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そして、急遽駿府から駆けつけた鵜殿長照は城に入れ しにり・出すよ、つに玄くと、、 ず、これも名取山へのがれようとして、元康勢を味方と間 そむけた。 違えて話しかけてしまったのだ。 十 長照とその弟長忠が討たれるとあとはさんざんだった。 石川数正の出発に先だって元康自身も名取山に本陣をす一夜にして、城は久松佐渡に占領され、長照の二子はとり すめ、松平左近忠次、久松佐渡守俊勝の二人に西郡を攻めこになった。 させた。 その事情を途中で知って、数正は安堵と不安を同時に感 果して氏真が、それまで 久松佐渡守俊勝は、元康の生母於大の方の良人、信長とじた。人質交換の種はできたが、 の和議 竹千代母子を生かしておくかどうか。 こよって、以前の阿古居城へは留守を置き、みずか らは、嫡男三郎太郎を引きつれて、わが子の異父兄にあた そして、あやうく生害一歩手前の駿府へ潜人してきたの る元康の陣に帰属して来たのである。 元康としては恐らく肉親を救うに、肉親をもって戦いた 「改めて申上ぐることは更にござらぬ。この数正到着の上 かったのであろう。 からは、いかなることがあろうと氏真の手はふれさせませ この戦では久松佐渡守父子もよく戦ったが、松平左近忠ぬ」 次の策謀が意想外の功を奏した。 数正はきつばりと言いきって瀬名の居間をしりそいた 忠次は、この頃からすでに伊賀の忍びの者を多く使ってが、その夜はついに眠れなかった。 、 ) 0 こうした場合、氏真の暗愚さは始末のわるい障壁だっ ばんちゅ、つしょ っ ) 0 伊賀の伴中書、伴太郎左衛門、甲賀の多羅四郎光俊など の配下十八人をまずもって城内に忍び込ませ、城外から攻明敏な相手ならば、数正の交渉からすぐにわが利益を計 算するに違いない。 め立てるのに呼応して城内へ火を放たせたのである。 すでに松平元康は離れ去った。それを憎んで鵜殿が遺子 鵜殿勢はこのために混乱した。味方の中に元康へ寝返り を斬らせるような愚をやっては、松平も鵜殿もふたつなが うった者があると錯覚したからであった。 ノラハラと涙をこばして顔を 5
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すので」 が、前よりも一層用心ぶかい静かさでするすると開いた。 「それで、そなたも泣いていたのか。びつくりするではな そして、眼の中へあやしいおびえをやどしたお万が幽霊 いか。でも : : : そなたなればこそ泣いてくれる。わらわの のように入って来た。 ために泣いてくれるはそなたばかりじゃ。お万 ! 」 お万は敷居ぎわにそうっと坐ると、はげしく泣きむせん お万は消え入るようにうなだれた。 でいる瀬名をばんやりとみつめたまま、しばらく口を利か よ、つこ 0 「察するところ、そなたも浅ましく悲しいところをみて来 たのであろう。やつばり殿は可禰のもとに忍んでおいで 瀬名は泣きゃんだ。 力」 室内がしずかになって、うす暗い灯かげがかすかにゆら 「いいえ : : : あのう、おいでになりませんでした」 いでいる 「忍んでおいでなかった ! それにしては帰りが遅い。途 「奥方さま」 お万がはばかるように声をかけると、誰もいないと思っ中で何かあったのか」 「いいえ ! いいえ ! 何もござりませぬ」 ていた瀬名は胸をおさえてとび起きた。 「お万 ! 」 し」 「まあ ! お万ではないか」 「こなた何かわらわに隠していやるな」 「とんでもござりませぬ。なんでそのような」 し」 「いいえ、何か隠している。こなたの髪はみだれている 「いっ入って来たのじゃ。なんで黙って坐っていたの し、唇のいろもまっ蒼ではないか。こなた誰かにみとがめ られたの」 瀬名に声をかけられると、 お万はここで泣いてはならないと思いながら、感情の大 波にぐっと意思をのり越された。 お万は一層あわてて小さくなった。 胸につかえた汚物をはき出す勢いでワーツと泣いてハッ 「奥方さまが : : : あまり悲しそうにお泣きなされておりま 124
うったえる : : : 怖れることはない。わしはこなたを責めて いるのではない」 「花慶院はお人好しゆえ、こなたの言葉をそのまま信じ て、わざわざわしの垢掻きにまでよこしたのだが、そなた は、そ、つしている、っち、ほんと、つにわしが好きになった」 元康は柔い言葉で断定したが、可禰はさしうつむいたま ま否定も肯定もしなかった。 「わしにはわかっている、そなたに害心のないことが。そ しかし、、 れゆえ、危く愛しそうになったのじゃが : れではそなたが哀れになる」 「可禰、酔うた : 「わかるか、そこの道理が。わしの手がついたら、苦しむ 元康はまた厠へむけて音をたてずに歩きながら、 「月にこたえたそなたの横顔の白さの中に、何も彼もがよのはそみたなのじゃ。わしにかくしてある秘密のため、絶 えず心を悩ますのは : : : それゆえ、そなたが、その秘密を く見えた。こなたはまだ男を知らぬ」 打明けて、楽な心になるまでは、わしも慎もう。そなたの 可禰はぶるぶる震えながら、火を消した手燭をささげてために」 、フつむいた 「お殿さま ! 」 不意に可禰は元康の前へまわって。へたんと膝を床につい 「こなたは誰かにいいつけられて花慶院のそばへ仕えた。 そうであろう」 「申上げまする。申上げまする。お許し下されませ」 し」 「いう気になったか。それはめでたい」 「そして、わしに近づくために、わしが好きだと花慶院に 「戯れはよして用を足そう。案内せい」 「よ . 可禰はうろたえて訊き返した。彼女はすでに元康が、自 分を抱えこむものと信じきっていたらしい 「可禰」 急に元康は言葉をきびしくした。 「こなた誰に命じられて、その身を元康に任そうと思いさ だめた」 さりげなく訊ねられて、可禰の肩はびくりと動いた。 6
いやれ。わらわがきっと仇を討ってやるほどに、さ、その と止めた。 男の名を : : : 」 案のごとく、それからの瀬名の追究は急になった。 : はい : : : お殿さまにみとがめられました」 「さ、隠し立ては許しませぬ。何があったのじゃ、誰にみ「は : 「よこっ ? ・ルズこ . とがめられたのじゃ」 そういうと瀬名はべたんと尻餅ついた。こんどこそ完全 瀬名もまた唇の色をなくして立って来た。もしお万が人 に打ちのめされて、泣くことも怒ることも出来なかった。 の眼にふれたとすれば瀬名にとっても一大事であった。 やがてその事は家康の耳に入るであろうし、入れば瀬名お万はみとがめられた人の名をいうつもりで、体を許し 、た人の名を口にしてしまったのだ : の指図と知れ、いっそう家康にうとまれることになるのは わかりきっていた 「まさかこなた、わらわの名は出さなかったであろうの」 奇人軍談 「おやそなたの背から腰に枯松葉が : : : あっ : やさしくさする形でお万にふれて、瀬名の眼は異様に光 っ一」 0 築山のすすきの上に月がのばった。 「こなた : : こなた : : : 誰か男に襲われて来やったな」 中秋の名月だった。澄みすぎた感じが却って肌にせま 「奥方さま」 ばっとお万は瀬名の手をはねのけてとびすさった。全身り、竹之内波太郎は唄う気にも舞う気にもなれなかった。 が、客の随風はしきりに大盃をかたむけて、諸将を論じ が改めてわなわなと震えるのもお万の意思を超えたカの働 政治を語った。 きだった。 「お許し下さりませ。でも : : : でも : : : 奥方様のお名は決刈谷の城に近い熊屋敷で、酒を運んで来るのは緋の袴を うがった巫女たち。波太郎は総髪を艶やかにうしろへ垂ら して」 して、時々軽く随風の言葉にうなすいてみぜている。 「出さぬといいやるか。隠すな。よいか。その男の名をい 125
「まあ、待ちゃれ」 「では殿は、ご自分の弱さを千弋どのに幗じよ、つとか。 家康はまだ視線を庭に投したままで、 「こなたには末の末まで説かねばわからぬ。お許いまの織ホホホ、そのような弱い大将でおわしたのか」 田の勢力を知っていやるか」 家康の眼が急にはげしく、怒りをたたえて瀬名の上に向 「存じませぬ。存じて居るは、今川家の仇敵と、ただそれけられた。 三けにござりまする」 「心を静めなされ。織田家はなんで今川家の仇敵になった のじゃ」 家康の眼のはげしさはさすがに瀬名をハッとさせた。笑 「御所が : : : わが身の伯父上が : : : 首討たれているではご ってやることが、どんなに男を怒らせるものであるかは瀬 ざりませぬか」 名もよく知っていた。中啓が飛んで来るか、それとも脇息 「何で首討たれたか、こなた考えたことがあるか。今川家 : と、思わず身をかたくしたのだが、家康は、最後の から、わざわざ織田領へ攻め入って首討たれたのだそ」 一線で、あやうく自制したらしい。 「じゃと一一一一口って : ・・ : 」 「御前」 「心を静めよと申して居る ! 駿、遠、三 、三カ国の太守「何でござりまする」 が、自分から攻め入りながらなぜ首を討たれたのじゃ ? 「お許と予の婚姻も政略だった。それを、お忘れではある 織田家の気力、すでに今川義元に立ちまさったりとは思わまいな」 ぬか」 「忘れねばこそ、竹千代どのには、その不幸を味わわせと うないのでござりまする」 「よかろう。味わわせまい」 「今川義元にさえ、立ちまさった尾張勢を、予一人で敵に 迎えるーー迎えられぬゆえのやむない事情とは気がっかぬ家康は深沈とした声で言った。 力」 「婚姻だけが竹千代の幸不幸を決定すると、お許が信じき っているのではやむをえまい」 家康がそういうと瀬名はとっぜん頬をゆがめてあざ笑っ 111
こんどはそれを下さな 前より一層高く手をふりあげたが、 「母上さま : つ 0 , 刀 / 二人が並んで坐って挨拶しても、瀬名は眼を据えたまま しばらく何も言いえない。と、思うと、こんどは突然、甲瀬名自身が、顔をゆがめて泣き出したのだ。 「むごい母じゃとうてくれるな。のう姫、母がわるいの 高い声でたてつづけに話し出した。 「よいか。この母もいっしょに死にまする。決して見苦ではない。お父上さまの罪ぞこれは。よく覚えておくがよ い。お父上さまは、わらわやこなた達はどうなっても構わ しく、泣きわめいてはなりませぬ。二人とも松平蔵人元 康がお子じゃ。、、 ししえ今川治部大輔義元の姪、瀬名のお子ぬのじゃ。こなた達を見殺しにして、自分の野心をのべて じゃ。見苦しい死に様して笑われてはなりませぬ。わかっゆく : そのようなむごい父の子に、生れたのがこなた達 たのう」 の不運なのじゃ。母を怨んでくれるなよ」 それから、あわてて帯の間から懐剣をとり出して、震え 四つの竹千代はきよとんとして、いつもと違う母を見上 ながら姫ののど笛にそれをつけた。昻ぶりきった今の感罸 げていたし、亀姫は、わーツと声をあげて泣き出した。 がおさまると、死ぬ勇気がなくなりそうで、それがおそろ 七つの姫にはすでに母の言った、「死ー」が、わかっ しかった。 たのであろう。 「あれーツ」 「姫、なぜ泣くのじゃ。母の言うことがわからぬのか」 おどろいてお万が走り出そうとするのと、酒井忠次の妻 「母上さま、お許しを : : : お許しを : : : 姫はよい子になり、 碓氷の方が走りこんで来るのとが一しょであった。 まする」 「御前、何をなされまする」 「ええツはしたない。それで武将のお子か姫は」 さっと片手を振上げると、姫はあわれに体をくねらせて碓氷の方はびしりと瀬名の手首を打った。瀬名はぼろり と懐剣を畳におとして、ばんやりと相手を見上げ、それか 亠よた」泚いた らまた思い出したように甲高く泣き出した。 入口でお万は茫然として、瀬名の仕打ちを見やってい 瀬名はピシリと一つ姫をたたいた。そしてそのつぎには る。 9
「待てば海路の日和とはこのこと、急げや用意を」 寺の大衆のカづけであった。その寺の助勢は祖先の徳行が それは苦節十年の岡崎衆にとっても夢みるような出来事 基をなしている。 ) つ」 0 ( そうか祖先はやはり死んでおられなかったのか ) 総大将の義元が討たれたことで、岡崎衆があれほど待ち その感動をぐっとのんで、 「田中次郎右衛門め、そうか。城を捨ておったか。やむを望んだ帰城の日がやって来ようとは。 得ぬ。捨てた城ならば駿府の指図はなくとも拾わずば相成元康をまっ先にして、まだ落ちきらぬ斜陽の中をみんな はふしぎな感慨で進んだ。城の大手へかかると、そっと自 るきい」 いいながらずっと一座を見回すと、元康の心を知らぬ天分のほおをつねってみるものすらあった。 元康は大手多門の前で馬をおりて手綱を本多平八郎に渡 野康景は、 「追討ちをかけましようか」と、血気にいった。 ケタ行八間四尺、 ハリ行二間四尺のこの門はそのままく 「たわけめ」と、元康は軽くしかった。 ぐるにしのびない門であった。生母於大の方の輿を迎えた 「われらはどこまでも今川家への義を踏むものだ。捨てた 門自分を人質に送り出した門。 城ゆえ、拾うというのがわからんのか」 その門をじっと下からにらみあげると、八幡曲輪の老松 「なるほど、それはよい思案 ! 」 登誉上人がはじめてそれに気づいたように、ポンと中啓にあたる風の音が遠い遠い魂の声とな 0 て、あたりの大地 を揺り起している感じであった。 で自分のひざをたたいたとき、 「では : ・ : 」と、元康は立ち上った。 「空城一つ拾いに参る。すぐに勢そろいするように」 そしてはじめてはおをくずすと、声をあげて笑ってしま 「空城を拾いに行く ? 」 。・ほんとに城を捨てて逃げたのか」 つ」 0 二つある矢狭間も、四つある鉄砲狭間も荒れていた。駿 府からの留守居にすれば、わが本城ではないので、自然手 入れもおろそかになろう。 平地より四間五尺の高さの石垣には夏草がおびただしく
が想われて、姫は体をひきかけた。すると、なぜであろう 四 か、自分でも思い設けぬことなのに、ポトボトと涙が膝へ 次郎三郎が、子供のような動作をすると徳姫は悲しくなおちて来る。 「おや ? 」 次郎三郎はめざとくそれを見つけて、 八つからあしかけ四年間一緒にいて、 「何が悲しいのだ。おれが何かわるいことをしたのか、 これは良人なのだ ) そう思いこんで暮して来たせいであろう。もう次郎三郎 うしろから頬をよせて訊いてくる。 と離れた人生は考えられず、父の信長にくらべてみても、 「泣くな姫、知らねば知らぬでよい。もうきくまい。泣く 生母のお類の方、正室の濃御前に比べてみても、次郎三郎 の方が親近感は深くなっていた。 いいえ ! いいえ ! 」 去年の秋の 2 以前にはよくすねたり怒ったりしたのだが、 次郎三郎が、また子供に返りそうな口調なので姫ははげ 2 深まるころから、めつきりと大人びて、ふさぐことが多く よっこ 0 しく首をふった。 次郎三郎と姫の結婚を、築山御前がよろこんでいない事「三郎さまが、お聞きなされたので泣いたのではありませ 情もわかって来たし、夫婦とはどうして暮すものかもひとぬ」 「では、ほかに何が悲しい。のう姫、今日はめでたい元旦 りでに知って来ていた。 次郎三郎が何気なく近づいて、うしろから眼かくししたそ。わけを聞かせ。誰か姫にむごい仕打ちをしたというの 力」 り、頬やえりあしに触れたりすると、ドキンと胸が波打っ いいえ ! 涙はうれしい時にもこばれまする」 「ほほ、つ。では、それは嬉し涙か」 もう何かしら体で待っているのである。 「はい。三郎さまが、やさしく梅を髪にかざしてくれまし それなのに、次郎三郎は、いつも待つものに触れかけて は、いたずら好きな子供にかえる。今日もこのあとの失望た故」 つ、 ) 0