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検索対象: SFマガジン 1977年10月号
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1. SFマガジン 1977年10月号

とがある。しかも、この異様な生き物は、金色か銀色の ( つねに翼が」彼は心の中で思い描いたーー地球からの往復輸送船、彼の表面 4 の色とたがいちがいになった ) ロ器、いかにも凶暴な見てくれの大や皮下で行われる採掘作業、ふるさとの世界へと ( 冷凍モジ = ール あごを持っているのた。 / 彼らは彼を食べにきたのたろうか ? 食べに入れて ) 積み出される栄養たっぷりな彼の断片、そして最後に、 られるのは痛いものだろうか ? 「だめた、出ていけ ! 」と彼はさ地球の飢えた、恵まれぬ人びとの歓喜の中で、彼のエッセンスが分配 けびたかったが、ただ身ぶるいすることしかできなかった。南半球される光景。むろん、たえまない破壊によって彼は死ぬだろうけれ に数回の微弱な皮震が起きただけである。彼らはそれを気にもとめども、全人類の救世主になれた満足を味わえるというものた。その なかった。下降をつづけた。暗闇がフィリツ。フ・の極から極まで上、オシリスや、キリストや、緑の騎士や、その他の救済と ( また を包みこんだ。 ミ = ルミドプテランに表面を覆いつくされてしまつは ) 多産の典型たちのように、彼も復活することができるかもしれ たのだ。トマトとしても人間としても生まれてはじめて、フィリッ ない。特にだれかが、彼の果肉や果汁といっしょに、種子を地球へ プ・は完全な盲目となった。 持ちかえるたけの分別があれば : しかし、これらはむなしい臆 測だった。フィリップ・は、盲目であるなしにかかわらす予言者 ティレシアス症候群 ではなかったし、ミュルミドプテランは無分別にも彼に口をつけは 肉体的視覚が失われたのをきっかけに、フィリツ。フ・は、彼のじめたのだ。「ああ、リディア・」彼らが同時にいっせいに外皮 形而上学的、精神的な目隠しがとりはらわれたような感じをもつをかじりはじめたとき、フィリップ・はそうロ走った。「ああ、 た。 ( 実をいうと、これは意識下にある〈盲目の見者〉のイメージ人類」 テーバイの名高 がもたらした錯覚だった。ティレシアス ( ) 、オイデイプ い盲目の予言者 ス、ホメロス、そしてやや疑問はあるがジョン・ 、ルトンといっこ 耽溺者としてでなく ( または恍惚の唾液 ) ところが、この原型的な性格の好例である。しかし、フィリップ・ こうしてフィリップ・は食べられていった。 ュルミドプテラ の場合は、新しい洞察力の錯覚が、彼の大局観を押しふせ、沈めンは、彼の惑星なみの体を覆いつくして祝宴を張った。彼らはみや てしまったのだ ) 全世界と全自己を包んた暗闇の中で、彼は自己のびやかに彼をむさぼった。しかも : : : 苦痛なしに。事実、いやます 生命をたもっことが、食べられないように抵抗することが、倫理的驚異とともにフィリップ・が知ったのは、彼らが咬み、かじるた な義務たとさとった。そして、ひとりごちた。「なにしろ、この新びに、その大あごの不気味な動きが、毒液ではなく一種の唾液を注 しい転生、とい 0 ておかしければ、トトであるこの状態をなんと入し、それが彼の ( 人間期からの ) 痕跡的な快楽中枢に何ポルトも 呼ぶにしてもだ、おれは人類のために世界的な飢餓を防いでやれる何ポルトもの電流を送りこむことた「た。ああ、こんなことが信し んだからな たたしそれは、もとの太陽系の中、しかも、地球かられようか ! 彼らのたえまない食いっぷりから彼が得る快楽は、 らロケ ' トで到達できる範囲内に、なんとかもどれたとしての話だ地球で経験したどんな快楽ともちが「たものだ 0 た。それは動物的

2. SFマガジン 1977年10月号

、ユルミドプテランはどこからやってきたのか ? 彼らは何者な なものでも植物的なものでもなく、理性的なものでも非理性的なも のでもなかった。つけ加えるならーーーフィリップ・は、恍惚を生のか ? こうした疑問は、言葉につくせぬ至福の中でも、フィリッ みたすミ = ルドミ。フテランの咬食の効果をすこしも弱めることな。フ・の心から去らなかった。食べられてゆくにつれて、彼の意識 く、自分がどんなにいい気持であるかを考えることができたのだ。 はしだいにとぎすまされ、より敏活になり、気味悪いほどの予測カ やがて、あまりにもはやばやと、彼らは食べるのをやめてしまったをそなえてきた。そして彼は答を見いだした : : : すくなくとも第一 、ユルミドプテランは、宇宙の比喩的な限界の 彼のオレンジ・レッドの外皮をほんの二、三百メートルの深さの疑問に関しては。 までかじりとっただけだった ( ついでながら、これはフィリツ。フ・彼方、空間がそれ自身の中へ折れ曲った究極彎曲のむこうからやっ の標準でまる一カ月を要した作業だったが、目の見えない彼にてきたのだ。ここにパラドックスが含まれていること、言葉や数字 は、どれだけの期間が経過したのか、見当のつけようもなかった ) 。や記号が決して明快な現実と対応する説明になりえないような、曖 しかし、飽食者たちが茫漠たる空間に舞いもどり、 。 ( パと少数の星昧模糊としたものさえもがおそらくはかかわりあっていることを、 ュルミドプテラ フィリツ。フ・は理解した。そんなことはいし ・ほしと前よりも肥った蛾蟻の体をかいま見せたのもっかのま、 ルミドプテランの第二波が虚空のかなたから襲来して、食い荒されンは、あらゆる方角から、充満空間の考えうるすべての点から、フ ィリップ・に近づいてくるように見えたのだ。この事実は重要た た彼の表面に降りたち、前よりいっそううまそうにモリモリと果肉 を食べはじめた。 : ルミド。フテランの二つの群れはこうして交替った。それは、われわれの物理的宇宙が属する時空間連続体から、 で彼をつつき、それが何年も何年もつづいた結果、フィリップ・この生き物たちがつねに独立していることを象徴していた。「そう はまたもや火星とどっこいどっこいの大きさのトマトになってしまだ」と、フィリップ・は内心でそう認めた。「彼らは物理的宇宙 った。ただし、こんどはぐじぐじで虫食いのトマトだった。そんなの中で活動するし、物理的要求さえをも満たしている・ーーそれはお ことが気になろうか ? もはや彼にとって時間はなんの意味もなれを食べたことが示すとおりだ。しかし、彼らが属しているのは : ・ : 宇宙の外部領域、存在しない場所。そこで彼らは霊妙な生活を送 く、そして死の恐怖もまた同様だった。もし彼が死ぬとしても、そ れはこの生き物たちの意志のままだ。彼は彼らの金属の翼を崇拝っているのに、この連続体 ( ときおりはその中へ探険にこずにはい し、彼らの大あごを歓迎し、彼らの唾を渇望していたーーーそれも麻られないのたろう ) へやってきて、そのたびにけがされるのた」ど 薬耽溺者が焦がれるようにではなく、敬虔な聖体拝領者がパンとぶうしてフィリップ・はそれを知っているのか ? とにかく知って いるのた。 ミュルミドプテランは食べる。それゆえに、彼は知って どう酒をほしがるように。したがって、数十年が経験するあいだ、 いるのた。 フィリツ。フ・は彼らの気のむくままにさせた。 ムーどング・ティ 時空間の彎曲のかなた 引越しの日 5 8

3. SFマガジン 1977年10月号

れてリーダーの役を買って出た連中だったのである。吹き込んだ人 それ以後 : : : 徴税が強化されるのと歩調を合わせるようにして、 暴動の数は増え、規模も大きくなって来た。司政庁はその都度治安間というのが、これがまた仮名を使い素顔もよく分らないように用 心しているらしいので、なかなか糸をたぐれないのだ。 部隊を送り出して鎮圧したが : : : 暴徒の中には扇動者のみならす、 わざとロポットに撃ち倒されようとする殉教者的言動を示す者がま それでも、何人かはその線をつたって捕えることが出来たし、は しりはじめたのである。 じめからの逮捕者の二割ないし三割というのも、背後から人々をあ そんな連中を殉教者に仕立てあげるのは、愚策の見本のようなもおろうとしている連中とどうやら同類らしいことが分っている。分 っているが : : : 今のところはそこ迄であった。なぜなら、そうした のであったから、治安部隊はかれらに神経麻痺線も浴びせず捕えも せす、徹底的に無視するように指令され、指令を守り抜いた。それあおり手、実際のオルガナイザーと目される連中は、深い催眠拘東 が、ある意味でかれらをつけあがらせる結果になっているかも知れを受けていて ( これだけでも計画的・組織的な勢力の存在はあきら かだ ) こちらの求める情報は皆目入手出来なかったのである。その ないが、現段階では仕方がないとマセは考えている。 うるさいのは、ここ数日、暴動そのものが大群衆ではなく、目的拘束を打ち破る方法はあるけれども、ロポット官僚が実施したとい 意識を抱いているらしいリーダーにひきいられた、あちこちに出没うだけで、人々はますます憤激するに違いないのだ。 いずれは、そうしなければならなくなるかも分らな する多くのゲリラ的集団に分れようとしていることである。扇動者しかし・ こんな調子で暴動が : : : それも組織化されゲリラ化された騒ぎ やリーダーたちは、着実に人々の間に根をおろし、力を持ちはじめ が続くとなれば : : : 本物のリーダーたちを長期間司政庁のしかるべ ていると解釈しても間違いなさそうであった。 石政庁側は、第二回目の暴動のときをはじめとしき部屋に閉じ込め、心理学的手段を使用して、かれらの内面に踏み いう迄もなく、」 込むほかないからである。出来るならそこ迄はしたくなかったが : て、機会さえあればそれらのリーダーを逮捕し、説問を行なってい と、マセ る。マセは、かれらを留置するのは、最短時間にとどめるよう、・ : 情勢しだいでは、そうせざるを得ないかも知れない は肝をくくりはじめていた。 に指示していた。人権侵害の声が大きくなるのは好ましくなか 問題は、まだある。 ったからで : : : かれらの説問への答えや黙秘を通じて、何を隠した いくつもあるのだ。 がっているのか、どういう嘘をつこうとしているのか、何をおそれ ラックスの増刷につぐ増刷によって、インフレ傾向が顕著にな ているのかを分析し総合するのに必要なデータだけを得たら、すぐ り、物価がかなり速い足取りであがりだしているのと共に、当然、 に釈放するようにしていたのである。 ラックスのクレジットとの交換比率が悪化していることがある。か その分析と総合も : : : 実ははかばかしくなかったのた。 と、 いうのも、かれらの七割か八割迄が、暴動のさなかや、暴動って、いかに申請してもラックスとクレジットの交換比率改定を認 7 をおこすための謀議の席で、司政官への反感を吹き込まれ、あおらめなかった連邦経営機構は、このことを知るが早いか ( そこにはお

4. SFマガジン 1977年10月号

と念を押し、退避辞退リストに記載しても差支えないのか確認をすことでおのれの被害の責任をどこにも押しつけられない人々が、そ 。要するに、説得、相談、カずく、脅迫、周囲の人々を利用しての対象に、自分たちを律している権力者を選ふのは、遠い昔からた 2 の扇動、仲間はずれの画策から、おだて、譲歩その他考え得るすべびたび歴史に現われて来た現象である。司政官「セは、それを真向 ての手段によ「て、それを人海戦術で推進して行き「「あ「たのから受けとめるほかないのであ「た。極言すれば、今の彼の仕事 は、恨まれることを抜きにしては成立しないのである。人々がもし 順調には違いなかった。 も彼に対して ( まず望み得ないであろうが ) 感謝することがあると 税収という面から見れば、予期以上の成果をあげていた。 しても、それはラクザーンから本当に退避したあと : けれども、そうして支払った人々のすべてが納得ずくで、かっ、 と先の、ノジランに移り住んたのちに、ラクザーンの太陽が新星化 示裕のある状態で税を納入したのではない以上、心理的には不満がしたという = 、ースを聞いてからの話であろう。 広第に鬱積されつつあったのは、当然のなりゆきである。そうしな 憎まれるのをおそれていては、退避計画が潰れるのだ。 0 ればならないと頭では分っていながらも、気分としては長いもの だから、徴税遂行機関は、ためらわす任務を続けなければならな に巻かれるほかはないと観念したり、うまく、 しいくるめられて何も も持って行かれたと恨んたり、自分は他人とくらべてひどい損を そして、マセの覚悟と対応するように、暴動は増えはじめてい したのではないかと歯噛みしたりするのが人間のつねなのだ。もちた。第二回目の、治安部隊による強引な鎮圧のあと、さすがに十日 0 ん、全部が全部そうだとはいえない。そうではなくて、積極的にばかりは平穏であ「たが、その後、小規模な騒ぎがあちこちでおこ 日分で損得勘定をして早期に納入しに来る者もいないわけではなか りだしたのだ。もっともそれらの騒ぎは、治安部隊の出動に至る程 ) たし、多くは渋々ながら宿命と諦めて支払うのである。不満をつのものではなか 0 たし、騒いだ連中もまた、治安部隊を招き寄せる ~ らせて、さらに、今に見ろといきまくのは一割か二割位のもので前に散「てしまうのがつねであ「た。 のろう。 ( これがどの位の比率なのかは、面従腹背の本心迄データ 」してつかみ取れないには、正確な数値を出すのは困難なこ 徴税遂行機関が本格的に動きはじめるや否や、今度は前のような 」であった ) だが、それがかりに一割だとしても、約一千万の一割 一時的な騒動ではなく、明白に司政官に反抗しようとする群衆が出 」いえば百万 = = = それだけが束にな「て動き出せば、治安部隊全部現して来たのである。納付受付開始の当日には大がかりなデモ 」動員しても収拾不能であろう。 というより司政のための設備を叩き壊して気勢をあげる大群衆が自 「セには、こうなるのは分 0 ていた。覚悟していた。緊急指揮権然発生的にツラツリ〉トに生れた。加速度的に騒ぎが周囲に波及し 」持「た瞬間から、そうなるのは百も承知であ 0 た。今度のこのラそうだと見て取「た「セは、即座に三大隊の治安部隊をさし向け、 - ザーンの災厄はあく迄も自然の現象であるが、自然現象たという かれらを解散させるのに成功した。

5. SFマガジン 1977年10月号

なかった」マキタは観測機器をにらみながらいった。「まして、そ 定在波と判明するや、周回ステーションの観測班は興奮状態に陥 った。どこかに頭と尻尾があるはずだからだ。銀河系をかすめて流こから無限にエネルギーが取り出せるとなるとなおわからなくな 3 れ去る波ではなく、まさにそこに定在する性質のものだからである」 る。 「いや、その二つは別の問題なのだ」ライリーは視線を計器に向け 定在波の両端を確認する作業はさらに時間を要した。数百光年のたままいう。 定在波というのはごく一般的な現象だ。最も簡単な例がビア オーダーではなかったのだ。星間物質の散乱を追跡するだけでは不 可能だった。星間物質は定在波の方向には急激に希薄になり、散乱ノの弦の振動だ。何次かのモ 1 ドで弦が共振している時がそうだ。 はまったく検出されなくなるのだ。 別の、今度は有人の観測艇この時、弦の波形は弦を往復する波動が重なって定常的なパターン スダンディング・ウェープ が出発した。それは定在波を軸に巨大な螺線を描く航路を進みながを作っている。だから定在波と呼ばれる訳だ。 レーザーの場合、定在波は二つの反射鏡を向い合わせること ら、光軸の延長方向にある星雲系を観測する方法をとった。 その結果、定在波の先端には強力な重力場があることが、星雲系で得られる。この時、レーザーの波動は二枚の鏡の間に閉じ込めら の光の湾曲から確認された。両端にある重力場がどのような作用でれたかたちで保存されるのだ。 : つまり、 ・ハビロニア・ウェー・フの場合、どういう訳か両端の 反射鏡の役割を果しているのかは不明のままたし、巨大なレーザー の定在波の成因を解明するにはほど遠い状態だった。何しろビーム重力場が反射鏡の役割を果たしていて、片道八千五百三十光年を進 の先端までの距離は、りゅう座側が四千六百五十光年、かじき座側行したレーザーとその反射光が共振して、巨大なエネルギーの貯蔵 この段階で明庫になっていると考えられるのだ」 が三千八百八十光年もあると推定されたからだ。 らかになった定在波の波は、両端がレーザー光線を反射する作用を「そしてわれわれはそこから無限のエネルギーを取り出している」 持つ重力場からなる、直径五百万キロメートル、全長八千五百三十「いや、定在波のエネルギ 1 が無尽蔵とはいえない。一般的には定 在波は減衰していく訳だ。バビロニア・ウェー・フのエネルギーに減 光年の、銀河系を垂直に貫くレーザーの光束たったのだ。 調査段階で使用されていた、この定在波のコードネームは、やが衰が認められていないのは、内蔵するエネルギ 1 のオーダーが桁外 て公式的に使用されはじめた。それは「・ ( ビロニア・ウェーブ」とれに大きいために計測できないのか、減衰したエネルギーを補給す 呼ばれたのである。 る機構があるのか、また解明されていないんだ」 それにしても : この巨大な波は、成因の解明も待たす、人類に途方もないエネル マキタは思った。地球の文明全体を根本的に 変えてしまったほどのエネルギーですら、誤差にもかからないとは ギーを供給することになった。 「定在波というものの性質が、私にはどうしても感覚的に理解でき

6. SFマガジン 1977年10月号

ク山中にあったというのが、彼らの主張だ ) 、また、彼 球形の。ヒニャータ メキシ 0 や中米のはでに ) にも、潜水鐘にも、た やすくなれたはすだ。しかし、これらのものはどれも呼吸しておらプ・そのものが新世界だともいえる。この問題はまたまとまりが つかす、遠く・ほやけてはいるが、彼は自分が個人的な本体論の問題 ず、生きてもいない。では、なぜ、、フドウや、サクランポや、オレン 「なぜトマトなのか ? 」近 に肉迫しつつあることを感じはじめた。 ジや、メロンや、ココナツツや、スイカであってはいけないのかっ・ いうちに、もっと多くのことがわかるはずだ。きっと答が見出せる これらのものは、どれもほ・ほ球形をしている。どれもが太陽の崇 拝者であり、どれもが成長し、どれもが生命の果汁とおいしい果肉はずだ : をもっている。だが、この変身をひきおこしただれか、あるいはな というのも、フィリップ・は彼の変身を、偶発事短い死の暗示 にものかは 故でもなければなんらかの自然変化による化学的な再調整でもな超然たる赤色巨星のまわりを公転して、二年目のなかば近くまで 、外部からの意識的な干渉の結果だと考えていたからだがーー・彼きた頃、フィリップ・は自分の成長がとまったと推論をくだし をこうしたすばらしい果実のどれにもしなかった。彼らは彼をトマた。生気みなぎる充実しきった成熟期、もはや雨も日光もそれ以上 なにものもつけたすことのできぬ状態に、彼は到達したのた。新し 「なぜトマトなのか」ポーム・ダムール。愛のリ トにかえたのだ。 い懸念が彼にとりついた。この先、どんな希望がもてる ? やがて ンゴ。〈知恵の木〉の実。あはっ ! 化膿した洞察の中でフィリッ 。フ・は、リディア・をめぐる愛餐的な幻想が、現在の彼の状況は傷つき、腐りはじめるのではなかろうか ? 皮がひび割れ、傷痕 とある狡猾なかかわりあいを持っていることを理解した。ある計画そっくりなどろどろした病巣ができて、軌道という目に見えぬ支柱 いや、そんな恥すべき末路を迎 が彼の前に明らかにされようとしている。しかも、彼をあやつっての上で、朽ち果ててゆくのでは ? いるものたちは、わざわざよけいな手数をかけて、自分の意識の働えるために、この変身をとげたのではないはすだ。とはいえ、黒い 、全球面的な一瞥で、天空ぜ きがすこしすっこの計画を明るみに出しているかのように、彼に信べロアさながらの深宇宙を馳せめぐり んたいとそこに含まれるすべてのもの ( 無数の太陽、星雲、島宇 じこませたのた。ああ、啓発的な欺瞞 ! その鍵はポーム・ダムー コールサック ルにある。彼がほかならぬトマトに変わったのは、トマトが伝説の宙、暗黒空間、とるにたりない虚空の岩屑 ) を見てとりながら、フ 彼よ腐ってゆ ィリツ。フ・はそれ以外の道を思いつけなかった。 / 。 〈知恵の木〉の実であるからだ ( トマトが木に生らないことは、こ く。しよせんはそれだけのことなのだ。彼は腐ってゆくのだ。もし のさい忘れよう ) 。そういえば、人間だった頃のフィリツ。フ・は、 聖書のエデンの園が新世界に事実存在したという説を奉じる北アメ腐るだけのことなら、なぜ〈知恵の木〉の実なのか ? 彼は自殺を そう リカのある新興宗派の信徒たちと、議論をたたかわしたことがあ考えた。その気になれば、自転軸の回転をとめるだけでいい。 る。トマトの原産地は南アメリカだし ( そこなら、あの信徒たちがすれば、片方の半球は煮えたぎって黒焦げになり、もう片方の半球 は白霜の刺糖に覆われて、芯まで凍りつくだろう。それとも、息を 指摘したエデンの位置からそんなに離れていないーーー楽園はオザー グ / ービ / グ・ベル 8

7. SFマガジン 1977年10月号

死″の深淵からの生還者 50 人の衝撃的な証言 の レイモンド・ A ・ムーティ・ジュニア中山善之訳 死とは何か ! ? 新々気鋭の学者 ( 哲学・医学博士 ) である著者が , この人類永遠 の謎に挑み , 解明への手がかりを提示した注目の書 / 医師により臨床的に死の 宣告を受けた後に生き還った人や , 物理的に肉体が死に瀕した人など , 50 人にイ / タヴュー。彼らが一様に体験した , 肉体と精神 ( 意識・魂 ) の不可思議な遊離の 事実を収録し , 学問的見地から分析した。アメリカで二五〇万部を記録し , セン セーショナルな話題をまいた問題のベストセラー / より良い生を生きるための 四六判並製 / 2 3 2 頁 / 定価 8 9 0 円 福音の書でもある ■絶賛発売中■ 0 / 新名年 E ダウ 本に冒武 L のたが群 R 。指 フ 8 各書作令・ 大旅薪れ・ ォ 格、険勲・ 的善物にア 冒をしにア . 版いのい 険始ぃ迫ダ ウタ フと語憧リ / 夢冒闇 R 9 シ問一 全 0 各を険の・ フめュるム 4 満とカト ン、イるサ 円 アる 危ス 2 載遍を一 ンシ ト機 タ愛キ、少ン ン ーヾ ジとリ年ダ デ各 タ欧 。を神 0 し歴秘 ツ キ ー平ス騎ー 円たがめ ラ 3 筆も口 呂のプ ーでア輝 、始るン 。和・士 菊なウタ神 ク 0 さ中太 / 爆求し夫 A フま黄 - , ・る金瀬廿五 発舅た訳 判どェラ宮 ス円しさ郎 5 版 絵せ訳 変永ーン輝 四的、十 蔵タ指貞ロ さ / 遠ルの夫 六人脱一 少をす 年収に 全 / 気出匹 版ン。輪ー 8 のズ、訳 8 / ー冒を訳 6 少録は 9 テの神 上をとの , 女しお ・呼放勇 全文険め 0 ー神秘 A 版たか 下ん浪敢 円マ話と 揃のロ 巻だのな ーを・魔 方攵テ 各 、危う 8 最マ 1 描伝法 ロ >E い 5 8 波険さ 映レ 5 き説に 全 ビ 9 瀾にぎ 9 , で不 0 傑へ 0 出をみ ′朝 0 A す滅 0 作の 0 す素ち 0 万みオ 円丈ちち 日 円 / 限 ト 円、材た 評論社 東京都千代田区神田神保町 2 ・田 『世界の文豪叢書』 振替東京 8 ー 7294 内容見本送呈

8. SFマガジン 1977年10月号

たことをーー失業の直後にそうされたことはひどくこたえたのだが 彼のほうが成長し、ふつくらと丸くなり、限りなくゆたかな生命の 彼は許した。彼は彼女を許し : ・ : ・そして破廉恥な空想にふけ 0 g 汁を作り出しているのだ。ただ、彼のオレンジ・レッドの表皮が完 た。空想の中では、リディア・がーーー地球からの最初の宇宙移民 全に連続した視覚細胞層を含んでいるため、彼の″眼″、あるいは 〈彼そのものである眼〉 ( この問題をどう考えたいかによって、どに混じってーーー彼の上に着陸したり、逆に彼が ( トマトとしての ) の一室で彼 っちをとるかが決まる ) にごまかされ、最悪の事態がくると思いこ正常なサイズに縮まり、ヒューストンの窮屈なアパート んだにすぎない。なんという至福だろうかーー自分が海王星のサイ女の寝顔の上にうかんで、わが実を彼女にさしだしたりする。ポー ズに成長したため、視覚器官がそのぶん太陽に近づいただけのことム・ダムール。フィリップ・はその言葉を心の中の雑学倉庫から だと知るのは ! 全球面的な視覚にはいろいろの利点 ( たとえば昼すくいあげ、そしてその言葉に慰められた。フランス人は、はじめ 夜の同時理解、三六〇度の視野、自分が宇宙の中心だという快い錯てトマトが南米から渡来したとき、この果実を催淫剤と考えて、そ 覚 ) があるが、ときにはそれが明らかなハンディキャップにもなり う呼んだという。ポーム・ダムール。愛のリンゴ。おそらくは〈知 うるのだ。しかし、軌道が減衰していなくても、やはり危険は存在恵の木〉の実。しかし、血と肉でできた女と海王星ほども大きいト している。いったい彼の成長はどこまでつづくのたろう ? フィリ マトとのあいだに、どれだけ意味のある関係が成り立つのか ? フ ツ。フ・は、太陽のかまどの中で皆既食にされるのなど、まっぴらイリップ・は、ある体験の幻覚にしよっちゅうおそわれるように ・こっこ 0 なった。そこでは宇宙移民のリディア・が、緑の葉のついた彼の へたから南のどこかにひざまずいて、熟した外皮を小さな歯でかみ 対人関係 ゃぶり、えもいわれすすばらしい彼の味に小さな嘆声をあげるの 主星への墜落とか、その根強い不安が薄れたあとは、植物的生活た。この幻覚にすっかり心をくすぐられ、かき乱されるため、フィ のすばらしさとか、いつもそんなことばかりをフィリップ・は考 丿ップ・はそれから幾日も幾日も、ほかのどんな思考、どんな希 えていたわけではない。 ときおりは〈彼が置き去りにした女〉 ( も望、どんな欲望もいたかす、ひたすら回転をつづけるのだった。 う史年期にさしかかった彼女は、男どもが舌なめすりしながら″す け″と呼ぶ部類ではなかったが ) のことを考えた。実をいうと〈彼本体論的考察 こうねんき が置き去りにした女〉は、彼がこの超現実的な生命の変化を迎える愛する者に食べられられるという、この聖体拝領的な幻覚にひ よりずっと前に、彼を置き去りにして出ていったのだ。「ああ、リデ たっていないときのフィリップ・は、彼の存在の問題を真剣に検 という栄養剤の名からと。たのかもしれい ) 」それにもかかわら討した。「なぜト「トなのか ? 」これが彼の疑問の表現だ「た。た ず、彼は甘美な果芯の奥底から優しく呼びかけ、そしてまた呼びか とえば彼は、ポール・べアリングにも、エイトボーレポケット・ビリ けた。「ああ、リディア・」〈彼が置き去りにした女〉が彼を捨て かれた黒玉。「〈まなや ) にも、金属球にも、風船にも、日本提灯にも、

9. SFマガジン 1977年10月号

るような確率だったからだ。 だが、一部では精度を上げ、周波数帯を拡げて、観測はつづけら それを発見したのは、太陽風に乗せて太陽系から放たれた夥しい れた。 無人探測機のひと 0 だ「た。太陽系内および近傍の調査のために定やがて、ひと 0 の仮説が提出された。探測機に照射された光が太 期的に太陽 = ' トによ「て無人探測機が水星軌道付近から流され陽系でま「たく観測されないのは、指向性の強い光東が、太陽系に る。数百万平方 , ート ~ の薄膜の帆に光圧を受けて、それは観測デはかからぬ角度で探測機をかすめたからではないか。 この仮定 ータを送りつつ、太陽の引力圏から遠ざかっていくのだった。 に沿「て観測はつづけられ、その結果、予想もしなか「たものの存 十六年経「て、いて座の方向にある探測機のひとつが奇妙な反応在が判明したのた「た。 を示した。 銀河系の中心方向を観測していた太陽系周回ステーションが、い 警報が鳴った。 て座。の近傍にごく徴弱な電波を検出したのだ「た。それすらも偶航程の中間点に近づいているのだ。太陽から一・五光日まで来た 然といえた。周回テー〉 ' 一基が定期的に監視している無人探ことになる。の加速はここで終り、調査艇は反転し、目的地に 測機は五千を越えていて、しかも太陽系付近に重点が置かれてい着くまでの十三日間、の減速が「づくことになるのた。 る。十年以上前に飛ばされた探測機のチ = ックなど、走査レベルの つかの間の無重力状態が訪れる。 最下位に置かれているといって いい。しかも銀河雜音の最も大きい 「艇を百八十度方向転換します」「キタは事務的な口調でライリー 方向にあるのだ。見逃されなかったのは幸運というべきたろう。 、を、し / が、受信信号の解析結果は奇妙なものたった。探測機が数時間に 「力学的な負荷はそう苦痛にならない、私を気にせず操作してく わた「て、強烈な光の照射を受けているのだ。受信時間は二時間あれ」人工的な声が戻 0 てきた。 まりだったが、それ以前から探測機はその光の照射を受けていたの 「わかりました」マキタは答え、操作卓に指を走らせた。 かもしれない。データを信用するなら、探測機は太陽から三光日離艇体は太陽と〈ダキナ送電基地〉の中間点でゆ 0 くりと反転 れた空間で、突然、 1 当り毎秒 x 柄 = ルグの輻射を浴びたことし、今度は目的地の方向に向けて同じ噴射を開始する。の減速 を示しているのだ。この値は太陽定数の七倍を越えている。 で体は再びシートに押し込まれる。 基地の観測班は色めき立った。三光日という至近距離に新星か新 マキタはレーダー ・スクリーンを噴射側に切り換えた。錯覚しゃ しい発光源が存在するかもしれないと思われたからだ。夥しい観測すいのだが、やはり操縦席の正面には目的地が映されている方がい 機器の視線が、いて座の方向に集中した。・、、 カその後、探測機から いのだ。 の信号はま「たくとたえ、三光日先に天体らしき存在は何ひと「発「本来ならこんな面倒な操作はいらないのですが・・・・・・」「キタは 見されなかった。 シートにもたれたままい「た。本来なら減速に方向転換も噴射もい 4 3

10. SFマガジン 1977年10月号

ジ、ディは青い目を見張り、おうむ返しにいった。「形成者フ しています。見者・・ーーーたぶん高僧だったと思われますが それで、そうなったの ? 」 が、塔に近づくことができたのでしよう。オーテールの場合には、 ずっと昔に消えてしまった塔の位置に、たまたま、修道院の円形建「わからないですよ , とスピンドリフト。「しかし、かれが死ぬ前 築があったのです」 にオーテールを去ったことは、意味なくもないですなあ」 「それが、シュテルンヴェルツがここにやってきた理由フ 「何だって ? 」 「いや、ペーターがオーテールにきたのは、ティアナのアポロニウ「つまり、かれが去る時までには、一見偶然に見える出来事にも、 かならす事前に充分な準備がなされているものだということを確か スが特にこの環状列石詣でを欠かさなかったと信ずる理由があった からです。紀元一世紀には、あきらかに、まだここに異教の神殿とに知っていました。未来に影響をおよ・ほすことができる唯一の方法 は、現在において行動することだと、覚っていたにちがいありませ 巫女のいる神託所があったのです」 ジ、ディは前に置かれた本を何ページかめくったが、ほとんどん。もしも、紐のもつれからうしろ向きに紐をたどっていくことに 読んではいなかった。「でも、その力はどうして働くのさ ? その成功すれば、ほんの僅かな干渉で、未来に影響をおよ・ほすことがで 〈目〉の中で何をするのさ ? 水晶の玉を覗くとか何とかするのきる適切な点で、物事に介入し、調整することができるかもしれな いのです。もちろん、これはすべて、わたしの純粋な推測だという スビンドリフトまあ、ま、こ 冫しし冫しった。「心眼の中で見るのです」 ことを忘れないで下さいよ」 ジ = ディはうなすいた。「それで、その修練ー・ーー精神的何とかっ 「でも、どうやって ? てやっーーあれ何 ? 」 「それは、わたしにもどうしてもわかりません。たぶん、ペーター もわからなかったでしようよ。とにかく、そういうようになるので 「それらは、見者が、自分の見るものを選択することができるよう になるために、特別にデザインされるものです。つもり、事前に大 「見たいものを選択できるの ? 」 災害を見てしまったら、その時点から時間を後ろ向きにたどってい ェクスプラ つまり、すっと 「わたしはずっと、できないと考えていました。しかし、〈霊的って、首尾よくュンクトウラ・クリティカリス ティオ・スピリトウアリス 踏査〉を解く鍵を偶然見つけて以来、意見を変えねばなら遠くで、結果として起る悲劇の、正確な原点ー・ーに到達することが なくなりました。今では、ペ ー・シュテルンヴェルツは、見たできるようになるための修練です」 「うん、それはわかる。でも、どんな修業をするの ? 」 ものに直接影響をおよ・ほすことができるようになるための、霊的精 ーランド、それは、今日でも東洋 神的修練のゴールを目指して、計画的に研究を進めていたのだと、 「皮肉な話ですが、ミスター わたしは信じています。かれの狙いは、未来の見者だけでなく、形のある宗教でおこなわれている修業と、共通点が非常に多かったら 9 成者になることでした」 しいのです」 オクルス