こなた - みる会図書館


検索対象: 徳川家康 4
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1. 徳川家康 4

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2. 徳川家康 4

御前の手は氷のように冷たく 彌四郎の手はあたたかく、 「御前 ! 」と、また彌四郎は一近づき、こんどは眼をつ なっている。 むる想いで、自分から御前の肩へ手をまわした。 彌四郎はそっと御前の唇をはなした。中指の爪先に紅が 「何も仰せられまするな。この彌四郎にお任せなさりま ついて、それが不快な煩わしさを感じさせたが、いまは露せ。彌四郎は、深く、よく考えておりますゆえ」 骨にそれを示してよい立場になかった。 ぐっとまわした手を引くと、御前の体はそのまま彌四郎 「彌四郎どの」 の胸に倒れ込む : ようやく御前の表情は変った。冷たく意地わるい硬直が 「今の言葉に嘘はないか」 とけて、肉塊の意志がだんだん全身を灼熱させてくるので ある。 「何の : : : 嘘などと : 「それなら、その証に、こなたの手で徳姫が子を殺してた彌四郎はその肉塊の意志にむらむらと嫌悪をおばえた。 も。それを見たら、わらわもこなたを信じよう」 思いきり強くその頬をはりとばし、唾を吐きかけてやりた くなった。 彌四郎はギクリとして御前から離れると、はじめて大き く吐自 5 をもらした。 ( といって、それの出来る時ではない : 「彌四郎 : ・ 四 と、いうと、こんどは御前の方から両手でひしとすがっ てきた。 「御前 : ・・ : 」と、しばらくして彌四郎は言った。 「それはおやめなされませ。そのような事のために、大事彌四郎は観念した。これも男の事業の一部と、自分で自 を悟られては、差引大きなご損と、お気づきなさりませぬ分を叱りつけながら、相手の戸に蜜の甘さを合せていっ 力」 築山御前はまた探るような眼になった。いやがられるの 「御前 ! 」 を承知の上で、いやがらせようとする年増女のあやしい心 「彌四郎 ! 」 理が、露骨にその面貌から感じとられた。 いっか外はポツリ、ポツリと一用になっている。、フっと、つ 314

3. 徳川家康 4

そこへ信康はあらあらしく戻って来た。 「お父上に申したとおり述べてみよ。何を言ったのだ」 : ただご機嫌よくいらせられますようにと : : : ご「来い ! あやめ : : : 」 あやめは信康に手をとられて、その場へ突き倒されるよ 挨拶申上げただけでござりまする」 「それが出過ぎたことだと気がっかぬか。この前はあやめうにすわっていった。 に何と申した」 「あやめ ! 」 「姫のもとへもお運びあるように : : : そう言って指図した 「こなたはこの信康をたばかったな」 のを忘れたのか」 : なんのことで、こギ、りましよ、つ」 しいえ、決してそのような指図など」 「こなたは小侍従が、姫のもとへも来るように : : : そう申 「せぬというのだな。よし、ではあやめが嘘を申したのだしたと信康に告げた。小侍従はさような指図はせぬと申 : これへ呼んで糺明しよう」 す。どちらがまことか、嘘は亠、ぬ。はっきり一一「ロ , ん」 信康は挈、、つ一一一一口、フと、 「申上げまする」 「あやめ ! あやめ : : : 」 と、小侍従はあやめをかばう形になった。 すっくと立って声高に廊下へ出た。 「つれづれの話柄に、あるいはそのようなことがあったか も存じませぬ。お許しなされて下さりませ」 「なにツ ! ではその方が指図したのではないか」 「いいえ、指図などというものではござりませぬ。ほんの 血相かえて出ていった信康を見ると、 つれづれの : : : 」 「小侍従 : : : 」と、姫はふるえた。 、。、ツと信】康の手が、つ、こいた 「默 ~ れー・」とい、フと 「こなたどうする気じゃ、あのように怒らせて」 「あっ ! 」と、小侍従はうしろへのけぞりながら髪をおさ しかし小侍従は冷静だった。 「何か誤解を遊ばしておられまする。よくお詫び申しますえた。 信康の無意識に振った太刀の鞘がふれて、指の間から黒 るゆえ、お案じなされまするな」

4. 徳川家康 4

「というと、妾腹の子も養っているのだな」 あとの二人は : : 」と、正直に答えてから、 「でも、そう思っては済まぬ、みなわが腹を痛めたもの 「わかったわかった」 忠世は自分で言い出しておきながら、聞くのが辛くなっ てあわててさえぎった。 「彌四郎も、もう側女の一人や二人、持てる身分になって いたのだからの」 「よい。 ~ 羽糶いこと : : と、思わなければなりませぬ」 「分った : : : 思わなければならぬのだな、こなたによ し」 「こなた、子供は六人あると申したの」 お松はまたニコニコと頬を笑み崩して、 客間へ通ると忠世はまた言わでものことを言った。 「身分の低いわれ等夫婦を、このようにお取立下されたお ( こんどこそ ! ) 館さまのご恩、決して忘れては済まぬと、心の戒めのしる と、何度か心をはげましながら、お松の明るすぎる顔をしに、私は生涯、馬の飼料と水仕事は、誰の手もかりすに 見ると、言葉があらぬ方へそれるのたった。 やり通す覚悟で居りまする」 それほどお松の表情に影はなく、自分を幸運と信じきっ 「大殿のご恩を忘れぬためにのう」 ている素朴な感謝が、動作の節々にあふれていた。 「はい。お館さまが戦場にあられるのに、私どもが骨折り 「はい。六人と申上げました」 をきらっては罰が当りまする」 「みな、こなたの腹を痛めた子か」 「妻女 : : : わしはこなた達を、よい夫婦、似合いの夫婦と 「はい。そう思って、有難く育てて居りまする」 思うていたが : : : やはりおぬし達も大殿と築山御前のよう お通り下さりまするよう」 「そうか、実はの、ちと折人ってこなたに話があるので 久は 忠世がそう言うとお松はいそいそと自分で立って洗足をと、 とって来た。 忠世はそのすすぎに足をひたして、自分の手が細かく震 えているのに気がついた。 ( 何も知らぬのだお松は : : : ) せめて、何かの噂でも耳にしていて呉れたらよかったの に、そう思いながら息をつめて客間へ通った。 380

5. 徳川家康 4

つ小え予はそ笑 分 った侍つがいなっ て。従 ! そたて はい つ る眼しそ をたれた 分ま を る じ いす気て てるづい 黙のか た へぬの つ も て い豸 ( の る康と のは じ追 て や か た るの か よ せだ め 家康の語気がにわかに改まったのて 「予も肓目ではない。こうしてみずから城に繩張りしにや って来たのも、薄々それに気づいた故じゃ」 「ご存じでいらせられましたか」 「たとえ知らずに参っても、来てみればわかること。信康 た はどうやら表裏ある扱いをうけていたようじゃ・ れはそなたたちに関わりないこと。よいか、そなたは姫に かしずく身。姫の身辺に過ちないよう心せよ」 「よ : 「それからの、こなたに特に頼んでおく。信康はまだ若 信そ通知立小ま互残でのとら小よはよ。世心る 康うすつ上侍たいりはだのれ侍しいや老の得でそ の言るてっ従家にお 。十る従、婆中てはれ 分もはさ い。若いゆえに奥であれこれ噂のまとになるやも知れぬ。 心に居なを 態え者いたは康きし がはりいそ 度ばがる。去はびげくのの不が 、まぞの と満れ っぴしにれ てしくそぐ 時おる ・つ いり用うれロつあ てじる 々かな口 反しどに っと心いも にてっ 違と 、すた押しう せいた の 耳 の節寝る 。えよと ぬた 見が耳な家たう のど えなにと ちがな れ るい水は く は さ事と そ のでで なな ももあっ の ら れは いなった ふいたが姿 てぬ は事 が 相も わ反知 し れ対ら ら てでせ る る 敵 し と た ぬ し へと つう褒 こ、り、岐阜へ洩らしたり 7

6. 徳川家康 4

心に迷いのあるときほど、人間の弱さはあらわに表に現 にからの」 われる。いまの八蔵は誰の眼からも亡者であった。 随風は笑いもせずにうやうやしく手首の数珠をもんで、 八蔵をおがんだ。 したがって、叡山きっての変り者、怪僧随風は、その八 八蔵は立ち上ると、先に立ってせかせかと森を出た。 蔵から握飯をせしめたり、更に百姓家へ案内させたりして 雨の中で見る武節の城には霧がかかり、その方向には一 いながらいささかも心にやましさは感じなかった。迷える 点の灯りも見えなかった。八蔵は城を背にして南へ歩い者にはつねに暗示が必要なのだ。それゆえその迷いの内容 のり には立ち入らず、常識の則を超えない助言こそ名僧智識、 小さな谷川を渡ると左手の山に沿った小さな盆地に五六 いまの八蔵には絶対にそれが必要なのだと随風は見ぬいて 軒の百姓家が聚落を作っている。そこからかすかに灯りが いる。 さしていた。 「これこれ、ここで立ちどまらっしやるな。話は宿でゆっ 「泊めるであろうかの、戦場近くで : : : 」 くり出来る。濡れすぎては体にさわろうそ」 随風に言われると八蔵はうなだれたままそっと自分の胸 そう言われると、八蔵は仔大のようにおとなしくうなず にき、わった。 いて百姓家へ入っていった。 「銭次第、拙者はそれを持っている」 百姓家では八蔵のうしろへ立っているのが僧侶とわかる 「それはご奇特な。やはりこなたとは深い縁があったと見と、べつに怪しむ様子もなく える」 「粟がゆでよければ宿らっしゃい 「坊さまー・」 と、気さくに二人を囲炉裏のそばに手招いた。 と、また八蔵は、思いつめた声で随風に呼びかけた。眉まだ戦雲はこのあたりの百姓にそれほど険しい恐怖を与 もひげも雨滴にぬれて、泣いている悪童そのままの顔であえている様子はない。 振舞われた粟がゆをすすりながら焚火で着物を乾かす と、八蔵は武骨な手で何がしかの銭を出して、四十あまり なんりようん のこの家の主婦に渡し、それから随風の前に南鐐銀を一粒 つ」 0 177

7. 徳川家康 4

一途なものが感じられた。 レ」聞かされたので、お松は事の真偽よりも、もはや処刑が : 有難く存じ上げまする」 「度々の御運び、ただ、ただ : 動かしがたい事実として惻々と胸をうってくるのであっ お松はそういうと、そっと襟元を直して、 「ご恩のほどは、決して忘れは致しませぬ。でも : : : 嘆願 謀叛人と、その妻子。 何も知らぬ妻子に良人と同じ刑罰が加えられるという事書の儀はお許し願わしゅう存じまする」 「どうしても書く気にはなれぬというのか」 の正否は考えられず、ただ一緒に死ぬべきか、どうかだけ はい。もったいのうは存じまするが、私は、彌四郎と一 ま切なくはげしく胸を叩いて来るのである。 緒に死んでやりとうございます」 「彌四郎どの : ・・ : 」 「フーム。たぶん、そうであろ、つとは思うたが」 お松はまたうなだれて唇をかんで泣きだした。 「若さま、彌四郎は謀叛人、その謀叛人が去り状書かぬは : 私への : : : 女房への縋りかと心得まする」 「そうかも知れぬが、しかし : 約東の四ッ半になって、お松のもとを訪れて来たのは、 「若さま ! あの人は昔から私が側にいてやらねば、淋 大岡助右衛門ではなくて大久保忠世であった。 しゅうて居られぬやくたいなしでござりまする。そのよう 忠世は、これも今村彦兵衛に案内されてやって来ると、 な良人に、大それた謀叛をさせたは、やはり私の罪であっ 「お松、深夜での、大岡には気の毒ゆえ、またおれがやっ たと、よ、フやく六、つき旧り・きした」 て来たぞ、幼馴染甲斐に」 かたず 忠世は固唾をのんで、お松を見つめた。 そう言って、ちらりと、お松の前におかれたままの紙と お松の顔にはほのばのと紅がうき、眼の底に微笑がオオ 硯をみると、 よいだしていた。 「やつばり書いてなかったの」 「するとこなたは、彌四郎が、こなたに縋りきっているゆ 大きくため息をしてお松の前にあぐらをかいた。 しかえ、独りであの世へはやれぬと一一一口うのだな」 お松はいぜんとして消え入りそうに坐っていたが、 ひとみ 「はい、彌四郎が廿えられる相手は、今ではこの世に私ひ し、忠世を見上げた眸のうちは、いぜんよりも澄みきった 、」 0 387

8. 徳川家康 4

なかったが、叱ろうと決心すると、この女、どれほど叱り っせねはならぬことがあるのじゃ」 つけてもあきたらない女に想えた。 「城を離れるときにせねばならぬこと ? 」 「亡き伯父上の仇敵、信長が子の徳姫をこの手で刺してゆ「この彌四郎と二人の時に、主筋とはよくも申した」 「よ : : なんと言いやる」 きたいのじゃ」 それを聞くと思わず彌四郎はどなりつけた。 「人眼あればこそ控えているのだ。何で御前がわしの主筋 「たわけたこと、断じてならぬ ! 」 だ。わしは主君の寝首をねらう者、御前はそのわしと密通 してこれも良人に敵意を持つもの、同志でこそあれ、主従 押えに押えていた不快さがついに堰を切ったのである。 の関係などがあるものか」 十 「すると : : こなたは、わらわの家臣ではないといわれる 力」 思いがけないところで、思いがけない罵声をあびせら 「知れたことだ。同志であってしかも情夫」 れ、築山御前はにわかに血相変えていった。 彌四郎はうそぶくように言ったあとで、 「彌四郎どのわらわはこなたの主筋の者、たわけとは聞き 「甲州方へきこえてはわるいことゆえ、あとのことはロに すてならぬ」 すまい。が、徳姫を刺してゆくなどと勝手なこと、この彌 「たわけじゃ 彌四郎はもう遠慮の垣をとりはらった。もともときびし四郎が断じて許さぬ」 「そ : ・・ : それは又、なぜじゃ ? 」 く叱りつけて、留守中の軽挙を封じてゆくつもりの彌四郎 「考えてもごろうじろ。甲州勢がこの城に入り、御前がり だったのだ。 「おお、重ねて暴言申したな。ささ、ききましよう、その山田なにがしの胸に抱かれたとて、まだ戦は続いてゆくの だ。女子の浅智慧で、もしも徳姫を刺してあったら織田方 たわけのわけを」 の感情はいよいよ激しくなるばかり。なぜ徳姫を大切に 「聞かさいでかツ」 し、信長が孫を産ませて、母子二人を質にする気にならぬ 彌四郎はぐっと肩をいからせて御前の方へむき直った。 さすがに立聞く人があってはと、あたりへの注意は怠らのだ」 131

9. 徳川家康 4

( この女が、奥方さまと呼ばれる女であろうか : くもあり、一生お長屋の隅で終る顔とも見えた。 ふとそれを思ったのが悪寒のもとたった。 ( 待てよ ! ) と八蔵は腕をくんだ。 使い古した布子のような女房。まめまめしくよく働く もし自分に運がないと、どういうことになるのであろう が、それ以上に取立てて言うほどの才覚は、持合せていな い女房。 大事が露顕するということか。 そっと着ていれば温かかったが、 人中で見られると羞か それとも成功しても、自分だけは出世から取残されると い、つことなのか・ しい女房で、その意味では、歯切れよく下僚や雇人を扱い さばく大賀彌四郎の女房には及びもっかぬ女であった。 改めて見直すと女房だけではなくて、子供たちの寝顔ま ( この女は奥方などと呼ばれる運をつかんで出て来た女とでが急に運のない顔に見えだした。 違うようだぞ : : : ) 「どう見ても、お供をつれて、あごで家来を叱りつける顔 その直感はひどく八蔵を狼狽させた。 ではない」 この女房にその運が無いと言うことはすぐに彼の運命に 「何か言いましたか」 連結する。 おつねは到頭眼をさました。 八蔵だけが城持ちになり、この女はいぜんとして長屋か薄眼をあけて笑おうと努めながら、 お小屋の隅に住んでいる : : : ということが果してあり得る「何か頭のあたりがムズムズすると思うたら、やつばり帰 ことであろ、フか ? っていた。早うお休みなさるがいしに」 八蔵はそっと手をのばして女房の枕辺の鏡をとり、自分「何がムズムズじゃ。虱のように言いくさる。これ女房ど の顔を写してみた。 「あい・ 鏡の中では一人の豪傑じみた男が、喰いちらした髭とは 反対こ、妙におどおどした小熊のような眼をして映ってい おつねはくるりと良人に背を向けて、すぐまた眠りかけ た声であった。 八蔵はあわてて鏡をおいた。これは城持ちになる顔らし 「こなた、もし、わが家に、五人、十人と召使を使うよう 、 0 5 3

10. 徳川家康 4

お阿紀は再び眼を伏せた。その伏せ方も姉のおふうによ 家康は、おどろいて眼をみはっているお愛をかえりみて ニコリとした。 く似ていて喜怒哀楽を殆んど見せぬうなだれ方だったが、 はげしい光だけは眼から消えて、用心ぶかい性質が痛まし 「よく正直に申した。そなたの様子を見ていると、何か心 くそれに変った。 に案じている : : : と察したゆえ訊ねたのだが。お阿紀、ま 「お阿紀」 っすぐにこの家康の面を見よ」 し」 「そちはな、この家康の眼には叶うた。と、申したとて、 「この家康はな、こなたを人質にしようなどとは思わぬ。 それはの、この家康が幼い折にわが身で、人質の辛さは飽そちが望まぬならばそれも正直に言うがよいぞ。無理にと は言わぬ。この家康に父の違った弟がある。母は同じじゃ。 くほどに覚えがあるからだ」 旧姓は久松、今では松平定勝と名乗っている。その者の嫁 「わしがこなたを呼んだのも、奥平貞能が、こなたを一族にしたいと思うのだが、どうじゃ、そちの考えは ? 」 六兵衛の養い子にさせたと同じ想いから : : : 分るかの、こ家康はそういうと、また探るように眼を細めてお阿紀の 2 表情を見まもった。 なたの姉のおふうが、あまりに哀れであったからだ」 お阿紀はまだ信じられない面持で、まっすぐ家康を見返 している。 が、ここまで話されてお愛ははじめて思いあたることが家康の弟の嫁にと望まれて、お阿紀の顔からは少しずつ あってホッとした。 警戒の雲が晴れてゆくのがよくわかった。 この娘はどんな場合にもにわかに表情は変えはしない 「わしはな、おふうの代りにこなたを仕合せにしてやりた いと田 5 、った 0 ; 、 そう見ているので家康はかえってそれが頼もしかっ カそれにはまずこなたに会わねばならぬ。 夏目五郎左が生みの子ゆえ、まさかに : : とは、っていた が、この眼で性根をたしかめてみたかった。それで呼んだ いったん心に決めると動か 考え深く辛抱強く、しかし、 ぬものを持っている。 っ ) 0