私をつれて逃げて下さい。」 「さあ早くー 私はさう云って、もう一度印度人の腕にしがみ着きました。 「い、えいけません。やはりあなたを救ひ出す道はありません。あれを御覽なさい。あの通り邸の中は何 處も彼處も燈火がきら / ( 、と輝いて居るぢゃありませんか。あの樣子では皆まだ寢ないのです。」 「そんならいっ救ひ出して下さるでせう。邸の人たちはいっ寢るのでせう。」 「いつのことだか分りませんよ。あ、して毎夜邸の隅々まで明りを燈して浮かれ騒いで居るのですから。 あなたはどうしても逃げられませんよ。あは、、、」 その笑ひ聲に驚かされて振り返って見ると、今の今まで髯むくぢやらの印度人だった人の顏は、いつのま にか温さんになって居るのです。 「あ、温さん、あなたは温さんだったのですね。その附け髯で今日まで私をだまして居らしったのですね。 あなたはあんまりです、まるで獸のやうな人です。さあ、もう逃がして下さいとは云ひませんから、どう ぞお慈悲に私を殺して下さい。お願ひです、お願ひです。」 「いや、お前を殺す譯には行かない。お前は死ぬよりももっと重い刑罰を課せられたのだ。あの賑かな邸 の様子を見せられた後に、お前は再び、さうして永久に、此の塔の中へ封じ込まれるのだ。」 云ふかと思ふと、彼は私の手を振り拂って、二つの窓へ又元の如く錠を卸して、部屋の外へ出て行ってし まひました。其の瞬間に私は気を失って、床板の上へ仰向きに倒れたま、、一と晩中、冷めたい月光に曝 されて居たのでした。 548
何とも云へないだらけ 訷の憂鬱に慣れ切ってしまった結果、肉體の不潔をも寧ろ樂しむ様な心持、 どぶどろ その心持に對して、僕は一種の懷しみさへ感じて居たくらゐ た、不精な、溝泥の様に濁った心持、 だったのです。が、その晩恰も柳湯の前まで來た時に湯 ~ 這人ったらば半月以來の暗澹たる気分が、一時 なりとも少しは明るくなるだらうと、ふとそんな風に考へました。 僕は一體、湯屋にしても、床屋にしても、何處と云って極まった所はありませんでした。いつでも往來を 歩いて居て、その氣になれば見つけ次第に飛び込むのが癖でした。ですからその晩も、ちゃうどポッケッ 。ところで、中へ這人って トに十錢銀貨があったのを幸ひ、ふらりと柳湯へ這入ったのだと思って下さい 見ると、僕が今まで一遍も來たことのない湯屋であることが分りました。いや、正直を云ふと、僕はあの 晩あすこを通りか、った際まで、あんな場所に湯屋のある事は、つい気が附かずに居たのでした。或は気 が附いては居たのかも知れないが、しかし全く共の時まで忘れて居ました。こ、でもう一つ斷って置かな ければならないのは、僕がさっき家を飛び出したのは九時々分で、それからもう何時間くらゐたったか、 少くとも三時間は經過したらうと思はれるのに、なんば夏の晩だとは云ひながら、湯殿はまるで宵のロの ゃうにゴタゴタとこみ合って居るのです。非常に夥しい湯気が一面に濛々と籠って居るので、風呂場の廣 さは ( ッキリとは分りませんでしたが、流しの板や桶などがヒドクぬる / ( 、した、あまり淸潔な湯屋では 件ありませんでした。尤も大分夜更けの事で、多勢の人が這入った跡ですから、そんなに汚れて居たのかも 手間が懸っ 湯知れません。何にしても餘り客がこんでゐる爲めに、小桶を一つ手に人れるのさ ~ 、なか / 、 柳 たほどでした。さうして、湯船の中の混雜と來たら、更に一層甚だしく、芋を洗ふやうにぎっしりと詰ま 127
しけ 此の頃は晝間でもあんまり人が出這人りをしない其の部屋は疊が黴臭く濕氣て居て、べとべとと足の裏へ 粘り着くやうなのを、芳雄は夢の中をさまよふのに似た心持で氣味惡く蹈みしめて、箪笥の置いてある隅 の方へ暫くし 1 んとして彳んだま、暗い眼の前を梟のやうに視詰めて居た。瞳を圍んで居る濃い闇の何處 か知らで明るい泡がばんやりと浮かんで共處からひら / \ したものが見えさうになって來るやうな、さう して共れが「あれ」と云ふ間もなく消えてしまったかのやうな、そんな氣持が二三度はしたけれどもたゞ 共れだけに過ぎなかったので、またべとべとと疊の上を歩いて箪笥の横の方の壁にびったりと添ひながら 蜘蛛が這ふやうにして行くと、思ひがけなく芳雄の手に觸ったものがあった。 それは姉の三味線が、 今もなほ其處の壁に懸けてあったのである。芳雄は、其の時は魔がさしたやうになって、或る恐ろしい經 驗を我から味はって見たく思ふ根強い好奇心から、その絲の一とすちを摘まんでびんと鳴らした。ぞうッ として、身の毛が竦つやうになって、闇の底にふるヘて消える餘韻の果てから姉の聲が響いて來るのを想 像しながら、じっと耳を澄まして居たがそれでもそんなものは聞えて來ない。びん : : と、もう一遍彼 は鳴らして、さうしてまたじっと耳を澄まして息を凝らして居ると、眞暗な中にぼうッと明るくなった所 が現れて、今まで見えなかった障子の棧が眼に映って來て、外の廊下を出來るだけ忍びやかに歩いて居る れらしい足音がみしみしと近寄って來るのだった。と、その障子は幽靈が這人って來でもする時のやうに靜 みけん 力に明いたが、寢間着を着て片手に手燭を持った兄が、蠍燭の穗先に顏の眉間のあたりをてらてらと赤く を照り返されながら、默って部屋の閾際に立った。 その顏は、ちら / \ と瞬きをつヾけて居る蠍燭の灯の向う側に、燈明に照らされて居るお厨子の奧の佛様 ふくろふ ほさき かこ 427
て、それを怪しげに見上げて居る芳雄の額を撫でながら彼女は情深い調子で教へ論すが如くに云った。 「兄さんはね、あんなに姉さんを可愛がっていらしったんですから、いっ迄もいっ迄も忘れることが出來 ないでほんたうに力を落していらっしやるのよ。だから芳ちゃんも兄さんを気の毒だと思って上げなけれ ば惡くってよ。ね、分ったでせう ? あんな事があれば誰だってぼんやりしてしまふのは當り前だわ。 あんな、姉さんのやうない、人はなかったんですもの。 さう云ひかけて直ぐ気が付いて涙を拂ひ落しながら、 「あ、またこんな事を云ひ出して惡かったこと ! 堪忍して頂戴よ。もう止しませうね。さうして何か唱 歌でも歌ひませうね。此れからは私きっとちょいちょいお伺ひして芳ちゃんと一緖に遊びますわ。だから もう淋しがらないでも大丈夫よ。ね、きっと來るわ。」 など、云って、佛壇へお線香を上げたりして、共の日は芳雄の部屋で一時間ほど話をしてから歸って行っ たが、それからはほんたうに折々訪ねて來てくれるやうになった。瑞枝はしかし大抵午後の二時か三時ご ろにやって來て、芳雄をつれて活動寫眞を見に行ったり、本鄕通りを散歩して少年雜誌を買ってくれたり して、兄には會はずに歸って行くと云ふ風だった。 「芳ちゃん、又この頃に兄さんにさう云って音樂會を開かうぢゃありませんか。 さあ、あたしがい 、唱歌を教へて上げるから一緖に歌って見ない ? 」 かへ そんなことを云って、 その生き いつの間にか昔の快活な彼女に復って元気よく歌をうたふ瑞枝、 / 、とした色つやのい、頬の肉を眺めながら、彼女と仲よく遊ぶと云ふことは亡くなった姉に惡いやうな 434
き當りはしないかと危ぶまれる。こんな所で置き去りにでもされたらば、私は一と晩か、っても宿屋へ歸 れやしないだらう。壁が盡きてしまふと、今度はぼこりと空地がある。それが四角な壁と壁との間に、齒 が拔けたやうなエ合に擴がって居る。さうして燒跡の如く瓦礫が磊々と積み重って居たり、沼とも古池と も分らない水溜りになって居たりする。すべて支那の都會には町の眞中に空地のあるのは珍らしくもない けれど、南京には殊に多い。晝間通った肉橋大街の北の方の堂子巷の近所なぞには、澤山の水溜りがあ がてう って、鵞鳥が何匹も泳いで居たくらゐであった。こんなところが舊都の舊都たる所以であるかも知れな 好い加減走ったと思ふ時分に、又廣い通りへ出た。廣いと云っても漸く日本橋の仲通りぐらゐな廣さであ る。兩側の構へは商店らしいが、 一軒として戸の明いてゐる家はない。 と見ると、路の中央に牌樓が立っ くわはいろう て居て、白い看板に花牌樓と記された文字が、闇に透かしてばんやりと讀める。 「此處の町は花牌巷と云ふのだね。」 私は俥の上で怒鳴りながら案内者に尋ねた。 「さうです、此處は昔此の町が明朝の都であった時分に、宮廷の女官や役人の衣服を拵へる職人達が住ん でゐたのです。その時分此の町へ來ると、どの家でも職人達が美しい衣服をひろげて、いろいろの絹絲で ぬひとり 夜綺麗な花の刺繍をして居ました。それで此の町を花牌巷と云ひました。」 淮支那人は前の俥から大きな聲でかう答へた。さう云はれると、何だか此の暗い通りが急になっかしくなっ て來る。あのひっそりとした板戸の中では、今でもさう云ふ職人達が、燈火の下にきらびやかな衣裳をひ 249
居る人間なんです。極端に云へば現實よりも夢を土臺にして生活して居る男なんです。ですから共れが夢 であったと悟ったからと云って、急に實感を失ふやうな事はありません。夢を見ることは、うまい物を食 ったり、 い、着物を着たりするのと同じゃうな、或る現實の快樂なのです。 僕は、夢の面白さを貪るやうな心持で、猶も其の死骸を足でいちくり廻しました。が、不幸にも共の面白 さは決して長くは績きませんでした。なぜかと云ふのに、僕はやがて、それを一場の夢だとするには餘り に恐ろしい事實を發見したからです ! 僕の足の裏の鋧敏なる觸覺は、 あ、、何と云ふ呪はしい、 フェエタルな觸覺でせう ! 啻に其れが女の死體である事を感付いたばかりでなく、その女が誰であ るかと云ふ事までも、僕に敎へずには措きませんでした ! あの昆布のやうにぬらノ \ と脛に卷き着いて 居る髪の毛、 恐ろしく多量な、ふっさりとした、而も風のやうにふは / \ した髪の毛は、彼女の物 でなくて何でせう ? 僕が彼女を愛するやうになったのも、最初は實に此の髪の毛の爲めだったのです。 じやたい それを僕がどうして忘れる事が出來るでせう。そればかりか、あの綿のやうに軟弱な、蛇體のやうに滑か そ な全身の肉づき、 たとへば共れは葛湯を塗りつけたやうに粘っこく光って居る肌ざはり、 れが彼女の物でなくて何でせう ? やがて僕の足の先には、鼻の恰好、額の形、眼のありどころ、唇の位 置までが、見るが如くにあり / ( 、、と感ぜられて來るのでした。さうです、何と云っても、 に胡麻化さ うとしても、それは瑠璃子に違ひないのです。瑠璃子が此處に死んで居るのです。 その時僕には、此の湯の不思議が一時に解決されました。僕はやつばり夢を見て居るのではなかったので す。僕は瑠璃子の幽靈に會って居るのです。普通、幽靈と云ふものは人間の視覺を脅やかすものです力 132
いや、そんな馬鹿な事がある譯はない。現に此の湯船の中には、自分以外にも多勢の人が漬かって居るぢ ゃないか。さうして皆平気な顏をして居るぢゃないか。と、考へ直して見ましたけれど、依然として脛に はぬら / \ した物が絡み着き、足の下にはもく / \ した物がぶつくり膨れ上って居ます。僕の異常に鋧敏 それが人間の、而 な觸覺は、たとひ足の裏に於いても、どうして其の物體の判斷を誤まりませう、 もある女の死骸である事は、最早僕に取って一點の疑ふ餘地もないのでした。それでも僕はもう一遍、念 の爲めに頭の方から爪先まで蹈み直して見ましたが、やはりさうに違ひありません。首のやうに圓い形を した物の次には、細長く凹んだ頸部があり、その次には又高く / 、さながら丘のやうに持ち上って居る 胸板の先が、乳房になり、腹部になり、兩脚になり、紛ふ方なき人間の形を備へて居るのです。僕は嘗然、 自分は今夢を見て居るのぢゃないだらうかと思びました。夢でなければこんな不思議な事がある筈はない。 自分は今何處に居るのだらう、布團を被って寢て居るのぢゃないか知らん。さう考へて周圍を見廻すと、 共處には相變らず湯気が濛々と立ち罩め、ガャガヤと云ふ人聲がうるさく聞えて、自分の前後には二三の 浴客の輪郭が、ボウッと霞んで幻の如く浮かんで居ます。そのもや / \ した湯気の世界が、ぼんやりと淡 くかすれて居るエ合は、全く夢のやうにしか思はれませんでした。夢だ、夢だ、きっと夢に違ひないんだ と、僕は思ひました。いや、實を云ふと多少は半信半疑だったのですが、僕は狡猾にも、無理やりに夢に 件してしまったのです。夢ならば覺めないで居てくれろ、もっと夢らしい不思議な光景を見せてくれろ、も 湯っと面白い、もっと途方もない夢になってくれろ、さう云ふ風に僕は心に念じました。夢ならば覺めよと 柳 祈るのが人情ですけれど、僕の場合は反對でした。僕はそれ程夢と云ふものに價値を置き、信賴を繋いで 131
ないとしたら、一層それは不自然になって來るんです。 然るに、共の晩おそく家へ歸って見ると、不思議にも瑠璃子はちゃんと生きて居ました。いつもならば、 喧嘩の後で家を飛び出すのが彼女の癖ですのに、その晩はあんまりひどく擲られたので體を動かす気力す らなかったのでせう。やはり先と同じゃうに縁側に突っ伏して、正體もなく體を投げ出しながら、例の房 しかし立派に生きて居たのです。實はそれさへも幽靈ではないか 々した髪の毛を振り亂したまゝ、 と思ひましたが、その夜が明けて、朝になっても瑠璃子はちゃんと僕の傍に控へて居ます。勿論僕は湯屋 いぎりゃう の事件を彼女にも誰にも話しませんでした。若しも世の中に生靈と云ふものがあるならば、昨夜のはきっ と生靈に違ひない。僕はさうも考へました。僕も隨分今までに奇怪な幻覺を見るには見ましたが、ゆうべ の死骸を、單なる幻覺だと極めてしまふのには餘りに不思議過ぎたからです。全く僕以外に嘗て一入でも あんな不思議な幻覺に出會った人があるでせうか ? 僕はそれから今夜まで、此れでちゃうど四晩っゞけて、同じ時刻にあの柳湯へ行って見ました。ところが いつもぬら / \ と漂うて居て僕の足の裏 どうでせう ! その死骸は毎晩あの湯船の底の眞ん中あたりに、 を舐めるのです。さうして常に人がガャガヤとこみ合って居て、流しには湯気が濛々と籠って居ます。そ れだけならばまだい、のですが、とう / ( 、僕は我慢がし切れなくなって、今までは足の先だけで觸って居 たのに、今夜は一と思ひに兩手を死骸の脇の下に突っ込み、ぐうッと湯船の底から引き上げて見ました。 すると やつばり僕の想像は誤まっては居なかったのです。それは正しく彼女の生靈だったのです。 ぬるノ ( 、、とした水垢に光りながら、眼とロとをぼかんと開けて、濡れた髪の毛を荒布のやうに引き擦って、 134
ら地はしたけれど、でもいろノ ( 、親切にしてくれて優しい言葉で慰められたりすることは、芳雄に取って 滿更嬉しくないのではなかった。それに、瑞枝とさうして睦じく遊んで居たら、いっかは兄も自分に優し くしてくれるだらうかと思はれたので、 神戸の祿次郎からも折々芳雄に繪葉書を送って來ることがあった。 「此れは楠木正成を祭った湊川神社の寫眞です。僕は二三日前こ、ヘ遊びに行きました。東京では誰も變 りはありませんか。今度の原町の家はい、家ですか。僕は十二月にお土産を持って行きますから樂しみに 待っておいでなさい。 さうしてよく勉強をしなければいけません。兄さんは姉さんがなくなってから、淋 しがっておいでゞせうから、みんなで慰めて上げるやうに賴みます。」 など、書いてあるのを讀むと、芳雄はいつも返辭をやるのに困るやうな気持だった。 「祿次兄さん、たび / \ お葉書を有難うございます。今度の家は新しくってい、家です。十二月には樂し みにして居ますからどうかきっと歸って來て下さい さうして一しょにお正月を迎へませう。うちの兄さ んは淋しがっていらっしやるやうです。僕は慰めて上げたいと思ひますが、子供ですからどうしてい、か 分りません。」 れけれども芳雄は、なぜか瑞枝が來ることは一度も書いてやらなかった。 の 年 つひぞ兄の笑ひ顏を見たことのなかった芳雄が久振りでそれを見たのは、明くる年の正月に、神戸から歸 ロ一 って來た祿次郎や柳子や瑞枝などが集まって、みんなで百人一首をした折のこと、それも兄は成るたけ芳 435
世界中で は本場の西洋へ行かない限り、始めから底が知れて居るし、最後に殘った支那料理さへ、 最も發達した、最も變化に富むと云はれて居る濃厚な支那料理でさへ、彼等にはまるで水を飮むやうにあ つけなく詰まらなく感ぜられるやうになった。さうなって來ると、胃の腑に瞞足を與へる爲めには、親の 病氣よりも一層気を揉む連中のことであるから、云ふまでもなく彼等の心配と不機嫌とは一と通りでなか った。一つには又何か知ら素敵な美味を發見して、會員たちをあっと云はせようと云ふ功名心から彼等は くひものや 頻に東京中の食物屋と云ふ食物屋を漁り廻った。それはちゃうど骨董好きの人間が珍らしい掘り出し物を しようとして、怪しげな古道具屋の店を捜し廻るのと同じであった。會員の一人は銀座四丁目の夜店に出 くひもの て居る今川燒を喰って見て、それが現在の東京中で一番うまい食物だと云ふことをいかにも得意さうに、 發見の功を誇りがほに會員一同へ披露した。又ある者は毎夜十二時ごろに鳥森の藝者屋町へ賣りに來る屋 臺の燒米が、天下第一の美味であると吹聽した。が、そんな報告に釣り込まれて外の連中が試して見ると、 それ等は大概發見者自身が餘り思案に凝り過ぎて、舌のエ合がどうかして居た結果だと云ふことになった。 實際彼等は食意地の爲めに皆少しづ、が變になって居るらしかった。他人の發見を笑ふ者でも、自分が ちょっと珍らしい食味に有りつくと、うまいまづいも分らずに直ぐと感心してしまふのであった。 「何を喰ってもかうどうも變り映えがしなくっちや仕様がなな。かうなって來るとどうしてもえらいコ くひもの 部ックを捜し出して、新しい食物を創造するより外にない。」 食「コックの天才を尋ね出すか、或ひは眞に驚嘆すべき料理を考へ出した者には、賞金を贈ることにしよう 美 ちゃないか。」 シュウマイ 145