波 - みる会図書館


検索対象: 徳川家康 1
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1. 徳川家康 1

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2. 徳川家康 1

と考えていられるが、それを好まぬ人もあられる」 「それゆえ、愚かになれと言われるか」 「それそれ、そのように先走る。それではいよいよ敵を作 下野守からの使者は波太郎の見知らぬ三十男であった。 って、後継のことのみか生命も危い。愚かになられませ。 殊によると父右衛門太夫の死後に召抱えた寵臣なのかも 何事も思い及ばぬもののようになされませ」 吉法師は黙って波太郎を睨み返し、わかったとは言わな知れない。 ネ々 / 、刀 波太郎が、彼のために祈る間、いつもよりおと萩の多い熊の若宮の屋敷に通ると、主君をはずかしめま いとしてであろう、この男はやたらに着物の襟を正した。 なしかった。そして、祈り終って退出するときに、 「愚かを装い、しかもその愚かな行いが今迄の愚かな者と書院に通されて波太郎に向いあうと、 「芥川東馬と申す。見知りおかれい」 は違うようにいたせ : ・・ : と、こう言われるのであろう」 尊大に名乗ったあとで、主人の下野守がどのように波太 波太郎の心を読みとった言い方で、 郎をなっかしく想っているかをくどく説いた 「わかった。よく、いに止めておこう」 その吉法師が那古野に戻ってゆくと、飄然として怪僧随「先殿とは比較にならぬご名君、そのご名君に愛されてお 風がやってきた。随風はこんどは殆んど波太郎と時流につ仕合せでござるな」 いては語らなかった。彼はいよいよ、彼の志のままに、日年下の波太郎をさとす口調で、下野守がわざわざ波太郎 本中の武将を仏弟子にする気で経めぐる旅に出るのに違いを城内へ招待して、明後十五日共に菊を眺めたがってい る。有難く心得るようにと口上を述べていった。 、冫太郎は陶器のような表情で、 ー尹織と於俊の駆けおちな 大阪で会った水野藤九郎の小月イ どは忘れた様子で、三日泊ってまた淡々といずれかへ立去「当日は他に来客もござれば、またいずれかの折に願いた 下野どのへよしなに」 使者は眼を丸くした。年貢は免ぜられているとは言え、 その他に近郷近在の、これは彼の配下とも他人とも見え る訪客が四五にとどまらず、そのあとで、刈谷の城主水野領内の民ではないか。それが領主の招待を断るというよう 下野守から久しぶりに使者があった。 190

3. 徳川家康 1

「お身たちに隸がなくば、この波太郎が申受くる。それ でよいかな ? 」 宣光は弟五郎と顔を見合わし、それから静かに、うなす 切っ先は首をつらぬき、パサッとあたりへ音を立てて血 が走ったと同時に大きく眼をむいたまま与三左衛門の体は 「よろしゅう頼み人る」 ごろりと左へ寝た。 「では : : 」と、波太郎は滂をかえりみた。 五郎はおどろいて飛びすさった。宣光もあまりのことに 「これをこのまま船へ乗せよ。わしの船に。鄭重にな」 声もない。と、波太郎はつかっかとすすみ出て与三左衛門 「はツ」と答えて、戸田家の家臣たちが死骸を運んでゆく をかかえ起し、 「なるほど、これがおぬしの意地か。分った、分ったそ」 「海中へ捨てられるのか ? 」と、五郎であった。 与三左衛門はすでにこときれていたが、刀を持った手の けいれん 細胞はまだ生きて痙攣をつづけている。その手から波太郎波太郎はムッとしたように五郎をにらんだ。 「与三左衛門とやらの心は、竹千代どののお傍を離れぬ。 は、つや、つやしく刀をとり、 お身にはそれがお分りないか」 「まず輿を : ・・ : 」と、うながした。 中の童たちに、この惨烈な与三左衛門の最期の姿を見せ「さあ : : : ? 」 「武士には武士の情があろう。この遺骸に竹千代どのの落 たくなかったに違いない 再び輿はあがった。もはや大勢は決している。たれも彼着く先を見せてやるのだ」 そういうと、波太郎は軽い舌打ちを残してさっさと遺骸 らの行動を阻止する者はない。石畳を三段にした船着場へ は三艘の船がひ 0 そりと雨の中にもやっていた。その一絏のあとを追った。 この遺骸は後に竹千代の仮寓の前に取捨てられ、金田与 に、輿はそのまま担ぎこまれた。 それを見すまして、波太郎はふたたび与三左衛門のそば三左衛門は竹千代を取り返そうと熱田へ潜人し、立派に斬 しカカめさ死したと岡崎へ報告されたのだが : に帰り、まだ呆然と立っている宣光兄弟に、「、 : 、 波太郎が遺骸を積んだ船へ乗ると五郎もあたふたと竹千 るな ? 」と、死骸を指さした。 339

4. 徳川家康 1

大はハッと首をれた。恐ろしいほど的確に自分の脅う」 えをいいあてられて、とっさに答えの言葉もなかった。 「では、よしなに」 女中が茶湯を運んで来た。 波太郎は満足そうにうなずいて、 窓の外の陽はいよいようららかさを増し、かっての日の 「これが何かの暗示になったら、やはりみたまのお引合 悲劇を知った萩の根本へうすらが降りてのどかにえさをつせ。暫くこれで : : : 」 いばんでいる。 一礼して部屋の外へ出ていった。 波太郎はゆっくりと湯を喫し、於大の感情の静まるのを 九 待っていた。 「肉親として女性としてはご無理もないこと。波太郎もご 間もなく波太郎はひっかえし、 心中お察し申しまする。が、 : その迷いにおばれて、行 「わが家の身よりと申しておひき合せいたしましよう。こ 手の波を見あやまってはなりませぬ」 ちらへ 於大を案内して対屋への廊下をわたっていった。ここは 「しよせん生涯ともにはあられぬさだめとならば、そのさ作りが新しく、掛軸も見事、香台、花台の類はみやびた螺 だめに棹さす手だてもあるやも知れず、よく迷うてよく考鈿であった。おそらく客殿として最近しつらえたものであ えて : : : と、今申してもご無理であろう。そこで姫にお引ろう。左手の書院窓から差し込む光にびようぶの伊勢物語 がくつきりと浮きあがり、正面に、十一、二歳の少年とそ 合せしたいお人 : : : と申したのだがいかがであろう」 兄に会わせようというのではないらしい。いったいたれの従者らしい二人の武士が坐っていた。 に会わせようといっているのか ? 上手に控えているのはもう四十をすぎた中老の武士、も 於大は波太郎の好意を想うとむげには断りかねるものをう一人は二十五、六に見える。 於大が波太郎にみちびかれて人ってゆくと、 感じた。 「会う前に、。 となたか伺うわけには参りませぬか」 「なるほど於国に似ているわ」 「こちらもご身分をつつんだままで会われたらよろしかろ 正面の少年が、無遠慮に於大を見おろしたあとでいった。 238

5. 徳川家康 1

き出して、わが愛人とともに討取る : 「姫、姫もその余波で、わし以上の悲しみを味わわれた : 波太郎は愁いにみちた於大の横顔から眼を離さず、 「といってここで負けてはなりませぬ。岡崎へのこされた 和子のため、最善を尽さねばなりませぬ」 「若宮さま」 於大は思い決したように、 「あなたが於大に会わせたいといわれたお人、それはどな たで、こギ、い↓よしよ、フ」 「ご再縁のお話がありますそうな」 「広瀬か、阿古居か : : : それで迷うておられると、これも みたまの知らせであったが」 於大はうなずいた。 ・・、冫、良とかかわりある ( やつばり兄は死んではいない : ところで生きている ) そう思うとききたいことが胸いつばいにあふれて来た が、それはきいてはならなかった。 長兄下野守の眼をのがれて生きている幽霊。その幽霊 を、明るみへ引出すのは残酷すぎる。骨肉相食む今の世に 7 は、こうした幽霊がどれほどたくさんいることか。 「それで : : : 姫のお心は決りましたかな」 「その会わせたい人とは : 「さあ、それが : といいかけて波太郎はまたあいまいに笑った。 「いや、それもわしには分っていたこと」 「藤九郎さまのみたまではござりませぬぞ」 波太郎はそこで声をたてて笑った。 「藤九郎さまのみたまとは : 「よく迷い、よく考えて : ・・ : と、これもみたまのお告げで 「おききなされますな。みたまが悲しまれましよう、とい うのは他でもない。この波太郎は神に仕える身ゆえ交霊自ござる」 し」 在。みたまの悲喜がわかるものと思召されたい」 「姫の考えでは、岡崎と遠くなるのがおそろしい。万一に も和子と敵味方に相成ってはと : : : それが迷いの種でござ 於大はかすかに手をつかえて波太郎の表情を読もうとし ち、つ」 た。波太郎はそれに小さくうなすいて、

6. 徳川家康 1

壇に夜をこめて祀りをした。 かれた竹千代に会わして下さりませ」 その祀りを平手中務は、波太郎が織田信秀と吉法師の父 「竹千代に . 子を通じて、平和を祈りだそうとしているのだと吉法師に 「会わせて下さりませ ! もう一度会わして下されたらだ 告げた。 いは決して泣きませぬ。殿の仰せのとおり、黙って刈谷へ 「この家の主は南朝方のすべてを託されている修験者ゅ なぜご返事を : : : 殿 : 戻りまする。殿ー 広忠はいきなり於大の背に面を伏せ、声をころして泣きえ、天朝のご威光をあなた様の上へ祈り下そうとしていら れる。謹んで耳傾けねばなりませんそ」 吉法師を神前に伴ってそう言い聞かせたが、その吉法師 と二人になると波太郎はぜんぜん別のことを言った。 しまのままで織田家のあとが継げるとお 「吉法師どのは、、 田いか」 三年の間に、ぐんと背丈ものび悪戯も気性もはげしくな 1 って、魔のような眼をしている吉法師は、 「わしにそれたけの器量はないと言われるか」 熊村へ戻って来ると、竹之内波太郎のもとへは訪客がっ 十一の少年とは思えぬ鋭さで反問した。 づいた。 最初に訪れたのは織田吉法師を伴 0 た平手中務で、これ波太郎は笑うでもなく笑わぬでもない例の静かな表情で かすかに首を振ってみせた。 ! 冫太郎と二刻あまり密談した。密談の内容は周囲の誰に 「では、なぜそのようなことを間いかけられる ? 」 も伺い知れないものであったが、波太郎が京、大阪の旅で 得た智識を事細かに告げたことは想像される。そうした織「和子が少々悧巧すぎるゆえ」 田との接近によって波太郎はいったい何を得ようとし、何「すぎたるは及ばざるに似たりの戒めか」 波太郎はうなずいた。 を望んでいるのか、これも詳かには出来なかった。 ただ彼はその密談のあとで、しばらく留守にしていた神「和子には兄弟が大勢あられる。信秀どのは和子を後継に 秋 雷

7. 徳川家康 1

信元はゾーツと背筋に寒さを覚えた。まるで彼の心の底「信元さま」 於国は男に呼びかけて、それから兄へすがるような眼を を見透してでもいるかのような織田の手配り。が、考えて みればその筈であった。この乱世に、大切な嫡子の外出をむけた。 「なにかよい手だてがございましようか」 そう手軽にさせる筈はない。 それにしても、ここに取籠められて、吉法師からは退散「のうお波、わしがまかり出て詫びたらそれで済むであろ せよとせがまれ、出てゆけば討取られるとは。信元はうか 波太郎はまた答えない。彼はふと何か思いだした様子で つに城を出て来た自分の立場のみじめさを、波太郎に見ら 顔をあげると、 れるのがたまらなかった。 「ワッハッ、ツ、 0 こりやおかしなことになったぞ。で「そうじゃ、もうそろそろ支度が出来たであろう。そなた は吉法師さまのお給仕に参るがよい」 は、このわしが : ・ : 刈谷の藤五信元が、吉法師どのの前に と、於国にいう。於国は顔いつばいを不安にして、音を まかり出で、お詫びを言上せねばならぬ破目になったか。 たてずに座を立った。 こりやおかしいワッハッハッ、 「では兄上さま : 波太郎はそのうつろな笑いを、聞いているのかいないの 波太郎はその於国の足音の消えてゆくのに耳を澄まし て、 依然じっと膝の上の自分の指を見つめている。 「信元さま、吉法師どののカンの虫、あなたさまでは納ま りませぬ」 「このわしが参って手をつかえてもか」 於国は立ちかねた。信元が何を考えていたかを彼女はよ 「子供のこころは神ながら。好悪はそのまま真を衝きます いまの波太郎の言葉に く知っている。その考えはしかし、 よって、児 . 戯におとる夢想とわかった。もはや、相手を攫る」 信元はゾーツとした。波太郎もまた彼の心に根ざした不 うどころか、信元自身、どうして無事に身をまもるかが間 逞をはっきりと見抜いている。 題になってきた。 、 0 2

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微笑しながら時々信近を振返った。彼はこの場の空気かゆるんだ。 ら何ものかを信近にみとらせようとしているらしい。が先殿忠政の死を聞かされ、続いて一族の追放と下野守の 信近は、二人の論談までが、だんだん煩わしくなっていっ織田への屈服。 こ 0 わけてもこの娘の心を悲しく揺ぶり立てたのは、波太郎 の妹淤国と下野守のいきさつだった。 それを察したのだろう。膳が下ると波太郎は、 熊屋嗷からひそかに出雲へ落ちてゆくときの泣きしおれ 「小川氏を寝所へ 」於俊を招いて軽く命じた。 た於国の姿。 「そなた、お伽をするがよい」 於俊はその頃から心の弦をぬきとられた。んでいた太 い苧繩が消えうせて、縋るもののない懐疑であった。主君 於俊の耳朶がポーツと一時に赧くなった。 とは何であろうか ? 男とは ? 女とは ? そうした於俊を、波太郎はこの大阪屋嗷へ隔離した。他 水野家を追われた土方一族。しかも於俊は、於大が輿人の五人〈の影響を怖れたのであろう。 父の権五郎も波太郎の手蔓で御堂へ身をよせたし、もし れするときに、影の一人に選ばれたほどの娘であった。安 祥の城で織田信秀の前にひき出され、その名を問われて恐於俊に以前の雄々しさが残っていたら、波太郎の恩義はそ のまま彼女の心にとおる筈であったが、それさえ妙に信じ れげもなく、 られない。波太郎が神々を祀りながら一向専修の御堂に多 だいと申しまする」 最初に答えた於俊であった。生命があろうなどとはむろ額の寄進をするのもわからなかったし、今川方かと思えば ん思わず、あらゆる惨酷を予想して、笑われまいぞと心を織田と交り、織田方かと思えば父や信近をよくかばう。そ 緊めて来ていた於俊であった。それが信秀の手では斬られうした動きの一つ一つが解せなかった。 それにしても信近を寝所へ案内し、その伽を命じられよ ず、波太郎の手に渡された。 そして、他の五人とともにしばらく熊屋嗷で神殿のもり うとは思いもよらなかった。この大阪では、客の伽にはべ をさせられているうちに、だんだん於俊の張りつめた心はる女の用意があった。もし波太郎が、そうした女に信近の 160

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波太郎はグギを打っ眼つきでいって、以前の座敷へ歩き 於大が杯をおくと、 「では : : 」と波太郎がうながした。 於大はぎくりと胸にこたえるものがあった。この家のあ 「鷹野に参ったらまた会おう」 るじ波太郎は、言外に於大の再縁をすすめているのではな 於大が丁寧に一礼して立上ってから吉法師はまた声を投かろうか。 やがて織田吉法師と松平竹千代の時代がくるであろう。 「こんどは幸若を舞ってみせるぞ。そなたも何か覚えておこの二人もまた祖父や父と同じように、宿命の子として戦 場で会わねばならぬのであろうか。 廊下へ出ると波太郎は於大を振返って、 「応仁この方、諸国に戦乱がつづきすぎたと思われませぬ 「あの和子をどう思われまする」 カな」 「濶達な」 以前の座敷へもどると波太郎は、手を鳴らして茶湯をは 1 2 「ただそれだけでござろうか」 こばせ、 「眼の光に並々ならぬ : : : 」 「越後の上杉、甲斐の武田、相模の北条、駿河の今川 言いかけると波太郎は微笑して、 じっと障子の陽射しを見やって指をくった。 「岡崎の和子のよい竸い相手 : : : とお思いになられぬか 「みな京をめざして動いている : : : ということは、戦にう んだ庶民の心を察し、天下の統一を考えだしている証拠と 於大の心をのぞくように言った。 わしはみているが、いずれも都には遠すぎる : : : 」 於大は全身を固くして、これも視線を庭の陽射しに投じ ていた。 於大もあいまいに微笑を返して、 「もし、藤九郎信近さまこの世にあらば、何と仰せられる 「竹千代はまだ三歳でござりまする」 か。松平家と今川家は永劫に離れられぬといまだに考えて 「それゆえ将来を思い計るが大切と : : : 」 おわすかどうか」

10. 徳川家康 1

る。もしこの狂女の胎に、得態の知れない生命がひとっ芽それは意外にも熊屋敷の当主で、於国の兄の波太郎であ 生えかけているのでなかったら : : : その生命もまたこうし たきっかけから宿ったのではあるまいかという想像がなか波太郎はまだ前髪をおとしていなかった。以前と同じ ったら : : というより、むしろ一層華美な羽織姿で、太刀のさき その翌朝、信近は遁れるようにして出雲を去った。そしできらりと黄金が陽をはじいた。 て広い世間には大名の悩みなどとは比較にならぬみじめな あれから三歳になる。それなのにこの男はぜんぜん年齢 苦悩のあるのを知った。 を越えている。むしろ以前よりも若々しく於国より二つ三 自らに明日を計る力さえなく、虫のように生き、虫のよっ年下の弟に見えそうだった。 うに殺されてゆく悪夢に似た庶民の生活のあることを。 「これは波太郎どのか。その後の拙者の名は小川伊織と申 その庶民を救おうと悲願して蹶起したのがこの石山御堂すが」 をひらいた蓮如上人だった。そしていまはその蓮如の孫の 信近はなっかしさがこみあげて、 光教 ( 証如上人 ) が門跡としてここから全国の信徒に政令「実は、伊織、出雲へ旅しての帰りでござる。於国どのの を下しているのだが、果してあの哀れな庶民の苦悩を救うご消息をご存じか」 力が、光教にあるのだろうか ? 考えながら頑丈なやぐら 思わず声がふるえてゆくと、波太郎はゆっくりと首をふ つ ) 0 門を出ようとしてまた信近は呼びとめられた。 「存じている。存じているゆえ話されな」 五 気がつくと波太郎は一人ではなかった。彼のうしろに は、どこかで見覚えのある娘がひとり、紫の包みをささげ 「藤九どの」 流れる人の中から、またわが名を呼ばれてハッと笠に手るようにして従っている。波太郎の侍女に見えた。 をかけると、 信近の視線がその娘にむかうと波太郎はかすかに微笑し 「おお、やつばりそうじゃ。、、、、・ 藤九どのは亡くなられたて、 筈、名は何と申される ? 」 「覚えがあるなどとは言わぬこと。これはもと刈谷の家 もんぜき っ一 ) 0 248