眼前にくりひろげられていったのである。 はもはや手遅れであったーー・彼らは進歩の頂点に立っていたし、そ の位置するところも不運であった。しかしはるかかなたのそれそれ 2 銀河系の遠い果てに、ラーマという年老いた惑星が、黄色の太陽の戦道をたどる世界に散在する他の人類にはチャンスがあった。彼 のまわりをまわっていた。ラーマでは早くから生命が発生していたらには状況を変える時間があったーーそれを変えてくれる人間が見 そして急速な発展をとげた。銀河系の他の世界で、ヒト型の人っかりさえすればー ラーマは知識をもっていても、その仕事をや 間が洞窟に住んでいるころ、ラーマは一大文明を築いていた。地球りぬく人的資源も烈しい気迫もなかった。悲壮な決意をし、それを がはじめて鉄の刀を鍛造したころ、ラーマでは核分裂に成功して い忠実に守ることはできても、星系を改造するという大事業は彼らに ふさわしくなかった。それは若い種族の、誇り高い、自由奔放な種 ラーマは科学の世界だったーーまことの科学。科学は戦争を排除族の仕事だった。地球の人間の仕事だった。 し、惑星をパラダイスに変えた。文学も芸術も科学の進歩と手をた ラーマの宇宙船は地球暦一九〇〇年に地球を発見した。ラーマは ずさえながら華を咲かせた。科学者たちは、優美な噴水が太陽を浴知っていた、この計画を成功させるためには、二つの銀河系が衝突 びてしぶきをあげる涼やかな庭園にとりかこまれて仕事をした。各するはるか未来のその日に自分たちが立ちどまって戦わねばならぬ 人が各様に己れの才能を自由にのばし、だれも他人に屈するという ことを。長期の戦争を闘いぬく方法は知らなくとも彼らの力もあな ことがなかった。 どりがたいものであった。ともあれ彼らは闘いぬかねばならない、 ラーマは絶頂をきわめた人類だった。 そして滅亡の運命に甘んじるのだ 計画、状況は整合的なものに だが数は少なく、好戦的な人々ではなかった。危急の際に戦わな なったのである。彼らが発見した惑星の中では、彼らとともに仕事 いというのではないが、長期にわたる会戦に勝ちぬくという能力は ができる程度に進歩していたのは地球だけだった。その地球に、よ なかった。彼らの頭はそういう方には働かなかった。進歩の結果、その世界にコントロールされているという事実は決して知られては 人々は専門的に分化しすぎ、環境に順応しすぎてしまったのであならなかった。この計画が自分たちがはじめたものではないのでは る。 ないと彼らに疑いをもたせてはならなかった。若い種族が。フライド そして彼らをとりまく環境が変化した。 を傷つけられれば、闘争メカニズムを衰えさせ、味方として頼りに ラーマが、しかるべき質問をマシンにあたえ、そして銀河系の果ならなくなってしまうからである。 てに位置している彼らの世界が二つの星系の文明の衝突に遭遇する ラーマは計画に着手したーーー彼ら自身すでに生きてきてしまった ことを知るのは時間の問題であった。ラーマはデータをくりかえ未来のために死を賭して。ラーマの科学者たちはひそかに地球にの し、イン。フットし、そのたびにマシンは同じ答えを出した。 りこんだ。そして彼らの背後、数光年のかなたでは、水品のような ラーマは減亡するであろう。ラーマに関しては、状況を変えるに噴水が、陽光を浴びて哀しげにきらめいているのだ。 こ 0
た人たちに対しても、過去の延長としてではなく、司政官として出時間的な順を追って、問答にかかったのだ。 従って、最初は当然、港での司政官の行動であった。 会った相手という風にとらえようとしているのではあるまいか ? 今の自分にとってどうなのか、が、先に来るようになっているので「どうして、あれだけ多くの人々に、長時間対応なさったのですか はあるまいか ? と、は質問した。「報道関係者とのやりとりは、私はあら 多分そうなのだ。 かじめ予測しておりました。予定の時間より長くなる可能性も考え そうだと、心に刻んでおこう。 ておりました。あの場合、やむを得なかったと思惟します。しか そんな自分だから、ああいう思い出しかたをしたのだ。 し、たくさんの人たちと握手なさったのはなぜですか ? 握手の必 、刀 こんな想念が、全くの個人的感情から出たものであり、仕事中の要性と効果は認めますが、あれだけの数を相手にした理由がわかり よっきりません。ご教示頂けますか」 司政官としては、何も今のこの瞬間に考えることはない、な いえばあまりふさわしくないことなのだ、と、彼は反省し : : : 肝腎ご教示頂けますかといいながら、咎める口調だーーーと、キタが思 ったのは、気のせいだろうか ? の問題へと、心を引き戻した。 ウイスボア市行きそのものについてはともかく、あらためて胸中「理由は簡単だよ」 で確認しようとしていたのは、ウイスボア市から司政庁に帰着した彼は答えた。「司政官と握手したことは、当人の心に残り、司政 翌日の、との対話である。 官への親近感を生む結果になる。だから、なるべく多くの人と握手 彼は、思い返してみた。 したのさ」 「でも、全員ではありませんでした」 ウイスボア市から戻った夜、彼はすっかり疲れていた。 と、「何人と握手なさるおつもりだったのか、前以てお 熟睡した。 決めになっていたのですか ? 途中でやめたのですか ? 」 翌朝、留守にしていたために溜った仕事に、とりかかった彼は、 できるだけ握手して、適当なところで切り上げるつもりで、実際 午前中にあらかた片づけて、午後、と前日のことを検討するにそうしたのだーーと 、、、たいところだったが、適当の解説を迫 ことにしたのだ。 られては面倒なので、彼は、嘘にもならず、しかも明快な返事のし 01 が一刻も早くこのウイスボア市行きについて司政官と話しかたをした。 合いたがっているーーとの彼の推測は、正しかった。はすで「時間があれば、全員と握手してもいいと思ったよ」 になりの判断に基いて、彼に問いただす・ヘき事柄や自己の意彼はいった。「けれども、がせき立てたから、そこでや めたんだ」 見を整理して、待ち構えていたのである。それも、らしく、 ・、 0 0 3
プラネット マンスリー 8 じ連載四コマ 1 し「くん」が > 一えおちそうだ ! ( 0 山たたいてでも 原稿を取って 2 横 きてくれ ! グはいフ まだ会ったこと ないんですけど : ・ 確か四人が一人の べンネームで合作してる 作家とか ? ・ 、とい , フより 一人じゃ一コマしか 替田↓ー、よ、 四人で一人前の 作家なんだ : ・ その時マリ子の耳に 助けを求める声が 聞こえてきたー しかたがない ! - わたしには今 、こいじな 仕事がある : しかし人命には かえられない , タスケテエー わたしが 来たからには もうたいじようぶ ! れ・。 原稿が おちそう - なんですう こわい編集が 来るんですう きマは わーい 24 ー
とがあったが、あの時の老婆の女の部分を、今だに浩は何の前ぶれやはり黒のセーターに、。 ( ンツというスタイルだった。 もなく急に思い出すことがあった。 「浩くん、今日は仕事は ? 」 浩はどうも女が苦手であった。 と、陽子はほっそりした指を立てて、ストー・フの前で温ためなが こちらから積極的にはたらきかけて、その女を何とかしようとら言った。浩は「うん」とあいまいに言って、今朝初めて吸う堙草 は、あまり思わなかった。長身で浅黒いひき締った顔をしていたかに火をつけたその時、 ら、女達は浩に興味のありそうな顔をしてみせたが、浩は一度もこ「何、何よあれ ! ちらから女を誘ったことはなく、たいてい向うから勝手に押しかけ陽子が素頓狂な声をあげて立ち上がった。 てくるのである 陽子の指差す方に何があるのか、それをいちばんよく知っている 「浩くん、いる ? 」 のは浩自身であるから、浩は悠然と煙草を燻らせていたのだが、陽 の中にいた。 越智陽子がやってきた時、浩はまだべッド 子は小さめの唇を少しだけ開いて眉を顰めて立っている。 ・ハジャマのまま、起きてドアをあけると、陽子は耳の下でぶつつ 「ゆうべ地震があっただろう、その時壁が崩れちまってさ : : : 」 り切ったぶ厚い髪を揺らせて白い息を吐いていた。そのずっと向う陽子は壁に近づいて、息をつめるようにして穴を覗き、そっと壁 には、朝の乳白色の靄の中に霞んだようなビルの群れが蹲って並んを指先で触った。・ほろぼろと壁はまたクッキーのかけらみたいに崩 でいた。 れた。 「入っていし 「地震なんてあった ? あたし寝込んだら朝までぜったいに起きな いからねエ・ 陽子は眼の上に赤いアイシャドーを塗っていて、きれいに反らせ たまっ毛をしばたいて言った。 あんな大きな地震でも目を覚まさなかったのか、と浩はあきれる 思いであったが、実際に陽子の眠りはいつも深くて、浩の部屋に泊 った夜なども軽い鼾をたてて寝人るのはいつも陽子の方が先で、夜 浩はまだぼんやりした頭に掌を当てて、あいまいに頷いた。 中に目覚めることもなかった。 「ふーっ、寒い、寒い」 陽子は掌を擦り合わせながら浩の部屋に入り、雑誌やら新聞、写「だけどどうなってるの、これ。真っ暗でさ、当然向うの景色が見 トの上を、黒いストッキングを穿いえるはずなのに、まるで宇宙の、ほら : : : ・フラック・ホールみた 真パネルの散らばったカーベッ たつま先で軽く跳ぶように歩き、ガス・ストー・フの前にしやがみこい」 コ むと、もの慣れた仕草で点火した。そして、やっとオー 陽子がそう言った途端、浩は ( ッとして、思わず「そうだ」と叫 トを脱ぐと、折り畳み式の椅子に無造作に置いた。 んだ。 陽子はコム・デ・ギャルソンの服しか着ない女で、コートの下は それは浩がその穴に対して抱いていたイメージをみごとに言い現 227
グは凝然と立ちつくした。アンディが死んだ。まさかそんなはずは ない、そんなはずは。そんなことは一言もきいていない、一言も。 拳をにぎりしめる。ほんとであるものか。 そののちは、暗黙のうちに二人は二度とあの若者の名を口にしな だがほんとうなのだ。氷のように冷たい確信がわいた。一 「ほんの先日のことでした、コナン」ジ、リオは言った。「いいやか 0 た。報告書の中にできるかぎりの讃辞を書き記したが、それが アンディ・アーヴィンにしてやれるすべてだった。 つでした」 コナン・ラングはロがきけなかった。こんな惑星なんそ、彼の胸「どうやらここでの仕事は終ったようですよ、コナン」ジ、リオは は張り裂けた。こんなくそいまいましい惑星なんぞ、アンディの生言 0 た。「ご自分でチ = ックをしていただいて、・ほくの調査結果と 照合していただきたいんですが。戦いは現在小休止ですーー・原住民 命に価いするものか。 たちは、ご先祖に誤って槍があたってしまったことを心配してい 「事故でした」ジュリオが言った。いやに淡々とした声だった。 「われわれの計算通り、ライ・ ( ル同士の村のあいだで戦いがはじまて、われわれのご機嫌をなおすための儀式に大童ですから。もうな ったんです。アンディは情報を求めて出かけていき、戦いにまきこんのトラ・フルもないはずですし、そろそろ片を付ける潮時じゃない まれてしまったんですーー・敵とまちがわれて投げ槍があたって。助でしようか」 コナン・ラングはうなずいた。「故郷に帰れるのはうれしいか かる見こみはなかったのに、なんとか歩いてここまで戻ってきて、 ジュリオ ? 」 そして死にました。彼が神ではなくて、人間のように死ぬものなん 「ええ、うれしいですともーーーあなたにとっては、これが最後にな だということは、オリペシュには感づかれずにすみました。ここ まで戻ってきて、われわれを救ってくれたんですーー・よかったでるんですね」 コナン・ラングは眉をあげた。 「あなたが高いところに祭りあげられるっていう話は秘密じゃあり 「ああ」コナン・ラングは苦々しく言った。「よかったな」 イ 1 ーレヾー・ 「この畑に埋めました」ジュリオ・メディナは言葉をついだ。「彼ません」ジュリオは言った。「これがあなたの最後のフ もそのほうがいいだろうと思って。彼は : : : あなたにさよならと言ワークになるんでしようね」 ってました、コナン」 「とにかくそりやまあけっこうなお説だね」 コナン・ラングの目に涙があふれたのは、しばらくあとのことだ「いろんな星に出かけているぼくら仲間のことをおぼえててくださ った。無言のまま向うをむき、緑の畑を突っきって、ひとりになれ 。フロセス促進隊の奴隷仕事のことも。みんなを家に帰してくだ さい、コナン、そうすりや木蔭にのんびりすわって冷えたワインを る小屋へ入っていった。 飲んで魚を食べて、おたがい嘘のつきっこもできるし」 248
並《マ・厳正な抽選の結果、以下の方々が当神奈川県愛甲郡新井昭夫さん ぐ選しました。 神奈川県横浜市國友優子さん イ東京都世田谷区稲田紀子さん 岡山県倉敷市中山美枝さん 東京都杉並区松田直樹さん 愛知県西尾市手嶋正博さん 三重県鈴鹿市安田ひとみさん 長野県松本市堀内崇志さん ま東京都墨田区斉藤勝一郎さん 千葉県旭市石橋さやかさん 44 . 、 4 イ 富山県富山市宗薫子さん 石川県金沢市南祐子さん ぐ福島県いわき市鈴未健弘さん 佐賀県佐賀市宮地寛さん レ、兵庫県尼崎市大西宏さん 東京都西多摩郡後藤利行さん 北海道旭川市石坂香織さん 香川町高松市川東御幸さん 4 イ埼玉県熊谷市根岸隆行さん 福岡県嘉穂郡長谷川豊さん 岡山県岡山市大熊奈美さん 福岡県福岡市門村裕明さん 、 44 * 長崎県佐世保市天野幸生さん 兵庫県多可郡松本典子さん 兵庫県日高町平井博さん 千冖 神奈川県横浜市佐藤このみさん 徳島県徳島市中村幸枝さん 埼玉県本庄市渋沢暁子さん 千葉県勝浦市宇田川朝史さん 青森県八戸市三浦良子さん ( 順不同 ) なお、千羽鶴当選者の方以外に、本 文中にお名前のでてきた皆様にも、千 羽鶴、さしあげたいと思います。た だ、何分量が量なので、最後の方のお 手元に鶴がつくまで、いささか時間が かかるとは思います。 あ、あと、最後に結構ある質問に答 えて終わりにしよ。千羽鶴は、一羽の 例外もなく、確実に新井素子本人が折 っております。なお、鶴を折っている せいで仕事ができない、という琳も嘘 ですので。 ( っていうのはね、あた し、鶴を折るのに時間がまったくかか らないの。本読みながら折れるから。 あの鶴は、仕事関係の本を読んだりし ている間に、折っているのです ) ではでは。 208
りの様子をすばやく頭に刻みつけていった。ライス・フルーツの倉たのかはわかっているーー長もその息子も部族の儀式にかまけす 庫があゑ野良仕事にそろそろ出かけていく奴隷がいる。立ち並ぶぎ、新種のライス・フルーツの栽培に遅れをとってしまった。昔な 5 家はしつかりした造りで住み心地がよさそうだが、村内はビンと空がらのやり方にしがみついていたために、村人たちに追いこされて 気が張りつめているのが感じられる。コナン・ラングは村人のひとしまったのである。 りに近づいて呼びとめた。 「手を借してやろう、兄弟よ」コナン・ラングはやさしく言った。 「兄弟」と彼は言った。「おまえたちの長に会いたい。どこにいる「まだ遅くはない」 のか ? 」 レンは無言だ。 男は油断のない目で見つめた。「オリペシュに長はいない」と男「おまえの畑を作ってあげよう」コナン・ラングは言った。「わた しに手伝わせてくれるかね ? 」 は言った。「われわれの王は会議中だ」 レンは彼を見た。その目にはなきだしの憎悪が光っていた。「友 コナン・ラングはうなずいたが、心は重く沈んだ。「それはけっ だちだと言ったのに」と彼は言った。それつきりなにも言わずに背 こう」と彼は言った。「レンにーーー会いたいが」 男は蔑すむように親指をぐいとっきだして村の奥のほうを示しをむけて立ち去った。振りむこうともしなかった。 コナン・ラングは額の汗を拭い、仕事を続行した。彼の心の感じ た。「あそこにいる」と彼は言った。「外だ」 コナン・ラングはその村を通りぬけながら、なにひとつ見逃がさやすい部分は暗い、ひっそりした隅にひっこんでしまった。そのあ ぬようあたりに目を配る。昔ながらの掘立て小屋が、照りつける太とは訓練で鍛えたカに委せた。彼は歩きつづける、問いかけ、観察 陽にあぶられ、みすぼらしく並んでいる。丸太の塀はないが、堀にし頭に書きとめる。 はかこまれている。・フタが一頭、小屋のあいだでゴミをあさってい とるにたりないことだしと彼は考える。 る。 新種の惑星。 「スラムだな」コナン・ラングは思った。 村人の恐怖と疑いにみちたまなざしを無視して小屋のあいだを歩 一週間でコナン・ラングはチェックを終了した。夕食の炊事の焚 きまわった。畑に出かけようとしているレンを見つけた。長の息子火のそばにジ、リオといっしょに腰をおろし、パイプをくゆらしな は痩せこけていた。くたびれた顔をして、目はうつろだった。コナ がらタ闇に包まれた畑を眺めた。 ンを見てもなにも言わない。 「まあ、よくやったよ」と彼は言った。「恐しいことだ」 「こんにちわ、レン」コナン・ラングは声をかけた。 「・ほくらがいなくてもいずれはそうなるんです」ジュリオが指摘す レンは見つめかえしているだけだ。 る。「くよくよ考えてもしかたないですよ。ときには辛くもなるけ コナン・ラングは言うべき言葉を考えた。彼の身になにが起こつど、生き残るために払う儀牲としちや小さなもんです」
「はーし こんばんわあ : : : みんなきてるう ? 」 「すげえな。おまえんちのマンション。壁の向うは宇宙かよ。おま 及川めぐみと加藤伸助が仲よくふたり揃ってやってきた。持参しけにこれはブラック・ホール」 ているのは赤ワイン二本とポインセチアの花。伸助はうるさそうな「ふむ。そうみたい。 こわい。こわいけどすてきね、こういう余興 房のたつぶりついたマフラーを首からはずすと、先着の陽子に「やがあるとは思わなかった。真っ暗じゃん。光も何も、すべてが吸い あ」とあいさつをし、それから浩の肩を叩いて「やあ、やあ」と言 こまれて、黒い舌がみえてるわ」 った。及川めぐみはさすがに女らしく陽子の着用しているドレスに めぐみは変にはしゃいだ。眠がひきつって、長いつやつやした髪 眼をとめると、ひとしきり褒めたが、それはつまりは自分の衣服もが唇や頬にかかってくるのをはらおうともしないで、つとポインセ 褒めてほしいということにほかならず、陽子はきちんとめぐみの黄チアの鉢を両手で持っと、伸助の止めるまもなく力いつばい暗黒の 色いモヘアの、胸のあたりにきらきら光る玉の縫いこまれたセータ彼方へと投げいれた。 】を褒めた。 「はあ、はあ、はあっ : 同業者の伸助は、浩が現像用の暗室に改造してある浴室の脇の小 細長い顎をつきだして、大のようにあえいだ。陽子が小皿を重ね 部屋の方を見て、「どう、仕事は」と尋ねた。あいまいに返事をして台所から運んでくると、眼を釣りあげたままその小皿をとって、 ておくと、「そうだな。仕事の話はやめにしよう・せ。 パまたもやカいつばい穴の中に投げた。 ーティ」と言って、大きめの・フルゾンを脱ぐと、すばやくめぐみが見ていた伸助までも、たまりかねたように、ペッドの脇にあ「た 受けとった。とその時、 デジタル時計をコンセントから引きぬくと両手ではっしと掴んで、 「きゃあ : : : 」 「ええい、やあっ」とばかりに掛け声いさましく漆黒の闇のなかへ と、大きなガラスのテー・フルの前に、膝を崩して坐ったとたん投げた。短く刈り上げた端正な伸助の頭が、前のめりに倒れた。伸 に、めぐみは大声をはりあげた。 助は両手を膝がしらに当てて、「うううつ」とうなった。両耳が赤 「な、なんだ、ありゃあ : : : なんだ」 く染まって、まるでそこに伸助という男の全血液が逆流してきたか ン」、伸・助。 のようだった。 ふーっ、と溜息を吐いて浩はあぶらぎった頭髪を掻きあげると、 「やめろ、やめろ」 陽子の方を見た。陽子は「ふん」といったふうにそっぽをむいたま と、浩は両脚をひろげて壁の前にたちふさがって、 ま、台所に行って小皿を出しはじめた。 「ここに物をなげいれるのはやめてくれ」 「わあ、何よこれ」 まるで動物園の立て札に書いてある文句のようなことを口ばしつ めぐみは穴のそばまでこわごわと近よって、手をいれようとするた。 と、伸助が「やめろ」と大声をだして、それを制した。 「そうね。そこはごみ箱じゃないもんね」 234
演台に向かうフリードマンを迎える拍手喝采の大きさは、まるで後の質問の部分のみにとどめさせていただきます。「科学者が、光 彼が、世界から光を容赦なく奪いつつある効果ではなく、もうひとが消減していくことを知っていたのなら、なぜもっと早くにどうに 7 りのサンタ・クロ 1 スを発見したかのような騒ぎだった。彼は議長かできなかったのか ? 政府がわたしからしぼりとった税金で、科 と握手をかわし、聴衆に軽く会釈すると、静かにぎの鎮まるのを学者は研究所におさまって、このてのとっぴな理論を考えてひまを 待った。議長は手にしたカードを念入りにきると一枚を選び、二重つぶしている。だが、いざ危機が迫ると、われわれ素人同様、何の 焦点の眼鏡ごしにじっくりとながめた。 手だしもできないではないかヒ 「まず最初の質問は、ロングビーチの主婦の方からです」彼は発表手紙は、驚くほど多くの拍手をまじえた笑いの渦をまき起こし した。「「わたしの夫はグザイ効果のためラジオ販売の職を失いまナ こ。しかし、この場のユーモアはフリードマンにはまったく通用 した。どれくらいでこれがすんで、元の仕事に戻れるようになるのしなかった。「納税者氏は、科学者に何をしろというのでしよう か ? 」彼は軽蔑を露わにした口調で高飛車にいった。「彼らが木を でしようか」」 フリードマンの声は、彼の一語一語にすがりつく十万人の群集をひき裂く雷を、都市を飲みこむ地震を、故意に創ったとでもいうの 相手にしているというよりは、半ダースほどの眠そうな学生に講義でしようか ? はっきり申しあげて、そんなものは現在われわれを でもしているかのように淡々としていた。「そのご質問に対する答脅している力とはまるで比較になりません。しかし、この方には科 小学校へ戻っ えに代えて、今夜このコロシアムへ入る時にいただいた国立標準局学を批判する前にもう少し勉強していただきたい の通達を読み上げましよう。通達によりますと『分光研究所、グザて、子供の本でも読なんですな」 イ効果の突然の著しい加速を報告。グリ = ッジ標準時〇時〇分〇秒おずおずした賛意の声がちらほらあがったが、すぐに周囲からの 0 現在、途絶点五千五百』とあります。平たくいえばどういうこと野次やロ笛の大合唱にかき消されてしまった。底のほうから敵意と になるでしようか ? つまりは本日午後四時の時点で輻射の消減が不満の潮が満ちてくるのが、だれにも感じられた。 「だからいっただろう」アーノルドが叫んだ。「連中、あれじゃな ほ・ほ緑にまで拡がったということです」彼はロごもった。「お気の っとくしない」 毒ですが、この女性のご主人は二度と元の仕事に戻ることはできな ストッダードは深々と座席にうずくまっている。「いっちゃあ何 いでしよう。なぜなら、われわれに残された時間はもうほとんどな だが、もうじき、ここは上を下への大騒ぎになるぞ」 いからです、働いている時間も遊んでいる時間もないのです」 穏やかならぬささやきがコロシアム中に拡がって一気に。ヒ 1 クに 達し、やがて議長が次のカードを選ぶと急速に鎮まっていった。 委員会のメン・ハ 1 がふたり、フリードマンを諫めているらしく、 「二番目のご質問は『納税者』と名のるポモナの男性からのものでフリードマンは立って腕ぐみしたまま無表情にきいている。議長は す。非常に長いお手紙で全部ご紹介することができませんので、最秩序を回復しようとベストを尽くしていたが、先へ進めるようにな
「はあ ? 」 浩はあわてて南側の窓のカーテンをあけてみた。透明な硝子窓の と、小さな窓口から耳だけだして、 向うには、いつもと変わらぬ超高層ビルが夜の底に沈んでいるよう 「あのねえ、そういうことはねえ、直接部屋の持ち主に言ってくれ に見える。それは陸に打ち上げられた豪華船にも似ていた。 浩は、南側の窓に沿って置いてあるべッドに、弾みをつけて腰をないとねえ」 おろし、壁に・ほっかりとあいた暗黒の空間をただ眺め、自分の脳細とうるさそうに言ってまた窓口を閉めた。一 つまり、このマンションの各部屋は持ち主がちがっていて、浩は 胞が。ヒリビリと苛立ってくるのを感じた。 そこからは風が吹いてくるわけでもないし、冷気が蛇のように流六階の持ち主から直接部屋を借りているわけで、結局管理人では埓 れ込んでくるわけでもない。星があるわけでもなければ、月があるがあかないので、管理人の言うとおり直接この部屋の持主に電話す ることにした。 わけでもない。 ただの、何もない闇である。 浩は枕許に置いてあるデジタル時計を見た。午前二時三十七分。 真夜中である。 これから数時間もすれば夜が明けてくるだろう。車の騒音と人々浩はフリーのカメラマンである。 二年前に『カメラ・ワールド』の新人賞を受賞してから、。フロの のざわめきがはじまるだろう。南側の窓から見えるこの華麗な照明 もやがては消え、白っ。ほい曙光が超高層ビルの斜めから射しこんでカメラマンになった。とはいっても、今はやっとどうにか食べてい ける段階で、仕事があれば気がすすまなくとも出かけていく。本当 くるはずだった。 それまでもうひと眠りしようーーそう思って浩はカーテンを閉にやりたい仕事は「祭り」の写真で、特に「祭り」の時の老人や子 め、べッドの中にもぐりこみ、毛布を鼻の下あたりまでひつばっ供の表情を撮ることに興味があった。何年かかけて、写真集を出す た。毛布の中から眼だけ出して穴を凝視した。 予定で、今年の夏も青森のねぶた祭りを見に行ってきた。例によっ 「しようがねえな : : : まったく」 ておもに老人と子供を撮ってきた。若い女は浩には生ま生ましすぎ 浩は頭まで毛布をひつばって眼をかたく瞑った て、被写体として扱うにはまだ自分の技術が未熟だと思っていた。一 翌朝、管理人に壁のことを言うと、六十がらみの耳のわるい陰気けれども祭りの日には女達は変にいっそう生ま生ましくなって、青 そうな管理人はいつもの癖で、垢のいつばいつまった耳の穴をこち森に行った時にも踊りの着替えのために老婆達の集まっているとこ らに向け、手は耳孕のうしろにあてて、「はあ ? 」と聞きかえしろに入って行くと、ひとりの老婆が急に・ハッと裾をからげて前を露 こ 0 骨に見せた。その時長身の浩はよろけてつい前のめりに倒れそうに なって、皆の爆笑の渦に巻きこまれ、やっとの思いで逃げ出したこ 「壁がゆう・ヘの地震で崩れまして : : : 」 226