大久保長安 - みる会図書館


検索対象: 徳川家康 14
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1. 徳川家康 14

「ふーむ。そこで大久保長安という漁師は、どんな竿を用 土をひろげるきっかけに利用出来る。この嘘が行きわたっ 亠するのじゃ」 ている限り、いよいよ日本国は、つるさいことに相成りま 「陸奥守さま、そう性急に先々を仰せられまするな。それ しよう。そこで、大久保長安は、彼等の裏をかく気でござ では折角の好漁場を、陸奥守さまに奪われそうで」 りまする」 政宗は、上体を揺って笑った。 とっぜん政宗がプーツと大きくふきだした。 「なるほど、大久保霊獣どの、案外神経はこまかいようだ 五 の。よしよし、では黙ってそこ許の聞かせることだけ承ろ 相手の眼の前でふき出すなどと言うことは随分と礼を失うか」 「そうおとなしく仰せられると、水臭く隠すわけにも参り したことであったが、 大久保長安は怒らなかった。 ませぬ。そこで私は、佐渡ヶ島をその黄金島に仕立てあげ 伊達政宗の方でもまた、遠慮なく笑ったあとで、 「たぶんそう言うであろうと思うた。大久保長安の本性はまするので」 「やはり、そうであろうな」 根太い叛骨、必ず裏をかく気になろうよ」 「実は、これからそこへふた通りの人間どもを送りこん 長安は、却ってそれで安心したように、 けんでん で、これを南蛮に喧伝させます」 「それは陸奥守さま、ご自身のことのようで : : : 」 「ほ、つ、ふた〔通り・ : : : の、つ」 と、ひと膝すすめた。 「はい、ひと通りは、それが是非とも無くては叶わぬ天女 「つまり、南蛮、紅毛ともに黄金島を狙うて参る : : : と、 : などと、まっ正直に打ちたち : : : もうひと通りは、チト方面違いの凶状人にござり なれば、そのような島は無い・ まする」 明けるのはマルコ・ポーロに済まないわけで」 そう言ってから長安は、何を考えてかキッと額に立皺を 「そうじゃ。その通りじゃ」 きざんだ。 「折角彼が餌を撒いて、ゾロゾロ魚が寄って来る : : : と、 「かような思案を立てたからとて、長安は人一倍ムゴい奴 なれば、これを釣り上げる漁師があっても不都合はない : : と、思し召し下さいませぬよう。凡そ罪人の中にもさ 3

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「ウーム。なるほど : る。とい、つのはオランダ船もイギリス船も、まだ日本には 立ったまま低く呻いて、それから又明るく笑った。 やって来す、来るのはポルトガル船と、イスパニヤ船ばか 「これでなければ、永い間日本には住めぬかも知れぬ。安 りたったからだ。 しかし彼は決して失望はしていなかった。日本人以上の針どのは、日本人になりきろうとしておわすのじゃな」 「これは大久保さま、しばらくお目にかかりませぬが、お ねばり強さで、やがて同国人の日本にやって来る日に備え 変わりもなく : ている。 : どうそそう堅苦しいご挨拶はおいて下され。あ 大久保長安には、彼は駿府城内で、ふっとそれを洩した ことがあった。 なたが日本人になり切ろうとする : : : それはしかし、裏返 とうじゃな、まだ故郷の何と申しま 「汁しカらじゃ。、、 長安もまた海外に関心以上の関心を抱いている : : : そうせば木し、、 感じとったからであったが、それ以上に、ひろく九州の切したかな、メリーでござったかな、ご内室の夢を時おり見 支丹大名に顔の売れている長安が、何か帰国のおりに、頼ますかな」 「これは恐れ入りました。大久保さまは、何でそのような 2 りになりそうな気がしたからでもあった。 ことまでご存知で : : : 」 その長安がやって来たという。 : まだまださまざまなことを知りましたそ。イス 「わしの江戸滞在は、誰にも知られぬようにしていたのだ ハニヤとイゲレスの不仲の原因などもな」 安針は若党につぶやいて、机上を整理し、自分で褥を直「ほう、それを大久保さまはどうご覧なさるので」 して客の人って来るのを待った。 「つまり恋の鞘当てと見ましたな。イゲレスのエリザベス 「これはこれは、わしは又安針どののお住居ゆえ、定めし女王に、イスパニヤのフィリップ二世は惚れていたのだそ 案外にうで。そこで結婚を申し込んだ。ところが気の強いこの未 珍奇な舶来もので飾られてあろうと思うていたに、 さびた構えで恐れ人った」 通女の女王さまは、わが配遇者はイゲレス国なり : 長安は、陽気に若党と話しながら入って来て、そこに端われてお振りなされた。いかがでござるな。長安仲々にも の知りでごキ、ろ、つが : 然と坐っている安針の姿を見ると、

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でも日々ご金蔵に納めてござる。が、これだけでは面白く ござるまい。何れ日本人も世界の海へ乗り出してゆく。そ こであちこちの寄港地へ、それそれ黄金産出の山を用意し 安針がしきりに気にしているのは、長安の着想の奇抜 て交易の手をひろげる : : : これがほんとうの用意ではござ さ、大きさだけではなかった。 らぬかな」 彼が始めに洩した「オランダ船がやって来る : : : 」とい 「大久保さま : う一語が、胸に大きな鈎をかけて残っている。 しばらくして安針は、乾いた舌をしめしながら呼びかけ 今の長安の地位と勢力をもってすれば、そのオランダ船 を、追い払うことも出来ようし、秘かに寄港させることも 「あなた様の、それがしへの御用は、山わけの制度を調べ出来よう。そしてそれは、とりも直さす安針の運命を、も : と、いう、ただそれだけなのではござり て参ればよい : う一度ヨーロッパと繋ぐことも出来れば、断ち切ることも ますまいなあ」 出来るという、ギリギリの力を持ちそうだからであった。 「大久保さま、安針は、大久保さまを、大御所さまの得が 2 まさにその通りでござる。し 、恐れ入った ! かし、これからのことは、ご貴殿に興味が無くばお打ち明たいご忠臣として、お信じ申し上げましよう」 「では、われ等の夢にご協力下さるといわっしやる : : : 」 け申しても無駄でござるゆえ、ますその興味の有無をさぐ 「その代わり : ろ、つとしたまででござる」 安針は、すぐさま交換条件を出してゆく自分を羞らう様 「といわれると、いったいこの安針に、何をせよといわっ 子で、 しやる ? 」 「いや、かくべつのことはござらぬ。大御所さまにささげ 「それがしからも、又大久保さまにお頼み申したい儀がご られると同様のご誠実さで、われ等にも、ご貴殿の智恵をざる」 お貸し下さるや否や : : : と、 い、ったけのことでござる」 「心得た。同志となれば、どのような協力も惜しまぬのが そういうと長安は、ちょっと言葉を切って、こんどはこ大久保長安、何なりと仰せられよ」 っちから、冷やかに安針の顔いろを読みにかかった。 「ご貴殿は先程、オランダの船が近々ポルトガルの船を追

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槍持ちはじれったそうに舌打ちして、 「院長さまがご存知じゃ。お取り次ぎなさればわかる。大 久保長安さま」 男は何かロの中でブップッ いいながら、そのまま奥へ消 えていった。 患者でなければ、ここから来るな : : と、でもいってい るようであった。 浅草病院へ駕籠が着いたのは、もう正午をすぎていた。 「なかなか出て来ないのう」 早朝からやって来ている患者の姿はなく、リ 卩の中に並べて 長安は、槍持ちに話しかけた。 植えられた柳の枝が静かに風にうごいている。 建物の表構えはかくべっ変わったことはない。車寄せに 「ソテロめ、又売り込みに街へ出ているのかも知れない」 似た人口の屋根に紋章のように十字架が打たれてあるだけ槍持ちはちょっと頭を下げて、 「旦那さま、今日は妙なところばかり、お立ち寄りなされ 「具、も、フー・」 まするなあ」 長安が駕籠を出るまでに、槍持ちの若党が玄関へ走りこ 「うじゃ。わしは今、二つに割れているヨーロッパを、 んで、大きな声で取り次ぎを頼んでいた。 一つにして使い得るかどうか、鋳掛け屋のような仕事を試 「大久保長安さまが院長にお目にかかりたい」 みているのだ」 出て来たのは白く長い手術着をまとった背むしの小男「二つに割れた湯呑み : : : ですか」 で、むろん日本人であった。 「いいや、湯呑みではない、ヨーロッパだ。日蓮宗と浄土 宗よ」 「その大久保さまは、。 とこがお悪いのじゃな」 そういう声をききながら、長安は、草履をはいて車寄せ 「へえ : : : 」 に立っていた。 佐渡出身の槍持ちは、首を振りながらロを噤んだ。彼に 「はて、大久保さまをご存知ないのか」 理解出来ることではないとあきらめたものらしい。 南蛮ほたる 271

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悳だったのだ。 のない大切な契約にこれを用いる」 「では、オランダの船が九州に参りました節は、すげなく 打ち払わぬよう、それとなく諸大名に、大久保さまからお安針は、珍しそうにその巻物をひろげてみた。 願いおき下さりまするので」 最初に何びとの筆蹟か、ひどく雄渾な筆蹟で、 長安は、ポンと胸を叩いて頷いた。 「ーーわれ等ここに天地神明に誓って、松平下総守惣輝を 「同志のために、いと易いことでござる」 盟主とし、大久保長安の思案による日本国百年の発展を計 「では、それがしも改めて伺いましよう。この三浦安針、 ることに同意致すものなり。屹度異背致す間じく、連判状 とのような働きを致せばよいのでご仍ってくだんのごとし」 大久保さまのために、。 ざろう」 と、書いてある。 大久保長安は、顔中を笑い皺にして眼を細めた。 そして、真先に、松平忠輝の署名血判があり、次には大 「さすがに安針どのは話が早い。つまりこれで両者の契約久保忠隣、有馬修理太夫晴信、伊奈忠正 ( 武蔵鴻巣城主 ) 、 : よく、安針どのが申される、契約は成立したわけでご石川康長 ( 信州深志城主 ) 、石川数矩 ( 信州筑摩藩主 ) 、富 ざるな」 田信高 ( 伊予宇和島城主 ) 、高橋元種 ( 日向延岡城主 ) な 「いや、まだ、。 とのように働けばよいのか : : : それを承つどの名がならんでいた。 ては居りませぬ」 「如何でござる。日本国にも、大きな夢を抱くものが、決 「わけのないことでござる」 して少なくはござるまい」 もう一度長安は、おしかぶせるようにいって、それから長安は、胸をそらすようにして、 ふところへ手を入れた。 「何れこれに、日本国中の大名を血判させ、心を一つにし 取り出したのは一巻の小さな巻物だった。 て世界の海へ乗り出してゆく。そうなれば、よく安針どの 「さ、これにご署名のうえ、日本流に血判を願いたし」 のいわっしやる、北の海からイゲレス国への航路なども、 「血判 : : : でござるか」 必ず実現させて進ぜましよう。さ、そこへ血判を下さるよ 「さればこれは連判状と申してな、日本では、裏切ること 267

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ぼうだい - 一 - つほ・つ 汞法で、水で洗って鉱粉をとり、アマルガムを残して蒸留そんな夢を抱いているのを、実は於こうはよく知ってい する方法だった。 る。よく知っているとい、つよりも、酔って口にする、おり これが成功すると日本一の金銀持ちになるのは、実は将おりの長安の放言で、いやでも知らされて来てしまったの 軍家康ではなくて、大久保長安ということになるかも知れ 於こうが並みの女であったら、この夢は全く理解されな いままで終わるか、それともびつくりして離れてゆくかの 幕府に納めた金銀は、それで国用を賄わなければならな いのに引きかえて、向後産出量の総額は誰にも計算出来などちらかだったが、於こうは逆であった。 くなり、その量の二割から二割五分は自由に使用出来るこ長安の夢の上に、於こうは於こうで大きな夢をかぶせて つ ) 0 とになる。 仮に千両分の産出額を十倍の一万両にふやし、八百両の つまり長安を可愛い働き蜂にして、佐渡ヶ島に君臨し、 上納分を三千両にふやしてやったら、家康自身は二千二百そのかみの推古帝か、三浦安針がよく口にするエリザベス 両の増収となり、大久保長安の収入は七千両にふえてゆ女王のように、荒くれた男たちを頤使してやろうというの だから、この夢も決して小さくはない。 長安は、決して悪人ではない。 したがって、このような ( 女王蜂は働き蜂に惚れてはならない : ル大な率で私腹をこやそうなどと考えたことはないが、も惚れてはならないが、同時に突きはなしてもならない。 しそうなれば、その宝の山を持っ佐渡ヶ島を、そっくり金つまり貝合わせの一方の貝であることを、よく相手の心身 にしみ込ませておいてやらねばならないというのだから、 銀で飾り立てる位のことは易々たることだ。 何よりも佐渡が地続きでなく、荒海の向こうに離れ島で於こうの添寝も、その心理は単純ではなかった。 あるのが楽しい。 万一長安の夢がわからず、誰かがはげしく彼の非を鳴ら すようなことがあったら、長安はさっさとこの島に立て籠 って、金に任せて自衛軍を持てばよいのだ : 大久保長安の夢と、於こうの夢は、夜がそろそろ白みか ける頃になって壮厳な抱擁に入っていった。 ヾ、 ) 0

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「玉、つ るというに過ぎない。よろしいなあ安針どの、ここにご署 名なされたうえからは、新教、旧教の別などにこだわっ また、安針は感心している 「すると、それがしは、ここに署名致して、何を致すのでて、両者の喧嘩に加わることは思いも寄りませぬぞ」 「そう : : : 相成るでござろうな」 ごギ、る」 「いや、そのお覚悟がなくば、世界の海は自由に泳げぬ。 「先す署名でござるよ。それだけで、この連判状の信用が つまり、大久保長安の眼には、エリザベスもフィリップも 出て参る。大久保長安の夢は、世界中を旅して来ている三 ない。みなこれ、有無相通じなければならぬ一視同仁のは 浦安針が見ていささかも実現不可能のことではないとい らからじゃ。その気持ちでいろいろと智恵をお貸し願いた し」 「なるほど、腑におちました。では : 「大久保さま、さっきの連判状とやらに、松平下総守さま 安針は、筆をとって黒々と署名した。 を盟主として : ・・ : と、ござりましたな」 「いかにも、日本国が世界の海に乗り出して、各地に寄港 安針が署名をおわり、それから小東を抜いて血判するま地を持つように相成れば、将軍家たけでは手は廻らぬ。そ こで、将軍家はもつばら内政に当たられる」 で、長安は、ぐっと口をへの字に結んで息をこらして 「なるほど」 「そして、交易と、それに関わる外国との接衝は、われ等 そして、安針が連判状を長安の前におき直すと同時に の主人、将軍家ご舎弟の忠輝さまを助けてこれに当たらせ 腹の底から輸央そうに笑ってこれを巻きだした。 うべきものにする考えでござる」 る。外交大臣とでも、い 「いや重畳重畳。これでこの連判状に筋金が通りました。 一切それで 「それは妙案、そうなくては相成りますまい 中には世間の狭い人があっての、わしの夢をたたのホラ吹 におちました」 きとしか考えられぬ、それ等もこれで納得しようて」 「では、大御所さまのご命令があれば、ご貴は、何地、 3 しぎなお方でござるなあ」 「しかし、大久保さまは、、 何国人なりとも、選り好みなく接衝致すもの : : : そう承知 ハハ : : : 少しばかり、世間をひろく眺める眼を持ってい 6 ) 0 8

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「よ、 大久保長安と松平忠輝は、家康に附けられた執政と主君 し」 の関係であり、忠輝と伊達政宗は婿舅のつながりを持って 「そのお伜は何歳じゃ」 「十四歳にござりまする」 「それで暇を出されて、庄司が許へ湯女になろうとして赴その結び目の最初に位置する大久保長安に、幕府の金山 奉行として私曲があり、おびただしい量の金銀を隠匿して しるという : : : それだけならば間題は簡単だった。 「仰せの通りにござりまする」 長安は、泰平時代に珍しい才能で、トントン拍子に出世 「みな、於こうどのの指し図じゃな」 ーいいいえ、私も、そうしておいて都へ戻りたかったして来た成り上がり者。したがって味方も多いが嫉視して いる敵も多い。それに鉱山のことは産出量に比例した歩合 からでござりまする」 「都へ戻る、手筈はついたか」 制度なのだから、彼の取り分も決して少ないものではある 女は、かすかに首を振った。 一止州八王子の陣屋の土蔵の床下が金銀でいつばいだとい 3 「何れ都から下った女歌舞伎の群になりと混じってゆく気 うのは、その歩金の蓄積にびつくりした者の中傷に過ぎな でごギ、りまする」 いかも知れない。 見張りに立った女は、後姿に気負いを見せて、しきりに ところが、第三の陸奥のこととなると話は複雑になって 四方へ眼を配っている : ・ 来る。 五 伊達政宗が、松平忠輝と組んで、世界の海へ乗り出し、 安藤直次は、ふしぎないら立ちで胸がいつばいになって家康や秀忠とは別途に大きな海外貿易を企図して居る : いった。訊ねたいこと、知りたいことが、咽喉もとに詰まその交易に必要な金銀を、秘命を受けた大久保長安が、金 っていて口に出ないもどかしさであった。 山の産出量を偽ってまで蓄積しているとなったら、これは もはや相手が、 何を訴えようとしているのかは、わかり山々しい形相を帯びて来る。 すぎるほどにわかっている 内容によっては謀叛にもなりかねないし、手のつけられ

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: これにはさすがのソテロどのもご思案が及ぶま再びソテロは蒼くなった。 い。その時の大守の返事はの、積んで来るのは兵士のみ : ・ 五 : それゆえ、サン・フランシスコン派の貴殿は、 はじめから大御所さまに、これも兵士かと警戒の眼で見ら ソテロは間が持てなくなって、卓上の呼鈴を叩いていっ れているわけじゃ。物ごとは最初が大事なものでござるか らの。、、 こんどは幼い少年が現われた。 ソテロはあわてて左右の二人に退席を命じていった。 「コーヒーを一さい」 「そうだ。あなた方は、久々においで下された大久保さま それから又しばらく、黙って長安を見詰めつづける。 のため、食卓の用意にとりかかって頂きたい」 そうなると長安は、、 しよいよ居ぎたなく上体を崩して、 それから、二人だけになると、今度はソテロもニタニタ鼻毛をぬきだした。これもソテロを昻ぶらせて、彼にしつ 笑った。 ばを出させようという作戦の一部に違いない。 「大久保どの」 「大久保さま」 「なんでござるな」 と、ソテロはいった。何時かどのがさまに変わってい 「あなたは自分に、友人としてほんとうのことを知らせてる。長安はそれにもちゃんと気付いていた。 / 、、れ寺 ( した。 ~ のり - がと、つ」 「いったい、あなた様は、このソテロに何を求めておいで なさるので」 「まだお礼を言うのは早過ぎまいかソテロどの」 「いやいや、さにあらず、大御所の目的などはそれがしに「何か求めれば、素直に下さるようなお方かのうおぬし ようわかる。この方が、かくべつ高い識見を持たれているが」 「では、何ぞ交換条件でも」 わけでも何でもない。望むのはただ交易の利だけなのじゃ」 まさにその通り、恰度ソテロどのが日本国の 「さよう、おぬしが今までの、ポルトガル系ゼスイットの 大司祭になりたい : : : そうなれば大守や総督以上の権力が宣教師たちとはこと変わった大聖人である : : : という事は 持てる。そう思って汲々としているのと同じようにの」 この長安も承認しよう。とにかくこの病院は決してわるい ) 0 276

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な、立派な築城の出来るよう : : : お許はさっき大鷲だと申家康が、何のために忠輝の妻を伊達家から迎えたか ? したではないか。大鷲がついていて、小細工したとあってそもそもそれが政宗の警戒されている証拠ではなかったか は聞こえがわるいそ」 「フーム」 政宗が、 大ぜいの子供の中で、正室の産んだ長女のいろ 長安は、思わずコトリと盃をおき、それからきっと肩をは姫を、どのように溺愛しているかは家康がいちばんよく そびやかした。 知っていた。 「一々仰せられることが逆になりましたなあ」 その愛姫を、忠輝の嫁にといったのは、千姫を大坂城へ 「そうかの。わしは、一向に変わらぬつもりじゃが。つま人質にやる代わりに、それと同じほどの価値をもった人質 り、越後から佐渡の鉱山が鉱脈をそれて来る : : : そのようを、伊達家からも取っておこうと計算したのに違いなかっ な時には、一入慎しみが第一じゃ。天の意に叶わぬ時 : と、田 5 うての用心がのう」 しかも、そのためには、忠輝のもとへ政宗の智謀と匹敵 大久保長安は、その一言で、ようやく政宗の肚が読め出来る : ・ : ・いや、政宗が、何を企んでも、企みの見破られ るほどの者を附けておかねば安心ならぬとして、わざわざ 政宗は、どうやら長安を警戒しだしている。家康に行列執政に選ばれたのが、この大久保長安ではなかったか : が派手だといわれたことから、長安が、自身のために不正 その間に長安もたしかに政宗に魅されていった。しか を働いているのでは そう疑いだしているのかも知し、それはどこまでも政宗が長安を重んじてくれるからで れない あった。 しかし、それだったら以ってのほかであった。 、少こ自分を警戒しだして、一々 ところが、その政宗が女冫 意見がましいことをいいだすとは、何という奇妙な錯覚で 五 あろ、つか。 「陸奥守さま」 長安の眼から見ると、家康に警戒されているのはつねに 「さ、もっと過すがよい」 イ達政宗の方で、信用されているのは自分の方であった。 317