司政官 - みる会図書館


検索対象: SFマガジン 1985年8月号
265件見つかりました。

1. SFマガジン 1985年8月号

は、いつでもああなのか ? 」 「いつもではありません」 5 ( 承前 ) と、 。 ~ いたかったので「昔と最近とでは、どっちが多い ? 」 「あの人たちは、できるだけ長く司政官のそまこ 彼は、重ねてたずねた。 す。それに、群衆行動に歌が伴うことは、珍しくありません」 は、よどみなく答える。ほとんど断言といっていい調子で「人数や状況がそのつどことなるので、厳正な比較は不可能です あった。にとっては、問題とすべき事柄など、何ひとつない が、件数として、植民初期に多発し、のち減少してゼロになりまし のに違いな、。 た。近年になってまたときたま起こるようになっています」 は説明する。 彼もまた、返事は当然そうなるであろう、と、予期していた。順 序として、まず今の質問を発したに過ぎない。 「と、すると : : : 植民初期に多発したのに、あとすくなくなってゼ 突っ込むのは、これからなのだ。 ロとなり、最近復活したのには、わけがあるはずだな」 といって、かれらがなぜ司政官のそ・よこ ー冫いたかったのか、などと彼はいった。 問うのは、愚であった。は、司政官は植民世界の司政の象徴こんなことは、訊かなくても彼にはわかり切っているのだ。初期 であり、ために、植民者の中には司政官を賛仰し崇拝する者もすくに独裁者として君臨した司政官が、権威とカの低下につれて、植民 なくないのだーーーとの、すでにかびが生えているような古めかしい者たちにとってもそれほど巨大な存在ではなくなり、司政官を迎え ことをいいだすに決まっている。それはたしかに現象としては、そて騒ぐ必要もなくなったのが、近頃になって、前述の理由でまたも うと見做し得る人々が現在でも多いのは事実だけれども、そんな人や司政官を求めようとしているのである。だが、司政官や司政機構 たちの意識は、が信じているほど単純ではないのだ。キタにの重みが衰えたこと自体を認めようとしないには、それなり はわかっている。そうした人々は、司政官を単に仰ぎ見ているのでの解答があゑというより、なければならぬはずだから、それを聞 はなく、植民者社会の中にあって、名家や大勢力の圧迫をはね返すこうと思ったのであった。 : こんな意 てことして司政官を位置づけようとしているのだ。が : 「お答えしかねます」 識の問題を、証拠もなしにいくら主張しても、の認識とは平は応じた。「そうした現象には、一件ごとに違う背景と情 行線になるだけに相違ない。 勢がありますから、ひとつひとつについて分析した上で、共通項を 彼は、そんなへまはしなかった。 抜き出さなければ、なぜ件数が減少してゼロになり再び起こりはじ 「なるほどね」 めたのか、結論づけることはできません。しかもこの計算には、植 9 と、彼はいった。「で : : : 司政官が船でウイスボア港に着くとき民者たちの、人間としての特性が入ってきます人間が行動をおこ

2. SFマガジン 1985年8月号

展段階の型にその世界がどう対応しているかというような、それだ 1 は、そんな真似をすれば猛然と反論してくるに違いなかった。あ けのことでは、何ともいえないのであった。それそれの世界にはみげくの果て、司政というものについて意見の齟齬をきたし、 2 な特有の事情があり、どんな状況が、そこの人々に最適であるかの積極的協力も期待できなくなるかも知れない。やらなくてもい は、にわかには決められないのである。それはたしかに彼は、司政のにわざわざ欠点をほじくり出してそんなことになるのでは、何を 官としての訓練を積み、司政官が準拠す・ヘき原則というのも、よくしていることか、わからないのである。彼には最初から、そんな気 承知している。しかし、実感としては、司政原則の通りことを進めはなかった。 たって、必ずしもその世界に合った結果になるかどうか : : : 怪しい と、いって、全面的に持ちあげ、賞めちぎるのは、これまた考え という気もしているのだ。 ものであった。はいよいよ自信をつけ、これまでの司政のや りかたを少しでも変えようとすると、難色を示すようになるかも知 つまり、判定基準そのものが、連邦から使命を与えられた彼と、 や、それならまだあとで手の打ちょうもあるけれども、 とでは、かけ離れているのである。だが今は、連邦から与えれない。い られた使命は考えないことにして、タトラデンがふつうの植民世界自体、現在のタトラデンの有様に完全に満足しているのでは であるとして考えるほうがいいであろう。実はそれだって、彼の主ないはずだ。問題がいくつもあることは、自身承知している 観では何をよしとし、何をいけないとするかむつかしいのであるがに違いない。だからこそ、司政官の意見を求めたのだとの解釈もで きるではないか。それをやたらに賞めるのでは、無責任な態度とと となると、結局は、司政原則にたち返って評価するしかない。 られるか、この司政官は何も知らないのではないかとの疑念を も、そのつもりなのだろう。 1 に抱かせることになりかねない。 それしか、仕方がない。 では、真面目に、評価すべきところは評価し、気になるところは 仕方がないものの : : : 彼としては、ここである程度の考慮をして指摘するーーという方法をとるべきか ? だが、これは決してして おかなければならないのであった。 はならないのである。なぜなら、そうした評価や指摘をするとなれ タトラデンの司政の成果にけちをつけるのは、むつかしかった ば、今いったように司政原則に従って行わなければならない。もち し、避けるのが安全でもある。司政原則の上からいうなれば、タトろんそれはそれで、は的確な批評だと受けとめるだろうけれ ラデンはあきらかに、うまく行っているのだ。 ( うまく行き過ぎども : : : 以後、がいよいよ司政原則に忠実に物事を処理して て、ために、星区の他の世界と手を組み、プロック化しようと、ごゆくのはたしかである。キタが、与えられた任務を果すために、司 とを進めているのである ) それでも難癖をつけようとすれば、他の政原則に合わないことをやろうとすると ( それは必然的ななりゆき 世界をいろいろ見てきた彼には、易々たることであった。文句のつのはずなのだ ) 断固として、は阻止しにかかるのではあるま けようなど、 いくらでもあるからである。だが、自負心の強い いか ? もともと強固だったの信念を、そうすることによっ

3. SFマガジン 1985年8月号

意識を変えるための試みをしなければならぬと覚悟していて、とうるであろうけれども、素人ではない司政の専門家ーー、司政官の目に とう踏み出したのだが、これ以上押し進めるのは、危いかもわからどう映るかは、やはり聞きたいのに違いない。それも、ここ一年 : ・ が、こちらに対して、司政官としてはふさわしくない : 一ヨールばかり司政官不在で、自己の裁量で切り盛りしてこなけ 人物だと考えはじめたりしたら、厄介至極である。 ればならなかったのだから、余計その欲求は強いに違いない。 それに、を攻める材料は、まだこのあとにも控えているの そして、彼にとって興味深かったのは、が彼の意見を求め るにあたって、彼がタトラデンの植民者であったという事実を、す でにデータとして利用しはじめていることであった。はじめのうち 「港でのことについて、きみの意見を聞きたいのはこれだけだ」 は 01 は、司政官がタトラデンの出身であるということを、単な 彼は、とりあえず鉾をおさめた。 る個人的属性であるかのように扱っていたのだが、植民者たちのさ 「了解しました。次に移っても、よろしいですか ? 」 まざまな反応を見定めるうちに、それが司政そのものにも影響して はい、つ。 キタは応じた。 【アウトドアライフへの招待】 ・ 6 月貶日阯 57 月幻日囘 / グランデ 1 階 「司政官は、司政官として昨日初めてウイスボアの市街をごらんに なりました。植民世界の最大都市として、どのように評価なさいま 【鉄道図書まつり】 したか ? 」 ・ 7 月日 59 月日囘 / グランデ 5 階 cOt--€は問う。「それに、司政官は以前にタトラデンにおられ 【マンガまつり】 て、ウイスボア市もご存じだったとのことです。以前とくらべて、 ・ 7 月日 58 月引日出 / ブックマート 3 階 どのように変化したとお考えですか ? 良くなった点をおっしやっ て下さい。悪くなった点も、おっしやって下さい」 学 趣演ア 尹築化職会庫童 「ーーーうむ」 建理就文児 型 6 一アド画フ一 彼は考え込んだ。一 新ク 9 映書′総 - フ参物斉育 学機生経教詩家 おそらくこれは、きのうのウイスボア行きについて、 1 がも 0 。ンク亭噺 0 、グ 2 田 3 典気衛学術 角ボ、 ) 、芸庫志心 っとも知りたかったことの、その筆頭にくるのではないか、と、彼 の 泉、 0 文文泉」辞電医法哲文 人 田町ル日皆皆皆比白比日皆 は思った。植民世界司政のロポット官僚の頂点に位置すると 台皆階階階階日」 ド書 千 6 5 4 3 21 地 」 321 地寡 しては、司政の成果が最大の関心事であるはずである。もちろん O—自身が、目標に対してどの位達成しつつあるかの採点をしてい 3 っ 4

4. SFマガジン 1985年8月号

ールする州自治委員会が、司政官や司政機構を利用できるときだけ 「仰せの通りと考えます」 は首肯する。 利用し、必要以上の関係は持ちたくなく、むしろうるさがっている 2 「自治保安官は、植民者の、州自治委員会の指令に従って動いてい ということ・ : かれらはすでに司政官や司政機構などどうでもよ く、自分たちの利害で動いていることを : : : 今の段階でに納 る」 いうことは : : : 今いった理由にもとづくと得させるのは、とても無理なのであった。 彼はつづけた。「と、 しても、私がウイスボア港に上陸するとわかって、州自治委員会彼は、淡い疑念をに植えつければそれでいいのである。 は、わざわざ、ウイスボア港に行く自治保安官の数を減らすように だから、すぐに語を継いだ。 「わからないが、私は、自治保安官がすくなかったことで、何とな 指示を出したことになる。そうだろう ? 」 、敬遠されたような気がした。これは私だけの気持ちだが : : : 先 「蓋然性はきわめて高いと思惟します」 と、 t.n 01 。 方だって、私がそんな印象を受けること位、想像できただろう。な のに、あえて自治保安官の数を減らしたとなれば、先方に、われわ 「わざわざ、減らしたのだ」 彼は繰り返した。「州自治委員会は、司政官のウイスボア港上陸れが好意的にむこうの事情を推量する以上の、先方だけの計算なり にあたって、積極的に協力したり助力したりするよりも、なるべくもくろみがあったのではないか、という気がする。それだけのこと トラ・フルをおこさず、無用の接触を避けようと、消極的な方法を選だよー んだのだ」 「わかりました。これは、司政官の個人的印象による仮説だと解釈 します。しかし、論拠薄弱な仮説です」 「その理由は、ご自分で、先程おっしゃいました」 1 はいった。 01 は、いい返した。「先方には、植民者としての先方の理由 があり、結果としてそうなったのです」 いいのだ、と、彼は思った。・ 「結果としてね」 論拠薄弱でも、可能性はゼロということにはならない。が 彼は頷いた。「しかし、ちょっと考えて欲しい。先方がそうした植民者社会の有力者たちの、司政官や司政機構に対する誠実さに疑 理由は、それだけだろうか ? 先方には、こっちが考えてもいな念を抱きはじめたとき、これが有効に作用するのだ。そう期待する 、先方だけの、先方のためだけの理由があるかも知れないんだ」しかないのである。 「どういう理由でしようか ? 」 と、 ここまでで、いささかやり過ぎではないかとの感もあった : 「それは、私にはわからない」 自分は、の意識をゆさぶろうとして、少し強く気持ちを出 彼は、かわした。軽い嘘である。名家・有力者が事実上コントロし過ぎたかも知れない。いずれ : : : それもなるべく早く、の

5. SFマガジン 1985年8月号

くるのを悟 0 たのであろう。もはや司政官がタトラデン出身なのを矛盾した責務をかかえ込むことになる。一般的な司政のための強い 抜きにしての司政はあり得ないとの感覚になってきていたようであ目的意識を持っタトラデンのは、何の準備も下工作もなしに るが : : : さらに、この事実を活用しようとしているみたいなのであ突然そんなあたらしい目的を与えられても、従わないかも知れな った。この点、 r-0 01 はやはり 01 らしく貪欲なのだ。彼にとっ しいや、そんな目的を果たすためにタトラデンにやって来た者を てもまた、このほうが望ましいといえる。 排除することだって、考えられる。といって : : : もしかりに、連邦 、カ 経営機構の強引なまでの命令によって、あたらしい目的を受け入れ の質問にどう答えるかは、 かなりの高等技術であった。 たりしたとすれば、今度はそっちへ暴走する可能性もある。そうな 一植民世界の司政の成果の評価づけなんて、基準をどこに定めるれば自体が、タトラデンの植民者たちの信用を失い、 かで、いくらでも変わってくるものである。というと、そんないい 破壊工作だって行われるかもわからないのだ。適当に従来の司政を 加減なものかといわれかねないが、違うのだ。例えば司政の最終目やりながら巧みに第四五星区プロック化阻止の方向へタトラデンを 標とされている完全自治の達成にしても、その世界ではたして可能持ってゆく というような器用なことは、 coOr-€には無理なので かどうかの判断があり、さらに、連邦経営機構から見て、それでい あゑすくなくとも連邦経営機構はそう判断したのだ。拒絶か暴走 いのかどうかの観点が存している。それそれの植民世界のロポット か : : : あるいは矛盾に耐え切れず機能麻痺をおこすか : : : そうなる 官僚のチーフのにとっては、ある意味で機械的であり段階的と踏んだのである。だから、キタが送り込まれたのだ。連邦経営機 である司政成果も、全体的な、連邦統治の目からすれば、そう簡単構は、むろん、こんな重大な事柄を一司政官の手腕ひとつにゆだね ではない。政治というものが、からんでくるからであった。 ているのではなく、他の方法も用意しているという。が、すくなく むろん、キタは、連邦経営機構の中枢部にいるのではない。一司とも、今、タトラデン上でそれをやることになっているのは、キタ 政官に過ぎない。・、 カ・・・ : : 連邦全体から見たならばという目は、 ( 充びとりなのだ。 分であるはずはなかったが ) ある程度持っているつもりだった。そ だからこそ、彼は、方向を模索しつつ、の固定観念や感覚 れも : : : タトラデン赴任にさいしては、特別な任務を与えられてい を、少しずつ変えようとしているのである。 る。第四五星区プロック化の阻止という、全くの政治的な課題なの この課題を背負わされた人間の観点から、タトラデンの司政成果 だ。これはタトラデンのにはまだ伝えられていない。そのまを論じるわけこよ、 ~ 。いかないのであった。 ま生でこの目標をぶつけられたら、は抵抗するだろう。当初また。 与えられた司政の目的とはおよそことなる目標だからだ。第四五星彼はこれまで、多くの植民世界を目にしてきている。さまざまな 区プロック化阻止というだけでは具体的でないとしても、そのため世界があり、さまざまな生活がそこにあった。こうした、あまたの にかりにタトラデンを戦乱の巷にしなければならないとなると 世界を見てきた彼には、一世界に根を生やしたのように、発

6. SFマガジン 1985年8月号

: これまで司政庁とは何の関係もなかった西北養育院に、なに いくらいっても理解に・ に話しても仕方がない、すくなくとも当面は、 してもらえないだろうし、そこまでに説明する気もなかった がしかの助力をするということだけで、特典を与えることになるの のである ) 一応の評価を与えていた。西北養育院の置かれた立場とではないか ? タトラデンの人々もそれで得心するはずだ。何の協 環境を活用して、人材を育て、植民者社会に送り込んでいる、とい力もせず知らん顔というのでは、人々は自分を忘恩の徒と非難する うわけだ。もっとも、その人材というのも、例のミンガッ島で建設であろうが、逆に、過分の援助をしたりすると、司政官になって帰 が進んでいるあの学校が生み出すであろう、連邦的視野を持つ人材ってきたから、過去の良かったことや悪かったことに仕返しをして というのとは違って、植民者社会で活躍するであろう人々という意いるのだといわれかねない。自分にはそんなつもりはないし、司政 味である。 官とはそういうものではないということを、あきらかにしなければ 「チャムパト・・ディルは、司政官に助力を要請し、司政官はならないのだ。 検討させるとお答えになりました」 はそのへんを検討し、世間並みの、適当なやりかたや額を coOb-«はいうのだった。「ウイスボア州立西北養育院には、どん算出するだろう。 いったように、 01 はチャム・ハト院長について、出発前に彼に なかたちの、どの程度の助力をお考えなのですか ? ご教示下さ 告げたこと以上の事柄は、何も報告しなかった。いいかえれば、チ 「これまでの、他の公共施設への援助と比較考量して、・ ( ランスをャム・ ( ト院長は自分流のやりかたで院生を教育してそれなりの実績 をあげ、あちこちの名家ともつながりを持ちはじめているというが 失しない程度でいいと思うね」 ・ : 本人の意欲にもかかわらず、タトラデン植民者社会では、まだ 彼は返事をした。「私が育てられたところだという事情を、若干 加味すればいいんじゃないか ? そちらでまず、腹案を作って欲しそんなに大物というわけではないのであろう。 人間なら、おそらく、彼が育ったウイスボア州立西北養育院に立 ち寄った彼自身の感懐を、いろいろ聞き出そうとするところたった 「了解しました。ご指示に従って、検討します」 ろうが、は何ひとったずねようとしなかった。大体がそんな 01 は答える。 ことは、にとって、司政とは関係のない事柄だからである。 これでいいのだ、と、彼は考えた。いささか冷淡だといわれよう とも : : : 今の、チャムくト 一がチャムパトの流儀でやっている西北彼もまた、ロポット官僚というのはそうしたものだとよくわかって いたけれども、そして質問も期待していなかったけれども、どこか 養育院には、彼はもはやそれほどの感傷は抱いていなかった。この 点でも、彼は、過去のタトラデンでの自分を、振り捨てようとして拍子抜けした気分になったのは、否めなかった。自分はどうやら、 いたのかも知れない。ジャクト家でそうであったように : : : 西北養司政官という立場にあっても、ついに人間的な面を捨て切れないの 2 : どうせこうした 育院も遠くなったとみずからを思い切るべきだと思ったのた。それではあるまいか、などと、考えたのである。が :

7. SFマガジン 1985年8月号

あたらしくプロックを作ろうとしている、それらすべてを、外せるは植民者であった頃の彼がそこにいたら、憤慨するかも知れないや のだ。それらまでを認め、肯定したら、あとがやりにくくなるのでりかたであるが、人間の上司としては司政官しか認めないに あった。 とって、そうしたいいかたでなければ、信用できないかもわからな ウイス求ア市のありようを、それも、現代の技術や様式の段階といのである。 いう枠の中で肯定すれば、何ということもないのだ。それも、着実は、彼の話に納得したようだ。 に成熟という表現をとれば、都市というものが内包するさまざまな もしも、こういうウイスボア市街のみならず、タトラデン全般の 矛盾は承知の上で、全体としては、の司政成果を賞め、司政についてが評言を求めてきたら : : : 彼は、まだ他の都市 1 をねぎらったことになるはずであった。 も見ていないし、赴任以来の時日が浅いから、責任のある返事はで きない、 「有難うございます」 と、突っ張るつもりだった。それでもあえてとなれば、こ 「ト 01 はいし 、それから、ウイスボア市の町のたたずまいや、特れまでにもときたまに問かれて感想を述べたように、現時点 定の場所や、道路の様子、車の走りかた、人々の感じなどについ でとことわった上で、断片的にいうしかない、と、考えていたので て、個別に感想を求めてきた。 ある。けれども、のほうも、それ以上はたずねなかった。 彼は、全般的には肯定の態度で、だが気のついたものよ、 ウイスボアの市街に関しては、彼は自分のほうから質問したり問 たに注意しながらそうと告げた。ことがウイスボア市街の印象に限題を持ち出したりはしなかった。そういう材料が全くなかったので 定されている以上、基本を司政原則に置き、個別には的確に指摘しはないものの、の意識にゆさぶりをかけられるかどうか怪し つつ、好感を示すーーというやりかたでいいのである。 いものばかりであったし、あまりにもたびたびそんなことをするの ただ、彼は彼なりに、昔と今のウイスボアを比較しなければならは、見合わせたほうがいいと判断したのである。 ないときには、植民者時代の記憶をそのまま口にしないように、留話は、ウイスボア州立西北養育院でのことに移った。 意した。植民者であった頃に見聞きしたのは、あくまで植民者とし は、現在の院長のチャム・ハト・・ディルに関して、ひ てであって、当時の彼にはまだ、連邦の人間としての見方が備わっと通りの情報を持っていた。といっても、それはすでに彼がウイス ていなかった : : : 司政官としての受けとり方はなおのこと、なかっ ボア行きの前に教えてもらったものばかりである。ただ、 01 たからである。彼は昔の記憶を呼び戻しても、 いったん、今の司政は、チャム・、ト ノが実施し成果をあげている院内教育について、彼の 官の立場からはどう見、どう解釈するかと置き直す、という手続きようにこれでいいのかというような感覚にはならず ( 彼は自分の気 を踏んで、に伝えた。にしてみれば、つまりは司政官持ちを、に喋ったりはしなかった。ことは自分が前の院長の である彼の感覚を通じての評言を聞きたいのであり、一植民者の思ガレャン・ (.no ・ビアに対する、いわば想いに起因しているのであ い出を知りたいのではないはずだ , ーー・と、キタは考えたのだ。これり、全くの個人的感情の部分もすくなくなかったのだから、 8 2

8. SFマガジン 1985年8月号

彼の心象は、植民者のマスコミの、おそらく東海岸通信のミア・ e になる。そちらでデータを集めてくれないか ? 」 ・コートレオが取材に来ることで、いやでも喋らなければならな彼はいった。 いであろう。 「承知しました。そういたします」 それと、は、ダノンのことで彼に問うた。 は受けた。 西北養育院の後輩の、ダノン・ e O ・セク日ビアである。 他人行儀だが、司政官はこういう手続きを踏まないと、自分の意 は、ダノンが彼に何か手伝わせてくれと頼み込み、彼が考志だけでは人間ひとり雇えないのだよ、と、彼は心の中でダノンに えてみようと応じたのを、記録していたのだ。 呟いた。 「あの人物についてのデータは、司政官がお会いになり、お話しに それに、相手がいくら旧知のダノンだからといっても、踏むべき なったぶんしか保持していません」 手続きを踏まなければならないのが当然である。旧知といっても、 はいった。「従って現時点では、私はまだあの人物がどの決して昔の通りでないことを、彼はすでに何人も相手にして、経験 ような人間か、判断する材料を持ちませんが、司政官が、考えてみしていた。 ようとおっしやったのは、どういう意味だったのですか ? 何か、 ウイスボア州立西北養育院の件は、そこまでだった。 具体的な案をお持ちなのでしようか ? 」 は、それ以上彼に問いたい事柄を持っていなかったのだ。 「私は、ウイスボア州立西北養育院にいた時分、ダノン・ eo ・セ彼は、ここでもまた、質問したり問題を持ち出したりはしなかっ ク日ビアとはよくつき合った。だからその頃のダノン・ O ・セク " ビアのことはわかっているつもりだが、それはあくまでも、養育それは、このあとなのだ。 院の院生としての感覚でだ。だから、人物評価は差し控える」 Q 1 にゆさぶりをかけられるのは、このあとの、ジャクト家の 彼は、慎重に応じた。「また、現在のダノン・ eo ・セク " ビア舞踏会を材料にしてである。 がどういう人間なのかも、私にはよくわからない。ただ、ダノン・ 「次に移って、よろしいですか ? 」 ・セク日ビアに司政庁の仕事を手伝う気持ちがあり、能力も相 tnor-«が問いかける。 応にあるとなれば、・ とこか : : たとえば、今ミンガッ島に建設中の 「どうぞ」 学校の仕事をやってもらってもいいと考えて、ああいう返事をした彼は応じた。 のだ」 そんないいかたをしたのは、彼に、・ とこか待ち構えていた気分が 「わかりました」 あったからである。 と、 ( 以下次号 ) 「そのためには、ダノン・ O ・セク日ビアについての調査が必要 こ 0 0 3

9. SFマガジン 1985年8月号

司政官キタと SQI との対話は、次第に両者の喰い違いを明かにしてゆく・・ 連載第 31 回 引き潮のとき 眉村卓 イラストレーション左治嘉隆

10. SFマガジン 1985年8月号

「タトラデンには、ほかに歌がないのかね ? 」 人々が歌っているのだ : : : そうした人たちゃその賛同者があのとき 彼は迫る。 港へ出迎えに来たのだーーーとの指摘を、彼はしなかった。それはま だ早いのだ。彼がそういっても、は司政官の個人的な独断な 「タトラデンには、ほかにもたくさん歌はあります」 は答えた。 いし思い込みと受け取り、自己のデータに繰り入れるだけであろ 「なのに、かれらは、わざわざ古いタトラデンの植民者の歌を歌っう。それだけならともかく、ためにが、今度の司政官は偏見 た」 を抱いているとの見方をするようになったら、できるはずのことも 彼はいった。「それは、かれらにとって、ああした歌が、かれらできなくなる。思わぬところでストツ。フをかけられる可能性も出て 。ささやかだが、 くるのだ。今は、そこまで話を進めなくてもいし の気持ちにふさわしかったからだ。そう思わないか ? 」 このやりとりをの意識の中にほうり込んでおくだけでいいの 「可能性は認めます」 であった。 と、 「かれらは、ああした歌で仲間意識を高揚し、他へ何かを訴えかけ「この話は、今後、あたらしい判断材料が出たときに、また検討す るとしよう」 示威するつもりだったんだ。そう考えることもできるな ? 」 彼は、追撃する。 彼は打ち切り、さらに一歩進めた。「ところであの港には、植民 いつでもあの位しかいな 者の自治保安官があまりいなかったが : 「確率は少し低くなりますが、可能性は認めます」 いのか ? 」 は肯定した。 最近のウイスボア港の様子にはうといので、一応確認のためにし 「よろしい」 彼はつづけた。「かれらは、ほかにも歌があるにかかわらず、あた質問である。だが返事は予想の通りだった。 、え。部下たちの報告によれば、植民者の自治保安官は、ふだ あした歌で仲間意識を高めようとした。それで何かを訴え、あるい は示威しようとしたのかも知れない。 ということは、かれらが、古んはもっと多いとのことです」 いタトラデン植民者の歌が歌われていた時代の何かを懐しがってお は、そう答えたのだ。 り、その時代にはあったが今は失われてしまった何かを取り戻した「なのに、私がウイスボア港に到着したときに自治保安官がすくな いと願っている、と、そう考えられないか ? 」 かったのは、私の身辺警固はきみの指示によって万全で、自治保安 「何かというのがよくわかりませんので、お答えしかねます」 官には関係なかったということと、もうひとつ、護衛のロポット官 はいっこ。 僚と自治保安官が、私の警固や群衆処理のしかたについてトラブル それは、一種の抵抗歌として歌われているのだ : : : 名家・有力者をおこすかも知れないということで、それを避けたのだろうな」 への反感をこめて、クトラデンの下積みの人々や現代流から遅れた彼は、 1 がいいそうなことを、自分の口からいった。 2