え、年頃の娘の・ ( ストを触るなんてどういうつもりです、とい 0 た俺は、 O カップヌードルのミソ味を口に運んだ。もう、いい う、怒った。この作者、いっかぶつ殺す " んだろ ? 」 ヌードルはうまかった。 俺がいった。 ちゅる、ちゅる、つる、ちゅるはひえんねん。 「そう、そのとおりよ。そしたらパパが、でも、これは仕事なの 「ひゅむ、こりえは、うみやいや」 だ、といったの」 そういって、今度はショウ油味を食った。 「一番するい逃げ口上だ」 つる、つる。っーる。るーっ。 「すると、ママがね。うーん、じゃしかたないけど、蘭花ばかりと 「ふはあ、ひょうゆあじも、うみやい」 いうのは不公平です。あたしのもお触りなさいって」 ちゅる、ちゅる、みちゅる。ぶりゅうばらああど。 「そ、それでに」 「にえ、ほいひいでひょ」 よろこんで触ってたわ。やつばり、十回くらいかな」 ルをいつばいほうばっていった。なん 蘭花ちゃんが、ロにヌード 「わん、わん」 いったのかよくわからなかった。 パしみじみいってたわ。わたしだって、自分と、 「でも、それから、 すずーっ、ずる。ちゅる。ちゅるのひとこえ。 の妻や娘にこんなことはしたくない。しかし、生活のためにはしか 「えっ ? いみや、にゃんていひゅひやの ? 」 たない。最初はこの役目は、隣りの雪之丞くんにたのもうかと思っ 俺もヌードルをほうばってたすねた。 冫。しカんっ た。だが、彼に蘭花やママのポインを触らせるわけこよ ちゅる、ちゅる、みちゅる。こりよな、まらく、ちゅる。 て。そしたら、ママが、あたりまえです。あの人に触られるくらい 「だやきやらね。このひいはつぶぬうるる、おひひいでヘよ、って なら、あたしは死にますって」 いつひやのよ」 「ひ、ひどい」 ずず、つる。ちゅる。ちゅるがみね。 「で、ねえ蘭花、おまえこの問題について、どう思うっていうか 「にやに ? ひいはっふぬるるるが、にゃんらって ? 」 ら、あたし : : : 」 ちゅる、ちゅる、みちゅる。しえろりつく。 「うん、うん、あたし : : : 」 「りやからね。ひゅうぶのありがいいれひょっていうによよ」 「死んだりなんかしないわ」 つる。ずずつず。ちゅる。ちゅるのおんがえひ。 「えらい それでこそぼくの蘭花ちゃんだ。で、どうするの ? 」 「ふはああ ? ひやんらか、ひやつばり、わひやらにゃあ」 「触られる前に、雪之丞さん殺しちゃう」 「もう、りれったいひひょらわ。はのねえ、おひひいれひょって、 8 頭の中で電線マンがショートした。 いつひやのよ」 「いただきまーす」
「ふああ ? 」 じり寄ろうとした。ついに、俺も彼女をだきしめることができる時 「もう、ろうれも、 しいによ」 がきた。こんなドサクサまぎれでは、少々納得できない点もある 8 「ひょれめれ、ふにやはり、ヘろへろひょ。りやら、りやれ、こひが、この際ぜいたくは敵だ。欲しがりません、勝つまでは。天はわ やらは、ほーやれほ」 れを見はなしてはいなかったのだ。 蘭花ちゃんの手が、俺の手に伸びた。あと、五センチ、四セン 「みよはらは、めれれよ、れろ、はれは」 チ、三センチ、二センチ、一センチ。あと〇・五センチ、あと : 俺はもう、どうせ話が通じないのだからと、ロからでまかせをい と思った時、ふたたび、空気がビリビリとふるえ、そのあまりの気 った。すると、俺より早く o カツ。フヌードルを食べ終えた蘭花ちや分の悪さに俺は失神した。 んがぼつりとつぶやいた。 やつばり、天はわれを見はなしていた。八甲田山のばか " 「雪之丞さん、一生独身ね」 「ぶはっ " こ 「雪之丞さん起きて、大変よ。ねえ、雪之丞さんリ」 俺は思わず、むせて、ヌードルを鼻の奥に吸いこんだ。そして、 どのくらいの時間、失神していたのか。俺は蘭花ちゃんの声に気 当然のごとく、クシャミを一発ぶつばなした。 をとりもどした。畳の上にあお向けにひっくり返っているようだ。 「は、は、はつくしょーん " こ そっと眼を開けると、眼前に蘭花ちゃんの顔があり、その下に巨大 右の鼻の穴からヌードル、左の穴からナルトがとびだしてきて、 な白いあんばんがふたつならんでいた。 空中を蝶のように舞い飛んた。ナルト飛蝶だ。あははは。それと同「 いただきまーす」 時に、周囲の空気が奇妙にぶるぶると震動した。地震か ! 俺はあ俺は失神からさめて、まだ意識がもうろうとしているのをいいこ わてて、そばの柱の傷を見た。それはおととしの五月五日の背くらとに、そのあんばんにかぶりつこうとした。 べ、いや、柱の時計を見た。針は十一時五十八分を指していた。む「いや、なにするの むつ。ついに、第二次関東大地震が起こったのか。しかし、その地 ・ ( ッシーンリあんばんの所有者が俺の横っ面をひつばたいた。 震説に自信はなかった。 今度は完全に、意識をとりもどすことができた。 最低のシャレだな、と思いながら蘭花ちゃんのほうを見ると、彼「あたーっ、きくねえ、蘭花ちゃんのはり手は。二子山部屋に出げ 女はものすごく気分悪そうにして、坐ったまま身体をグラリとさせ いこにいったの ? 」 ていた。 俺はそういいながら、起きあがった。もう、あたりの空気は、さ 「さあ、・ほくにしつかりとっかまって " こ つきのような妙な震動をしていない。部屋の中はキチンとしてい 俺が手をさしのべると、彼女は「うん」と答えて、俺のほうへに た。地震でもなかったようだ。すると、俺はいったい、なんで失神
てたようだ。いいよ、カルロス」 私にわかるのは、カルロスが、私の思いも及ばぬことを思いっ 「いっしょにこいよ」 き、しかもそれをたすねるのは私の自尊心が許さないということた けだった。 ードライ 大男の肩幅よりいくらかましなくらいの太さで、 ( イ。 ( アウスファラーには、自尊心のかけらもなかった。幽霊でも見た ヴ・モーター室とその周囲の燃料タンク群のあいだに通じている道ような顔つきでもどってくると、「なくなってしまったー 路チュープの中を、われわれは這い進んでいった。カルロスはもう いどこへいったのた ? どうしてこんなことがありうるのだ ? 」 点検窓のところに達した。のそきこみ、そして彼は、はじけるよう「その質問になら答えられるよ」カル 0 スは上機嫌で、「極度の高 に笑いだした。 重力傾斜が必要だがね。モーターが、そいつにぶちあたって、周囲 何がそんなにおかしいのか、と私はたずねた。 の空間をまきこみ、われわれには手のとどかないより高次のハイバ 高笑いを残しながら、彼は先へ進んだ。そのあとにつづいて私も ースペースへ、とびだしていってしまったんだ。もう今ごろは、宇 這い進み、そしてのそいてみた。 宙の果てまでいっちまったことだろう」 ードライヴ・モーター函の中に、 ードライヴ・モー 私は思わず口を出した。「本気なのか、え ? ほんの一時間かそ ターは、影もかたちもなかった。 こら前には、こんなことを説明できる理論なんて、何もなかったと 修理用ハッチをくぐり、円筒形をしたモーター ・ケースの中に立 いうのに」 って、周囲を見まわした。何もない。出ていった孔ひとっさえ残っ 「だが、モーターが消えたことはたしかた。そのさきのことは、ま ていない。超電導ケープルと、モーター台座が、途中でスパリと断あ少々眉つばたがね。しかしこれは、船が特異空間にぶつか「たと ち切られ、切り口はまるで小さな鏡のようだ。 きに起こる事態の、充分信頼できるモデルの一つなんだ。もっと低 アウスファラーも、自分で見たいと いいだした。カルロスと私は い重力傾斜だと、モーターは船全体をまきこみ、その全粒子を吸い 操縦室で待「た。なおしばらくのあいだ、カル 0 スは、こみあげてこんで、あとには超空間駆動場だけしか残らないことになる」 くる笑いの発作を押さえきれなかった。それが始まると、うっとり「うへえ」 と夢みるような表情になったが、そのほうがよほど私には気になっ カルロスも、ようやくその仮説の呪縛から解放されたようだっ ウェーヴ こ 0 た。「ジグムント、超空間通信機を使わしてくれ。ぼくの考えはま 彼の頭の中で何が起こっているのだろうかと思い迷ったすえ、私ちが「てるかもしれんが、チ = ックしてたしかめられることもある は、所詮知るすべはないのだという不快な結論冫、 んだ」 こ達した。数年前 一度—O テストを受けてみたことがある。この分野で出産権を手に 「われわれが、その質量のまわりの特異空間内にはいっていたら、 いれられないかと思ったからたが、私は天才ではなかった。 超空間通信機は自壊してしまうそ」 ウェーヴ
「探検世界」表紙 各星界を歴訪致し度考に候、何しろ斯くの如きは、 前古未曾有の事に属し、以後何十年の後この地に帰 着致され候や、もしまた実際目的を達し得られ候 や、その点は小生らに於ても不可解の問題に有之 候、略儀ながらおいとま乞まで、おって発程は明日 午後一時武蔵原より致すべく候敬具 さあいよいよ出発の日になると面白い、予ら二人は ) 既に地球の代表的人物とな 0 た 0 もりで、その服装の 如きも和洋折衷として、洋服の上に袴をはいて、特に 日本刀を帯んだ態はすこぶる奇観である・ このあたりは、なかなか先を期待させるのだが、これ から後は、どうすることもアイキャンノット。 て ( このごろの、・ほくの本箱や本棚は、かきまわすとい と、気球は空中に浮びあがりはしたが、海上にでたとた う表現しかできないほど、メチャメチャになっているのん、天はかれらを見はなし ( また、でてきた ) 、あっと です ) みたものの、海の怪獣のでてくる作品なんてほと いうまに海中に沈没した。 んどない。 一転、宇宙旅行は海底旅行へと変更になったが、どう ごそんじ「冒険世界」の明治四十一年二月号、すなわ いうわけかあわてない。宇宙旅行なんか、どうせ失敗す ち創刊第二号に、童話作家で児童文学者である木村小舟るとは思っていたが、たいくっしのぎにやったのだ、と っ の『波底旅行海の秘密』なる短篇があるくらいのものかなんとかうそぶいてすまして、海底旅行をする。 だ。しかし、これも、海の怪獣というほどの怪獣がでてたい、気球はどんな構造になっているのか知らないが、 くるわけではなく、大ダコが一匹でてくるたけ。小説の水のもれない船室があるらしく、なんの支障もなく海底 形にはなっているが、内容のほうも、およそ小説と呼ぶを進む。すると、そこに現われたのが一匹の大ダコ。た にはおそまっすぎる。 ちまち、船室にかじりついた。そして、チャン・ハラ。と ふたりの書生が、破天荒な痛快事をしてみようと、軽ころが、このテンタクルスの弱いのなんの。 気球を製作。ある日の新聞に左のような広告をたした。 最早や一秒も猶予ならぬ、予は腰なる短刀抜く手も 小生ら二人、今回ふと考え候て自製軽気球に搭乗見せす、電光一閃、ざくりッと彼が一本の太股を斬り 致し、天界に飛行を試み、かの月球を初めとして、 捨てた、年を経ているせいでもあろうが、硬いこと硬 幻 0
か、土地を整備することにもなるから、不動産屋に売って金をもうさん、とり乱してなにするかわからないので、とても心配したのこ けることもできる。たぶん、この土地はまだ、だれのものでもない とよ」 はずだ。蘭花ちゃん、ぼくたち土地成金たよ」 陳さんは、俺のことなど見向きもせず、ただひたすら娘の心配だ 俺は眼前に広がる広大なジャングルが、全部自分のものかと思うけしていた。しかも、俺が蘭花ちゃんに危害を加えなかったかどう と、うれしくなり、窓から奇声を発した。 かばかり心配しているのだ。あんまりだ。俺はいままで、陳さんに 「ぶぎぎゅうう " こ そんな目で見られていたのか。知ってはいたけど、あんまりだ。 死闘を演じていた二頭の恐竜が、あきれはてた顔で俺のほうを見「たいじようぶよ、 。雪之丞さん、あたしより先に失神してし た。でも、どんな顔をしたっていし 。お金があれば勝ちなのだ。いまったんですもの。それより 、。、パはだいじようぶなの。それと、 まに見てろ ! おまえらだって、見せものにしてやる。 今朝出かけたママはどうなったかしら ? そもそも、なにが起こっ その時だった。俺の部屋のふすまが、ノックもなくいきなりガラ たの ? 」 リと開いて、ふたりの人間がとびこんできた。今日もまた、例によ蘭花ちゃんがいう。 って作者の手抜きで兄一家は外出していて、この家にいるのは留守「うむ、ママのことはよくわからないのことね。でも、ここにい 番役の俺だけだ。はて、と首をかしげるより早く、ひとりの正体がる、博士の話ではぶじたろうとのことよ」 わかった。陳さんたった。オー、陳、陳。 陳さんは丸い目をくりくりさせていし 、すぐ後に立っている白髪 「ほい、蘭花、ぶじのことあるか。心配したのことあるよ。よかっ白髯白衣の老人のほうに視線をやった。 た、よかった。どこもケガなかったか ? どさくさにまぎれて、荒「パ そのかた、どなたなの ? 」 熊さん、いやらしいことしなかったか。おまえ、冷静な娘たから、 蘭花ちゃんがたすねる。そうた、俺もそれをききたかったのだ。 どんな事件に巻きこまれてもだいじようぶと思っていたけど、荒 戸でも、俺にはひとつの推論があった。そして、この推論は荒熊雪之 円 0
もしもキャンプで死んだら、 リハ・ヒリテーション・キャン。フや連邦 医療協会病院で瀕発する病死に関して意地の悪い風評が立っている 折から、外聞が悪かろう。それに、彼がゴールドバックの仮説を立 証したのを誰かが北京で出版物にしたので、海外の科学者の間でサ ィモンの名が知られているということもある。それやこれやで、彼 らは早期に彼を釈放したのたった。ポケットには八ドル。 逮捕当 時、彼がポケットに入れていたのはそれだけだったから、当然とい えば当然のことたった。彼はアイダホのクール・ダレンヌから徒歩 とヒッチハイクを重ね、途中、ヒッチ ( イクの現行犯でワラワラの ブタ箱に二日間いて、それから帰ってきた。こういったことを話し ながらも、彼は何度も眠りそうになった。そして話し終えると、ほ んとうに寝入ってしまった。着換えや風呂も必要たったが、わたし は彼を起したくなかった。おまけにわたしも疲れていた。わたした ちは並んで横たわった。彼の頭はわたしの腕の上にあった。この時 しあわせ ほど幸福だったことはないと、いまわたしは思う。いや、あれは幸 福というものたったのだろうか ? あれは幸福よりもさらに広義の、 暗くて静穏なもの、むしろ認識に似たもの、夜に近いものーー歓喜 であった。 もうずいぶん長い間、久しい間、暗かった。われわれは全員 目が見えなかった。それにこの寒さ。果てしなく拡がり、どっ しりと居坐る寒気。われわれは動かなかった。しゃべることも しなかった。われわれのロは寒気の重みにふさがれていた。目 も圧しふさがれていた。四肢は押さえつけられて動かず、心も 押さえつけられたまま。もうどのくらいになるだろう ? 時間 は測りようもなかった。死はどれだけ続くもの ? 人は生きた あとでついに死ぬもの ? それとも生の前にも死はあるのだろ たしかにわれわれは、自分たちがそれまで死んでいた もしも何か考えたとすればの話。だが、死ん ものと考えた でいたのではなくて、もしも生きていたのだとすると、その事 実を忘れてしまっていたのだ。 変化が生じた。まず変化したのはわれわれの上にかぶさって もっとも、われわれはそのこと いた重圧だったにちがいない。 に気づかなかったのだが。眼瞼は非常に敏感た。きっと圧しふ さがれていることに嫌気がさしていたのだろう。のしかかるカ がわすかに緩んたとみるや、自然に開いた。けれどもわれわれ にはそのことを感知するすべはなかった。あまりの寒さになに も感じなかったのた。目に見えるものはなにもない。あるのは だが、その時ーーその時といえるのも、つまりは結果が時間 を創造するからだ。結果は以前と以後を、近くと遠くを、いま とその時を創造するーーその時、明かりが生じた。一つの明か り。小さな、正体不明の明かりがゆっくりと通過した。そこま でどれたけ離れていたかはわからない。緑つぼい白の、やや・ほ やけた光体が通って行ったのだ。 われわれの眼は、その時、たしかに開いていた。というのも モーメント われわれはそれを見たからだ。われわれは時を見たのだ。 時は一個の光体だ。闇の中であろうと、明かりが煌々と照ら モーメント す世界であろうと、時は小さく、そして移動するが、動きは 速くない。そのうちにそれは消えてしまう。 モーメント ところで、それ以外に別の時があろうとは思いがけないこ 5 とだった。時が一個以上存在するかもしれないなどと想像す
モニター・テレビを見ると、司会者の顔は消えており、紹介用の いフィリップ・カードが写っていた。三台目のカメラが、司会者の横 2 っ△ 位置に据えられたフィリップ台を狙っているのである。 「さあ、ではその御説明をどうそ」 瞬間、中年男の前のカメラに赤ラン。フがっき、はじかれたように 彼は喋りだした。 「う、、嘘です。嘘なんです。私はそんなことは言わなかった。わ、 私はたた単に、宣伝カーを連ねて家にまで押しかけてくるのは困る と。そうでしよう、いきなり家にまでやってきて騒がれたんでは、 「ーーーというわけで、身近かな問題から政治経済社会に至ることが誰だって困るでしよう。そのことを、たた単に言っただけで : : : 」 らまで、皆様と御一緒に考えていくこの番組。さ、それではさっそ犠牲者第一号は、彼の声以外は何の物音もしないスタジオ内で、 、今夜第一番目の方からお願いしましよう。 照明をうけたステージ上から、レンズにむかって身を乗りだすよう え、初めのお方はーーー」 にして哀願をつづけている。いま、この現場では、相手が機械であ むこうのコーナーで、ホリゾント・パネルを背に、司会者がにこるだけになおのこと、その姿はみじめに見えている。 やかに喋っている。その周囲にたけ、頭上からのライトが集中さ「ですから、何もその運動に反対とか、その組織員とはっきあわな れ、うす暗いスタジオの中で浮きあがって見えている。カメラが一 いとか、そんなことを言ったわけじゃないんです。本当なんです、 台彼を狙い、俺の位置からも見えるように置かれたモニタ ー・テレ信じてください : ビに、その胸から上を写し出している。 会社では課長か部長補佐といった役職につき、それなりの威厳を 俺はいま、コの字型に並べられた六つのステージ台の、カメラが示していたであろう彼は、それら一切を剥奪され、あるいは自ら 撮す順序でいえば五番目の台の上に立たされていた。 捨てさり、ただひたすら世間様に許しを乞う敗者になっているのだ っこ 0 前には小型の演壇があり、そこにマイクが固定されている。 正面を見ると、同じようなステージ台が二つあり、むかって左側「さあ、ただいまの意見について、あなたはどう思われるでしよう には例の中年男、右側には提灯持ちのうちの一人である爺さんが立か」 って、異様に明るい照明を浴びている。 三分ジャストで容赦なくその音声をカットし、画面たけは彼のひ すでにカメラが中年男の前で狙いを定め、司会者の紹介が終るのきつった顔をアップで残して、司会者の明るい声が入った。 を待っているのだ。 「いつものように、賛成の方は 8 2 5 、反対の方は 8 2 6 を。で だ。どうだ、その方が満足だろう」 じっと俺の顔を見つめていた彼は、ふんと鼻を鳴らしてつぶや 「ま、お好きなように くるりと背中を見せ、。はんと両手を叩いた。 「本番十分前、用意願います」
カルロスは、終始にやにやして、しきりにうなずいていた。ひと 見たところ気色の悪いやつだったけど、ウンダーランド人についち 「この件から逃げだすにや、それしかないだろう こと口をそえた。 や、おれは何も知らなかったのでね。おまけに、金も要り用たった し」船のつくりをみてびつくりした話をした。外廓部分の船室の内な」 つぎの通路を通りぬけると、出たところは、大きくふくれあがっ 側に張られた堅固な船殻、窓の内側にホログラフのとりつけられた た透明ドームの天井をもった、巨大な半球形の一室だった。人間の 見せかけの客室など。そのときもう、これは、足を洗おうとしたが 胴体ほども太さのある柱が一本、岩盤からド】ムの中央の気密孔へ さいご消されちまうのではないかという気がしていた、と。 冫いくつもジョイン だが、悩みが本当にな「たのは、船の目的地を知ったときだ「向か「てのびている。ド 1 ムの上方で、それま、 トのある金属アームとなり、夜と星の中できらめきながら、宇宙へ ストリームーーーれいの、ウンダーランド系内に た。「サー。ヘント・ 向かってやみくもに手をのばしているようにみえた。先端には、鉄 ある小惑星のひしめいてる場所。ウンダーランド解放党の連中が、 あそこにうようよしてることは、常識でね。行先を知らされるとす製の大の食器を大きくしたようなお碗がついている。 フォワ 1 ドは、その柱の傍らにある、馬蹄形の制御コンソ 1 ルに ぐ、おれは船もろとも一目散、シリウスへ向かったってわけー はいっていた。が、私はそれもほとんど目にはいらなかった。さき 1 ドライヴがついたままの船を、あんたにまかせたってい ほど、宇宙からこのアームと・ ( ケッ状のものを見ていたが、それが うのは、ふしぎですね」 「そんなことをする連中なものか。継電系統をそっくりひっぺがしこれほどの大ぎさだとは思ってもいなかったのである。 てあ 0 たんで、おれが自分で修理しなきゃならなか 0 た。さいわ息をのんで見あげている私に、フォワ 1 ドが声をかけてきた。 、見てるうちに、スイッチの先が、操縦席の下にしかけた小さな「捕握装置だよ」 軽くはずむような、少々こつけいだが能率的な足どりで、彼は近 爆弾につながっているのを見つけてね」そこでひと息いれると、 「でもたぶん、なおしかたがまずかったんだと思う。あの船で何がづいてきた。「よくおいでになった。カルロス・ウ 1 、ペ 1 オウル パ 1 ドライヴ・モ 1 ターが、 フ・シ = イファ 1 」彼の握手が、こっちの手をにぎりつぶさなかっ 起こったかは、きいたろうね ? あっさり消えちま「たんで。おそらくそいつにも、何か爆破装置のたのは、気をつけて加減してくれたからだろう。人なっこい徴笑を ノ 1 が、ここしや最高 スイッチがつながってたんだろうよ。船の胴体も吹っとんじまつ大きな顔いつばいに浮かべて、「このグラツ。、 た。ただの見せかけだ「たらしくて、あとに残ったのが、あの小型の見ものたろう。こいつを見たあとじゃ、何も見るものなんかな い」 爆撃機みたいなやつでね」 私はたすねた。「これが、どういう役に立つんです ? 」 「本当に、そんな恰好にみえますよ」 カルロスが笑った。「みごとじゃないか何かの役に立っ必要 5 「系内へもどったら、あいつを金ビカのおまわりに引き渡さなきや なんてあるのか ? 」 ならない。惜しいね」
していたのだ。 フリングを。ともかく、俺の眼前に広がっている光景は、小学校一 「なにが、起こったの ? 」 年生の時に買ってもらった『おおむかしのせかい』というとびだす 俺がいった。 絵本の見開きページ、〈きようりゅうのじだい〉そのままだった。 「そ、それが、あたしにもさつばりわからないの。いきなり気分が なにがどうなったのか、よくはわからなかったが、俺の家と陳さ 悪くなって気を失って、気がついたらこうなっていたんですもの」んの家だけを残して、周囲が原始時代に逆もどりしたか、あるい 蘭花ちゃんはそういって、窓の外を指さした。 は、この二軒が原始時代に移動してしまったかだった。 「と、ともかく、これは一大事だ。すぐに、草かりをはじめよう。 「わっ、わっ、わっ、な、なんだ、これは " 俺の窓の外に、視線を移して叫んだ。窓からは隣りの陳さんの家それから殺虫剤をまくんだ」 が見えた。それだけが、いつもと変わらぬ光景だった。残りの景色俺は、できるだけ気持ちを落ちつけて、まず、最初になにをしな はなんと説明していいやら、もうわけがわからなかった。遠くのほければいけないかを考えていった。蘭花ちゃんの手前もある。ここ いところを見せなければならない。 うに、岩肌をむきたしにした見たこともない山が見えた。その山はでカッコ、 頂上から、もくもくと黒い煙りを吐いていた。その周辺を鋭いくち「草かり ? 」 ばしをもった巨大な鳥が、ギャオギャオと鳴きながら数匹飛んでい 蘭花ちゃんが、けげんそうにたすねた。 る。だが、よく見るとそれは鳥ではなかった。映画で見た翼手竜の 「そうだよ。見てごらん、あたりは一面のジャングルになってしま 。フテラノドン、つまりラドンそっくりだった。 った。これでは夜になると、きっと蚊がでてくるにちがいない。ま 「な、なに。プテラノドン ? すると、ここは青春時代、いや螢雪だ試してはいないけど、電信柱がないから、たぶん電気は通じてい 時代、ちがう原始時代 ない。すると、電気蚊取りは使えないわけだ。ふつうの蚊取り線香 このままでは、・ほくたちは身体中を蚊 俺は、はいはいしながら窓のそばまで移動した。より広く、外のもきれてたし、蚊帳もない。 ても、蘭花ちゃん 景色が目に飛びこんできた。あたりは一面、巨大なシダやソテッのにさされてしまう。ぼくはそれでも、まだいい。。 ジャングルだった。その中に、俺の家と陳さんの家たけが。ほっりとのそのすてきなポインが蚊に食われてぶつぶつになったら、・ほくは 存在しているらしかった。三百メートルほどはなれた右手のジャン生きてはいけない。たって、この世界にはウナコーワもムヒもな グルのほうで、おそろしい叫び声があがった。ヌイグルミでもなく いんだよ。ほら見てごらん。シマ蚊があんなにトンテレラ」 人形でもない二頭の恐竜が、格闘技世界一決定戦を演じていた。ど「あのねえ、雪之丞さん。あなたが、あたしの・ ( ストの心配してく ちらも体長十メートル以上あった。俺の乏しい知識によれば、それれる気持ちはとってもありがたいの。でもね、この状況では、もっ はテイラノザウルスとステゴザウルスだった。レフリーがいないのとほかに考えることがあるんじゃないかしら ? 」 が気になった。やはり、ここはひとつ、カール・ゴッチに公平なレ 「ない。まず、草をかることだ。草をかれば蚊がいなくなるばかり 田 9
立派な科学者になる要素をもっておるのじゃが、ひとっ欠点があ限らないでしよ。柔道なんか、日本が発祥地だけど、いまじや外国 る。マージャンが無類に好きで、これをはじめると研究などそっちのほうが強いわー 蘭花ちゃんがいう。 のけで夢中になってしまう。マージャンさえやらなければ、ノーベ 「なるほどのことね」 ル賞はおろか天皂賞、菊花賞もとれる才能があるのじゃ。わしは、 なんとか東家君にマージャンをやめさせようとした。だが、きき入「でも博士、わたしたちの祖先が発明者というんなら、古くてもせ 一億八千万年なん い・せい四、五千年ぐらいむかしのことでしょ れん。そこで考えた。マージャンなどという遊びがあるから、あた ら才能をムダにしてしまう人間がでてくる。これを失くしてしまえて、まだ人類は存在してないはすだから」 どうして、蘭花ちゃんはこうさえているのだろう。あの「宇宙ゴ : しいとな」 「それはいえる。・ほくも、昨晩三五〇円負けたもの。マージャンなミ大戦争、のころは、もう少し鈍かったし、俺にももう少しやさし かったはずなのに ? 俺はをひねった。うん、ひょっとしたら、 んてゲームがなければその分のお金で。ハチンコやって、セプンスタ これは次回のテーマになるかも知れない。 1 十個はとれたはすだ。たしかに、ぼくも才能をムダにしている」 「まさしく、蘭花ちゃんのいうとおりた。じゃが、ここにもうひと 俺は博士のことばに共感していった。 つ、おどろくべきことがあるのじゃ」 あなたなんかどうでもいいの。 「雪之丞さん、静かにしなさい " 博士がもったいぶった口調でいった。 博士の話を聞きなさい " こ 「やたらに、おどろくべきことがあるんですね」 「どうしたら、マージャンをこの世の中から失くすことができる俺がいう。 クラスの底に真理さえ見える時代じゃ」 「しかたない。・ か。わしはいろいろ考えた。そして、結論を得た。なんといって 「どういう意味です」 も、手つとり早いのは、マージャンを発明した人間を見つけて、こ ムチャクチャいったたけじゃ」 「意味なんかない。 れを阻止することじゃと。で、いろいろな文献をあたって、マージ ャンの起源を調べてみたところ、おどろくべきことがわかった。陳「博士、困ります。まじめにやってください " こ さん、つまり、きみたちの祖先がマ 1 ジャンを発明していたのじ蘭花ちゃんがいった。ゃーい、怒られていい気味だ。 「それから、雪之丞さんリあなたは、もう最後まで黙っててちょ うだい " 】話が混乱するだけだから " こ 「そ、それ、ほんとのことあるか ? ほんととしたら、ふしぎのこ 「でも、・ほく一応、このシリーズの主役だから」 とよ。わたし、マージャン大好きだけど、勝ったことないよ」 「黙りなさいといってるでしょ " こ 陳さんが、目をパチクリさせた。 。祖先が発明者だからといって、子孫が必ず強いとは 203