「そりや、そうだ」 んな奴ら、早くどこかに行っちまえばいいんだ ! 」 ヒノの声には、もうアセリはみられなかった。まず行動してみる「ヒーツ こと、走りながら考えること : : これが、昔の日本地区の血をひく ヒ / はもう一度跳び上がった。 ヒノの身上なのである。 「だ、だいじようぶか、シオダ本社に聞こえちまったら、おま 彼は、パイロット用の計器をにらみ、艇が正しい着陸コースをたえ : どっているかどうかを確認した。異常はない。惑星や衛星の重力に 「そうおどろかなくてもいいよ」シオダは悠然として言った。「む よる摂動も正常である。 ろん本気で言ってるわけじゃない。活力を養ってるだけさ」 「活力 ? 」 ヒノはひとます安心すると、シオダに声をかけた。 「それにしても、 ヒノは呆気にとられた表情だった。 ″プラックホール″というのはよく分からんもの だな」 「そうさ」シオダはにこにこしていた。「たいたい、サラリーマ における上役の悪口というのは、天候のあいさつみたいなもので 「うん、とくにこの《プラックホール惑星》というのは謎が多い。 本社の理論物理部門でもお手上げたと言っていたね」 ね、一種の気晴しのための冗談なんだ。つまり、人間は上の階層の 「それだけに、おれたちの使命は重大た」 人物に対する悪口を言うことによって、心が浄められ、明日への活 「そもそも《プラックホール惑星》が調査項目に取り上けられた動力が湧いてくるんた。これから着陸して探検する《・フラックホール 機というのが正常ではない」 惑星》はなみたいていの相手ではなさそうたからね。勇気をつける 「つまり、不純たってわけだ」 ために上役の悪口を言ってみただけのことさ」 「そのわりに、・ほくらの待遇は改善されていない」 「うーん。突如として理屈つ。ほく話しだすから驚くじゃないか。冗 「たしかに、つらい仕事を与えられるわりには、給料が安い。太陽談なら冗談らしく喋ってほしいなあ : : : 」 系も低成長時代たからしかたがないのかなあ ? 」 ヒノが安心したような声でこう言ったとき、今度はシオダの方が 「いや、部長や課長が悪い」 緊張した大声をたした。 「おい、ヒノッ ! 気をつけてくれ。コースが少し狂っているんじ ヒ / は跳び上がった。ふだん落ち着いているシオダが、こんなこ ナ . い、かッ・」 とを言うとは、考えたこともなかったからである。しかしシオダ「ややッ ! 」 は、平然として喋った。 ヒノはあわてて、コンソールとパネルにしがみついた。たしかに 「われわれふたりが、いつまでもこんな損な仕事をしていなければそのとおりだった。シオダの突然の冗談にびつくりして徴調ダイア ならないのは、みんなリンガン部長やヴァーチュ課長のせいだ。あルを動かしすぎてしまったらしい。調査艇″ヒ / シオ号″のコース
っと考えていた。丸く並べてみたり、幾つか立てた上にもう一つを「こうしておけば、誰が作ったかわかると思います」 載せてみたり、子供の時の遊びを思いだしていた。 調査船が本船に呼戻された。もはや惑星からの拡大像はスクリー ンに見られなくなっていた。自働調査船と補助調査船を腹の中に納 二人が思い思いの方法で仕事を終えた時、ス。ヒリトはまだ仕事が 終っていなかった。調査船からの映像を覗いてみると、ス。ヒリトはめた宇宙船は、再びあてのない旅へとスビ 1 ドをあげた。 ビームを紋って、岩に自分の顔を刻みこんでいた。 「そろそろ出発するそ」 「もう少し待って下さい。あと少しですから , 幾つもの星雲をめぐった後、再びこの星雲に戻ってぎた三人は、 スビリトは言って、自分の顔の彫刻を仕上げた。それから補助調期待で胸をときめかせていた。すべてが予想どおりにいけば、惑星 査船を一隻残らず集めると、スクリーンの送受信を逆にした。一瞬が熟している筈であった。あの天国の飲物を口にすることができる の後、地表に並んだ無数の巨石に、アースウ = ルとビーチの顔が刻筈であった。 みこまれていた。 そう思うと、三人とも待ちきれない気持であった。クルス族に 「これでいいです」 とって、時間とは自由に伸縮できるものにすぎなかったが、それで 「俺はもう少しいい男だそ」 いても天国の飲物を思うと、あと僅かな時間を待っことが、限りな アースウエルが笑いながら言った。 く長い時間を待つように感じられていた。 「ええ。しかし、デザイン的に処理しますと、そうなってしまいま星雲に入ると、アースウエルは宇宙船のスビードをゆるめた。無 数の恒星の中から目的の恒星を見つけ、彼はまっすぐに進路をとっ スビリトはすまして言った。 た。ビーチがスクリーンの拡大率をあげたが、恒星に近い小さな惑 ハヤカワ・ノンフィクション シビルの内部で自律的に生きてきた年齢や 房 嗜好の異なるの人格を、いかにして″ひ とり〃に統合するか ? 病める少女の魂の 逼歴を通じて、人間存在の深奧にせまる / フローラ・日・シュライバ 巻正平訳 / ¥一吉〇 《好評発売中》 私のなかの人 シビル 3
シオダは追尾機構を作動させ、レーダの標準をあやしい宇宙船の 9 3 方に合わせた。大きさはナミである。つまり、百人乗りの恒星間連 惑星調査艇 " ヒノシオ号。の。 ( イ〉ト席の前方に設けられた立絡船と同程度の大きさである。形状は細部まではは 0 きりしなか 0 体スクリーンに、あやしい宇宙船の影がはしった。 たが、女性型というよりは、男性型に近いようにみえた。 「追跡可能かね ? シオダの追尾によって拡大されたあやしい宇宙船の、ぼんやりと 情報分析担当のシオダが頬づえをついた姿勢のまま、隣のヒノをした輪郭に、チラ、と視線をや「たヒノは、まじめな顔つきでシオ うかがうようにして、一一一一口った。 ダに話しかけた。 「あたりまえだ」 「なあ、シオダ、おれたち " 惑星開発コンサルタント社。の正式男 パイロット役のヒノはおこったような声をだした。 性社員としては、善悪は別問題として、ああいう形の宇宙船を見る スペシフィック・マス 「わが " ヒ / シオ号。の総合比質量は太陽系近傍では並ぶものがなとホッとするなあ : ・ : ・」 い。なにしろ、対消減 = ンジンのそれを上廻 0 ているんだ。しか「最近妙な形のが多いからな」 し、予定のコースを今になって変更するつもりかね ? 」 シオダはゆったりとうなすいた。 「いや , ーー」とシオダはかぶりをふ「た。「ーー本艇の性能ときみ「なにせ、きみ、空飛ぶ円盤の出現以来、どうもペ , サリー型の女 の腕を確認したかったにすぎない。目的地である《プラックホール 性的宇宙船が増えすぎた。けしからん ! 」ヒノは口からアワを飛ば 惑星》を眼前にして、 = ースを変更する理由はとくにない。このましはじめた。「もともとロケ , トは男性の象徴だ「たんだ。ゴ , ダ ま直進してくれたまえ」 トを見よ、フォン・プラウンを見よ、はたまた、イトカワ・ペン 「いらいらさせるなよ、シオダ」 シルロケットを見よー いずれもコンドーム型の男性的宇宙船では ヒノはコンソールの上でふしくれだった太い指をおどらせなが ら、両頬をふくらませた。しかし、すぐににやりとして、 「わが″ヒノシオ号″は男性的た。安心しろ」 「 : : : 我が行く先は《プラックホール惑星》、そして突如現れる謎 シオダが苦笑した。 の宇宙船の怪しい影 : ・ : いいなあ、なんちゅうか、的だなあ : ヒノはまだアワを飛ばしていた。 「いや、この艇だって、あぶなかったんだ。前の調査艇がポンコッ 「帰路の栄光が約東されているようなものだ」 になって、新調してもらうことになったとき、設計部の連中は、最 シオダも微笑した。 初、ひじようにいやらしい形のものを考えていたんだ。前方後円ー ″ヒノシオ号。は予定のコースを予定どおりのスビードで進行し ーじゃなくて、前ペッサリー後コンドーム型っていうか、まるでス ン・フツンツ こ 0
ⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢ聞ⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅧⅡⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅡⅢⅢⅢⅢⅢⅡⅢⅢⅡⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅡⅢⅢⅢⅢ聞ⅢⅢⅢⅢⅢⅡⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅡⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢ てつけ。やがて地球人も、核融合エンジンによ るロケットを開発して、太陽系を自由に飛び回 8 新連載サイエンス・トピック れる時代がくるでしよう。その時、太陽系外か らやってきた宇宙人にめぐり会いたいと思った ら、小惑星帯の星を探すことですよ」 。ハ。ハジャニス教授は、やがて小惑星の″ド宙 分譲地″に地球人が集団移住する″宇宙植民地 生命誕生のドラマにメス 計画″も現実のものになるはずだと威勢よくふ ち上げ、夢ははてしなく広がった。しかし多く の研究発表は、地道な積み上げを目指すものた 池見照二 った。地球の原始大気、生命誕生に至る前の化 カット / 島津義晴 学進化、光学活性、古生物学など色々な分野に またがる最新の研究成果が相次いで発表され、 物はどのようにして誕生したのたろうかー ・パパジャニス教授の「銀河系で高度技生命誕生のナゾに迫る着実な歩みを見せた。 ー生命の起源に迫る「第五回生命の起源国際会術文明を持つのは我々だけか」と題する研究発 その中で注目を集めたのは、三菱化成生命 議」が四月五日から九日まで京都で開かれた。 表。。 ( パジャニス教授は、これまでの各種の観学研究所の江上不二夫所長と、柳川弘志博士に 生命の起源研究の父、ソ連のオパ ーリン博士を測テータから「地球は銀河系の中で文明を持つよる〈前細胞〉の合成成功の快挙である。 はじめ : ( イキング計画の Z<T< ( 米航空宇宙たった一つの星ではないか」と推測しながら 現在の生命起源科学の最前線では、物質から 局 ) のヤング博士ら世界二十カ国から約二百人も、次のような夢物語を組み立てた。。 ( 。 ( ジャ生命に至る化学進化の。フロセスは〈前細胞〉か の科学者が集り熱のこもった論議を展開した。 ニス教授は濃いアゴひげをしごきながら、楽し ら〈疑細胞〉を経て〈原始細胞〉に至るものと 折りしも、日本とソ連とは漁業交渉をめぐっそうに語る。「地球がこの宇宙に生まれたのは考えられている。〈前細胞〉とは、高分子物質 て″漁業大戦争″の状態。米国とは、使用済み四十六億年前でしよう。銀河系の歴史は百億年が濃縮して細胞のような形を取っただけのも 核燃料の処理をめぐって″日米原子力戦争″とも二百億年ともいわれている。銀河系のどこ の。それが〈疑細胞〉になると、より一段と組 が繰り広げられていた。しかし、桜満開の京都 かでは、地球人より先に生まれ、地球よりはる織化されて化学反応が秩序正しく行われ、簡単 では、白熱の論戦といっても、生命誕生の真理探かに進んだ高等文明に達した星が、℃ 、くつかあな蛋白質合成と核酸合成のシステムが生まれ 究にかける科学者の熱意によるもので、そこに るに違いない。その星の数は百万を超したかもる。そして〈原始細胞〉になると、核酸が情報 は国際親善の友好ム 1 ードが満ちあふれていた。 知れない。その星の宇宙人が、宇宙船で宇宙に 源となって酵素が蛋白質合成と核酸合成を行う 「国家だ、民族だ、といっても、三十数億年はばたき、わが太陽系にもやってきただろう。 ようになり、現在の生物における遺伝機構に似 、地球に生命のかけらが生まれたところまでそうすると、どの惑星に目をつけて着陸したと た機構が生まれる。 たどると、人類も生物も、元は同し仲間だ。 思いますか。それは小惑早でしよう」 これまで〈前細胞〉として、オ ' / 、ーリン博士 つの源なんだ」と、ある若手の生物化学者のつ 小惑星帯とは、火星と木星の軌道の間を回っ の〈コアセルペ ート〉、米国のフォックス博士、 ぶやいた言葉が印象的であった。 ている小天体の無数の集まり。大きさは直径数原田馨筑波大教授の〈。フロテノイド・ミクロス 「生命の起源」研究というと、ひところは、空百メートルから数百キロのものまで、さまざま フェア〉の二つが知られているが、これに新し 想的な夢物語のようなものが多かったもので、 た。宇宙人は、これを″宇宙の寄港地″としてく江上所長らが加えたモデルが〈マリグラヌー 今度の会議でも、やはりそのような夢をふくら 利用したはずだというのた。 ル〉である。 ます研究発表も見受けられた。 「小惑星は重力が小さいでしよう。だから宇宙 コアセルペートとは、ゼラチンなどの蛋白質 たとえよ、 : ホストン大学天文学部長のマイケ船の離着陸は容易で、宇宙船の停車駅にはうつ 濬液を混ぜたときできる液滴のこと。プロテノ
作ったのだからな : : : 。救助班の連中は〈テセウス〉号と命名してた。 それがこの惑星の地底に拡がる、底知れぬ迷言の入口だった。 いるんだが」 ありがたい命名にもかかわらす、タキはかえって不安を感じた。 つ」 辺境調査基地のシミ、レーション装置で操縦は一応慣れたものの、 艇体から受ける印象までは訓練されていなかったからだ。 カリフォル = アの乾いた空気は、二日酔いの臭気を薄めるのに絶 ( それに今度の任務は宇宙空間の飛行ではない。何しろ地底の迷路 マ。こ 0 へ潜るのたからな : : : ) タキは〈テセウス〉の艇体をながめなが タキはペッドから体を伸、はして、窓を少し開けた。カーテンが風 ら、改めて任務の困難さを実感した。 目の前の艇体が血のような赤味を帯びたような気がした。錯覚でにあおられ、抜けるように蒼い空が見える。 酒の臭気と、五年間堆積している中年男特有の汗臭い体臭が、少 はなかった。赤い光が射しているのだ。 地平線から二つ目の太陽が昇ろうとしているのたった。すでに赤しずつ抜けていくような気がする。 ( ここは空調が完全な宇宙船の操縦室ではないんた ) タキは依然と 色巨星化の兆候を見せはしめた型スペクトルの恒星〈ポルへウス ウへウスと連星を成す伴星だ。今、二つの太陽は三十して頭痛が残っている頭で、そう思った。 Ⅱ〉 ッドに潜り込み、目を閉じた。 タキはふたたびべ 度の差で昇ってきたのだが、やがて数十日のうちには、角度はさら その時、部屋の隅で、映像電話のブザーが断続的に鳴り始めた。 に拡がり、出没の時差はますます開いてゆくだろう。な、せなら、こ の惑星〈ミノタウロス〉は、二つの太陽の間を通り抜けようとする起き上がる気力はなかった。タキはシーツを頭からかぶりながら、 軌道にあって、連星の共通重心に向いつつあるからだ。温度はさらそういえ、は操縦席を連想させる機器といえば、この部屋では映像電 にヒ昇し、夜は交互に昇る二つの太陽のために、さらに短くなって話装置くらいのものだなと思った。 タキは核融合推進の宇宙船が人類の獲得した最高速度であった時 いくにちがいない。 代に、最も高度な訓練を受けた宇宙飛行士だった。高に耐え、長 それだけは確かだった。 救出作業を急がねばならない 期間の密室生活に耐え、高度な操船技術をこなす能力を持つ、数少 「出発の時間は決まったのか」タキは局長に説ねた。 「まだだ」局長は断言した。「この整備が終りしだい、最後の打合ない人種のひとりだ「た。文字どおり、人類の最先端に位置する任 ワー。フ航行船が、何の苦もなく数光年の距離 務にあったのだ。 せを行なうことになっている。五時間もかからないだろう」 タキはさらに整備塔へ近寄った。それはなしろ油田の試掘櫓のよを一瞬のうちに移動しはじめるまでは。 ワー。フ航法の開発によって、タキの持っ操船技術は色褪せたもの うな印象を与える。吊された艇体の下には、艇体よりもやや大き になった。核融合推進による飛行は、せい・せい百天文単位程度の距 、」目一釜十メートルはあろうかと思われる暗黒の穴が口を開けてい
いが嫌なもんだぜ。それが、現実の上での戦争はない、ただ苛酷よ オ「しかし情報はつぎつぎと続いてはいったのでしよう ? 」 宇宙とたたかう人間の尤も能率的な組織としての宇宙軍の兵員の使と待ちきれなくなった若者らが詳細を知りたがって口々に催促し 命】つまり戦いなんだということが本当に解ってくるには、どうし ても五六年はかからア。 「そのウラノ古参操縦士どのの事故はどんなものだったのです ? 」 「冥王星でこっちの郵逓機が遭難しているって報告がはいったとき は驚いたナア。おれは食堂のラジオでそれを聞いて、上杉謙信じゃ ☆ ないが持ってた肉又を落っことしたヨ。入営して始めての事故事件「もちろん、だんだんに委しい事情が判ってきた」 だった。報される事故そのものよりも、とたんに営舎ぜんたいが蒼とナルセは語りつづけた】 白になってたちあがる見えない衝撃の波と、救助隊の非常召集でご 「それは事故そのものの規模からすれば大した事じゃなかったと云 ったがえす司令室と本部、格納庫、離着床の人の動き、いわばそうっていい。本人が・手足は失くしたが助かっていて、他に死者もなけ いったものの総合がつくりだす基地じゅうの血相変えた空気のほうれば船も壊れなかったんだからーー・・だが、事件の性質は他のどれと が初年兵の身にはこたえるネ。指名されない者たちは一人残らず宿も違 0 てた。あれはそんじよそこらに転が 0 てるような空間事故と 舎で各自の無電に齧りつく。無電といったって冥王星からじや一時は一緒にならない、のちにおれ達の小さな神話になったものなんだ。 間以上もかかって来る電波なんだ。 「ウラノは熟練した一等操縦士だった。かれの完璧な伎倆がし損じ 「そのうち電視がはいりだした。ドーム内から外にいる遭難機を撮をやることはまず無かった。この場合も事故の責任は大ぶぶん先方 るたけしかできない様子で、画面が整流不足でチラつくような物凄】冥王星ドームの側にあった。しかし本当の理由は、つまるところ、 い・フリザールの中で、近くへ着陸しているウラノ機がはんぶん横仆 この太陽系さい果ての惑星を我々がまだ充分に識りつくしていない しのようになって船倉の扉があいているのが映って見えた。これじためだったのだ。 や内部の者とっさには操縦室を密閉することに成功しなきや助から「外惑星世界の多くの設営基地はほとんどそれらの衛星の一つに在 ない。しかもウラノは着陸した以上荷物を下ろすために船倉にいたる。もちろんその方が船の出入りにも本星観察にもべんりだから 公算のほうが大きいんだ。営舎じゅうから皆の呻く声が聞こえたー だ。しかし冥王星のものだけは本星上に置かれていた。それは何と ー電視の画像がこうしてここにいま写し出しているのは、じつは二 云っても、この、地球人さいごの探求の場たる未知の世界が、当の 時間も前のもので、たといウラ / の生きて動くのが見えたとして惑星自体に外ならぬからだった。その自転周期と衛星ケルベルスの も、むこうにいる実際の本人はもうその時には死んでるかも知れな実在からしてが、まず第一に確かめられなければならなかった。 いのだから。おれは正直、このときばかりは宇宙者になりたが「た軍観測班と官民の学術隊共同の調査基地は本星北極点におかれて のを後悔したよ」 いた。地表常温零下五〇〇度の宇宙温度の世界は、ある設営の位
うな印象をラクザーンの住民に与えたくなかったのだ。この投票結 8 果に重味をつけ、既定の事実で今後動かしようのない決定事項だと 4 の印象を徹底しておくべきなのである。それに、投票結果発表によ 最初の暴動は、住民投票の結果を発表してから十五ルース後におって惹起されるかも知れない事態をある程度予想し、予防措置なり 対処策なりを考えておくのが望ましく、そのための時間も欲しかっ たのであった。 それは、住民投票が終了してから十七ルーヌめにあたる。 住民投票の結果そのものは、ロポット官僚の目の前で投票機のポ植民者たちは、第一四〇一星系第二惑星・ーーノジランを選んだ・ ′ンを押すという投票方式をとったため、刻々に各投票所の集計をそれも、圧倒的な比率でである。ノジランが七割強、カークスンが 二割弱で、あとの一割が白紙であった。マセは、ひょっとすると白 一かむことが出来、投票締切りと同時に、判明していたのた。 それを発表する迄に二ル 1 スを置いたというのは、なかば必要に紙がもっと多いのではないかと思っていたのたが、投票者たちにし ~ られたからであり、なか・はは司政庁側の計算があったからであてみれば、現実に自分自身がこの世界をあとにして、どこか新しい 必要にかられたというのは、マセにしにしろ、やはり ところに移り住まなければならないことが身近く感しられて来るよ 」の結果をもう一度確認する操作をしなければならす、また、連邦うになると、かっての、さまざまな選挙なり投票といったものの場 皿営機構に対し、ラクザーンの司政官が、遅れていた退避先の決定合と違って、他人まかせの白紙を出すようなことは、出来ない心情 ~ 踏み切ったこと、その決定の主因は住民投票の結果によるものでになって来たのであろう。誰かから意見を聞いてでも、自分の行き のること、を通知し、司政官の選択を認めてくれるように要望する たい世界を決めたのに違いなかった。 続きが残っていたのだ。この要阜に対する連邦経営機構の認可は そして、 ( 実のところは、やむを得ず二者択一を迫られただけで プぐに来た。もともと連邦経営機構としては、そういう決定は現地あるにしても ) このようにノジラン行きを希する者が多かったと いうのは、やはり、自分たちより先に人間が住みついている世界に ~ 司政官の判断にゆだねるべきだという建前論もあり、そのほうが 入れて貰って、既得権の侵害だといわれたり、新参者と蔭口をきか 冖営機構としてものちのち責任をかぶる可能性がすくなくなるとい , 事情がはたらいていた上に、このたびは、退避先惑星がすでに司れたりするよりは、多少の困難がともなっても新世界を開拓し、新 ( 官のいる第九八八星系第三惑星になるのならともかく、全くの新世界の生え抜きの植民者になるほうが良さそうだ、という判断を、 」界である第一四 0 一星系第二惑星に決まるとなれば、直ちに司政人々が下したのを示しているのだろう。は、カークスンを選 口を派遣しなければならない、それゆえに、 一日でも早く決定したんだ人々の共通性を分析して、かれらの多くが、先に植民している 】った問題だったのである。 と、こうした、必要にかられての人たちとすぐに交渉を持ち、それによって成立したコミュ ョンを足がかりとして今後の生活を築いて行けそうな、そんな資質 」と以外に、マセとしては、投票結果があまりにもお手軽に出たよ
なうのは機械である。第四惑星に関する情報は、調査船から宇宙船からこそ、この惑星に知性がないことを、自分で確認して納得した へと伝えられ、三人の乗組員によってではなく、宇宙船によって処かったのだ。 「ソイヤーの原理を知っているか ? 」 理されていた。この惑星にいる生物が、知性とよぶに相応しいもの をもっているかどうかを、最終的に結論をくだすのは、三人ではな ア 1 スウエルが言った。ビーチは「やはり、あれかーと思った。 くて宇宙船なのだ。彼等三人は、その結論がでるまで、じっと待つ「なんですか、それは ? 」 ていればそれでいいのだ。もちろん、ス。ヒリトのように映像と音声 ス。ヒリトにとって、ソイヤーの原理というのは初耳であった。 をモニターすることも自由であるが、惑星全体の調査のように、長「簡単に言えばだ、ある惑星を我々に都合のよい条件に変える、一 い時間を要するものの場合は、神経の緊張を持続できない人間よっの方法だ。この惑星が、その条件にびったりという訳なのた」 りも、機械にまかせる方がミスが少なく、したがってスビリトのモ 。ヒ 1 チが説明した。 すると、あそこ ニター行為は、たんに自分の好奇心を満足させるためにすぎない。 「変えるって、かなり大規模にやる訳でしよう ? そのス。ヒリトも、スクリーンを見守ることに飽きてしまい、他のに住んでいる動物たちは、どうなるんです ? 」 二人と同じように、目を閉じて自分の殻の中にとじこもった。 「かなりの数が死ぬ。種族によっては絶滅するかもしれない。その どのくらい時間がたったろうか、やがて機械が調査の完了を告げために、知的生命の存在を調査したのだ。知性を抹殺する訳にはい この惑星の た。アースウエルがスイッチを操作すると、パネルに″ かんからな」 生命に知性は認められない″と調査結果が表示された。アースウェ アースウエルが答えた。知性とは相対的なものである。高度に文 ルのロもとがほころんだ。彼は。ヒーチとス。ヒリトを見た。 明の発達したクルス族にとって、ひとつの惑星にしがみついて生 「ちょっと待ってくれ。こういうことは、やはり機械まかせでなきている生物に、知性を感じ得ないとしても、それは当然のことで く、自分の目で確かめたいー ある。ある生物が彼等のいう知性に発展する可能性をもっか否か 。ヒーチが言った。アースウエルが頷くのを見て、。ヒーチはスイツ は、アースウエルや。ヒーチのように、大宇宙のあちこちを歩きまわ チに手を触れた。スクリーンに立体像が現われ、高速でスキャンさ った、経験豊富な者で初めて判断が下せるのであり、それですらミ れたぼやけた映像となって、次々と変った。陸上、海上、そして海スをおかさないために、宇宙船のメイン・コン。ヒ = ーターの判断を 中。。ヒーチは時々映像の動きを正常のス。ヒ】ドに戻して、詳しく観併用しているのた。 察し、頷いてはまた高速に戻していた。 「それで、どうするのです ? 」 ス。ヒリト 「いいだろう。この惑星に知性あるものは存在しない。で : が尋ねた。彼は第四惑星に住む動物たちの運命よりも、 彼はアースウエルをじっと見た。。ヒーチにはアースウエルがこれ先輩たちがどのような手段で、その惑星をどう変えるかに興味をも っていた。 から何をしようとしているのか、おおよその察しがついていた。だ 384
こ 0 の補助調査船を発進させると、宇宙船の中にいる三人の目の前に、 「なにを考えている ? 」 第四惑星の様子が詳しく展開された。 「スビリト、他の惑星に出した調査船を、・ せんぶ第四惑星に集めて ビーチが尋ねた。 くれ」 「まあ見ろ、これを . 「わかりました。詳しく調査して、当局に資料を送るのですね ? 」 ア 1 スウエルがスクリーンを指さした。第四惑星の立体像が拡大 され、補助調査船からの映像に切換わると、彼は画面を次々と切換 アースウエルは答えず、じっとスクリーンに見入っていた。すでえて、その惑星に関する情報を、二人の前に展開してみせた。 に彼はスクリーンの映像から、一つの計画をたてはじめていた。 「この惑星には、すでに生命が発生しており、かなりの・ハラエティ 知的生命の存在を確認した時は、たたちに詳細を当局に報告すーに富んでいる。今のところ、表面の三割を占める陸の部分しか見 る。これが宇宙に飛びだすクルス族の掟であった。だが、この辺ていないが、他の調査船が着いたら、七割を占める海の部分を詳し 境までは、その掟の効力が及ばないことを、アースウエルは知ってく調べるつもりだ」 いた。文明の極致に達したクルス族にとっても、あらゆる知的生「それで : 海の部分にも、生命は見られるじゃないか」 命の発展を見守り、保護育成することは、とてもできなかった。彼「ある。それも、陸の部分より種類も数も多いかもしれぬ。だか 等の保護の手が届くのは、近くの星雲までであり、辺境の生命までら、もっとよく調べたいのだ」 は、とても面倒をみきれないのである。 「ちょっと待ってくれ、ス。ヒリト」 ビーチは頭をひねった。これまでの経験と知識から、高度の発達 自働調査船を第四惑星に集めるために指示を出しかけていたスビをとげる知的生命は、海の中よりも陸の上にあることを、彼は知っ リトが、アースウエルの声に振向いた。 ていた。そして、陸上の生物相を見ると、この段階まで発達した惑 「なんですか、船長」 星において、それ以上の知性をもっ生物が、まだ海の中に留ってい 「第一惑星と第六惑星に行ってる調査船は、そのまま残しておいてるとは考えられなかった。 くれ」 「な・せそんなに調べるのた ? 何が知りたいのだ ? 」 「わかりました」 アースウエルは答えず、スクリーンを見ながら勝手に喋りだし スビリトは頷いて、他の調査船に指示を出した。 「次は、どうしますか ? 」 「陸上にいる植物と動物をよく見てくれ。陸地は一か所にかたまっ 「しばらく、そのまま待っ」 ていて、周囲を海に囲まれている。いや、水の惑星の上に島が一つ アースウエルはそう言って、。ヒーチとスビリトににやりと笑っあると考えてもいい。この動物を見て、どう思うかね ? こいつら 382
プラックホール惑星 石原藤夫イラスト / 金森達 おなじみヒノとシオダの迷コンビ お伴にガラクタロポット引き連れて 目ざすは宇宙に珍たるプラックホール惑星 はてさていかなることにあいなりますか・・ 394