佐渡 - みる会図書館


検索対象: 徳川家康 14
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1. 徳川家康 14

って見せてやる。 かけていたのだが、その時にはあまり大した産出量ではな 眼がさめると長安は、それこそ、夢で夢見る想いをするかったそうな : だろう。そして、あわてて佐渡へ帰ってみると、そこにも むろん宝鉱たといったのでは、豊太閤に狙われると考え 又、艶然と同じ於こうが笑っている : ての宣伝だったのだろう、と於こうは思っている 若しも途中で発覚したら、この船こそ、金銀を決して海 それが関ヶ原の役ののち、上杉家の削封によって家康の の藻屑にすることのないように、女王蜂の智恵で造ってお手中におさめられた。 いた内助の船たと誇ってやる。 家康の手中に納められるとともに産金量がぐんぐん殖え 言葉を変えて一「〔うと、つねに於こうは長安の一歩先を歩てゆくので、世間ではこれを、 いてゆくのだ : 「ーー天も公の盛徳に感じて、この年 ( 麌長六年 ) より黄 於こうは、そうした夢を長安の愛撫にからませながら、金多く出す」 また、ぐっすりと二度目の熟睡におちていってしまった などといっているのだが、そんなことをいいふらしたの が、さて、夢にはもう一つ別の夢がありそうだった。 もむろん長安に違いない。 他でもない。佐渡ヶ島自身の夢である。 佐渡ヶ島自身は今でも貧しい 何しろせいぜい一万二千石ほどの耕地しかない流刑の地 であったところへ、長安がどんどん坑夫や人足を送り込む おおやしま 佐渡ヶ島は、神代紀の大八洲生成のくだりに佐渡の洲とのだから当然であった。 しよっき のっているのだが、続紀冫 こよると天平十五年に佐渡の国と海浜の住民は乏しい半農半漁の暮らしだったのだが、そ 改められている。 の中からどんどん坑夫に取られてゆくので、四面海に囲ま 天正の古検地では一万二千石。羽茂郡、雑太郡、賀茂郡のれながら、魚までが不足して困っているという。 きたえびす 三郡にわかれ、問題の金山は中央の雑太郡にあり、金北山脈そこで長安は、相川と北狄の間にある姫津のあたりに、 の南端にあたって、北沢川とともに海浜にせまっている。 わざわざ石見から漁民の入殖をはじめているということた この鉱山町はすでに相川と呼ばれて、上杉氏が金を掘り 2

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たおやめ あるとも徳があるとも思わなか 0 たが、とにかく退屈はさら精錬師である一群の嫋女を連れてい 0 て磨きをかけさせ る : : : というのが、長安の言い分だったが、むろん於こう せなかった。 どうきん は、そんなことを鵜呑みにするほど甘くはない。 第一長安と同衾してみて、於こうは始めて男女の睦みの 微妙な神意が汲みとれた。 全く、絵合わせの目 ( のように、びっちりと交合出来ると 於こうは、始めから、大久保長安の貞節な妻妾などにな ころがある。その上気性も性癖も適合するとあれば、それ る気はなかった。 以上に何ものが必要であろう : ただ彼の夢に相乗りして、佐渡ヶ島へ自分も夢をひろげ 名称などは夫婦であろうと、男女であろうと間うところ ではない。神仏が出会わそうとしていたものに出会わせらて行こうとしているだけなのだ。 於こうが長安を絵合わせの貝の片方と考えているよう れたのだから、その出会いの中で、泣いてみたり、笑って に、長安の方でも於こうを手離せないものに思うかどう みたり、喧嘩もしてみたりする気であった。 ( 今ごろは、酔いすぎて、陸奥守さまを困らせているであか ? とにかく長安は、各地をめぐり歩かねばならない関係か ろう ) そんなことを思いながら、於こうは、これからゆく佐渡ケら、年に一度か二度しか佐渡〈はやって来まい。 島と、そして盛大をきわめた京都の豊国祭の想い出を、手 ( それがよいのだ : と、於こ、つは田 5 っている ぎわよく頭の中で味わいわけていた。 長安は佐渡を、マルコ・ポーロの言 0 たジパングの黄金佐渡の国は越後の荒海の向こうにあり、絵図面の上に本 土との船路が朱の点線で三本引かれている。 島に仕立てるのだという。 いちばん北のは信濃川の出口にあたる新潟の津につなが 黄金島には黄金島にふさわしい美女の群がいなければな もともとこの島は、昔から多くの貴族が流されてり、中央の点線は出雲崎、そして南の点線は加賀国の先の らない。 能登につながっている 居ついた島なので、美人系の鉱脈は豊富なのだが、何分に も辺境の孤島、その後の精錬がな 0 ていない。そこで都か絵図面が正確ならば、出雲崎がいちばん近く、能登がい 2

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手紙を受け取ると直次は立ったまま急いで封を開いてみ にはたしか佐渡へあったと聞いていたが」 「はい。只今は佐渡から八王子のご陣屋へお引きあげにな 「ーー・取り急ぎ申し上げ奉り候。天下の不都合三箇条、旧 って居られまする」 知に馴れてお知らせ申したく候。その第一は佐渡のこ 話が思いがけない方向へそれて来たので、 と。その第二は武州のこと。その第三は陸奥のこと。何 「安藤どの、では、わしだけ先に参ってご休息所の用意を れもふじ女申し上ぐべく候。あらあらかしこ。於こう しておく。用を済まして参られよ」 竹腰正信はそう言い捨てて去っていった。 安藤直次は、馬から降りて、女の差し出す手紙を受け取中にも宛名はなく、署名の文字に見覚えのない直次に は、それが果たして本阿弥光悦の従妹の手蹟かどうかも判 宛名もなければ差し出し人の名も書いてない。美濃紙をじようがなかった。 「委細はこなたに聞けとある。こなた、この状を見せられ 黄に八ツに畳んで封じめに〆と書いてあるだけだった。 て参ったのか」 「そ、つか於こ、つどのが : し」 直次が於こうと知ったのは、家康と共に伏見にある頃 「よし、聞こ、つ、申してみよ」 で、たしか所司代板倉勝重の茶会のおりが始めであった。 直次はそのまま手綱を松の枝にかけ、近くの切株に腰を いや、その後も於こうとは三、四度び会っている。 茶屋の家でも会 0 たし、光悦自身の許でも会 0 た。眼かおろした。すると、その時にはもうふじの連れは、少し離 ら鼻へ抜けるような警句の巧みな女で、人を少しも恐れなれて見張りの位置についていた。 い。それが如何にも気さくに振る舞うので、つねに手伝人 四 の中で眼につく一点の色彩だった。 「ここに第一として、佐渡のこととある。佐渡のことと その於こうが、こうした場所に直次を待ち伏せさせると いうのは、いったい何のためであろうか : 直次は、木の間を洩れて来る光りの斑に眼を細めなが ( 何か、大御所様にお訴え申したいのかも知れない ) っ」 0 304

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要するに日本海の荒海の中で、静かな孤独を楽しんでい 「ーー・・。来て見よ女どもめ、荒海の中の孤島がどんなに手荒 た佐渡ヶ島を、長安は、無理に叩き起こして、その胴腹に いものか、目にもの見せて呉りようわい」 たぶんその位のことはいいかねないかも知れない。 穴をあけ、否応なしに黄金を吐かせている。したがってあ まり上機嫌ではありよ、つがなかった。 その意味では、佐渡と長安の戦はすでに始まっているの ・こが、於こうとそれに連れられてゆく妓たちの方の戦い 外からさまざまな人間が入りこんで来ると、まずパラン は、まだこれからだった。 スを崩してゆくのは男女の数である。 そもそも江戸がそれで困っているのだが、近ごろの佐渡 十 ヶ島は江戸どころのさわぎではなかった。 相川の人足が、羽茂あたりまで女をあさりに出向いてい 於こうは、また二度目の熟睡からさめようともしない。 って、百姓の女房を攫って殺したというような物騒な出来新しい江戸の動脈になった大川筋では朝もやをついて、 事さえ、あちこちに起こっている。 すでに動きだしている船がある。 大久保長安は、そうしたことは、決して於こうに聞かせ 間もなく於こうの隣りで大久保長安も眼を覚すだろう。 なかった。 眼をさますとすぐに、あわただしい彼の一日が始まってゆ 黄金の花の中で、不足な女たちが、男どもにどのように 歓待されてゆくかを、彼一流の誇張でふいちょうし、みん彼は、或いはここで妓たちを手代に任せて一足先に佐渡 なの夢を、いやがうえにも甘いものにしてしまっている。 へ発たせてゆく気かも知れない。 よいか、坑夫たちが遊びに来たらの、彼等の脱ぎす 彼には、松平忠輝の結納以外に、もう一つ仕事がふえて ててゆく破れ草鞋 : : : これを大切にするのだそ。これをて来たからだった。 いねいに洗ってゆくと、それだけで一年間には砂金袋が一 他でもない。江戸へ乗りこんで来ると同時に、散民と非 っ殖えようというものだ」 人の集落の中に無住の寺を見つけて、手まわしよく施療に そんなことを佐渡の島霊が聞いたら、果たして何というあたりながら、病院と会堂の縄張りにとりかかっているソ であろうか。 テロという人物に会ってみる必要を痛感したからであっ

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そこで彼は、この庶民的な乗り合い船の中での、家康ので参ります。旅に出るものですから、その前の親類まわり 人気 : : : とでもいったものに触れてみたかったのかも知れでございます」 「ほう、では旅は、相当遠方なのじゃな」 「よ、 0 殊によると鬼位は出るかも知れませぬ。順徳院さ 「お侍さん、ここがよろしゅ、フございますよ」 まの流された佐渡ヶ島に参るのですから」 正成が乗り込むと、ともの方に乗っていた一人の女が、 「佐渡ヶ島 : : : 」 人なっこく自分のわきをあけてくれた。 「はい。鬼も出るかも知れませんが、今は黄金もどんどん 「かたじけない。お邪壓をします」 出て来るそうで」 「供のお方は、お一人ですか」 女は、本阿弥光悦の従妹の於こうであった。 「そう、こなたはそっちでよい」 若党に手を振って女のわきにすわると、 「おしのびでございますね」 女は、小さくい 0 て = ッと笑った。笑いかけられて見直「佐渡の金山のことはそれがしも耳にしています。それに しても女性のお身で佐渡ヶ島とは又妙なところへ行かれる すと、女はひどく色つばい ものじゃ」 二十五、六でもあろうか。当然歯をそめていなければな 正成が改めて女に視線を移し直すと、 らない年頃なのに、眉もおいてあったし歯も白かった。 「私もびつくりしています。よくもそんなところへ行く気 「お忙しゅうございましよう。いよいよ豊国祭のお支度 になったものと」 「何か、ご家族でも、あの地に、赴任なされるのかな」 正成は、ビグリとして又女を見直した。知人ではない。 どこにも見覚えはなかった。 女は、はじめて袖でロをおさえて赤くなった。 「こなたも、お祭りの買い出しかな」 「ははあ、あの地にある役人の許へ、嫁がれるのじゃな」 正成は、さりげなく話しかけた。 「やはり、そう見えましようか実はそのとおりなのでご 「いいえ、私はちょっと大坂へ立ち寄って、それから堺ま 8

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ちばん遠いのだが、その遠い能登〈於こうは爪跡をつけて立ちなされたら、それを見送 0 ておいて、別の道からこっ 、つこ 0 そり都へ戻っているのじゃ。ホホ : : : そして、殿が都へ来 「これ、能登守よ。こなたの生国から都まではどれほどのたおりに、於こうによう似た女子が待ち伏せする。おもし ろかろうが」 道のりであったかの」 「寺め」 於こうは、少し離れて、退屈そうに河内生まれの下婢と 能登守はびつくりして息をのんだ。 綾とりをしている遊女に声をかけた。 はい。くわしいことは知りませぬが、加賀から越前〈出「こなた達も、その都度誰そ連れて戻ってやろう。長い島 て、山越えに近江へぬけますと、十日の道 : : : と、聞いて暮しでは退屈しようほどにな」 「すると、都で殿の行状をあれこれ監視なさるのでござり い ( す・」 まするか」 「ほ、フ , 卞日か・ 「そのような : : はしたない嫉妬とは違うそえ。都で殿を 能登守と呼ばれた女は、それをきっかけに於こうのそば びつくりさせて、それから又知らぬ顔で佐渡へ戻って又迎 へやって来て、 える。つまり、一人の殿を、二人にも三人にも使うてやる 「何で、そのようなことをお訊ねなされまする ? 」 と、絵図面の上に首をのばした。 とっぜん能登守は、首をすくめて舌を出し、それからは 「ホホ : : : 誰にも洩らさぬというなら聞かしてやってもよ じかれたよ、フに夭いだしこ。 いそえ」 「ホホ : : : では、都でお逢いなさるときは別のお方として 「於こう様は女親方、洩らす段ではござりませぬ」 ト、こお逢いなさる : : : これはおもしろや」 「ホホ : : : そんなら聞かそうか。わが身は佐渡へ廴し しかし於こうは、もうその時にはムツツリとした表情 ら、大きな船を作らせておいてな、時々都へ戻ってみるの で、佐渡の金山町、相川から、南の端の小木の津まで爪跡 をつけている 「まあ都へ・ : ・ : 」 「シーツ。殿は佐渡には幾らも住まわせられぬ。殿がお旅そこへ長安が、いい機嫌で戻って来た。 3 5

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「それはいったい、何のことでござりまする ? 」 「はて、眼いろ、毛いろの変わった美人を、表向きは腰元 「これ於こう、何を見ているのだ」 じゃが、とにかくご寵愛なさるように仕向けて来たと申す 長安は、投げ出すように坐って脇息越しに於こうの前ののだ」 絵図面をのそき込んだが、於こうは視線もそらさなかっ 「フーン」と、於こうは又興なげに視線をそらそうとす る。 いいものを : ・・ : 」 そうなると、長安が却って躍気になるのをよく知ったう 「それは、佐渡の絵図面ではないか」 えでの手管であった。 「ちょっと見るとそう見えます」 「なんじゃ。少しもおどろかぬのか。とにかく、浅野にせ 「ちょっと見なくても、佐渡は佐渡じゃ」 よ、結城さまにせよ、せっせと遊女通いをなされてな、み 「船は出雲崎から出るのだと申されましたな」 な南蛮瘡ぐらいはお身につけられた。加藤肥後守まで、そ 「そうじゃ。それよりも於こう、おもしろいことになったの気がありそうだと噂になっている。何しろ戦が無くなっ そ」 たので、功名手柄の相手が変わった。これがご時世よ。し 「私の方も、だんだんおもしろくなって来ました」 たが、まだ金髪碧眼のご愛妾を持たれたお方は、残念なが 「まあこっちを見よ。伊達陸奥守が、わしの計略にコロリら日本に居らぬ」 と乗ったわ」 「ほん気であろうか陸奥守さまは」 「恰度、わらわのように : 「そこじゃ、何事によらず伊達衆といえば、派手好みの傾 「恰度於こうのように : : いま浅草の馬場に南蛮のお救いき者まで真似する始末だ。この一番槍のお手柄は、陸奥守 病院を建てているソテロという宣教師から、金毛九尾の美さまにさせねばならぬ。が、さて、間題はそのあとじゃ。 人を貰うことに決まったのだ」 「金毛九尾 : ・・ : 」 「そのあと : : ど、フなるのでござりましよ、フ」 はじめて於こうは、絵図面から手をはなした。 「第一これを聞かれて、びつくりなさるのは将軍家 : : : こ がさ 5

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こがねしろがね 「十一一戸前のお米蔵、床はみな黄銀白銀と」 ら、これもひとまわり四方を見廻して間いかレた 「はい。佐渡の御山は、近ごろ金の出が少なくなったと申「なにそ、そ、それも、それだけ申せとか」 : はい。私には何のことやら、とんとわかりかねま されます」 「いかにも。それでわざわざこの春、大久保石見守を見にするが」 「ーーー第三の、陸奥のこととは ? ! 」 やったほどじゃ」 安藤直次は、異様なまでに昻ぶっていた。 「ところが、その産金、いささかも減じては居らぬ筈 : むろんふじ女も知らぬ筈はない。が、これが真実ならば それだけ申せと仰せつかってござりまする」 容易ならぬ私曲の曝露になるではないか。 「なに、産金量は減じて居らぬと : 「その余のことは存じませぬ。ただそれだけ申せとのお一一「〕佐渡で産金が減 0 たというのは偽りで、武州八王子の大 久保石見守の陣屋には、おびただしい金銀が隠匿されてい 葉にて」 るとい、フことになってくる 「ふー、む」 「第三は : ・ : 婿も舅も合い乗りにて、初夢は世界の海へ乗 安藤直次の眼は、あやしい光りをおびだした。 佐渡の金銀はここ一両年ぐんぐんと減りだしている。そり出すよしにござりまする」 「なになに、婿も舅も合い乗りにて、初夢は : : : 」 して、その原因を調べにやられた大久保長安は、鉱脈が大 「世界の海へ乗り出すよし」 きくそれてあるゆえあまり期待は持てないようだと復命し 「フーム。婿も舅も : ている。ところが、ここでは、そうではないと暗示してい るのだ。 もう一度相手の言葉を口の中で呟き返して、 「して、こなたは、どうして八王子のお陣屋から暇をとっ ( 於こうは、長安の私曲を訴えようとしているのだろう たそ」 : はい。若殿へ恋文をつけました。それを老女に見 「では、この第二の武州のこととは ? つけられたのでござりまする」 「はい。ご金蔵は申すに及ばず : : : 」 「若殿 : : : と、申すと石見守がお伜にか」 「ご金蔵は申すに及ばず : : : 」 305

9. 徳川家康 14

ぼうだい - 一 - つほ・つ 汞法で、水で洗って鉱粉をとり、アマルガムを残して蒸留そんな夢を抱いているのを、実は於こうはよく知ってい する方法だった。 る。よく知っているとい、つよりも、酔って口にする、おり これが成功すると日本一の金銀持ちになるのは、実は将おりの長安の放言で、いやでも知らされて来てしまったの 軍家康ではなくて、大久保長安ということになるかも知れ 於こうが並みの女であったら、この夢は全く理解されな いままで終わるか、それともびつくりして離れてゆくかの 幕府に納めた金銀は、それで国用を賄わなければならな いのに引きかえて、向後産出量の総額は誰にも計算出来などちらかだったが、於こうは逆であった。 くなり、その量の二割から二割五分は自由に使用出来るこ長安の夢の上に、於こうは於こうで大きな夢をかぶせて つ ) 0 とになる。 仮に千両分の産出額を十倍の一万両にふやし、八百両の つまり長安を可愛い働き蜂にして、佐渡ヶ島に君臨し、 上納分を三千両にふやしてやったら、家康自身は二千二百そのかみの推古帝か、三浦安針がよく口にするエリザベス 両の増収となり、大久保長安の収入は七千両にふえてゆ女王のように、荒くれた男たちを頤使してやろうというの だから、この夢も決して小さくはない。 長安は、決して悪人ではない。 したがって、このような ( 女王蜂は働き蜂に惚れてはならない : ル大な率で私腹をこやそうなどと考えたことはないが、も惚れてはならないが、同時に突きはなしてもならない。 しそうなれば、その宝の山を持っ佐渡ヶ島を、そっくり金つまり貝合わせの一方の貝であることを、よく相手の心身 にしみ込ませておいてやらねばならないというのだから、 銀で飾り立てる位のことは易々たることだ。 何よりも佐渡が地続きでなく、荒海の向こうに離れ島で於こうの添寝も、その心理は単純ではなかった。 あるのが楽しい。 万一長安の夢がわからず、誰かがはげしく彼の非を鳴ら すようなことがあったら、長安はさっさとこの島に立て籠 って、金に任せて自衛軍を持てばよいのだ : 大久保長安の夢と、於こうの夢は、夜がそろそろ白みか ける頃になって壮厳な抱擁に入っていった。 ヾ、 ) 0

10. 徳川家康 14

彼を知るもの 徳川家康 続江戸・大坂の巻 陸の巻き波 淀の小車 一つ眼の龍 佐渡の夢 大坂の夢 将軍上洛 4 続江戸・大坂の巻 1 春雷遠雷の巻 目次 五 二九 五〇