おりますところは、現場から約二 にお前を責めつけて、どしんばた夫「くそ。もづと突いてやれ」 んやってるみたいじゃないか」妻「上のお嫁さんったらね、わたし百メートル離れたところで、 妻「だってさあ、わたしが上になるがいや味で、いつも大変ですねっ 0 の着陸現場には警察機動隊が出 こともありますなんて言えないじて言ってやったら、あら、お宅のまして、円盤状をした飛行物体の ゃないの」 ご主人はもう大変じゃないんです周囲に綱を張り、一般の立入りを 夫「ようし。よくも邪魔しやがったかだって。まるであなたが老人み禁じております。ご覧のように群 泥棒「そうら。言った通りだろ。 妻「あなたご免なさい。さっきはわ子供「ママ。ちょっと見てよ。大変 このアパ 1 トの床板は薄っぺらな たし、あなたを傷つけるようなこだよ。空飛ぶ円盤が降りてきたん んだ」 だってさ」 と言っちゃって」 泥棒「なるほど。これなら簡単に 夫「・ほくも、ひどいことを言ってし妻「あらおかしいわね。この時間は ~ 嶷一、 入れるな。しかし、こんな時間に まった。勘弁してくれ。この頃、ニュ 1 スの筈なのに。 pa まで 侵入して、大丈夫なのか」 ちょっとどうかしてるんだ」 ドラマやることにしたのかしら」 妻「いいのよ。わたしだって悪いん子供「ドラマじゃないよこれ。ニュ 1 スだよ」 ですもの。ねえあなた」 夫「なんだい」 妻「何言ってるの馬鹿ばかしい。空 妻「わたしを愛してる」 飛ぶ円盤だなんて。そんなもの、 夫「愛してるよ」 に決まってます」 妻「嬉しいわ」 テレビ ( 3 ) 「ご覧のように群衆 妻「違うでしよ。そこは中指。この小学生「ママかい。ママは学校さ。 夫「泣いてばかりいちゃ、わからな運転手「うるせえな」 しゃなしか。どうしたの」 指よこの指。泣くなっ。痛かった学校の先生してるの。そうたよ。 だけど学校が遠いところにあるか 妻「お金がなくなっちゃったの」 らちゃんと楽譜通りにしなさい。 ら、いつも七時半を過ぎなきや帰 ちゃんと書いてあるでしよ。はい 夫「もう、ないのか」 もう一度。違う。違う。違う。違ってこないの」 うでしよっ。ドドレレフアでしょ x △◎「 X X ◎ロ = X ・一・十」 、、。ぼく今、マンガ 、学生「・ほく力し うが。もう、馬鹿つ。またその指 4 で弾く。おばさんはね、本当はあ読んでるの」 んたみたいな才能のない子を教え x △◎「◎◎十十 x ・【・ = △」 る人間しゃないのよ。音楽大学出小学生「勉強かい。宿題なら、もう てるんですからね。サラリーマンとっくにやってしまったよ」 なんかと結婚したばっかりにこん x △◎「〇〇ロ一・ x △こ 20 ー
「よし ! 」 メ 1 トルほどの所にいったん垂直に静止し、それから、徐々に降下 ヒノの太い指は、コンソールの上を、シンセサイザ 1 をあやつるしていった。 ように、動いた。″ ヒノシオ号″は、シオダが指定した着陸候補地 五十メートルほどの所まで降下した時たった。 のうち、三番めの、密林の中を流れる河の周辺に拡がる草原に向か 「ややッい」 って、高度を下げた。 ヒノが頓狂な声を出した。 密林の緑色のいやらしさは、近づくにつれて、ますますはげしく「ふうむ ! 」 なってきた。地球の緑とはまったくちがっており、まるで、安物の シオダも唸った。 ネオンが束になっているような感じである。 ″ヒノシオ号″の舷窓に、奇妙な生物の顔がのそいたのである。 ア「ゾンのような大河が風景の中でひとつの救いた「たが、そのイ。 ' ト席のすぐ前にある立体スクリーに映る、全体の光景に眼 水の色も、緑に近かった。 をうばわれていたので、直接外界を見ることのできる左右の窓に 「やけに緑がはげしいな」 は、これまで気をつけていなかったのだが、ふと見ると、そこに、 ヒノがうんざりしたような声をだした。 何とも言えないふしぎな生物の姿が浮かんでいたのだ。 「緑便を流した といった感じだ」 どうやら、背中に・ ( タ・ ( タ式の飛翔装置をつけて、ここまで飛び シオダが文学的に表現した。 上がってきたらしい 「何という顔つきだ ! 」 ヒノは肩をすくめた。 ヒノがあわてて、降下を中止させながら叫んた。 シオダは笑った。 「表現のしようがないな ! 」 「スペクトラム型が緑に寄っているからしかたがないよ。惑星のせ さすがのシオダも、一瞬論理的思考能力を失ったようだった。 いじゃなくて、中心の恒星のせいだと思うね」 たしかに、奇妙な姿だった。 " 何とも言えない。とか " 表現のし 「なるほど : : : 」 ようがない。とか記しておきながら、それを文章に表すのは矛盾が 話している間にも、高度はぐんぐん下がり、植物の形状までもあ「て作者としても気がひけるが、無理を承知でふたりにかわ 0 て が、スクリーンで見分けられるようになってきた。 ご説明すると、要するに顔に孔があいた生物たったのである。 「さて、いよいよ着陸を敢行する。準備してくれたまえ」 孔といっても、その孔から向こう側が見えるわけではない。向こ ヒノの口調が真剣なものにな 0 た。シオダとアールはベルトを締う側の見える孔のあいた生物なら、広い宇宙にはいくらでもいる。 土ール め直した。 ふたりがおどろくようなことはない。その孔は、ふつうの孔とちが " ヒノシオ夛は』ノの巧みな操縦によ 0 て、目標地点の真上、百 0 て、先の見えない底なしの孔だ 0 たのである。だから、 " 孔あ 426
ヒノがおだてるような声でロをはさんだ。 『機嫌をわるくなんか、ちっともしてやしませんよ』 『じゃ、簡単にお話しますよ』 ロポット、アールの錆びた金属音は、依然としてものすごかっ アールは少し機嫌を直したようたった。 『わたしの前身が何たったのかは、自分にもよく分かりません。た ヒノはため息をついて、シオダを見た。シオダはすでに落ち着きだ、かなり高度の宇宙用ロポ , トだ 0 たことは確かです。頭脳の冴 を取りもどしていた。物に動じないのがシオダのとりえのひとつでえといい、運動神経のすばらしさといい、現在のわたしにそなわっ ある。彼はゆ 0 たりとした口調で、アールに話しかけた。このようているこの機能を思うとき、前身はよほど高貴の生まれた「たと考 な場合、とにかく相手のペースで話すのが事態をこじれさせない最えられます』 良の策なのである。 「だろうなあ : : : 」 「アール、きみはロポットの中でも、最優秀と言われているんだ ヒノがあいづちをうった。 が、どこの工場で生まれたのかね ? 」 「論理的に言って、そうではなくてはならない」 『知ってるくせに、またそんないやらしい質問を : ・ : ・』 シオダも大きくうなすいた。 アールはまだぶつぶつ言っていた。。 ふつぶっといっても、身の丈『記録に残っていないのは残念ですが、わたしの前身はすばらしい 二メートル五十センチ、体重三百キログラムもあるから、人間がぶ働きをしたにちがいありません』アールの金属声は調子づいてき つぶつ言うのとは、だいぶ迫力がちがう。 た。『しかし、前身は役目を終え、寿命が来て、火星の運河のほと しかし、シオダは態度を変えなかった。 りにある、小さな町工場に払い下げられました。そこの生活は数年 「いや、・ほくたち人間は、意外に情報に乏しいんた。きみと一緒の だったようです。町工場が不景気で倒産し、ポンコッ屋にタダ同然 調査行は今度がはじめてだし、なにせ安月給のペ ーベーだから、大で売りとばされてしまったのです』 事なことはちっとも知らせてもらっていない。うちの課長も部下の「気の毒に : しーしいかげんな方だからね : : : 」 ヒノとシオダはアールを見つめた。アールのレンズの眼から、錆 『そうですか ? 本当に知らないんですか ? 』 色の涙が流れた。 アールはシオダのまねをして、ギシギシッと小首をかしげてみせ 『ちょうどその時、″惑星開発コンサルタント社″の技術部の人た こ 0 ちが、安上がりでロポットを作るために、中古ロポット の部品集め 「本当だ」 をやっていました。そして、ポンコツの山の中から、わたしを発見 シオダはまじめな顔でうなずいた。 したのです』 「おれも知りたいよ」 「さすが、眼力がたかい」 こ 0 っ 4 9
で、いったいなんメートルあるのか見当もっかない噴水平身低頭して、また明日もたのむという。 ップはいささかは きちんと給金をくれるなら、ストリ があり、陽光に虹を作っていた。 人々のようすは、地球の人と変わりなかったが、着物はずかしかったが、旅のはじはかきすてと、それから五十 日間ショーに出演し、五万円の金をためた。そうこうす ずっと軽便にできている。私がキョロキョロしていると、 るうちに、お客も減ってきたので、主人と円満に別れた 気数人が集まってきて、私のスタイルを見て大笑いする。 私は、この星を見学して歩くことにした。 腹をたてて、なぐりかかろうとすると、仲裁が入り、 ス 結局、抽籤に当ったひとりが私を家へ案内した。三 ~ 四水品の建物のたちならぶ、この世界の道はすいてい 日、おいしいものを食べさせてくれ、ていねいに扱ってた。というのは、この星の金持ちはみんな一人乗りの空 くれたのでよろこんでいると、ある日、その主人が見せ中歩行器を持っていて、道を歩いているのは貧乏人ばか りだったからだ。 物に連れていってやるという。 ホテルに一ト月分の滞在費を前金で払った私は、毎日 ところがゞこれがインチキで、私が見せ物にされてし まったのである。また、その見せ物の内容がひどい。数いろいろなものを見て歩いたが、びつくりしたのは〈空 ツ。フにされてしまったのだ。最中戦争〉ゲームだった。大洋の上空の交通権をめぐっ 千人の観客の前でストリ 後のフンドシをとることを拒否すると、。ヒストルでおどて、ふたつの国が五十個ずつの気球で戦うのだ。紅白の かす。泣く泣く裸になること六回、くやし涙にくれてい色分けをし、一時から四時まで戦う。五個の気球を破ら れると、そのグルー。フは退いて、さらに五十個の新グル ると、主人は数千円の金貨を私の着物の袖に押しこみ、 ー。フがでてくるというル 1 ルで、気球の総数はいくつに なるか見当がっかない。 さらに、おどろいたのは、これは明らかに征空権をめ ぐる戦争であるのに、興行として成立していて主催は気 球会社、しかも馬券ならぬ気球券を売っている。ギャン ・フルにもなっているのだ。 さて、ホテルに帰ってみると、テー・フルに毎タ絵入り 新聞という新聞がおいてあった。地球の新聞を読むつも りで手にした私は、おおいに驚いた。 〈瓦期輪灯を空中に点し、太陽に擬す〉 という見出しの記事が目に入ったからだ。この人工太 陽をとりつければ、夜、ラン。フなどは不要になるし、石 油、ろうそくによる火事が激減するだろうとのことだ。 : 299 :
タキは絶句した。 「では、地下に生物がいるのではなく 展望窓の正面には二つの太陽があった・ ポルへウス連星ーーーその二種類のスペクトルはまばゆく、その中「そのとおり」教授は言葉を継いだ。「惑星ミノタウロス自体、一 5 《 0 間あたりに位置するはずの惑星ミノタウロスは見えない。しかし、個の宇宙生命と考えられる訳だ。あの軌道修正の能力にしても、自 二つの太陽光を遮蔽すれば、直径四百キロの噴火口から吹き上げるらの制御能力のごく一部という気が私にはする」 炎が認められるはすだった。 タキも両手で二つの太陽を隠し、中央にあるはずのミ / タウ卩ス 視覚の。フラグを宇宙船の観測機器に接続している教授には、それを見ようとした。・ : 惑星ミノタ カ肉眼では無理なようだった。 が観察できるらしかった。 ウロスは巨大な火山を噴火させて、ポルへウス p-q との衝突を避けよ 「地下通路の気流ですが、なぜ一方のみに流れ込んだのですか」タうとしているのだ。 「きっと彼は・うまく通り抜けるだろう。その時、もう一度接触を試 キは説ねた。 「きみのような古いタイプの宇宙飛行士は必すいじったことがあるみよう。何しろ素子の数だけでも軽く一兆を越すんだ。意識を持っ はずだよーーあの迷路の分岐点は一種の純流体素子なんだ」教授は知性体と考えられないではないからな」ヤマモト教授は観測機器で ミノタウロスを眺めつづけているらしい。「そうなると、遺伝子が 説明した 純流体素子ーーそれは流体の流れを機械的な部品を一切使用せずわれわれの墓石くらいある可能性だってあるじゃないか : : : 」 タキは教授がどんな表情で話しているのかうかがってみるのだ に制御する素子、流路の。ハターンのみで流体が制御される素子だ。 が、銀白色の金属体には何の表情も現われていない。だが、感動し 電気信号に較べると応答は極めて遅い。信号の速度が音速以上には ならないからだ。が、動く部分が何ひとつないことから、どんな苛ているのだけは確かたった・ 酷な環境にも耐え得る。このことから、宇宙船の制御系統には数多 くの純流体素子が使用されていた。 「迷路の分岐点の左右には入力用の小さな穴があったはすだ。左右 いずれかから気体が吹き出すと通路を流れる噴流は分岐路の反対側 の壁面に付着したかたちで一方向に流れることになる。 : : : 私はそ れを予測しただけだ」教授の口調はおだやかだった。 直径五メートルの流路の純流体素子、それが組み合わせられ て惑星全体を回路で覆っている訳だ。私が調べた範囲だけでも、増 幅回路、フィード・ハック回路はじめ、さまざまな・ ( ターンがあっ た。その中を地底から噴出する気体が信号となって走り抜ける・
かも覚束なかった。今や、立ち止まることの恐怖が、私を前へと推 私は仲間たちを振り返って、叫んだ。 し進めていた。 「君たちはキャンプに戻れ。おれは、彼を連れ戻す」 ふいに、白い壁の向こうから、鋭い硬質な音がとどろいた。銃声 返事も待たす、ザックを脱ぎすてた。。ヒッケルだけを握りしめ、 だった。一発、二発。私の意識は空白になった。それが意味するも 雪煙を衝いて、進み始めた。 誰のものとも知れぬくぐもった叫びが、背中で聞えた。だが私にのを、理性は認めたくなかったのだ。 振り向かなかった。そうすれば、二度と進む勇気を失うだろうこと彼は、タブーを犯そうとしているー スコットは、狂いつつある。 立ち止まり、私は文字通り絶叫した。 を、直観的にさとっていたのだ。 わけ その理由も、私には分かっていた。彼は、情念たけの存在に化そう「スコット だが手応えはなかった。それは、狂奔する風にとらえられてあっ としているのだ。 このさささりと引き裂かれ、むなしく空に四散したかのようである。 そして私には、彼をぶじに連れ戻す義務があった。 私の意識は煮えたぎる焦燥感で充たされた。無意識に一歩踏み出 やかなチームのリーダーとして。 ふいに足もとが揺らぎ、体があっけなく宙に投げ そうとした。 私は彼を追った。しかし狂気に高揚した彼の足どりは速く、追い出された。おそらく私は雪庇の上に近づいていたにちがいない。雪 すがることは不可能だった。ものの五十メートルも進まぬうちに、 の罠の一つに、気付かぬ間にくわえ込まれていたのだ。 たけ・フリザー それまで見え隠れしていた彼の後姿は、咆え猛る雪嵐の壁の向こう私は再び絶叫した。絶叫しつつ雪塊とともに無限の空間に雪崩れ おちて行った。・ に呑み込まれてしまった。 しかし足を止めるわけには行かなかった。私が彼を見殺せば、そ 6 の運命はあまりにも見えすいている。二度とキャン。フに戻ることは 出来ないだろう。 直感にたより、やみくもに進んた。自分が侵してはならぬ行動の私は呻いた。苦痛からではなく、心地よさからだった。母親の懐 境界を越えつつあることをさとってはいたが、自己保存本能以上のに抱かれているような甘い温もりが、凍りついた私の体を、芯から 暖めようとしている。 ものが、私を駆り立てていた。 私は再び身も心も宙に浮くのを感じた。生きることのすべての苦 筋肉の燃焼にその働きが追いっかず、肺は熱く灼け始め、心臓は しつこく はげしいドラムビートを奏で始めている。私自身が生存を賭けてい渋、桎梏を忘れ、その温もりに自分をゆだねて行った : ・ しかし甘美なたゆたいは永遠には続かなかった。自意識はおのす るその肉体の叫びは、雪嵐の咆哮をも圧していた。ーーーすでに、時 間と距離感覚とがうすれつつあった。彼の跡を正確に辿っているのから表層に向かって上昇し続け、私はついに自我をーーー現実感覚を っ せつび 7
「まだだ」 私は叫び返した。 その足跡のかたちは、私の目前にあるそれとに、びったりと重な 7 「 < ポイントまではすぐた。少くともそこだけは調べる」 っていたのだ。深々と沈み込んだ踵の跡が、それを印した者のおそ 私の決断は冷静さを欠いていたかも知れない。しかし木俣への言るべき体重を示している。 葉は嘘ではなかった。ポイントまで、もう十分もかからなかった 私はほとんど恍惚とそれに見とれていたようである。スコットが ろう。ーー私たちは強引に雪煙をかいくぐって進んだ。 目を上げ、ふいに緊迫した声でいった。 覚えのある岩塊がゴーグルに・ほんやり浮かび上がった瞬間、私の 「あれを見ろ ! : やつは、よろめいている」 胸はすべての不安を忘れて高鳴った。 私は彼の視線を辿った。足跡は、五十センチほどの間隔で続いて 息と胸とをはすませながら足を運んた。スコット がびったり私に いる。五メートルほど向こうで、大きく乱れていた。よろめき、辛 尾いて来るのを感じていた。岩の間に顔を近づけ、肉塊の変化を読うじて体を立て直したかのように、横に逸れ、一部が重な 0 てい み取ろうとした。白く雪が吹き溜ろうとしている肉の山は、たしか た。目を凝らすと、その向こうの足跡も、必ずしも直線を保っては に大きくかき乱されているようである。 しないよう - ・こっこ。 ぐいと肱をつかまれた。振り向いた私に、スコットが無言で岩の 「やつは餌を食った。ーー薬が回り始めたんだ」 北側の雪面を指さした。悪化してゆくゴーグルの視野ごしに、私は スコットは喘ぐようにいった。立ち上がり、雪を蹴散らして、私 い 0 しんに目を凝らした。ーー・何かが点々と雪に刻まれている。稜たちを見守 0 ていたシ = ル。 ( たちの傍に戻 0 た。その一人の肩か 線を、北の斜面へと下って行っている。足跡に紛れもなかった。 ら、ライフルをもぎ取った。私には目もくれず、足跡を追って進み 私とスコットはもつれ合うように進み、足跡の傍に、同時に膝を始めた。 ついた。顔をすりつけるようにして、それを見つめた。 私は茫然と立ち尽していた。とっさにその行動を理解しかねたた 「こいつだ・ : : こ めである。ふいに何かが閃き、私に叫んだ。 スコット・、 , 甲、こ。 「スコット、馬鹿な真似は止せ ! やつに追いつく前に、嵐に巻か 「シ。フトンが撮ったものにそっくりだ」 れるそ ! 」 私もすぐに、あの有名な写真を脳裡に呼び起こしていた。一九五「止めてもむだだ」 エリック・シプトンとマイケル・ウォード が、メンルング叫びが戻って来た。 氷河で撮影した写真。幅三十二センチ、長さ四十五センチの巨大な「こんな機会を、見逃せるか ! 」 足跡。太い親指をふくめ、五本乃至四本の指をそれは示していた。 魔女の悲鳴に似た風の音とともに雪煙が舞い上がり、スコットの 今までに知られた猿、熊、豹、そして人間のものでないことは明白姿を白い闇の中に呑み込んた。
十一機積みこんで、これを日本列島のはるか沖合いの太平洋上からた。 2 その日、私は家にいた。今は町名を練馬区羽沢というが、当時はけ 発進させ、日本のレーダーの電波をかいくぐって、超低空から東京 板橋区練馬といった。 や横須賀、名古屋、大阪などを爆撃しようというのだ。 これが、何で冒険なのか、若い読者諸君には、ちょっと理解し難正午まで、あと五、六分というところだった。 とっぜん、けたたましい砲声が、空に鳴りひびいた。 いことかもしれないが、空母というと、原子力空母エンター。フライ ズのような、マンモス空母を連想するかもしれないが、このホーネ最初は、それが何であるのか、気がっかず、毎月、きまった日に ットという空母は、排水量はわずかに二万八千トン。エンタープラおこなわれる地元の稲荷神社の例祭の、打ち上げ花火だと思った者 も多かった。 イズの満載排水量の三分の一程度で、飛行甲板は長さ二百八十メー だが、その轟音は、ふだんの打ち上げ花火の、ポン、ポポンとい トル。幅は三十メートルたらずしかない。空母というのは、もとも ザ と単発の艦上機を搭戴するものだから、まさかこれに双発の重いう聞き馴れたのんびりした音と異なり、頭の上から、ザッー とのしかかってくるように鳴りひびくのだ。 % 爆撃機を乗せてくるとは、日本軍の高級参謀といえども考えなか おどろいて見上げる空に、茶色の団雲が、ばつ、ばつ、と開いて ゆく。青い空が、みるみる薄汚れてゆくのだ。 ドウリットル大佐の日本列島急襲は、見事に成功した。 わずか十一機の双発爆撃機がおこなう散発的な爆撃だから、実質誰云うとなく、あれは高射砲だ、ということになって大騒ぎにな 的な被害は極めて少なかったとはいえ、日本軍の面目は丸つぶれだ った。このままでは、西太平洋の守りが十分でないと考えた日本軍そのうちに、ラジオが、敵機が本土に侵入したとわめきはじめ ミッドウェイ島を占領しようとして連合艦隊や輸送船団た。 は、六月、 を進めた。そして劇的な大敗を契する。精強な空母部隊と艦隊航空しかし、その敵機なるものの姿はどこにもなく、やたらに高射砲 が鳴りひびき、あわてふためいたように戦闘機が高く低く、飛びま 隊を一挙に失った日本は、それから急な坂をころげ落ちるように、 わった。 昭和二十年八月まで敗戦の道をひた走ることになる。 気がつくと、南の空に、幅広く黒いけむりが立ち上っていた。 きっかけというものは、おそろしいものだ。 しようい あとで聞くと、早新田の鶴巻町へんで、焼夷弾によって百五十軒 その爆撃隊の指揮官ドウリットル大佐の名は、多くの日本人にと ほど焼けたという。 って、忘れられない名前となって記憶に残った。 そんな騒ぎが、午後いつばいつづいたが、後年の四による本格 その昭和十七年四月十八日は、よい天気だった。まだ新緑には間的な東京爆撃にくらべて、全く緊張感がなく、ただ、あれよあれよ があったが、すでに桜も終り、上着をぬぎたくなるような陽気たっと過した一日たった。
ひとつ手前の分岐点を右に入り、また引き返し : : : こうして、二千れでもいい。慣性記録装置は作動している。それを頼りに戻ること メートルの限界点を三百点チェックして、まだ発見でぎなかった。 は可能だろう。 事故地点を出発して、すでに十時間経過している。が、調査のペー 背後に気体の迫る気配がした。タキは体を固くして待った。津波 スは遅すぎる。予想では、チェックしなければならない二千メート の前ぶれのように周囲が静まったような気がした。 ル地点は六万五千以上あるのた。大樹の根の先端から始めて幹に至 そして、それは来た。猛烈な何かが分岐点に達する気配があり、 る作業をタキは行なっている訳た。十時間連続して行なえたのは、風の音がした。通路全体がうなりを上げた。 が、救助艇には何 むしろ驚異的な体力といえた。・ : そしてタキはほんの数時間、眠も起こらなかった。びくりとも揺れない。艇体は同じ位置に停止し たまま、何の衝撃も受けないのた。 気圧計が、最も低いレンジでかすかに振れた。 風は分岐点の左側に勢いを弱めることなく吹き込んでいて、タキ タキは限界点に近い分岐の一つに艇体を寄せ、席にもたれて眼をのいる右側通路は何の影響も受けていないのたった。 閉じていた。 風は二時間以上っづいた。 気圧計の針は徐々に上がり、 0 を越え、同時に大気の存在を 、力 / ュノし , ア タキはふと眼を開け、その気配風が吹き止んで、タキは捜索を再開した。不思議なことに、通路 を感した。皮膚全体が周辺の気配の急変を感知したようだった。 内の気圧は、風が治った後、二〇〇皿を保ったまま低下しなかっ 衝撃はその直後に来た。ビシッと透明な鞭が艇体全体を打つよう た。あたりには大気が充満しているのだ。 な音がし、周囲がビリッと一瞬震えた。タキは瞬間、何が起こった ( あの風はどこから吹くのか ) のカわからなかった。、、 : カ気圧計と温度計の針が表示レンジを飛び大気の組成はわからないが、地下から吹き上げてくるとしか考え 越えて踊ったのを見て、事態を察知した。希薄な気体の中を衝撃波られなかった。やはり地底には大気に満たされた広大な空間がある が通過したのだ。 のだろうか : タキは身構えた。間もなく迷路の彼方から猛烈な速度で気体が吹捜索を手順どおり続行しながら、タキの念頭からはそんな想像が きつけてくるのだ。その瞬間に反射的に艇の噴射装置を全開にして離れなかった。 対抗しなければならない。 タキはひとつの失策に気づいた。艇体は分岐の右側に入り込んだ そしてーーーヤマモト教授を乗せた移動装置は、五時間後、あっけ 位置に、機首を前方に向けたまま停止しているのだ。気流は背後か なく見つかった。 ら襲おうとしている。逆噴射で対抗するには推力が弱すぎるのた。 さらに数十箇所のチェックをつづけて、タキは出発点に近い分岐 4 が、今方向を転換するのはなお危険た。迷宮の中へ流されるならそ点まで救助艇を戻していた。突風に出会ってから、機首は出発点側
「教授の乗った移動装置というのはどんなものだったのですか」タとして回転する自在シートで、艇体のどの面が下になっても走行で きる構造た。視界は真下方向を除いて前方一八〇度に開けている。 キは訊ねる。 「単座の地表走行車を改造したものです。慣性記録装置は搭載して四本のワイヤーで吊された艇体が揺れるたびに、シ 1 トは左右にか ありませんから、駆動装置に故障がないとしても、分岐点を十箇所すかにローリングした。 艇は暗黒の竪穴の真上に吊られている。二重太陽は昇りきってい 以上通過していたとしたら、帰還は困難になります」 タキは数字を頭の中で組んでみる。二方向への分岐点が十箇所とるが、光はまったく射し込まない。穴の周囲には、宇宙服姿の調査 すると : ・ : 1024 通りの通路か : 。二十箇所で : : : 百万を越員たちが立って救助艇を見守っていた。 出発の時間た。タキは右手をあげて合図を送った。 すな。 投光器が四囲から下方に向けて点灯された。同時に四基のクレー 「その事故は何日前です」 「十二日前です , ヘントフ局長は答えた。「教授の生命維持装置はンに動力が入る気配があり、ワイヤ 1 がいっせいに巻き戻されはじ めた。視界が揺れる。救助艇はゆっくりと穴の中に吊り降ろされは 心配ないと思います。移動車にも耐震装置は装備してありました。 じめた。 救出を急いでいるのは別の事情があるからなのです」 艇の正面、ほんの三メートル先にヘントフ局長の姿があった。席 「別の事情 : : : 」 「ミノタウロスの軌道です。それは連星の間を通り抜ける戦道を進の位置が同じ高さまで降りてきた瞬間、局長はタキに向って、黙っ んでいると思われていたのですが、最近の精密な観測結果では、こて右手をあげ、ゆっくりと振りおろした。言葉はなかった。手順に のまま進むと、主星ポルへウスに接近して、衝突はしないまでついてはすべて打ち合わせ済みだから、何も話す必要はないはずだ が、その仕種の意味をどう感じていいのか、タキは一瞬迷った。 も、ロッシュの限界に入る危険性が発生したのです」 「安全を祈る」「絶対に教授を救出してくれ」「無理はしなくて 「日数の余裕は」 いい」「期限がくればわれわれは出発するからな」 : : : さまざまな 「最大三十日が限度です」局長はいった。「それを過ぎれば、仮設 解釈が頭をかすめた。タキは局長の表情を見ようとした。が、 基地を徹去する予定です」 チライトの逆光で、見極めるのは無理だった。 それまでに地底からヤマモト教授の生首を持ち帰らねばならない タキの当惑に関係なく、局長のシルエットは地表の風景とともに タキはそんな連想をした。 上方に移動し、正面の窓ごしには、荒つばく掘削された岩の壁面が 迫り上がってくるのが見えた。 ワイヤ 1 を伝わってくるクレーンの動力のかすかな 4 物音はない。 タキは救助艇〈テセウス〉の操縦席についた。艇の進行方向を軸振動があるだけた。投光器からの照明は急速に弱まっていった。あ