君 - みる会図書館


検索対象: 谷崎潤一郎全集 第5巻
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1. 谷崎潤一郎全集 第5巻

己は事に依ると、首をく、って死んで居たかも分らない。 「君が牢屋に這人ったについて、君と云ふものをよく知らない世間の人が驚いたのは當然の事だ。けれど も、何も、君自身までがそんなに失望したり落膽したりする理由はないぢゃないか。君が破廉耻罪を犯し たと云ふ事は、平生の君の性格と少しも矛盾してはゐない。君の生涯に、今度のやうな事件の起り得るこ とは、前々から分って居た。僕は君がさう云ふ人間であるのを承知で、而も君の天才を信じて居たのだ。 さうして今でも信じて居るのだ。僕にさへ豫想の出來たことが、君自身に豫想の出來なかった筈はない。 君は今度の事件に依って、始めて憐むべき人間になったのではない。君は以前から非几の藝術家であると 同時に、憐むべき缺陷を備へた人間だったのだ。たゞ、今度の事件が起るまでは、君は平生自己の優越の 方面ばかりを正視して、劣等の方面を忘れて居る日が多かった。しかし、君は共れを忘れて居ても、知ら なかったとは云はれまい。知らないどころか、君は隨分、持って生れた自分の惡い性癖を呪ったり嘆いた りして居たちゃないか。 : 要するに、今更うろたへたり口惜しがったりするには及ばない。 殊に今度 の事件の爲めに、自信をなくしたなど、云ふのは滑稽千萬だ。君の自信は始めから、君の藝術に對しての み存在の理由を持って居たのだ。君はや、ともすると、その旺盛な自信力を知らず識らず不正常な範圍に まで擴大して、君の人格全體に賦與する傾向があったけれど、共れはちゃうど、或る食物を美味であるか ら滋養があると考へるやうな間違ひだった。君の人格は最初からゼロであるが、君の藝術的天分は最初か 科ら偉大であった。君は前科者になった今日でも、君の藝術に對しては依然として自信を把持するに差支へ 前 はない。人格上の不具者は眞の藝術家たる能はずと云ふ議論は、一往尤ものやうだけれど、畢竟君の天才 243

2. 谷崎潤一郎全集 第5巻

「いや君、先も云った通り、今日は正直に話をしよう。君に正直を望むのは、てんで無理な註文かも知れ ないが、僕の言葉を胡麻化さずに聞き取るくらゐの、誠意だけは持って貰はう。」 かさにか、って斯う浴びせかけた大川の眼玉は狂人のやうに血走って、顏は眞靑になって居る。靑野には どうして彼が此れほど迄に憤激して居るのか、その理由が分らなかった。 「君が僕の親切を心から感謝して居る ? そりや君にしたって、全然感謝して居ない事はないだらう。が、 よもや僕を親切だとは思って居なからう。僕も亦、近頃の自分が君に對して親切だとは、夢にも思って居 あら ないのだ。僕はたしかに君の推察通り、君の才能を嫉んで居る。嫉んで居ればこそ、その弱點を露はすの が兼さこ、ゝ カうして君の面倒を見て居る。たしかに其れに違ひないのだ。 けれども僕は最初から君 に對して今のやうな嫉妬を感じては居なかった。最初は僕も、外の友人に對すると同じゃうに君に對して も親切だった。純然たる好意から、温かい友情から、君の窮境を気の毒にも思ひ、出來るだけの援助を與 ~ て居た。君の爲めに可なり亂暴な詐欺にかけられて、損害を受けた時でも、僕は君を哀れにこそ思 ~ 腹 を立てはしなかった。君も知っての通り、僕は性來お坊っちゃんで、お人好しで、氣の弱い人間だから、 けっぺき 自分の行爲の善惡に對しては潔癖の方だけれども、他人には隨分寬大だった。今でも君以外の入に對して かうまで狹量に腹を立てたり、剩癪を起したりする事はめったにない。 ところが僕は君と附き合ひ出 してから、始めて僕自身の胸の奥にも卑しい根性の潜んで居る事を發見したのだ。僕は自分で氣がっかな . し日 . ー いっからともなく君の態度に挑發されて、嫉妬の感情を意識するやうになったのだ。『君の行爲 は親切ではない。それは嫉妬と云ふものだ。』と、君は僕に敎 ~ てくれた。明らかにさうは云はないまで さっき てうはっ ねた 354

3. 谷崎潤一郎全集 第5巻

「それちゃ君が僕の繪を見たあとでも出品を中止しないやうだったら、君の作品には非常な自信があると 認めてい、んだね。」 靑野は意地惡さうに唇を歪めて云った。 「君、僕の卑怯を笑ってくれ給へ。僕は君の出來榮えを見た様子で、君と競爭しようと云ふのだ。自分の 畫いた物が、君の物に比べてさう耻かしくないと云ふ事が分ったら、或ひは自信が出るだらうかと祈って 居るんオ けれども僕には、見ない先から大概結果が分って居るやうな気持ちがする。自信と云ふ 物は人の作品を見せられてから起るやうなものちゃないだらう。僕にほんたうの自信があるくらゐなら、 始めから君の所へなんぞ來やしないのだ。」 「さうして若し、君が出品を中止しなければならない場合になったとする。さうなったら君はどうするの だ。まさか永久に僕との競爭を斷念するんちゃないんだらう。」 「無論の事だ。僕は自分を發憤させる爲めに君の繪を見せて貰ふのだ。『此の馬鹿野郎』と云って君に頭 を擲って貰ふのだ。今年駄目ならば來年迄に僕は必ずあの繪を畫き直す。何度でも自信のつく迄畫き直す。 さうして飽く迄も君と競爭する。」 「まあ待ち給へ。それなら斯うしようぢゃないか。 繪を見てからの相談にしてもい、が、模様に依 ったら、來年君の繪が出來上るまで、僕も出品を見合はせるとしよう。 と云って相手が驚いて居る隙に、靑野は何と思ったか、急に気味の悪い いつも金の無心をする時のやう 397

4. 谷崎潤一郎全集 第5巻

不愉快にさせる笑ひ方ではあるカ 靑野はせん方なしに俯向いてしまった。 「君も隨分僕に對しては、僕から金を絞り取る爲めには、、 もろいろの政略を弄して居る。目下の君は、繪 を畫くための資本がないので、僕から金を借り倒すことを職業とし、且その職業に一生懸命になった餘り、 興味を感じて居るやうにさ ~ 見える。ま、こんな事を云ふと君は怒るかも知れないが、今日は何も彼も正 直に話してしまはうと思ふんだ。」 絲を繰り出すやうにぐづぐづとしゃべって居た彼の口調は、急に此處から活気を帶びて、彼は半身を乘り 出しながら、斷乎として相手の眼の中を覗き込ん / 「今度の借金は君の藝術の爲めだと云ふ。それはまさか謔ではあるまい。君がなんば謔つきの破廉恥漢で も、君の唯一の誇るべき財産である藝術までもだしに使って、僕を欺さうとするのではないだらう。一旦 社會から放逐されてしまった君が、もう一度世間 ~ 花を咲かす爲めに、或はもっと高い目的で君の眞の藝 術を、水遠に此の世 ~ 遺さんが爲めに、萬難を排して大作に取りか、らうと云ふ。その企ては友人の僕とし て義理にも助けなければなるまい。その爲めに繪具を買ったり、部屋を借りたり、モデルを雇ったりする のだから、費用を都合してくれろと云ふ君の賴みを、若しも斷ったりしたら僕はきっと卑怯な奴だと、少 くも君には思はれるだらう。今度に限って君の無心をはねつけたら、必ず僕が君の藝術を嫉妬して居る結 果だと云ふやうに、見下されるだらう。」 銀 と「ふん、 ・ : : : : 何も僕は、さうまで君を邪推する必要はない。僕がいかに墮落し切った、恩知らずの人門 3 金 でも、君の此れ迄の親切に對しては、心から感謝して居るくらゐなのだから、 だんこ ヾ、 0 、 ) 0 かっ

5. 谷崎潤一郎全集 第5巻

君、僕はゆうべどんな風をして居たか、氣が付いて居たかね。 君の姿は長い間見附ける事が出來なかった。 o 君が來て居る以上、君も必ず來て居るに相違ないと思 ったけれど、何處にも君らしい假裝者は見えなかった。僕は最初、君が女になって居るだらうと、信じ 切って居たものだから、容易に捜し出す事が出來なかったのだ。 君は恐らく、平安朝の武官の衣 裳を附けて、業平朝臣のやうな姿をして居たのが、さうなんだらう。 成る程、王朝時代の服裝をして居た者は、僕の外にも可なり多勢あったやうだが、それでも君はよく 分ったね。 そりや分るさ。君と同じゃうな假裝をして居た連中は、殆ど女ばかりだったのに、たゞ君だけが男だ ったのだ。その又君が、外の女たちよりも、一脣なまめかしく、女の扮して居る男のやうに見えたのだ。 いや、有り難う、 だが 0 君と御同様に、今更お世辭を云はれたって、僕もあんまり嬉しくはな 何だか冷かされてゐるやうな気がするね。 それはまあい、として、君たちはあの未亡人が、何に假裝して居たか分ったゞらうな。 0 うん分って居る。僕はゆうべ、外の者には眼もくれずに、未亡人だけを捜し出さうと努めたのだ。黒 ビロウドのヂャッケットに、同じ地質の半ヅボンを着て、プロンドの頭の毛の鬘を冠って、西洋人の子 供のやうななりをして居たのが、あれがたしかに未亡人だった。 さうだ。僕もあれだと思ったので、出來るだけ未亡人の眼につくやうに、彼女の周圍を離れずに居た のだ。 168

6. 谷崎潤一郎全集 第5巻

カう云って口を切るのが常であった。 は、息苦しい沈默に堪へられないと云ふ風に、、 : 恐らく僕と同じ程度に、君は不愉快を感じて居るに違ひない。君は僕が、人から借金を申し込ま れると、斷り難い性分だと云ふ事を知って居る。その弱點を知って居られるだけに、僕は誰よりも、君か ら賴まれた時に一層斷り難く感じる。その事は君はよく知って居る筈だ」 「さう云はれると、僕は何だか君の弱點に附け込んで居るやうに聞えるけれど、僕はなまじっか君の性分 を知って居るだけ、餘計気持が惡いんだよ。僕はいかにも、君が人から金を貸せと云はれると、斷り切れ ない性分なのを知って居る。君に云はせれば、その弱點を呑み込まれて居るだけ、僕に對して餘計斷り難 いと云ふだらうけれど、僕の方では其の爲めに却って賴み難いのだ。君の弱點を知って居ると云ふことカ 今度は僕の弱點になるのだ。僕に對して、君は最も斷り難い事情を持ち、君に對して、僕は最も賴み難い 地位に立って居る。だからいつでも金の話が持ち上ると、二人は散々梃擦らなければならなくなる。それ を承知で、かうして君に賴むのだから、よく / \ の場合だと思ってくれ給へ」 己がまた長々と、こんな調子で辯明する。はの好人物をさらけ出し、己は己の薄志弱行を告白し、双 方がヘルプレスな状態になって助け船を待って居る。さうして孰方も積極的に動かうとしないから、話が 者 科容易に片附かない。そのうち二人はいよ / \ 胸糞を惡くする。 「話をすれば話をするほど、いやな莱持になるばかりだから、いつも好い加減に切り上げて、結局君に用 てこす ヾゝ、 257

7. 谷崎潤一郎全集 第5巻

でも斯う云ふ噂をして居る。そればかりか、君を獨占して居るために、多くの方面から嫉妬を買って、ご ろっきのやうな不良學生に、擲られたり蹴られたり、僕はあらゆる侮辱を受けた。僕の事を僞善者と云ふ さっ が、僕はもう、僞善者にさへもなれないのだ。君は先きお互ひっこだと云ったけれど、僕と交際した爲め に君はどれ程損をして居るのだ。僕の拂った犧牲に比べて、君にどれだけの損があったのだ。ねえ君、よ く考へてくれ給へ。」 かう云っても、一旦醒めか、った由太郎の感情は、再び戻って來なかった。當惑したやうに袖を拱いて、 てきりつ 憮然として彳立して居る彼の容貌は、錦繪の中の人物と共に、微塵も動く様子がない。 「君はいっぞや何と云った ? 自分をいつまでも捨てないでくれろって。あれ程僕に賴んだぢゃないか。 僕は僕の拂った犧牲を、今になって決して後悔してるのぢゃない。君の心が、もう一度僕に復ってさへ來 れ、ば、僕は此れから未だいくらでも君の爲めに盡して見せる。もっと墮落しても、もっと侮辱されても、 君さへ傍に居てくれ、ば、それで充分に幸輻なのだ。今の僕には、正しい道に歸るよりも、曲った道へ落 ちて行く方が遙に樂なのだ。ねえ、君、澤崎君、後生だからもう一度考へ直してくれ給へ。」 少年の固く結んだ冷やかな唇に、その時ほのかに勝ち誇った驕笑が浮んだやうであった。 さっき 「濱村さん、あなたは先、僕に眞面目になってくれと仰しゃいましたね。嘘をつかずに、正直な事を云っ てくれと仰しゃいましたね。 「さうだ、僕はたしかにさう云った。君の正直な胸の中を、聞かせてくれとたしかに云った。」 僕はもう、あなたが嫌 「ですから僕は、正直な事を申します。僕の胸の中を無遠慮に白从します。

8. 谷崎潤一郎全集 第5巻

ものを狙ったのはもう此れで三度目だ。去年の展覽會の時も、それから二三年前の時も、二人のあの作品 が一つ會場へ陳列された時、僕はどんなに君に對して嫉妬を感じ敵意を抱いたらう。いや恐らく僕は、自 なら 分の作品が君の傍に列べてなかったら、さうして君と僕とが同じ學校の同期生でなかったら、きっと君を 崇拜する気になっただらう。正直を云へば、今でも僕は君を嫉妬する資格はないかも知れないのだ。崇拜 するのが寧ろ當然かも分らないのだ。仕合はせにも今迄は不人望の爲めに君の物は默殺されて、僕の方ば できば かりが評判になったけれど、今度のやうな大作が出品されて、而も共れが立派な出來榮えであるとしたら、 いくら世間が君の平生を憎んで居ても、もう默殺する事は出來ないにきまって居る。萬一また、社會が飽 く迄も君の不道德を追究して、惡罵を浴びせたり迫害を加へたりするとしても、さうして例の如く僕の評 げんさい 僕は最初、今度の 判が好かったとしても、その爲めに僕の嫉妬と不安とは一向減殺されはしない。 製作に就いては可なりの自信を持って居る積りだった。今度こそ君に拮抗してやらうと云ふ意気込みだっ さう思って自分を幾度勵ましたか た。君が持って居るだけの力は、奮發すれば僕にだってない事はない、 知れなかった。だが、君と全然同じ題材の、おまけにモデルまでも同じ作品が、會場に並んで掛けられた 時の光景を想像すると、僕はさながら強迫觀念に襲はれたやうな心地がする。君と僕との間にはまだまだ 遠い距離がある。それを見ないやうに見ないやうにと思っても、どうしても見ないでは居られない。 とさう云って、大川は苦しさうな息を吹いて、帽子を脱いで額の脂汗を拭った。また此の間のやうに知らず 金 識らず眼が血走って來て顏色が眞靑になって居る。煙草を飮み過ぎたのか、それとも胃擴張を起して居る 393

9. 谷崎潤一郎全集 第5巻

しかし私は、それ等の質間に應答すべく餘りに氣分が重々しくなって居た。私の頭の奧に刻み付けられた 彼の場の光景、 恐らくは一生忘れることの出來ない、彼の光景を想ひ出すと、私はまるで幽靈に取 り憑かれたやうになって、ばんやりと園村の顏を見返すだけの力しかなかった。 ・ : 君は多分、あの節穴から室内を覗いて見るまで、僕の豫想を疑って居たのだらう。君は始めから、 人殺しなどが見られる筈はないと思って居たのだらう ? : と、園村は私に構はずしゃべり績けた。 「君は昨日から僕を氣違ひだと思って居た、氣違ひの看護をする積りで、あの路次の奥まで附いて來たの だらう。君が僕に對して、腹の中では迷惑に感じながら、 い、加減な合槌を打って居る様子は、僕にはち ゃんと分って居た。僕は君から莱違ひ扱ひにされて居るのをよく知って居た。いや、事に依ると、君は未 だに僕を莱違ひだと思って居るのかも知れない。けれども僕が莱違ひであってもなくっても、あの節穴か ら見た光景は、もはや疑ふ餘地のない事實なのだ。君にしたって共れを否む事は出來ないのだ。さうして 君は、僕と違って彼の光景を豫め覺悟して居なかっただけ、それだけ僕よりも驚愕と恐怖の度が強かった に違ひない。少くとも僕の方が君よりも冷靜にあの光景を觀察したと僕は思ふ。あの、女の膝に轉げて居 た屍骸が始めて我れ我れの眼に這入った時、僕の驚きは恐らく君に譲らなかったかも知れないが、僕が驚 いた理由は、君とは全く違って居たゞらうと思ふ。 ・ : 君は大方、あの女がまだ後向きで居た時分には、膝の上に何が載っかって居るのだか気が付かずに 居たゞらう。從って、あの女と角刈の男とが、何をしようとして居るのだかも分らずに居たゞらう。とこ 484

10. 谷崎潤一郎全集 第5巻

居るんだけれど、 : 尤も君には、いつだかちょいと話した覺えがあるやうな気がするけれど、生れつ き「ゾヒズムの傾向があるもんだから、それを彼の女が君にしゃべりはしないかと思って、それが何だか 心配なんだよ。僕は隨分あの女と馬鹿な、下らない眞似をしたんだよ。僕は實際その點でも常識を外れて 居るんだよ。道德上の不具者と云はれるより其の方が極まりが惡いくらゐなんだから、若しも君があの女 から聞いた事があったとしても、どうか僕に聞かないと云って安心させてくれ給 ~ 。さうして榮子の話は もう止めにしてくれ給へ。」 靑野はこんな事を云ふ積りではなかったのに、何か、船 ~ でも乘せられてずんずん沖の方 ~ 進んで行くや うな心持ちで、ついうかうかとしゃべり出してしまった。 よいよにやにやと變な笑ひやうをして 頬ッペたを火のやうに火照らせて、 「あ、止めにしよう。」 大川は面喰って眼をばちばちゃらせて居たが、暫く過ぎて、間の拔けた時分に慰めるやうな聲で云った。 「その話は止めにして、君の問題に歸らう。それで君は、僕と同じ題材を擇んだのだとすると、やつばり マアタンギイを畫いて居るのかね。」 「さうなんだ、僕は君と同じモデルで同じ題材を扱って居ると云ふ事を知ってからも、無論最初の計畫を 變更しはしなかった。却って何處までも君と競爭してやらうと決心したくらゐだった。現に昨日まで、榮 子は毎朝僕の畫室 ~ 通って、午後から君の方へ廻って居たんオ しかし、あの女から時々君の製作 の様子を聞くに隨って、僕はだんだん脅やかされずには居られなくなった。君と僕とが、偶然同じゃうな ヾ、 ) 0 392