思い - みる会図書館


検索対象: 徳川家康 4
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1. 徳川家康 4

「申上げまする」 御前は何のためらいもなく満足そうにうなずいた。 入口でさっきの琴女がまっかになってひれ伏していた。 「年は、幾つであろうの」 耳朶まで染まっているのは、一一人の痴態を見ていた証拠で 「左様、かれこれ、私と同じころかと」 あった。 「ご器量は ? 」 「威風温雅の両面をかねそなえた名誉の大将にござります「なんじゃ琴か」 「はい、若君さまがおわたりにござりまする」 「なに三郎どのが : 「そうか、それでわらわも心が済む。そうであったか : 減敬ははじかれたように御前のそばから部屋の隅へ飛び またつづけて二三度うなずきながら、しかし御前は減敬のいて平伏していった。 をはなそうとしなかった。 五 減敬ははじめの嫌悪が、だんだん感嘆に変ってゆくのを さすがに築山御前も身づくろいして、姿勢を正した。 感じた。 三郎信康はつかっかと入って来て、そこに減敬の居すく 姦通などという気おくれはみじんもなく、減敬の膝にあ って淡々とこれから良人とする人の幻を追える女 : : : そんんでいるのを見ると、きりりと眉をあげて拳を握った。 「減敬 ! 」 な女がここにあったというおどろきであった。 「御前 : ・ : ・」 「その方はこの信康をいつわったな」 「なんじや減敬」 「これは思いも寄らぬ仰せ : : : 」 「これであなた様のお輿人れ先はきまりました」 「その方はあやめをわが娘と申した。貰い子とは言わなん 「こなたにも骨を折らせた。大儀であった」 だ外て。がよ その詮議はあとにしよう。退れツ」 「で : : : これからこの減敬はどうなりますので」 減敬は一層小さくひれ伏して、 「こなたの心まかせにするがよい。わらわに異存はな、ほ 「ははツ。ではごめんなされませ」

2. 徳川家康 4

かされているのに、その信康にあやしい側女が出来た上、 武田の手までが及んでいるという : そう考えて濃夫人は信長が表広間の酒宴に出てゆくと、ふたたび猪 奥のことでは、決して良人を類わすまい 来ていながら、時代の波は、濃夫人の小さな意志をいつも子兵助を呼んで事情をたずねた。 きびしく乗越えて打って来る。 「兵助どの、こなたはもっと詳しく知っていよう。信康さ まに、側女をすすめたは誰であろうの」 今いちばん気がかりなのは小谷の城にある市姫のことだ 万一両家の決戦となったら、市姫と三人の幼い姫「はい、築山御前の由にござりまする」 はどうなろうか。 「わざわざ御前がの : : : 」 「はい。拙者のもとへの知らせでは、御前は徳姫さまをひ 戦を避ける力は女にはない。 どくお憎しみの由にござりまする」 ( 何とぞして四人の生命だけは ) そしてその事を、岐阜の屋敷に住んでいる、秀吉の妻女「して、信康さまは、どうであろうの。姫にむごい仕打な を通じて虎御前山の砦まで言い送った。秀吉の妻女はかつど : 「それが : : : 」 てお八重の愛称でよばれていた浅野氏、寧々夫人である。 と兵助はロごもって、 寧々がそれを伝えると、秀吉からは助ける手だてはあろ うゆえ、もし助けたら、市姫を自分にくれまいか : : : そん「なにぶんお若く、だんだん周囲のあらぬ噂さなど聞かさ れて」 事を仄かに匂わした手紙が直接やってきた。 : とい、つ一」とか ? ・」 濃夫人は苦笑しながら、しかしどこかでホッとした。秀「うとんじられだした : : はい。以前ほどに睦じゅうは」 吉には家中で今楠木とあだ名されている竹中半兵衛がつい 「そうか。わかりました。が、これはお館のお耳に入れぬ ている。二人が助ける気ならば、救い得ないものでもある よう。はげしい事は仰せられてもお心ではのう」 「十 6 、 0 。しよく存じて居りまする」 ところが岡崎の徳姫には、そうした頼りになる者がなか った。築山御前と信康の間で、小さな心を痛めていると聞「それからこなたの手で、誰そ一人、ご城下へ、小侍従の 6

3. 徳川家康 4

: とも思わぬが、ちと甘 にした。まん更愚かな生れつき : るほど大きく猛く光っていた。 やかして育て過ぎたうらみはある。こなた、どんな時にも 「そちは誰の子じゃ」 「はい、奥平美作守貞能の子でござりまする。そして : : : 」笑われぬよう、よく叱ってやって呉れ」 「かしこまってござりまする」 と賢しげに長兄の方を見やって、 「千丸 : : : 」 「奥平九八郎貞昌の弟でござりまする」 「フーム。ではたずねるが、その父や兄は、義を知り意地「はい」 「いま聞くとおり、そちは当分甲府へ預ける。しかと修業 をもった武士と思、つか」 「山家三方衆の中に鳴りひびいた名誉の武士と心得ますをして参れ」 きびしい表情で言い渡されて、千丸はそっと両手をつい ていった。 「フーム」と美作はため息して、 すでに人質とわかったらしい。娘のように澄んだ眸が、 「少し、こやつに訓えこみすぎた。小利巧になりすぎてい じっと父の視線にからんで、はげしい鼓動が聞えそうであ る : : : では、父が訓えた切腹の仕方は忘れまいな」 っこ 0 そう言われて、さすがに千丸の頬はしまったっ : この千丸も思いまする」 「忘れては武士ではない、と : 「千丸 : : : 」とこんどは兄の貞昌だった。 「そうか。それだけ聞けば十分じゃ。父や兄の名をけがす「甲府はな、ここよりもまた山深い。寒さも暑さもきびし ことはよもあるまい。実はの甚九」 いゆえ、体をいとえよ」 美作ははじめて黒屋甚九郎に眼を移して、 し」 「こなたに一骨折って貰わねばならなくなった」 「これ、涙をおとす奴があるか。父上がいつも言われる、 「殿 ! あとは仰せられまするな。甚九郎、覚悟は決めて男は眼顔で泣くものではない ! 」 ご、りまする」 「、い得て居りまする。泣いたのではござりませぬ」 「そうか。いや、それは分っていた。 入って来る時のそち 「そうであろう。奥平の家に泣虫はいぬ筈。よいか、母上 の眼つきでわかっていた。千丸をのう、甲府へ預けること にお別れして、元気よう行って来い」 、か 162

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し、足を投出して雨やどりしている雲水が声の主だった。 「覚えていろ ! 」 雨はだんだん冷くなって背へとおり、山から谷へは日暮「なあンだ。坊さまか。びつくりしたそ」 あわてて握飯をのみ込んで、 れの霧がわき出した。 「もう何刻であろうかの坊さま」 森の中へかけ込んで、無意識に乾いた杉の木蔭をさがし 「かれこれ、七ッ半 ( 五時 ) になろう。それよりこなた ながら、山田八蔵重秀はウワーンと大きく声をあげて泣き は、百姓ではないようじゃな」 「そ : ・・ : それがどうして分る。何に見える ? 」 「さよう、愚僧は人相、骨相、手相などをよく見る上に易 山田八蔵は、泣くだけ泣くと急にはげしい空腹を覚えてを学んだ。したが 0 て天地間のことは凡そわかるが、こな たは武士、それも大望を抱いている身 : : : と、見たがいか つ」 0 力」 そう言えば今朝、百姓家で炊かせてつくった握飯がまだ 「ふーん、これはたまげた ! 」 手つかずに腰にある。八蔵は杉の根元に腰をおろすといそ あじろがさ 八蔵は改めてその雲水の顔を見直した。網代笠に破れわ いでその包みをひらいた。 黒い八分づきの両側に味咐をぬ 0 た焼飯だったが、それらじ、墨そめの袖からのぞいた腕がたくましく、一文字に 結んだロはひどく大きかった。 を二つに割るとググーツと腹の虫が鳴って来た。 年齢は二十七八であろうか、それとも三十五六になって ( 飯を喰ってからゆけばよかった ) ト、つ、か 0 空腹の気のあせりが、つい事を急がせて失敗に終らせた 「すると坊さまは、拙者の運不運が分ると言われるのか」 ような気がして、パクリとそれに喰いついた時だった。 「運不運ばかりではない。愚僧がここにこうして居れば、 「これこれ百姓衆」 うしろから呼びかけられて八蔵はキ , ロキ ' ロとあたり前世から所縁のある者、この森の中に現われ、食を献じよ 、フほどにここを動くなとお告げがあった」 を見廻した。 「お告げ : : : 誰が告げたのじゃ」 やみそうにもない雨脚の向う : : : 幹の太い椎の木を背に ユ 73

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亠よした」 「そうか。よし、それだけ聞けばあとはよい」 勝頼は、第二の原因をあえて問おうとしなかった。もし 訊ねたらこの若者は、声を大にして、それは父信玄の死が勝頼は自分の怒りや嘆きの原因が、大地の嘆きにつなが 洩れたことにあると言うのがあまりによく分っているからるものとはい至らなかった。 ミ ) つ ) 0 ただ信玄の死によるものと浅く解した。 そう解してゆくと口惜しさは数倍する。 勝頼が考えても、たしかに父は偉大であった。と言っ 父には一歩譲っても、決して凡庸な勝頼ではなかった。 て、その偉大な父の死が、こうした姿で、その子を苦しめ それだけに一族や家臣の信をつなげぬ口惜しさが、じりじ て・米るとは思いもよらなかった。 甲州勢の士気が振わなくなったのも、占領地帯の民心のり胸を焼いてくる : みだれも、言わば勝頼の人物を評価した結果の不信なのだ ( そうか : : : みなはそれほどこの勝頼をたよりなく思って いるのか ) 頼られねば頼られるまで退いてーーと、考うべき分別 ( 偉い父を持ちすぎた ) と言って、ここで兵を引きあげては、いよいよ家康の思を、憤怒の雲がさえぎりつつあった。 う壺にはまってい 注進をしりそけて、勝頼はしばらく脇息に拳を立てて黙 っていたが、 「鳳来寺近辺の土民の向背までが警戒を要するといった の」 「庭の障子をすっかり開けよ」 「はい、たしかに申しました」 じろりと小姓に移した眼は血走りかけていた。 小姓は言われるままに障子を開いた。冷い風とともに、 「その土民はおさえてやろう。よし、さがって休め」 勝頼にそう言われると相手はひどく不平そうだった。ま庭前の楓の葉が一ひら畳の上に舞い込んオ しかし、それも 「どこそご気分でも」 だ何か一一一口いたいことがあるのに一いな、。 と、跡部大炊助が右からたずねた。 父の在世当時と、勝頼の治世の此較なのだ : : : そうう と、勝頼はそ知らぬ顔で視線をそらした。 、ら ) 0 2 2

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ている。 「よい。由・一ム , ん亠工しよ、つ」 : これが男なのだ : 若童子丸が去ってゆくと、間もなく琴の音は止んで、下 ( これが殿 : 半兵衛は湖面に月の出を感じながら、しずかに眼を閉じ 座に燭台がふやされた。 「この鯉と言い、琴と言い、この家では、殿のお出をこよて琴より秀吉の心のうごきに興味を覚えた。 武骨な若者たちもきちんと膝に手をおいてまじろぎもせ ない事に喜んでいられます」 半兵衛はまたひとり言のようにつぶやいた。姫は村娘にずに聞きほれている : 琴を先にはこばせて、自分はあとからやって来た。そうし た動作のすみすみにまで、よく効果が計算されているよう 房姫は二曲ひいて引きさがった。 「 4 わ、つー・ つつましいと言うよりも、秀吉の関心をそそってやまな い動作とも受取れる。 と、佐吉と市松が声をあげた。蔭で琴をひくといいなが ら、姫はすでに着物を換え、いよいよあでやかに粧いこら村娘が琴をささげて出てゆくと、秀吉は何がなしホッと している。 大きくため息した。 「軍師どの」 「お言葉に甘えて、ったない調べを」 羞らいながら琴の前に坐ると姫はすぐに爪袋をひらいて「なんでございます」 「なるほど世間はひろいわい」 「月が出ましたゆえ、窓を開けさせましようかな」 月も入ろやれ山の端に 「いや、姫を呼んで、盃をやってもよいかの」 はなればなれの浮雲見れば 半兵衛は、これでよいと思いながら、 あすの別れもあのごとし 「わざわざそれには及びますまいかと : 思い染めたよ濃い紫の 「いやいやそれでは済まぬ。呼んでくれ」 ・、し、ナ「殿 : ・・ : 」と、半兵衛はかすかに笑って、 秀吉はいっか身を乗りだして半兵衛の居るのもせ心オカ冫 よ ) っこ 0 はじ つつ ) 0 256

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うごいたような気がして、家康はまたおかしくなった。 呼べばわしの、い労はふえるばかりだ」 「そうか、あのふびんな最期をとげたおふうの妹がの : お愛はちらりと家康をうかがって、その顔に微笑の浮い そうか、会おう、すぐにこれへ連れて来い。おふうは仲々 ているのを見ると、自分でもかすかに笑った。 の容色よしだったと言うが、妹もさぞ美しかろう。すぐに 「私の身勝手でございました。お詫び致しまする」 「ほほう、そちの身勝手か どのような身勝手だったの呼べ」 お愛は家康の揶揄に気づいたのか気づかぬのか、しとや かに一礼して出ていった。 「お万の方を呼び戻さぬは私と、家中の者に思われたくは : そうした、いがどこかにありました。お館さまのお 四 言葉から、はじめてその身勝手さに」 家康は、奥でこうしてお愛とくつろいでいるひと時を、 家康は声を立てて笑った。 「そうか、今はじめて気づいたか。うまく言いのがれた近ごろしみじみ楽しいと思うようになっていた。 わ。よいよい、わしも身勝手、こなたも身勝手、身勝手同家康が、何を望み、何を希って生きているかを、お愛が 志ゆえ、フまく馬が合う、のであろう。、、 躰で感じとっているからであろう。 むろん家康の大望がそのまま果されるものかどうかは別 お愛はそういう家康に慎しんだ羞らいをみせて赧くなっ ていた。 問題であった。あの用心深い武田信玄でさえ、上洛の途中 で斃れるまでわが運命は分らなかったのだ。 食事がすんだ。 お愛がまたしみぶかく、おふうの妹を案内してやって お愛はふたたび音を立てぬ静かさで膳を下げさせると、 「お申付けの客が、滝山から到着致して居りまするが」 「ほほ、つ、そちが妹か」 「なに滝山の城から」 「はい、奥平の家臣、夏目五郎左衛門どのの娘御にござり家康は眼を細めて顔中を笑いにした。 まだ卞三歳のおふうの妹は、日蔭にのびた山桔梗のよう まする」 にかばそかった。 そういった時、ちらりとお愛の表情に、嫉妬めいた色が 294

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しかとそなたに命じまするぞ。三郎どのが戻ら ているのじゃぞえ。この上わが胎を痛めた三郎どのにまで「よいか。 憎まれたら、それこそ生きるも詮ない身。わらわの身を哀れたら、姫のお側に行くほどならば、このあやめに暇を下 れと思うなら : : : のう、あやめ、三郎どのだけしつかりそされと言いなされ。いや、ただ言うだけではならぬ。事実 暇を取ってわらわのもとへ戻るがよい。そなたが、それだ なたの腕の中にしばってたもれ」 けの力もない女子ならば、三郎どののお側においても無駄 そういうと、こんどは御前がさめざめと泣きだした。 なことじゃ」 あやめはぐさりと心臓を刺された気がして答えもロへ出 よ、つこ 0 あやめは狂ったように泣きつづける築山御前に慰めてい 「よいか。しかと申渡しましたそ」 いのか詫びていいのかわからなかった。 いかに打ちひしがれた少女とは言え、信康をひとり占め築山御前はそういうと、裾を鳴らして急ぎ足に去ってゆ したい女の感情はどこかにあった。が、正室の徳姫は、織 あやめはしばらくひれ伏したままでいた。信康を姫のそ 田信長という甲府の御館さまにも匹敵する御大将の一の姫 : そう聞かされるだけで、女の感情よりも怖えの方が先ばへやるなという意味よりも、暇をとって戻って来い そう言われた言葉の方が、悲しく強く胸をうつ。 立った。 ( まだ安心して住める巣は、あやめの上に作られてはいな 信康の機嫌はそこねても、あとで取返しがっきそうに思 かった : : : ) えたが、徳姫の感情を損ねたらそれで自分の憩いの巣は粉 そう思うあとから、はじめて知った信康への思慕が、せ 粉になりそうな予感がする。 その怖えがついあやめを控え目にしてゆくのだが、築山せぐるように感傷を衝いて来る。 殿はそれが堪らなく歯痒ゆいらしかった。しばらく身をも ( 不幸な子 : : : ) ( 可哀そうな巣のない小鳥 : : : ) んで泣いたあとで、築山御前はすーっと立った。 その小島は、やがて居間の窓下にしょんばりと坐り込ん 「あやめ」 だ。涙ぐんだまま、あやめといういじらしい娘の、淋しく

9. 徳川家康 4

御前の歯はキリキリと鳴っこ。 「それもよかろう」 自分の侍女でありながら、良人の愛を奪った淫奔女。 しばらくして・仰 ( 劇は田いい ~ 巨したよ、つに一一一口った。 「相手に強さをみせておくのは、あとで軽んじられないも ( そうた。こやつも生かしたままでは出てゆけぬ ) とに・もなろ、つほい J に」 しかしそのつぶやきは、喜乃にも琴女にもわからなかっ 殺して殺されて、憎んで憎まれるのが人生ならば、手ぬ 「その知らせがあってから、姫さまは急にお元気にならるい情など、築山御前には愚の骨頂に思えた。 いや、そうした心柄にさせたのも、もとはと言えば家康 れ、小侍従さまと、あれこれ戦話を遊ばして居られます 自身、その家康に言い寄って、主人を裏切ったお万も、そ のままにはしておける存在ではなかった。 「そうか。それはそれはこの上なくめでたいことじゃ」 家康に思い知らせる手段はすでに講じた。たとえ家康 御前は皮肉に片頬ゆがめてそれから急に声をおとした。 が、武田の前へどのような姿でひれ伏そうと、 「浜松からは何かたよりはなかったかの」 「ーーー許しておいてはならぬ曲者」 「は、、お館さまは、またまた、長篠へご出陣とか : そう言って一顧もしない覚悟であったが、お万の方には 言いかけて何か思い出したらしく、 「そうそうお万の方さまもご懐妊、ご誕生はこちらの姫さまだ復讐はしてなかった。 まと同じころになるとかたよりがあったそうでござります ( ぬくぬくと、家康の子など抱かせて生き残らせてよいも のか ) 御前の眼が、急にギラギラと憐光を放って燃えだしたの 「なに、万がまた孕んだと ! 」 で、姉の琴女は全身をかたくした。 御前の眉はきりりとあがった。 が、つね日ごろそばにいない妹の喜乃はそれに気付か すでに捨てたつもりの良人だった。小山田の妻になった つもりでいるはずなのに、御前の胸へははげしい妬心があず、 「こんど凱陣した時には子が抱けるか : : : そう仰せられ ふれていった。 121

10. 徳川家康 4

つ小え予はそ笑 分 った侍つがいなっ て。従 ! そたて はい つ る眼しそ をたれた 分ま を る じ いす気て てるづい 黙のか た へぬの つ も て い豸 ( の る康と のは じ追 て や か た るの か よ せだ め 家康の語気がにわかに改まったのて 「予も肓目ではない。こうしてみずから城に繩張りしにや って来たのも、薄々それに気づいた故じゃ」 「ご存じでいらせられましたか」 「たとえ知らずに参っても、来てみればわかること。信康 た はどうやら表裏ある扱いをうけていたようじゃ・ れはそなたたちに関わりないこと。よいか、そなたは姫に かしずく身。姫の身辺に過ちないよう心せよ」 「よ : 「それからの、こなたに特に頼んでおく。信康はまだ若 信そ通知立小ま互残でのとら小よはよ。世心る 康うすつ上侍たいりはだのれ侍しいや老の得でそ の言るてっ従家にお 。十る従、婆中てはれ 分もはさ い。若いゆえに奥であれこれ噂のまとになるやも知れぬ。 心に居なを 態え者いたは康きし がはりいそ 度ばがる。去はびげくのの不が 、まぞの と満れ っぴしにれ てしくそぐ 時おる ・つ いり用うれロつあ てじる 々かな口 反しどに っと心いも にてっ 違と 、すた押しう せいた の 耳 の節寝る 。えよと ぬた 見が耳な家たう のど えなにと ちがな れ るい水は く は さ事と そ のでで なな ももあっ の ら れは いなった ふいたが姿 てぬ は事 が 相も わ反知 し れ対ら ら てでせ る る 敵 し と た ぬ し へと つう褒 こ、り、岐阜へ洩らしたり 7