伊達 - みる会図書館


検索対象: 徳川家康 14
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1. 徳川家康 14

々子 / というよりも、太閤さえが油断のならぬ男と警戒してい しかし、考えてみると、・謹直ゆえにそれも出来ない。今た伊達政宗が、何でそのような女子の進物などをソテロか そばめ は於一」、つは、とにか / 、 大久保長安の側女なのだ。 ら受け取ったのであろうか : 「ホホ : ・・ : 」と、於こ、つは、よいことにしてまた夭った。 「世間では伊達さまが無理に女子を所望したと噂していま どうやら久しぶりに都へ出て来て、ひどくはしゃいでいす。そうそう、伊達さまはその女子に付けて、パンという る感じであった。 を貰うそうな。いや、。ハンが欲しゅうて女子を貰うた : 「日本中の大名衆で南蛮人の女子を側女にしたは伊達さまそういう噂もあるそうな」 「なに、その、 ばかり、それで色好みの過ぎたお人を伊達者と近ごろ言い ハンとは何ものじゃ」 ますそうな」 「人の名ではござりませぬ。一度焼きあげるとすえること 「そんな話か、そなたの聞いたのは」 のない食糧 : : : 戦や狩にはもって来いの兵糧になるのじゃ 「こんな珍しい話は他所では聞けまい。なんでもな、ご寵そうな」 愛がないとその女子、すぐさま病になるのじゃそうな。そ「すると、それが欲しゅうて、女子を貰うたと申すのか」 うなると、深夜でも小者を飛ばして浅草の病院まで南蛮人「その女子衆が、。 , 、 、 / の製法を知っていたのであろうか。 の医者を呼ばせにやらねばならぬ。南蛮人の女子の癪には とにかく伊達さまは欲張りのパンパンじゃと、私の殿が笑 日本の医薬は効かぬそうな」 うて居られた」 「そのようなことを、大久保どのが申したのか」 光悦は、その欲張りが気がかりだった。 「申さいでか。殿は何でもわらわにはかくしはせぬ。それ 角倉与市にしても茶屋四郎次郎にしても、若さがそのま で伊達さまも扱いかねて、長安どの、貰うて呉れぬかと言ま欲張りに通じてゆく。或る意味ではこれが進歩のもとな われたそうな」 のだが、相手に何か企みがある場合には、そのまま陥罠に 光悦は、ふたたび宙を睨みだした。 もなりかねない。 この他愛のない話の裏にも、ソテロと政宗の接近が感じ ( ソテロは喰わせものらしい られる。 と言って、これも喰うか喰われるかの相手があっての企 ノ 44

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いいえ、伊達さまに」 感がした。 「冗談いうな。化かして来たのはわしの方だ。毎しろわし おそらく長安は、家康がウィリアム・アダムスの三浦安 ッパの智識をむさばるように身につは、これから姫をお預かり申すという有利な位地に身がお 針を近づけて、ヨーロ けようとしている事実を踏まえて、伊達政宗を煽って来たける。同じ神通力なら、わしの方がぐっと条件がよいのだ そ」 のに違いない。 どこまでも得意そうに高声で話しつづける長安を見る 「ーー将軍家がイゲレス人で来るなら、陸奥守さまはイス パニヤで行くがよい。そして双方の智恵をそっくり頂いてと、於こうは、思い詰めた顔になって何かいおうとして、 あわててふっと口をつぐんだ。 日本の雄飛を考えなさるがお国のため : : : 」 そんなことをいいながら、その双方の収穫を、自分で利何時か周囲の妓たちが、聞耳立てているからだった。 用する気になっている。 五 それなればこそ、うつかり最初に、 「ーー・・伊達陸奥守が、わしの計略にコロリと乗ったわ」 女の感情は微妙であった。 そんな言葉が得意そうに口を衝いたのに違いないのだ。 すぐさっきまで、於こ、フは 、、かにも得意そうに自分の しかしこれは危い火遊びだった。 智恵を誇っている長安を、手きびしくやりこめてやる気で 従兄の本阿弥光悦もよくいっていた。伊達政宗は、並みあった。 の謀将ではないのだそと : ところが、長安が自分の力もよく計らす、伊達政宗に揶 したがって、長安が油断して近づきすぎると、その毒気揄の手をのばしていると知ると、急に考えが変わって来 にあてられて、ぬきさしならない罠におとし人れられそう な気がしてならない。 ( 二人の勝負では長安は叶うまい : 、ヒかされている : ・・ : とは 「旦那・さま、旦那・さまは、も、つ そう思うと、長安がいじらしくなり、かばってやらねば ならない気になった。 お気付きなされませぬか」 ( この人は、虎のあぎとを弄んでいる : : : ) 「なにわしが : : ソテロにか」 5

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丹じゃ。それ等は万一大御所さまが紅毛人に味方するとわさまをお味方にした方が、天下の主になれること、掌をさ かったおりには、大坂に立て籠って、これを倒すつもりなすように ( ッキリとしてくるのじゃ。その上総さまを生か のじゃ」 すも殺すも出来るは殿じゃ。殿はいま、日本の天下ばかり か、南蛮か紅毛かという、世界の鍵まで握ってある。その 「いいえ、それでもまだ大坂方に勝ち味はない。そこで、 お方が、何も知らずにこのような他愛なさで酒と女子にた 西国の切支丹大名だけではなく、伊達さまも、そして、殿わむれる : : : 仮に伊達さまが、大久保長安のことは予が引 も : : : みな味方にしようとして、あらゆる誘い手をのべてき受けた : : こ、つ一一一口いふらしたら何となさるのじゃ」 いるのじゃそえ」 長安は、次第に躯が堅くなった。夜明けの空気の冷えの 長安は、思わず息を詰めていった。 ためばかりではなかった。 そんな動きのあることなど先刻承知の長安だったが、そ そう言えば、案外彼は彼の考えている以上に、大きな齣 れにしても、於こうがどこでこのようなことを耳にして来風の中心に押し出されているのかも知れなかった。 たのであろうか : 大坂の秀頼に、伊達、前田の二雄藩が加わると、もとも ( これはおかしな事になったそ : : : ) と徳川家に強い反感を抱いている中国の毛利、九州の島津 於こうは、相手が黙っているので、いよいよ舌に油をの : いや、それに将軍の舎弟が加わるとなったらどうなる せて勢い付いた。 のか : 「いま南蛮方で狙うているのはな、第一が大坂城の御ある長安は、しつかりと眼をつむった。 じ、第二が伊達さま : いや、これは加賀さまかも知れ 五 ぬ。あの高山右近どのや内藤如安どのをかくもうている前 田利長さまは、とうに南蛮のお味方になっているやも知れ 於こうの言葉には幾つかの誤りと、幾つかの独断がふく まれている。 ぬ。それに、第四番目が殿 : : : そうであろうが、大御所さ まは、仮に紅毛人にお味方なさらなくとももはやご老体、 例えば、新教国側のイギリスやオランダが三浦安針をわ さすれば今の将軍家の御弟君で、伊達さまの御婿君、上総 ざわざ家康の側近に送りこんだなどというのは應測もはな 172

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いや、それだけではない。その秀頼は、将軍秀忠の婿で消 された諸家の浪人どもは、われ先にと大坂城へ駆けつけ もあるのだ : ・ : とすれば、伊達政宗や大久保長安が、先するであろう : まっ先にここへ働きかけようとするのは陽を見るよりも明 と、考えて来て、直次ははげしく自分の空想を打ち消し らかだった。 関ヶ原のおりには、家康という鬱然とした巨人があっ すべては、於こうの性格から出た、勝気な女らしい妬心 て、外様の大々名たちに冷静な実力比較の計算を強いるこ になる、妙な訴えを起点にしている妄想ではなかった、 とが出来たが、 秀忠に家康ほどの実力を期待出来るかどう ( それにしても、いやな妄想だ : : : ) 一方に伊達政宗あり、豊臣秀頼あり、更に将軍家の舎彼はあわてて起ちあがって松の枝から、馬の手綱をとっ 弟、松平忠輝ありと知ったら、外様大名たちの計算は、関た。 次第に海も空も明るく晴れて、もう家康の行列が、すぐ ヶ原のおりとは全く逆目に出るのではなかろうか : 間近に来かかっている気配 : : : 直次は、はげしく首を振っ 3 いや、もし逆目が出るとすれば、それは家康が亡くなっ ている : : : という事実が一番大きな原因になるのだが : て馬にひと鞭くれていった。 ( そうだ ! 関ヶ原のおりと裏と表の関係になるだろう : あのおりには、伊達政宗が、どこまでも家康に密着して 緑の小箱 いたので、上杉勢は手も足も出なかったのだ。 それが今度は逆になる。それに西国の諸大名の中には毛 利、島津などのように表面はとにかく、内、いでは「今にみ 伊達政宗は、家康が江戸へ出て来ると、殆んど毎日のよ ろー、ーー」と闘志をおさえて機をうかがう者も決して少ない 数ではない。 うに登城していって、よく二人きりで雑談を交した。 ( 仮にそうした企みがあると知ったら、関ヶ原のおりに取雑談だけではなく、本所方面への鷹狩りにも、小石川伝

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「兄様のおっしやることが、わかりかけたような気がす光悦との間の大切な話がまだ済んではいない。話によっ ちもり ては於こうは、堺の乳守の宮あたりで遊んでいると思われ 「わしはな於こう、第三のまだ地上に見えぬこの芽を育てる、大久保長安の許へゆかねばならなくなるかも知れな ていってしまうと、第一、第二の原因は、すぐさまこれに からんで、取り返しのつかないものになりそうな気がする 「おやおや、話はやはりもつれ話だったのかい」 のだ」 妙秀は、苦笑して姿を消してしまった。 そこへ撒水を終わった妙秀が手桶をさげてやって来た。 「兄様、すると兄様は、於こうに、殿を監視せよというの じゃなあ」 臣第はスー : というと角が立つ。が、日本国が再び戦乱の底 「今日はまた何としたことじゃ。ロいさかいもせず、何やに埋められてしもうては、みんなの暮らしが滅茶滅茶にな ってゆくのじゃ」 ら話がはずんでいるようではないか」 「それはいわれるまでもない。戦は男衆より女子衆の敵 妙秀は、それでも嬉しそうであった。 : でも殿に限って、伊達さまなどに利用されるようなお 光悦とウマは合わないといっても、於こうは妙秀にとっ 方では : ては肉親の妊なのだ。 不用さ 「どうやら佐渡ヶ島とやらの風は、於こうの気性に向くと光悦は、それもよく知っている。大久保長安は、ー 也れるよりも、つねに利用してゆく型の人物なのだ。その意 見える。久しぶりに見えたのじゃ。好物の蒸しものでも丐 味では、彼も決して伊達政宗に劣る人物ではない。 七儿しよしよ、つかの」 が、間題はそこにある。こうした強烈な性格をもった二 いいながら井戸端へ行きかけて、又二、三歩戻って来 人が、互いに利用し利用されるのが、二人の利益の合致点 どんな形をとるであろうか ・と田 5 、フた時こよ、、 「於こうは今夜、本家へ泊まるかの、それともわが家へ泊 「於こう、わしがおそれるのはな、大久保どのは、伊達ど まるかの」 のと結ふが利益、伊達どのも又大久保どのを利用したがわ しかし於こうは答えなかった。 ノ 48

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「というと、何ぞそのお方に近よる手だてでもあるといわ れるのか」 「むろん有る : : : と、はっきりは申せませぬ。手蔓は求め : と一一 = ロ、つ て作るべきもの : : : と考えれば無いこともない : ところで」 光悦は、何かしらドキンと胸にこたえるものがあった。 明石掃部が、日本を切支丹教国にしようとして領民にまで「フーム。するとその方の最も懇ろにして居られる大名 それを押しつけ、ついに太閤を怒らせてしまった高山右近は ? 」 「舅御が、伊達政宗にござりまする」 と四条の川風になぶられながら出遭っている。 これは決して偶然とは考えられない。明石掃部もまた熱「なに、伊達どののご息女が : 「そして、最初この縁談の口利きをなされましたのは、等 心な切支丹信者で、淀の方も秀頼もごっそり信者にしよう 伯さまご懇意の堺の宗薫にござりまする」 として機会を狙っている人物なのだ。 もう一度高山右近は、低くうなった。 ( これは掃部が右近太夫をわざわざ加賀から呼び出したの 「それで、江戸に博愛病院を作りましたソテロは、ようや かも知れない : くその伊達どのと連絡をつけましたようで : : : 」 そう思うと、二人の会話には聞き捨てならない意味が想 「なるほど」 像されてくる。 「幸いなことは、その伊達どののご息女、つまり忠輝さま 「そ、つか。忠輝とい、つ人がの、フ」 すぐうしろで本阿弥光悦が、全身を耳にして聞き人っての奥方となるべき女性が、われ等と同じ旧教の信者 : : : っ まり同士 5 にござりまする」 いるとも知らず、高山右近はまた呟いた。 「あのお方は確かいま、信濃の国 ~ ご領地を持 0 ておいで本阿弥光悦は、咽喉がカラカラに乾いて来た。あわてて 茶を口へ運びながら、 であったな」 「これは田 5 いのはかに風がある。をとっているうちにと 「はい。今は川中島 : : : しかし大半は江戸の邸にあってご ろりと眠くなってくるわ」 領内にはござりませぬ」 「あ、隣の侍は、明石掃部どのでございますよ」 角倉与市が顔を寄せて光悦にささやいた 137

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て、ひそかに船を操って来る者があったら、 三嘆願した形で許しを得た。 「ーーーおお、これこそ黄金島 ! 」 大体いまの外桜田から有楽町、八重洲町、永楽町に適宜 彼等の肝を消しとばすほどの立派な街造りをしてやろうに邸地を割り当てられたのだが、伊達政宗は、言い出した と考えている。 当人だけに、、 しささか他をはばかった構えで、加藤清正、 それがたかが一万五千や二万の侍を抱えて、いし 、気こな黒田長政などの城塞を見るような広大華麗なものに比べ っている喧嘩屋などに、手軽に扱われて引っ込んでよいもて、少なからず質素であった。 のではない。 加藤清正などは外桜田の弁慶堀と、喰違い門内 ( 紀尾井 「こうなれば陸奥守に、わしの仕事の大きさを知らさずに坂 ) の二カ所に居を構え、喰違い門内の屋敷には千畳敷の おくものか」 座嗷があり、中を上、中、下の三段に仕切って金を貼りつ 彼は手土産を整えさせると、政宗の帰邸のころを見計らけ、欄間の透しは桔梗、襖の引き手も七宝製の桔梗の花、 なげし って、日比谷御門外の伊達屋嗷へ出かけていった。 長押は三重 : : : それこそ見る者の度胆を抜かずにおかない 構えだったという : むろんこれは、自分は豊家の家臣ながら、武将として将 当時の伊達屋敷はまださほど豪華なものではなかった。軍の指揮下にあるのだが、徳川家の家臣ではないのだそと そもそも諸侯に江戸屋嗷を賜わるようにと家康に願い出いう威風を示すためのものであった。 たのは藤堂高虎と伊達政宗で、はじめ家康は、これをしり そこで、大久保長安も、実はこの大名小路の中に一カ ぞけた。 所、松平忠輝の邸地だけは確保しておいた。彼はまだそこ 卩ーー大坂表に、おのおの邸宅があるではないか、その上に普請はしていない。というのは諸侯の屋敷がみな出来上 と一一「ロ、つよ ったのを見きわめて、それ等の人々が、あっー 江戸におくのは無用の費えと思うがどうか」 むろんこれは表面どおりに受け取ってはならない家康のうな建物を、金にあかして建ててやる気でいる。 それにしても、戦後数年にして、泰平というのは何とす 遠慮であった。 そんなことは知りすぎるほど知っている二人なので、再ばらしい建物をふやしてゆくものであろうか。 3

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「ホホ : : : そんならば、双方とも面白い話を聞いていま 「、、え、おどろかしてやろうと思うて内証で」 「では、大久保どのが都に来て居るやら居らぬやら : : : 」す」 : どのような話であった 「そうか聞いたか。それは、ど : しいかけて光悦は、あわてて於こうに向き直った。さっ きから考え続けていた高山右近と明石掃部の話の先に、大なそれは」 光悦は、また急き込みそうになって、こんどもいささか 久保長安の顔が大きく浮かびあがって来たからだった。 「於こう、大久保どのはこの前、忠輝さまのお供はして来テレていった。 「そなたが訊いた話では、何れ他愛のない話であろうが」 なんだが、何そ、格別のご用でもあったのか」 「伊豆の金山でござりましよう。四月の末に佐渡は発って「ホホ : : : すると、都まで、あの話は噂になっていると見 える」 ゆきましたゆえ」 「あの話 : 「於こ、つ」 「そうじゃ。伊達さまが、大久保どのに、南蛮人の女子を 「何でしよう。そのように怖い顔をなされて」 : こなたが : : : お気に召して押しつけようとした話」 「大久保どのは、こなたが : 「なに、伊達さまが南蛮人の : : : 」 居るのか」 「それははっきり断わりましたそうな。ホホ : : : 南蛮人の 「ご推察にお任せします兄様の : : : 」 「自信があるらしいし 、や、こなたと大久保どのならばウ女子は、それはそれは大した色好み、伊達さまも、ソテロ から献上はされたものの、扱いかねたという話、でも、兄 マが合うに違いない」 い。もし南蛮女が 「そんなら、そんな怖い顔して訊かぬがよい」 様がそのような話に興味を持っとは珍し 於こうは、豊かな胸に扇をあてて、何を思い出したかグ欲しいのならば、於こうが橋渡しをしてもよいそえ」 於こうはまじめくさった表情で光悦にざれて来た。 スリと笑った。 「何がおかしいのだ。そうだ。こなた大久保どのから、伊 達陸奥守の話か、ソテロという宣教師の話か訊かなんだ 力」 謹直な光悦は、於こうの横面を張ってやりたいような気 143

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んとうに怖れたこともなければ心服した覚えもなかった。 ところがそうでは無かったらしい。大久保長安は途方も なく大きな夢を抱いて生きている。 ( 隙がないから討たないだけのことよ ) ヨーロツ。、 / へ流布されている黄金島の伝説を利用して、 今でも隙さえあれば、やって見ようという気もあったし、 世界の貿易をいっぺんに支配しようなどと : : : そんな夢を それが不善たとも悪だとも思っていない 伊達政宗の眼に隙を見せるような相手なら、何れ誰かに描いたものは、おそらく誰も無かったろう。 してやられるに違いない。誰かにしてやられる者を、伊達家康にしても政宗にしても、大きく考えて、その対象は 「天下ーー匸という日本国の支配の域を出ていなかった。 政宗が、してやってはならないという理山はない。 したがって、まだ天下を掌に握っていないだけのこと ( それなのに長安めは : : : ) いや、その長安の器量も思案も、悉皆知りぬいて使って で、自分が天下人より器量が劣るなどとは考えたこともな い政宗たった。 いるのが家康だとすれば、自分と家康の器量の差は大人と 豊太閤にせよ家康にせよ五十歩百歩。 子供のそれになる : : : それが一つ眼の龍、伊達政宗の胴震 いになる原因たった。 ( 人間の大きさなどは知れたものよ : : : ) 「フーム。なるほどの、フ」 何時もそう思っていたし、心を許した近臣にはロにも出 政宗は、もう一度同じ唸りをくり返した。 していっている政宗たったが、今日大久保長安に聞かされ た話の規模は完全に彼を圧倒した。 始めの頃には、彼は長安の器量などさほど認めてはいな そ 「なるほど、それで、そなたの夢はわかった。したが、 家康がドンドン彼を登用してゆくのを見て、家康も追従の話、地道なことの好きな将軍家が、果たして片棒かつぐ 者を近づけるようになったのかと、心の中ではその老いをかどうかじゃ」 政宗が、気をとり直して探りを入れると、長安は全身で 嘲笑っていたものだった。 ( 老巧な武辺者は、気に入るようなことばかりはいうまい笑った。 まさに得意の絶頂といった、無邪気そのものの表情たっ からの : : : ) 3

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れだす : : : 私は : 光艷は、もうそろそろ自制の利かない純粋さを剥き出し こうハッキリと問いかけられると、さすがの光悦も即答 にして、その眼をキラキラと光らせていた。 は出来なかった。 「上様ほどのご信仰家ゆえ、ご宗旨変えを : : : とは申しま しやくぶく 伊達政宗をはばかるのではない、彼の胸に大きく生きて せぬが、こうした流木浮木には遠慮ない折伏で向います る。こんな流木どもに、折角築いた大切な堤を切られている日蓮大聖人をはばかるのだ。 智にたより、武に は、それこそ下流の人間はたまったものではござりませ人が人を憎んでよい筈はなかったが、 ぬ。それゆえ、この小天壓にはよくよくご注意下さるようおばれて策を弄し、野心をのべようとするものに、光悦は にと申し上げて居るのでござりまする」 決して寛大ではあり得なかった。 家康は、そこまで聞いて、不意に大きく頷いた。 その意味では大久保長安と伊達政宗は、異質のものだと がする」 田 5 っている。どちらもひどく貪慾ながら、長安にはおかし 「そうか。わかったような気、、 ところが政宗はその反対で、ど それからしばらく間をおいて、 味はあっても殺気はない。 「光悦、そなた、大久保長安をあまり好いてはいないよう こか悠然としていながら、身辺には戦国以来のあやしい殺 気がまつわりついて離れない。 家康もそれを感じとっているゆえ、わざわざ忠輝との縁 光脱は、ハッとした。ハッとしたが悔いはしなかった。 彼が小悪という言葉をつかったときに、肚の中でありあ組みなどまで考えたのではなかろうか。 りと連想していたのは実は長安の顔だからであった。 と言って、今の光悦が、それをハッキリと口に出して非 長安には真剣な信仰の代わりに、新しい智識だけが雑然難出来るほど確たる証拠があるわけではなかった。 と詰まっている。そして彼はそれに倚りかかって傲然と生「これは、わしが悪かった。人間がわが身の好みや好の きている : いや、生きているつもりでいる。 感情など、幾らロにしてみてもどうなるものでもなかった の」 「どうだな、光悦は、伊達政宗を好きかな」 ポツンと又まさぐるよ、つに宀豕は、つこ。 「いや上様、 u-: 様にそう仰せられると、私も申し上げずに いしつ 7 99