「それが駆け引きでござる。先方だけに軍備をさせて、こ っちが抜かっていては手遅れに相成ろう。修理どのの前 半ばおどけた様子で壮語した。 彼も又治長が、内心では徳川勢を怖れているのを知ってじゃが、片桐市正は、あてにはなりませぬぞ。あれはもは いるからであろう。 : と、見ねばなりませぬ。そ や、徳川家の走狗になった : 「すると、真田左衛門佐は、しかと味方を申し出られたのれゆえ、それとなく軍事からは遠ざけて、宜しゅうござる じゃな ? ・」 かな。兵糧と人数を揃えておくのでござる」 しカ・も」 「じゃと申して、若しも数十万の関東勢が押し寄せたら : ・ 内蔵助はわざわざ盃をおいて、ポンと胸を叩いてみせ : 籠城籠城。それだけでこの城はビグともせぬ。 「こうなれば後へは退けまい。それが亡父昌幸どのの執念そのうち天帝の助けがござる。フィリップ三世の大艦隊が でもあったと申された。紀伊見峠が、このご決意の、微妙やって来てみなされ、先す奥州の伊達が寝返る。ついで伊 な峠でござっての」 達の婿の上総介忠輝が : : : そうなって、長州の毛利や薩摩 : これは関ヶ原 の島津が黙っているものではない。 / ( 「如何にも。松倉豊後が、あの峠を固めるほどならば、江の合戦などとは規模の違う必勝の戦になりましよう。さな 戸の肚も戦と決まった : : : 左衛門佐はそう見られたのでごくて、何で真田左衛門佐が腰をあげましようそ。信濃一国 ざる。もはやこれは誰の力をもってしても押さえきれまの好餌を蹴っての : : : 」 、。戈には戦魔という目に見えないものの働きがある : 十 よって、われ等は父祖の執念に殉じ申そうと洩らされた。 大坂人城のご工夫は別にあるらしい」 内蔵助は得々と説いて来て、急にふっと表情を硬わばら 「待てツ。待たっしゃれ内蔵助どの。先程お身はそうはい せた わなんたぞ。早く大仏殿の竣工祝いを執行するようにと : 酔った彼の眼に、この時はじめて治長の如何にも不安そ うな、自信の無さが映じて来たのた。 ぬ そうく 343
「お二方とも、われ等の眼には平静以外の何ものでもござ 殺すが不愍と考えての縁組ではござりますまいかと」 リませぬ」 「京大坂の人気はどうであろうなし無事に大仏開眼の祝い 「そうか : : : そうであろうな。して、大奥の噂は聞かなんが出来ると思うて居るのであろうか ? 」 、 0 大坂から淀の方の使いの者が参った筈じゃが」 ーしこの盛儀に会って末代までの仏果を得たいと、続 それについては又右衛門はよく知っていた。使者に来続人が集まって、諸物価の騰貴が目立つほどの山にござり 」女性の愚痴話から、御台所がひどくご心配されているまする」 「どうじゃ。こなたもあの本阿弥の翁と連絡はとって居る 万一江戸と大坂の間が戦となったら、真先に斬られてゆ カは」 「十、 0 、のは千姫であろう : : いや、開戦に至らずとも、それが つかず離れず : : : 都にある坂崎出羽をとおして刀 け得られぬと思われたら、何者が危害を加えるかわからの拵えなどを頼んでござりまする」 1 主月執刀 : ・・ : とい、つ、い配らしかった。 「翁は何と見ているかの」 しかし又右衛門はそれにも控え目に、 「騒乱必須、避けがたしと見ているようでござりまする」 「全く聞かぬでもござりませなんたが、 大奥のことゆえ手「そうか : 又もなく : 家康はかくべっ愕いた様子もなく、しばらく間をおいて と、だけ答えた。 嘆息した。 「そうか。内輪のことまではの、こなたの手も廻るまい。 「そうなると、わしは、天下の極悪人となりそうじゃの」 、カ日し子 / ・刀」 伊達のその後は、何、 大御所様が天下の : : : 」 「陸奥守どのは、直々高田に赴かれ、熱心に綱張りのお指 「そうじゃ。戦が始まると、大坂方ではまっ先に千姫を斬 をなされておわすようで : : : 」 るというであろう。ところが、この爺は、先手を打ってそ 「片倉小十郎が許へ、真田の孫娘が嫁いだそうなが、出人の千姫の妹を禁裏に差し上げた : ・ : ・禁裏からお声をかけさ ソはあるかの」 せても阿千を助けようとする : : : そんな計画までめぐらし 「一向にござりませぬ。これはおそらく、万一のおりにも た大悪人といわれそうじゃのハ 358
又右衛門宗矩が意気こんで云い出すと、家康は、ちょっ れのお味方もなさるものではない。ただ世を騒がすもの と視線をそらしていった。 は、仏教徒たりと神道者たりと許さぬそと、筋を正して慰 撫させまする」 ( そんな講釈は小児にせよ : : : ) そうした不快さをあらわに見せた顔であった。しいし、 家康は、じろりと又右衛門を睨んでから頷いた。 「それで切支丹信徒はおさまろう。次に将軍家と上総介の又右衛門はひるまなかった。 「然るに、大御所さまは、わが心に敵をつくらねば、敵は 間の気まずさは何とするそ」 持たすに済むものとお信じなされて、ご汕断なされまし 「これは、伊達陸奥守に納めさせるが最上の策かと心得ま た。なるほど、大御所さまと秀頼さまの間には、みじんも する」 敵意は介在しませぬ。しかし、大坂城は別ものでござりま 「なるほど」 「陸奥守はその辺二重、三重に考えて、双方何れの信もまする。この城は、日本中の敵を引受け、びくともするもの だ断っては居りませぬ。悪く云わば二股、よく云えば深慮ではないぞという、はじめから四方に敵を意識した、太閤 3 2 が威嚇の城でありました」 : 間題は、これ以上敵意を持たせぬことが肝要かと存じ 「なに、大坂城は威嚇の城たと : まする」 「御意にござりまする。ものにはそれぞれ心がある。京 家康はまた軽くうなすいて、 「すると、残る大坂の秀頼どのじゃ。だいぶん信者が人りの禁裏建物は、戦など度外視して建てられた御所ゆえ、あ の前に立っても誰も戦意などは燃やしませぬ。ところが、 こんでいると思われる。これは何としたものじゃ」 間いかけられて、又右衛門は一膝のり出した。これには大坂城は違いまする。あの前に立ち、あれを見上げるほど の者は、この城に依って、憎い敵と一戦したら : : : 見上げ 大いに意見のある又右衛門であった。 るだけで、はげしい戦意を掻き立てられる城塞でこざりま する」 「なるほどの、つ」 「およそ兵法の行きつくところは、敵を持たぬことにござ 「それゆえ、追い詰められた者も、はげしい敵意を持った りまする」
又右衛門宗矩はまだ心を決しかねて黙っていた。 されたうえは、三浦安針をご側近から遠ざけられるが第一 かと ~ 仔じまする」 家康にとって、又右衛門の言葉はかなり意想外の斬込み : 筈はなか むろん云うことが無い・ だったらしい。低く呻いて返事はなかった。 今度の事件の首謀者は、単純な、国奪りごっこの人間で「そのうえで、直ちに、不都合な動きのあった旧教派の信 者どもを、法に従って罰しまする」 その逆に、泰平の世の人心を、何れがより深く握りとろ「法に従っての : : : 」 うかとする「考え方」の争いらしい。むろんその奥には国「はい。信仰は自由、さりながらあらぬ噂を世に流して世 どんらん を騒がすはもっての他にござりまする」 奪り以上の貪婪さは秘んで居るのだが : 「そうか、すると、その不都合な者のうちには、だ、 : リ、こなたの意見を採る取らぬはわしの 「どうだな又右衛卩 切支丹大名が人って来るの」 勝手じゃ、云うだけは云ってみる気になれぬかの」 「御意 ! 百姓町人の信者たちは、彼等の流言によって動 「大御所さま ! 」 く表面の小波にすぎませぬ」 到頭又右衛門は、意を決して顔をあげた。 「これ以上の慎みは不誠意に相成りまする。お聞き流し下「と、云われると、その処罰の係は誰がよいと思われる そ」 されば、宗矩が存念を」 「おお申してくれるか。さ、聞こう」 「先ず第一は伊達陸奥守 : : : でござりましようか、陸奥寸 家康に、身をのり出されて、又右衛門はひと太刀振っはご存知のごとく、わが城の大手門にま【信教のすすめを 掲げて背水の陣を布きました。されば、ご譜代最長老大久 ・それがしならば命じまする」 「こんどの騒ぎの根は、人では無うて切支丹の宗門にござ保相模守に : 「忠隣に : : : そうか、忠隣も切支丹を信じて居たの」 りまする」 「仰せの通り、信じてござりまするゆえ、相模守の口か 「なるほどの」 「それゆえ、オランダ、イゲレスの商館を平戸へお許しなら、大御所は、三浦安針も遠ざけられた。新教、旧教、何 2 2
おおかぶらや ところがいま、高山右近がおとなしく追放されていくの ・ : 修理どの、もう、この戦の大鏑矢は切って放た れているのでござるぞ。去る九月十五日、牡鹿湾の月の浦は、遠からず、フィリップ三世の軍艦に便乗して帰国出来 : などといわれると、ほんとうにそ から出発した伊達家の巨船がその鏑矢。どのあたりの空をる確信があるからだ : : 聞けば高山右近もおとなしの気になってくるのである。 鳴りながら駆けているか : 「内蔵助どの、これはこちらも、もう一つ手を打っておく : ・その く、マカオかルソンに送られてゆくそうな。ハハ・ 鏑矢が、フィリップ三世の大艦隊を呼んで来るおり、高山べきかも知れぬのう」 「手を打ってとは : どのも堂々と船首に立って水先案内をしてござろう」 「大御所にじゃ。大御所に、今の右近太夫の肚 : 断いているうちに次第に治長も引きこまれた。 を、こっちから吹き込むのじゃ」 そうすればどのような利益がござろうか」 「大御所もびつくりして、何そ又将軍家御台所を通じて、 人間の中には、つねに行動をもって主動的な役割を果た 、こ母公さまに働きかけて市木ると思、つがど、つじゃ」 すものと、時々昻ぶって、妙な煽動の矢を射ち出しておい て、その煽動が現実化すると、シュンとなってりを静め「なるほど」 「そのおり、こちらから、こういって参るであろうと、予 てゆく者とがある。 めご母公に通じておく : : : そのとおりの働きかけがあった 渡辺内蔵助は前者であり、大野治長は後者であった。 となれば、ご母公のお心も決まってゆこう。ここは一番、 前者はつねにぐんぐん歩いて行くが、後者は絶えす行き ご母公の心をハッキリと決めさせるが第一・ : ・ : と思うがど っ戻りつする。そして、両者の距離が大きくひらくと、今 うであろう」 果こなる。 度は前者がはげしく後者の尻を叩く結 ' ' 話は次第におかしくなった。 大野治長は、渡辺内蔵助の鞭を喰って、また前向きに自 分の姿勢をおき直した。 治長の放った、まことに感清的な煽動の矢は、次第に彼 内蔵助がいっていることは、実は治長自身が、彼の頭し こをぬきさしならない実行者の位置に追いやろうとしている のた。 注入していったことに過ぎない。 : など 345
~ るこの忠輝が行くべきところだったと存じます」 「なに : : : 大坂城を」 「キ、ツ 0 ごっ・ 五郎太どのの名古屋城は、大坂に劣らぬほどの 家康は、その時はまだ嬉しそうであった。少なくとも昨立派な城、そのうえ黄金の鯱は世界中にも類を見ぬほどの 〕までは子供だったわが六男が、国是について口出しする名物になったと聞き及びまする。将軍家の名代として、向 うになったのだ 後世界へ乗り出す忠輝が、あの見すぼらしい福島城の主で ー伊達の家臣支倉常長と、将軍家の舎弟松平上総介では、 は外侮を受けることにもなろう。忠輝は大坂城が欲しゅう Ⅲ手の感じが違いまする。あの船が戻って来たら、忠輝はござりまする」 フぐさま自身で出直したいと思います」 家康は、答えるよりも先に、わが身の周囲を見廻した。 ョなるほど。陣頭に立たねば勝味はないか」 生母の茶阿の局も、本多正純も居合さなかったが、正純の コはいツ。海外では、つねに忠輝が将軍家のご名代として父の正信が来ていて、両眼に蔽いかぶさるようなまっ白な : それについてお願いがござりまする」 眉毛の下で、びつくりしたように、あわてて眼をそらすの 忠輝は、昻ぶりきった若々しさで膝をすすめた。 がわかった。 他には少しはなれて柳生又右衛門が、こちらを背にして 入側に控えている。又右衛門の耳にも、その声は人ったに 家康は、まだ笑っていた。 違いない。それほど若々しく張った無邪気な忠輝の言い方 、、こっ一 ) 0 「それについて願いとは ? 」 忠輝が将軍の名代として立働く : : : その言葉にも、まだ 「お父上 ! 」 くべつの意味は感じとっていなかった。 忠輝は、父の狼狽にも顔いろにも気付かず、 しかし、次の一語を聞くに及んで、いちどに眉間を険し 「あの大坂城の主として、忠輝は、フィリップ大王にも、 ゼームス王とやらにも会って来たいのでござりまする。あ 「お父上 ! この忠輝に大坂城を賜りとう存じまする」 の城ならば、彼等の使者どもも悔ることはござりますま それは家康の考えてもみないことであった。 し」 267
く彼の設計した船が出来るまで : : : というロ実を構えて滞 これは恐れ入った聖者どのじゃ。で、この長安に、 在期間をのばし、その間に日本の近海を、金銀島を探しな博愛病院の聖者どのは、何をせよといわっしやる ? 」 一気に問い詰めると、顔いろも変えすにソテロは「 がらことごとく測量して歩くつもりなのです。それは私に 二つの要求」というのを出した。 とって、神の許し給わぬ悪事になります」 しまのうちに、本多正純を葬れというので ソテロから、これだけ聞けば、長安には一切事情は了解その一つは、、 あった。 出来ることであった。 安藤直次は、近々頼宣の付家老で側近からは遠ざかる。 ソテロもそのかみは確にさまざまな疑間の雲につつまれ た怪人物だった。 しかし、本多正純は、家康から必す秀忠に受けつがれ、 しかし今では彼の魂胆など、こまかく長安は読みつくしずっと側近で権威をふるうに違いない。そうなると、ソテ てしまっている。 ロも長安もきっと彼に失脚させられるに違いない。政敵は ソテロの希望は、彼が日本もふくめた東洋の大司教になすべからく、先んじて制すことだというのであった。 ることだった。 「ーーーそして、その二つは ? 」 私はビスカイノ将軍の脅迫を抗み得ない立場にあ それは日本ほど彼の夢をふくらますにふさわしい土地が る。それゆえ、船を難破させて彼の測量を許すことになる 地上になかったからであろう。 フン、神が許し給わぬか : : : すると、伊達どのに碧のだが、難破の秘密が洩れた時にはどうすればよいか、そ の切抜け策を教えておいて欲しいのです」 い眼の女性を贈って、わざわざ多妻を強いたことなどは、 そういわれた時には、さすがの長安も呆れてしまった。 神も眼をつむって許すというのだな」 長安は笑いながら皮肉を浴びせると、ソテロも例の調子教えてくれというのを、要求という形で出して来る習慣は 日・不にな、。 で、ガラリと居直った。 これは、石見守どののご身辺にも降ってゆく危い火 が、考えてみると、これも一つの脅迫であった。教えて の粉です。将軍家は、安藤直次どのや、本多正純どのに注くれなければ、自分も長安の不利を計ることが出来るそと 意されて、あなたを警戒なされています」 118
そう附け加えられたおりには薄気味わるさは二重になっ というのは、その頃すでに大坂では、 いよいよ大御所は、大坂を取り潰す気になったそう そうした噂が女子供の間にまで流布されだしていたから 片桐市正且元は、大坂城内の自分の屋嗷に引き籠ったま そうなると、ご城内でいちばん直接に荒い風が当たって 朝から何か認めものに没頭していた。書状ではない 日記でもない ゆくのは千臣だっこ。 かといって、近々出来上がる方広寺大仏殿の記録でもな 千姫は、いまだに、そうした風が、どこから、何を原因 しようだった。 にして吹き出したのか知らずにいるに違いない 時々彼は筆をおいては嘆息し、又考え直して墨をすり、 大久保長安の死などは、彼女には何のかかわりもない間 3 聿を舐めては書きつづけている。 題たったし、切支丹信徒の思惑は尚更のことであった。 したがって、於みつの産み残していった幼い姫の母でも 実は、万一、大坂と関東の間に不幸な戦が勃発したおり 姉でもあり、同じ遊び相手のような立ち場でこれに のために、彼と家康の駿府で交した対話をそのまま書き残あり 接していた。 しておくべきだと考えたのだ。 実際のところ、昨年の秋、わざわざ駿府へ招かれて、 そこへもう一人また他の女性に秀頼の子が産れた。これ 「ーーー秀頼どのに河内の内で一万石加増をしたい」 は男の子で国松と名づけられた。 そういわれたおりには、且元は何となくゾーツと寒気が 千姫は、その国松の生母の素性すら訊ねなかった。伊勢 したものだ。 から奉公に来ている侍女に手をつけて産れたのだが、そう 「ーーー他でもない。この前の大仏修理のおりには一紙半銭した事は、秀頼のような身分の大名の家では止むないこと の寄進もしなんた。その償いだと思うてよいそ」 : と、いうよりも当然のことと考えて、疑惑もなければ 桐の片桐
・奈良付近要図 京者 女土 鞍馬山 茂 0 岩倉比壑山坂本 穴太 0 じ当 如息岳 ー乗寺今三井寺 : 瀏 0 ー卍 卍東寺沁可引↓瞽天洋 0 亠を石亠勢 卍醍醐寺 羽任見望 天王亠 X 摂 八幡 北山 0 0 愛宕「 草津近 野路 嵐山 亀岡 勢田 。上田 \ 城 ムロ 0 草円 枚方 0 交野 0 0 私 0 普賢谷 星田 木津 多聞 0 △生駒山 ーし、呉 伊賀 / 奥ガ原 ( 「ケ原 ) 0 柳生 茨木 0 0 上野 伊丹 卍大学寺 尼﨑 吹を 0 中島 0 卍東大寺 日春日神社・ 不卍興福寺 0 福住 野田、 大国ゲ 内市屋 古高 天王 1 ノ、幵泉 大津川 ′不米 0 龍王 0 箸尾大 。片岡 、△二上山 高田 弘川 0 な葛城山越智 0 龍泉 0 金胎寺金剛山 ノノ ノ紀伊見嶺 0 秋亠 松山 0 飯高 0 畝傍 0 △貝吹山 。高取 桜井 △多武峰 高見山△・ 去丸 0 吉野 阿大 五条 紀 伊 0 丹生 卍 局野山 △飯盛山
それだけに、彼の感情も他人のそれとは違ったものを含 は、さすがに誰も気付かなかった。 んでいた。 十二 「母上さまのお言葉、決して組略には思いませぬ。秀頼 高台院は、胸いつばいのよろこびをおさえて、今まで遠も、お目にかかれて嬉しゅうござりまする」 ・いい , ん、こ、フして 慮していたのに違いない。いったん口を開くと、その戸ま「何も彼も、大御所のお計らいでの : お目にかかれば、わざわざ高台寺までお運び下さることは でうわすっていた。 ない。尼からよう父君のご廟に今日のことはご報告致しま 「若君にも、この尼が、どのように案じていたかはわかり 世の中は ましよう。豊家はいったいどうなるのか : 「と、仰せられると、母上さまは、秀頼を高台寺へ : 日に日に泰平になってゆくのに、若君の身に万一のことが いわれて始めて高台院はハッとなった。 あってはと・ : ・ : でも、これですっかり安堵しました。ほん にみごとなご成人ぶり、この後とも、大御所さまや将軍家浅野幸長を通じて申し人れてあった彼女の希望は、秀頼 の耳には通じていなかったらしい のご好意をお忘れないように」 と、すれば、それは淀の方への憚りからであろうと察し 秀頼は、幾度もそれに頷いた。彼は決して高台院がきら いではなかった。秀頼が生まれるおりに、わざわざ伊勢神はつくのである。 「ホホ : : いや、若しも清正や幸長が承知すればと思うて 宮へ祈願をこめてくれたことも、殉瘡のおりの並々ならぬ いましたが、でも、もうそれはよい。こうして頼母しいお 配慮も聞かされて知っている。 いや、それ以上に彼にとって忘れてならないことは、高姿に接しましたゆえ」 そこで高台院は、さりげなく話題を変えた。 台院が自分の正母であるということだった。太閤の正室北 の政所は、良人の一粒種として秀頼が生まれてくると同時「そういえば、まだ、千姫どのにお子は出来ませぬか。こ の上の喜びに、尼も初孫が見たいものじゃ」 に子にしている。この場合は養子といわす、禁裏にならっ て正母、また生母というのだがその儀をきびしく踏まえて秀頼は、チラと家康を見やって赤くなった。 : まだで、、 「はい。それは、まだ : こギ、り・寺 ( する」 来ている。