小説 - みる会図書館


検索対象: SFマガジン 1977年12月号
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1. SFマガジン 1977年12月号

いえる人物なのである。元祖なのた。 おお本郷義昭 ! その名を聞かざること久し ! かの : 百偉大なる侠傑は今いずくに在りや ? なんて一人で興奮してないで、若い方のために『亜細 亜の曙』のアラマシを次に記すことにしよう : にも、本郷義昭を主人公とした、山中峯太郎の小説は「 「大東の鉄人」など数篇あるが、ここでは『亜細亜の 曙』一本にし・ほることにした。やはり、これがズバ抜け ているからだ。 「惜しまれて散るを桜の誉れかな。いさぎよく散る桜の 花が、帝都東京の空に、吹雪のごとく風に舞い始めた」 という日本陸軍の軍歌のごとき書き出しで、この小説 はっ始まる。そして冒頭まず、東海道線特急列車の一等 寝台の中で、帝国陸軍高級将校とお・ほしき人物が何者か によってシビレ薬を注射され、手さげカンを盗まれ る。このカスンの中身こそ、帝国の最も重要なる機密書 類、小倉の陸軍大兵器製造所の、液体空気使用〈無限推 ツの設計図なのであった。 進機〉つまり口ケト 参謀本部では、ただちに暗号ラジオによって、本郷義 昭に指令を発する。 007 が海軍中佐なのに対し、本郷 は陸軍少佐であるが、彼は黄子満という支那人に身をや っし、南洋にある〇国の秘密拠点〈嶽窟城〉に潜入す 彼は、自ら敵の手に捕えられ、秘密工場で働かされる キャンシーシェン ことになる世界各国語に堪能な本郷は、江西省なま りの田舎言葉を自在にあやつり、見事敵をだましおわら せたかに見えたが・ : 敵は器械による身体検査を行ない、本郷が偉大なる知

2. SFマガジン 1977年12月号

しかし、小松さんなんかは、どこまで進んでいくのか、自分で そしてかれは、本当に宇宙まで意識をひろげていったわな。い ままでのスペース・オペラというのは、宇宙まで広がっていない もわからないんだろうな。 わけ。 田中わからないなあ。 驚くべき人物が現われたもんだなあ。みたみわれ生けるしるし 田中関係ないですよ。舞台を借りただけで。 ありだ。 本当にかれは小説を大説にしたわな。 田中そうですね。 田中もうあの人の場合、うまい小説を書こうというような気は、 偉いもんだなあ、尊敬の対象になるってわけで。 すこしもないんでしよう。自分がいしたいことをいうという心境 田中そういう意味からいえば、まさにそうだな。 でしよう ? 体も大きいけど、心も大きいか : うん。 田中うーん、そうだ。 田中しかし、もともとうまい人だから。 なんでも書いちまう : あの「岬にて」なんかよかったもんね。ドラッグ小説プラス宇 宙観小説。 田中どこがどうなっても、うまく書いちまう、そういうことだと 田中哲学小説ですね。 思うんだな。 あれも、「怒りの谷」のつぎに、時間的につぎってことだけど、 まあ、あなたのインタビュウで小松さんのことばかり褒めてい 「皹・にて」にはショッ クを受けたわな。 ても仕方がないけどなあ。 田中あれはよかったな。 田中そうだ、そうだ ( 笑い ) 。人の話をしても仕様がないな。 しかし、あなたを見ていると、ダンディで、冒険が本当に好き 豊田さんのあの、小股の切れあがったようなというか、小股を で、現代的で、そのままだな・ : すくうようなというか、気持のいい論文小説もいいけども。 田中論文小説ですか ( 笑い ) 。本当に論文小説だなあ。あの人の田中そのまま ? はどんなショート・ショ うーン、人格というか、それがそのまま小説になっているみた ートでも、必す論文が入ってきますね。 そこがいいんだわなあ、ファンには。 いな : : : さてと、批評の話をしましようか ? 批評されるとど 田中これはこれこれこういうものだって。必ずいうのね。あれは う ? 常に好意的ないい批評だけが面白い、ほめられるときだけ なんでしよう、癖なんでしようか ? 、刀しし 田中そう、ほめる評論家だけがいい評論家、というのは嘘 : : : 冗 さあな、非常に頭がよくて、分析能力というのが優れていて、 それが流れているってわけ・ : 談だけど : : : を批評できる人っていますか、だけど ? そう いう肩書の人はいますけどね。というものは、批評のらち外 田中分析するのが好きでしよう :

3. SFマガジン 1977年12月号

矢野徹インタビュウ〈一六頁よりつづく〉 いや、わあ、その、『大減亡』というのは 田中単行本ですか ? 割と売れたんですよ。あの、宣伝もしましたしね。いままでの・ほ くの本の中で、いちばん売れた本です。 さてと、作品が売れだしたのは ? あ、そう ( とっぴな声で ) 。 田中処女出版というのが『大滅亡』なんです。ちょっと遅れて 田中五万こえてますからね、これは。十万までは行きませんけ 『幻覚の地平線』が出たんですよ。 ど、だいたい六万近いですよ。 『幻覚の地平線』で、一朝目覚めれば、というわけですな ? でも、文庫本はもっと売れるでしょ ? 田中とにかく作家と認められたのは、「幻覚の地平線」が「宇宙 塵」にのって、それが森優さんの目にとまって、マガジンに田中うーん、そうでもないですね。いまのところは。 転載されてからなんです。それからですよね。 しかし、「幻覚の地平線」の場合には、なんとなく。 ( タくさす田中文庫はあの、揃ってないですからね。まだ四冊か五冊 : : : 角 ぎるというようなところがあって : 川と早川で、それそれ五冊ぐらいしかないから : : : やつばり、十 田中そこをちょっと補足しますと、幻覚の地平線がマガジン 冊にならないと売れないでしようね。 ーうん、そうた。眉村さんの例から見てもそうらしいや。 にのってちょっとあとに、小説宝石という雑誌に頼まれたんで す。百枚ちょっとのもので、「男の城」というんですがね。それが田中だから、これから売れてくると思いますけどね。 例の、最近長篇にした『失なわれたものの伝説』の原型なんです せっせと文庫を書かなきゃあな、怠け者のぼくも ( 笑 ) 。さて と、この家がどこにあるかという地理ですけども : : : えーと、ま よ。やつばり、あのね、非常なコン。フレックスを持ってためにな くにたち りかかっているダイ・ ( ーがいまして、それがひとりの男に拾われず、午前十時に・ほくは国立の駅を出て、そのときはかんかん照り てね、ある仕事をやらされると。その仕事の過程でもって自分を でね。それが中央線に乗っているうちに、すっかりどんよりとく もってしまった。こいつは写真を撮るのに困ったなと思っている 回復していくという、まあ自分自身の復権みたいな話なんですけ どね。それをいっか長篇にしようと思っていて、それを長篇化し とです、東京駅について南の空を見ると青く晴れ上がっているん だ。へえ、というんで、新宿のほうの空をのそいて見ると、これ たものが『失なわれたものの伝説』なわけですけども : : : で、そ がひどい茶色、スモッグなんだな。ロスアンゼルスなどめじゃな の「男の城」というのが中間小説雑誌に関してはデビュー作で、 いスモッグ。晴れているのに、日がさしているというのに、大変 g-q 専門誌、つまりに於ては「幻覚の地平線」がデビュー作 ということになります - 。 なくもり。自動車会社なんてのは、都会の空気をきれいにするこ とに、儲けた金を吐き出さなきゃあいかんと違うんかなあ。 そして、部数がわーっと驚くほど売れだしたのは、どれからな

4. SFマガジン 1977年12月号

ーズで出ていた『吸血鬼』が『地 一九七七年、つまり今年の七月七日は、ロんでおくべきとして考えられる。 ート・・ ( インラインの七十歳の誕生日『マルコ・。ホーロの見えない都市』 "LE CI- 球最後の男』 : 一 AM LEGEND" ・ 54 リチ マシスン ( 田中小実昌訳・ 30 0 円 ) - - ・だった。年をとるについて、枯れるどころか TTA ・ : 72 イタロ・カルヴィーノ ( 河出書房ャード・ ・・・ますます作品は長くなり、奔放にな「ていく新社・米川良夫訳・ 1400 円 ) もまた『アとして出た。吸血鬼伝説に理窟をつけて 。 ( ーの作家による作とした手際が見事。このパターンのひとつの ーダ』と同じくプロ ( ・ - 彼は、まさしくの巨人というにふさわし 品ではないが、さらに的であるといってエボックを画している。サスペンス小説とし ( ャカワ文庫の『悪徳なんかこわくな間違いないだろう。マルコ・。ホーロがフビラて読むほか、吸血鬼学早わかりといった教養 - - - い』 : 一 WILL FEAR NO EVIL" ・ 7 】イ汗に、自分の見聞したさまざまな都市につ小説としても楽しめる。 『ネラは待っている』 "NELLA WAITS" いて語る、という形のこの物語は、実はまっ ・【 - ( 矢野徹訳・ 450 円 ) は、そうした老境に ルハイザー ( 角川文庫・広 ・さしかか「た ( インラインの , ー、正確に言えたく架空の都市についてのみ描写をつづけて・「ーリス いく。なにしろ、マルコ・ポーロの時代だと瀬順訳・ 4 2 0 円 ) は〈超常現象小説〉 ◆・・◆表ば『月は無慈悲な夜の女王』以降のーー作品 ◆・・◆人だ。『宇宙の戦士』などで ( インラインをカばかり思「て読んでいると、バスが出てきたあとがきによれば " ゴースト・ストーリイ り、現代風の上水道が出てきたりする。しかのちょっと現代的で科学的な作品・・・・ーである ・一タ・フツの愛国主義者と考えていたむきには、 すでにタもこの空想都市は、事物と認識とに関するうという。オカルト映画プーム以来、こうした ・・この作品は非常な驚きに違いない。 ストーリイも次第に日本に定着し ・・・テ「などはどうでもよくな「た作家の本音んちくであるのだ。律気な奔放さともいうべ てきたようだ。 が、半世紀にもわたる創作活動の結果身につき想像力の産物。 一方、同し角川文庫から出ている『海底旅 ハヤカワ文庫の『ゾンガーと魔道師の しているストーリイ・テリングの本能にした ・・がって、えんえんと書かれているのだ。若い都』 "THONGOR IN THE CITY OF 行』 "JOURNEY OF THE OCEANA ・ ・・女性の肉体に移植された老人の脳、そして肉 MAGICIANS" ) 68 リン・カーター ( 関口 UTS"'68 ルイス・ウォルフ ( 安達昭雄訳・ - - ・体を提供した女性の意識と、老人の意識との、幸男訳・ 320 円 ) は、久々の〈レムリアン 340 円 ) は、徒歩で大西洋底を横断すると ◆・◆・◆人文字どおり一身同体の生活 : : : ともかく、特・サーガ〉作品た。〈剣と魔法〉ものは、最いう楽しいアイデアの。海底の持っセン にこの作品については、ストーリイの紹介は近やや下火のようだが、カーターの作品はそス・オプ・ワンダーが、なんとなく宇宙に通 ずるような気もしておもしろい ( ・・・あまり意味がない。上巻だけでも四一三ペーれなりに安定していて読ませる。 - - ジにもなる老人の饒舌こそが。ホイントなのだ『ベルー猛毒作戦』 "FRATRICIDE lS A 今月のノンフィクションは『アトランティ ・・から。また、巻末の訳者あとがきは、特にこ GAS ・ : リンジイ・ガターリ〉ジ ( 村上博ス大陸の謎』•'ALLES UBER ATLA ・ ットー・ムーク ( 佑学社・金 、 9 れから英語を読もうという読者には是非おす基訳・ 280 円 ) もやはり ( ャカワ文庫 NTIS ) : 「 0 オ 森誠也訳 ・ 13 0 0 円 ) 。丹念に資料を集め のシリ ーズ〈ミクロ・スパイ〉の第三弾。 ◆・◆・◆人すめしたい。 ステリ作家が縮小人間というアイデアによって構築された仮説が、アトランティスの謎を - ・『アーダ』 "ADA OR ARDOR 【 A Fa- ル・ナポコて書いたス。ハイ小説だが、そうした、、 ( ック・解明していくとい ・・・ mily Chronicle" ) 69 ウラジミー ーリイだけがう寸法。ところで、 ・・フ ( 斎藤数衛訳・上下各 1800 円・ ( ャカグラウンドから想像されるスト ◆・◆・◆・《ワ・リテラチャー ) は、かって『ロリータ』で特徴ではない。身長六・三ミリの人間から見こうした歴史の謎 ◆・◆・◆・《センセーショナルな話題をまいた作者の、おた、巨大化した日常の世界が奇妙にリアルでときは、″証拠″の 作りだすさま立、 IJ ま ◆・◆・◆人そらくもっとも重要な作品。ジョイスの『フ迫力があるのだ。 - - ィネガンズ・ウェイク』と比較される言葉の『アウリゲルからの使節』 "FELSPRUNG な分岐のどれをと ・・使用法は、まさに絢爛豪華と一一一〔える。ロシア DER TIGRIS 雀 I)IE GESANDTEN るかによって、結 論はおのずと変っ 9 ◆貴族の末裔で、父が同じ従兄妹同士の近親相 VON AURIGEL" 三「プラント & 「ール ( 松谷健二訳・ 300 円 ) は、ハヤカワ文庫てくる。実際、フ ◆・◆・◆人姦が中心となっている。だが、その物語が、 イクションとノン ・ローダンの三 ◆・◆・◆人老いた二人の回想によって再構成されていくの目玉シリー - ・・ところがミソだ。一九世紀に映画が出てきた十六巻。この巻でローダンは、アルコン摂政フィクションとの ・・り、実在の土地から架空の土地までが登場しとの協力関係に疑惑をいだき、腹のさぐりあ境界について、こ の本はいろいろと たりと、時空の乱れは次元のめまいに近いをやる。 。また、作中作『テラからの手紙』も、読また、 ( ャカワ文庫 Z> から、以前 ( ャカ考えさせられる。 海外セクション 担当 . 日野ニ自

5. SFマガジン 1977年12月号

と : : : そうまで大きなことをいわんまでも、論語や孟子の好きな 田中なんの話をしていたんだっけ ? 言葉を芯におきたいと、そこが・ほくにと 0 ての志みたいなもんだ 8 ーー、志の話。 わなあ。 田中だから、志ってものは、人にいわれて身につくものしゃない 論語だの神道だのというと古くさいといわれるかもしれないけ し、内発的なもんでしよ。 問題は、志といわれると何のことかわからんわね、なんとなくれど、いまさらそれ以外の、たとえばキリスト教のほうへ行こう とは思わんわな。長いあいだの義理というものがあって。天皇制 雰囲気はわかるけれど。 だって同じでね、おおぜいの同年配のものが戦争で死んでいった 田中いや、なんとなくわかればいいんであって、具体的にこれだ 冫いまさら・ハイ・ハイ、反対の方向へ行きますなんてことは、 といえるもんじゃないからな。 それこそ志の反対側だもんな。 あのね、このあいだ「小説は読むもので、ポルノは実行するも のた」ということを、ある運転手さんがいったというのをだれか田中そりやそうだ。するとあれですか、時代作家というのは、昔 の人間は、日本人はりつばだったと : が書いていたけれど : いやいや、そんな。 田中うん、書いてた書いてた。 あれは実にりつばな言葉たと思うけど : : : 小説の中だって、志田中ある意味ではですよ。 そう : : : 宮本武蔵の場合、吉川のね、克己主義というかストイ のある小説はわりあい少ないわねえ。ところがの中では、わ シズムというか、そんなものが昔はあった。それを書きたかった りあい多いような気がするわ。 ということは、あったでしようなあ。ただし、新しい観点から書 田中逆にいったら、いまの文壇でいえば、しかないんじゃな こうという人も時代小説に出ているから、それは儒教精神とかな いですか ? 志を持っている小説というのは。 んとかからは・せんぜん離れて、別の志が出てくるでしようなあ。 いえいえ、時代小説とか / ンフィクションの中でも、例えば明 白石一郎なんて優秀ですよ、九州の : ・ 治の群像とか海は甦えるとか、そういうものを求めているわな しいかたが悪 田中そう、志は作家のだけというのはちょっと、 あ。 いんで、当然作家というものは自分の志を持っているもので。 田中そうですか ? 作家の場合はやつばり、質がちょっと異質なのであって、スケ ああいうものの中で、真剣に生きていった人物像を描きたいと 1 ルの点でもやつばり大きいんではないか、という気がするんで すね。 田中なるほどね。 うんうん。 だから・ほくが時代小説を書くとき、時代あるいは歴史小説のス ゅうずうむげ ト 1 リイを書くというよりは、儒教精神を中心に、核に作りたい田中現在だけにこだわっていなてく、現在・過去・未来融通無礙

6. SFマガジン 1977年12月号

うん。 とんどがそうじゃないみたいだな。何もないと断定してしまうよ うな口はばっこ、 ナしことは、まだ・ほくにはできないですけどね。旅 田中そうしないと、やつばり常に日本人はという発想でやっちゃ うでしよ。つまり、さっきいったように、人間はということですはしないし : ・ : ・旅というのは、あなたのもののように長くないと からね。つまり、人類はということですから。 ね ( 笑い ) 。銀座から近くのホテルまでは仕様がないわな。 まあ、同じ人間たけど、日本人として、国を対応させて考えさ田中何なんだろうな、あれは ? あれこそが本当の読み物なん せられる機会は与えられるわなあ。 で。つまり、チュ】インガムを噛んでるみたいなもので、噛んで 田中そうです、すべて相対的にとらえられているわけですよ。 いるときには味がしているけれど、噛み終ったら何も残らないと 結論はちょっと違ったほうへ行っちゃうんだけど、・ほくが初め いうことでしようねえ。 tn というのはやつばり、チューインガ ムでなくて、米の飯か肉だというところがあるんじゃないでしょ てアメリカへ行ったとき、昭和二十八年の春です、ずいぶん昔の 話ですな。ニューヨークへ行ったり、サンフランシスコへ行った りして半年ちょっとの滞在が終って、さて帰国というんでロスア 少なくとも何十年か先まで残ってしかる・ヘきものを書きたいわ なあ。 ンゼルスの港にやってくると、貨物船の船尾に日の丸の旗がへん ぼんとひるがえっているのを見て、がくんときた、涙をもよおし田中だから、食べ物の比喩でいけば、食えば体にとってなんらか たわな。だから、そういうような、涙である必要はないけれど、 のメリットになるものをと、いうことでしよう。 小説というものは、感激みたいなものが常に必要たわな。 コカコーラか。 田中そうですよ、やつ。はり感動ってものは必要ですね。 田中コカコーラやチューインガムなら、なんのメリットもないじ 感動を描くために、それを書くために、あなたの場合、いちば ゃないですかー ん書きやすいものが道中物の冒険となるわけ ? ( 笑い ) ビールのとこまで来ないわなあ。 田中そうかもしれない。なるほどね、そういうふうにいうと、非 田中変な話になってきたな。 ( 実はこのとぎ、われわれはビール 常にわかりやすいわけだ。だからぼくは、不思議に思うのは、ポ を飲んでいるのです ) ルノ小説を書いてる人ってのは、どこに感動を見出しているのか は米の飯プラス : しらってね、風俗小説とかね。 田中だけどね、有用性 : : : メリットという言葉はあまり使いたが 風俗小説はまだ意味があるけれど、ポルノだけを書きたいとい らないけど、もっといってもいいと思うな。 うのは、どうもね : ・ハインラインが『悪徳なんかこわくない』 効用価値か。 『愛に時間を』を書いた場合、セックスが重要なポイントになっ田中だいたい知識が身につきますよね。小松さんのを読めば絶対 てるわけだ。ところが日本の中間小説誌のポルノというのは、ほ ( 笑いソど、、 ナししち、教養になりますわね。 幻 0

7. SFマガジン 1977年12月号

すから。 うん、そうだなあ。たまには旅をしたくな くなったってこと ? 田中ひとことでいうと、冒険小説をなぜ書く かといわれても困るわけですよね。本当のこ とをいうと。であればね、なぜ書くかと いうことをいわれてもいえますけどね。つま り、自分の姿勢というものが、はっきりとあ るから。 書いたものが冒険小説になっているという 」 A ) か : 田中だって冒険小説の場合は、姿勢もへった ~ くれも何もないでしよ。エンタティナーとし て、それがエンターティンメントになってい るかどうかということが問題であって。なぜ 書くかということは、別に問題じゃない。 あの、登場人物というのは、まったく想像、 の中から出てくるもの、それとも現実にだれ第 .. かモデルがいるわけ ? 田中モデルというのは、・ほくの場合、いませ んね。 たとえば、豊田さんは使うわな。 田中ああ、ああいうようなモデル、・ほくの場合にはまったくいま せんね。 そうすると、自分か、自分の分身 ? 工 1 リアンなんてのは、 自分の分身で。 田中 しいえ、そんなことないです ね。まったくそんなことないです 0 よ。まったく想像上の産物ですね。 本人もどうやら超能力を持ってい そうな感じたし : 田中そんな : : : あのエナリーって、 あれでしよ。だれかに似ていると思 しますか ? ーーあなたに似ているわな。 ( 笑い ) 。筆田中それはちょっと意外ですなあ。 の・ほくは、だれにも似ていない人間を 中出したつもりなんですけど。 田 そうかしら、作者がすぼんと出て きているみたいな感じだけど。 田中 いいえ : : : そうなると、・ほくの カ倆が足りなかったわけですな。本 当、だって、人間でないわけたか ら。似ていると困るわけで。だから、 あの例の、あいまいな徴笑、とらえ どころのない徴笑という表現を、く りかえしくりかえし使っているわけだから : : : 要するに個性がな いんですよ、個性がないんだけど非常に存在感のある人間、とい うのを出したかったわけですよ。もちろん人間じゃないんだけ ど。それがエナリーなんで。 しかし、異星人の中では、あの人は非常に個性を持っている人 物なんでしょ ?

8. SFマガジン 1977年12月号

こころざし 松さんの言葉を使えば、志・ いや、平井さんだ。平井和正氏断。そのあと、話題はつぎのごとく変わる。 がいった言葉を使うと、志ということですな。 士ハというと、・ほくがときどき使う大説というときの中心 ? 田中新新新世代の作家というのは、あんまりあれですね、上とい 田中たいせつって、どういう字ですか ? うか、年よりというか、ほかの連中とっきあおうとしないです ーー大きい小説。 田中ははーっ。でもつまり : : : 自分から大説といってはいけない いやあ、それはわれわれがいけないんでね。われわれが忙しく んで、つまり、非常に面白いという小説を : なってきたせいじゃないの。 うん、そりやそうだ。志というと、われわれが思うのは、何か田中・ほくだって最初から忙しかったけど、できるだけつきあおう 崇高なものだとか、人道主義とか、愛とか : としましたよ。かれらは自分たちだけで完全なグループを作っち 田中いや、もちろんそういうものを含むんですけど、やつばりひ やってこちらを入れようとしないですよ。 とことでいってしまえば、こう : ・・ : 人類というものを、もうすこ いや、そうでもないと思うけどなあ。遊んでちょうたいと入っ しなんとかしたいという意識になるんじゃないですかね ? ていけば : : ・ほくら最初のうち、仕事がそんなになかったもの、 人類を : : : したい ? 最初は。だからみんな、わんさかわんさか集まって。 田中人類といってもいいし、地球といってもいいんだけど。 田中やることがないから遊んでいたわけ ? ( 笑い ) いまでも忙し そして逃げまわるわけ ? い割には、遊びますわな。 田中それが個人 : : : 作家の場合は、やつばり、個人に関心があ 仲よしクラプだもの。 るんではなくて、やつばり人類といった大きなものでしようね。 田中だいたい遊ぶのが好きなんですね、作家というのは。し 個体としての生物ではなくて、群になってしまうんだな。 んねりむつつりの書斎派というのはあんまりいないですね。とい 田中やつばり当り前のことだけど、いうまでもないことだけど、 うより、ぜんぜんいないんじゃないのかな。外で遊ぶことが好き ふつうの小説とのいちばん大きな違いでしようね : : : それがわか ですね。何かそれ、好奇心ということたろうし、そういう意味 っていない人が多いんですね。しかし、当り前のことなんたけど で、まめでなければいけないですね。いろんな意味で。 よ 0 そのうえ、あらゆるものを読みたがるわね、われわれみんな うん。 カ 田中そりゃあ書斎にこもって読むことも必要ですよ。でもそれた 読書新聞の依頼とかでカメラマンが撮影に来訪。これがふたり けじゃあ困るんたろな。 うんうん。 とも知っている人だったのでひとしきりカメラの話などして中 20 ー

9. SFマガジン 1977年12月号

リバイバル版「亜細亜の曙」表紙 郷はが然攻撃に転じ、というお決りの筋に、なるわけだ ・カ : 〈わが日東の剣侠児・本郷義昭は、祖国の最も重要なる 機密書類を、今や怪敵の手から奪いかえした。本郷に従 う印度の少年王子ルイカール、その従者の黒人べンガ ル、味方は三人だ。三人とも覆面し、緑の外套を着てい る。怪敵と同じ姿に、変装したのだ。しかも、今、″恐 怖鉄塔″と名付ける塔の頂きに登り、そこに高くつなが インドラ れている硬式飛行船の窓に、三人とも踊入った。吊籠の 窓だ。十三の人怪敵は、はるか下の床に立ちすくんで る。本郷の勝利か ? 見えざる怪敵総首領は、ラジオに よって堂々と宣言したのだ。 能の持主であることが発覚する。そして、その夜就寝″本郷 ! 最後の勝利は汝に無し " ・ と、勝敗は未だ終らず、怪敵総首領、いずこにか在 中、となりのべッ トの黒人少年が、本郷の腕に指で字を 書いて、通信を送ってくる。少年はインドのルイカールる ? さらば今から、わが日東剣侠児の活躍を見よう ! 王子であり、本郷の正体を知っているのだった。二人は 腕通信で、力を合わせて嶽窟城を破壊しようと誓い合 これは、大団円に掲載される前月、つまり昭和七年六 月号の少年倶楽部に載った、作者山中峯太郎氏自身の筆 だが、そこへ敵の手下が現われ、本郷を十三人の覆面になる前説である。 ( 単行本や、数年前発行されたリ・ハ の幹部の所へ連れて行く。 : ・敵は、すでに本郷の正体イ・ハル版には、これは載っていない ) を見破っていた。室内のスクリーンに天然色活動写真が ″前号までのあらすじ″なそというものは、『亜細亜の 写し出される。先刻の腕通信が、ことごとく撮影され、曙』にはなかった。読者は、すべてワクワクしながら次 判読されていたのだ。 ( この辺も、なかなかどうして 0 号を待っているのである。途中から読み始めるような不 07 的気分だが、このあとさらに、それが横溢する ) 心得者はいなかったのである。ただ、連載小説の欠点で 敵は、ルイカールの助命を条件に、ロケット実験へのある、前号との断層を補わんとする作者の親切心から、 協力を求めてくる。本郷は、ゴールドフィンガーにおけこの前説となったものであろう。 るポンドのごとく、すなおにそれを受け入れて、嶽窟城山中氏は、かくのごとく、すべてに用意周到であっ の新名誉教授に就任する。だが、敵のすきを窺って、本た。作中の小道具も、空雷 ( つまりミサイルだ ) 、ヘリ 山中峯太郎傑作集

10. SFマガジン 1977年12月号

ほとんどじゃないの 田中いまはもう、脱稿したらそのまますぐ、そのまま渡してしま いますね。ゲラで直しますから。長篇の場合は、直すチャンスが田中それを全部取「て掲載したやつもいるわけですけどね。 ( 笑 ) 8 2 たくさんあるから。中間小説誌に発表する場合は、ないんです うん、よくあんなことをやるねえ。 よ、切迫しているから、時間が。だから、一発勝負ですねえ : 田中ル・ヒの問題については、ぼくはもう、あまり重要視していな いんで。 直しだすときりがないですからねえ、これは。だから推敲する場 合、ゲラに手を入れるときでもねえ、・ほくは文章に手を入れるこ でも、いちばん最初のころは、ルビを使うことが : とはあまりないんです。きりがないですからね。そうじゃなく田中トレード・ マークになっていた ( 笑い ) 。『幻覚の地平線』 は、あれは翻訳小説のような感しを出そうとしたわけですよ。 て、テク = カル・ターム ( 用しの間違いというようなことを集中 的にやって、文章そのものに手を入れることは、ほとんどないん 意識してね。 田中なぜかというと、日本が舞台じゃないし、日本人が主人公じ ルビをふるというのは徐々に少なくなってきたけど、何か理由 ゃないから、違和感があるわけでしよ。翻訳小説の感じを持たせ があるわけっ・ れば、すこしは違和感がやわらげられるわけですな。 田中だってあれは、一種の手法としてやっているわけで、手法と あなたの場合はどちらかというと、外国を舞台にしたほうが朗 して必要がある場合はやるし、別に好きでやっているわけじゃな らかに書けていて、日本はなんとなく険気になってしまう : いですよ。別にあんなもの、つけたってつけなくたって変りがな田中うしうじしちゃうんです。 いわけだから。ただそのときの雰囲気を現わすためなどで、それ それは何か理由があるの ? があったほうがいいというときにはやりますよ。そのときにはっ田中だって、行ったことのない場所を書くのが、いちばん楽です けるし : わなあ。楽だし、自由に書けるでしよ。 つけるのとつけないとでは大違いのものもありますわなあ。そ ううん、全体の感じがね、日本の国内を描く場合には、陰気な ういったルビの効果という点で、ルビを最高にうまく使っている感じがあるが、外国では非常に明朗になるという : のは「トーチカ」だろうと思うな。 田中なるほどなるほど。ああそれは、いわれたことがあるな。透 田中筒井さんのね。もちろんそうですね、ええ。 明だってことをね。 あれは偉いなあ、筒井さんて人に、あれを見て、おったまげ それはに勤めたことと何か関係があるの ? て、尊敬をお・ほえたもの。 田中いやそれはぜんぜんないんじゃないですか ? 田中あれはルビの力が半分ぐらいあるんじゃないですか、あの面 勤めたことは、仕事にとってプラスになっている ? 白さは ? 田中少なくともサラリー マンのあほらしさ、くだらなさを知る上