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検索対象: 徳川家康 3
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1. 徳川家康 3

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2. 徳川家康 3

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3. 徳川家康 3

こんどはそれを下さな 前より一層高く手をふりあげたが、 「母上さま : つ 0 , 刀 / 二人が並んで坐って挨拶しても、瀬名は眼を据えたまま しばらく何も言いえない。と、思うと、こんどは突然、甲瀬名自身が、顔をゆがめて泣き出したのだ。 「むごい母じゃとうてくれるな。のう姫、母がわるいの 高い声でたてつづけに話し出した。 「よいか。この母もいっしょに死にまする。決して見苦ではない。お父上さまの罪ぞこれは。よく覚えておくがよ い。お父上さまは、わらわやこなた達はどうなっても構わ しく、泣きわめいてはなりませぬ。二人とも松平蔵人元 康がお子じゃ。、、 ししえ今川治部大輔義元の姪、瀬名のお子ぬのじゃ。こなた達を見殺しにして、自分の野心をのべて じゃ。見苦しい死に様して笑われてはなりませぬ。わかっゆく : そのようなむごい父の子に、生れたのがこなた達 たのう」 の不運なのじゃ。母を怨んでくれるなよ」 それから、あわてて帯の間から懐剣をとり出して、震え 四つの竹千代はきよとんとして、いつもと違う母を見上 ながら姫ののど笛にそれをつけた。昻ぶりきった今の感罸 げていたし、亀姫は、わーツと声をあげて泣き出した。 がおさまると、死ぬ勇気がなくなりそうで、それがおそろ 七つの姫にはすでに母の言った、「死ー」が、わかっ しかった。 たのであろう。 「あれーツ」 「姫、なぜ泣くのじゃ。母の言うことがわからぬのか」 おどろいてお万が走り出そうとするのと、酒井忠次の妻 「母上さま、お許しを : : : お許しを : : : 姫はよい子になり、 碓氷の方が走りこんで来るのとが一しょであった。 まする」 「御前、何をなされまする」 「ええツはしたない。それで武将のお子か姫は」 さっと片手を振上げると、姫はあわれに体をくねらせて碓氷の方はびしりと瀬名の手首を打った。瀬名はぼろり と懐剣を畳におとして、ばんやりと相手を見上げ、それか 亠よた」泚いた らまた思い出したように甲高く泣き出した。 入口でお万は茫然として、瀬名の仕打ちを見やってい 瀬名はピシリと一つ姫をたたいた。そしてそのつぎには る。 9

4. 徳川家康 3

どっらす。行光の太刀そ」 ざは冴えきった刀身に似て、生きておどる者ぶりオ 」 0 信長の手から引出物を渡されるとき、新六郎は戸惑った 恐らくこれほど端麗な武将はまたとあるまい。 わけてもその眼の輝きは心にせまるものがあった。 表情で、そっと元康の顔を仰いだ。 ( 想像にたがわぬ育ち : : : ) 敵と信じきっている信長から、「宝 , ーー」といわれたこ と、元康は思った。これは、「天 , ーー、」が、今川氏に代とに、この律義な老武者は割切れないものを覚えているら るべき者を欲して創造した人物に違いない。切れ味、理しい 性、勇武と、恵むべきものを恵んで。 「そなたの忠を賞でられての引出物、厚くお礼を申上げ 信長の感懐はその反対だった。 見たところ信長が想像していたほど凛々しく鋭い武者ぶ 元康がそういうと、新六郎の眼は見る間にまっ赤になっ りではなかった。丸く豊かな頬のあたりにいかにも質朴なていった。 線をきざみ、もの柔かな姿勢のうらに不動の自信をかくし 十 てみえた。 ( この年で、この体で、あれほど鮮かな掛引きをやっての盃がはこばれた。 きらびやかに着かざった小姓たちが、信長から元康へ、 ・け - に ) いや、戦の掛引きだけではなくて、岡崎城へ入ってから元康から信長へと、銚子の酒を注いでいった。 の経営も所領内への行政ぶりも眼をみはらせるものがあ 岡崎で想像していたのとは反対にすべてが対等でいささ る。 かも勝利者の傲岸さは感じさせない。元康は信長がこわく よっこ 9 ( 結ばねばならぬ男 : : : ) きんじ 信長はまず近侍に今日の引出物を運ばせた。 ( この手で接近されては、ぬきさしならないことになる : 元康には長光と吉光の長短一揃い の刀。植村新六郎には むろん臣礼をとる気はなし、取れとも言わぬに違いな 行光の太刀を贈った。 い。それでいて、ぐっと肩に重みを感じるのは、立場は対 「三河の宝はこの信長にとっても大事な宝、植村これを取

5. 徳川家康 3

つかっかと寄って来て提灯をさしつけたのは、城内見回 じ臥床に明けくれする自分のまばろしが見えて来た。 りの本多作左衛門だった。 お殿さまに嫌われている奥方さま。 「よし、入れ」 三の丸のはしためにすぎない可禰。 「お役目ご苦労に存じまする」 それに引きかえてお万は家康の心をつかんだお局さま。 こ 1 てつつばね ホッとしてくぐりを中に入りながら、お万はまだ空想と ( そうだ。小督の局がよい ) 現実の間をゆき来していた。 と、お万は思った。京から嫁いで来ていた自分の祖母が 御殿の中はシーンと冷たく静もり返っている。お万はひ 宮仕えしていたときの、小督から思いついた名であった。 くりや 小督の局は眼から鼻へぬける悧巧さと、滴るような容色ろい厨を右に見て、自分の小さな部屋〈通った。いっか頬 は上気して胸がかろくはずんでいる。小さな灯皿の下に坐 の若さをもっている。 って、ホッと胸をおさえてみた。と、入口の襖が音もなく 決して奥方さまのように、自分からお殿さまにうとんじ られるようなことはせず、つつましい貞淑さで縋ると見せ開いて、そこに蒼白な女の顔がゆらゆらとうきあがった。 「お万 ! 」 て相手をつつむ : ・ し」 そうなったら、たくさんの家臣たちも、小督をないがし 「こなたまた殿のもとへ呼ばれたな」 ろには及、つ、まい 万はおどろいて上体をうしろに支え、怒りにふるえる瀬 美しい絵巻をくるように、お万がそうした空想をくりひ 名を見上げた。 ろげているときに、 と、太い男の声であった。ハッとして気がつくと、すで にそこは築山御殿の築地の外であった。 「はい。奥方さまの侍女、万でござりまする」 「なに、築山殿の女中とな。灯りも持たずに何をしていた のだ」 「お万 : : : 」と、言って瀬名はうしろ手で部屋の襖をしず かにしめた。 お万は答えるつもりであったが、なぜか舌がうごかなか った。それほど瀬名の形相は、すさまじい蒼さとゆがみに 164

6. 徳川家康 3

っとめて静かに話しかけると、相手はくみし易しと感じ 四 たのか、急に声をころして泣き出した。 お万とのかりそめの情事を瀬名に気づかれた : : : それは 「泣いていてはわからぬ。思うことを申してみよ」 「よ、 : 」お万はいっかの気強さはみじんもなく、甘え家康にとっても心にかかることだった。 瀬名は普通の神経の女ではない。嫉妬しだすと理性をな とおびえでそっと家康の袴のすそにすがって来た。 くして狂ってゆく。かりそめのことだと言って、笑って許 「お殿さまの : : : お手がついたと : : : 奥方さまにさとられ す女でもなければ、許そうと努めたり、再びそれを繰返さ 寺 ( した」 せまいと思案を重ねる女でもない。 「ふーむ」 その時の感情の猛りのままに何を仕出かすかわからない 「それからは夜毎のご折檻 : ・ 女であった。 折檻ではござりませぬ」 家康は布えきって震えているお万を見ているうちに、そ 「どのような折檻じゃ」 「よ、 : いいえ : : : それは申上げられませぬ。死ぬよりの不安が悔いとなり、怒りとなり、嫌悪となった。 「死ぬよりつらいはすかしめとは ? 申してみよ。誰もい 7 もつらく恥しい : ・・ : 4 わ殿さま ! 」 オし」 「死ぬより辛いとは : いえ : : : それは : ・・ : 申上げられませぬ」 「お願いでござりまする。奥方さまのもとへお運びなされ「いいえ、 「言わなんだら、わからぬではないか。申してみよ」 て下さりませ。でないと : : この万は : : : 」 しかしお万はかぶりを振るだけだった。 「斬られるとでも申すのか」 事実、十六のお万には、瀬名の折檻はロに出来る性質の 「いいえ : : : いいえ、それ以上の責苦に会いまする。こな たがわるいのではない。こなたの中に住む、淫奔の虫がわものではなかった。 るいのじゃと、それは : : : それは : 「ーーー万がわるいのではない。そなたの体についている淫 らなものが」 家康は裾にすがってかきくどくお万のうなじに視線をじ っとおとした。 そう言って手足をうごかぬように踏まえたうえ、体をな : いいえ、それも、なみのご 160

7. 徳川家康 3

原を圧してきた。 四郎左はそう思い、家康は、 大久保忠世の弟忠佐が柴田康忠とともに家康の前へやっ ( どこまでいっても予の心のわからぬ奴 : : : ) て来て、 その悲しみでじりじりしていた。 「殿 ! もはや双方の距離は半里が程にせまりました。掛 考え尽すべきことを考え尽して、天の裁断を待ってい る。ここであがいて生き残り 、いたずらな他人の意志でむりまする」 と、はやり立って来たのはひる過ぎだった。 ざんな戦を繰返させられ一国一城の主であるより、むしろ 「、お、つ」 われを死なしめ給えと祈っている。そうした心境をみんな と、家康はこたえた。 にわかれと言うのは無理かも知れない。ー、 カ家康は、すで 二人は武者ぶるいして幕の外へかけ出し、 にここで運命と勝負せすにいられないほど大きく育ってい 「、ものども , たのだとも言える。 叫ばうとしたところを、渡辺半蔵に 「お館 ! 」 「待てッ ! 」 「何だ ? 」 と、つよく押えられた。 「ご決心は動かぬと見てとりました。それがしが臆病かど 「この期に及んで何を待つのだ」 、つか、よくご覧下され。必ずお、いに思い当ることがござり 「待てツ」半蔵は同じことを繰返した。 忠広は低い声に力をこめてそういうと、すっと立って幕「殿は相変らず気負って居られるのか」 の外へ出ていった。 「戦に気負わぬ大将があるものか」 「ふしぎなことがあるものだ」 半蔵は声をおとし、首を傾けて、 きびしい寒気のうちに時は経った。 「よく見て見ろ、敵の厚さは鉄壁に見えるのに、味方は薄 敵の大軍は粛々と冬の風を背にして進んでくる。あせらく透いて見える。これで殿が思いとどまらぬとは : ず急がず、その備えはふしぎな重量感でひたひたと三方ケ「半蔵、またしてもおぬし士気をそぐのか」

8. 徳川家康 3

陽がのばりかけて、空も地上もあざやかに紅がさしてい いた。本多作左衛門がすすみ出て、 る。冷たい風が肌にせまって、ここでもあやうくむせびそ「まず以っておめでとうござりまする」 うになった。再び見ることのない人の数がふえているのに その言葉につづいて、声をそろえて、 頬白どもがはじけるように囀っている。 「おめでとう存じまする」 「お館さま、歯がための用意が出来ました」 具足の袖がかわいた音をたてていった。 うしろで澄んだ声がした。 お愛であった。家康は軽くうなずいて室内へ引っ返しす ぐに武装にかかっていた。平服で迎えられる正月ではな 歯がためが済むと、それぞれがもはや平日同様の忙しさ きりり・と袖をしばり・ながら、 であった。 「お愛、負けたのう」 武器をみがくもの、米や馬糧を倉におさめるもの。節期 と、笑ってみせた。お愛は大きく眸をみはって、 の年貢を城内へはこぶものなど。 「何が : ・・ : でごギ、りまするか」 家康はそれらの人々の間をぬって城の東方へやって来 「去年の戦だ。よい経験になったそ」 「愛は負けたとは存じませぬ」 ようやく空の初日がのばりかけているのである。家康は 「、ふん」 その日に対して大きく胸をひろげたまま、しばらく凝然と 動かなかった。 家康は笑って広間へ出ていった。 広間にはすでにきびしい武装で諸将がずらりと並んで待「お館ーーー」 っていた。彼等の顔色はようやく生気をとり戻し、どれも とうしろで太刀をささげていた井伊万千代が声をかけ 一層以前より不敵な面魂になっている。 家康はひとわたりそれを見回して、 「お万の方がいらせられました」 「今年はわれ等が運命の決する年ぞ」 家康は聞えたのか聞えぬのか黙ってそのまま立ってい と、重くいった。みんな、胸をたたくようにしてうなずる。

9. 徳川家康 3

永禄十二年の正月だった。 父と子とがお互いに相手を認めあいながら、いっしかそ れを竸争相手に選んでいる : : : というのはいったい何を意 父は、そうしたことで家康を歯牙にかける様子もなく、 味するのであろうか ? 「ふ」ん」と大っこ、、こナ。こっこ。、、、 父と交りを断った家康 その点では外を計るに稀な才能を持った信玄も、内はつは、当時駿府にあった武田家の名将山県昌景を、爛眷落花 の駿府から追いはらって万丈の意気を示した。 、に寸りきれなかったというべきであろうか。 しかも家康は昌景を走らせて功におごらず「ここに家康 勝頼は父程に越中や加賀を案じていなかった。彼等一向 宗徒は、石山本願寺からの指令により全力を尽して謙信のあり ! 」の気概を示すと、甲斐勢の反撃を待っことなしに サッサと浜松へ引きあげた。 進出を喰いとめるに違いない。 その駆引のあざやかさに、勝頼は、新しく興る者の「勢 だが心配なのは出陣第一に通らねばななぬ遠江、三河の い」をひしひしと感ずるのである。 徳川家康のことだった。 家康と父とは永禄十一年の二月、今川氏の君臣不和を見今川義元は新しい勢いの織田信長をかるく見て、上洛途 てとって、大井川を境として駿遠二国分割の密約を結んだ 上最初の一戦につまずき、田楽狭間に生命をおとしている 3 ではないか のである。 ところが父はその密約を破って、遠江大居の城主、天野 ( 家康を軽く見てはならぬ : : : ) 景貫が内応したのを幸いに、信州飯田の城主、秋山信友を 問題は越中、加賀にはなくて、却って最初にまかり通ら して三河、遠江に攻人らせた。 ねばならぬ前面の遠江と三河にある。 その時遠江久能の城主久野宗能、馬伏塚城主の小笠原長 父は甲斐の大軍が、周到な用意のもとに動き出したと触 忠等は三河の作手城主奥平貞能とともに信友の軍を迎えてれさせたら、利にさとい家康は浜松城で頬かむりして、黙 って父を通すであろうと計算している。 悪戦した。 若い家康は烈火のごとく憤激し、直ちに兵を出して、秋勝頼はそうは思わなかった。 それは却って家康に敢然抗戦を強いる結果になるであろ 山信友を追いはらい、父のもとへ痛烈に違約を責める書を うと見てとっていた。 送って、ここに両家の密約は破棄された。

10. 徳川家康 3

( いや、なり下ったのではなくて、自分という男が、家康 「許してくりやれ。でも、これはそなたが悪いのでも、わとおなじ人間だったのを知らせてくれる神の暗示ではなか らわがわるいのでもない。みんな殿がわるいのじゃ。殿はろうか ? ) : 殿は、このようなことを自分だけ : : : いつも」 「のう彌四郎、なぜ黙っているのじゃ。そなたもそれほど そう言うと、また瀬名は彌四郎ににじり寄って、そっと この瀬名をきろうてか」 その肩に手をおいた。 彌四郎は瀬名の声がまるで変ったのを感じた。 ( なぜであろうか ? ) 五 以前の瀬名は、家康の次に自分を圧迫する威厳に似たひ びきを持っていた。それが、いまは自分の女房とおなじ可 彌四郎は畳にうつ伏してはいたが泣いているのではなか 憐さに変っている : 彌四郎の女房は足軽金剛太左衛門の娘であった。足軽仲 3 彼の上にも、この、あり得べからざる神の試みが、次の 間では小町娘などと言われた。 生き方の変化を求めて迫っている。 彼等が小さな足軽長屋で婚礼をあげたとき、老人たちは ( どんな顔をして奥方に対していったらいいのか : : : ) 彼にとっては絶対に近い主君の家康。その奥方が、自分雛人形を見るようだとほめてくれた。名前はお粂という。 の女房とおなじ女であったという、茫然としたおどろきにお粂はいつも彌四郎にいった。 こなた様は、、 力ならず出世なさる方と思うていまし 微かな征服感の満足さえ加わっている。 いままでは、仰ぎみるのも眩しかった家康に、瀬名の肉た」 体を通じて一歩近づいたような気もして来るし、そう考え そして出世するたびに、 ることが、すでに許すべからざる不信のようにも隸えてく 「ーー朋輩にそねまれないようにして下され。みのるほど る。 これを忘れて下さるな」 に頭を垂れる稲穂かな 限りなく家康を憎んでいる瀬名と、限りなく家康に、い服今では小さな屋嗷をもらっているが、野菜作りは自分で する。それだけに、指も肌も瀬名の柔さとは比べものにな している自分とが、ひとしく「姦通者」になり下った。 っ” ) 0