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検索対象: 谷崎潤一郎全集 第9巻
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1. 谷崎潤一郎全集 第9巻

肉 妙に気取って濟まし込んでゐるのもあり、身も心も全く音樂に蕩けたやうに熱心な眼を輝かしてゐるのも あり、さうかと思ふとまるで苦蟲を噛み潰したやうな澁面を作ってゐるのもあり、殆ど千態萬様であるカ 今その女の青白い容貌は、絶え間なく廻轉してゐるなめらかな四肢の運動とは無關係に、例へば虚空に浮 いてゐる一つの幻の花のやうにして宙を漂って來るのである。共大きな黒い瞳は、相手の相澤を見てゐる のでもなく、音樂に聞き惚れてゐるのでもなく、勿論場内の雜沓を見廻してゐるのでもない。人はその瞳 の色に接すると、此賑やかに沸き立ってゐる歡樂境の中にあることを忘れて、水を打ったやうな靜かさに 襲はれ、無限に深い淵の底に吸ひ込まれて行くのを覺えるであらう。たった二つの瞳の光でも時とすれば 貴い寶石と同じゃうに、その周圍にある几べての色彩を奪ってしまふ。 「不思議な眼だね。」 吉之助はただ一と言、さう云ったきりだった。 女の眼には愛嬌に充ちて輝やくのもある、悧巧さうに冴え返ってゐるのもある、敏捷にチョコチョコ働く のもある、だが、此の女のはそれらとは違って月が暈を被ったやうにどんよりと鈍い光を湛へ恍惣と膰か れてゐるやうで實はものうげに、やるせなげに、遠いところの、あらぬ方角へうつろな視線を向けてゐる。 それはたまたま亡國の美人などが持ってゐる眼で、張り合ひのない、疲れたやうな表情の底に云ひ知れぬ 鬼氣を含み、誘惑を帶びてゐるのである。そして彼女の全體の顏から來る感じも正しくその眼と調和を保 って、整ってはゐるが何となく大儀さうな、睡気を我慢してゐるやうなところがあり、孰方かと云へばお っとりとした印象を受ける。それは或は、やや病的な感じを持った靑白い血色のせゐでもあらう、吉之助 ヾゝ、

2. 谷崎潤一郎全集 第9巻

「君、あの女の踊るところを見ようぢゃないか。」 吉之助は席を立って、柴山を促しながらダンス・ホ 1 ルの入り口の方へ二人の影を追って行った。と、も うその影は溪川の早瀨を落ちる木の葉のやうにくるくる舞ひながら、人波の間を揉まれ揉まれてずっと遠 くへ隔たってゐたが、 踊ってゐる群集は、一つの大きな輪を描いてホ 1 ルの中を循環しつつあるやうに見 え、二人の影はやがて再びくるくる舞ひながら吉之助の傍へ戻って來た。鏡のやうに研かれた床の上を、 緋繻子の沓とエナメルの沓と、四本の脚が入り亂れて繩を綯ふやうに縺れ合ひつつワルツのステップを踏 んで來る。女の脊丈はちゃうど相澤と同じ位に思へるのだが、その堆く波打ってゐる栗色の髪の毛と高い 踵を除いたら、多分一二寸は低いであらう。紅い服が恰も海水着を着たやうにびったり胴中を締めつけて、 一とすぢの皺も寄らないくらゐに張り切ってゐるので、吉之助は切地を透して殆ど彼女の裸體を見るやう な心地がした。 と云ふよりは、その紅い切で彼女の皮膚の一部分が張ってあるのだと云った方が、 或は適當かも知れない。少くとも腰から上は服を纒ってゐるのではなく、きらきら光る紅い繪の具を體へ 直かに塗ったのと同じ感じである。が、手足の長い、すんなりとした、恰も蜻蛉の胴體のやうにしなしな してゐる體つきにはさう云ふなりがよく似合って、毒々しいところがないばかりか、却て淸楚な趣きをさ へ覺えさせる。 「あの女は混血兒かね、それとも純粹の西洋人かね。」 柴山はだんだん此方へ近寄って來るその顏だちを眺めながら云った。一體、踊ってゐる人々の表情を一つ 一つ調べて見ると、中には愉快さうに笑ってゐるのもあり、ペちゃくちゃしゃべり合ってゐるのもあり、

3. 谷崎潤一郎全集 第9巻

肉 る、あれで草履を穿かないで繻子の沓を穿いて行くんだよ。」 だがさうなると外輪で歩くこと 「成る程、もうああなったら一脣沓を穿いた方がいいかも知れんな になるかね。」 「外輪で歩くのも見様に依っては案外惡くないものだよ。西洋の女が寢間着の代りにキモノを着て、大き な出ッ臀を動かしながらチョコチョコ歩くところなんか、あれも一つのスタイルとして僕は面白いと思ふ よ。日本の女もだんだん體つきが西洋人臭くなって來るから、着物の着かたが變って來て、今にああ云ふ スタイルになるかも知れない。 つまり洋服と同じゃうに、胸だとか臀だとか云ふ出っ張った所をわざと見 せるやうにして、共代り帶の幅を短くするんだね。今迄の流儀だと出來るだけほっそりしたのがい、譯な んだが、さうなって來ると瓢箪形にまん中の縊れた奴がい、事になる。從って歩き振りも外輪の方がい、 理窟だよ。」 「だが、 と、吉之助は柴山の言葉を打ち切るやうに云ひながら、 「ヴィオラ・ダナも悪くはないが、あの紅い服を着た方の女ー・ーー僕はあ、云ふタイプが欲しいね。何處 の娘だか知れないが、あれは女優にならないか知らん ? 」 こしかに君が好きさうなタイプだよ。」 「うん、あれはい、、あれが女優になったら素敵オ 「若しもあれが女優になったら、僕はあの女を人魚に使ふね。」 さう云ったとき、紅い人魚は相澤と手を組合って舞踏の群の中に隱れた

4. 谷崎潤一郎全集 第9巻

と、共處で相澤はもう一人の、友禪の振袖を着た日本ムスメに行きあたった。 「まあ、あたし先から搜してゐたのよ。」 とでも云ってゐるのであらう、日本ムスメは馴れ馴れしく話しかけてゐる。 「あの友禪の振袖がヴィオラ・ダナちゃないのかな、ちょっと似てゐるやうぢゃないか。」 「うん、似てゐる、だが俥屋の娘にしては大變なりが立派過ぎるぜ。」 相澤は二人の女の中に挾まってしゃべりながらも、「孰方が美人だかよく見て置いて下さい、」とでも云ふ ゃうに頻に此方へ眼くばせをする。振袖を着たヴィオラ・ダナは圓ばちゃの可愛らしい頬つ。へたをしてゐ る。くりくりとした黒味がちの大きな瞳と、幅の廣い厚い唇とが非常に肉感的に見える。全體の顏つきは 多分その眼球と唇とに西洋の血を引いてゐるのだらう、可憐な日本娘の顏へ さほど混血兒臭くはないが、 その二つのものが威張って割込んだ形である。髪の毛もちぢれてはゐるが眞黒である。それを一層そのち ちれ方が目立つやうなエ合に、鬢の方へもぢやもちゃとひろげて結って、髱のところに白鼈甲の四角な櫛 を縱に眞っ直ぐに挿してゐる。顏と同じに圓く肥えた體へキモノを纒った恰好は、日本流に見て決して優 雅とは云へないけれども、しかしさう云ふ毒々しい、ちりめんで縫った毬のやうな姿にも一種の美觀がな いことはない。猪頸の襟を無理に拔き衣絞にしてゐるので、丘のやうに隆い脊中の肉が直ぐに生え際へつ づきさうに頸の領分へ喰み出して、その、肩だか頸だか分らない部分に黄色いクリスタルの珠を繋いだ頸 飾りを卷いてゐるのが、ちっと在來の日本服には見られない婀娜つほい風情を加へてゐる。 「日本服をああ云ふ風に着るのも惡くはないね、亞米利加で日本の女が夜會へ行く時はよくあんな風をす あひのこ

5. 谷崎潤一郎全集 第9巻

それらのものが視野の中で萬華鏡をぐるぐる廻してゐるやうに思 一塊の淡雪のやうなレ 1 スの襞、 。ヘルシャ へた。と、吉之助はその時一つの異様になまめかしい腕の曲線を見たのを感じた。向うの席に、波斯風の 服裝をした一人の女がテ 1 ブルに肘をつきながら、リキュウルのコップを擧げてゐる。その腕には一枚の 絹も纒はぬ代りに、肩から肘、肘から手頸の關節へかけて二すぢ三すぢの輝く數珠が虹のやうに懸け渡さ れてゐるのだが、あの眞っ白に冴えた素肌がその寶石の袖に觸れては、、 くら春の夜の女の皮膚でも寒く ( ないかと疑はれた。 「ああ居る、居る、彼處に相澤が居るやうだぜ。」 間もなく彼は、波斯風俗の頭を越えてずっと向うのサロンの人口の方にある、滿開の櫻の植わった瑠璃色 の花瓶のほとりを指した。 相澤はその瓶の前に立って、花のかげにあるソオフアに腰かけた三人の女、 黒と白と紅と、故意か 偶然か三色の衣裳の面白い對照を作った女の群と何か話してゐるのである。白い女は頭の上へピラミッド のやうに三角形にたばねられた一握の金髪と濃い口紅とを除く外は、絹の靴下から沓の先まで體中が殆ど 純白である。そしてその石膏のやうな白さを一脣際立たせる爲めに、黒い鼈甲の鎖の附いた黒い鳥の羽の 扇子を項へ懸けて、しゃべりながら緩やかに顏を扇いでゐる。やや頬のこけた、髪と同じく頤の方へ三角 に尖った小ひさな容貌が小娘のやうに見せるけれども、その實二十を三つ四つ越してゐるミセスであらう。 さして美人と云ふのではないが、ロもとの邊でばたばたと巨大な蝙蝠の翅のやうに動く扇子が、淋しく引 き締まった目鼻立ちに妖艶な趣を添へてゐる。黒い女は、多分ポルチュギ 1 スであらうか、顏つきや皮膚

6. 谷崎潤一郎全集 第9巻

肉 ちテーブルと云ふテ 1 ブルへ、渚の岩を取り圍む海の潮の泡のやうに人だかりがする。ただその海は實際 の海のやうに單調な青ではない、黒と白との配合のくつきりとした燕尾服やタキシ 1 ド の間に交って蝶々 くらげ の翅のやうに翩々たるもの、藻草のやうにゆらゆらするもの、海月のやうに透き徹ったもの、あらゆる形 と光の綾と色合とから成り立ってゐる婦人の衣裳の海である。そしてその海の全面に向って、微細な影を も留めまいとするやうに八方から明りがさしてゐる。遠くの方の、かばそい指に輝ゃいてゐる一點の寶石 の瞬きからも、人々は屡々瞳を射られる。 「ああ、何といふ暖かい晩だらう、蒸し蒸しして上せるやうだ、 飮めない口に少しばかりコクテルを舐めた吉之助は、ほのかな醉ひと人いきれとで身體中が火照るのを感 じた。そして苦しさうな息をしながら、汗ばんた額を冷めたい窓のガラスへつけて隙間からすうすう這入 って來る空気を吸った。高い崖の上に臨んでゐる窓の外には港の夜景がひろびろと俯瞰された。ばんやり とした靄の中に東京灣が眠ってゐて羽田や鶴見の方の灯影がちらちらしてゐる。 「君、あの男は何處へ行ったんだらう ? 」 ふいと柴山がさう云って吉之助の肩を叩いた。見ると相澤はいつの間にかテーブルから影を消してゐた。 「何處へ行ったんだらう ? 吉之助はあたりをきよろきよろ見廻したが、眼に入るものは壘々と重なった女の圓い肩ばかりだった。空 たけなは の色にも水の眺めにも自と春が知られるやうに、それらの滑かな肌の上にも闌な春の夜が知られる。衣裳 の海は暫しも止まず動き、煌めき、燃えるやうにゆらめくクレ 1 プ、霞のやうに煙るジョセット、さては おのづ

7. 谷崎潤一郎全集 第9巻

肉 「どれ、何處に ? 」 「彼處、彼處、 ああ、もう見えなくなっちまった。 ほら、又見える、彼處に脚の方だけがち らちら覗いてゐるだらう。」 ぬひとり 柴山がさし示した方角に、無數の脚の間に交って、絢爛な刺繍をした支那服のヅボンが小さな沓で可愛い ステップを踏んでゐる。ヅボン丈しか見えないので非常に美しい蝦が踊ってゐるやうである。と、だんだ んその蝦はダンス・ホ 1 ルを一と廻りして此方へやって來る。二十歳前後の、飽まで色白の圓顏の娘で、 ヅ犬ンと同じ刺繍のある上衣を着たのが、ふつくらとはみ出しさうな頤の下を詰襟で包んでゐる姿は、そ の全身が矢張り一個の蝦のやうな感じである。 「一體かう云ふきらびやかな支那服は、支那人が着るとあんまり派手過ぎて下品に見えるが、西洋人だと あの色彩がよく似合って、却て上品に見えるぢゃないか。」 「一つは色が白いせゐだよ。」 と、柴山が云った。 「皮膚の色が眞っ白でないと、ああ云ふケバケバしいものは着こなせないよ。それに支那の女は柄が小さ いから、緞子だとか繻珍だとか云ふゴワゴワした衣裳を着けると、妙に薄ツ。へらに突ッ張っちまって、ま るで切り拔きの紙人形のやうに、女らしい温かみがなくなってしまふ。そこへ行くとやつばり西洋の女だ ね、せいが高くて肉がたつぶり盛上ってゐるから、あの硬張った地質の下にある柔かい體の節々が、ちょ っと摘まんで見たいやうに外からハッキリ感ぜられる。此の頃亞米利加でも女が夜會へ行く時に支那服を

8. 谷崎潤一郎全集 第9巻

「未來派の繪と云ふ奴はかう云ふ感じを現はす時に必要だね、あれより外に此の心持ちは描きゃうがない。 いきなり男の毛むくぢやらな手が吉之助の手をむづと擱ん / さう云ったとたんに、 「グッド・イプニング。」 振り返って見ると、それは一人の西洋人で、先代萩の男之助の假裝をして、ぐでんぐでんに醉っ拂ってゐ る。鬘を被って、毒々しい隈取りをして、金襴の衣裳をきらきらさせてゐるのはいいが、爭はれないのは 顏のまん中に非常に大きな段鼻がある。その眞っ白に塗った肌理の荒い鼻柱の下には法螺貝のロのやうな 圖拔けた鼻の孔がひろがって、黒い太い黛の蔭に碧い眼玉がぎよろぎよろと光ってゐる。 「誰だい、あの男は ? 」 「誰だか知りません、どうせ假裝會の晩にはみんな醉っ拂ってゐるんですから、無禮講なんですよ。西洋 入も日本人もあったもんちゃありませんや。」 さう云って相澤は廊下の方を指しながら、 ンの服を着て、黄色い聲で唄をうたひながら獨りで跳ねてゐる女があ 「彼處を御覽なさい、彼處にグリ 1 ジム、ジム ! るでせう ? あれは女ちゃないんですよ、やつばり假裝してるんですよ。 あははは、先生まるで夢中になってる。あんなのを見ると僕の支那服なんか寧 僕だよ、相澤だよー ろ平几過ぎますね。」 いいのがあるぢゃないか。ほら、彼處にも一人若い娘で着てるのがある。」 「だが支那服も女の方には中々 ヾ、 ) 0

9. 谷崎潤一郎全集 第9巻

「かうして彼處へ歩いて行く感じは活動寫眞を見る時に似てるぢゃないか。 と、吉之助は例になく昻奮したやうにしゃべり績けた。 ハノラマへ行くと必ず 「君はどうだか知れないが、僕は子供の時分、。ハノラマを見るのが好きだったよ。 最初に眞っ暗な道を歩かされる。あの、暗い中からほうッと明るい繪の世界へ出る心持ちがよかったんだ が、活動寫眞のい、ところもつまりあれだね。周りが眞っ暗で、向うの方に一點の光りが見える。そして その光りの中をいろいろな人影が謎のやうに默って動作をつづける。それがわれわれに紳祕な感じを與へ : さういふ意味で僕は水族館も好きだった、 るんだね。ちょっと水族館の窓を覗いてでもゐるやうな。 眞暗な廊下に四角なガラス窓が列んでゐて、ガラスの向側に明るい水の世界がある。共世界の中をいろん な魚がぎらぎら鱗を光らしながら泳いでゐる。ときどき魚がガラスへびったり首をつけて、何かわれわれ 「ⅱしかけたさうに口をばくばくやらせてゐるので、此方でも首を押ッつけて見ると、魚の眼玉はまるで 方角違ひの方を睨みながらガラスの壁をただコッコッと衝ッ突いてゐる、まるでわれわれ人間とは無關係 あれを見ると僕はいつでも幻想を起して、自分も一遍窓の向う側 な種族の者だと云ふやうな風に。 の世界へ行って見たいと云ふやうな気になったよ。實はこんな話をするのは、その水族館の幻想を映畫に 作って見ようかと思ってるんだが、 「ふん、そりや面白いかも知れないな、それちゃいよいよ人魚が出て來る譯なんだね。」 「ああ、水族館の窓の向うに美しい女を人れる、だから人魚を捜しに行くといってゐるのさ。」 ハンドの音樂に打ち消された。いっ が、さう云ひかけたとき、吉之助の聲は俄に耳を衝いて來るジャズ・

10. 谷崎潤一郎全集 第9巻

られる。吉之助と柴山とは覺えずそこで眼を膰った。「この顏は支那人にしたらきっとい、ゝ」と、この門 も吉之助は思ったのだが、たしかに相澤は自分でもそれに気が付いてゐるのだった。 「今夜は大分變った女が來る筈ですよ、さっき途中でヴィオラ・ダナに會ったらばさう云ってゐましたっ テ 1 ブルがなくならないうちに早く入らしった方がよござんす。」 さう云って相澤は、例のシガレット・ケースの蓋をばちんと開けて、今日はそこから金口の埃及卷を一本 取り出した。 それは四月始めの、もうところどころに早い櫻が咲いてゐる生温かい晩たった。三人は山手へ通ずる坂途 を登って、しんとした、淋しい夜の外國人徇をホテルの方へ歩いて行った。 「ああ、こんな所を歩いてゐると日本にゐるやうな気がしないね。」 と、柴山は洋行時代を思ひ出すやうな口調で云った。 「一體に日本の家は建築が薄ッペらで直かに往來に面してゐるから街通りに深みがないが、そこへ行くと 斯う云ふ街は奥床しいね。見給へ、あの洋館の二階の窓に明りがついてゐるだらう。あの窓の持つ一種 の紳祕となっかしさとは、日本の街では見られないものだよ。ああ、彼處に西洋入の夫婦が行く、 さう云って彼は、二三間先のアーク燈の下をひったりと寄り添ひながら動いてゐる二つの黒い人影を指し : あの女がつけてるんだよ、きっとあの夫婦もダンスに行くんオ 「ああ、香水の匂がする、 こ 0 エジ。フト