ジェフ - みる会図書館


検索対象: SFマガジン 1985年8月号
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1. SFマガジン 1985年8月号

ジェフの瞳が、あたしを捉えた。瑠璃色の、ため息がでるほど澄えぬ何かを損もうとするかのようにひくひくとうごめく。前腕から みきった美しい瞳。そこに映っているのは、もちろん、あたし。あ上腕にかけて、痙攣が激しい たし一人だけ。 この そして、ジェフは叫んだ。 あたしは十字架の上で身をよじった。ええい、じれったい。 1 ノー : 手錠をひきちぎってジェフんとこに飛んでいきたい。くそっ、くそ ついどーして、こんなに丈夫なんだ。 あ ものすごいショック。頭をいきなりハンマーでかち割られたみた ジェフが硬直した。痙攣も止まった。動かない。凍りついたよう 。全身からカが抜ける。気力も萎える。意識が薄れる。 に立ち尽くしている。苦痛に凜凜しい表情を曇らせ、あたしの方に 。その姿は、まるで神話の戦士をテーマ 両手を高く差しのべて : 「ケイ ! 」 すぐに、あたしの名前も呼んだ。でも、もう遅い。あたしは死んにした古代の彫像のよう。 でいる。ばかあ。あほお。すかあ。一度、死んだ人間は、そう簡単マスターのロー・フがもとに戻った。一 には生き返らないんだぞ。 再び、滑るように石畳の上を進みだした。ジェフは、そのまま ジェフはちらりと左横のマスターを見た。それから、意を決した だ。ほうっておいて、目もくれない。 ように、あたしたちに向かって走りだそうとした。 追い抜いた。ジェフは何もできない。ただ意識たけはあるらし マスターのロー・フがジェフの方に広がる。 く、ロもとが、かすかに震えている。まばたきもする。 マスターが、広場の端にきた。あたしの真正面だ。距離は二十メ それを見て、あたしはあっさりと甦った。マスターが何かやると 1 トルくらい離れている。マスター . は、あたしたちも無視した。あ 思ったからだ。ジェフの危機に、死んでなんかいらんない。 んなに騒いだのに、こっちをちらとも見ようとしない。 ロープからマスターの指先がのぞいた。 五百人の信者を前に、マスターがゆっくりと両の手を挙げた。 走りだしたジェフの背中を狙って、指先が突きだされる。 それにつれて、ロー・フが大きく広がる。 火花が散った。さっき ' ムギがやられたやっとはまた違った火花「我が子らよ : : : 」 だ。甲胄兵のレーザーガンのパルスに似ている。 朗々と響く声で、マスターは言った : 断続的に散った火花が大気を切り裂き、ジェフに達した。 「今や、機は熟した。われわれは、異教徒との聖なる戦いを開始し た。異教徒の支配者は、われわれとの約定を違え、この聖なる地に 背中に青白い火花を浴びて、ジェフがのけぞった。 破壊神を送りこんだ。だが、われわれは、かれらに正義の鉄鎚をく 爪先立ちになって背筋をそらし、両腕を前に伸ばす。指が目に見だした。忌まわしき異教徒のシンポル、ガウタマの鉱山は、この世 7

2. SFマガジン 1985年8月号

ま、ジェフは凝固した。意識は失われている。目は焦点を結んでい 「ぎやおん ! 」 ムギが飛んだ。床を蹴り、昏倒したシェリフめがけて襲いかカ あたしはもう何がなんだか、わけがわかんない。 ムギがジェフに迫る。だめ。止めようがない。 そう叫ぶのが、せいいつばい。 ムギの爪が、ジェフの顔面すれすれを通過した。一 ジェフには触れなかった。ムギはジェフのからだを跳び越える。 たしかにムギの殺気はジェフに向けられている。でも、敵はジェフ じゃない。 火花が散った。 ムギが目に見えない何かと、牙を交えた。 床に倒れているジェフのすぐ真上の空間。そこで、ムギは目に見 えぬ敵と遭遇した。 な、なんだって ? 見えないを、ジェフが吐きだした ? けたたましい音ととともに、チャクラの天使の一つが、砕け散っ た。その破片には、まぎれもない、あの歯型が残る。 嘘よ。嘘よ。ウソ ! 嘘よ。 あたしは、半狂乱になった。 見えない于の源はジェフだなんて : そんなの嘘よー こ 0 光世紀の世界一 : を。 王川大学教授東京天文台・電波天文学・学学なに第を 石原藤夫著平林久デ→協力・序文 定価 16 円品 ( 送料込 ) く光世紀世界〉とは、太陽を中心とした直径 1 開光年の球状宇宙のことです。 多くの専門家の協力を得てまとめられた本書は、 ( 光世紀世界》に存在が確認されているおよそ 10g の恒星 すべてに関する、精密かっ膨大なデータ集です。 星の名称と各種カタログ番号、各種座標と距離、絶対等級、スペクトル型、空間相対速度と過去や未来の 位置、閃光星・白色矮星・惑星をもつ星など各種特殊星の表示ーーなど天文ファンがぜひ知りたい、あり とあらゆるデータが網羅されています。 初心者向の天文学入門書としても楽しめるわかりやすい解説と、コンピュータの 3 次元的作図によって描 かれた正確で美しい星図・星表が、読者を太陽系外宇宙へといざなってくれるでしよう。 上製大型ケース入 (44cmX32cm 厚さ 4cm ) / 総合解説 ( A4 ・約 120 真 ) 十宙域解説図・星図・星表 ( A3 ・ 約 1 枚・パソコンプログラムリスト付 ) 本書は直販て・す。書店では取り扱いしておりません。 早川書房「光世紀の世界」係まで現金書留にて、お申込み下さい。 製作石原藤夫販売早川書房 0101 東京都千代田区神田多町 2 ー 2 容 ( 03 ) 252 ー 3111 95

3. SFマガジン 1985年8月号

膝を、からだと石畳との間にもぐりこませた。 反動をつけ、立ちあがった。 間後にふらふらとよろめく。しかし、危ういところで支えた。両 手を左右に広げ、・ハランスをとった。どうやら、マスターの呪縛は 完全に断ち切ることができたらしい 頭を軽く振り、それから傷口を右手でおさえた。出血が激しい ジェフはチェックのシャツの裾を引き裂き、それで額を縛った。 周囲を見回した。マスターがいなくなってから、この辺は比較的 あたしの関心は、マスターになかった。 静かだ。戦闘は、主に申し子たちが集結した坑道の方でおこなわれ 今はただ、ハンサムなシェリフのことだけが気懸りだった。 - ている。 「ジェ工工エフ ! 」 あたしはあらん限りの声をふり絞って、広場に倒れたシェリフを「ジ = フ ! 」 それまで、黙ってジェフの動きを見つめていたあたしは、ついに 呼んだ。 ジ = フに何かあったら、あたし泣いちゃう ( あとを追う、なんて我慢できなくなり、もう一度、その名を呼んだ。 ジェフは片手を挙げて、それに応えた。そして、傍らに落ちてい おためごかしは、恥ずかしくてとても言えない ) 。 あたしの、そのひたむきな願いが通じたのだろうか。何度目かにた機動歩兵のハンド・フラスターを拾いあげると、おぼっかない足取 りで、こっちに向かってそろそろと歩きだした。 呼んだあたしの声に、ジェフは反応した。 最初に腕が動いた。 一歩、また一歩と足を踏みだす。 ジェフの歩みは、一歩ごとにたしかなものとなっていった。体力 つぎに、頭。ゆっくりと、いらいらするほどゆっくりと頭が持ち あがった。 が確実に回復しているのだろう。残っていた硬直が、動いたことで 完全に解けたのかもしれない。 最後はほとんど小走りで、ジェフは十字架の前に来た。 あたしは息を呑んだ。ジェフの顔が鮮血にまみれている。こめか 「目をそらしてて」 みだか、額だかを切ったらしい。血が一筋二筋、眉間から鼻梁をつ ジェフは一 = ロった。 たって顎へと流れている。目はわずかにうつろだが、意識はしつか りしているようだ。 十字架の制御パネルを捜しだし、そこにハンドプラスターの銃ロ 両手をつき、力をこめた。 を押しあてた。 腕立て伏せの要領で、上体を起こす。 トリガー・ホタンを。フッシュする。 まっすぐ神殿に向かっている。 「蹴散らしてくれるわ ! 」 吐き捨てるように、つぶやいた。 5

4. SFマガジン 1985年8月号

その間に ムギとヤクシャーは凄まじい激闘を広間で繰り広げていた。 十体のチャクラの天使は、そのあらかたが砕かれてしまった。あ んなに硬い金属でできているはずの彫像が、実に簡単に粉々にな 嘘ではなかった。 次元獣とも呼ばれるヤクシャーは、ジェフを媒介として、こっちる。どうやら、これは儀式のためにマスターが用意したレ。フリカら の世界にやってきたのだ。マスターがポーラルーラの力を得たようしい に、ジェフはヤクシャーの力を得た。二人とも、異次元の生命体と広間は、壁も柱も破壊されていた。ヤクシャーは手当たり次第に コンタクトできる、いわば精神のターミナルのような超能力の潜在噛み砕くし、ムギは相手が見えないから、闇雲に前肢を振り回す。 的保有者だった。超能力の波長が、マスターはポーラルーラと合致この二頭に暴れまわられては、どんな素材の壁や柱であっても、原 形を留めることは不可能であろう。 し、ジェフはヤクシャ 1 のそれと同調した。 ポーラルーラとヤクシャーが違うのは、ヤクシャ ーがより下等オーナーと二体の機動歩兵は、困惑していた。 打つ手が見いだせないからだ。それどころか、ムギとヤクシャー で、邪悪だったことだ。それは、ジェフの本性とは、なんの関わり もない。能力の質の問題だ。だから、ジェフはヤクシャーの力を発との闘いの嵐の中で、自分の身を守るのがやっとである。へたに巻 現させるときにはヤクシャーに支配され、ジェフとしての自我を失きこまれたら、パワード・スーツといえども、ずたずたに裂かれて しまう。 しかし、ここで危険だからと、引きさがってしまうわけこよ、 ジェフはヤクシャーじゃないんだ。 よ、つこ 0 / 、刀 0 ノ あほう。どうして、マスターがヤクシャーで、ジェフがポーラル なんといっても、今はチャンスなのだ。マスターは念を凝らし ーラにならなかったんだ。そうすれば、みんなうまくまとまったん だ。平和に事が運んだんだ。邪悪なヤクシャーといえども、ポーラて、ヤクシャ 1 を操っている。 ルーラにはかなわない。い、 しように操られる。ジェフさえポーラル とい、つことは ーラになっていれば、人類は異次元の高等生命体と理想的な遭遇を無防備なのではないだろうか。 果たすことができた。 隙を見て、オーナーはジェレミ々をうながした。 それが逆になったばかりに、 この悲惨な状況た。 ジェレミイがジャン。フした。ハンド・フラスタ 1 を失ったので、左 あほう。ポーラルーラのあほうー 肩のビ 1 ム砲をセットする。 あたしはポーラルーラを罵った。 上方から急降下して接近を計り、ビーム砲の光線をマスターめが 罵ってもしようがないけど、罵らずにはいられなかった。 けて叩きこんだ。 9

5. SFマガジン 1985年8月号

ュリがあたしに向かって叫ぶ。あたしは、そうしようとする。 え、どこが頭で、どこが腹かも判然としなくなった。丸くて、ばか でつかくて、醜い生物と化した。ビンク肌には、黒い斑点が散って醜いヤクシャー。 その姿にジェフの笑顔がだぶる。 おり、それがまた、さらに醜悪な印象を与える。 「だめ ! 」 でも、あたし、こいつを見るの初めてじゃない。どっかで一度、 あたしは狙いを外した。 見た。 「だめ ! ジェフ、撃てない」 それは。 あたしは、悲鳴のように叫んだ。 クレアボワイヤンスだ。 十字架に掛けられているときに、クレアボワイヤンスがはじまっ て、あたしは、こいつを見た。 じゃあ、あれが、ヤクシャ 1 の実体。 くやしい。減茶苦茶くやしい。マスターの術中にはまってしまっ 眼前に転がるヤクシャ 1 が、ロをあけた。 た。けど、だめなんた。わかっているけど撃てないんだ。」 からだの半分が、ばっくりと裂けた。 あの独得の歯型を残す矛が、剥きだしになった。 ュリが舌打ちした。ヤクシャーはもうすぐそこまで迫ってきてい 醜い。あまりにも醜い。けど、醜いこいつが、あのハンサムなシ る。このままじゃ、あたしたちなんか丸呑みにされてしまう。 ムギが跳んだ。 「ケイ ! 」 ムギはヤクシャーがジェフの中にはいった時点で追うのをやめて ュリが叫んだ。「 いた。ムギだって、あたしがジェフを好いていたことを知っている。 「指、構えて。倒すのよ。あいつを ! 」 しかし、今は状況が状況だった。遠慮はしていられない。止めな 倒す ? 倒すってジェフを ! きや、あたしたちが食われてしまうのだ。 「ジェフじゃないわ」ュリは言う。「あいつはヤクシャーよ ! 」 ムギが、ヤクシャーの顎にかぶりついた。ムギにしてみれば、実 でも、だって、だけど : あたしは、ユリに言われるがまま、人差指をヤクシャ 1 に向け体があるだけ闘いやすい た。ヤクシャーはを振りあげ、よだれを撒き散らして、あたした「ケイ、おいで ! 」 ちの方に突進してくる。不格好な巨体だが、動きは不可視だったと ュリが、あたしの手をひつばった。 ムギがヤクシャ 1 の動きを止めているうちに、こっから離れよう きと同じで、素速い というのた。 「念をこめて。早く ! 」 ー 08

6. SFマガジン 1985年8月号

たのだ。 「俺には、まだ切札があるのだ」マスクーは言った。 凄ましい圧力が、あたしをかすめてふっ飛んでいく。 「それを今、見せてやる」 ムギが黒い影となって、それを追う。 マスターは言うなり、走った。 ヤクシャーの行手には。 あたしたちは、光線を放った。 ジェフがいる。 光条が、マスターの肩や背中を灼いた。しかし、マスターはひるま ない。からだを光らせて・ハリア 1 をつくり、光線に抵抗して走った。 じゃあ、ジェフの中に逃げこむのか。 そうなったら、ジェフがもとの好青年として目覚めるだけじゃな 速い。ものすごいスピードだ。マスターはエネルギーのすべてを いか。何が、こうなったらどーするよー 燃焼させて広場を走り抜ける。 ところが チャクラの天使に到達した。 その判断は甘かった。 きびすを返し、背中からその像にもたれかかった。 チャクラの天使が、青白く輝きだした。 マスターは成長しおえたヤクシャーをまさしく自在に操ったの だ。あたしたちも、この場所が卵の強い影響下にあることを失念し まるで燐光のように淡い光だ。 ていた。 それが、やわらかくマスターの肉体を包む。 あたしたちは光線を撃ちまくった。 そういった条件が整うと。 だが、ぜんぜん効かない。燐光に吸収されてしまう。 ヤクシャ 1 は実体化できる。 マスターは光に覆われて、彫像と一体になった。 次元獣としてのヤクシャーが、ジェフの中に戻った。 「破壊神よ : : : 」 と同時に、ジェフのからだが変化した。 マスターの声が聞こえてきた。 まず、みるみる脹れあがった。 「きさまらは、たしか、あの・ほんくらのシェリフに好意を持ってい 腹が脹れ、胸が脹れ、頭が脹れた。 たな」 衣服が裂け、裸になる。 何を言っているんだ。こいつは : ジェフの裸 ! 「では、こうなったらどうする ? 」 しかし、そのときには、もう人間の姿をしていない。 こうなるって、あによー 巨大な、ぶよぶよした肉の塊だ。 あたしは訊こうとした。けど、訊けなかった。 膨張は、留まるところを知らない。 ムギとヤクシャーが戻ってきたからだ。 あっという間に十メートルを越えた。 正しくは、ヤクシャ 1 が、こっちに来て、ムギがそれを追ってき全身が、ぬめぬめ光るいやらしいビンクに染まった。手足は消 ー 07

7. SFマガジン 1985年8月号

「あっ ! 」 オーナーは、ギリッと歯噛みした : オーナーの顔色が変わった。 ( ンドプラスターを構えた機動歩兵が、すかさずマスターに銃ロ 9 映像が地上に移り、残骸と化したパワード・スーツと高機動戦闘を向けた。 機、それに円盤機をつぎつぎと映しだしたからだ。 マスターの指先が光る。 戦闘機やパワード・スーツは、あるものは溶け、あるものは・ ( ラ光線が走った。 ハラの破片となって、荒れ果てた大地に横たわっている。 まばゆい光条が、ノ、 、ノド・フラスターを灼き裂いた。 「どういうことだ、これは ! 」 機動歩兵は熔けくずれた武器を捨て、ジャン。フした。めまぐるし 自軍の絶対的な優勢を信じていたオーナーは、思いもよらぬ光景く動き、逃げる。 を目にして逆上し、全身をわなわなと震わせた。 「わたしは、あまたの人間の中からポーラルーラに選ばれた聖なる 「こういうことだ」 使徒だ。だが、いま一人、呪われた獣に選ばれた邪悪の使徒も存在 映像が地上から上方へと移動した。天白色の靄を背景に、まだ無傷する」マスターは言った。 で飛行している戦闘機が一機、フレームの中にはいってきた。僚機を「いでよ。ヤクシャー ことごとく失い、戦闘行動をとれなくなったパイロットは、新たな指をからめ、マスターは目を閉じて、念をこめた。・ 命令が下されるのを待って、機体を戦場の上空で旋回させている。 「うあっ ! 」 マスターは右手を真上に伸ばし、拳を握って人差指を突き立てた。 いきなりジェフが苦しみだした。 指が光った。 本当に突然のことだった。 同時に映像の戦闘機に電撃が落下した。 頭を抱え、床に倒れて悶絶する。、 それは、落雷に似た光景だった。天を切り裂いて降ってきた稲妻「ジェフ ! 」 が戦闘機を貫き、一瞬にして破壊した。 あたしとユリはおろおろして、何もできない。 戦闘機はひとたまりもない。爆発し、火球となって四方に散っ 「がうう : : : 」 ムギがのたうつジェフに向かって咆えた。形相を変え、敵意を剥 映像が消えた。 きだしにして、燃える双眸でジェフを睨みつける。 「追いつめたのは、どちらかな : : : 」 ジェフが仰向けになった 9 手足が激しく痙攣し、床を打った。ロ マスターが向き直った。 を大きく開け、声にならない悲鳴を喉の奥から絞りだしている。 「お前の戦力は絶えた。望みどおり、ここで決着をつけてやろう」 何が、いったいジェフに : 「きさま : : : 」 唐突にジェフの動きが止まった。背筋をそらし、ロを開いたま こ 0

8. SFマガジン 1985年8月号

シェフは意識をなくして横たわり、ムギと「選ばれたのか。きさまらが・ホーラルーラに : ほかには誰もいない。・ 「この能力は便利だけど、卵からあまり離れちゃうと使えない「て ヤクシャーは岩山の方で死闘を繰り広げている。 のが欠点ね」ュリが言った。 とうとう三人だけになってしまった。 「あなたがメイヤーと妥協したのも、そのためでしよ。どこででも 「最後のときがきたな」マスタ 1 が言った。 使えれば、あんなやっとチャクラの権力を分け合う必要もなかった 「言い残すことは何かあるか」 んだし」 「なんにもないわ」あたしは応じた : 「それどころか、世界制覇にのりだしてたわよ。この人の性格なら」 「そっちこそ、まだ咆えたりないんじゃなくって」 あたしはつけ加えた。 「吹いたな」マスターは嗤った。 「ろくな武器もないくせに、ロだけは一人前だ」 マスターは何も言えない。全身をおこりのように震わせて、立ち 「ないと思うの」ュリが言った。 尽くしている。 「自分一人が全能だと思ったら、大間違いよ」 「ヤクシャーを利用したのは自分が動けなかったからなのよね」あ 「なんだと ? 」 たしは、さらに言った。 「こんなの、い力が ? 」 あたしとユリは手をつないだ。そして、あたしは左手、ユリは右「成長を待って、殺し屋代わりに使ったのよ。あれはいってみれば ジェフの幽体みたいなものに重なっているんだから、どこへだって、 手を突きだして、伸ばした人差指をマスターに向けた。 出没できちゃう」 指が光った。 二本の光条が、指先から白くほとばしった。 「あんたは、最低のくずよ。マスター ! 」 「うあっ ! 」 甲冑の胸を灼かれ、マスターがのけそった。 ハンドジェットのベルトが切れて、その主装置が背中から滑り落唸りだした。 ちた。 「こっから離れれば、あんたはただの人だわ。観念して、おとなし おかげで傷は浅い。しかし、心理的なダメージは恐ろしく深い。 く逮捕されるのね」 「うるさい ! 」マスターは、わめいた。 「き、きさまら : : : 」 「勝負は、まだついてない。寝言はもう終わりか」 声が震えている。 「抵抗する気 ? 」 「教えたでしよ。全能の者は一人じゃないって」 あたしとユリは、また指をマスターに向けた。 あたしは言った。

9. SFマガジン 1985年8月号

火球が制御パネルを灼き、破壊した : 知らなかったんだ。ただ、・ほくが捕まってすぐに、オーナーが 十字架が付け根のところから後ろにもったりと倒れ、カチリと い O* で脱出したのは見ていたよ。マスターの放った光が機体のどこ 8 う小さな音がして電磁手錠が左右に開いた。 かに命中したんだが、・ きりぎりのところで墜落を免れ、岩山の向こ うに去っていった」 ジェフの手を借りて、あたしたちは起きあがった。 「無事だったのね : : : 」 「オナー ? メイヤーじゃないの ? 」 万感の思いをこめて、あたしはジェフに声をかけた。 あたしは訊いた。機体に損傷を受けた 0 といったら、これ 「ちょっと、ごめんなさい」 はもうメイヤーが乗ってたベガサスのことじゃない、。 ュリが割りこんできた。ほこほことジェフの手からハンドゾラス 「メイヤーはいなかった」しかし、ジェフはあたしの問いを否定し こ 0 ターをもぎとった。そのままムギのもとに行く。ええい、なんとい う情緒のないやつだ。ひとがせつかくムードを盛りあげようとして「四鉱にいたのは、オーナーと、そのボディガ ードだけだった」 るのに。ムギを早く助けたいのはわかるけど、ものにはやりようつ 「そんなア : てもんがあるだろ , 「だめよ。これ ! 」 「きみたちは、どうして、こんな目に ? 」 大声でわめきながら、ユリが戻ってきた。 あたしが憤慨してぶーたれていると、ジ = フが先にあたしに向か「。 ( ワーが、まるで足りないわ。外からパワーを与えて電撃を過負 って訊いた。 荷の状態にしてやればなんとかなると思ったんだけど、これじゃ、 あたしはすぐに表情を明るいものに変えて応対した : とても過負荷にはできない。もっと強力なエネルギーがいるわ」 これまでのいきさつを、かいつまんで話す。 「あとはビーム砲があったが、あれはパワーユニットを失ってい 「クレ 1 ターを見たときには、絶望で目の前が真っ暗になったわ」た」 あたしは声を震わせて言った。 ジェフが言った。かなり朦朧としてたみたいだけど、さすがはジ 「あの白い光に、あなたが呑みこまれてしまったと思ったの。よく エフ。見る・ヘきとこはちゃんと見てからこっちに来たのね。あたし 逃げることができたわね」 はうっとりとなって、そのハンサムな顔をしばし眺めまわした。」 「ケイ ! 」 「逃げたんじゃなくて、その直前に、捕まってしまったんだ」ジェ フは、かぶりを振った。「事故の第一報を聞いて、ヘリで四鉱に駆ュリがいきなり鋭い声を発した。 けつけたら、マスターが待っていた。そこでぼくは異端者呼ばわり うっさい。今、いいとこなんだ。 され、それからガスを顔面に吹きかけられた。あとは、もう何も覚「上、見て。降りてくる ! 」 えていない。だから、白い光のこともクレーターのことも、・ほくは切迫した声で叫ぶ。

10. SFマガジン 1985年8月号

炎が裂けた。 「ひきよう者 ! 女性を盾に使うなんて、見苦しいだけだ」 真二つに裂けた。と、同時に、そこから黒い影が躍りでた。 なのに、ジ = フが、しやしやりでた。ジ = フってば、あくまでも ムギだ。 生真面目。 ムギは空中で一回転し、音もなく石畳の上に降り立った。 「いいのよ、ジェフ」あたしは憤るシェリフを止めた。 「みぎゃあ」 「はいってあげるわ。先に立って : : : 」 オーナーを睨みつけた。 一声啼き、何かを払い落とそうとするかのように、全身を震わせ る。 「あたしたちだって、マスターが得たものが何か、知りたいのよ」 本当にすごい生物だ。あれほどのエネルギーに身をさらしなが「それに、黒い卵の謎もね」 ら、見た目にも、しぐさにも、異常はまったくない。 ュリが、つけ加えた。 「望みはかなえたぞ」オーナーが、あたしたちに向き直り、言っ 神殿に向かって、歩きだした。 こ 0 先頭はムギ。 「手を貸してもらおうじゃないか」 これは、まあ当然だ。一 そのつぎがジェフ。ジェフは自分よりも前にあたしたちが立っこ とを、ついに肯んじなかった。ュリからハンド・フラスターを取り戻 し、シェリフは胸を張って堂々と進む。 あたしたちは、ジェフの後ろ。武器は、オーナーからレイガンを 「手を貸すって、どうすればいいの ? 」 ュリが訊いた。 一丁ずつ分けてもらった。これの光条なら、特殊素材のジャン。フス ーツで防げるかららしい。つまりは、そのくらいちゃちな武器って 「マスターは、どこへ行った ? 」 わけだ。しかし、丸腰よりはマシだろう。 「神殿の中よ」 あたしが答えた。 あたしたちの背後には、、 / ンドプラスターを持った機動歩兵がっ づく。例の得体の知れない箱を担いだ機動歩兵は最後尾で、オーナ 「では、先に立って、神殿の中にはいれ」 ーは、二体の機動歩兵にはさまれて、神殿へと向かう。剛胆のよう 「ぐるるるる : : : 」 ムギが唸った。オーナーの横柄な態度に、怒ったのだ。 でいて、オーナーは気が小さい。 「やめろ。美しい飼主が、黒焦げになるぞ」 「オーナーったら、きっと自分でもパワード・スーツを着たかった オーナーがムギを脅した。いい度胸だ。しかし、あたしたちの形のよ」 容が正しかったから、とりあえず許す。」」 ュリが、あたしに囁いた。