ってしまった。それからどうかした彈みに、玉子の涙が己の眼の中へ流れ込んで來たのでばち / 、と眼ば たきをして居るうちに、眼玉の周りが妙に温かく潤んで來たなと思ったら、己は堪らなくなってとう / \ 一緖に泣き出したのだ。泣き出したらいくらか頭の痛みが剥がれて行くやうな、何とも云へない好い氣持 になった。泣くと云ふ事は糞をたれるのと同じゃうに一種の生理的快感だ。玉子にしたって悲しいから泣 どっち いたのではなく、好い氣持だから泣いて居たのかも知れない。或は馬鹿な女だから自分でも孰方だか分ら ずに泣いて居たんだらう。涙がこばれるから泣いたんだと云ふかも知れない。彼奴はまるで汗を掻くやう に造作もなく涙を出す。 そのうちに玉子は己の肩を抱へて、己の體をぐいと自分の方へ向け直した。己はまるで死骸のやうにぐっ たりとなって、もう抵抗する氣も何もなかった。が、 泣き顏を見られるのが口惜しかったので、顏をびつ たりと彼奴の額にくッつけてしまった。四つの眼から流れ出る涙が己の頬ッペたと彼奴の頬ッペたとを一 面に水のやうに濡らした。己の眼から出た涙が、彼奴の眼へ這人ってもう一遍涙になって出たかも知れな 。彼奴の眼から出た涙を、己は自分の涙だと思って鼻の孔へ啜り込んだかも知れない。何にしても厄介 な事になったと思ったが、しかしどうにもしゃうがなかった。さうして泣いて居る間はまだよかったが、 散々ッばら泣いてしまったら又しても頭がきりノ \ と痛み出した。體中の紳經が妙にとげ / \ しく焦立っ 曲 て來て、眼はすっかり冴え返って、額の邊が糊着けの薄紙か何かを貼ったやうにびーんと突ッ張って居る はのを感じた。手足の節々に云ひやうのない倦怠と疲勞とが行き亙って、顏には熱があるやうな、その癖背 呪 中の方がぞくイ、とうすら寒いやうな、風を引いたのかと思はれるほどいやな氣持がした。此の様子では へんのりづ いらだ 293
さう云って、兄はいくらか餘所々々しいところを隱し切れずに、それでも何となくにこ / 、笑って見せた りした。 三人で表を歩く時には姉が二人の間に這入って居て、彼女の兩側を行く兄と弟とは成るべく直接には言葉 を交さずに、姉を通して話をすると云ふ風にしながら少しづ、親しみを感じ合はうとするやうに見えた。 「芳ちゃん、あなた何か欲しい本があるんちゃなかったの。あるなら兄さんに買ってお戴きなさいな。」 など、云って、姉の方からそんな機會を作ってくれるので、 「何だね、欲しい本と云ふのは ? 買ってやるからさう云ふがいゝ。」 と、兄もわりあひに不自然でなく情愛のある言葉を云ふことが出來るのだった。 そんな時に芳雄は自分でも齒痒いやうな不思議な気後れを感じながら、兄を失望させるのは惡いと思ふ心 づかひから出來るだけは嬉しさうな様子をして兄の顏を見上げたりすることがあったが、それでもあの兄 の眼の中を長く / ( \ 視て居ると、その眼の奥に情愛を裏切るものが光って居るやうな心地がして、兄の方 でもはっと共れに気が付いたやうなエ合になって、二人が慌て、うつむいてしまふ場合があった。兄は、 どうかして自分の眼の中にさう云ふもの、現はれるのを防ぎたい、芳雄にいくら見守られても平氣で居ら れれるやうになりたいと思って共れを始終心がけて居るらしかったが、いつもそれほど大膽にはなれないで の眼と眼を見合はせさへすれば直きにそうッと横を向いて、ロもとではやはり機嫌よく笑ひながらそ知らぬ を風を裝って居るやうにして居た。 キⅢ・ま、 兄から共れを云ひ附かって居たのかどうかは分らないけれど、 兄が非常に芳雄のこと ロ一 447
いやうな気がしたので、 「そりやほんたうなの ? 姉さん」 と、聲に元氣を出して云って、異様にどき / 、と胸が動悸を打ち出したのを感じて居ると、その動悸は嬉 しいためなのか其れとも外の理由のためなのかやがて分らなくなって來て、今、自分が瑞枝の來ることを 悲しく恨めしく訴へるやうな共の人の細い聲音が、 喜んだ瞬間に、亡くなった姉の眼に見えぬ姿が、 ちらと自分の傍を通り過ぎはしなかったかと云ふ風な恐怖に襲はれて、顏の色が直ぐと青白く總毛立って 來るのを隱し切れなくなって行った。 「どうしたの芳ちゃん ? 」 「どうもしやしないんです。 さう云ったけれど、誤化してしまふことはとても出來なくなって、 「 : : : : ・麻布の姉さんが來てくれるのは嬉しいには嬉しいけれど、先の姉さんのことを想ひ出したら何だ か急に悲しくなったもんだから、 「まあ、お前は厭な兒だったらないね。くよくよとそんな事ばかり考へて居て、まるで女みたいね。ちっ れとも男の兒らしいところはありやしない ! 」 怯 の柳子は呆れて眼を圓くしながら、どうして此の兒は斯うまでひねくれた性分なのだかと云ふやうに、いぶ をかしさうに芳雄の様子を眼瞬きもせず見守るのだったが、さうされ、、ばされるほど芳雄は頑固に口を噤ん ロ一 で眼に涙を溜めてうつむいてしまったま、、病人らしく痩せた指の先で新しい制服の上衣のボタンをしょ せん 441
丿ームの飮みかけのコップと、卓上電話とが置いてあるばかりなのである。で、彼はそのアイスクリ 1 ム のコップの方を、いかにも珍しさうな眼つきで、 いっ迄もいっ迄も眺めて居た。彼はきっと息を切らせて 喉が渇いて居るのであらう、それで此のアイスクリー ムを飮ませて貰ひたいのだらう。 私がさう考 へたのは咄嗟の間である。さうして次の瞬間には、私の此の推察は非常な誤まりであった事が明かになっ た。なぜかと云ふのに、アイスクリ 1 ムを見詰めて居る靑年の眼つきは、「珍しさう」と云ふよりも、寧 びまん ろ「疑ひ深さう」な色を帶びて來て、見る / \ うちに彼の顏には名状し難い恐怖の情が瀰漫したのであっ た。たとへて云へば、彼は恰も化け物の正體をでも見究めるやうな臆病な眼つきで、さも不審さうに、ど ろどろしたアイスクリ 1 ムの塊を睨んで居たのである。それから彼は更に一歩前へ進んで一脣入念にアイ スクリー ムのコップの中をと見かう見した後、始めて安心したやうにほっとかすかな溜息をついた。その、 がてん さっき 少くとも私にだけは合點の行かない不思議な素振りを、先から靜かに觀察して居た博士は、此の時を待ち 構へて居たやうに、やさしい語気で再び質問の言葉を云った。 「君は誰だね、さうして何の用事があって來たんだね」 博士は先「お前」と云ふ代名詞を使ったにも拘はらず、今度は「君」と改めたのである。此の靑年が卑し い職工ではないらしい事を、博士も私と同様に後で気が付いたのだらう。 すると靑年は、ぐっと一と息唾を飮んで、大きい眼の上を二三度。ハチ。ハチと眼瞬きした。それから、急に 自分の身に危險の迫ってゐるのを感じたやうに、今這入って來た戸口の方に注意深い瞳を配って、居ても 立っても溜らないやうな、うしろから恐い物に追ひ縋られて居るやうな風を示した。 とっさ 116
ことを、僕は其の時始めて知りました。隱居に斯う云ふねちねちした、變に人の足元 ~ 絡み着いて來るや うな執念深い性質があらうとは、全く意外な發見でした。それに又、共の時の隱居の顏つきが實に不思議 もつの間にやら眼の表情がすっかり違 でした。物の云ひぶりや、態度などは別に不斷と變りはない癖に、、 って居るのです。僕に話をしかけながらも、何かちいッと外の物を視詰めて居るやうな、瞳が眼窩の底に 吸ひ着いてしまったやうな、一種異様に血走った眼つきなのです。共れはたしかに、頭の中が急に亂調子 になって気違ひじみた紳經が共處から覗いて居る事を暗示して居ました。此の眼つきの中には、何か知ら 尋常でないものが隱れて居るに違ひない。隱居が親類の人たちから忌み嫌はれる所以のものが、或ひは此 の眼つきの蔭に釀されて居るのかも知れない。咄嗟に僕はさう直覺しました。同時に體中がぞっとするや うなショックに打たれました。 殊に僕の此の直覺を助けたものは、其の時のお富美さんの態度でした。お富美さんは、隱居の眼の色が變 ったのに気が付くと、「又か」と云ふやうな困った顏をして、眉をひそめながら「ちょツ」と舌を鳴らし ました。さうしてだゞッ兒を叱りつけるやうな調子で、 「何ですねえあなた、宇之さんの方で駄目だと云ふものを、そんな無理を云ったって仕様がないぢゃあり ませんか。ほんとにあなた見たいな分らずやはありやしない ! 第一座敷のまん中で縁臺へ腰かけたりな んかして、そんな面倒臭い眞似をするのは私が御免蒙るわ。」 かう云って隱居を睨みつけました。すると隱居は、今度はお富美さんに向って三拜九拜せんばかりに哀願 して、煽てるやら賺かすやらいろいろに御機嫌を取りながら、何卒縁臺 ~ 腰をかけて足を拭いて居てくれ あたし どうぞ ゅゑん 374
みなぞこ して居る淸洌な水底に、すばしこい體をちっと落ち着けて、靜かに尾鰭を休めて居る魚のやうでもありま した。さうして、魚の體を庇うて居る藻のやうに、その瞳の上を蔽うて居る睫毛の長さは、眼を瞑ると頬 の半ばの所にまで其の毛の先が懸るほどでした。僕は今まであんなに立派な、あんなに見事な睫毛を見た ことはありません。あんなに睫毛が長くては、却って瞳の邪魔になりはしないかと思はれるくらゐでした。 眼を膰いて居ると、睫毛と黒眼との繋がりがノ、 、ノキリ分らないで、黒眼が眼瞼の外へはみ出して居るやう にさへ見えました。殊にその睫毛と瞳とを際立たせて居るのは、顏全體の皮膚の色でした。此の頃の若い 女としては、 ( 殊に藝者上りの女としては、 ) 極めてあっさりとした薄化粧の地肌が、そんなにケバケバし くなく、曇硝子のやうな鈍味を含んで、血の気のない、夢のやうなほの白さを擴げて居る中に、その黒眼 だけがくつきりと、紙の上に這って居る一匹の甲蟲のやうに生きて居るのです。實際僕は此の女の美を誇 張して云ふのではありません。僕の感じをたヾ正直に表白して居るだけなのです。 いつもなら年始の挨拶もそこそこに引き下る筈なのですが、僕は何だか拾ひ物をしたやうな気がして、其 の日の朝から午後の二三時頃まで、晝飯の馳走になりながら隱居のお相手を動めました。その女のお酌で 隱居も醉ひましたが僕も大分醉ったやうに覺えて居ます。 「宇之さんや、失禮ながら私はまだお前さんの畫いた繪といふものを見たことはないんだが、西洋畫を習 足って居なさるんだから、油繪の肖像畫を畫くことなんかはうまからうね。」 美隱居がふいとこんな事を云ひ出したのは餘程酒が循った時分でした。 「うまからうねだなんて、隨分ですわね。あなた怒っておやんなさいよ。」 にぶみ 367
のやうに其れだけが一つ闇に浮き出て、高い鼻の影を片方の頬ツ。へたへ眞黒くくッきりと落して、物云ふ 術を忘れたやうに唇を固く閉ぢたま、凍り付いたやうな凝視を芳雄の上に据ゑて居た。芳雄は箪笥と壁と の隅の方へ身をちゞめて、生れたばかりの赤ん坊がするやうにしつかりと握りしめた兩手の拳を頤の下へ 入れて、たとへやうのない戰慄に體中を任せながら、 姉の幻を見たにしても恐らくこれほどではあ ぎゃうさう るまいと思はれる凄じい兄の形相を、あの、姉が死んだ晩以來決して見ようとはしなかったもの、 兄の眼の中を、動物的な恐怖を以て睨み返した。が、兄の眼の中には芳雄のそれに劣らない気違ひじみた 恐怖が充ちて光って居たかのやうに思はれた。 「芳雄、 : お前は其處で何をして居るんだね ? 」 その聲は、しかし其の眼よりももっと露はな恐怖の爲めに嚴かにわな、いて居た。兄はさう云って芳雄の 姿と其の傍にある三味線とを見比べるやうにして、それから斯う、叱ると云ふよりは哀願してゞも居るや うな或る奇妙な優しさを帶びた調子になって、 「え ? 何をして居るんだ ? 今何かお前はしやしなかったか ? 」 「い、え」 と云って、芳雄は何處までもさう云び切る心でまだ兄の眼を執念深く睨んで居た。それは反抗的にではな 恐怖が彼の視線を其處へ釘着けにしてしまったやうに。 「何もしない ? ほんたうに何もしなかったかね ? 」 兄は、いかにも疑惑に脅やかされた顏つきで重ねてさう云ひながら芳雄を見る、次にはまた恐る / \ 三味 あら おごそ 428
: 僕は早く寢ちまふからよく知らない。」 「何時ごろですか。 「あら、ぢや兄さんはそんなにお歸りが遲いの ? 」 みは 瑞枝は驚いて眼を雌って、 「さう ? そしてどんな御樣子 ? 」 と、さも / \ 共れが心配な事らしく繰り返して尋ねた。 「兄さんは何だかいつも默って居て、僕と話なんかする事はないの。」 気むづかしく眉根を寄せて恨めしさうに芳雄が云ふのを、瑞枝はにこ / \ 笑ひながら見守って居たが、急 に眼もとを擽ったさうに細くしてからかふやうな言葉っきで 「ちゃ芳ちゃんは兄さんが恐いのね ? え ? さうぢゃないこと ? 」 さう云って、そんな時にはよく昔さうしたやうに、芳雄の兩手をまへて共れを柔かい彼女の掌の中で揉 むや、つにしこ。 : でも時々兄さんはお酒に醉って歸って來ることがあるんだもの。」 「恐いことはないけれど、 だけどね、兄さんは姉さんがお亡くなりになったんで 「まあ ! お酒に醉って ? 惡い兄さんだこと ! れ淋しくって溜らないもんだから、それで氣睛らしにお酒をお飮みになるんだわ。きっとさうに違ひなくっ の てよ。芳ちゃんには分らないかも知れないけれど : 年 る 瑞枝の、長い睫毛の生え揃った眼瞼が、凸面鏡のやうに圓くむつくりと飛び出て居る黑眼がちの瞳の上を 忙しなくばた / 、と瞬いて過ぎたかと思ふと、その度毎に共處からまた少しづ、涙が光って濕り出して來 また、 まぶた 433
で、成るべくならば叱らずに濟ませよう、そのうちには默るだらう、と、出來るだけ貝島は知らない風を 裝って居ると、反對に話聲はだんノ無遠慮に高まって來て、遂には沼倉のロを動かす様子までが、彼の 眼に付くやうになった。 「誰だ先からべちゃ / 、としゃべって居るのは ? 誰だ ? 」 と、とう / 、 \ 彼は我慢がし切れなくなって、かう云ひながら籐の鞭でびしッと机の板を叩いた。 「沼倉 ! お前だらう先からしゃべって居たのは ? え ? お前だらう ? 」 「いゝえ、僕ではありません。 沼倉は臆する色もなく立ち上って、かう答へながらずっと自分の周圍を見廻した後、 「先から話をして居たのは此の人です」 と、いきなり自分の左隣に腰かけて居る野田と云ふ少年を指さした。 「い、や、先生はお前のしゃべって居る所をちゃんと見て居たのです。お前は野田と話をして居たのでは ない。お前の右に居る鶴崎と二人でしゃべって居たのだ。なぜさう云ふ謔をつくのですか」 貝島は例になくムカムカと腹を立て、顏色を變へた。なぜかと云ふのに、沼倉が自分の罪をなすりつけよ うとした野田と云ふ少年は、平生から温厚な品行の正しい生徒なのである。野田は沼倉に指さゝれた瞬間、 まばた 國はっと驚いたやうな眼瞬きをして、隣れみを乞ふが如くに相手の眼の色を恐る / 、窺って居たが、やがて 何事をか決心したやうに、眞靑な顏をして立ち上ると、 「先生沼倉さんではありません。僕が話をして居たのです」 さっき さつぎ
柳浪聞鶯の前を通り過ぎた船は、今度は進路を西に取って湖の中心へ漕いで行った。左岸に黒くかたまっ 船が私の知らぬ間 て居る背の低い一とむらの林は、恐らく桑畑か何かであらう。右岸はと見ると、 にぐるりと方向を一轉したので、何だか斯う、急に眼が廻るやうに周圍が濶然と打ち開け、寶石山の保叔 塔が波に沒しか、った帆柱のやうに、遙かな空にぼうっと淡く霞んで居る。その左の葛嶺の山の裾に、灯 がちら / \ と瞬いて居るのは新々旅館だらう。此處から眺め渡した様子では、向う岸までは非常に遙かで、 西湖は海の如くひろがって居る。しかし海にしては水面が穩やか過ぎて殆ど波らしいものは眼に止まらな い。私の體が蟲けらのやうな小さなもので、偉大な大理石の圓盤の中に置かれて居るのかとも想像される。 っふ 子供の時分に野原のまん中などで、眼を瞑ってぐる / \ 廻った後で又ばっと眼を開くと、よくこんなびろ ん \ とした、気が遠くなるやうな天地の大いさを感じた覺えがある。だが其れよりも尚不思議なのは、そ る、人間の胸のあ 或はせい んなに廣々として居ながら、何處まで行っても水は依然として二三尺の たりまで漬かるくらゐな深さしかない。西湖は湖ではなくて恐ろしく大きな池であるかの如くに、その時 しみみ \ と感ぜられたのであった。巨人が箱庭を作るとしたら、きっと此の西湖のやうなものが出來るに 違ひない。此の湖が此のやうに靜かなのは、さうして共の面にあらゆる物象が鮮やかな影を印して居るの は、畢竟水底が斯くの如く淺い爲めに波らしい波が立たない結果なのであらう。盥の中にも山の影は映る 月 ル、、つこ、 たとひ二三尺の深さでも水はやつばり水である。正面に鬱蒼と堆く盛り上って居る孤山の翠嵐を の せいかれい 湖始めとして、その左に低く長く、女性的な優雅な曲線を起伏させて居る天竺山、棲霞嶺、南高峯、北高峯 の山々が、月の光に融けてしまひさうに朦朧と消えかゝりながらも、猶その影を一つ / \ 倒まに映して居 またゝ うづたか たらひ 349