「はい」スビンドリフトは簡単明瞭にいった。 合装置の役目をすることと、最大強度領域は、おそらく弦の交差点 「なにを ? あらゆる事を ? 」 がカ場ーーーそれを、かれはマーレ・テンポリス、つまり、時の海と 6 「いや、地平線上の最大の嵐ーー文明に対する危機ーーだけを。か呼んでいますがー・ーそのカ場によ「て平衡を保つ点に発生すること れはそれを〈時の節〉と呼んでいます」 を、知っていたのです」 「でも、どうしてあんた、それ知ってるのさ ? 」 ジ = ディはうなすいた。「それで ? 」 ・フラエモニティオネス 「かれは書き残していますから。〈予告集〉という本に」 「この特殊な点に、求めているものがあると、かれは推論しまし 「びつくりしたな、もう ! 」ジュディは小声でいった。「あんた、 た。わたしはこれまでに古文書の中から、プリタ = ーの同様の環状 からかっているんだよ ! 」 列石を、かれがスケッチしたものをたくさん発見しています。そし 「シ、テルンヴ = ルツ自身の予言は、十五世紀までしか届きませんて、それそれの中心のすぐ横に、かれは一様にオクルスという言葉 でした。しかし、さっきもいったように、かれは目を後世に遺贈しを書き入れています、ーーっまり、ラテン語の〈目〉です、 たのです」 「まさか、あんた : : : 」とジュディ。 「ちょっと、ちょっと、スビンドリフトさん。それ、どういう意味「いや、本当です」スビンドリフトは言い張っこ。 ナ「かれは大変な さ ? 」 試行錯誤をやったあけく、正確な点の位置をつき止めることに成功 プラエモニティオネス 一分後、かれは〈予告集〉の第一巻を持って戻ってきた。そしました、ーーそれは実際、ごく狭い範囲でー・ー足元の、このオーテ して、そのとびらの地図を彼女の前に広げると、眼鏡をしつかりと ール修道院そのものの中にありました。かれは、それを発見する タイム・十ブザーバトリー 鼻の上にのせて、こまごまと説明し始めた。 と、自ら時間観測所を作り、かれの見たものをすべて記録に取る 「これはペーター ・シ、テルンヴ = ルツ自身の手で作図されたものという作業を開始しました。その結果が、あなたの目の前の〈予 ニティオネス です。疑問の余地はありません。オーテール修道院のある地域の鳥告集〉なのです ! 」 瞰図です。これらの点は石器時代の環状列石遺構を示し、それそれ ジ = ディは目を落して、地図を見つめた。「でも、もしそうな の巨石から出ている放射状の直線はすべて、ここの、この点で交差ら、なぜ、ほかでも、だれかが発見しなかったのよ ? つまり、サ しています。わたしは最初、これらの渦巻は磁カ線を表わそうとすクスペリーの環状列石とか、カーナックの巨石遺構とか、ほかにも る原始的な試みかと思いました。しかし、今ではそうではないとわ いろいろあるじゃんか ? 」 かりました。にもかかわらず、それらはたしかにある種のカ場を表スビンドリフトはうなずいた。「それで、ペーターも迷いました。 わしているのですーーしかも、そのカ場は、もとの環状列石を建造しかし、結局、各円の焦点はほとんど例外なく、地上二十メ 1 トルぐ した太古の種族が最初に検知したものたということは、疑いの余地らいのところにあることに気付いたのです。かれは、最初に環状列 がありません。シテルンヴ = ルツは、環状列石がある種の焦占整石を作られた当時は、それらの中心に、木造の塔が建られたと推論 イ・ラエモ
「いや、あんたがあれほどいい人相だってわけじゃないがね。でも は、私の思いすごしだろうか ? カルロス・ウーとばったり出あったのは、知識研究所の、とあるどうして、クダトリ / 人が、べーオウルフ・シ = イファーを、古典 ホールでだった。彼はそこで、クダトリノ人の触感彫刻に、指をは的な英雄なんそに選んだんだ ? あんたの名前のせいか ? それ に、もう一人のほうは誰だい ? 」 わせていたのた。 「いっか話してやるよ。だが、カルロス、きみはこんなところで、 色が黒く、やせ型の細い肩と、黒いまっすぐな頭髪で、カルロス だとわかった。ふつうの重力下でなら、猿のように身軽な男た。だ何してるんだ ? 「ぼくは : : ルイスが生まれて、二週間後に、地球を離れたんだが がこのジンクス星では、彼も私とそっくりの自走カウチにのってい た。ひと目でわかるそのうしろ姿を見つめながら、私は自分の目が ・ : 」妙に狼狽したロぶりだ。なぜだろう ? 「もう十年も、地球の 信じられない思いだった。 外に出ていないんでね。一人でゆっくりしたかったんだ」 だが、そうすると彼は、私が地球へ帰り着く予定の日の直前に出 「カルロス。ぎみは、地球にいたんじゃなかったのか ? : カルロス・ウーには、わずかながら宇宙 彼はとびあがった。・、、 カカウチをぐるりとこっちへ向けたとき発したわけだ。それに : は、もう笑顔だった。「べイじゃないかー ・ほくも、同じことをあ恐怖の傾向があると、誰かがいっていなかったか ? ようやく、何 んたにいいたいね」 がますいのかがわかってきた。「カルロス、これは、シャロルとお たしかにそのとおりだ。「地球へ向かってたんだが、太陽系のまれに対して、たいへんな贈りものじゃないかね、 わりで、れいの船舶消失がはじまったとたんに、船長が気をかえ彼は私から顔をそむけて、笑った。「そいつを手にいれるため て、船をシリウスへ向けたのさ。乗客の身では、どうすることもでに、人は昔から殺しあってきたのさ。・ほくはただ : : : あんたが地球 きなかった。きみのほうはどうなんだ ? シャロルと子供たちはどへ帰ってきたときには、いあわせないほうが : : : それがスマートな やりかただと思ったんでね」 うしてる ? 」 それでわかった。カルロスがそこにいるのは、地球の出産調整局 「シャロルも元気、子供たちも元気、みんなあんたのお帰りを待っ てるよ . 彼の指は、まだ、ルルービーの作に成る〈英雄たち〉と名が、私には子供を持っ許可を与えてくれそうにないと思われるが故 づけられたその触感彫刻の、暖かい肉感的な材質の表面をまさぐりであった。 調整局が、出産権を持っ親の数を減らすために、どんな言辞を弄 つづけていた。〈英雄たち〉は、触感彫刻としては異例の作品であ る。それは、触覚と同時に視覚にも訴えかけているのだ。カルロスしようと、それを非難することはできない。私は白子である。シャ ロルと私は求めあっていた。だが、私たちは、子供がほしかった は、二つ並んでいる人間の胸像を見つめながら、「あれは、あんた し、しかもシャロルは地球を離れることができなかった。彼女は宇 の顔じゃないか ? 」 宙恐怖症なのだ。異質の空気、一日の長さの変化、重力のちがい、 「ああ」 アルビノ
ジンクス星で三カ月、足どめをくった。 ル・ホーンとシェイフ これは、ラリイ・ニーヴン作品中最大のポ中で知りあったエ はじめの二カ月間は、行きずりの旅行者み / ウソ・スペース ア リュームを占める〈既知空域〉シリーズ中の ーが、力を合わせて、クダトリノ人の触感 たいにして過ごした。大洋をとりまく高圧地 一篇で、すでに「中性子星」 ( 本誌六九年八芸術家ルルービーを誘拐犯の手から救いだす 帯へは、一度もいっていない。そこへおりて 月号 ) と「銀河の核へ」 ( 本誌七六年二月号 ) 物語ですが、その冒頭には銀河系の中心部か タラツンユランダー いくには、狩猟用のタンクが必要だったから でおなじみの「不時着人」 ( ウイ・メイド・ ら辺縁系へと産卵にさかの・ほる宇宙の回遊魚 ( というか、恒星の光圧を翼にうけて飛ぶ渡 だ。が、私は、海の両側ともーー東岸の文明景ィット星の住人 ) べーオウルフ・シ = イファ 背ーを主人公とする中短篇五篇の第五話にあた り鳥 ) の「星間種子」が登場します。 地帯と西岸の開発途上地帯ーーーっまり人間のの ります。右にあげた一一篇が、それそれ第一話 ついでに。ハラしますと、〈既知空域〉シリ 居住可能な場所は、ぜんぶまわってみた。宇作 と第二話。第三話は、この作品にも名前だけ ィースト・エンド ーズをしめくくる長篇「リングワールド」 ( 七 プラットランダー 宙服を着こんで東極地域へ出かけ、醸造所そこ出てくる地球人の大富豪エレファント氏と一年ヒ = ーゴー・ネビ、ラ両賞受賞、早川書 シェイファ 1 の冒険談ですが、ここでシェイ房近刊 ) の主人公ルイス・ウーの出身が、五 の他の真空利用工場を訪れて、このジンクス ファーは宇宙恐怖症の美女シャロルと知りあ年後に書かれた本篇ではじめて語られている 星と双児の兄弟にあたるでつかいオレンジ色 、また本篇中でも語られるゼネラル・プロ など、いろいろ興味は尽きないのですが、シ の惑星を見あげることもやった。 ダクッ製船体の泣きどころを発見します。第 インスティテュー リーズ全体の解説は別の機会にゆずりましょ ・オプ・ナレッジ 二カ月めの大部分は、知識研究所 四話は、ダウン星からガミジイ星へ向かう船う。 COX) とキャメロット・ホテルのあいだを、いっこ りきたりだった。旅行なんてもうたくさん。 ッチは、異常な産物である。山のように巨大な、知性をもった白い 私にとっては異常なことだった。私は、生まれついての放浪者でなめくじだ。そいつらが、タンクを襲う。タンクの装備には、厳格 ある。だが な規制がある。・ / 、 、ノダースナッチの側にも四十。ハーセントの勝率が ジンクスの一・七八 (..5 という重力が、この地の建築デザインに、 あるように、人間と・ ( ンダースナッチのあいだで協約が結ばれてい 途方もない制約を課しているのだ。どっちの居住可能地帯でも、建るのだ。そんなものに首をつつこむ気になどなれるわけがない。 物はぜんぶ似たりよったり。優雅さや精巧さなどとはほど遠く、ど しかし、旅程のすべては、私の母星の三倍の重力下でおこなわれ るのである。 れもずんぐりどっしりと腰をすえている。 東極と西極の真空地帯はまた、どこの工業衛星と較べようと、何三カ月めを私は、シリウス・メイタ市内で、それもほとんどはキ 冫たいして興味は の差違もない。そこの工場群を見てあるくことこ、 ャメロット・ホテルにとじこもって過ごした。ここではほとんど全 なかった。 室にわたって、人工重力装置がついている。外へ出るときは、自走 するとあとは大洋の両海岸線地帯しかないが、そこへいくのは、式の浮上担架に乗っていった。まるで病人みたいで、ジンクス人た ( ンダースナッチ狩りの狩猟タンクくらいのものた。。 ( ンダースナちにまじると、まったくこつけいな図た。それとも、そう感じるの ノウン・スペース ー 30
14000X28 + 113 , 00 6 ヒし一一 地球人の数学知育 ついて、基地からの レポートが届いた 「地球数学ハ初等段階 ニトドマッテオリ、ホ、ポ ソノスペテヲ解明シマシタ。タダ、金額ノ計算 ニオイテ、ドウシテモ不明ナ点ガ残リマス・ : 」 退屈そうに電送レポートをながめていた本部 員が、一瞬けげんな表情をみせた。圧倒的な 宇宙数学をもってしてもなお解明てきない 数式が、あの地球に存在するのか / 「タトエバ、〃さんわ一〇〇万円積立預金〃ナル しすてむ。一〇、〇〇〇円ヲ回、一一三、〇〇〇円 ヲ 6 回加工夕総額ガ一〇〇万円ヲおーばー ンガ 、スルトイウノデスガ、コレハモチロン、単純ナ 足シ算デハ合イマセン。何力、特殊ナ係数・ 方程式ガ用イラレティルョウデスカ : ・」 ⑩足点 本部員は、信じられないといった表情のまま 指令を出した。「宇宙技術班・科学班ハ、 ノナ タダチニ地球へ向カエ。ソシテ、我々ノ威信ニ カケテ徹底解明セョ〕 ※サンワ一〇〇万円積立預金は、元利合計 人解 が一〇〇万円となるよう設計されたユニーク 求可 球ェロ。竪を 、一地不 = 和行 0
の本質〈は大衆小説の一形式とことなのである。一方、同時にそれは「終末聞く、このとき誓 ・、 - 、一して社会に認められ、その方向にそって発展の時」でもあった。彼はこの小説のタイトル願の不思議あって ・、、・一してきた。しかしを成り立たせているもを決めるにあたり、『一九八四年』と『ヨー因果の理法を裁断 》◆◆ 3 のは、実は形式ではない。人を地球上の一個 0 , パ最後の人』 (The LastMan 一 = Eu- したもうと〉】石 ◆。◆・◆の生命、人類を宇宙における一つの種として rope) のいずれをとるべきかを迷「ている。上玄一郎『輪廻と 八四年が「いま」であり同時に「終末」転生』 ( 人文書院 マ、◆・◆、◆捉えようとする″物の見方″なのである。こ ・ 12 0 0 円 ) か ・ - 、・一れがおそらく、においてもっとも理解さであることは、この小説において作者が試み 一 - 、、一れにくいところであり、またもっとも魅惑的た最大の逆説なのである〉Ⅱ三沢佳子『ジ ' ら。 夢と想像力 ① ージ・オーウエル研究』 ( 御茶の水書房・ : アメリカにおける 9 9 蜘 9 一なところだろう。 〈夢の小説が不可 ◆、◆、◆研究熱の高まりは、このような考え方の普及 600 円 ) から。 娯楽〈酩酊「何しろこういう″芸能″は解な底知れぬ恐 ◆、◆、◆と無縁ではないだろう〉 ( 伊藤典夫 ) 日『文 一種の催眠術みたいなものですからね , ーーと怖、奇怪な自己分 ◆・◆、学』 7 月号 ( 岩波書店・ 430 円 ) から。 ドタバタ宣言〈人類はみな平等。愛。「わきどきアクチ、アルな現実生活に題材をとっ裂、準則の破壊な ・・、一たしは嘘は申しません」。性善説。「戦争はごた、滑稽な " 幕間狂言。をはさんで、観客をどに満たされてい ◆・◆・◆免だ」。ま ) 」ころ。老人を敬まおう。不幸な正気にもどしておく。でないと、テレビで視る場合が多いのはな・せだろう。おそらくは、 ◆・◆・◆人に愛の手を。こういうものはみんな嘘であ聴者が催眠術にかか「たまま、解けないとき無名の想像力によ「て照らしだされた夢の光 り、それを嘘と認識したところからドタ・ ( 夕、みたいなさわぎが起こる ( 笑 ) 」斜栗「そう景の雛型を夢の小説というかたちにつくりだ は、常に″娯楽の形で提出しすことによって、作家は、小説制作において 、・スラブスティック、ハチャメチャは始まだ ないといけないという小生の持論も、そこに機能する想像力の基本的なあり方を追尋し、 - ) る〉 ( 筒井康隆 ) Ⅱ『別冊奇想天外・ドタ・ ( 、・タ大全集』 ( 奇想天外社・千円 ) から。あるんでね。『日本沈没』をまともにとられ彼をなにかしれぬ根源的なもの〈の接近に駟 と科学〈科学技術の先取りはのたら、えらいことになる ( 笑 ) 」海月「戦前な : ◆・◆、◆自由奔放だけでできることではなく、ヴ = ルら " 治安維持法。で小菅にぶちこまれて、元認しようと試みているのだ。いわば書くこと 、、ヌのように科学技術的素養の上に立った反常総理の隣りで麦メシ食ってるところだ ( 笑 ) 」それ自体の追究。そこにあるのは小説的時間 日小松左京『人間博物館ー「性と食」の民族虚構の時間の純粋形である〉日清水徹『読書 、、識 ( 反常識がなければにならないし、科 のユ ート。ヒア』 ( 中央公論社・ 13 5 0 円 ) 学』 ( 光文社・ 890 円 ) から。 ・、学小説にすらならない ) の賜と思われる。 , 、◆、◆・◆と科学の関係は一方通行ではなく相互の地球文明への道〈「人類社会」は、たやから。②〈しかし、夢を面白がるとなにか大 切なものが失われるようで : : : 〉日っげ義春 : ◆、◆・◆関係である〉 ( 堀源一郎 ) Ⅱ『思想の科学』すく「統合」できるものではないであろう。 「諸文明間の致命的闘争」の可能性もまだ残『っげ義春と・ほく』 ( 晶文社・ 1600 円 ) 7 月号 ( 思想の科学社・ 340 円 ) から。 、綺想科学〈異端科学・仮分類表①素朴されており、性急な「使命感」にかられた統から。③〈ある作家なり詩人なりの文学の原 、 - 永久機関②言霊神道派楢崎皐月 ( 相似象 ) 合の強制は、かえ 0 て「地域地域の魂文化」質を夢にさぐる試みは慎重でなければならな ・ : 〉 ( 登尾豊 ) 日『国文学・解釈と鑑賞』 、◆、 - 、◆篠田義市 ( 光線 ) ③地震予知派椋平広の圧殺や、流血の抵抗をよぶであろう。にも 蕚第 2 否繦。大絮わらず、「異質文化・異質文明」が、相爿号・特集《夢、文学。原質を求 ( 至 今月の単行本田中光一一『大放浪』 ( 徳 4 十 ( 無双原理 ) ⑤生物派ケルプラン ( 生体るような、「調整」の可能性を増大させるた : ◆、◆、一 ( 超相対性理論 ) ⑦学会派内田秀雄しい「地球文明」を構想せざるをえないだろ切日に到着のため、詳細は来月に。なお上半 : ◆、、◆、関英男橋本健⑧その他倉田昌造 ( 動因う〉Ⅱ小松左京『日本文化の死角』 ( 講談社期の収穫として、福島正実編『日本の世 界』 ( 角川書店・ 12 0 0 円 ) 、石川・柴野 : 4 、、、論 ) 〉日『地球ロマン』 8 月号・総特集《綺現代新書・ 390 円 ) から。 〈 : ・ : ・私は煩悩の昏い海を漂う泡編『日本・原点への招待ー《宇宙塵》保 生と死 : ・泡沫の身に自力を作選』全 3 巻 ( 講談社・各 880 円 ) を追 ・ 3 想科学鑑》 ( 絃映社・。。円 ) から。 ・逆説〈八四年という数字にはなにほどのの一つにも如かない。 、・・意味があるのか。オーウ = ルにと 0 て「八四頼むも、いたずらなあがきでしかなく、とう ◆。◆。・】年」は「四八年」であり、つまり「いま」のていこの輪廻の渦から脱るべくもない。ただ 日本セクション 担当 : 石川喬司
足もとの黒い空などには堪えられないのである。 んてことは、彼の仕事の範囲じゃないよ . よっこ。 親友に助力を求めることが、私たちにとって、唯一の解決策たっ 「たぶん休暇中だったんだろうよ」私は片意地こ、 「いや、たしかにあんたが、彼と同船したくないらしいことはわか ったよ。それじゃ、まあーー」 カルロス・ウーは、病気や負傷に対する驚くべき抵抗性体質とい だがそのとき、私はすでに別のことを思いついて、それにこだわ う、きわめつきの天分を持っている。彼は、全地球百八十億住民の っていた。「待て。やっと会おう。どこにいけば見つかる ? 」 中で、六十何人しかいない、無制限出産権の持ちぬしの一人なの のバーさ」カルロスが答えた。 だ。毎週のように、同様な申し出をうけながら : : : しかし親友の彼「キャメロット は、私たちの求めに応じてくれた。過去二年のあいだに、シャロル とカルロスは、二人の子供をつくり、それが今、地球で、私が父親自走カウチにゆったりと背をもたせたまま、エア・クッションに の座につくのを待っているのだった。 のって、私たちはシリウス・メイタの街上をすべっていった。歩道 彼のしてくれたことには、感謝のほかなかった。「スマートさに に沿って植えられたオレンジ並木は、重力のせいで寸づまりになっ 対するきみの偏見は、大目に見ておくとしよう」と私は、鷹揚に答ている。その幹は太い円錐形で、枝に成ったオレンジは、。ヒンポン 玉に毛が生えたほどしかない。 えた。「さあて、こうしてジンクス星に釘づけになってるあいだ、 少し案内でもしようかね ? いろいろ面白い人たちにも会ったし」 この世界が、それを変えてしまったのだ。ちょうど私の世界が、 「あんたはいつもそんな調子だな」彼はちょっとためらってから、私を変えたように。地下文明と〇・六の重力が、私を、白子の、 「・ほくは実のところ、釘づけってわけでもないんだ。帰りの船に、 ステッキのようにひょろ長い男にしてしまった。いま街路にいるジ 席があるんだよ。あんたも一緒できるかもしれない」 ンクス人たちは、男も女も、煉瓦のように低く太い。その中に外来 「ほんとか ? でも、きよう日、太陽系へ向かう船があるとは、思者がまじると、まるでクダトリノ人か、ビアスンのパペッティア人 いもよらなかったな。出てくる船は、もちろんたが、 と同じように、ひどく異質なものにみえる。 「この船の持ちぬしは、政府高官でね。ジグムント・アウスファラ そうこうするうち、キャメロット・ホテルについた。 って名前をきいたことがないかい ? 」 このホテルは低い二階建ての建物で、シリウス・メイタの下町数 「そういえば : : : おっと ! 待った ! やつに会ったことがある。 エーカーにわたり、立体派の描いた蛸みたいに脚をひろげている。 やつがおれの船に、爆弾をしかけた、そのすぐあとにた」 をかからやってきたもののほとんどがここに泊るのは、重力制御が カルロスは目をパチパチさせた。「冗談だろ ? 」 各室、各廊下に完備され、それが、人類版図内で最高の博物館や研 「いや、本当さ」 究コンビナートを擁する知識研究所までつながっているからであ 「ジグムント・アウスファラーは、異星局勤務た。宇宙船の爆破なる。 こ。 ー 3 2
とがある。しかも、この異様な生き物は、金色か銀色の ( つねに翼が」彼は心の中で思い描いたーー地球からの往復輸送船、彼の表面 4 の色とたがいちがいになった ) ロ器、いかにも凶暴な見てくれの大や皮下で行われる採掘作業、ふるさとの世界へと ( 冷凍モジ = ール あごを持っているのた。 / 彼らは彼を食べにきたのたろうか ? 食べに入れて ) 積み出される栄養たっぷりな彼の断片、そして最後に、 られるのは痛いものだろうか ? 「だめた、出ていけ ! 」と彼はさ地球の飢えた、恵まれぬ人びとの歓喜の中で、彼のエッセンスが分配 けびたかったが、ただ身ぶるいすることしかできなかった。南半球される光景。むろん、たえまない破壊によって彼は死ぬだろうけれ に数回の微弱な皮震が起きただけである。彼らはそれを気にもとめども、全人類の救世主になれた満足を味わえるというものた。その なかった。下降をつづけた。暗闇がフィリツ。フ・の極から極まで上、オシリスや、キリストや、緑の騎士や、その他の救済と ( また を包みこんだ。 ミ = ルミドプテランに表面を覆いつくされてしまつは ) 多産の典型たちのように、彼も復活することができるかもしれ たのだ。トマトとしても人間としても生まれてはじめて、フィリッ ない。特にだれかが、彼の果肉や果汁といっしょに、種子を地球へ プ・は完全な盲目となった。 持ちかえるたけの分別があれば : しかし、これらはむなしい臆 測だった。フィリップ・は、盲目であるなしにかかわらす予言者 ティレシアス症候群 ではなかったし、ミュルミドプテランは無分別にも彼に口をつけは 肉体的視覚が失われたのをきっかけに、フィリツ。フ・は、彼のじめたのだ。「ああ、リディア・」彼らが同時にいっせいに外皮 形而上学的、精神的な目隠しがとりはらわれたような感じをもつをかじりはじめたとき、フィリップ・はそうロ走った。「ああ、 た。 ( 実をいうと、これは意識下にある〈盲目の見者〉のイメージ人類」 テーバイの名高 がもたらした錯覚だった。ティレシアス ( ) 、オイデイプ い盲目の予言者 ス、ホメロス、そしてやや疑問はあるがジョン・ 、ルトンといっこ 耽溺者としてでなく ( または恍惚の唾液 ) ところが、この原型的な性格の好例である。しかし、フィリップ・ こうしてフィリップ・は食べられていった。 ュルミドプテラ の場合は、新しい洞察力の錯覚が、彼の大局観を押しふせ、沈めンは、彼の惑星なみの体を覆いつくして祝宴を張った。彼らはみや てしまったのだ ) 全世界と全自己を包んた暗闇の中で、彼は自己のびやかに彼をむさぼった。しかも : : : 苦痛なしに。事実、いやます 生命をたもっことが、食べられないように抵抗することが、倫理的驚異とともにフィリップ・が知ったのは、彼らが咬み、かじるた な義務たとさとった。そして、ひとりごちた。「なにしろ、この新びに、その大あごの不気味な動きが、毒液ではなく一種の唾液を注 しい転生、とい 0 ておかしければ、トトであるこの状態をなんと入し、それが彼の ( 人間期からの ) 痕跡的な快楽中枢に何ポルトも 呼ぶにしてもだ、おれは人類のために世界的な飢餓を防いでやれる何ポルトもの電流を送りこむことた「た。ああ、こんなことが信し んだからな たたしそれは、もとの太陽系の中、しかも、地球かられようか ! 彼らのたえまない食いっぷりから彼が得る快楽は、 らロケ ' トで到達できる範囲内に、なんとかもどれたとしての話だ地球で経験したどんな快楽ともちが「たものだ 0 た。それは動物的
・ハビロニア・ウェープが人類にもたらしたのは圧倒的な量のエネ二キロの相対速度で銀河外縁へ移動していることがわかった。が、 ルギーだった。 この程度の相対速度は送電に何の障害にもならない値だった。 地球から三光日に位置する光軸が、直径五百万キロのレーザーと 出力一ギガワット の送電基地が二十基建造され、反射鏡を精密に 判明した時点で、その利用方針は決定されたのも同然だった。レー 制御しつつ、太陽系外周の受信基地へ送られ始めた。 こうして人類にエネルギーの黄金時代が訪れたのだった。 ザーほど取り出しやすく、送りやすく、加工しやすいエネルギー源 はなかったからだ。原理的には、光軸の中へ反射鏡を差し込めばい いのだ。。 菊に鏡を置くと直角方向に取り出せる。反射率を変化させ エネルギーの使用量は繁栄の指数として正しいのだろうか : ることにより、一部だけを取り出すこともできる。 こうして、 マキタの頭を時々そんな思い . がかすめる。人類は労せすして、無制 最初に派遣された大掛りな調査隊の目的は、く・ , ヒロニア・ウェー・フ限に使用できる理想的なエネルギー源を獲得した。太陽系近傍に無 の成因調査ではなく、エネルギー利用の検討にあった。 限にエネルギーの湧き出る鉱脈を偶然掘り当てた。その結果、地球 定在波の外側近傍に基地が設けられた。 には無害のエネルギーが溢れ、厖大な量の物質が変形し、動き、消 第一回の実験では、一辺たった百メートルの正方形の反射鏡が定滅する。 在波の中へ投げ込まれた。反射鏡は表裏ともに反射率はほ・ほ百パ 「エネルギーの消費量は本当に繁栄のバロメーターなのでしよう セントあり、二枚重ねられた反射鏡の間に姿勢制御用の機関が納めか」マキタは説ねるともなくいった。目的地に近づくにつれて、情 られている。制御の指令は外側の基地から行なわれる。 この方報管理官ライリーは話しやすい相手になっていくような気がする。 アストロ 式は以後続々と建造された無人送電基地の原型となった。 「私は普通の宇宙飛行士ですから、エネルギーといっても宇宙航行 光軸方向に 0 度の位相で投げ込まれた反射鏡は、内部へ五十キロ に関連してしか理解できないのですが、例えばこの調査艇はで の空間で停止し、基地からの指令にしたがって、光軸に対し徐々に加速し、で減速しています。緊急事態の調査ですから、この航 角度をとりはじめた。こうして鏡面が光軸に菊度を成した時、一本法で正しい訳です。私に耐久力があればさらに高 Q5 の加減速が可能 の光軸は正確に地球方向に、裏面からの反射光は銀河の核方向に取ですが : 。ところが、現在太陽系内を航行する宇宙船のすべての り出された。 航法がこれと同質ではありませんか。一加速・一減速で到着ー 最初の実験で、一辺百メートルの反射鏡で地球側に取り出されたーすべての航路がこれで決定されています。人間を乗せる宇宙船で エネルギーは約三十七メガワット これは当時の地球の原子力発はこの方式が最も快適でしようが、貨物船ですらこの方式で飛んで 電による出力の約十分の一に相当する値たった。 いる。もはや効率とか経済性など考慮する必要がない訳です。だ が、私は思い出すことがあるんです、あのホーマン軌道というのは 7 その後、送電基地の建造が始まった。 ・ : あなたなら電算機を内蔵され 精密な調査の結果、バビロニア・ウェーブの光軸は太陽系と秒速何と芸術的な軌道だったか、と。
「ああ。だが危険をおかす価値はあるはずだと思う」 私は話しかけた。「まいったね。きみが何を追っかけてるのか、 太陽をめぐる特異空間へはいる約十分前に、私たちは超空間から見当もっかんよ」 出ていた。というより叩きだされていた。これは通常空間でいう 微笑しながら、彼は立ちあがると、ひと眠りするため自室へ引き と、十六光時にあたり、その特異空間の外縁から、さらに五光時ほあげてしまった。 ど内側に地球が位置している。幸いなことに、超空間通信波は瞬時私は主推カモーターのスイッチを切った。いずれ太陽系内深くは 到達だし、あらゆる文明化された星系は、その特異空間のすぐ外側 いってから、三十で減速すればよい。一応、船は、シリウス系を に、超空間通信中継ステ 1 ションを設けている。その一つであるサ出たときの速度を保持しているので、これで充分だ。 ウスワース局が、この船からのメッセージを中継してレーザー通信 アウスファラーは操縦室にとどまった。たぶん彼も、私と同じこ で内側へ送り、返信をまた同様に中継するとして、十時間後には返とを気にしているのだろう。これほどの外宇宙には、警察の船もい 事がとどくわけた。 ない。襲われる可能性はまだあるのだ。 マイニング・々ッグ 超空間通信機のスイッチをいれたが、・ へつに何も爆発したりはし彼は、あの三隻の採鉱曳船の写真を送りながら時間をつぶしてい よ、つこ 0 ムよじっと見まもっていた。 た。話はしなかったが、禾。 アウスファラーがますケレスの基地へ、われわれが見かけた曳船曳船は三隻とも、平々凡々たるもののように思われた。望遠写真 の登録番号を照会するためによびかけた。それからカルロスが、ニで見るかぎり、船殻には怪しげな開口も、兵器用の ( ッチとおぼし いものも見あたらない。遠距離レーダーによる走査像は、雲のよう ュ 1 ヨークにあるエレファント氏のコンビュータを、彼が限られた に・ほやけている。巨大な環状のカ場発生機や、中空の部分や、同じ 相手にしか教えていないコード番号で呼びだした。「お支払いは、 あとで。たぶんこの件のニュ 1 スをお伝えすることで払うことになく巨大な動力チュー・フや、密度のうすい燃料タンクと生命維持装置 などを、そこに見分けることができた。が、あってはならない隙間 るでしよう」すっかり悦にいったような口調だ。 カルロスが、必要なものの概要を並べ立てるのへ、私は耳をかたや影のようなものは、何も見つからなかった。 むけていた。彼は、一九〇八年地球ソビエト連邦シベリア地区ツン やがて、アウスファラーがいった。「あんたには、この〈ホボ・ グースに落下した隕石に関する詳細な記録を求めた。三つの宇宙起ケリイ〉の価値がわかっているかね ? 」 源論ーー大爆誕・脈動宇宙・定常宇宙ーーーへの再評価の有無とその私は、およその見当ならっくと答えた。 状況を求めた。また、縮潰星の各種デ 1 タを求め、さらに、重力現「いや、この船は、わしの人生を賭けたものだったのだよ。〈ホボ・ 象に関する著名な学者で太陽系に住んでいるものの氏名、業績、そケリイ〉一隻で、海賊の艦を撃減するつもりだった。なのに、操縦 こうなってはもう、 れに住所を求めた。スイッチを切るとき、彼はにんまりと笑いをう士が逃げだしおった。逃げだしおったのだー この高価なトロイの木馬の真価を発揮する場もないではないか ? 」 かべていた。 ピッグ・・ ( ン ー 43
人、おまえは、他人から何かを盗むことなど、考えたことがあるか「いいわけなど必要ないんだそ、シ = イファー。わたしの業績は、 ね ? あらゆる女はおまえの前にひざますいて、できれば直接に、 わが故郷から大いに感謝されるだろう。地球はこれまで、あまりに だめなら郵送ででも、子種を支えてほしいと願うだろう。地球の全も長いあいだ、恒星間貿易で甘い汁を吸いつづけてきたからな」 資産が、おまえを健康に生かしておくため存在する以上、わざわざ「故郷の連中が感謝するとは、とんだお笑い草たね。このことを打 手をだしてほしがる必要もないだろうからな ! 」 ちあけるつもりなのか ? 」 「びつくりするかもしれないが、あんたを超人扱いする人たちもい 「わたしは・、・ー・ー」 るんたぜ」 「ジュリアン ! 」エンジェルが叫んだ。彼も見つけたのだ : のひとり 「強く育つのだ、われわれジンクス人はな。だが、その代償はどうや、そうではなかった。見つけたのは、曳船のパイロット だ ? 生命は短い。細胞賦活剤の助けを借りてもだ。ジンクスの重であった。 カ下から離れて暮らすことができれば、もっと長生きできるという フォワードは、さっと私たちのそばを離れた。低い声で、エンジ のに。しかし、他の世界の連中は、われわれを笑いものにする。女 = ルと何か打ち合わせると、ふり向いた。「カルロス ! おまえは どもは : : どうで、も いいことたが : : : 」しばしためらったが、結局船を自動操縦にしてきたのか ? それとも、ほかに乗ってるものが いいだした。「地球の女のひとりは、わたしに、掘削マシンとでも いるのか ? 」 寝るほうがましだとぬかしおった。わたしの力に身をまかそうとは「何も聞かれなかったんでね」とカルロス。 しなかったのだ。当然だろうが ? 」 「わたしは、その気になれば いや、まあ、 しい。もうすぐどっち 三つの明るい光点は、ほとんどドームの中央に達していた。そのでもよくなることだ」 あいだには、何も見えない。見えるとも思っていなかった。エンジ エンジェルが、「ジュリアン、やつの動きを見てください」 エルはまた、パイロットたちと交信をつづけている。 「ああ。利ロな行動だな。人間が操縦していないかぎり、できんこ ドームの縁から何かが姿をみせた。誰もそれに気づかぬようにと とだろう」 願いながら、私は叫びたてた。「フォワード、きさまのやってのけ アウスファラーは、〈ホボ・ケリイ〉号を、曳船とこの基地のあ た大量殺人の、それがいいわけか ? ただ女に相手にされたいとい いだへもってきたのだ。もし曳船側が通常兵器で攻撃をかけたら、 うことが ? ・」 このドームを吹っとばし、全員を殺す羽目になるだろう。