の船が地球に向かうということ。八隻のうち六隻は、太陽系から離きますぞ ! ペイ、ぼくはもう、自分に割り当てられた子供に加え れる途中で消息を断っている。太陽の近辺に海賊がいるとすれば、 て、あんたのぶんまでつくったんたぜ ! 」 出ていく船のほうが、はるかに探知しやすいわけだ , 「落ちつけよ、カルロス。べつにきみの神聖なる権利に口をはさも 「はいっていく途中のも、二隻あった・せ。二隻、五十人の乗員と船うってんしゃないから」私は、アウスファラーに向きなおると、 客が消えてるんだ。この事実をどうする ? 」 「この船の消火事件に、どうして特別外交局がからんでくるのか、 「そう簡単にやられはせんよ」アウスファラーの高言。「わしのわたしにやまたわからないんだがね」 〈ホボ・ケリイ〉は、擬装船た。一見したところ、貨物船か客船に 「船客の中に何人か異星人がいたのだよ」 「ああ、そうか」 みえるが、実は武装をもち、三十で加速のきく軍艦なのた。通常 空間で、かなわぬ相手にぶつかったら、いつでも逃げきれる。相手「さらにわれわれは、海賊そのものが異星人ではないかという疑い とは、つまり海賊た。そうだったな ? 海賊なら、船を破壊するよをも「た。当然、人類のまだ知らない技術を手にしていることたろ りまず掠奪しようとするものたよ」 う。太陽系から出ようとして消えた六隻の船のうち、五隻は、いず ーにライヴ これには興味をそそられた。「ほう ? だがどうして、そんな擬れも、これから超空間駆動にはいるという報告をよこしたあとで消 えているのだよ」 装なんかするんだ ? まるで、襲われることを期待してるみたいだ な」 思わずロ笛が出た。「じゃ、やつらは、ハ ハ 1 ドライヴ中の船 「もし本当に海賊がいるなら、たしかにそのとおりだ。襲われるのをひっかけたというのか ? そんなことは不可能だ。そうしゃない カ ? カルロス ? 」 が目的なのだよ。だがそれは、太陽系へはいるときの話ではない。 一種のすりかえ計画だな。つまり、ごくありぎたりの貨物船が地球カルロスは、くちびるをへの字にまげた。「それが実際におこっ へ到着し、何か金目のものを積みこんで、ウンダ 1 ランドへの直線たとしたら、不可能とはいえまい。しかし、その原理まではわから コースで出航する。途中、小惑星帯へさしかかる手前のところで、 ないんだ。もっとも、船が単に消えたというだけなら、これはまた わしの船がそれをすりかわるという寸法だ。これであんたにも、貴別問題だ。どんな船だって、 ( イバ ードライヴの重力井戸に深入り 重なウーさんの遺伝子に危険のないことがおわかりいただけたろうしすぎると、そういう目に遭う」 「それじゃ : : : 海賊なんかじや全然ないかもしれんぞ。カルロス、 手のひらをびったりテー・フルにつけ、両腕をまっすぐのばして、超空間に生きものがいて、そいつが船を食うといったようなこと カルロスは立ちあがると、のしかかるように身をのりだした。「申もありうるんしゃないのか ? 」 しあげにくいことですがね。これは、わたくしの、くそいまいまし「たしかに、ありうるだろうな。ペイ、世評に背いてわるいが、 い遺伝子自身の間題でありまして、わたくしの好きにさせていただ くもすべてに明るいわけじゃない」しかし一分後に、彼はもう首を ロ 4
きて、つぎの便を待てばよろしい。速度のおちた船にのっていくよ士は、あんたとカルロスが、何の疑いももたず、船をからつ。ほにし て網にはいってくると思っている。だから、その裏をかけばよい りは、ずっとましでしよう」 例えば彼は、この船が、ゼネラル・。フロダクツの船殻を備えている 「有難い これからコースを算出して、到着時刻を知らせます . とは、予想もしていないはすだ。だからわしが船に残って戦うこと 「カルロス・ウー氏にお目にかかれるのだから、願ってもないこと もできる」 ですよ」フォワードは、彼の位置座標を知らせ、通話を切った。 カルロスが向きなおった。「これでよし。さあ、・ヘイ。こんどは そのとおりだ。ゼネラル・。フロダクッ製の船殻を破るものは反物 あんたが、この擬装軍艦の持ちぬしってことになったそ。どうして質のみである : : : もっとも、光や重力や衝撃波は通りぬけていく こいつを手にいれたか、考えとくんだな」 が。「それじゃ、あんたひとり、絶対安全な船に残るつもりかい」 「もっと困ったことがある。フォワード研究所の位置は、びったと私。「そしてあとのふたりが、無防備なままで敵の基地にのりこ むのか ? お利ロな案だね。おれはむしろ、三十六計をきめこみた り、船食いがいるはずの場所と一致するんた」 いよ。しかしそうするのは、あんたの経歴に対してお気の毒だから 彼はうなずいたが、まだ何か面白がっているような顔つきだっ こ。 な」 「さて、これからどうする ? この船じゃ、ハイバ ードライヴの船「そのことを否定はしない。しかし、あんたたちのために、いろい からは逃げられない。 もうだめだな。フォワードは、われわれを殺ろと防備くらいはしてあげられると思うよ」 そうとするだろうか ? 」 アウスファラーの居室の背面にあたる、ただの一枚壁だとばかり 「もし、・ほくらが、時間どおりにフォワード研究所へ着かなかった ら、彼は追手を出すだろう。・ほくらは多くを知りすぎてる。まさに思っていた場所に、大型物置きくらいの部屋がかくされていた。ア ードライヴ ウスファラーは自慢たらたらの風情だった。そこにあるものをすっ そういってやったわけだから」とカルロス。「ハイ。ハ モーターが完全に消失した。どうしてそんなことが起ったのか説明かり見せてはくれなかったが、私に見えたぶんだけでも、私のアウ できる人間を、・ほくは何人も知っている。それで充分だろう」そしスファラーに対する先入観をあらためさせるには充分だった。この てふいに、徴笑をうかべた。「ただし、これは、フォワードが船食男は、単なる腹のつき出たお役人というがらではなかった。 いの犯人だったとしてのことだ。その点がまたわからない。この絶ガラス張りの。 ( ネルの奥に、彼は二十指にあまるほどの特殊用途 好のチャンスを利用して、なんとかさぐりだす手段を講じなけれをもった武器をかくしていた。一列に並んだ四つの台座に、まった く同型の三挺の携帯武器がおさめられていたが、それはアウスファ 「どうやるんだ ? このままのこのこ出かけていくのかい ? 」 ラーが原爆だと称する太めの弾体を射ちだす使い捨てのロケット発 アウスファラーが、楽しげにうなすいてみせた。 「フォワード博射機だった。四つめの台座は空つ。ほだった。レーザー銃や。ヒストル
ードライヴ・モ】ターが働きつづけていたら、船は無限 「パペッティア人を加えたのは、彼らが、星間株式市場の操作に興も、ハイバ 味をもっているからたよ。考えてみろ。海賊がいるとすれば、そい のかなたに消えてしまうだろう。しかし、八回が八回ともそうなる つは結局、太陽系を外界から切り離して、経済封鎖してしまったんことを、海賊があてにできるものだろうか ? ハイバーウェーヴ だ。それが市場に及・ほす影響で、いちばん利益をあげるのはパペッ おまけに、消えた船のうち一隻も、超空間通信で救難信号を送っ ティア人だ。それに、やつらは金が要る。移住のためにね」 たものはない。 「。ハペッティア人は、理性的に芯から臆病なんた・せ , 海賊説を信じる気にはなれなかった。宇宙海賊なるものも、かっ 「そのとおりだ。船を襲うことはおろか、近づいてくることさえなては存在したが、彼らが死んだあと、あとをつぐものは出なかっ い。だが、ずっと遠くから、消失させることができるとしたらどう た。航行中の宇宙船を捕捉するのはむずかしい。到底ひきあう仕事 ではない。 カルロスも、今度は笑わなかった。「そのほうが、ハイバースペ ースから引きずりだして掠奪するよりずっと楽だな。うんとでつか 船の超空間航行は、全自動式だ。操縦士の仕事は、質量探知機の い重力発生機があれば、それですむ : : : それに 、パペッティア人の中で放射状にのびる緑色の輝線を見まもることだけである。しか 科学技術の限界については、何もわかってないんだから」 というのは、質 し、その監視は頻繁におこなわなければならない。 アウスファラーがたずねた。「そういうことが可能たと思うか量探知機が一種の心理投影装置たからである。人間の心以外の機械 には、監視の役がっとまらないのだ。 「かすかな可能性程度たがね。クジン人についても同しことがいえ太陽を示す細い緑色の線がのびてくるにつれて、私は、太陽系を る。やつらの兇暴さは、、 しうまでもないが、ここで問題なのは、もとりまくいろいろな物質のあつまりが、異常なほど目につくように し彼らが船を襲ったことが知れたら、こっちにも、おそろしい報復なった。航行の最後の十二時間を、私は操縦室で、足でつづけざま の用意があるということだ。クジン人もそれは知ってるし、また、 に煙草を吸いながら過ごした朝つけ加えておくが、私は両手をあけ 人間を敵にまわして勝てないことも承知している。長いあいだかかておきたいとき、いつもこれをやる・ただし今のは、アウスファラ って学んだはずだ」 ーに対するいやがらせのためたった。私がシガレットを足の指では 「すると、犯人は人間だと思うのか ? 」とカルロス。 さんで吸うのをはじめて見たときの、彼の仰天した目つきに、私は フラットラ 「ああ。もし海賊ならだがね」 味をしめていた・平地人のからだは、柔軟というにはほど遠い。 海賊説も、どうもあやふやだ 9 スペクトル望遠鏡で調査しても、 太陽系の彗星穀を通りぬけるとき、カルロスとアウスファラー 船の消えたあたりの空間に、船らしい物質の集積は見あたらなかつは、私といっしょに操縦室につめていた・長い旅が終りかけている 3 たのである。船ごと盗んだのだろうか ? もし船が襲撃されたあとので、ほっとした表情たった・私ひとりが神経をいらたたせてい
側にあるスクリーン上に、彼は何かをとらえようとしている。追跡二つはすっかり狂っていた。あとの五つは、びくりとも動かない。 してくるものがあるのだろうか ? この船が、始末することはおろそのことをいってやってから、「それに、動力も全然送りこまれて こんな話はきいたこともないよ。カルロス、こいつもやっ か、とらえることさえむずかしい相手であることは、もう先方にもしなし ばり、理論的にありえない事態だな。 わかっているはずだ。ゼネラル・。フロダクッ製の船体が現れようと , ヘッティア人がその製造「いや : : : そうもいいきれんそ。駆動装置を見てみたいな」 は、夢にも思わなかったにちがいない。。、。 「そこへいく道路にや、人工重力はないぜ」 をストップしてから、中古のこの種の船殻の値段は、天井知らすに アウスファラーは、遠ざかっていく三隻の曳船から、目を転じ なっていたのだ。 た。そこからすっと脇へ離れたところに浮かんでいる、大きな彗星 船が何隻か見えている。アウスファラーはそれをクローズアツ。フ にした。小惑星帯人たちが使う、厚手の皿形で、大きすぎるくらいのような、凍りついたガス球を見つけたのだ。彼が、遠距離レーダ の推進機関を強力な電磁装置を積載した、曳船が三隻だった。小惑ーをそっちへ向けるのを、私はじっと見つめていた。その後方に、 星帯人は、この種の船で、ニッケルー鉄の小惑星を曳いていき、鉱海賊の船団がひそんでいる気配はなかった。 石を求めている相手に売り捌くのである。その強力な推進機関をも私はたすねた。「あの曳船も、レーダーで撮ったかい ? 」 「もちろんだ。こまかいところは、のちほどテ 1 プをしらべる。今 ってすれば、われわれの船に追いつくことは可能かもしれない。だ ハイバ 1 スペースを出てから、襲撃をう は何もわからん。それに、 ・ : 船内重力調整装置の備えはあるのだろうか ? 何の動きもなかった。彼らは、追っかけてこようとも、逃げようけたわけでもない」 それまで私は、盲めつ。ほうに船を走らせていたのたが、それで船 ともしていない。おまけに一見、何の害意もなさそうにみえる。 しかしアウスファラーは、またべつの機械を使って、観察を試み首を太陽のほうへ向けた。周囲の宇宙で、いちばん明るく光ってい 引着までの ているようだ。もっともなことである。〈ホボ・ケリイ〉号も、つる星だ。 ( イバ 1 スペースでかせぎそこねた十分間は、」 冫しまそ航行時間を三日間ふやしたことになる。 いさっきまでは、平和そのものの姿をしていたというのこ、、 の胴体は兵器で鈴なりのありさまだ。あの曳船も、同様な擬装船か「もし敵がいたとしても、あんたはそいつを驚かせて追いはらって しまった。シェイファー、わが局は、この計画とこの船とに、巨額 もしれない。 の費用を投じたが、結局のところ、無駄骨に終わったようだ」 うしろからカルロスが声をかけた。「・ヘイ、いったい何が起こっ 「まるきり無駄骨ってわけでもなさそうたぜ」と、カルロスがいい たんだ ? 」 、ードライヴ・モーターを見てみたいな。 だした。「とにかく、ハイ / 「そんなこと、知るわけないだろ ? 」 ・ヘイ、推力を一に落としてくれないか ? 」 「メータ 1 の読みはどうなってる ? 」 「ああ。だが : いや、信じられない事態のせいで、神経質になっ つまり、 ードライヴ機構のことなのだ。指示装置のうち、
た。「カルロス、この船を消すには、どのくらい大きな質量が要いる。スクリーンが点くと、星々が見えた。船は通常空間に出てい る ? 」 るのだった。 「惑星くらい。火星か、それ以上だな。それ以上こまかい星は、船「畜生 ! つかまっちま 0 たことはたしかなようだな」カルロスの の距離と、そいつの密度による。うんと高密度の物質なら、それ以声には、驚きでも怒りでもなく、むしろ畏怖の響きがあ 0 た。 下の質量でも、船をこの宇宙からほうりだしてしまえる。しかし、 私が秘密パネルをひらくと、アウスファラーがどなった。「待 その質量探知機で、見つかるはすだよ」 て ! 」だが私は、かまわす、赤いスイッチをいれた。〈ホボ・ケリ 「これは、単に例えばの話だが : : いまは消してあって見つからなイ〉号は、船体を大きくゆすって、仮面をかなぐりすてた。 いとして、何ものかが、この船が通りかかったとき、いきなりでつ アウスファラーが、何か平地人の死語らしい言葉で、悪態をつき かい重力発生機のスイッチをいれたらどうだろう ? 」 はじめた。 「何のためにそんなことを ? それじゃ、掠奪も何もできやしな今や〈ホボ・ケリイ〉号の船体の三分の二が吹 0 とび、ゆるやか 。何の得になるというんだ ? 」 に回転しながら四方へ散っていった。あとに残ったのが、まさしく 「株価さ」 この船の正味であった。ゼネラル・。フロダクッ社の二号船殼。パペ しかし、アウスファラーが首をふっていた。「そんな仕事にかか ッティア人の製作に成る、長さ三百フィート、 太さ二十フィート る費用は莫大た。どんな海賊団たろうと、それにひきあうほどの利の、細長い透明な船体の周囲にそ「て、戦闘用の機器がすらりと並 益はあげられないだろう。パペッティア人なら、ありうるかもしれんでいる。空白だった各スクリーンが生きかえった。そこで私は、 メイン・ドライヴ ないがね」 主機関のスイッチをいれ、全力推進にあげた。 畜生、たしかにそのとおりだ。それほど裕福な人間が、何を好ん アウスファラーが、激怒と憎悪をこめた声でいいだした。「シェ イファー、 で海賊になる必要があろうか。 この間抜けの、卑怯ものめが ! 相手の正体も知らない 太陽を示す長い緑の線が、ほとんど質量探知機の表面に触れようままで逃げだすつもりか。先方には、すっかりこっちの正体を知ら としていた。私は声をかけた。「十分後に離脱するそ」 れてしまったんだそ。これで相手が追っかけてくるとでも思うの とたんに船が手荒く傾いた。 か ? この船は、特殊任務のためにつくられたのだ。きさまはその 「ベルトをかけろ ! 」叫んで、ハイ。 , 、ードライヴ関係のメーターに 計画を、めちやめちゃにしてしまったのだそ ! 」 目をや 0 た。動力が送られていない。ほかのダイヤルは、す 0 かり「その特殊装置を、使えるようにしてや 0 たんだぜ。そいつで、何 いかれちまってるみたいだ。 がわかるか、見てみたらどうだい ? 」と、私は教えてやった。そう 窓のスイッチをいれた。お客の平地人が、盲点空間を見て発狂しこうするうちに、なんとか恐慌状態からだけはぬけだせたようた。 ないよう、 ハイ。ハースペ 1 スではいつも窓を閉めておくことにして アウスファラーは、 がぜん忙しくなった。操縦パネルの、私の 9
海賊船〈ファルコン〉のメイン・キャビン 宙の旅〉にかなわぬ部分もあるが、こたえられぬのはふんだんに出 てくる宇宙戦闘シーンである。レーザー砲塔と連動で、ノルデン式 風の照準儀といっしょに動く射手席の絶妙さときたら、今おもいだ しても胸がワクワクしてしまうほどだ。 定石どおり、主人公は正義の宇宙海賊に助けられるのだが、この 海賊の持ち船の名がファルコン ( 隼 ) というのも、できすぎるくらい スペ・オペ的ではないか。そしてこたえられないのはその内部であ る。内部が汚れているのだ。この汚れ具合がなんともいいんたな あ : : : 。未来たからといったところで、人間が長い旅をする以上、 そこには人間生活の垢みたいなものがこびりつくわけたが、いまま で私の知る限り、そんな汚れ具合を見せた宇宙船にお目にかかった ことはなかった。 〈二〇〇一年宇宙の旅〉の宇宙船も、まるでコン。ヒ = ーター室みた いにちりひとっ落ちている気配もなかった。 ところがこの海賊船ファルコンのメイン・キャビンは、縦横に走 る。 ( イ。ヒングや防音・防熱材とおぼしきアスベスト ( みたいなもの ) の表面がすすけたりしていて、実にいいんたなあ。本当に、なま身 の人間が乗りこなしている宇宙船だという感じがひしひしとせまっ てくるのだ : スペース・オペラの定石通り、この映画の最後の山場は、ちょっ とした小惑星ほどもありそうな悪い方の要塞惑星に、良い方の一人 乗り宇宙艇が群をなして襲いかかり、アワャーーというときに主人 公が、自動システム頼りにならずと、ヘルメットの前につき出てい る小さな火器管制表示システムをはねのけ、敢然と精神力一本槍で 捨て身の攻撃をかけてめでたし、めでたしになるわけである。 この宇宙艇も実によくできているし、これでもか、これでもかの
基地へ曳いてきて、手持ちのニュートロニウム球にいれてやったのどう振舞うだろうか ? まったく武装のない船がだ。その唯一の武 だ。ここでそいつは、小惑星をのみこむのに充分な大きさとなっ器は、目にみえないのである。 た。いまじゃ、じつに巨大なしろものだよ。質量は十の二十乗キロ それと気づかぬあいだに、そいつはゼネラル・プロダクッ製の船 グラム、大型小惑星なみだ。半径は、十のマイナス五乗センチメー殻を食いやぶるたろう。 ターより少し小さい」 果たしてアウスファラーは、無防備の船に発砲するだろうか ? もうすぐわかることだ。すでに、ドームのはずれ近く、三個の小 フォワードは、びつくりしたようにカルロスを見、ついで笑いだ だがもちろん、・フラックさな光点が、かたまっているのが見えた。 した。「それに気づいてなかったのか ? ホールは帯電させることができる。古いイオン式反動モーターの噴 フォワードは、満足げだった。い冫 つまうカルロスの声は、がらり 流を、一カ月近くあててやったおかげで、今じゃもう、莫大な電荷と軽蔑口調に変わった。「その大仕事をなしとげたあげく、あんた はそれを、船を襲って海賊をはたらき、証拠を隠減するために使っ をもっている。曳船で引っぱるには充分だ。もっといくつもあった たんだな。・ほくらにも同じことをするつもりか ? ・フラックホール らと思うよ。まあ、そのうち見つかるたろうがね」 ラビット・ホール 「ちょっと待った」私は声をかけた。ふと頭に浮かんだ重大な事実のうさぎ穴に押しこんでーーー」 に気づいたのだ。「その曳船は、武装していないのか ? そいつら「アリスのうさぎ穴は、・ へつの宇宙へ通じていたが、・フラックホー の機能は、・フラックホールを引っぱることたけなのか ? 」 ルの向こうは、どこだろうかね ? 」 「そのとおり」フォワード が、けげんな顔を向けた。 どこへ通じているのだろうと、私も自分なりに頭をひねった。 「だが、・フラックホールは目にみえない」 コンソ 1 ルの中では、エンジェルがフォワードの席についてい 「そうだ。それを、宇宙船の航路まで曳いていっておいておく。船た。フォワ 1 ドとちがって、彼はきちんとシートベルトをかけ、目 の前の機器類と、こっちのやりとりに、等分に注意を向けている様 がある程度以上近づくと、たちまち通常空間へ投げだされてくる。 ・フラックホールをあやつって、その船の駆動装置を貫通させ、航行子だ。 不能にした上で、ひまなときに乗りこみ、金目のものをさらってく「だが、そいつをどうやって動かしたのか、・ほくにはまだ : : : 」い る。それから、・フラックホールをゆっくりぶつけてやれば、船はあ いかけて、カルロスは突然、「あツー あの曳船か ! 」 っさり消えてしまうという寸法さ」 エンジェルは、とっくにそれを見つけていたようだ。通話機のス 「最後にもうひとっ聞きたい」とカルロス。「なぜそんなことをすィッチをいれると、頭の映像が、一つ、二つ、三つと浮かび出た。 るんだ ? 」 ふと、フォワードのほうをふりかえった私は、その表情に、憎悪 の色をみとめて仰天した。彼は、カルロスに向かっていった。 私には、もっと重大な疑問があった。 「幸運の星にめぐまれた男、生まれながらの貴族、きわめつきの超 アウスファラーは、ありきたりの曳船が三隻近づいてきたとき、
総司令は頷いた。「そういうことたろうな。われわれが人生の大その沈黙を破ったのは、である。 部分を宇宙船内で送ると同様に、かれらにはかれらなりの生きかた「司政官に申し上げます」 TJ << よ、つこ。 があるということだ。感傷的になるのは無意味なんだろうね」 。しナ「司政官機にお乗りいただくための用意が出 「とにかく、また三角コースの長い旅がはじまるわけです」 来たとのことです」 総事務長が低くいった。 それは、言葉のあやというものであった。マセと船団幹部連との それが、船団幹部たちの気持ちを代弁した言葉であることは、マ ここでの話し合いは事実上済んでしまっている。どうせ、この会合 セにも理解出来た。今度の植民者退避のための航行は、二千ルー そのものが、出発前にもう一度顔を合わせるという、形式的なもの ヌ、地球時間で六・四年近くにわたって、五百隻の輸送船がそれそだったのだ。予定外の事柄が持ちあがらなければ、マセの状況判 れ二十回、なりゆきによってはそれ以上の回数を、ラクザーンから断でいつでも退去出来る段階に来ていたのだ。それを見はからって 人間や荷物を積んで発進して行くのである。その間、乗員の大部分は、これから司政官が次に行かなければならない出発時刻 は途中で契約を終してあたらしいメイハ ーと交代するわけだが、 が、すでに来ているか、または過ぎつつあることを伝えたのだ。司 そうでない連中、ことに船団幹部たちは、連邦経営機構の別命があ政官機はつねに司政官ひとりのために用意され、司政官が求めさえ って他の職務に就いたりあるいは解任されたりしない限り、最後迄すればいつでも動き出せるのだが : : : 同室の船団幹部たちに差し障 この仕事を続けるのだ。従って、ラクザーンからノジランに赴き植りがないよう、そういう表現をとったのたった。 民者らを降ろした輸送船は、そのままラクザーンにとって返すわけ立ち去るしおどきである。 それに、船団幹部たちはかれらたけの時間を少しは持ちたいはず ではないのだった。かりにまっすぐラクザーンに来るとしても、ラ : そなのだ。 クザーンにはそれだけの輸送船を収容する能力はないのたが・ 「それでは、私はこれで失礼いたします」 のこととはかかわりなく、船はそれから船団のための基地のひとっ マセは総司令にいっこ。 「これからも及ぶ限り皆さんの任務が遂 に廻り、そこで乗員は休瑕を得るのである。基地には員の家族や 知り合いが来ていて、その期間を乗員と共に過すのたった。、むろ行しやすいように努めますから : : : よろしくお願いします」 ん、船によってはさらに時間的余裕があれば、ほかの業務に従事す「いや、こちらこそ」 るケ 1 スもあるたろうが : : : 今回のラクザーン幀民者退避行のみな 総司令は二、三度頷いてみせた。 らず、他の長期に及ぶあらゆる運航において、宇宙船飛りたちが自「お互い、長い仕事ですからね、無理をしないようにしましよう」 分らのこうした繰返しを三角コースと呼んでいるのを、マセは知っ 総事務長も声を投げて来た。 ていたのである。 「ーーーでは」 一同は何秒か沈黙した。 みんなに目で会釈を送って、彼は特別室を出た。 2 2
カルロスは、終始にやにやして、しきりにうなずいていた。ひと 見たところ気色の悪いやつだったけど、ウンダーランド人についち 「この件から逃げだすにや、それしかないだろう こと口をそえた。 や、おれは何も知らなかったのでね。おまけに、金も要り用たった し」船のつくりをみてびつくりした話をした。外廓部分の船室の内な」 つぎの通路を通りぬけると、出たところは、大きくふくれあがっ 側に張られた堅固な船殻、窓の内側にホログラフのとりつけられた た透明ドームの天井をもった、巨大な半球形の一室だった。人間の 見せかけの客室など。そのときもう、これは、足を洗おうとしたが 胴体ほども太さのある柱が一本、岩盤からド】ムの中央の気密孔へ さいご消されちまうのではないかという気がしていた、と。 冫いくつもジョイン だが、悩みが本当にな「たのは、船の目的地を知ったときだ「向か「てのびている。ド 1 ムの上方で、それま、 トのある金属アームとなり、夜と星の中できらめきながら、宇宙へ ストリームーーーれいの、ウンダーランド系内に た。「サー。ヘント・ 向かってやみくもに手をのばしているようにみえた。先端には、鉄 ある小惑星のひしめいてる場所。ウンダーランド解放党の連中が、 あそこにうようよしてることは、常識でね。行先を知らされるとす製の大の食器を大きくしたようなお碗がついている。 フォワ 1 ドは、その柱の傍らにある、馬蹄形の制御コンソ 1 ルに ぐ、おれは船もろとも一目散、シリウスへ向かったってわけー はいっていた。が、私はそれもほとんど目にはいらなかった。さき 1 ドライヴがついたままの船を、あんたにまかせたってい ほど、宇宙からこのアームと・ ( ケッ状のものを見ていたが、それが うのは、ふしぎですね」 「そんなことをする連中なものか。継電系統をそっくりひっぺがしこれほどの大ぎさだとは思ってもいなかったのである。 てあ 0 たんで、おれが自分で修理しなきゃならなか 0 た。さいわ息をのんで見あげている私に、フォワ 1 ドが声をかけてきた。 、見てるうちに、スイッチの先が、操縦席の下にしかけた小さな「捕握装置だよ」 軽くはずむような、少々こつけいだが能率的な足どりで、彼は近 爆弾につながっているのを見つけてね」そこでひと息いれると、 「でもたぶん、なおしかたがまずかったんだと思う。あの船で何がづいてきた。「よくおいでになった。カルロス・ウ 1 、ペ 1 オウル パ 1 ドライヴ・モ 1 ターが、 フ・シ = イファ 1 」彼の握手が、こっちの手をにぎりつぶさなかっ 起こったかは、きいたろうね ? あっさり消えちま「たんで。おそらくそいつにも、何か爆破装置のたのは、気をつけて加減してくれたからだろう。人なっこい徴笑を ノ 1 が、ここしや最高 スイッチがつながってたんだろうよ。船の胴体も吹っとんじまつ大きな顔いつばいに浮かべて、「このグラツ。、 た。ただの見せかけだ「たらしくて、あとに残ったのが、あの小型の見ものたろう。こいつを見たあとじゃ、何も見るものなんかな い」 爆撃機みたいなやつでね」 私はたすねた。「これが、どういう役に立つんです ? 」 「本当に、そんな恰好にみえますよ」 カルロスが笑った。「みごとじゃないか何かの役に立っ必要 5 「系内へもどったら、あいつを金ビカのおまわりに引き渡さなきや なんてあるのか ? 」 ならない。惜しいね」
足もとの黒い空などには堪えられないのである。 んてことは、彼の仕事の範囲じゃないよ . よっこ。 親友に助力を求めることが、私たちにとって、唯一の解決策たっ 「たぶん休暇中だったんだろうよ」私は片意地こ、 「いや、たしかにあんたが、彼と同船したくないらしいことはわか ったよ。それじゃ、まあーー」 カルロス・ウーは、病気や負傷に対する驚くべき抵抗性体質とい だがそのとき、私はすでに別のことを思いついて、それにこだわ う、きわめつきの天分を持っている。彼は、全地球百八十億住民の っていた。「待て。やっと会おう。どこにいけば見つかる ? 」 中で、六十何人しかいない、無制限出産権の持ちぬしの一人なの のバーさ」カルロスが答えた。 だ。毎週のように、同様な申し出をうけながら : : : しかし親友の彼「キャメロット は、私たちの求めに応じてくれた。過去二年のあいだに、シャロル とカルロスは、二人の子供をつくり、それが今、地球で、私が父親自走カウチにゆったりと背をもたせたまま、エア・クッションに の座につくのを待っているのだった。 のって、私たちはシリウス・メイタの街上をすべっていった。歩道 彼のしてくれたことには、感謝のほかなかった。「スマートさに に沿って植えられたオレンジ並木は、重力のせいで寸づまりになっ 対するきみの偏見は、大目に見ておくとしよう」と私は、鷹揚に答ている。その幹は太い円錐形で、枝に成ったオレンジは、。ヒンポン 玉に毛が生えたほどしかない。 えた。「さあて、こうしてジンクス星に釘づけになってるあいだ、 少し案内でもしようかね ? いろいろ面白い人たちにも会ったし」 この世界が、それを変えてしまったのだ。ちょうど私の世界が、 「あんたはいつもそんな調子だな」彼はちょっとためらってから、私を変えたように。地下文明と〇・六の重力が、私を、白子の、 「・ほくは実のところ、釘づけってわけでもないんだ。帰りの船に、 ステッキのようにひょろ長い男にしてしまった。いま街路にいるジ 席があるんだよ。あんたも一緒できるかもしれない」 ンクス人たちは、男も女も、煉瓦のように低く太い。その中に外来 「ほんとか ? でも、きよう日、太陽系へ向かう船があるとは、思者がまじると、まるでクダトリノ人か、ビアスンのパペッティア人 いもよらなかったな。出てくる船は、もちろんたが、 と同じように、ひどく異質なものにみえる。 「この船の持ちぬしは、政府高官でね。ジグムント・アウスファラ そうこうするうち、キャメロット・ホテルについた。 って名前をきいたことがないかい ? 」 このホテルは低い二階建ての建物で、シリウス・メイタの下町数 「そういえば : : : おっと ! 待った ! やつに会ったことがある。 エーカーにわたり、立体派の描いた蛸みたいに脚をひろげている。 やつがおれの船に、爆弾をしかけた、そのすぐあとにた」 をかからやってきたもののほとんどがここに泊るのは、重力制御が カルロスは目をパチパチさせた。「冗談だろ ? 」 各室、各廊下に完備され、それが、人類版図内で最高の博物館や研 「いや、本当さ」 究コンビナートを擁する知識研究所までつながっているからであ 「ジグムント・アウスファラーは、異星局勤務た。宇宙船の爆破なる。 こ。 ー 3 2