「今朝早く茶屋が参っての」 「さよ、つで、こギ、いまするか」 「そこで、わしが : 言いかけ、家康は田 5 い出したように、 : 日本の公方であるわしが、紅毛人で 「どうじゃ、三浦安針に会って何そ話したか」 ある安針を側近く寵愛してあるとなると、仲々もって南蛮 「はい、上様のご恩に深く感じて居りますようで」 人が納まらぬ。つまり日本国は紅毛人の味方 : : : そう思い 「実はの、茶屋めが、ここはいちばん、安針を使うところ込むと、日本船が海へ乗り出したおりに至るところで不利 だと申すのじゃ」 を蒙る。そこで三浦安針を、南蛮人の出先本拠である、 「あの、キカガグとか申す、学問のことでござりまするフィリッビンのルソン太守のもとに使者に出せと、こう申 力」 すのじゃ」 「いや、そうではない」 光悦はかすかに頭を振りながら眼をしばたたいた。あの 家康は笑いながら手を振った。 若い茶屋清次が進言したという事の意味がわかったようで 「つまり、これから世界と自由に交易を致すには、色がつわからなかったからである。 いては拙いと申すのだ」 : つまり、紅毛人である安針を、南蛮人の本拠に 「色が : と仰せられますと」 乗り込ませて、日本国は何れの味方でもない。又、三浦安 、。無色なの そちにも色とだけではわかるまい。実は南蛮針も、決して南蛮方に異心を抱くものでもなしイ . ッパは二つ 人をみな一つと思うてはならぬのじゃ。ヨーロ だからどんどん親密に交易をやろうではないかと、こちら に割れている。イスパニヤ、ポルトガルの旧勢力は南蛮 からすすんで使者に出してやれ : : : と、こう申す。どう 人。イゲレス、オランダの新興勢力は紅毛人と、二つにわじゃ、茶屋めも、仲々味な思案を立てたしたであろうが」 けて考えねばならぬらしいそ」 「なるほど」と、光院はまだ小首を傾げたまま、 「なるほど、南蛮人に紅毛人」 「すると、日本国はどちらの色でもない、無色なのだとい 「ところが、わしが眼にかけて使うて来た三浦安針はイゲう証明になりますわけで」 れつき レス生まれでオランダ船に乗って来た歴とした紅毛人「そうじゃ。それで安針にこの儀、相談しようと思って呼 んたのじゃ」 338
この場合の南蛮人というのは、イスパニヤやポルトガル 「それは迂闊千万な」 人のことであり、紅毛人というのは、イギリス人やオラン蕉庵は半ば怒っているような作り顔で頷いた。 ダ人の事であった。その新旧両勢力の争いが、日本まで持 「先代の茶屋どのと将軍家の間柄はどうであったそ。ただ ち込まれることの有無を間いかけているのだ。 ご愛顧を蒙ったというような間柄ではあるまい。太閤に召 正直に言って、彼はまだそこまで空想を飛躍させたことされて初めて上洛したおりに、将軍家はそなたの家へ草鞋 十 ( よ、つこ 0 を脱がれた : : という事は、そなたの父御が、或る意味で 「ござりませぬ : : : しかし、そのような怖れが近い将来には、最も大切な、得難い協力者であったということじゃ」 、こトり三よしよ、フか」 「その儀は、両親にも、よく伺うて居りまする」 「必ずある ! 」 「そうであろう。その茶屋が、将軍家から海外乗り出しの あっせん 老人は声音まで若返らせてハッキリと言いきった。 ご朱印船の斡旋を蒙りながら、こんどは世界の動きに眼が 「豊臣だの徳川だのと申している時代ではない。わが方の屈かず、ご協力も申し上げ得なかったとなれば、その方た ご朱印船の数が三百艘にもなるという事は彼等、南蛮人やちは、父御に遙かに劣る不肖の伜どもじゃぞ」 紅毛人の船の数も無数になり、彼我の船が洋上で絶えす行「恐れ人りました」 き違うようになるということじゃ。そうなると彼等の手で「そうわかればよい。格別責めるのではない。 しかし、一 分け取りしようとされることもあれば、或いは両者が手を蛮人と紅毛人のせり合い・ : これは充分に心して、おぬし 結んで、わが国へ攻め寄せて来ぬものでもない、麒麟児ど達が、落度なくその動きを将軍家のお耳に人れておかねば のはそうした場合に何とする気じゃ」 相成らぬ」 「、い得ました」 「わしがいま、いちばん心配になって来たのはその事よ。 又四郎はあっさりと兜をぬいだ。 南蛮、紅毛両者の争いで、もし一方が豊臣方、一方が徳川 「申しわけござりませぬ。未熟者とて、まだそこまでは考方 : : : などとなるとこれは俄然間題が大きくなる。いや、 えてござりませぬ」 そうなると豊臣たけではない。外の勢力と結んだものが、
あかし のであったかの証にするのでございます」 やつばり清次はまだ子供だと : : なんといった。絵に残して : : : ? 」 しかし、光悦はそうは思わなかった。これはいかにも こんども又、長安の考えてもみなかったことらしく、あ若々しい、大切な執念のような気がする。 わてて彼は訊き直した。 人間はみな老いて死んでゆくのだが、たったひとつ、年 「はい。絵に写させてあれば新しくやって来る南蛮人に も取らねば老いもしないで残ってゆくものが世にあった。 も、そして後世の人々にも見せられます。実はそれでおじ ( 絵もまたその一つではなかったか : 様にご相談 : : いや、お願いにあがったのでございます」 「おじ様は世間がひろい。たとえば都の内にも見当たらな 光悦はハッとしてわれに返った。 んでも、日本国がはじめて平の御世になった。そのよろ 「その祭りのさまを、絵にしておくのか」 こびを描き残してみたいという、私のこころのわかる人 「はいところが、こうした写し絵の描ける絵師が見当り が、どこかに一人や二人は居らぬものかどうか : : : お心当 ません。みな決った画題を持つ人ばかり : しえ、一人たりはござりませぬか」 や二人の人物や花鳥を写すのではありません。上京、中 九 京、下京の各組竸っての出しものから、それを見物する幾 千、幾万の人々まで、如実に描いて呉れる絵師 : : : そうそ光礎は、とっさに返事が出米なかった。 パテレンも見て居れば、黒奴も見物に参りましよう。 清次の求めるような絵師が居るかどうかということより それまでそっくりそのまま写し取って呉れる絵師 : : : そのも、清次と自分の世代のひらきの大きさに驚かされてポー ッとしてしまよった。 ような人はどこかに居らぬものかどうか。居らぬとして も、頼めば描こうとする人が : : : 」 大久保長安は、太閤の七回忌に豊国祭の企図が無ければ 長安は、首をふりながら菓子をとりあげてしまってい ならない筈たと光悦を責めに来た。ところが若い茶屋清次 る。彼は或いは、ここで清次の若い夢にサジを投げたのか は、そんな計画はとうに立てて、家康の許しを得ていたばか も知れない。 りか、そのお祭りを後代にまで宣伝する気になっている。 「ーー・お祭りを絵に描いて残したい」 いや、彼のほんとうの狙いは後代というよりも、これか 312
ならぬぞ、まるで私と智恵を竸うようなことを仰せられま した。しかし、余の儀とは違い、 この点たけは私も上様に 「ほう、九絏船を、二十倍の百八十絏にふやせと : : : 」 は負けられませぬ」 高台院も救われたように合槌を打った。 「これはこれは気負うたものじゃ。こなたもどうやら太閤 肚の中では茶屋清次の育ちのあ 0 ばれさに、手を合わせ殿下に似ているところがあるような」 たいほどの感動を味いながら : 「恐れ人りました。でも人間には、一つ位は誰にも負けな 向う十年間に二十倍にせよと : : : そこで私も負け いところが欲しゅ、フ、こギ、ります」 ずにいってやりました。上様が国内に戦さえ無くして下さ 「ほんにの、一つだけはなければならぬ。わらわも男であ れば、誓って三十倍四十倍にもしてみせましようと」 ったら、こなたに一つ大船を作らせて、西方浄土のその又 「ホホ : : : それは勇ましい法螺の吹きようじゃ。して、将先まで漕ぎ出してみたいのだが : 軍家は何と応じなされたぞ」 つい誘い込まれてそういって、ハッとしたように高台院 「小癪な奴め、戦など、もう無、。 イ . しこれからあるのは、せはロを噤んだ。 いぜい大名の家中のお家騒動位のものであろう。余計な心 茶屋清次の晴れ晴れとした眼が、もうその時には於みつ 配をせすと、世界の海に乗り出してゆけ。イゲレスにもオの上に移されていたからだった。 ランダにも負けるでないそと仰せられました」 「於みつどの」 イゲレス : : : と、何とか申したの。それは何のこ と、清次は同じ口調で呼びかけた。 「、 0 ーしヨーロッパの新しい国々の名でござりまする。今 「お聞きの通りでの、わしは暫く都を離れて、船造りに没 までの南蛮人というは、イスパニヤ人やポルトガル人のこ頭してゆかねばならぬ」 と、上様は誰にお聞きなされたのか、それらはもう没落し 「お好きな道に没頭出来る : : : お羨しゅう存じまする」 てゆく古い国じゃ。これからは南蛮人よりも紅毛人 : : : つ「許して呉れたの、こなたはわしを」 まり、イゲレス人やオランダ人の動きをよう見てあらねば それは於みつにとっても高台院にとっても、そして光悦 300
: 叱っているのではない。大抵家を潰すものは、 「わしはその方のような人物を、かって一度使うてみたこ 家臣と思うて汕断するのじゃ。よいか、十人の家臣のう とがある」 ち、一人二人が、主人を侮りだしたら、それは亡家の風が 「それは、何と申すお方でござりましよう」 凄じい勢いで吹きだしたものと思わねば相成らぬ」 「領民が竹のこぎりで首を斬ったわ、大賀弥四郎という者 し」 「これが三人となり、五人となったら、もはや誰も支えき すばりといわれて、正信も忠隣も、びくりと肩を波打た れるものではない。その意味からも、つねにはじめの、一せた。 人、二人に侮られぬ精進が肝要なのじゃ。言葉ではない。 使うと決った者に、何うして又弥四郎の名などを聞かせ 眼で睨むのでもない。喰うか喰われるかが人間世界の実相る必要があるのだろうか : と、しつかり腹に刻み込み、侮られぬだけ、きびしくわが 大賀弥四郎は、岡崎以来の家康の家臣の中で、ただ一 身を磨ぎすましておかねばならぬのじゃ」 家康に叛旗をひるがえして、極刑に処された大奸物ではな そういうと家康はまた、 ー刀子 / 、刀・ 「十兵衛 ! 」 と思った瞬間に家康は、更に忠隣の血の気を奪うような ことをいった。 両手を突いて、爛々とした眼で見上げている十兵衛長安 ~ 鋭い声を投げかけた。 「その者は忠隣、やはり大久保家、つまりその方の父忠世 の推挙であった」 九 : さよ、つに、承っては居りまするが」 家康に呼びかけられて、今度は十兵衛は、ひびきのもの 「そうじゃ。そちは知らぬことじゃ。その者は見どころが に応するような気合いで答えた。 あったゆえ、足軽から郡代にまでのばせた。すると、思い 「十、ツ あがってわしに叛いた」 「その方は、この家康と勝負が出来るかツ」 本多正信はギラリと十兵衛長安を見やった。おどろいた 「キ、ツ ことに十兵衛は爛々と眼を光らせたまま身をのり出してい
「そこが手柄じゃ。律義な大納言にしてはこの枠は越しが たかったに違いない離別した者の子を加えることはのう : しかし、ここが大切なところじゃ。夫婦仲はどうあろ 家康としては、おそらく今夜は、何も彼も忘れて好々爺 ぶりを示している気に違いない うと、女子にとって子はど可愛いいものはない。その一人 それで無ければ、酒盃を手にしたくだけた座で、このよを連れて来させる : : : それでお福は、心底から喜んで仕え うな大事を語ることなど曾って無かった。 てゆけるのじゃ。人間は、喜ばして使わねば決して全力は しかし、それでいて、一つ一つがみな何程かの「治世」出さぬものよ」 の問題につながりを持ってゆく 家康はそう言ってから、 三七夜の祝いに招く人々の人選が済んでゆくと、いよい 「お福には、何人子があると申したかの」 よ家康は上機嫌で小姓選びにかかっていった。 と、勝重にたすねた 「江戸の上様から、申越されてござりまするのは、永井ど 「はい。たしか、男の子ばかり三人 : : : と、申していたか のご三男の熊之助どの」 に記慮致して居りまする」 正次はちらりと父の直勝を見やりながら、 「男の子三人 : ・ : それでも亭主が気に人らぬか。 「次に水野市正義忠どのご二男の清吉郎どの、それに福子気の勝った女子よ。何れ忠勤次第であとの二人も取立てつ どのの子 : : : つまり、稲葉佐渡守正成が三男の千熊どのかわす : : : 正次、大納言にそう言わせるのじゃな」 「よッ 「なに、お福が子も入れてあるか。それは近ごろ、大納一言 「して、その他は ? 」 としては大分別じゃ」 「今のところこの三人にござりまする」 「ほう、これはおどろきました」 「それは少い ! みどり子の、何もわからぬうちから小姓 であった : と、板倉勝重も意外そうに口をはさんだ。 : となればそこに湧く情は違うそ。三人ではな 「福子どのは、佐渡守とはウマが合わず、たしか離別したらぬ。そうじゃ。確か、大納言の乳母であった大姥の局の と申して居りましたが」 兄弟、岡部庄左衛門に年頃の末子がある筈じゃ。そうそう おおうば 272
うず 思った時に、長安は何か、やりきれないほどの肉体の疼き を覚えた。 小判一枚 大久保長安は、咽喉が大きく鳴りそうだった。四人で担 たたそれなけで、人間が人間を殺したり生かしたりして ぐ足どりから察して、軽くみても四十貫は超えている いるというのに、ここには又、何という大それた量の黄金 ( いったいこれは分銅幾つ宛を組合せてあるのであろうが死蔵されているのであろうか 曾って太閤が、伏見城の天守の瓦を金箔で飾ったおり、 且元に手招かれて人夫は、ゆっくりと呼吸を合せてそのたたの手猿楽に過ぎなかった長安は、 一つを長安の前におろして汗を拭いた あのパチ当りめが、黄金を何と思うていくさるのか」 気がつくと、この黄金の通路には人ッ子一人近づけてい 市井人の中で、その思い上った豪奢ふりに、悪罵を投げ よ、つこ 0 たものであった。 「よし、向うをむいて休んで居れ」 ところが、それはどうやら貧乏人のケチ臭い考え方であ ったらし 且元は人夫に言って、小腰をかがめて、自分でコモを開 い。これほど沢山にある黄金ならば、一匁で何坪 いていった。 にものばせる箔などにはせすとも、黄金のコパで葺いても よかったよ、つに田える 長安はもう一度片唾をのんた。サッとあたりが明るくな った。眼を射るような山吹いろの鈍金の肌がむき出された ( 案外太閤もケチなお人だったのかも知れない : のだ : 「ご覧なされたか。もう、包ませまするそ」 幾つも組合せてあるのではない。四人で運ぶ重量の、そ「は : れが分銅一個なのではなかったか : 言ってから、あわてて長安はたすねた。 ・一個、どれほどの、こロ重目で、こギ、り 長安はあわてて眼をあげて、黙々と運んでいる列を見「これは、い た。四組や十組ではない、すっと列をなして運んでいるのましよう」 が、みな眼の前に剥き出された黄金と、同じ黄金なのだと 「四十一貫匁すっと承ってござる」 その人夫の一組を且元は手招いた : 168
門 に必 石て伊ん輸割 だ彼 はす長す 千は いは本千 が二如あ の 石、し と 百何 親中 わ傾 ま利て住 イ固で し でお に人 く な で知 っ た を太 曳し、 いな の埋 に千 司樽 は石こ重 甚屋 頭と チ度 右藤 こ人 衛衛 んな 門右 随百そ築お繁 の門 分人 い いな の致 十カ も万 つ た奈 ま運 甚屋 百は 内市 フ相 う石 み人 そ手 が右 が物 でそ ど衛 、た 橋本 をゆ 彼 軒ん 能間 江 吏の ば御 いろ 尸 活て る嬉れ代 い五 の知 、大得て 町 い謳 な次 と て長場は も 安合 イ可つ 征 が治 カリた 夷 橋本 い両 軍 と な江 を事 も う人 片戸 いな 考ろ 自 の放 、寄 な通 、面 の 才 能 た伊 の果 や る百 兵れ 亠仕 生 事て 活 に対 は 市 歩 き 市 。酉 d の だ の が よ 力、 も れ す る と を よ く っ て た の 両 い面わ の 用 が い第代 身 に し、 来 て と つ た 方 だ わ る と 差 出 ロ に り 五う 月る 虫黽さ が ら れ た ま れ た と い れ い の 水 いれ っ間た の 宙 ま れ だ浪手 い活楽生 だ ら な い い た や た持久 っ 生 ま と フ よ り一 生猿て で十ま ' 衛て こ耳安 を け る よ っ な と を フ と っ も と が イ呆 は そ の 面 を 丑 、持 は 丿と し て 同 じ と を は わ か た 吏 で は あ り な い 、多家 い ま た が 官 僚 正攵 で 。は あ り 得 す 正攵 治 家 は ま た を ば せ る す お に M. つ と 存 人 し物す と カ : あ る も だ っ た ギ り ま し フ 、石 と し し て じ大 ぐ 六 ま の世物 の あ り と 関 連 せ て る 政 家 の た り に 石、 場 ょ見閤 つ 。け る十諸坂 に れ を 役致別お石 に ば せ 、ま し く の の人は と 。方事け に も 視オ 六野仕 ひ ぇげ帳 自 治分仕 と 要 り し よ フ の と万侯城れ町な を た り の よ に 人 中 に し、 し、 ら れ を 几 に し 送 便 ざ ま す る そ に い城昌 垣 に も を に通人 し ど よ っ に が し ま し て も の 田工 の も フ と市次 . は 地 に り ま す る の で 適 当 な 掘 十 あ な ど と て わ せ た り 亡 れ か っ な そ で ク ) お り な と っ て た そ な し ら 教せす し、 つ た り そ 町 り に 。勢 屋 が で か軽多 。す る と っ た ば い石長 で 。はれ と て ま 正 ぎ信 ふ と し た と が あ つ た 安 平 の を し て け と し、 の で 新 大 橋オ は 本て に と フ と い か の い や あ お ど ろ き ま し 中 の 々 が て か つ れ康 な も 気 が そ れ で い て に の の ロ し し、 て ぐ さ か 、人 な ん 知家 かす と て見 を も潮 の重 役慎 賦ず ら そ依 は何 の し、 て男 つ な 翁の き 大 し、 と ぬ オこ み た十も つ女物 て し の る め で 中 の 委攵 人 の fiE 204
彼はぐっと姿勢を正すと、 、まにも飛びつきそうな眼に なって、じっと家康を見つめたのち、 「キ从キツ 正信も忠隣も自 5 を詰めた。 関ヶ原の戦場をはなれてから、家康がこのようにきびし といって平伏した。 い声で接した相手は他になかった。 「相わかったか」 ( 何が家康の癇にさわったのか : 「相わかってござりまする。上様の日常のお覚悟 : : : 恐れ やはり十兵衛長安が、素直に仕官を喜ばなかったこと入ってござりまする」 「そうか。わかればよい。そちが、仕官せよといわれて、 「小癪な奴 ! 」 がっかりした様子を見たゆえ、活を人れてやったのじゃ。 と、目に映ったのではあるまいか 人間はの、小兎を打つにも全力を尽して打っという獅子の と一」カに そういえば確かに十兵衛の挙動は奇怪だった。。 心を忘れがちのものじゃ」 増上慢の感じはある。一々生きている人を指さずに「日蓮「ははツ 大聖人ーー」を持ち出すなどは、常識を逸脱した奇行と評「ところが、それを忘れてあ 0 ては、一日たりとも主人の されても仕方があるまい 座には居耐えぬもの : : : 何万人、何十万人の家臣があろう それに若いころ家康は、自領内の一向一揆で、手を焼い と、その一人々々とつねに喰うか喰われるかの対決じゃ。 たことがあるのだ。 わしの方に少しの隙でもあってみよ、それだけすぐその者 それにしても、家康の口から、「ー - ーー喰うか喰われるかの信を失い、侮りを受くるのじゃ」 じゃ」とは何という思いがけない言葉であったろう。相手もう家康は十兵衛だけにいっているのではなかった。十 ーたかが、一介の猿楽師であり山師にすぎないのではない 兵衛よりもむしろ舞こ、、 . ドーししきかせているらしかった。 「仰せの通り : : と、存じまする」 ところがこの一喝で、不意にまた十兵衛長安の表情は活「と、たやすく申すな忠隣」 よみがえ 「よッ き活きと生気を甦らせた。 7
「それはそれは」 思い ~ 旦したよ、つに於みつは一一「ロった。 「実はお祖父さまは、ようやくお休みなされたところゅ え、明朝、がっかりせぬようお伝え申しまする」 「では、何分とも : 坂田屋の告げの者が去ってゆくと、あとはしみ人るよう 「一寸お待ち下され。先程、こなたは何か二人の間に約東な静寂だった。 があったとか言われましたなあ」 燭台の丁子がのびて、次第に室内が暗くなると、於みつ 「よ : : はい。何でもご縁談の橋渡しを頼まれていたとか は、はじめて又四郎を促して二人で遺骸を寝せ直し遺品を 片寸けこ。 「ほ、つ、お祖父さまにの」 まだ死人としてではなく、夜が明けるまでは病人として 「はい。お嬢さまの事ではござりますまいか。相手は京のそのまま寝かせておくのである。 茶屋のご二男さま : : : その話の橋渡しだけして死ぬように 寝せおわると、於みつは起って一つ一つ燭台の灯を消し : そう言われて、お引き受けしてあった : : : それを果さていった。枕辺に一基、足許に一基、 : それだけの灯り ず死んでいったら、先ず詫びて呉れるようにと常々おっ になると、蕉庵の死骸は何となく安らいだ寝顔に見えてゆ しやってで ) こぎ、り・寺 ( した」 於みつは又四郎の方へ顔をあげ得なかった。 「おじ様のことじゃ、葬礼その他、みなこまかくお指図が それが自分たちの事とは知らず、わざわざ訊き返してしござりましたろう」 まったのオ 又四郎が沈黙に耐えきれなくなって声をかけると、於み つは、眼でそうたと答えた。 又四郎の方はしかし、その時にはもう手代の言葉をよく 聞いていなかった。 於みつもまた、覚悟の上とは言いながら湧き立っ感情に 二人の老人の最後の言葉が同じであったということは、翻弄されて、ひどくとまどっている様子であった。 二人とも方広寺が焼けはすまいかと、一つのことを案じて そうなると又四郎は、又としても、二人の老人が最後に 、 4 ) 0 いた証拠では : : ? と、その事に思いを凝らしだしてい 100