槍を突きつけるようにして声高に叱りつけた。 、ばら 「怪しい者ではござらぬ、木の片桐市正でござる」 「なに片桐 : : : それが、何としたのた」 「所司代にお目にかかりたい儀がござって罷り越したも の。ご不審ならばお取り次ぎめさるがよい」 「なに : : : 大層なことをいうそ。よしッ待っていろ」 片桐且元は、土山で二老女に別れると、こんどは馬を捨どうやらそれは、乱暴な三河弁らしい。やがてその番士 てて駕籠で京へ入っていった。 は大玄関前の屯所から引返して来て、 すでに十九日で、彼が出てゆく時にはごった返していた 「帯刀を除って入れツ」 京の街は、心なしかめつきり秋を深めた感じで静まり返っ と横柄にいった。 ている むろん片桐が何者かをも知っていての扱いに違いない。 三条大橋の付近にかかると、あちこちに身固めした軍卒 ( これは相当に険悪な空気になっているそ ) の姿は見えたが、それは所司代の当然の手くばりとして、 いわれるまま、式台で大刀を渡して見覚えのある客間に かくべっ驚くほどの人数ではなく、道行く人々の表晴も、通った。 平素のままに見えた。 客間には通されたが、しかし、板倉勝重はなかなか姿を ( 自分たけ、何か悪夢を見せられているのではあるまいか 見せす、茶坊主が茶を運んで来たままで小半刻も待たされ ふっとそうした錯覚におちいりながら、所司代屋嗷の門 「お坊主衆、所司代の許へは、ご来客と見えるの」 前に駕籠をとめると、ここだけはさすがに殺気立ってい 昨日から、いろいろのお方がお見えなさり、取り 込みまして、今しばらくお待ちのほどを」 ハラ・ハラと駆けよって来た番士が、 しかし、その取り込みといった言葉の内容を且元はまだ それほど深くは考えてもみなかった。 「乗り物を停めてはならぬ。急いで通りすぎよ」 柱石砕く
呪う不届きな供養など、そのまま執行させたとあっては役 しかし、どちらも鐘銘はむろんのこと、棟札の件につい 目のうえの大失態、腹を切ったぐらいで済むことではな ても何の意見も持ちょうはなかった。 い。されば、板倉勝重、命にかけても、明日の儀式をとり 「何かの誤解でござりましよう。板倉さまは市正さまとは 別懇の間柄、きっとお取りなし下されるに違いありませ行なわせることは出来ませぬ : : : との口上でござる」 いわれて且元は茫然としてしまった。 ぬ」 ( 何故 ? どうして ? ) そういう一重を押えて、 「とにかく、南禅寺へ人をやっての、清韓長老を呼んでお耳の奥でガーンと不吉の鐘が尾を引いて鳴りだした。 いて貰いたい。話がもつれたおりに説明願わねば相成ら 五 ぬ。われ等には鐘銘などとんとわからぬからの」 「かしこまより・寺 ( した」 「断じてならぬ : : : と板倉どのが申されたのか」 そして、為元がその手配に立っと間もなく、所司代の使且元は、わなわなと震えながら、ようやくそれだけを口 者中坊左近秀政は、再び馬で戻って来た。 彼ー額に噴かせた汗を拭おうともせす、且元の顔を見る「御意 ! 」 と、使者は身をのり出して、 と、はげしく首を振って見せた。 「その事は、片桐どのにもようわかっている筈 : : : と、所 「明日は、断じて供養は罷りならぬ ! との厳命でござ 司代は舌打ちされておわしたが」 「なに、それがしにもわかっている筈と : 「なに、断じてまかりならぬ」 「いかにも、片桐どのは、大御所や将軍家のおとがめがあ「さよう。何度も駿府へ赴かれて、大御所さまに直々お目 にかかって居る。われ等以上に、片桐どのがご存知じゃ。 った際には切腹すると申されるが、もちろん、そうすれば 片桐どのお一人の申訳は立ちましよう。しかし、この板倉早々に中止を布令て、この旨秀頼公に取り次ぐよう : : : 不 勝重の申訳は相立たぬ。それがし不肖なりといえども都の穏の動きがあれば、板倉勝重即刻手勢をくり出して蹴散ら 守護に任する者 : : : その勝重がここにありながら、天下をさねば相成らぬ。よく事態を見きわめて来るようにとのご
そこで家康はこんどは、可斎宗珊の法話をきいた。幸人間の眼の不正確さはこれもよく知 0 ている。未熟な者 若舞を見物したり、平家琵琶を語らせたりした。いろいろは眼でものを見すに感情でものごとを判断する。好きなも のの中からは美点だけを剔り出し、嫌なものからは欠点た な面から、人生を味わい直そうとしたのである。 けを探し出す。 平家琵琶を聞いている時など、何故か悲しさがこみあげ て、若い側室たちがそ 0 とその場をはすすほどに泣けて困といってみても、実は、そうした未熟な、不正確な眼し っ一 0 か持たないものが、百人中に九十五人は居り、それが雑然 と泣き合ったり、争い合ったりしているのが現実の世界で それは、いまのわが身よりも、大坂にある太閤の遺孤、 くあった。 秀頼や、淀の方や、千姫の運命にそのままつながってゆ ( そうか。いよいよ大坂の眼も、好悪の感情にゆがみきっ からであった。 琶琵に涙して、まだ陣頭に立とうかどうかと思い迷ったてしまったか : : : ) そこへ十月一日になって、所司代板倉勝重から、詳細を 4 のが二十三日。と、それから五日目に、秀頼の許から思い がけない使者があった。片桐且元は、不届至極の不忠者できわめた「大坂騒擾。ーー」の報告書が届けられた。 それに依ると、片桐且元は暗殺されようとして城内の自 あるゆえ、処罰するというロ上の届出であった。 邸に引籠っていたが、家臣の石川貞政がます大坂からのが れ、続いて、信長の二男織田常真 ( 信雄 ) も、戦は避けが たしと見て、わが身の難を避けるため大坂城を退去したと 決して戦備が不足というのではない。 開戦の場合の用兵・動員はとうに考えてあったし、万一ある。 おそらく片桐且元兄弟が、茨木城に退くのは十月一日に の場合に秀頼、千姫、淀の方の三人を助け出すようにとい なろ、フ : : と書いてあった。 う手筈も、柳生宗矩に頼んであった。 しかし、ほんとうの陣頭指揮を決断させたのは片桐且元それから、ずっと城内にあって、淀の方を慰撫してあっ ・とし た淀の方の肉親の妹、京極家の後家、常高院から、内々で ; 、秀頼の目に、許せぬ不忠者と映じていった・ 連絡があったことも記してあった。 う、やりきれない事実を思い知らされた時からたった。
「兄上、なぜ黙っておわすそ。むろん兄上も一戦のお覚悟 を決めて戻られたのでござろう。それならばよし、さもな ければ、若君のお前かご母公の前で、斬られなければ詰め 腹がオチ : : : 心を据えてお考えを承りとうござる」 「兄上 ! ご返事がないのは、この場で切腹のお覚悟か」 「舎弟よ」 紀州高野山下の秋は早い。 はじめて且元はロを開いた。 真田左衛門佐幸村の九度山の屋敷の柿はもう色づきだし 「三カ条の条件はな、あれは、ご母公や若君がご推察のとている。 おり、大御所の出した条件ではなく、この且元の思案なの 晴れた日には時々軒先まで仔をつれた雉がやって来て、 仲よく餌をついばんで遊んでいった。 「では、あのう : : : 」 「お父上、片桐市正は、一族を引きつれて大坂城から茨木 「待たっしや、。 しかし、三カ条のうち、一カ条だけ何れの居城へ退去したそうでござりまするなあ」 : が、いま、それも をとるか、評議をねがう気であった : 読書をしていた一子大助に話しかけられて、愛刀に拭い をくれていた幸村は、 無駄になった : 「挈っらしいの」 そういうと、且元は再びロと眼とをともに閉じて石のよ うに動かなくなってしまった。 と、関心もなげに答えた。 「片桐市正は、大坂方が敗けると見たのでござりましょ 「そうであろうな」 「片桐市正が引き揚げる城へ、お父上やわれ等は入城して ゆく 信濃の伯父御は何と思われましようか」 入城軍略
( どうも後者であったらしい と、すると、ここに永く止まることは危険であった。 板倉勝重はおそらく片桐且元が、供養の準備の成ったと「片桐どの、これは余計なことながら、直ちに延期の手続 きあって、その旨、大坂へご注進なさるがよくはござりま ころで、 「ーー秀頼さまはご移封のこと、承諾なされておわしますすまいか」 「と、申して、今さら、そのような : 「常々のご懇情に免じて申し人れまする。すでに都中へ、 そう告げて来るもの、と思っていたのではなかったろう か ? 且元がその気でいるのだったら、子供だましのよう所司代の手配りは済んでござるそ」 「なに、手配りまで」 : 思慮深くジー な鐘銘間題など表に出さずに済ましたい : 「さよう、事の判明は二十七日、それから充分に手配りの ッと今日まで待ったのでは : : : 中坊秀政はそう思ってい 時・日は、こギ」り・ました」 ところが、やって来てみるとそうではなかった。不意を 「フーム」 衝かれた形で片桐且元はまっ蒼になってしまっている。 「もう一度申し上げる。明日は、断じて供養はまかりなら ぬ ! との厳命でござる」 そこで又、たまりかねて質間の矢を放ってみたのだが、 且元はただ驚愕するだけで、他に何の思案もないらしい。 そうなると秀政も無気味になった。 「ご貴殿は、右府さまのご家老衆じゃ。このような大事を ( すると、これは、わざわざこうして愕かすために今日ま独断は相成るまい。直ちにこの旨、右府さまに申し上げ、 で知らせるのを手控えていたのであろうか : 右府さまのお指図を乞うが道でござろう」 「と、申して」 そう考える理由もまた幾らもあった。 「それ以上、それがしには、助言も助力もなりませぬ。そ 前から知らせて騒動の準備でもされたのでは一大事 : の力がないのじゃ。ご免 ! 」 ギリギリまで知らさずにおいて、相手の汕断を見事に衝く 「あ、待たれよ ! 待たれよ中坊どの」 : ・・ : という手も訣して無くはない 9
「なるほど。それでは、わしもそれと並行して、なるべく 幸村もそう思っていたし、牢人たちの戦意もかくべっ案 ずるほどのことはない : : と、思っていた。ところが有楽 大砲を打たずに済むようお手伝いをするとしようかの」 「射たすに済みますように : 斎が城に退いてから、気になる事が次々に起こって来た。 「そうじゃ。金工の後藤庄三郎がよい。庄三郎は城内の信城内から城外へ敵状を探りに放ってやる者が、実は、逆に 用も絶大じゃ。庄三郎を、そっとわが身の許へ参るよう、片桐勢や、藤堂勢の中にしばしば消えてゆくというのだ。 佐渡に連絡してくれまいか。本多佐渡が彼の住まうところ : となれば不 これとて、敵の先手の様子を探りにゆく : はよう調べてある筈じゃ」 しかしその反対に、敵の息のかかった者が、自 【番は . な、 0 「よッ 由に味方の中に出入りしている : : : と解されないこともな 秀忠はまた言葉がもつれそうになった。父はすでに戦備 ばかりか和議の使者の人選まで、すっかり胸算用を終わっ ( これはおかしな空気になったそ : : : ? ) ている様子なのた : そう思って子飼いの者に探らせ直してみると、有楽斎は その頃もう、しきりに金工の後藤庄三郎光次と連絡してい ることがわかった。 動 後藤庄三郎は、片桐且元とは格別懇ろな間柄である。し たがって、今までも且元の陣中へ自由に往来していたであ ろう。 それが今度は城内へも連絡を持ったとなれば、彼等の間 真田幸村が、いいようもない海いにおののきだしたので、何が問題になっているかは考えてみるまでもなかっ は、天満に陣していた織田有楽斎が城内に引き揚げて来てた。 そういえば織田有楽斎には、はじめから戦意などは無か からだった。 ったのかも知れない。彼は、片桐且元以上に時勢のよく見 籠城ははじめからの覚悟なのだ。 える皮肉な実利主義者だ。したがって、始めから勝負にな ( 戦はこれから ! ) 195
と : か、よく懇談をとげて帰らねば相成らぬ」 「ほんに、そのようなことを申し上げたら、どのようにお すると二位の局が眼を丸くして口出しした。 「まあ ! では、所司代の板倉さまに、ご母公さまや、若怒りなさるやら」 君さまよりも先に、お会いなさりまするか」 「というて、これは内密にはなりませぬぞ。大御所が仰せ 「さよう、板倉どのの助力を乞わねば、万事うまく計らい られたのではない。片桐市正が、わらわ達は何も知らぬと かねるのが今の事情でござる」 思うて、ぬけぬけと申した嘘でござるゆえ」 三人は又顔を見合わせて黙ってしまった。 片桐且元は、淀の方を江戸へ質に差し出す : : : とはいっ たが、駿府の大御所の側女になどとはいわなかった。女た 「では、それがし帰城のうえ、くわしくご説明は仕るが、 お前さまがたからも、市正が、こう申していたと予めお伝ちの先入観にとらわれた解釈は、しかし、さっさとそれを 変えてしまっている。 えおき下さるよ、つ」 受け取り方の相違で話はこうも変わってゆくものであっ 片桐且元は、そういうと、重い心を抱いて、そのまま二 老女の座敷を出た。 おそらく彼は、彼の考えぬいた三カ条のうち、板倉勝重「市正は恐ろしいお人じゃな。若君さまを江戸の将軍家の が、どの一カ条に賛成するかを予め問いただしておきたか許へ遣わせなどと : : : 城から出たこともないようなお方を ったのであろう。 むろん今となっては、家康の本心が移封にあることは隠 正栄尼はそういうと、これも、あわてて眼頭の露を拭く のであった しおおせることではなかった。 且元が出てゆくと、三人の女性は、又大形に眼を丸くし て互いの顔を見合っていた。 「おどろきましたなあ」 まっ先に口を開いたのは大蔵の局で、 「よくもまあ大御所が、ご母公さまを側女に差し出せなど
しったいこのようなむごい嘘をついて、片桐且元にどの 「はい。私たちが大御所に会わずに追い返されたものとは うて、威丈高な申しよう、この尼が男であったら、その場ような利益があるというのか : ちょうちゃく 「ーー若君さまを他へお移し申し上げ、ご母公さまを遠ざ に引据えて打擲してやりたいほどにござりました」 けたうえ、自分で関東のご城代にでも納まる気ではありま 問う方も答える方も今や尋常ではなかった。 すきいか ? ・」 何れも感情の昻まりにわれを忘れて、冷静であろうとす それが大野治長の母の意見であり、 ればするほど脱線しそうな危険を孕んでいる。 もしやこれは、修理どのや内蔵助などへの反感から すでにそれは、内容も片桐且元のいったことと大きく違 かも知れませぬ」 ってしまっていた。 と、いうのが渡辺内蔵助の母の正栄尼の意見であった。 且元は三カ条のうち、何れか一カ条を承知しなければと 「ーーー何れにしろ、恐ろしいことを考えるものじゃ。若君 いったのに、二老女は三カ条とも実行せよといわれたよう さまも、ご母公さまも城を追われる。そうなって喜ぶお方 に哀しい錯覚をしているのた : そこまでいって、大蔵の局はハッと口を噤んだものだ。 彼女の想像の中ではそうした豊家の不幸を喜びそうな人の 二老女は、まだ決して家康に悪感情を持ってはいない 心あたりがあったのだ。 彼女たちが憤っているのは、関東でも大御所でもなく、今 他でもない。太閤の死後さっさと城を出ていった北政所 のところ実に片桐且元その人であった。 したがって関東から出された条件などはさして問題では高台院 : なく、三条件などと空々しい嘘をついて、淀の方や秀頼を しかし、その事件はさすがにロにはしなかった。もしそ 苦しめようとしている且元の肚黒さにたまらない怒りを集うだったとすれば、女子の執念はあまりにもおそろしい。 中させている。 正栄尼も或いは、このことに気がついてきているのかも 彼女たちは道々この事について、いろいろと想像の輪を知れない。宇治のあたりで、思い出したように、十七回忌 の中止を、高台寺にある高台院さまはどのように思召して ひろげあった。
い込んでの帰途であった。それが、秀頼の代理として大法「市正さま、何となされましたぞ。何故黙っておわすの 要の指図一切を任されている片桐且元が、このようなとこじゃ。さ、大御所は、こなた様に何と仰せられたか、承り ろに滞留しているさえ奇怪きわまることなのに、その口か ら、 且元の顔いろ変えての沈黙を、正栄尼はもう完全に一 ' 臭 い ! 」と見てとって、追及するものの口調になっていた。 「ーー法要は間に合わぬ : ・・ : 」 こうした場合の女性の誤解は直線的だ。 そういわれたのだから二老女が疑惑を抱くのも無理はな っ一 ) 0 ー刀 / 「、、つじゃ」 と、大蔵の局も合槌打った。 ( もしかすると、法要延期のからくりは、片桐市正の陰謀 「それで、われ等も市正さまのあとを追って参ったの なのではなかろうか : じゃ。市正に聞け : : : そういわれて、何も聞かずに戻りま とっさにそう思っての反間だったのだ。 且元はむろんそうした受け取り方はしていない。彼は二した、では、お役目が済みませぬ。なあ正栄尼どの」 老女の言葉通りに受け取った。 ったい大御所さまは、どのような 「ほんにそのこと : 難題を仰せられましたぞ」 ( 家康は、女どもには何もいわない : こうなると彼女たちの追及は、責任感よりも興味であっ それは且元にとって全く思いがけないことであり、同時 た。いや、日ごろの反感を剥きだしにして意地わるい加虐 に、あり得ることにも田えたのだ とにかく天下の一大事なのだ。 趣味のとりこになっているのかも知れない。 あぶらあせ 一ーーーー女子供のロ出しすることではない」 片桐且元の額には膏汗がじっとりと浮きだした。顔いろ そういう考えから、いうべきことは、責任者としての市は紫がかった蒼さになり、灯火のかげが、陰惨なまでに反 正にいってある。市正の口から聞くがよい : : : そう伝えた面の陰りを深めて見せている。 「そうでござったか : : : お前さまたちには、何もいわなん としても、決して不自然なことではなかった。 ( これは、いよいよ追い詰められた : : : ) 「それゆえ、市正に訊け : : : そう仰せられたのじゃ。さ、 彼が愕然として顔いろを変えたのはそのためだった。 2
今までは、ぬらり、くらりと主戦論と非戦論の間をあい ましに往復して、さつばり本心は掴ませなかったのに・ それが俄然今は仮面をかなぐり捨てて、実に巧妙な説得大坂城内の空気は、二老女が片桐且元よりもひと足先に 力で、完全に淀の方の関心の方向を変えさせてしまった。 : とい、つことでがらりと一亦久してしまった。 帰って来た : ( これで片桐市正の始末はっき、そして家康への敵意はモ事の成否とはこのように頼りない「はすみーーー」によっ 丿モリと盛り上がろう ) て決定してゆくものなのであろうか。二老女が不用意にき : 」がそのまま「三 き違えた「三つの条件のうちの一つ : 改めて治長を見直しているときに、淀の方は顔いつばい つの条件ー・・・ー , 一として伝えられたことにも原因はあるらし に不快さを見せて身震いした。 「わらわが、そのまま駿府に止められて、老いさらばえた それによって、それまで何となく煮え切らなかった大野 病人に抱かれてゆく : : : おおいやなことー 修理、ではい 治長が憑かれたように家康への敵意を定着させ、治長の憎 ったいこれは何うなるのじゃ ? 」 「申し上げるまでもなく、大御所の肚が読み切れましたう悪がそのまま更に淀の方の不安定な感情の台座に火を移し えは、合戦より他にござりますまい。その合戦には莫大なてしまったのだ : したがって始めは片桐且元に向けられていた疑惑が、わ 軍費が要る。その軍費がすでに城には無い : と思わせる ように謀っていたのも実は大御所 : : : 大御所の意を受けたずか半刻ほど後には、その焦点を家康に変えて、有無をい 片桐市正がしきりにそれをいいふらしてあったのが、たまわさず「開戦ーーー , 」せねばならぬはどの消しがたい猛火に たま彼の留守中に露顕した : : これもひとえに亡き殿下のしてしまっている。 しかも人々は誰もその話柄の飛躍に気がっかなかった。 霊のお導きでござりましよう。軍費充分とあれば、この大 いや、むしろその逆に、田 5 い悩み、行きなやんでモヤモ 野治長も、決してあとに退くものではござりませぬ。この ヤとしていたやりきれない問題が、到頭結論を得たかのよ 上は御台所さまのご身辺にきびしい見張りをつけて、即刻 戦の用意に移る : ・ : ・これより他に手段はないと存じますうな錯覚におちいってホッとするのだ。 「そうか。やはり大御所は、そのようにして、われ等や若 る」