反対 - みる会図書館


検索対象: 西郷隆盛 第20巻
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1. 西郷隆盛 第20巻

江藤新平は微笑して、 「香月はこんな男だ。吾輩が佐賀士族の蜂起に巻きこまれると心配してくれている。 : : : 後藤象二郎 たきぎ 君も新橋から横浜まで送って来て、帰るな、帰るな、今帰国するのは薪を背負って火の中にとびこむ ようなものだと、うるさくくりかえした。ふふふ、みんな親切なことだ」 山中一郎がべッドから身を乗出して、 「僕は先生の帰国に賛成です。五人の参議を失った現政府はカルタの城のようなものです」 海老原が首をかしげて、 「よに、カルタ ? 」 「西洋では弱体の政府のことをカルタの札でつくった城と申します。子供の息の一吹きでも吹っとん でしまう」 「なるほど、うまいことを言う」 いっき 「挙兵だ、反乱だと騒ぐまでもない。腐敗した弱体政府はただの百姓一揆でもつぶれてしまいます」 香月経五郎が眉根にしわをよせて、 「新帰朝者の口から、西洋心酔反対論を聞くとは意外だな」 「外から見ると、日本のことがかえってよくわかります。今後数年間の日本には動乱がつづくでしょ : その見地から、僕は江藤先生の帰国に、実は反対いたしました」

2. 西郷隆盛 第20巻

かに本人の才能と闘志が大きく作用している。高杉晋作にひきいられてイギリス公使館焼打ちにも参 加し、幕臣学者の暗殺もやり、下関では奇兵隊の一部隊をひきいて高杉の挙兵を助けた。元治元年に は井上馨らとともにロンドンに密航留学していたが、欧米連合艦隊の下関攻撃の報を聞いて帰国し、 長州の藩論を開国に転換させた。明治新政府になってからは、木戸に信頼され、井上を始め松下村塾 系の先輩を追いぬいて、長州派の最も有能重宝な活動家に数えられている。これは本人の才能と闘志、 少年のころからの苦労と燃える野心、志士としての捨て身の闘争経歴の結実である。 1 三ロ 今度の征韓論議の紛争についても、伊藤は敏感な触手をはたらかして、岩倉、木戸、大久保の反対侖 の方を正しいと見た。もともと征韓論は木戸が主張したのであるが、二年間の外遊が彼を熱心な″内 治派〃に変えた。大久保と岩倉の胸中にも同じ変化が起っている。 世界情勢は日本がアジアの一角で武力反撃に出ることを許さない。今出ていったら、欧米諸国の袋 たたきになる。現在の日本の民は貧しく、政府は弱く、陸海軍も旧式そのものだ。とても世界を相手 の舞台には立てない。内治を整えて時期を待たねばならぬ。 という点では、岩倉も木戸も大久保も一致しているのだが、彼らは西郷隆盛という人物を恐れてい雲 る。西郷を中心に結集した参議と軍人連の″征韓論。はもう防ぎきれないものとあきらめかけている。れ 流 「どうそあきらめないで下さい。大久保さんさえ動けば、木戸も動き、岩倉卿も元気を出します」 伊藤博文はためらう三条実美を必死にはげました。 第 「頽瀾を既倒にかえすという言葉もあります。及ばずながら、わたしもやってみます。征韓反対論者 は予想以上に多いのです。各省のみならず、軍人の中にもたくさんおります。日本を破滅から救出で たいらん

3. 西郷隆盛 第20巻

・第ニ十巻《虎豹の巻》の時代的背景 ■一八七三年 2 ・加 大久保利通、参議就任を承諾 月ドイツ・ロシア・ ( 明治六年・西 ・閣議延期、大久保辞表を出す。この夜、三条実美昏倒 オーストリア三帝同盟 郷隆盛・歳 ) 11 っ 征韓論破れ、西郷・副島・板垣・江藤ら各参議下野する締結 ( 2 月中に西郷帰郷 ) Ⅱ月フランス軍、安南 【世相】この Ⅱ・内務省を設置 攻撃を開始 ワ 3 . ワ〕 年各地に地租 佐賀征韓党結成される 改正・徴兵令 反対一揆起る。 に一八七四年 板垣退助ら愛国公党結成する 3 月第二次サイゴン条 ( 明治七年・西 岩倉具視襲撃される 約、安南、フランスの 郷隆盛・歳 ) 東京警視庁を設置する 保護領となる 後蔵・板垣ら民選議院設立建白書を提出する この年、ロシアでナロー つ」・ 41 【世相】為替 江藤新平ら反乱する ( 佐賀の乱 ) ドニキ結社続出 ・ハンク三井組 4 ・ 4 台湾出兵を命しる スタンレー、アフリカ横 ( のちの三井 4 ・板垣、土佐に立志社を創立 ( この月西郷ら鹿児島に私学断 銀行 ) 開業。 校を創立する ) 0 . 11 1 上 00 台湾問題に関して清国との協定成立する。

4. 西郷隆盛 第20巻

しかし、久光もすでに六十歳を越えていた。おのれをおさえて、話題を変えるだけの余裕はあった。 「その方は、今後の政府を大久保にまかせておいてよいと思っているか」 「私は大久保の誠意と手腕を信じております」 「ほう、憎んでいると思っていたが : 「論争もし、罵言も加えましたが、あの男が国の前途を憂い、一身の利害を度外において、私の遣韓 大使に反対したわけは、今はよくわかっているつもりであります」 「本心かな」 「本心であります」 久光はしばらく首をかしげていたがかすかに笑って、 「岩倉右大臣は、あの時、西郷を韓国にやっておけば、かえって無難であったかもしれぬと、遭難直 後に余に白状したそ」 「いえ、大久保が頑張って岩倉公に反対させたおかげで、私は韓国に行かすにすみ、のんきに狩など やっておれるのです」 「それは皮肉か」 「はつはつは、皮肉にもとれますな」 吉之助は屈託なげに笑って、「国内のこ、とは大久保にまかせておけば大丈夫です。いずれ清国か露国

5. 西郷隆盛 第20巻

で、犠牲もまた少ないと判断したのだ。 征台の役を起すことは″内治論〃の原則にそむくが、もし兵を動かさなかったら、兵そのものが反 乱し、″内治〃は内側から崩壊する。 大久保は出兵にふみきった。当然、政府部内に猛反対が起った。その先頭に立ったのは″内治派〃 の巨頭で潔癖家の木戸孝允である。彼は太政大臣三条実美にあてて手紙を書いた。 「江藤新平一党が縛に就いたそうだが、彼も征韓論の巨魁であるから、もし今日、国力を傾けて台湾 征伐を行うつもりなら、伏罪した彼らを釈放して征台軍の先鋒を命じられたら如何」 筋の通った痛烈な皮肉である。また、伊藤博文にあてた手紙にも、 「新附琉球藩民六十余人のために国費人命をつぎこんで、征台戦争の危険を冒すよりも、数千年来の 日本固有の人民を愛護してもらいたい」 「内務省も文部省もこそって内心は大不同意た。自分も内心の大不同意を抑えて、お茶をにごしてい るが、浮世にもこんな地獄があるものかと、涙を流すばかりである」 同じく長州派の鳥尾、三浦、山田の各少将をはじめ、陵軍卿山県有朋もまた、′ ー征台は一歩あやまれ勝 A 」 者 ば、清国との戦争になる、とても現在の陸軍にはその準備はない / ーと反対した。 しかし、大久保利通は、ここでも彼一流の決断と頑張りを発揮して押切った。木戸と長州派の反対 よりも、軍隊の崩壊と内乱の再発を恐れたのだ。その上、彼には大隈重信と西郷従道という有力な協七 力者がいた。 大隈の現職は大蔵卿だが、外交にもくわしく、長崎の渉外係のころから、 ークス公使の威嚇に屈

6. 西郷隆盛 第20巻

酒も適度にまわったころ、岩倉具視がさりげなく切出した。 「板垣参議、そなたは今朝、宮中で大久保に会われたそうだな」 「会いました」 「そのおり、明日の閣議冫 こよ、西郷を出席させぬ方がよかろうと中されたそうだが : 「たしかに中しました」 「西郷参議の派遣には再考の余地があると考えたのか」 板垣は副島の方をちょっとふりかえってから答えた。 「すこしちがいます」 「わたしは会議を二段にせよと中しただけです。三条卿は最初から西郷を出席させて論議しようとお 考えのようですが、それでは話がまとまらぬ。賛成側も反対側も各人各説、口々に勝手な発言をした ならば、西郷を怒らせるばかりで、閣議は始まった途端にぶちこわれてしまいます。まず西郷をのそ いた席で論議をつくし、その上で西郷を呼べば、無用の混乱を避けることができると思っただけです」 「大久保はそれに同意したのだな」 「そうです」 黙々として盃を重ねていた副島種臣が盃をおいて、 「中上げておきますが、わたしが北京までまいりましたのは、大陸経営という大策実行のためであり ますただし、岩倉、木戸、大久保諸公の反対論はまだ直接には耳にしておりませぬので、まず論議

7. 西郷隆盛 第20巻

ただの出兵論ではない。死を覚悟して大使になるというのは無茶だが、これはもう信仰のようなもの だ。議論して論破できるものではなかろう」 「西郷は、わたしが引受けます」 「まほ、つ」 「議論よりも覚悟の問題です。相手が死を覚悟しているのなら、こっちも同じ覚悟で対するよりほか : しかし、わたしが反対すれば、西郷はほかの誰が反対したよりも怒ります。意 はござりませぬ。 地にもなります」 「もう怒っているのではないか。われらの動きを察して、意地をはりはじめているのではないか。ど うも、そんな気がする」 「西郷は激しやすい男です。特に、相手が策を弄したと見ると、前後を忘れて暴言を吐く癖がありま す。悪い癖だと知っていながら、自分を制することができなくなるのです」 「なずかしい男だ。三条をはじめ参議たちは西郷を恐れている」 こ御任命雲 : どうぞ、わたしといっしょに外務卿の副島を参議冫 , 「西郷に対しては小細工は禁物です。 れ ください」 流 岩倉はおどろいて、 「副島は征韓論の火元ではないか、彼を一枚加えろというのは : 「それが正攻法です。どこまでも公正な処置をとった上で、堂々と戦うべきです。征韓派にも充分発 ・ : わたしは西郷を窮地に立たせたくない。彼の手足をもぎ取るような小策は弄したく 言させたい。

8. 西郷隆盛 第20巻

「従道さんも顔を出しているらしいのです」 「なに、信吾が ? ・ : あいつは野津をつれて昨日もここに来てくれたが、売茶亭のことなど何も言 わなかったそ」 吉之助は首をかしげていたが、思いあたったように、「そう言えば、信吾の奴、今の陸軍の実力で は、戦争は五、六年間はやれぬとか、海軍は海軍省に相談中だから、その返事が来るまでは態度をき めることはできぬとか、自分は陸軍大輔として山県の留守をあずかっているので、なんとも苦しい立 場などと嘆いてみせたり : 桐野が言った。 「従道君は、大久保さんの旨をうけて、先生の出発をできるだけ引延ばそうとかかっているのです。 野津の奴も売茶亭の会合に出ているらしい、と篠原国幹が言っておりました」 「そのような卑劣な小策を用いる奴だとは思わなかった」 「大久保のことですか」 「いや、信吾だ。大久保は反対なら反対だとおれの前ではっきり言う。信吾にはその勇気がない。か げでこそこそ動きまわって、おれの前ではどっちつかずのことを言う」 「従道君は大久保にあやつられているだけですよ」 「いや、大久保はそんな男ではない」 「しかし、木戸と岩倉卿がおります」 「大久保はヨーロッパで木戸と喧嘩して帰って来たはずだ」

9. 西郷隆盛 第20巻

「我等 ( 記者 ) はステーシ = ンの館内において見物するに、三条公は黒の高帽子、黒色の平服を召され、 西郷都督は正服にて、大隈公は例のとおりに羽織袴の出で立ちなりき」 なお、「本日は陸軍省の休日にあらざるにつき、出迎えの武官は我輩が思いたるよりははなはだ少人 数なりき」という記者の観察がつけ加えてあるが、これは陸軍部内に長州派の征台反対気分がまだみ なぎ 0 ていたことを暗示したのか。いすれにせよ、薩長の暗闘と大久保新政権の受難は、これより始 まる。 236

10. 西郷隆盛 第20巻

岩倉は眉をよせて、 「姑息の手段と申したな」 「左様、あくまで堂々と正面から対決すべきであります。裏面の小細工はもはや役に立ちませぬ」 「どうすればよいのだ」 「会議の席上において、征韓派の主張を完膚なく論破した上で、再び聖断を仰ぎ、使節派遣の勅旨を 撤回していただくのです」 大久保の目は炭火のように燃えていた。 岩倉はしばらく考えていたが、 「勅旨を取消せというのだな」 「できませぬか」 「いや、勅旨と申しても、三条卿がお上のお言葉を西郷に口頭で伝えただけのもので、勅書があるわ けではない」 「しかも、使節の出発はあなたの帰国を待ち、充分に熟議した上にせよと仰せられたと聞いておりま す。あなたが正面から反対なされば、勅旨の変更も可能でありましよう」 「そう、そのとおりだ」 岩倉はうなずいたが、「板垣や江藤の出兵論を論破することは、わたしにもできる。しかし、西郷は