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検索対象: 西郷隆盛 第20巻
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1. 西郷隆盛 第20巻

「岩倉卿、あなたの説を聞いていると、ロシアを怒らせぬためには、わが日本は樺太でも韓国でも何 もしない方がよいということになりそうだが、そう思ってもよろしいか」 「何もせぬのではない。まず副島外務卿をロシアに派遣して、きびしく談判させる。わが方が毅然た る態度を示せば、ロシアは韓国を援助して日本と戦うことの危険を知るにちがいない」 「そううまく行きますかな」 「たとえロシアがその野心を捨てないとしても、樺太問題の処理には時間がかかる。この時間を利用 して、内治を整え、外征を行う実力を蓄えよ、とわたしは申しているのだ」 「ははあ、内治優先を理由の延期論ですか。それでよくわかりました。要するに西郷大使の遣韓に御 反対ですな」 皮肉に笑って、後藤は腰をおろした。 板垣退助が立上がった。 「岩倉卿、御承知のとおり、遣韓大使のことはすでに閣議で決定し、勅許も下っております。樺太問 題を先にせよとおっしやるが、これはわが漁民に対するロシア人の暴行であるから、非は明らかにロ シア側にある。ロシアはわが抗議を受入れて犯人を処分するであろうから、外交紛争に発展するとは 思えません。これにくらべると、韓国問題は根も深く規模も大きい」 「だから、なおさら軽挙をつつしめと言っているのだ」 「軽挙と中されましたな」 ら、

2. 西郷隆盛 第20巻

「しかし、征台を薩摩にまかせたら、軍功は彼らのものになってしまうそ」 「果して軍功になるかどうか。犠牲も多い。蕃人相手の戦争には勝てても、清国との外交戦には勝て るかどうか。 : : : 南だけでなく、北方にはロシアとの樺太千島交渉が進行中だ。この方が難問だ。木 戸さんが征台に反対をするわけが、おれにはよくわかる」 「伊藤、それで思い出したが、ロシアとの交渉をな。せ幕臣の榎本武揚にまかせた ? しかも、いきな り海軍中将に任命して : : : 」 「それも政治だ」 「なんだと ! 」 「ロシアという国はな、貴族と軍人の羽振りがいい国だ。貴族で将軍なら、ますます結構だが、今の 日本の華族の中には使いものになる奴はおらぬ。榎本はオランダ留学生で、ロシアの宮廷語のフラン : どうだ、おぬし、フランス語がしゃべれるか。ロシア語でもいいそ」 ス語もペラベラだ。 鳥尾は食卓をたたいて、 ・ : 勝海舟の海軍卿までは我慢しているが、五勝 「こいつ、言わせておけば、いい気になりやがって。 者 稜郭の反将、死にそこないの榎本が海軍中将で遣露大使とは・ 「それも幕臣対策だ。榎本が中将になれたと知れば、静岡の慶喜公をはじめ、会津・桑名・庄内等の 章 旧幕臣派にどんな影響を与えるか。おぬし、それがわからぬ石頭でも尻の穴のせまい男でもあるまい。七 さあ、飲むそ」 伊藤が手をたたくと、隣室に待ちかまえていた新橋の美妓たちが、銚子をささげ、裾をひるがえし

3. 西郷隆盛 第20巻

吉之助が膝を乗出して、 「どうあぶないのだ」 気クーニンというのもロシアの華族だ。革命党の手は華族と軍人のあいだにまでのびていて、宰相 や皇帝の暗殺計画が絶えずくりかえされる。ロシアの皇帝は全くの専制君主で、まるで幕末の日本に 似ている」 村田が言った。 「今の大久保政権と同じじゃよ、 大山巌は首をふって、 「日本の天皇陛下は、ヨーロ , のキングやエンペロ 1 ルとはちがう。ロシアのツアールともアメリ 力の。フレジデントともちがう。易姓革命を常態とする支那の帝王ともちがうから、皇位をうかがい 天皇に危害を加える革命党なるものは生れぬ」 「その点は安心だが、しかし : : : 」 「しかし、大臣参議は狙われていると言いたいのだな」 「現に右大臣岩倉公は襲われた。次は大久保だ。あいつが一番あぶない。あの男の冷酷無残な権謀術 数は全国の有志の怨恨の的だ。佐賀の江藤一党の処刑は、人間の心を持っている者にはできぬ ! 」 灰吹きが。ヒシリと鳴り、吉之助が大声を出した。 学 / し、カ」 ツ。、 8

4. 西郷隆盛 第20巻

「左様、まずロシアを牽制せずして、韓国で事を起すのは・ 「ロシアはここ数年間は極東に兵を出す意志も余力もないと副島君が保証しております」 「そなたも副島君もロシアを知らぬ ! 」 緊張がひろがった。険悪とも呼べる空気である。 三条実美が左手をあげて、 「しばら ) 。 : 大久保参議が発言を求めている。どうそ」 大久保が静かに腰をあげた。顔が青ざめ、目が燃えている。先刻から何度か発言しようとして思い とどまっていたのが、ついに意を決して立上がったのだ。 「まず中上げます。わたしは韓国問題はしばらく延期して時期を待つべきだと思う。即ち、岩倉右大 臣と同意見であります。世界の情勢を考えれば、何よりもまず内治を整えて国力の充実をはかり、然 る後に外征に及ぶのが順序であります。これは三歳の童子にも明らかな道理 : : : 」 西郷がどなった。 「大久保、おまえは 怒りよりも驚きの声であった。 大久保は西郷を見たが、すぐに視線をそらして、つづけた。 「内治と外征とは同時に行うことができるという説のあることも、わたしは知っている。内治を改革二 するために外征を起して成功した例もないではない。だが、常に成功するとはかぎらぬ危険きわまる やり方であります」 けん 37 第章征韓論破裂

5. 西郷隆盛 第20巻

「本日は遣韓大使の件が議題になっているようだが、それにおとらぬ重大案件が山積していることを 華太におけるロシア人の暴行、台湾生蛮の琉球人殺害事件が未解決のま お忘れないように願いたい。手 まになっている。特に樺太事件は解決の急を要する点では、韓国問題よりも先である」 言葉を切って、じろりと西郷をにらんだ。 これは黒田清隆が西郷の前で何度もくりかえした意見である。それを岩倉が知らぬはずはない。知 っていながら持出したのは、ほかに反対理由を持合せていないのか、それとも西郷を怒らせて会議を 混乱させようというのか、どっちにせよ、底意は見えすいている。西郷は立上がってはねかえした。 「右大臣が樺太問題に御熱心なのは大変結構である。どうしても樺太の方を先にかたづけたいと中さ れるのなら、それもよろしい。どうそ、わたしを大使にして露都ベテルスプルグに派遣していたたき オし」 板垣が副島をふりかえって、にやりと笑った。 岩倉は切りかえした。 ・ : わたしが樺太問題を重視す裂 「外交交渉は外務卿の任である。参議が出かけるのは本筋ではない。 ム間 るのは、このことによって強国ロシアと衝突することを極力避けたいという意味である。いまロシア 征 を怒らせたら、韓国問題解決の見込みもなくなってしまう」 第 しばらく岩倉と西郷のやり取りのつづいた後に、後藤象二郎がゆっくりと立上がって、微笑しなが

6. 西郷隆盛 第20巻

「ふうむ、なるほど珍味だ。フランスにも松露があったのか」 「スイスでは、エキュルビスがうまかった」 「なんだな」 「日本にはいないようですが、エビとカニの合の子みたいなもので、アル。フスの渓流に住んでいます。 僕はジュネーブのアル。フス通りの中流家庭に下宿していたが、日曜日にはその家族たちと。ヒクニック : つまり遠足に出かけて、エキュルビスを捕った。小さな丸い網のまん中に食いあましの肉などを 結びつけて流れに沈めておくと、一度に二、三匹から十匹ぐらいかかる。家に持ってかえって塩うで にして食べる。頭の味噌をスー。フにしたのが特にうまかったな」 新八が、 「下宿の娘が素敵な美人だったそうだな」 : そんなことよりも、ス 「ばかな、まだ十二歳の小娘だ。姉は二十歳だが、もう嫁に行っていた。 イスには各国の亡命者が集まっていてな。おれが語学の交換教授をしていたメチニコフというロシア産 人も、どうやら亡命者らしかった。早くから国を出て、上海や横浜にもいたことがあるそうで、漢字ス ン ノクーニンという有名なロシア無政府党の首領がアメリカに逃亡するラ が読め、日本語もしゃべれた。く ために横浜に立寄った時、世話したことがあると言っていた。西園寺公望や中江兆民が師事していた 章 八 アコラスとかいうフランス革命党の学者もスイスに亡命して、秘密の文書をフランスに流しこんでい 第 ロッパの政情も内側から眺めると、多事多端だよ。特にロシアがあぶない。当分は東洋に手 を出す余裕はない 、とおれは見た」

7. 西郷隆盛 第20巻

ビンハム公使はデロングの後任として六カ月前に日本に来たばかりであった。台湾問題に関しては 前任公使の方針を忠実に守り、ル・ジャンドルの要請に従って、ニュ ーヨーク号の傭船継続を黙認し、 現役軍人力ッセル少佐の雇用を本国に電請して許可を与えた。″ ヘラルド〃はこの点を正面からたた 「しかるに米国公使ビンハム氏は、ひとりその同僚 ( 外交団 ) に反して、半ば侵略の征伐と見なすべき 日本の行為に、米国旗をかかげたる船艦の使用を公然と許可したるにあらざれば、暗に黙許せり」 「米国政府は、この征伐の目的を十分に知らざるに似たり。もしそうでなければ、米国の官吏 ( ル・ジ ャンドル、カッセル等 ) が日本政府に使用されて征伐に加わるのを許可するはすよよ、 「米国は清国と和親を結べる国であるから、他国が清国を攻めるのを助けたら、清国より損害賠償を 要求されるであろう」 「清国は北方の強国ロシアに対してはしばしば譲歩しているが、ロシアと日本を比較すれば、その大 強弱は同日の論ではない。清国は強大なるロシアに許す自由を、 弱小の日本には与えざるべし」 「日本の派兵の目的は、少数の蛮民を懲罰するのみにあらず、台湾の東部に植民し、ついには半永久 的にこれを占領せんと欲す。かくの如き日本人の行為を、北京政府が黙視するはずなし」 という日本必敗を強調した脅迫的な言辞もある。同じ脅迫と攻撃は、米国公使ビンハムにも向けら れた。この方が″ヘラルドー の論説の主目的であったようだ。 178

8. 西郷隆盛 第20巻

庭石に荒つぼい靴音をひびかせて、金飾りの軍刀をさげた派手な軍装の桐野利秋が現れた。 ~ いたか。おまえ、もう出発の用意はできたのか。和服など着込んでのんびりし 「おお、篠原、こここ ているが : 「おれは先生に叱られて来たところだ。出発どころじゃない」 「なぜじゃ」 「どいつもこいつも征韓じや朝鮮征伐じゃと騒ぎまわっているが、おれは一度もそんな言葉は使った 、やしくも陸軍少将たるおまえや桐野利秋が : : : 」 ことはないそ、と叱られた。若い者ならともかく、し 「なにつ、それでおとなしくひき下がったのか。征韓は即ち朝鮮征伐じゃ。問罪のための大使という が、問罪と征伐とどこがちがう。どっちも海外に兵を用いることに変りはない」 「おれもそう思っているが、先生の考えはちがうらしい。韓国侵略の心を持ってはならぬ、いずれ兵 を用いる相手はロシアだから、ロシアのことでも勉強しておけと説教されて、これを読んでいたとこ ろだ」 と、机の上の洋書をたたいてみせた。 「横文字か。何かわかったか」 「ふふふ、さつばりわからん」 「おれには、もっとわからんことがある。大久保の奴、辞表を出しておきながら、まだ岩倉や木戸と 何か策動しちよるというそ」 「大久保とは、そんな男だ」

9. 西郷隆盛 第20巻

」眺めていると、ヨーロ。 ノバと世界の形勢がよくわかる。日本は内からはつぶれぬ。日本をつぶしにか かっているのは、ヨーロッパ諸国だが、そのヨーロ ッパにもいろいろと内輪のごたごたが多い。おれ の見るところでは、イギリスもフランスもここ当分はインドと清国のことで手いつばいで、日本まで は手がのびぬ。いちばん戦争好きで、日本にとって最も恐るべきはロシアだが、これは専制国だから、 いっ内乱が起るともかぎらぬ状態だ。日本の外患は十年後か二十年後だ」 「そんなのんきなことを : : : 」 「おれはいま、日本語のわかるメチニコフというロシア人と語学の交換教授をやっている。ドイツ人 やフランス人ともっきあっているので、こんなことも言えるのだ。 : ・あんたもせつかく来たのだか らヨーロッパをよく見てまわってもらいたい。あんたの息子はクルップエ場にいる。まず、ドイツに 「おまえを口説きおとせないうちは息子にも会いに行かぬつもりだ」 大山巌は湖上の霧に目をやって、 「天気がおさまったら、モンブランに案内しましよう。ョ 1 ロ 登れる」 「おい、もっと本気で聞け」 「鹿児島には村田新八が帰っているのでしよう。あいっとはベルリン、パリ、ロンドンまでずっといっ しょに歩きまわったが、大久保よりも見事な髯をはやして、洋服もよく似合うようになって帰って行 った。大目玉先生も世界の大勢は新八の口から聞いているはずだ。おれがわざわざ帰るまでもない」 ツ。、 一の高山だが、途中まではらくに

10. 西郷隆盛 第20巻

・第ニ十巻《虎豹の巻》の時代的背景 ■一八七三年 2 ・加 大久保利通、参議就任を承諾 月ドイツ・ロシア・ ( 明治六年・西 ・閣議延期、大久保辞表を出す。この夜、三条実美昏倒 オーストリア三帝同盟 郷隆盛・歳 ) 11 っ 征韓論破れ、西郷・副島・板垣・江藤ら各参議下野する締結 ( 2 月中に西郷帰郷 ) Ⅱ月フランス軍、安南 【世相】この Ⅱ・内務省を設置 攻撃を開始 ワ 3 . ワ〕 年各地に地租 佐賀征韓党結成される 改正・徴兵令 反対一揆起る。 に一八七四年 板垣退助ら愛国公党結成する 3 月第二次サイゴン条 ( 明治七年・西 岩倉具視襲撃される 約、安南、フランスの 郷隆盛・歳 ) 東京警視庁を設置する 保護領となる 後蔵・板垣ら民選議院設立建白書を提出する この年、ロシアでナロー つ」・ 41 【世相】為替 江藤新平ら反乱する ( 佐賀の乱 ) ドニキ結社続出 ・ハンク三井組 4 ・ 4 台湾出兵を命しる スタンレー、アフリカ横 ( のちの三井 4 ・板垣、土佐に立志社を創立 ( この月西郷ら鹿児島に私学断 銀行 ) 開業。 校を創立する ) 0 . 11 1 上 00 台湾問題に関して清国との協定成立する。