ビオグラフィア 「〈伝記〉は世界史の偉大な本の一つた」ジ二アイは頑固に断言ういうだけの充分な理由があるのです」 した。「たぶんもっとも偉大な本た」 ジ二アイは不審そうに、かれを見上げた。「まさか、マイスター スビンドリフトはくすぐったく感じた。「よろしかったら、オリ ・シ = テルヴ = ルツの作品を、もう一つ発掘したっていうんじゃな ジナルの写本をお目にかけましようか ? 」かれは遠慮がちにいった。 いだろうね ? 」 「よろしいどころじゃないよー この修道院にあるっていうの ? 」 スビンドリフトは力をこめてうなずいた。 「書庫にあります」 「うわー、すげえ ! 」彼女は叫んだ。「一大センセーションだ ! 「じゃ、何ぐずぐずしてるんだよ」とジディ。「じゃ、つまりー見せてもらえる ? 」 ー御都合がよかったら」 「見ても、おわかりになるまいよ、ミスター ハーランド。 ロラティオ・ス・ヒリトウアリス 「いいですとも、 いいですとも」スビンドリフトは請け合った。 的踏査〉は暗号で書かれていたのです」 「とにかく、まず来客棟にお入りください、あなたの部屋に案内し「でも、あんた、見破 0 たんだろ ? 翻訳したんだろ ? 」 ます。書庫はそこから、直接上がれます」 「しました」 ジディの「イスターに対する心からの情熱は、この老人には何「ヒャー、す「げえ ! 」ジ二アイは声にならぬ声を出した。 ピオグラフィア・ 、、スティカ よりのみやげだった。かれは彼女の前に〈神秘的伝記〉の原本を「この二十年間、わたしはこの仕事に没頭していました」スビンド 置き、読みながら説明していった。その間、彼女は、トさなあえぎリフトはその声に少なからぬ誇りをこめて、、つこ。 しナ「これは、ま や、驚きや喜びの叫び声を上げていた。「まるで、かれを直接知っあ、いわせてもらえば、わたしの白鳥の歌です」 てるみたいだね、スビンドリフトさん」彼女は最後にいった。「あ「それで、出版はいっ ? 」 んたの手にかかると、かれも生き返っちゃうんだなあ」 「わたしの手では・ーーしません」 「いや、生きてますよ、ミスター ・ハーランド。生命を単なる物質「でも、 いったいぜんたい、なぜ ? 」 エラン・ヴィダル 的存在だと想像するのは、われわれの重大な過失です。生の飛躍は「責任が大きすぎます」 ェクス・フロラティオ・スピ 人間の天才の崇高な創造物の中に、生き続けます。〈霊的踏「どういう意味さ ? 」 リトウアリス 査〉を一読すれば、それがよくわかります」 スビンドリフトは頭を上げ、開いた書庫の窓から、そこからは見 ェクスプラティオ・ス・ヒリトウアリス ス・ヒリトウアリス 「その〈霊的踏査〉ってなに、スビンドリフトさん」 えない遠い海の方を見た。「世界はまだ〈霊的〉を受け入れる ピオグラフィア・ 、、スティカ 「いずれ、それが人間精神の〈神秘的伝記〉であることが認めら用意ができていません」かれはつぶやいた。「ペーターはそれを覚 れればいし 、と思っているのですがねえ」 っていました。それで、暗号で書く決心をしたのです」 「冗談でしょ ! 」 ジ = ディは眉をしかめた。「どうも、話がよくわからないなあ、 「いや、本気ですよ、ミスター ・ ( ーランド。それだけでなく、そスビンドリフトさん。なぜ用意ができていないのさ ? 」 ニクスプ 〈霊 6
ます。アラブ側は、ただちに、一九七九年の・ ( グダッド条約の規定 その晩、夕飯の時に、院長が食堂の聖書台に歩み寄り、手を上げに基づいて、ソ連に軍事援助を要請し、ソ連とその同盟諸国は、侵 てみんなを静かにさせた。修道士たちは院長を不審そうに見て、 入軍の即時全面撤退を要求しました。そして、この要求に応じなけ 声の会話をやめた。院長は長い間、黙って、みんなを見まわしてい れば、避けられぬ結果を生じるであろう、といっています . たが、やがて、いった。「修道士、および、賓客のみなさん : : : この院長はふたたび言葉を切り、暗い表情で一同を見た。「わたしは オーテール修道院では、わたしたちは千年以上も前に、わたしたち終課の直後に、神の仲裁を求めて、個人的に礼拝を行います。場所 のために作られた基本的な生活様式を守って、生活をしています。 はメイン・チャベルです。賓客のみなさんも、どうそおいで下さ これは良い生活であり、従って、神のお目に適う生活であると信じ 。主よ、汝等とともに在れ , かれは一同に向かって十字を切り、 ます。わたしは、この生活様式が、あらゆる重要な点において、今聖書台から降り、大股に食堂から出ていった。 から千年後にも、今日と同じかたちで残っていてほしい、という希院長が立ち去ったとたん、はじけるように起った話し声の中で、 望を抱いていますーーーまた、われらの教団の根底にある霊的真理はスビンドリフトは、ジ、ディに向かい、その腕をつかんだ。「一緒 、、スター 千古不易でありーー神の愛するすべての人々にとって、慰めと安心 にきて下さい ・ハーランド , 切迫した口調でささやい の源となり、嵐に揺らぐ世の中の、希望と平安の港となることを、 た。「今すぐに」 願っています」 ジュディは、今の話の意味を飲みこもうとして、まだ手探りして 院長は、どう言葉を続けてよいかわからないとでもいうように、 いたが、おとなしくうなずいて、老人に導かれるままに食堂を抜け ダ / グ オクル入 口をつぐんだ。そして、みんなに、かれが目を閉じ、顔を上に向け出し、書庫に上っていった。かれは〈目〉と円形建築の鍵を探し て、長い長い黙疇をするのを見た。そして、ついに、かれが顔を下出すと、彼女をせき立てて階段を上り、人気のない通路を通り、半 げて、ふたたびみんなを見渡した時は、食堂の静けさは、手で触れ世紀以上も開けたことのない扉のところへいった。かれは熱病にお られるほどになっていた。 かされたようにいろいろして、歩きながらずっとぶつぶつ独白をい 「みなさん、ただいま聞いたばかりですが、あるヨーロ、 ツ。 ( の強国っていた。ジュディには何をいっているのカー 、、まとんど一言もわか が、イスラエルとアメリカに呼応して、今日の午後、サウジアラビらなかったが、一度ならず、。ヒカドンという奇妙な言葉を聞き取っ アとトルーシアル諸国に対して進攻を開始したそうです」 たように思った。だが何のことやらわからなかった。 みな一斉に恐怖の息をのみ、突然、はじけるように、ささやき声狭い通路には、いろいろながらくたが山と積まれていた。二人は が起った。院長はこのぎに負けないように、声を高めた。 力を合わせた円形建築の扉に体重を預け、かろうじて開けた。二人 「その目的は、かれらの国家的、政治的、経済的、生存に不可欠とはその先の壁の隙間に体をこじ入れた。スビンドリフトは持ってき 考える石油の供給を、自らの手で確保することだと、公表されてい たろうそくに、火をつけた。そのゆれる炎をたよりに、二人は小走 ドミススヴォビス
的なものは、どの星の上でも同じである。円周率数百トンの人工放射性元素をロケットに積みこ″ これらの元素は、 ののようなものも、基本的な物理法則などととみ、恒星に命中させてもよい なぜなら、将来、星間交信のネットワークが、 ″どこかの星の字宙人との接触に成功したとき、彼もに、 ~ ~ 宙人同士が共通して使える星間一「〕語とし人工的に誘起されたものと分かる分光学的な輝線 を生み出す。したが「てそうい 0 た恒星は当然、 ~ らは、私たちのま「たく知らない言語で話しかけて使えるだろう。 だから最初に送られてくるメッセージには、星綿密な研究の対象となるだろう。 ″てくることは必至であろう。 しとういったことを手がかり間通信を行おうとするほどの知的生物なら、だれそのため多くの惑星の住民が、その字宙人の住″ ″そのとき、いっこ : でも理解できるようなものが、必ずふくまれていむ恒星に電波望遠鏡を向け、その結果、ついには〃 ″に、相手の言語を理解していけばいいのか。 その宇宙人のメッセージにも気がつく、というこ″ それを、私たちとはまったく違った言語をもつ、るにちがいない。 とになるにちがいないからだ。 たとえば、陽子と電子の質量比とか、 1 、 2 、 いるかたちの研究から知ることができるかもしれ 注意喚起用の信号に続いて送られてくるのは、 : といった数字の列が ″ない、というのだ。 送られてきたら、私たちはそれこそ宇宙人からの彼らが伝えようとしているメッセージに使われて″ 人間の言語体系とは違った言語の例として、 いる符号や、概念を、知らせるための手がかりと ″るか語を研究し、たがいに意志を疎通するための信号だと解釈してよいだろう。素数とか、特別な 意味をもっ数字が、激しい雷雨や、その他の自然なるものだ。 手がかりを探ろうというのである。 知的生物は、 いくつかの例を通して概念を汲み / 〃実際に、星間一一 = 〔語の問題は、これから重要にな現象で生じることはないからだ。 単に注意を引きつけるだけなら、電波でメッセとり、学習する能力をもっている。たとえば、 3 ると思われる。 5 Ⅱ 8 、 5 3 Ⅱ 8 、 2 4 Ⅱ 6 といった価【 - か ージを送らなくても、もっと簡単な方法がある。 ら、はプラスするという 掌宙人がメッセージを電波にのせて送る場合、 意味だということを判断す まず考えることは、自分たちの信号を、自然の雑一一 必 ) るに至るだろう。プラス以 音の中から、何とかして目立たせようと努めるこ 外にも、いろいろな概念を とだろう。 フ伝えることが可能である。 自然現象では、起こりえないようなパターン こうい 0 た異文明間の意 ~ や、一定の反復などを使って、ちょうど、非常に 正確な周期で電波を出している。ハルサーが、天文 / ム志疎通に必要な、特別の言 のウ語についての研究も、すで 学者たちを驚かせたように、とにかく相手に気づ ルアに進められている。 かせることを、第一にするだろう。 ベルが一 たとえば宇宙を支配する物理法則は、どの星の れシ九六五年に発表した星間一『ロ″ 上でも成り立っということを、彼らは知っている さの 練ミ語は、からまでのアル はずだ。 訓アファベ〉トと、 1 から川ま〃 光の速度や、水素の原子構造などといった基本
ス。ヒーディな戦闘シーンも抜群である。 抜群ではあるのたが、このあたりになってひょいと気がつくの は、この宇宙艇にしろ、基地の戦闘指揮所にしろ、その基本的なデ ザインは現在の小型ジェット戦闘機や空軍の戦闘指揮所そのままだ という事実である。アポロ宇宙船やヒューストン管制センターより もずっと昔風だということにはじめて気づいたりするのである。 そのあたりがまたスペ・オペ的しゃないかと言われればそれまで だが、それだからこそこの作品は、われわれスペ・オペ・マニアに かくも大きな感動 ( ! ) を与え、生々しいリアリティ ( ! ) をもっ てせまってくるのだ と言ってよいだろう。 いっとも知らぬ時、どことも知れぬ銀河で起きた話ーーというエ クスキ、ーズを払った上で、へんなこりかたはせす、この銀河系の いまの技術レベルをもとにした丹念なデザインをこっこっ積みあげ ていったところに、この映画の価値があるような気がする。この写 真など、窓外のレーザー砲塔を除けば、四の爆撃手席にそっくり ではないか。しかし、これがいいんだなあ : 〈 Star Wars 〉にすっかりうれしくなって前口上が長くなったが、 実はエムシュウイラーという人の絵にはこのすべてがあてはまるの である。 四の爆撃手席そっくりのレーザー砲座
し、この行先は ? そしてなぜ ? 特殊効果はご自分の手で いまは燃えっきた赤色巨星の太陽系から現在の彼が目ざしている どこかへの旅のあいだに、フィリップ・が見たものは けーー・彼とすれちがってゆく色彩の流れたった。さまざまの色彩、 さまざまの光、引き伸ばされた星ぼし、燃えさかる匂い、焼き焦が すような銅鑼の音、さざ波立っ水、感覚的な時間のシーツ。このカ タログは、言葉で表現しても、ほとんどまったく意味をなさない。 だから、こうした感覚とかかわりあって、ほんとうにこのカタログ が意味をなすような、そんな非言語的な体験をなんでもいいから想 像してほしい。ライト・ショウや、シンセサイザー音楽や、映画の 特殊効果は、 い出発点た。それ以上くわしく、といわれても困 る。できないわけではないが、別の分野、別のメディアに言及する のは、うまくいっても危険な綱渡りだからた。フィリツ。フ・が突 入したこの超限世界の心像をよびおこすには、あなた自身の想像力 スター・ゲイト を働かせてもらうにしくはない。それを星の門のかなたの通路と呼 シンクラスティック インファンティ・フラム ・ほうか。それを時間等曲率漏斗の内部と呼ぼうか。そ れをゾラック・ホ 1 ル経由ではいることのできる謎の主観的井戸と 呼ぼうか。それを亜空間、超空間、ワ 1 。フ空間、反空間、逆空間 いや、なんならイド空間とでも呼・ほうか。そうする人は多い。しか し、これらの呼称では、とうていこの超限世界そのものを正しく言 い表わすことはできないだろう。その中で、フィリツ。フ・は、ミ ュルミドゾテランたちがトマトとしての彼に完全に理解させようと した〈奥義〉を、自分が理解したことを知った。それというのも、 彼が落下するうちに、あるいは押しやられていくうちに、あるいは 銀河市民 野田昌宏訳¥ 400 輝 メトセラの子ら 矢野徹訳 3 7 0 〔ヒューゴー賞受賞〕 最レ一月は無慈悲な 夜の女王 両 矢野徹訳半 6 2 0 ュ 人形つかい ネ 福島正実訳¥ 380 最新刊 ゴ 〔ヒューゴー賞受賞〕 ュ 宇宙の戦士 ヒ 矢野徹訳¥ 4 8 0 ハヤカワ文庫 u- 2 7 8
新しい連続体がごうごうと走りぬけてゆく中でただ静止をたも 0 てしい、とるにたらぬ人間だ 0 た彼、フィリ ' プ・が、ミ いるうちに、彼はあの金と銀の蛾蟻たちがたび重なる寄食をした時。フテランに選ばれて、自分の種族のもがきあがく大衆に、避けられ 期に感じたのとおなじの、言葉につくせぬ快楽に浸りきっていたか ない運命を啓示することになったのだ。フィリップ・はふたたび らた。それと同時に、彼は①あの生き物たちの正体、②彼の行先、強くゆり動かされた。天空は彼のまわりで賛美の叫びをこだまさ ③彼の使命の性質、④彼の奇怪な変身のも 0 輝かしく恐ろしい意せ、すべての被造物が血紅色の芽のように開いて、彼を迎えいれる 味、を「いに理解した。すべてが、あらゆるものが、彼にはま「たように思われた。その瞬間、輝かしい畏怖と彼自身の疼くほど甘美 く明らかになった。しかも、こんどの彼の悟りは錯覚ではなく、テ な霊液に満たされて、フィリップ・はわれわれの物理的宇宙、地 イレシアス症候群のような形而上学的まやかしでもなか「た。なぜ球のごく近辺にポンと出現した ( そのついでに、正当な持ちぬしか なら、・ こらんのとおり、フィリ ' プ・は、自己を超え、錯覚を超ら月を横どりしてしま 0 た ) 。それから彼は、驚愕した北アメリカ え、時空間の束縛を超えーー・事実、変わり種の巨大ト「ト性以外のの空に、まるで前からず「とそここ ~ いたような顔で腰をすえた。破 すべてを超えたものに進化してしまったからだ。 が不運にももたらした潮汐の大変動で何百万人かが死んだが、これ はすべて至高の存在による進化のゲーム案に含まれていることなの マンダラはいかにめぐるか ( または、フ→リ , 。フ・はなにをまなで、フ→リ ' プ・は後悔よりもむしろ歓喜を感じていた ( も「と んだか ) も、ひょっとするとヒーストンも水浸しになり、リディア・が 彼の学習課程が蛾蟻の最初の祝宴とともに始ま 0 たことは、心に溺れ死んだのではなかろうかと、 0 かのま考えはしたが ) 彼は変わ とどめておくべきたが、二 0 の現実を 0 なぐ旅でフ→リ〉プ・がり種のト「トではあ「ても、終末の前兆ではない。彼は〈新しい告 発見したのは、つぎのようなことだった。人は〈知恵の木〉の実を 知〉の使者であり、人類にそれを伝えにやってきたのだ。地球から 食べることによ「て神《の全知を身に 0 け、えもいわれぬ法悦を味三五〇、〇〇〇「イルの距離にうかんだ彼は、そのメ ' セージ、無 わえるのではなく、果実そのものにーー意識をもち進化する一 0 の知と知識と究極の理解のンダラがいまその一巡目を終えようとし 世界に なりきることによ 0 て、また、そのあとで、天使のようているという = 、ースを、どうや 0 て伝えたものか、さ 0 ばり見当 な翼をもち、美しい銀色と神々しい金色をしたミ = ルミドプテラン がっかなかった。まるきり考えがうかばなかった。どんな考えも。 に食べられることによって、そうなりうる。もちろん彼らは ( いわなにひとつ。 ば ) 宇宙の至高の存在からっかわされた使者の化身た。食べつくさ れることによって、人は救済され、神化され、人類の進化成長の頂コーダ 点に引きあげられる。これが人類の運命であり、そしてごく最近 だが、ことわざにあるように、彼はそのうちなにかを思いつくだ ( 絶対的な超宇宙的尺度で測ればそうなる ) まで才能も財産も乏ろう。
こ 0 消えたまま、かすかな星光の中で沈黙している。二人はしばらく中 央に立ちつくしていた。 「基地へ着けてくれ。内部へ入ってみよう」 やがてライリーが動いた。前方の操作盤に近づく。操作席のひと マキタは艇を徴速で前進させる。基地はちょっとした小惑星のよ つを動かした。そこに眠り込んたように男の体が横たわっていた。 うに視界に迫ってきた。 「マキタ、来てくれー基地に入ってはじめてライリーが声を出し 「宇宙服は必要なのですか」マキタは思い出したように説ねた。 「むろんーライリーは反射的に答え、それからマキタの方を向いてた。宇宙服の回路を通して、くぐもったように響く。 マキタはその席の傍へ寄って、男の体をのそき込んだ。宇宙服を つけ加えた。「私たって酸素を呼吸しているんだ」 い投光器の明りでも一目でわかっ 着用していない男の顔を見て、 基地は完全に死に絶えている。事故が起ってから千三百時間以上た。ライリーと同じ、樹脂で加工された独特の皮膚だったからだ。 その男が、ラ を経過しているのた。 その男が息絶えていることはさらに明瞭だった。 ィリ 1 の前に、情報省の中枢から派遣されていた情報管理官である 千三百時間ーーー宇宙空間での救出時間としては長い時間ではな い。だが、人の気配はなく、常夜灯すら点灯していない。基地は鉄ことは明らかだった。 「この男の服を脱がせるのを手伝ってくれ」ライリーは事務的な口 の巨大な棺桶のように静まりかえっている。 ライリーは ~ 旦ちに 連絡艇の発着所から、長い螺旋階段を昇り、狭い通路を進む。無調でいった。表情は前照灯の逆光でわからない。 死体を起こし、服に手をかけた。ライリーの意図がわからぬまま、 重力に近い中なのに、前を進むライリーの動作は思いの外敏捷だ。 まるで長年基地で生活しているかのように、宇宙服の前照灯たけをマキタはその作業に加わった。 マキタははじめて加工された情報管理官の体を見た。それは意外 頼りに迷わす通路を進んで行く。 ( そうか : : ライリーの補助頭脳には基地の構造はメモリーとしてに人間の痕跡をとどめているといえた。その超人的な情報解析カか カ肉体的な機能で 入っている訳だ ) マキタは思い当った。迷うことなく基地の指令室ら、もっと金属的な体驅を想像していたのだ。 : 、 は特に人間と変らないことが、体形からだけでも推察できた。 へ向っているのだ。マキタは黙って後につづいた。 昇降機は停止したままた。通路の行き当りから、再び長い螺旋階ライリーは解剖医のような作業を始めた。死体を裏返し、左肩ロ 段を昇って行く。ちょっとした管制塔へ登る感しだ。昇りつめた所をナイフで切り裂いたのだ。不思議に血は出ない。ポケットを開け るような感じで切り口が開き、そこに手を差し込んで、ライリーは が指令室だった。 直径十メートルほどの円形の部屋の周囲は一面の計器の壁で、そ掌に入る程度の黒っ。ほい箱を引き出した。 の上は半球形の透明なドームたった。地球で見る北半球の星座がそ「これがこの男の遺書だ」ライリーは顔を上げて、マキタに幗み出 こにあった。ここにも人工の明りはない。制御盤の一面のランプもしたものを見せた。「体内記憶装置た。これを再現すれば事故の発
激しい加減速に応じて、正確な圧力制御が行なわれている。 ・ : に太陽系の情報機構を管理する〈情報省〉の中枢から派遣されてき もかかわらず、高環境は悪夢を呼び、体中から気味悪いほどねばた情報管理官だ。それがどのような能力を持っ管理官なのかは知ら ついた汗をにしみ出させる。 。確かなのは、その男が驚く・ヘき演算能力と情報の解析能力を マキタは正面のレーダー・スクリーンに目をやった。何の変化も持っていることだ。男の頭脳の内部はさまざまな通信網で情報省と ない。星図どおりの星空が一面に輝いているだけだ。人工的な光は直結しており、自由な交信が可能なのだ。 ない。本来ならスクリーンの中心には、この調査艇を誘導する基地 ( むしろ情報省から運送を依頼された端末機器と考えた方が気が楽 からの信号が捕えられているはすだった。・、、 カそれはない。基地か マキタはそう思い、同時に、太陽系最外軌道の基地でライリーを らの信号は、一千時間近く前に起った爆発事故と思える輝きと同時 「注 にとだえたのだ。 乗せる時、基地の管制官が耳うちした言葉を思い出した。 基地からの通信はいっさい不通になったままだ。救助信号もな意しろよ。今回の荷物にはこの調査艇五十隻以上の金がかかってい 。爆発事故らしい光輝すら今はいっさい残っていない。目的の方るんだからな」 向に基地があるのかどうかもわからなくなっているのだった。 それほど高価な情報管理者を緊急に運ばねばならないことから、 マキタは隣りのシートを見る。 今回の事故の重大さが想像できた。 ほとんど表情のない男がそこに坐っている。ときどきうかがうよ マキタはまたスクリーンを注視する。変化なし。目的地はまだ二 うに横目で観察するのだが、マキタにはその男がどこまで人工物な光日先だ。目的地ーー〈ダムキナ送電基地〉。そこで何が起ったの のか、判断できない。 マキタは身動きひとっしない隣席の男をちらっと見る。ラ アストロノ ( おれのように訓練期間の長かった宇宙飛行士ですら悪夢にうなさィリーは目を閉じたままだ。前方五百億キロの闇に浮かぶはすの基 れるというのに ) 地もまた沈黙したままだった。 マキタの見る限り、男の皮膚には汗はまったく浮かんでこない。 マキタはで加速する調査艇の席で、また目を閉じ、彼なりに 合成樹脂で被われているのだろう。眼は : : : 眼球は本物かもしれな思考する。 い。が、それも必要以上に動かす、一切の表情は現われない。頭髪何が起ったのか。単なる送電装置の故障か、偶発的な事故か。人 はあるのかないのか、宇宙ヘルメットの下に被る保護帽を付けてい 為的なミスか、隕石の衝突によるものか。それとも、あのパ・ヒロニ て不明た。いや、その男が呼吸しているのかどうかもわかりかねるア・ウェ 1 ・フに異変が生じたのか : のだ。声を出して話すことは知っている。その声は、声帯よりも楽 器を連想させるようで、マキタにはかえって不気味たった。 人類がそれを発見したのは、まったく偶然だった。奇跡的ともい その男はライリーと名乗った。 えるたろう。大海に流した小壜がたった一本の釣糸に引き上げられ へ 0 3
カメガルー かんべむさし ・コート ( 完結篇 ) イラスト / 楢喜八 ふと毛色の変った意見を口にしたはかりに 異端者を社会的に抹殺するための T V 番組 カメガルー・コートにひつばりたされた俺 そしてついにその日はやって来たが・ 幻 3 7 鰺
の本質〈は大衆小説の一形式とことなのである。一方、同時にそれは「終末聞く、このとき誓 ・、 - 、一して社会に認められ、その方向にそって発展の時」でもあった。彼はこの小説のタイトル願の不思議あって ・、、・一してきた。しかしを成り立たせているもを決めるにあたり、『一九八四年』と『ヨー因果の理法を裁断 》◆◆ 3 のは、実は形式ではない。人を地球上の一個 0 , パ最後の人』 (The LastMan 一 = Eu- したもうと〉】石 ◆。◆・◆の生命、人類を宇宙における一つの種として rope) のいずれをとるべきかを迷「ている。上玄一郎『輪廻と 八四年が「いま」であり同時に「終末」転生』 ( 人文書院 マ、◆・◆、◆捉えようとする″物の見方″なのである。こ ・ 12 0 0 円 ) か ・ - 、・一れがおそらく、においてもっとも理解さであることは、この小説において作者が試み 一 - 、、一れにくいところであり、またもっとも魅惑的た最大の逆説なのである〉Ⅱ三沢佳子『ジ ' ら。 夢と想像力 ① ージ・オーウエル研究』 ( 御茶の水書房・ : アメリカにおける 9 9 蜘 9 一なところだろう。 〈夢の小説が不可 ◆、◆、◆研究熱の高まりは、このような考え方の普及 600 円 ) から。 娯楽〈酩酊「何しろこういう″芸能″は解な底知れぬ恐 ◆、◆、◆と無縁ではないだろう〉 ( 伊藤典夫 ) 日『文 一種の催眠術みたいなものですからね , ーーと怖、奇怪な自己分 ◆・◆、学』 7 月号 ( 岩波書店・ 430 円 ) から。 ドタバタ宣言〈人類はみな平等。愛。「わきどきアクチ、アルな現実生活に題材をとっ裂、準則の破壊な ・・、一たしは嘘は申しません」。性善説。「戦争はごた、滑稽な " 幕間狂言。をはさんで、観客をどに満たされてい ◆・◆・◆免だ」。ま ) 」ころ。老人を敬まおう。不幸な正気にもどしておく。でないと、テレビで視る場合が多いのはな・せだろう。おそらくは、 ◆・◆・◆人に愛の手を。こういうものはみんな嘘であ聴者が催眠術にかか「たまま、解けないとき無名の想像力によ「て照らしだされた夢の光 り、それを嘘と認識したところからドタ・ ( 夕、みたいなさわぎが起こる ( 笑 ) 」斜栗「そう景の雛型を夢の小説というかたちにつくりだ は、常に″娯楽の形で提出しすことによって、作家は、小説制作において 、・スラブスティック、ハチャメチャは始まだ ないといけないという小生の持論も、そこに機能する想像力の基本的なあり方を追尋し、 - ) る〉 ( 筒井康隆 ) Ⅱ『別冊奇想天外・ドタ・ ( 、・タ大全集』 ( 奇想天外社・千円 ) から。あるんでね。『日本沈没』をまともにとられ彼をなにかしれぬ根源的なもの〈の接近に駟 と科学〈科学技術の先取りはのたら、えらいことになる ( 笑 ) 」海月「戦前な : ◆・◆、◆自由奔放だけでできることではなく、ヴ = ルら " 治安維持法。で小菅にぶちこまれて、元認しようと試みているのだ。いわば書くこと 、、ヌのように科学技術的素養の上に立った反常総理の隣りで麦メシ食ってるところだ ( 笑 ) 」それ自体の追究。そこにあるのは小説的時間 日小松左京『人間博物館ー「性と食」の民族虚構の時間の純粋形である〉日清水徹『読書 、、識 ( 反常識がなければにならないし、科 のユ ート。ヒア』 ( 中央公論社・ 13 5 0 円 ) 学』 ( 光文社・ 890 円 ) から。 ・、学小説にすらならない ) の賜と思われる。 , 、◆、◆・◆と科学の関係は一方通行ではなく相互の地球文明への道〈「人類社会」は、たやから。②〈しかし、夢を面白がるとなにか大 切なものが失われるようで : : : 〉日っげ義春 : ◆、◆・◆関係である〉 ( 堀源一郎 ) Ⅱ『思想の科学』すく「統合」できるものではないであろう。 「諸文明間の致命的闘争」の可能性もまだ残『っげ義春と・ほく』 ( 晶文社・ 1600 円 ) 7 月号 ( 思想の科学社・ 340 円 ) から。 、綺想科学〈異端科学・仮分類表①素朴されており、性急な「使命感」にかられた統から。③〈ある作家なり詩人なりの文学の原 、 - 永久機関②言霊神道派楢崎皐月 ( 相似象 ) 合の強制は、かえ 0 て「地域地域の魂文化」質を夢にさぐる試みは慎重でなければならな ・ : 〉 ( 登尾豊 ) 日『国文学・解釈と鑑賞』 、◆、 - 、◆篠田義市 ( 光線 ) ③地震予知派椋平広の圧殺や、流血の抵抗をよぶであろう。にも 蕚第 2 否繦。大絮わらず、「異質文化・異質文明」が、相爿号・特集《夢、文学。原質を求 ( 至 今月の単行本田中光一一『大放浪』 ( 徳 4 十 ( 無双原理 ) ⑤生物派ケルプラン ( 生体るような、「調整」の可能性を増大させるた : ◆、◆、一 ( 超相対性理論 ) ⑦学会派内田秀雄しい「地球文明」を構想せざるをえないだろ切日に到着のため、詳細は来月に。なお上半 : ◆、、◆、関英男橋本健⑧その他倉田昌造 ( 動因う〉Ⅱ小松左京『日本文化の死角』 ( 講談社期の収穫として、福島正実編『日本の世 界』 ( 角川書店・ 12 0 0 円 ) 、石川・柴野 : 4 、、、論 ) 〉日『地球ロマン』 8 月号・総特集《綺現代新書・ 390 円 ) から。 〈 : ・ : ・私は煩悩の昏い海を漂う泡編『日本・原点への招待ー《宇宙塵》保 生と死 : ・泡沫の身に自力を作選』全 3 巻 ( 講談社・各 880 円 ) を追 ・ 3 想科学鑑》 ( 絃映社・。。円 ) から。 ・逆説〈八四年という数字にはなにほどのの一つにも如かない。 、・・意味があるのか。オーウ = ルにと 0 て「八四頼むも、いたずらなあがきでしかなく、とう ◆。◆。・】年」は「四八年」であり、つまり「いま」のていこの輪廻の渦から脱るべくもない。ただ 日本セクション 担当 : 石川喬司