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検索対象: 西郷隆盛 第15巻
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1. 西郷隆盛 第15巻

「ばかばかしい。慶喜はナポレオン三世に贈られた金ビカのフランス軍服を着て、文明人顔をしてい る精神薄弱児だ」 「しかし、慶喜の政権返上はフランスの対日政策と矛盾します」 「なぜだ ? 」 「フランスは内乱を希望し、幕府内部の主戦派を煽動しています。もし将軍慶喜が内乱をさけるため に、土佐藩の献策を自発的にうけ入れたのなら、彼はフランスの計画の逆を行ったことになります。 これはイギリスにとっては有利な : 「内乱が起った方が、イギリスにとっても有利だ」 「公使閣下、それはすこし : : : 」 「君は大英帝国女王陛下の官吏であることを忘れるな。内乱を起す起さぬは日本人の勝手だが、それ がいつどのような形で起るか、おれが知りたいのはそれだけだ。もっと調べろ。徹底的に調べるのだ」 「かしこまりました、公使閣下」 夜になっていた。いつもの癖だとは知りながら、どなりつけられるたびに気が重くなる。むしやく葵 しやしながら、サトーが「高屋敷」にひきあげてくると、客が待っていた。フロックコートを着た庄 内藩士加宮藤三であった。 章 第 「たいへんな騒ぎですよ」

2. 西郷隆盛 第15巻

若い家老は腹を立てた。 「森、おまえらは幕府の使節団とっきあっているそうだな」 「そ、そんなことは、絶対ありません」 「なければ結構だが、外人顧問と技師を雇って帰るのは西郷と大久保の発議できまったことだ。もち ろん、久光公も賛成しておられる。特に今回、フランス人を選んだのは、フランスの幕府援助を切り くすすためだ。モンブランのような反幕府意見を持ったフランス人は大いに珍重してよい」 「きっとイギリスが反対します」 鮫島尚信が言った。 ークス公使もグラ。ハ ーも、モンブランは危険人物だと言っているそうではあ りませんか」 「モンブランはそんな人物ではない。おれは自分の目で判断した」 「しかし : : : 」 「おまえらは、ただの留学生だ。藩政に口を出す資格はないそ」 どなりつけるよりほかはなかった。「おまえらの留学が役に立つまでには、まだ何年かかることか。 勉強して早く一人前になれ。それまでは、外国人で間にあわせるよりほかはないのだ」 そのようないきさつで連れて帰ったモンブランである。果して、長崎では長崎奉行の抗議があり、 ークス公使もまた強硬に反対しているという噂が伝わってきた。幕府とイギリスは、それそれの立 0 、 143 第八章海の小春日

3. 西郷隆盛 第15巻

場から、フランス人の勢力が薩摩に及ぶことを恐れたのである。 長崎にいては事がめんどうになると考え、岩下はモンブランと七名のフランス人技師をキャンスー 号に乗せて鹿児島までつれ帰った。 ちょうど西郷と大久保が帰国していたので、ます大久保に会って、意見を聞いた。 「厄介な問題だな」 しかし、 大久保は言った。「長崎奉行の抗議は無視すればいし ークス公使は例の調子で押して くるたろう。もしかすると、モンブランと技師は解任せねばならぬかもしれぬ」 「解任 ? そんな無責任なことが : 「岩下さん、あんたの責任ではない。たた、薩摩としては、イギリスを敵にまわすことはできない。 : 西郷は何と一一一口うか ? 」 「よし、西郷に聞こう。明日、船の上で会うことになっている」 岩下方平は春日丸の士官室で、西郷吉之助と一議論するつもりであった。だが、吉之助は岩下の説 明を聞いて、 「そのような大人物が来てくれたのはありがたいことだ」 と答えただけで、何も言わない。 若い松方正義の方が強硬であった。 「しかし、長崎では、大山師だという噂が立っています。グラバ ーもよく言わなかった。フランスで 城を持っている大名が、薩摩に雇われて、忠義をつくすというのは妙な話だ」 凵 4

4. 西郷隆盛 第15巻

町ら 新納刑部は答えた。「私はロンドンこ、 冫したことが あるので、イギリスの薩摩に対する好意をよく知っ ています。岩下が。 ( リでモン。フランを雇うという話 を聞くと、すぐに反対の旨を中し送ったのですが、 その手紙がまにあわなかったのです」 「なおさら、あなたの責任ではありませんね」 「つまり私は : : イギリスの好意を裏切りたくない のです。信義を守りたいのです」 し「新納さん、われわれイギリス人は薩摩がフランス 人を雇うことには反対できません。しかし、日本の 内政問題について、イギリスとフランスは反対の意 見と方針を持っていること、御存知ですね」 「よく存じています」 「モンブランを雇ったのは、薩摩が政策を変えたの ではないかと、われわれイギリス人がうたがうこと、 無理ありませんね」 「ご、もっともですこ 「薩摩は政策と方針、変えたのですか」 207 第十一章虚と実と

5. 西郷隆盛 第15巻

サトーは急に腹が立って来た。 いやな男だ、とぼけたふりをして、自分をからかっている。向 うがそのつもりなら、こっちも切り札を出してやろう。 「西郷さん、あなたは軍艦と兵隊をひきいて来たそうですが、その数を教えていただきますか」 と 西郷は即座に答えた。 と 「船は四隻、兵は三千」 「癶州は ? 」 章 「一千と称しているが、実は約六百。しかし、まだ朝廷のお許しが出ていないので、上京はできない。に 第 兵庫に待機させてあります」 この男は何もかくしていない。 兵力と長州軍の兵庫待機のことは、サト ーの手に入れた情報と一致 二人きりになると、サトーは切りこんた。 「モンブランは薩摩の軍事顧問ですか ? 」 「さあ、何の顧問かきめていないが、なかなかの人物ですな」 「政治顧問のようですね、さっきのお話の様子では」 西郷は答えた。 「長崎や横浜のイギリス人は、フランス人を料理人や床屋に使っているそうた。しかし、薩摩として は、フランスの大名を料理人に使うわけにもまいりますまい」

6. 西郷隆盛 第15巻

ね」 よしだぎのなりさめじまなおのぶ 薩摩の学生というのは、当時ロンドンに留学していた森有礼、吉田清成、鮫島尚信などの青年のこ とで、博覧会見物のために。 ( リに来ていた。岩下方平は彼らをホテルに呼び、モンブラン雇用のこと をたずねてみた。 青年たちはロをそろえて反対した。特に森有礼が強硬であった。 「フランス人のくせに、薩摩の家臣となり、薩摩のために尽力するなどと言い出すのは怪しいと思い ませんか。たとえ悪意がないとしても、素性もしれぬ外国人に藩政の一部をまかせるのは軽率です」 「いや、モンブランの素性はたしかだ。歴とした貴族で、領地も城も持っている。僕は彼の城にとま って来た」 「なお怪しいと思いませんか。領地も城もあるフランスの大名が、何を好んで薩摩の家来になるので すか。そもそもヨーロッパ人が、おのれの利を捨てて他国のためにつくした実例は歴史にありません」 「何もそのように興奮することはないそ」 「いえ、興奮します」 森有礼ははねかえした。「自国の利益のためには道徳を無視し、権謀を用いて諸国を掠奪し、強きを 友として弱きを虐げるのがヨー tl ツ。 ( 人の本性です。モイフランもヨーロッパ人である以上、その例 ころう 外ではあり得ません。そのような人物に外交のことをまかせるのは、自ら門を開いて虎狼を迎えいれ るも同然です」 しいた もりゅうれい りやくだっ 142

7. 西郷隆盛 第15巻

「そう、相変らずです。たいへん、相すみませんですね」 ついおどけた軽口が出る。外国人をこんな気楽な気持にさせるのだから、海舟のほうが一段も二段 も上の外交官である。 「カミカミカノ ークスさんの身上だよ。人前でどなる奴に悪人はいな、。 わたしはね、フランスのロ ッシュ公使よりもパ ークスさんのほうが好きだよ、気に入ったね。ロッシュも陰性だが、通訳官のカ ションと来たら、もっといけない。あいつは 「私どもは妖僧という仇名で呼んでいます」 「なるほど、全く妖法師で怪法師だ。あいつの妾のメリンスお梶とかいうのがカションをあやつって、・ 幕政にまでロを出すという評判が立っている。私は信じないがね。つまり口ッシュとカションはそれ ほどまで深く幕政の内部に : : : おっと、いけねえ、今日はフランスの悪口を聞きに来たのではなかっ たね、サトーさん」 「はい、京都の政変のことです。。、 ークス公使は戦争のこと、心配しております。戦争起るか、どラ か、それをあなたに聞いて来いと申しました」 海舟の目がキラリと光った。真剣な表情になったが、ロではさりげなく、 「そこは、幕府の出方次第さ」 サトーは聞きかえした。

8. 西郷隆盛 第15巻

「怪しいもんだよ」 ・・自由な貿易で・ : ・ : 」 「しかし、わがイギリスはフランスとはちがい・ 「そう、フランスとはちがい、幕府の内部には食いこんでいない。だが、薩摩と長州の内部には、ど うだかね。サトーさん、怒っちゃいけないよ。私がもしイギリス公使なら、同じことをやる。ただ幸 か不幸か日本人たから、食いこまれてはこまると思っているだけだ。ゃあ、寒ナマコが来たよ」 女中をしたがえた益満休之助が酒と料理をはこびこんで来た。 とうざん 今日の益満は袴も紋付も着ていない。唐棧の袷に黒襟のはんてんという全くの町人風であった。奇 妙な薩摩武士もあるものだ、とサトーはあきれた。 「こいつはしゃれた男でね」 勝海舟はテーブルの上に料理の皿をならべている益満休之助を横目でながめながら、おもしろそう に言う。「こんなやつが薩摩藩士なのだから、薩摩という藩は化物だよ」 れ サトーは益満の酌をうけて、 「はい、昨日、私の家に来てくれた時には、たいへんりつばなサムライでしたが : 「今日はり 0 ばな料理人だよ。この甘鯛はね、横浜の先あたりで釣上げたのを自分で一塩にしたのだ 第・ そうだ」 「はい、たいへん、おいしい魚ですね」

9. 西郷隆盛 第15巻

松方正義の唇がふるえた。 「西郷先生、あなたまでが、そ、そんな : 「おまえが怒るのは、もっともだ。おれも帰国以来、腹の立ちどおしだ。辞められるものならば、辞 めてしまいたい。 : しかし、男には、武士には、従わねばならぬ道というものがある。大義のため には、おのれを殺さねばならぬ。 : 松方、もう一度長崎に行ってもらいた、 「長崎に ? 」 「銃が不足だ。新式のミンへール銃三千梃、なんとか集めるのだ」 「おまえの働きぶりには、大久保も小松帯刀も感服している。艦長にはなり手がいるが、財政の手腕 家はほかにいない。浜崎屋とグラバーを動かしたのは見事な腕だ。そこを見こんで頼む。もう一度長 崎に行ってもらいたい」 バッテラ船が春日丸の船尾の階段の下に着いた。 の、 いわしたまさひら 甲板には、家老の岩下方平が待っていた。フランス式の軍服を着こんでいる。彼はパリで開かれた海 万国博覧会に薩摩の公使として出席し、フランス人技師たちを雇入れて帰ってきたばかりだ。この家 第 柄と育ちのいい青年には、西洋軍装がよく似合った。 吉之助は岩下の案内で船内を一巡した。機関室から船底の倉庫までのそいてみて、至極満足と言い

10. 西郷隆盛 第15巻

モンブランは岩下の信頼にこたえて、薩摩のために大いに働き、ロッシュ公使をくやしがらせた。 この冒険家貴族は宮廷と社交界に、平民出のロッシュの及びもっかぬ勢力をもっていた。自ら筆をと って「徳川幕府は日本の正統政府ではない、主権は京都のミカドにあるのたから、薩摩国は幕府と同 たいくん リ万国博覧会場には、日本大君靉 格で独立の王国である」と力説した文章を新聞に発表したので、 府 ( 幕府 ) と日本薩摩国政府の二本の旗がひるがえることになった。 岩下方平が任務を果して帰国の準備をしていると、モンブランがホテルにやって来て、 薩摩に行こうと言った。 「パリにおける幕薩戦争は、どうやら薩摩の勝利に終ったようだね。ナポレオン三世も幕府が日本の 主権者でないことだけは理解した。フランス外務省もロッシュ公使の幕府援助政策に疑問を持ちはじ ークス公使に押しまく めた。ロッシュはもうだめだね。日本に帰っても、本国の支持を失っては、パ られて、手も足も出なくなる。今こそ幕府打倒と王政復古の絶好の機会。僕を薩摩の外交顧問に雇う カよし」 海 岩下方平は返事ができなかった。フランス人の口から、討幕、王政復古などという言葉を聞こうと 章 は思ってもいなかったからだ。 八 「すこし時間をください。考えます」 「ああ、よく考えたまえ。幕府使節団は薩摩の学生たちを煽動しているらしいが、気をつけることだⅢ