶりの仲間、小さい太陽を引き連れて。低くうかんだ積「次はどうするんです ? 」アンディが訊いた。 緋色、うすい青、つめたい緑の炎に縁どられている。朝風「畑をたがやすのさ、若いの。そして亡霊のように振舞うんだ。繁 がさわやかな空気を畑に運んでくる。芽がもう土から顔をだし、陽みのなこうでわれわれを見張っている連中の、きみはご先祖さまな の光りをむさ・ほっている。堀割をちょろちょろ流れる水が陽光をあんだから。われわれのやり方がまちがっているとしたらーーあの調 びてきらめいている。 査報告書が不十分だったとしたら、あるいはこの土地に属していな 夜明けとともに原住民がやってきた。 い人間はだめだとなったらーーー少くともなにか警告があるはずだ よ。吹き矢のたぐいは使わないからねーーー槍だよ、斧のほうがお好 「ぐるりととりまいているそ」コナン・ラングは静かに言った。 「・ほくには見えませんが」アンディ ・アーヴィンは、繁みのほうをみかもしれないな。まあ万が一面倒なことになったら、大急ぎで小 ・な眺めてささやいた。 屋に逃げかえって、。フロジェクターをセットする。それだけだ こ 0 248

3. SFマガジン 1985年6月号

な。 ( トロール艇が空中に静止し、新しく切りひらいた畑のまわり 間に初歩の人類学など、あっと驚くほどのことでもなかろう」 に、防護スクリーンをはりめぐらしている。コナン・ラングは額の 「まあーーこ 「いいんだよ」コナン・ラングは感慨深げに相手を見つめた。この汗を拭い、足もとの堀割をごぼごぼ流れていくきれいな川の水で手 若者を眺めていると、ある人間をどうしても思いだしてしまうのだを洗った。 んじゃないか、アンディ」彼は疲れた声で言った。 「だいたいいい 昔々、大冒険にのりだしたコナン・ラングという名の若者を。 「シグナル 4 を送れ」 「ぼノ、は : : うーん : ・・ : その、きみはもう知っていると思うが、テ ンで・ほくといっしょに仕事をすることになっている」 アンディ・アーヴィンは小さな制御盤のレオスタットを 4 にまわ アンディは、コナンからハーレムをのせた銀の皿をさしだされたし、スイッチを入れた。二人は川を吹きわたる夜風のささやきに耳 目に見えるものもない ような顔をした。「ノウ・サー」と彼は言った。「知りませんでしをすませながら待った。なんの変化もない、 た。サンキュ】 力。 ( トロール艇から強力な放射線が畑に注がれ、大地に浸透し、 . 「名前はコナンだ」 種の中の生長因子の働きを何千倍も加速させている。フロセスを、彼 「イエス・サー」 らはほとんど感じられるような気がした。 「まいったね」とコナン・ラングは言った。こうやってまた目をき「うまくいったな」コナン・ラングは言った。 らきら輝かせているやつがそばにいてくれて幸せなんだというこの 「レリース・シグナルを送れ」 気持をどう伝えればいいのだろう ? 阿呆らしく聞こえないように アンディはパトロール艇にシグナルを送り、制御盤のスイッチを 伝えるには ? 答えは簡単・ーー・伝えないことだ。 切った。小さな船はふらふらと揺れているように見えた。かすかな 「待ち遠しいですよ」アンディは言った。「遂になにかをやるって 辷航船は うなりがして空に白熱の光点が見えた。それだけだった。巛 いうのは , ーーすばらしい気分です。うまくやれるといいですが」 飛び上り、彼ら二人がとりのこされた。 「もうそろそろだよ、アンディ。、 しまから二十四時間後にはきみも 「長い夜だったな、若いの」コナン・ラングはあくびをした。「ち ・ほくも仕事にとりかかる。乳母車の旅ももうじきおわりだ」 よっとひと眠りしたほうがいし 夜が明けないうちに眠っておく 二人はふっとだまりこみ、積みあげられた茶色のきれいな袋の山必要がありそうだ」 「ぼ を見つめた。星間宇宙船が、巨大な原子 = ンジンの轟音とともにか「どうぞやすんでください」アンディ・アーヴィンは言った。 すかに震動するのを足の下に感じながら。 くは眠くありませんから。ここの日の出はきっとすばらしいにちが いないです」 「日の出はすばらしいにちがい シリウス・テンは夜だったーーー・蒸し暑い夜、月がひとつ、暗い空「ああ」コナン・ラングは言った。 に凍りついた火のようにかかっている。巡航船から飛びたった小さない」 247

4. SFマガジン 1985年6月号

小坂の耳がびくんと動いた。唇が小刻みに震えている。何か喋ろに知的生物の交信だった。後の調査で、それが太陽系外から送られ てきたものとわかった」 うとしているが、言葉が出てこないのだ。 松崎は途方に暮れた。まるで彼の専門外の領域であるばかりか、 「〈鳳凰〉は今ちょうど木星をはさんで反対側だ。だから の〈ユ = コーン〉、〈ライラⅡ〉に応援を要請してる。データの解話の内容もよく理解できなかったのだ。 「どうしたって ? 宇宙人から連絡があったのかい ? 」 析はケー。フ・カナベラル経由だから遅れるが、こちらの解析能力の 都合もあるからな。のコンビ = ーターを援用してくれる分「宇宙人からと断定するのはまだ早いが、少なくとも地球の公認衛 には大助かりだ。 しかし、きみの友人には最新情報より順を追星、宇宙船などからの交信でないことは確実だ。それは解析ずみ で、九九・九九九パ 1 セントの確率で地球上の知性ではない」 って最初から話す必要があるんじゃないかね ? 」 田所はまだ信用しきっていない様子で松崎を見上げた。松崎自身「どういうふうに、地球上の知性であるかどうかを判定する ? 」 も息苦しくてたまらなくなっている。 松崎は何もかも理解しかねるといったふうに、・ほそっと呟いた。 「メッセージの最後に自分たちの恒星系の座標と思われるものがコ 「ああ、そうでしたね。松崎、順を追って説明しよう。で、これに ード化されていた。そしてその後に、生物体の化学組成と思われる 関してはさっきも言ったように、部外者には他言無用だからな」 「ちょっと待ってくれよ」松崎はたまりかねたように小坂を押しとデータが延々羅列されている。おそらく自分たちのからたの説明だ どめた。「勝手におれにそんな全幅の信頼を置くなよ。おれには専ろう」 門の知識もなければ、機密保持の責任もない筈だ・せー 「ビールがほしいな」 「国家的問題だ」小坂は松崎の腕を取って、無理やり椅子にすわら「松崎」 せた。「知ってしまった以上、きみには国民として最善をつくす義「ここじやタバコはご法度なんたろ。煙は自重するから、ビールぐ 務がある。なあに、無理は言わん。きみの意見を聞かせてくれれば しいいだろ」 いいんだ」 田所は小坂に目で合図をする。「かまわんから早く説明を終えて 松崎は親友のこの変わりように驚きながらも、すばやく三度もう しまうんだ」 なすいてしまった。 小坂はインターコムでビールを持ってくるように伝え、また松崎 「それでは説明しよう。今から二週間前、わが国初の木星探査衛星に向きなおった。 〈鳳凰〉に謎のメッセ 1 ジが届いた」 「メッセージの主要部分とお・ほしきところは解読が九〇パーセント ほど進んだ。イオとユーロバの軌道の間を示す空間座標だ」 小坂はさらりと言ったつもりだった。た・、、語尾がかすれてしま 「それでどうしておれを呼んだんだ。おれに何をアドヴァイスしろ い、松崎は事の重大さを正しく知ることができた。 って言うんだ ? 」 「それは。ハルス波によって、かなり選択的に送られてきた、明らか

5. SFマガジン 1985年6月号

はシャツを着て、サンダルをはいた。「スフィンクスに会ったこと「朝は四本足、昼は二本足、夜は三本足で歩くものは何だ ? 」 がある ? あなたの仲間には ? 」 「人間だ」 「いや。どこにあるの ? 」 「どうしてその答えを知っているんだ ? 」 「行って見るべきよ。浜辺にそって西にできるだけ遠くまであるい 「それを訊いたのは、あなたが最初ではないからだ」 て行きなさい。ああ、ところで」彼女は中庭につうじるドアをひら「本で読んだのか ? 」 いた。「もうあなたとは寝ないわ。つまんないことばかり訊くんで「読まない。知っているのだ」 すもの」 「読むことができない、という意味か ? 「無意味な質問だ。ここには読なものがないから、そういう場合は 満ち潮で浜は狭くなっていた。カールはジャングルの縁を通り、 起こらない」 波に洗われる倒木をのりこえて進んだ。マーナが彼をだましたので 「ぼくがメモを書いて、センサ 1 の前にだしたらどうだ ? 」 ーないかと思いはじめたとき、丘の斜面にきざまれた石段があらわ「何で ? 」 れた。急なの・ほりで、くだりは大きく視界がひらけ、そこにギザの「手首を掻き切って、血で石に書こう」 大スフィンクスがうずくまっていた。 「なぜ、そんなことをする ? おしゃべりのほうが、簡明だ」 高さは十九メートルはあるだろう。全長は七十メートルで、全身カールは巨大な前足のあいだをぶらぶらと歩き、第二ラウンドの が明るい色の石膏で覆われていた。地ならし車のタイヤほどもある ための考えを整理した。 センサーが水平線の青い島影を見つめている。顔は時間やトルコ兵 「書くことでのみあらわせることもある」 の銃弾に傷ついていなかった。スフィンクスはカールと公園の奥の 「信じられない」 彫像園とのあいだにそびえたっていた。 「詩だ」 「こんにちは、カール」スフィンクスはナイアガラの滝みたいな声「朗読という伝統がある」 で一一一口った。 「しゃべるのが苦痛なこともある」だんだん腹がたってきた。すで カールはたしろいだ。一 に熱くなっている。「たとえば、自分自身のことをしゃべるのは恥 「もっと小さな声で」 ずかしい」 「これでどうかね ? 」うなるような声で応した。 「なぜ ? 」 「質問に答えてもらえるかな ? 」 また不利になりつつあるのがわかった。だが、疑問には答えが必 「訊きたまえ」 要だった。 カールは石段のいちばん下に足をくんで座った。 「もし文章に書くなら、相手の顔を見ないですむ」 8 6

6. SFマガジン 1985年6月号

参考、作 おとしもの て、パイクにでも乗ってきているのかも知れない。そうたとし 私は考古学を勉強している学生の一人である。 その日は、大学の教授たちを中心に、ある山の中にある縄文ても、ものものしい奇妙な服装だった。 彼は、私たちが発掘しているあたりをうろうろと歩きまわ 時代の遺跡の発掘に参加していた。初夏とはいえ、太陽がじり じりと照りつけ、その下での発掘はきっかった。あたりは山ばり、集められた発掘品をのぞきこんだり、首をかしげたりして いた。こちらが地面にはいつくばっているのに、まわりを歩き かりで、喫茶店どころか清涼飲料の自動販売機すらなく、蝉の 声ばかりが威勢よかった。 まわられると、ひどく気になるものである。 発掘のやり方は、あらかじめ地面に縄で地割りをしておい ついに教授が声をあげた。 て、そこを組織的に掘りすすんでいくのである。こうして、ど「ちょっと、そこに入られちゃこまるね。これから掘るところ の遺物が、どこの地面の深さ何センチのところから出たかが正なんだ」 確に記録されるのだ。私たちは日よけの帽子をかぶり、汗を流この先生は、イクに乗るような若者が大嫌いなのだ。男は しながら泥だらけになって働いた。 思ったより素直にひっこんで、木かげに腰をおろして私たちのイ 苦労して掘っているかいはあって、土器や石器のたぐいが次ほうを見ていた。 次と掘り出されてきて、私たちのロマンはかきたてられた。い しばらくして教授が大声をあけた。 この時代、どんな人たちがいて、どういうできごとが「さあ、休憩にしようか」 あったのか、想像力がかきたてられる。 私たちはどやどやと立ちあがり、木かげに入るとアイスポッ ところが、無神経な見物人によって仕事のじゃまをされると クスから冷たいものを出して飲んだ。私は、さっきの男のほう いうことはよくあることなのだ。その日は、風変わりな男がふへも缶ジュ 1 スをさし出して話しかけた。 らふらと発掘現場にやってきていた。その男は二十五、六歳だ「見学ですか ? 」 ろうか、からだにびったりした白いジャンゾスーツに似たよう「、 しいえ、落としものをさがしているんです」 な服に身をかため、白く長いゾーツをはいていた。格好からし 男は元気なく答えた。 沢田直大 円 5

7. SFマガジン 1985年6月号

「え ? なんだって ? レモラにはむつかしい単語がわからない。 ジルは言いなおした。 「小便みたいなもんだな」 レモラはハッ、ツハッと笑った。そのてかてか光る顔に宇宙船の 残骸の放っ光が照り返る。 「どうした ? 」レモラが少し驚いたようにジルの顔をまともに見 た。「あんた、めずらしいな、 : : : 興奮してんのか ? 」 ジルは耳の先までまっ赤に染まった。 「ええ ? ほんとかよ ? 外でなんかあったな ? 」 そう言いながらレモラはジルの体をゆっくりと押し倒していっ た。ひどく久しぶりだったのでレモラも相当興奮しているのが肌に 感じられた。 「もう、あんたは一生立たねえのかと思ってたよ。よかったなあ : ・ : もう、おれも出ていく潮時かって考えてたんだ : : : 」 「 : : : 出ていくな」 ジルはきれいな顔をしかめながら言った。肉体で話ができなくな ったらサヨウナラとは、なんて貧しい感性の男かと思ったが、彼が いなくなったらやはり多く悲しむのは自分の方だろうと思うとなさ けなくなった : : : そして二人は宇宙の海の中で、深く愛しあった。 ジルは眠りに落ちるまでの間に、あの少女のことを話した。 「そりや、あんたにホレてるよ。知らねえふりしてうまく近づいた のさ。絶対だ」 「 : : : じゃあ、どうしてぼくを拒否した ? 」 「気をひくためさ」 レモラはきつばりと言い切った。 「また一週間もしねえうちに現われるって。自信もてよ」 自信とか、そういうんじゃない。ちがうのだ。この男にどうやっ 8 て言えば : レモラはつづけた。一 「それにしても外世界人とはなあ : : : あんたに似合わね工よ。やめ とけよ」 レモラは徹底した外世界人嫌いだが、どうやら外航路の舟乗りを やっていたころとんでもない女にいたぶられたらしい。あるいは一一 代前まで外世界人だったという彼自身の中の血を嫌っているのかも しれないが : : : ジル自身がダンサーを忌み嫌っているように。 ジルはレモラのごっい腕の中で言った。 「なんか : : : 不安なんだよ」 「なにが ? 」 もう終わったと思った話がぶり返したので、レモラは不機嫌な声 「今どうしてるのかとか : ・ : どんな性格の女なんだろうとか : : : 」 「その少女のル 1 ムメイトと関係があるのかとか ? 」とレモラは意 地悪く笑う。「おれたちみたいに ? 」 の つばいたまって ジルはレモラの腕から逃がれた。嫌悪感がロにい くるような気がした。 レモラは追い討ちをかけるように言い放った。 「その女が一カ月以内におちる方に一千賭けるせ ! 」 ジルはロをおさえながら立ち上がったーーー胃の奥底からこみ上げ る酸つばい嫌悪感を吐き出すために。ちがう、そんな : ジルがシャワールームでゲエゲエやっているあいだじゅう、レモ ラは外の自分の女たちについて、こと細かに話しきかせつづけた。

8. SFマガジン 1985年6月号

感ではありません。それは状況のいたずらですよ。わたしが立ってたもそう思うでしょ ? 」 ジムは恥ずかしそうににやりとした。 いた場所と、マンディの位置との関係がものをいったんです。彼女 が横たわっていた岩の割れ目が、彼女の放射を増幅して、わたしに かれらは手を取り合わんばかりにして、自分らの部屋に戻ってい 向けたにちがいありません。雷雨の時にはおかしな影響がありますった。 からね」 おやおや、人々に分別を取り戻させるには、ちょっとした危機に あとはかれらに考えさせた方がいい。説明するよりも、そのほう まさるものはない、とわたしは思った。 が容易だ。 ぎごちない沈黙が流れた。ちょうど病院の面会時間に経験するよ そして、今、巻上がる砂塵が近づいてきた。タービンの唸りが聞 うに。われわれは彼女を取り囲んで立ち、彼女を見ていた。彼女はこえ、やがて、小型のスポーツ・モデルが角を曲がって姿を現し、 落ち着かない様子で、シーツの下でもそもそ体を動かした。やが道路から逸れて、草地を横切って、わたしの方に近づいてきた。そ て、突然、目蓋がびくびくして閉じ、呼吸が深く規則正しくなっして数ャード先でエンジンが止まり、車が沈みこみ、停止した。 彼女は背 た。彼女は眠ってしまった。 彼女が車から降りると、わたしは彼女の両手を取った。 .. われわれは何となく、もうしばらくそこに留まり、それそれのやが少し伸び、黒い髪が少し長くなっていた。感覚ビジョンでは、 りかたで、毛布の隙間を押さえてやったり、歪みを直してやったりつも彼女にこの決り文句を言っている、とわたしは思った。少女と していたが、やがてそろぞろ外に出た。ヘラが最後に彼女の寝姿を いうものは成長するものだし、突然、すれつからしになるものだ。 一目見て、外に出てドアを閉めた。それから、ビギーのほうに不安しかし、彼女にはそれは当てはまらない。彼女がすれつからしにな ・ : とても可愛いだけだ。 そうな笑顔を向けると、かれもちょっと笑って見返した。厳しく叱ったりするはずがない。彼女はただ : ってやるという最初の意図はどうやら、棚上げになったようだっ 彼女は徴笑した。わたしはだしぬけに彼女にキスをした。衝動的 こ 0 に、ほんのちょっぴり。それから、二人ともむしろびつくりして、 「いらっしや、 ジム」ジョイスは夫の手を取った。「もう寝なけ体を離して立った。 ればだめよ。明日は朝早く発ちたいんだから」 「これが普通、お宅の新しいコック見習いを迎えるやり方なの ? 」 「朝、お発ちですか ? 」わたしはびつくりして尋ねた。 彼女は、わたしの記憶に鮮明に残っているあの明確なイメージで、 「ええ。みんなでちょっと話し合って、ジムとわたしはあと二、三尋ねた。「夏のアル・ハイトが見つからないのも無理ないわね。着い 日、海岸の先の方にいってみることにしたの。せつかくの休暇なの たとたんに脅かして追っ払ってしまうんだから」彼女はにやりとし 5 に、みんながあまり一緒にいすぎて、一年の大部分に見ているのとた。「あなたがこんな振舞いをすると知っていたら、母さんはわた 同じ顔を見ているのは、あまり良いことではないと思ってね。あなしを一人で嵜越しはしなかったでしようよ」

9. SFマガジン 1985年6月号

催県に敬意を表し、「いばらぎパビリオン」にゆく。 三がっ四か さいごにわたしたちは「いばらぎばびりおん」 と「ゆーしーしーこーひーかん」にゆきました。 「いばらぎばびりおん」に入るとうけつけにおじ さんの写真をならべてうつってるみたいでした。 わたしはこれは「いばらぎの県ちじにちがいな とおもい、「これはいばらぎの県ちじです かーとききました。するとこんばにおんさんは、 いえ、これは当ばびりおんの館長でございま す」といいました。館長さんのぶろまいどをなら べていたのはいばらぎばびりおんだけでした。 いばらぎ」 なかには「さいえんす・わーるど・ とかいてありました。「せかいにほこるいばらぎ の先たん科がくぎじゅっ」ともかいてありまし こ 0 「なっとうのできるまで」があるとゆったの におとうさんはうそっきです。 わたしは「げん子の火」のなかをとおりまし こ。ばばっとらいとがついてすごいでしたが、ち っともあっくありませんでした。みんなとてもに こにこしてしんせつでした。「おまつり広ば」に ゆくと、「ぶるーじーんず」とゆうばんどのよう いがありました。おとうさんは、「まだやってた のか、すごいな。さすがいばらぎだな」とかんし んしていました。このばんどはとてもむかしから やっている、とてもゆう名なばんどなのだそうで す。 さいごに「ゆーしーしーこーひーかん」へいっ てコーヒーをのみました。さすがにおいしいコー ヒーでした。のみながら「ゆーしーしーがーる ず」というおねえさんたちのおどりとうたをみま した。おとうさんとかとうさんはこれはこくじよ くもんだなとゆっていましたが、わたしはどうい ういみかわかりません。うたをうたっているおね えさんはいしゆとばーんのようにおんちでした。 でもくろいたきしーどをきて、たからづかのよう で、かっこよいおねえさんたちでした。たいわん やふいりびんのおねえさんもいました。おとうさ んはここでしりあいのひとにあいました。 これでわたしのばんばくのえ日きはおしまいで す。あとでかぞえると九つもばびりおんをみてい ました。それでもまだみてないばびりおんのほう がずっとずっとおおくて、まっ下かんも三びしか んもがいこくのはひとつもみてないですから、み んなみてたらきっとなつやすみじゅうかかるだろ うとおもいます。ざんねんなのはりにあもーたー かーにのれなかったことと、もっとたくさんえい がをみられなかったことです。うれしかったのは ぶれびゅーなのでどこへいってもただでいろんな ものをくれたことと、しゅうえい社かんで、ほろ ぐらむのついたふくろをもらったことです。とて もすてきなかっこいいふくろで、みんなにじまん してだいじにするつもりです。 とてもさむかったけどひとが少ししかいないの ですぐみられてたのしいでした。でもおお・せい行 でんでんー Z()D 館にて 芙番ロボット・シアターにて

10. SFマガジン 1985年6月号

・ I—FO(DI— >-<ODQ< ・北海道へ行ってきました。五月は出雲、む月は 0 ー o 〇 z 。またまた (DLL の夏。ゲー乙の部屋であ会いしましよう。 いる。小説に ュニークで初心者向きの 基く″グイン 好ゲーム「グイン・サーガ」 突風″ルール 0 というおふざ一 ( このところ、ツクダホビー社から本格的に これはゲームのタイ。フにも表われている。アニけもあるが、 とゲームを結びつけた作品がいくつか出ている。 メ原作のゲームは、基本的に個々の細かい戦闘がこれは使うな「〔 本誌の裏表紙を見た人なら知っているかもしれな中心となる戦術級ゲームが中心だ。これは、もとらもっと思いき いが、昨年後半に眉村卓の『司政官』が、そしが視覚表現であり、ディテールをわりにつかみやってルールと必 て、今年は栗本薫の『グイン・サーガ』が出た。すいことからもそうなったのだろう。『宇宙の戦然的にからませ どちらも、期待の作品である。 士』よりも、そりや『ガンダム』の方がいろんなてもよかっただ ろう。 えつ、ゲームはこれまでにも出てたじゃな細かい兵器を使う戦術ゲームに適している。 しほら、『ガンダム』とか『ダン・ ( イン』とか ところが、原作が小説だと、もともとの表現が大きい方は、二人用戦略ゲームで、こちらはパ と、言う人もいるだろう。 活字だけにイメージが限定されず ( こう書くと活ロとモンゴールの対立全体をシミュレートしてい もちろん、その通り。だけど、こだわるわけで字偏重かとも思えるので、一般に膨ませにくいとる。兵隊を傭い入れるために経済ゲームの概念を はないが、それらはア = メの原作をゲーム化して いう面も指摘しておこう ) 、幅の広いゲーム造り導入しているのは、この手のゲームでよく見かけ おり、一般の活字小説のゲーム化とはちょっと趣が可能となる。その意味から、別に戦術ゲームにられるが、もう一つの特徴は " 盤外移動。だ。っ きがかわっている。 こだわらない・ほくなどは、活字をもとにしたまり、ゲーム盤の端っこで最初大勢とは別に、グ ゲームの将来に期待してしまう。 イン側のキャラクターとモンゴール側のキャラク 前作『司政官』は、こうした点をマルチプレイターがサイコロで″追いかけっこ″をしており、 ャー ( 多人数 ) ゲームという形に表現していて、 これに種々のイベントが絡んで、ゲームの初期設 なかなか意欲的だった。 定を創っていくのである。原作をポード・シミュ 今回の『グイン・サーガ』でも、二つのおもしレーションでゲーム化する場合、単なるウォーゲ 」ダろい試みが見られる。 ーム要素以外に、小説の粗筋やキ・ヤラクターの扱 ゲームの基本設定は、原作の第一巻から十六巻いをどうするかに . デザイナーの腕はかかってく までのパロとモンゴールの戦いを再現したものだる。この辺り、ゲーム通の人たちが創っただけに が、通常のいくつかの連続シナリオ形式を避け、なかなかュニークだ。 定大小二つのゲームにまとめてしまったのがよい。 ゲームの難度は初心者向にわかりやすく造って 小さい方は、「ノスフェラス」と名づけられたある。ただ、一つ注文したいのはルールブック。 ガ 一初期の辺境篇に基くミニ・ゲーム。中心上なるのデザイナーズ・ノートを付けるくらいなら、もっ はグイン側を追いかけるモンゴール側という追跡と戦法を説明した方がよいのではないか。これか ン イ捕獲タイプだが、盤が小さいだけに駒数も少なくらのシミュレーション・ゲームの発展に大事なの てプレイしやすい。イントロとしてはよくできては、そうしたソフトの部分だと思う。 3 GAME 3. 安田均 いソ MAGAZINE FORUM