「島」ジャンナが答えた。 ンナが熱をだした。ふたりはめったにとれない三日間の休日をケー サリーはダグラスのほうを見た。かれは急いでいった。「ひとめ・フ・コッドで過ごしていたところだった。ローラとふたり、水いら 3 ぐりしただけなんだ。島にあがりはしなかった。ジャンナがどうしずで ても見たいといってね。人がいたよ」 「子供に熱はっきものさ。今夜は泊まって、朝になったら電話して 「そうですか」サリーはいらだっていた。 みよう。六時間はかかるんだぜ」 「女だった。黒い髪の、背が高い女性だ。だれだか知ってるかい 「いや。あたしは家に帰りたいの」 ダグラスは異議をとなえた。 「わかりやしませんよ、観光客でしよう」 「家へ帰りたいのよ」 助けるつもりはないようだ。アルヴァーソン夫人にきいてみるし道路は単調な白い帯になっていた。その先にはなにもない。ダグ かあるまい。ダグラスはジャンナを呼んだ。「おいで、船長さん」 ラスは目をこすった。 ふたりが戸口に近づくと、サリーは態度をやわらげた。「あした右手から目の前にトラックがとびだしてきた。交差点を見おとし も舟を出しますかね ? 」 ていたのだ。なりばかり大きくてのろまなステーション・ワゴン 「そうしたいね」 は、かれが必死でハンドルを切ろうとすると、キイツと金切り声を 「いい天気はもう何日もつづきませんからね。ここにいなさるうちあげた。ゴムのにおいがした。ローラの悲鳴。手もとでハンドルが は、有効にお使いになったらいいですよ」 きりきりまいをし、車はガラガラと突進する鯨のようなタンカーめ 「ありがとう」 がけて跳びかかってゆくように思われた。ぶつかる : ドアに手をかけたとき、サリーがしった 「家へ帰りたい」ローラがささやく。ボタリ、ボタリと音がするー 「その女、どんな舟で来てました ? 」 ー理性と五感とが、それは車から漏れるガソリンの音だとかれに告 「舟 ? 」ダグラスは考えた。「見なかったな」 げていた。血ではない、 ローラの血ではない。妻の声は消えいりそ うだった。「家へ帰りたいわ、ダグ」 「ローラー かれは車を走らせていた。まぶたは砂のよう、腕は鉛のようだっ た。もう四時間、かれは運転をつづけている。隣の席ではローラ かれはもがいて夢のなかから這いだした。「ローラ」呼んでも彼 が、両手を膝の上でにぎりしめ、眉をよせて暗い道路をにらんでい女には聞こえない。かれの声は二度と彼女にはとどかないのだ。ド る。ローラのはりつめた姿がかれを責めたて、疲れさせていた。 レッサーの抽出しの中に薬がある。それを飲めば落ちつくだろう。 「ジャンナは大丈夫だよ」かれがいうと、ローラは青い氷のようなべっとりと汗をかいていた。ダグラスは懸命にふるえをおさえた。 - 一瞥をかれにむけた。ベビーシッターが電話をよこしたのだ。ジャ真暗な円形の部屋の中を手さぐりで、ドレッサーのところへ行く。
て。こちらを見てはいなかった。おれはあの髪の感触を知っている ・ : 呼吸が喉もとで凍りついた。そんなはすはない 彼女は立ちあがった。ダグラスは舷側にこぶしを打ちつけた。あ いつだ 女は島の中央へむかって歩み去った。 その歩きぶりに見覚えはなかった。 ! 」ジャンナの声がした。 ダグラスは無理やり注意をひきもどした。娘に、舟に、そして海 にーー近づきすぎだ。島から離れようと必死で舟をあやつりなが ら、ダグラスはふりかえって浜を見たい誘惑にかられつづけた。舟 が止まった。動かない。 「かして」ジャンナが舵棒にとりついた。舟はすなおな犬のように 向きをかえた。 流れこむ霧が島をおおいかくした。 ダグラスは冷や汗をかいていた。ローラは五カ月半まえに死んだ のだ。一フィートと離れていないところでかれは車の下敷きにな り、なすすべもなく、身動きもならずに、彼女が死ぬのを聞いてい たのだ だがそのローラがいた、あの島にー かれはその考えを 追いはらうために、もういちど舷側をなぐりつけた。それでは、あ んな漆黒の雨のような黒髪をした女が、まだこの世界にいたのだ : : ローラではなく、そのべつの女があの島にいる。岩礁や潮流のこ とを知っている土地の女が。 「さ、もう帰ろう」と、かれは娘に声をかけた。 「どう、おもしろかったかね ? 」ジャンナにゼリービーンズの瓶を 傾けてやりながら、サリーがきいた。 「今日はどっちへ行ったの ? 」 ラヴ・べア・シリーズ第ニ巻発売記念 サイン会のお知らせ 〈ラヴ・ペア〉シリーズ第一巻『魔女でもステデ イ』は発売以来、読者の皆様の圧倒的なご支持をい ただき、現在もベストセラー街道を驀進しておりま す。 この度、シリ ノイ』を発 ーズ第二巻『女神にグッ。、 売するにあたり、読者の皆様の熱いご声援にお応え するため、著者日岬兄悟氏と装幀者Ⅱとり・みき氏 のお二人によるサイン会を左記のとおり開催いたし ます。 また、当日は各会場で十名の方に、抽選でイラス ト入りサイン色紙の。フレゼントも行ないます。 一一二ロ 六十年六月二十二日 ( 土 ) ・午後二時千代田区三省堂書店神田本店 ( 神田畯台下 e *-Ä 2 3 3 ー 3 312 ) ・午後四時豊島区旭屋書店 東武ェアキャッスル ( 池袋東武デ。ハー 0 1 9 8 6 ー 0 311 ) 告 7 3
がたちこめていた。はるか沖合のどこかで太陽が昇りはじめてい彼女は微笑んでいた。板のすきまから水がどっと流れこむ。いまで た。かれは波止場へ降りていった。もやい綱をとき、 0 号をなだめはその目が見えるほどに近づいていた。 その目は海にある藻のように碧かった。さしまねく海原のように すかすようにしてひえびえとした湾のなかへ乗りだしてゆくダグラ スを、漁師たちが舟の上で罠をあっかいながら眺めていた。ダグラ碧かった。 女の足もとには、波に打ち寄せられたさまざまな漂流物が、なか スの知っている者はいなかった。 ジャンナは眠っている。だれにも気づかれぬようそっと出かけば砂にうもれてころがっていた。木の板やちぎれて羽毛のようにな った帆や、さびついた大釘、かってはシャツであったらしい色あせ て、そっと帰るつもりだった : : : どうしても行かなくてはならなか っこ 0 た布きれなどが。 なぜだ ? 霧は灰色のビロードのカーテンのようにするするとかれのために 岩にしがみつこうと手をさしのべながら、ダグラスは考えた。な 道をあけた。島ははっきりと見えていた。陰影のない白い広がり。 ほのかに光る石英の砂。かれは島の周囲をめぐった。上陸できそうぜ、おれはこんなことをしたんだ ? な場所はみつからなかった。だがどこかにあるはずだ。探しながら 岩にかこまれ、霧に抱かれて島は浮かぶ。 もう一周。霧は塩と雨のにおいがした。 平坦な砂地の島。樹木はなく静かで、なめらか、そして白い。ぎ ダグラスは彼女を見た。 女は髪を梳いていた。ゆったりした長い服は碧くて海のようだっざぎざの濡れた断崖はエビとりの簽をしかけるには絶好の場所のよ た。女はとうとう、こちらをまっすぐに見つめていたーーその顔をうにみえるが、漁師たちは近づかない。島への水路は危険だ。暗礁 ベルプイ がもりあがりはじめるところを打鐘浮標が示していたこともあった 見ようと目をこらすと、昇る朝日がかれの目をまぶしく射ぬいた。 舟を動かし、さらにすこし近づける。 が、どうかなってしまったらしい。島にはたえず霧がまとわりつい シルク・アイランド シール・アイランド 女は唄をうたっていた。 ている。海図にみる島の名は、あざらし島、絹島とまちまちで 「コッド岬のおなごにや櫛がない : ・ : 」あまく、ほそく、澄んだ声ある。まったく名をのせていない海図もある。 が、耳を聾せんばかりの潮の叫びとひとつになって。彼女は立ちあ がった。「鱈の骨で髪をすく : : : 」そしてついにダグラスを見た。 片手をくねらせ、かれを招く。「ダグ ! 」と彼女は呼んだ。 「ローラ ? 」かれはヘさきを太陽にむげて舟を進めた。「ローラ ! 」手もとで舵棒がはねあがり、舟は島めがけて跳びかかってゆく かと思われた。竜骨の下を岩がひっかき、メリメリと引き裂いた。 4
階下のキッチンから、七つになる娘の歌声がきこえてきた。ここ に泊まることにしてよかった、とダグラスは思う。よほど村の中の しゃれたホテルにしようかと思ったのだ。だが、ここの静けさと孤 独よ、、。ジャンナも楽しそうだった。今日は舟あそびをしよう。 二度めの舟あそびだ。ダグラスは北にびらける砂利だらけの海岸に 目をやった。 そしてはじめて、朝霧のなかに漂う島を見た。 かれはゆっくりと、急な古い階段をおりていった。 ジャンナがいった。「アルヴァーソンさんがね、おでかけしなく ちゃならないから、朝ごはんつくって、たべてくださいって。あた 岩にかこまれ、霧に抱かれて島は浮かぶ。 平坦な砂地の島。樹木はなく静かで、なめらか、そして白い。ぎし、卵たべたの」 1 コン、牛乳に・ハター、塩、 巨大な冷蔵庫の扉をあける。 卵、ペ ざぎざの濡れた断崖はエビとりの簽をしかけるには絶好の場所のよ うにみえるが、漁師たちは近づかない。島への水路は危険だ。暗礁こしよう、ガーリック、玉ねぎ。ダグラスは壁にかかっていたいち ルプイ ばん小さいフライバンを手にとった。 がもりあがりはじめるところを打鐘浮標が示していたこともあった 「おふとん、たたんだ ? 」 が、どうかなってしまったらしい。島にはたえず霧がまとわりつい シール・アイランド シルク・アイランド ている。海図にみる島の名は、あざらし島、絹島とまちまちで 「忘れた」 ある。まったく名をのせていない海図もある。 「あたし、やってくる」ジャンナは椅子からすべりおりた。アルヴ ダグラス・マードックは、寝室の窓から島を見た。 アーソン夫人がやってくれるということを、ジャンナにわからせる 窓から身をのりだすと、霧をふくんだ風が頬にひんやりと、冬のことはできなかった。それとも母親がおしえた習慣を変えたくない : ローラ。一かれは重苦しい記憶の痛みを押しやった〕 気配をはこんできた。労飃者の日の人出はもうとっくにない。こののか : " 塔の館″にもそのころは数人の客が泊まっていたが、たいていのだ。卵を見ろ、卵をかきまぜろ。焦げちまうぞ。焦げた卵ってきら 観光客は、頂塔のそびえたっこの古風な宿と、浜や商店とをむすぶ 坂道を登るのをいやがるのだった。宿の女主人のアルヴァーソン夫頭の中でいったのは、ローラの声だった 1 人が車をきら「ているため、 " 塔の館。に通じる車道はなく、日用やめろ、もうあのころとはちがうんだ。ちがうんだ。ちがうん 品を届けにくるサリー ・アイヴスのジー。フのつけた轍があるきり コッド岬のおなごにや櫛がない よういとひけよういとまけ コッドフィッシュ 鱈の骨で髪をすく おれたちやめざすは豪州よ よういとひけそれ野郎ども よういとひけよういとまけ 音をたてるなよいとまけ おれたちやめざすは豪州よ : 古い船乗り歌 」 0
大きくするだけだ。誉めてやるんだ。ぎごちなくかれはいった。 ケネクイ トの港は有名である。日の出の、日没の、霧のなかの 「つづけなさい、ジャン。おまえの唄を聞くのは好きだよ」 仁景はいくつもの絵葉書になっているし、ポストン博物館には植ジャンナはかぶりをふった。その目はかれを見つめている。母親 民地時代に描かれた絵が残っている。サリーの舟は号と 0 号と似の、母親そっくりの青い目。かれの苦痛を見ぬいて、言葉をひか 名前がついていた。小さいほうは 0 号だった。ふたりは帆をあげえているのだった。 た。ジャンナは真剣な面持ちで、注意ぶかく救命胴着をつけた。ダ 「それ、母さんと歌っていた唄だろう。ほかにもあったな。グリー グラスはそのかさばるしろものがきらいだった。そこで、すぐ手にンランドのくじらの唄、覚えてるかい」ダグラスは歌ってみた。 グリーン とれるようにシート の下にしまいこんだ。 「グリーンランドはこわいところ、緑なんてありやしない、雪と 「さくをといていし 、 ? 」ジャンナは船乗り言葉が好きで、このごろ氷があるばかり、くじらが潮ふきーー・」 では、水一滴かかったことのないような縄の切れつばしまで、ロー 「それは終わりのとこよ」 ブのたぐいはみな索と呼ぶ。舟はしずしずとドックをはなれた。お「唄っておくれよ」 あつらえむきの順風だ。帆が吊り鐘のように風をはらむ。ほかの舟ジャンナはまたかぶりをふった。「島を見にいっちゃ、いけない から遠ざかると、ダグラスはジャンナに舵をゆずった。ジャンナは かるがると危なげなく舵をさばいた。生まれついての船乗りなの 「よし、行こう」 だ。おれよりもずっとうまい。ローラに見せてやりたい。 ふたりは海岸にそって舟を進めた。 かれははっと身をかたくした。ジャンナが歌っていた。「コッド どういうわけか、島はなかなか見つからなかった。ついにジャン 岬のおなごにや櫛がない、よういとひけよういとまけ、鱈の骨でナが風に吹き寄せられた霧のかたまりめがけて進路をとると、その 髪をすく : : : 」ローラが教え、一緒に歌「ていた唄だ。さびしげな霧のなかに島があった。ダグラスがかわ 0 て舵をと「た。舟はジグ かぼそいソプラノがよみがえる。「コッド岬のおのこにや橇がなザグに島をめぐった。。ヒク = ックにはもってこいの場所である。霧 よういとひけよういとまけ : : : 」忘れなくちゃいけない、い は島のすぐ手前でとぎれ、白い渚は秋の陽にきらきらと輝いてい まに忘れますとも、と病院の連中はいった。どうして忘れられるもる。そこにはこの世のものならぬ雰囲気がただよっていた。といっ のか ? ても、やわらかさを感じさせるものといえばまつわりつく霧ばか り。島は白く、鋭く、まるで一枚の紙のように陰影を欠いていた。 ジャンナは歌いやめた。 そしてかれは彼女を見た。 いけない、・ シャンナをおさえつけるのはよくない。わだかまりを 岩に腰かけ、波しぶきに足をさらしていた。カフタンのような丈 取り除くためにここへ来たんじゃなかったのか。これではかえっての長い衣服をまとい、濃い黒髪を身のまわりに長くたれかからせ 6 3
薬を手に、そこからドアへ、ドアからホールへ、ホールからスル「見えるかい ? 女のひとだ」 二錠飲んだ。忘れるものか。忘れるだろうと、忘れられ「だれも見えないわ。そのひと、どこにいるの ? 泳いでるの ? 」 ると思うなんて、ポストンの医者どもはどうかしている。 「そうじゃない ほら、あそこ。島の上た」 「見えないージャンナは首を横にふった。 夢にきいてみるがいし ダグラスはべッドへもどった。眠る努力はしなかった。薬が眠ら「ジャンナ、見ろ ! 」指さしたくはなかった。ジャンナのやせた肩 せてくれるだろう。かれはキルトをかけて横になり、ひたひたと高を片手でとらえる。「見ろ、あそこだ、髪を梳いているだろう」 速道路を走る車の音にも似てリズミカルな波の音に聞きいった。 「だれも見えない。だあれもいないもん」ジャンナはかれと島とを こんなあそび、あたしきらいよ」 隣のペッドではかれの娘が、すやすやと規則正しい寝息をたてて交互に眺めた。「パ 眠っていた。 「ジャンナ、これはあそびじゃない。女の人が岩の上にすわってる 母さんにそっくりなんだ ! 見えないっていうのか ? 」おびえ と、当惑と、無邪気さのいりまじった娘の表情がかれには信じられ 翌日はダグラスが舵をとった。「どっちへ行くの、パ。ハ ? 」ジャ なかった。そのからだをゆさぶってやりたかった。否定してなにに ンナがたずねた。 なるというんだ。あの女があまりにもローラに似すぎているからな 「うん、ちょっとそこまでさ」 のか ? 舟は北へむかった。 島は苦もなくみつかった。 辛抱づよくやることだ。「ジャンナ、 いい子だから、見てごら 彼女がいた。おなじ場所、恐らくは同じ岩の上に腰かけて。波がん。もういちど見るんだ」髪を梳く手は動きつづける。なめらか 激しく打ち寄せる。つめたいしぶきがすらりと長い脚にかかるのにに、上から下へ。「黒い髪をしているだろう、岩の上にすわってー も、女は無頓着のようだった。ひょっとするとこの島の持ち主なの 「見えない ! 」ジャンナはわっと泣きだした。 かもしれない。 いかにも島はわがものといった様子ですわってい ジャンナの気をしずめるために、舟をもどさなくてはならなかっ る。ダグラスは彼女が帆を、波にもまれる舟を、かれを見るのを待 ちうけた。その顔を見ようと、かれは待った。深くうつむいているた。 「わかった、わかった、もう、、。 もういいんだよ」 ので顔かたちは髪にすっかりかくれている。女は髪を梳いていた。 ポストンの精神分析医どもなら、ジャンナのしていることに、も 「うん ? 」 っともらしい名前をつけることだろう。かれは娘を抱きしめた。抑 ッションリ・フレッシ日ンアヴォインス 「見てごらん」 制、抑制、逃避。「おうちへ帰りたい」ジャンナがかれの膝 「なあに ? 」 にむかってつぶやいた。 サプレ
ジャンナはいっしんに緑色のを探しはじめた。緑のだけが好きなの に包帯を巻かれて病室に横たわってたんだからな。この子は、日に 二回、そんなおれに五分間の面会をさせられた。しりごみするのもだ。 「どの島です ? 」サリーはたずねた。 「島にいこうね」とジャンナはささやいた。 無理はない。 「″塔の館″から見えたのさ。ここから北のほう、小さくてまるく 崖づたいの急な道を村までおりていく。ジャンナはどんどん先をて、真っ平らな、太平洋にでもありそうなやつなんだ。どの島のこ とだかわかるかい」 駆けていた。ダグラスは遅れた。あの事故で両脚をめちやめちゃに されたのだ。医師たちが治してくれたけれども、左脚が右より一イ「あざらし島。あんまりいいとこじゃねえですね。ちょっとやそっ ンチも短くなり、どちらの脚も、金属片やらビンやらが無数に埋めとの腕じゃ、渡れないとこですよ」 こまれ、雨が降ると爆弾のかけらがささっているようにキリキリ痛「・ほくは初心者じゃないよ」 「そりや、知ってますともさ。でも、舟はうちんですからね。水路 む。・ホストンのリハビリテーション施設でひと月を歩行訓練につい には標識もないし、まわりは岩ばっかし、水は見かけより浅いんで やしたのち、つい三週間まえに退院したばかりだった。 ダグラスはようやくジャンナに追いついた。ジャンナは岩に腰かすよ」 「わかったよ」 けて、元気いつばい歌っていた。「死人の箱に十五人、ヨ・ホ・ホ ジャンナはじっと聞いていた。「いけないの ? 」 、それからラム酒が一本よ ! 」 「ごめんよ、ジャンナ。よしたほうがいい ふたりが店にはいっていくと、サリーが笑いかけ、「今日はどこ へ行くの ? 」とジャンナにきいた。たいそう大柄な女で、六フィー 一八〇ポンド。贅肉はまったくない。ケネクイット村で″百貨「サリーはいってみた ? 」 、え」女の声はつつけんどんにちかかった。 店″と称する食料品と日用雑貨の店を経営している。年は四十。独「いし 身で、七十歳になる両親といっしょに、崖上の古い小さな家に住ん「島はまだほかにもあるさ、ね」とダグラスはいった。 ジャンナはこっくりをした。ほかの子供なら、くどいたり、だだ でいる。そういったことや、ほかにもいろいろと、アルヴァーソン をこねたりするところだ。ジャンナは受けいれた。禁欲的に。 夫人が、舟ならサリー・アイヴスに借りられますよ、と教えるつい でに、ダグラスに話してきかせたのだ。〈舟は二隻あるんですよ。 あのときも、ジャンナはそうやって肩をこわばらせ、表情のない それはもう、貸してもらえますともーーあやつることがおできにな顔でかれを見たのだ。ローラはもうよくならない、家にはもう帰っ るんでしたらね〉 てこない、死んでしまったのだと言ってきかせたあのときも。 「島よ。ゼリービーンズ、もらって、 しい ? 」カウンターの上にゼリ 「さ、おいで、ジャンナ」ダグラスは見知らぬわが子を、打ちとけ 1 ビーンズのはいった瓶がおいてある。サリーがそれを傾けると、 ないかれの寂しい子供をうながした。「桟橋へ行こう」 って、サリーカいうん