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検索対象: SFマガジン 1977年7月号
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1. SFマガジン 1977年7月号

( ポールが教祖に腹を立てるのもわかるよ。リンク、こいつの心を人類の深層心理にある殺戮本能とでもいうものが邪魔しており、教 のそいてごらん ) 祖を自殺させるというわたしたちには考えられないほど恐ろしい殺 5 教祖はそのとき、リンクとならんで坐っているエレノアの美しい人事件をおこしました。 めいらんふあん 姿体をじっと見つめ、心の中で裸にし、凌辱していた。 ついで新しい混乱の種を梅蘭芳がまきました。蘭芳は衛門が自分 ( くそっ、この老い・ほれめ、こいつ、おれの女房を誘惑するつもりよりずっと年下であるとわかっていても、初めて会ったときから好 だったんた ! ) きになったようで、衛門が加代子だけに引かれていることに腹を立 リンクは立ち上がり、 = レノアの手を握ったまま黙って出ていきて、。ヒア = ストのポール・プリーンに、衛門の心から加代子をなく ながら話しつづけた。 してくれと頼みました。 ( 教祖の首をすげかえたらどうだ ? 裏のおじいさんに頼もう。そ その代償として、当然のように、ふたりのセックスはおこなわれ のほうが便利だぜ ) ました。 ( それは、 ししが、どうしてやるんた ? ) これらの七人はいすれも、別の人種・種族に対する復讐心・憎悪 ( 信者がおおぜい集まったときに、自分の死期が近づいたことを発・軽蔑心を抱いています。そして、おたがいに気づくことなく、か 表し、つぎの教祖はおじいさんだと指名し、信者の女を何人かつれれら自身のあいだでも憎みあっています。頭山の老人は、広島とい て旅行させ、どこかで自殺させればいいさ ) うところの核爆発で長男が殺されたことに対して非常な怒りを持ち ( そんな恐ろしい ! ) つづけており、その怒りをアメリカ人、引いては白人全体にむけて ( それ、殺人だわ ! ) パウェ います。そのために、わたしたちの中では黒人のリンク・ ( 人間を犯そうとしている猿を殺せないというのか ? ) ル、白人のポール・ブリーン、それにわたしを心の奥底では憎んで 議論はつづけられた。しかし、だれが白縫泥王の心を操作したの いるものと思われます。 かはわからないまま、一週間後の日曜日、かれは信者たちにむかっ リンクとポールは肌の色を理由に、おたがいを軽蔑し憎みあって て、自分がこの世に別れる日を告げ、数人の女性信者をつれて大島 いますが、かれらはふたりとも太平洋戦争で肉親を日本人に殺され へ行き、噴火口に身を投げて死んでしまった。 ており、やはり根底では日本人を憎んでいるようです。 かれらの中では、遠山政一郎と名乗る老人の心が最もわかりにく ある報告書の抜萃 いのですが、かれについてすこしすつわかったことは、自分の家の 地下室に大きな研究室を作り、そこで試験管べ・ヒーの実験をしよう こういった能力者が集まり、そのまま幸せに暮らしてゆくとしていることです。そ前の段階として、自殺した教祖をおたて ことと思っていましたが、どうもそうならないようです。この惑星て泥王教会を作り、そこ , セックスを好む男女を集めて、人工授精

2. SFマガジン 1977年7月号

トに行ってみた。 ( この字はなんと読むの ? ) ( でいおうきよう、さ : : : どうしたの ? ) ドアの前に立ってみると、部屋の中には男が来ており、彼女を抱 いている場面が透けて見えた。あの清純だった彼女が、あまりにも マルグリットの心に、かすかな驚きに似た渦が走ったのだ。 ( なんでもないわ : : : 衛門 ) ひどい色情狂に変わっていた。ドアには鍵がかかっていた。だが、 信者溜まりになっている大広間には、いつものように三十人近いかれがノブをまわすと簡単にひらき、入っていったかれの目の前に 信者が集まっていたが、その中には初めて顔を見るテレバスがふた は、全裸になり犬のような姿で関係している男女がいた。喜びの声 を上げていた女の目が田村の目と会い、彼女は驚きのあまり失神し えもん ) てしまった。恋人に裏切られた悲しみのあまり死にたくなってその と、三十前後のアメリカ人らしい男が話しかけてきた。 トを離れた田村の耳に、老人の声が聞こえてきたのた。 ( わたしが見つけたのよ ) その声に導かれて泥王教本部へやってきた現在の田村は、自分に と、加代子の声がひびいてきた。だが、彼女の姿は見えない。裏テレバシー能力があることと、心と心で話しあえる仲間ができた嬉 の古本屋から話しかけているらしい。 しさに幸せそのものであり、恋人のことはもう忘れているようだっ ( 名前はポール・プリーン。。ヒアニストだよ、ジャズのね ) た。たぶん頭山老人に、その記憶がうすらぐ細工をされたのだろ と、そいつはいっこ。 もうひとりは、日本人の学生らしい男たった。その学生は、うれ梅蘭芳もおり、黒人兵リンク・ パウエルも美人の女房をつれてき しそうに話しかけてきた。 ていた。 C ほく、田村良夫です。おじいさんの声に引かれてやってきまし ( この人、マルグリット・モリヤクラスト ) 衛門が紹介すると、蘭芳はいった。 衛門は田村の心をのそいてみた。 ( サーカスで見つけたって人ね、衛門 かわいい人 : : : ) 両親を交通事故でなくしたが、遣産で生活には困っていない。テ ( マルグリットに衛門を取られるのが心配なんたな、蘭芳 ) レビ局に勤めているきれいな娘が恋人たった。恋人といっても、結 ( まあ失礼ね、ポール ) 婚するまでは清らかなあいたでいようと誓いあっている仲だった。 テレバスたちの会話がつづけられている一方、まわりでは非 だがある日のこと、かれは恋人が処女を失ったと信じた。そして、信者たちの混乱した心も一方通行の声をひびかせており、その中で 彼女がほかの男のことを、その肉体たけを考えていることを、告白教祖の白縫泥王がいつものくだらない説教をつづけていた。 もされないのに知った。妄想たとは思いながらも、その想いがあま ( みんな、よく来てくれたね : : : ) りにも激しくなったある夜、かれはたまらなくなって彼女のアパ】 と、頭山老人の声が教団本部の裏手にあたる古本屋の方角から大 2

3. SFマガジン 1977年7月号

タキはふたたび艇を発進させた。 ひとつ見落とすと、地図のない迷路に入りこむことになる。タキは 第二地点ーーー事故の起った地点だ。その地点までは、発光塗料に先ほどよりは速度を落とした。 よる道筋は示されている。が、基地との連絡はもうとれず、指示を前哨灯の中につづく風景は単調だ。分岐点前後にあるカープと径 新を多 ←ゝまゞ・物◆ 347

4. SFマガジン 1977年7月号

中心にある星は核星 と呼ばれ、青白色に輝星をつないで、人は、星座と呼ぶ。 く小さな星である。温そうして、そのようなものは、さまざまの伝説 度はきわめて高いが、 に、いろどられている。 その割に光隻はく、 星や、星座といえば、何となく美しいロマンを 信 通 すでに老年期に入った感じられる方もあろう。しかし私は、星座を生み 白色矮星たと思われだした古代ビ。 = アの荒野や、 = ジ。フトの砂漠 る。 を思うとき、そのようなきびしい世界に生きた人 景 全環の正体は、純然た人の心の中にあ「た、酷烈なものに突き当たらざ″ 座るガス雲である。このるをえない。 と ガス雲は自ら発光するそうしていま、私が思うのは、なぜ星々が数十 力はもたず、中心にあ億年にもわたって生き続けるのに、この美しい惑″ る核星の、強力な紫外星上に生を受けた私たち人間が、たかだか百年に″ 線を反射して輝いていも充たぬ束の間の生涯を終らなければならない るものだ。 か、 A 」い、つこレ」 ~ 。 おそらく、かって、核星はもっと大きく、強烈 なのである。 窓ガラスの向こうに、ついこの間まで、 ( ダカ″ そうしてまた、大朝」遠鏡の力を借りるなら、こな光を四方の空間に放「ていたことだろう。星のも同然だ「た柿の木が、つややかな緑の葉を広 ″と座随一の眺めは、なんとい「ても、ガン「星と内部での核反応が進んで、この星は、一大爆発をげ、何かをささやきかけている。その上には、竹 ペータ星の中間あたりにある環状星雲五ヒの姿起こしたにちがいない。 の葉が広がっている。 ″である。 そのとき、凄まじい勢いで飛び散「たガス体日が暮れれば、それらのさらに上方の、手のと″ さながら、気まぐれな人間が吹き上げたタ、、 ( 「が、いまも、このような姿で、宇宙の空間に広がどかぬところに、星がまたたくのであろう。そう の輪よろしく、ふわふわと、宇宙を漂っている。 りつつあるというわけである。 してそのはるか下の、地球という惑星の家々の中″ 真ん中に星が一つあ「て、その周りを、光の雲 一方、中心の星は、小さくし・ほんで、徴かな残では、人々が今宵も、愛し、憎しみ : ・ : ・自らの連 光を放ちながら、空間に余影を留めているのだ。命の先も知らずに、暮らしている。 ″が、リング状に取りまいている。 写真では、環の中に星が二つ姿を見せている この五七の直径は、ほぼ七万天文単位。つま これは、どういうことであろうかー ″が、この星雲と関わりがあるのは、中心に位置すり地球・太陽間の七万倍という途方もないもの ″る青い星だ。環の近くにある星は、黄色の光を放だ。そして分光分析によると、中心星から四方八 ″ち、たまたまこの位置に人ってきた別な系の星に方へ、秒速およそ一九キロメートルの速度で、膨 すぎない。 張していることが分かっている。 224

5. SFマガジン 1977年7月号

の。矛が内側を向いてるからよ。お腹がすいたとき、しようがなくの」 て動物を食べなきゃならなくなるでしよ。その動物が長く苦しまな 「用があった ? 」 いように、毒を注射してあげるためにたけ、ついてる牙なの」 そのとき背後で呼ぶ声がきこえ、女の子は、ばっと振り向く。公 いうならば安楽死か。 園内の未知の上を、両親と弟が近付くのがみえた。 たしかに、やけに変った蛇だな。 そのとき、女の子が、ぼくの袖を引き、耳元でささやく。 最所の場所に引き返して来ると、ふくれつ面の女に出会った。 「見て。いまに飛ぶわ」 「何してたのよ」 「飛ぶ ? どこにいるんた ? 」 彼女は言った。 「ほら、右の枝のてつべん近くよ」 あの蛇が飛んでね、と言いかけたのたカ : ; 、・よくよ、亠めいまいこ一一「ロ 「よく分らないな」 葉をにごした。 花の間に目を凝らしたとき、いきなり、何か、ひらたい影が、空彼女は、あれを見なかったらしいし、信じさせるのは、むつかし 中にばっと弾き出された。影はムササビのように空を滑り、隣りの いことは分っていた。樹上でいきなり扁平に変型、ムササビのよう 桜に飛び移ると、ふたたび蛇のかたちにもどり、。ヒンクの斑点を陽に滑空する蛇。それを、どうやって信しさせる ? にきらめかせ、素早く花の間に消える。 しかも、彼女は蛇がきらいだ。 樹上から、また影が飛んた。 最初の樹の下、また二、三人は、こわごわ花の間をすかし見る連 中も残っていたが、もう人たかりはなくなっている。 ・ほくと女の子は、芝生の起伏を小走りに、飛ぶ蛇を追っ カセット・テー。フから音頭は流れ、ライト・ハンのロックも轟いて て移動していた。 芝生の上では花見の宴。 あの家族の四人以外に、飛ぶ蛇を見たのは、・ほくたけだろうか。 頭上を滑空、次の樹に取りつき、矢のように登り、 ' たたび、み たび、樹から樹へ移る不思議な蛇には、誰ひとりとして気がっきは 公園を出て坂を降り、街の雑踏の中まで歩いて来たが、・ ほど、 1 こ彼 さけさかな せすあやうく、・ほくらが蹴散らしそうになる新聞紙の上の酒肴に、 女は際限なく、下らない口論を続けていた。 躰をかぶせ、どなり声をあげる。 くたらなくても停らなかった。 やがて桜が切れる斜面の下で、・ほくらは蛇を見失った。 ぼくも彼女も疲れていたし、わるいことに所持金も少ない。 道路をへだてて縁の木立。 たた歩いているたけで楽しい時期は、もう、とっくに過ぎていた そして、そのなこうにビル街がみえる。 から、こういう場合は、ショッ。ヒングとか、ロードショーの映画を 「逃げたんじゃないのか ? 」 見るとか、何かがなければ、回復不能だ。 ・ほくは一一一口った。 とうとう彼女が爆発して、ひとりで地下鉄に降りて行くと、にく 「ううん、逃げたんじゃないと思うわ。きっと、何かの用があった は、大きくため息をついた。 円 4

6. SFマガジン 1977年7月号

に苦しむが、発想はしごくほほえましい いは、超古代の、今は忘れられた文明時代からやってくるのだ、と よし調査活動であったとして、そもそも、の目撃記録を過説く人もいる。の故郷を、太陽系内外の天体に求めることが 去に求めると、日本でも、江戸時代から室町、鎌倉時代にまでさか難かしくなったからだろうか。地球の内部は空洞で、そこにもうひ の・ほることができるようだし、エジプトや中近東では二千年もの昔とつの文明社会があり、はそこから飛来するのた、という説 に、すでに知られていたらしい。これが事実とすれば、三千年ものも、タイム・マシン説と発想は同じだ。いずれの場合も、私が前に 間、おそらく毎年のように飛来していながら、いまだに人間や牛馬述べた疑問を満足させてくれるものではない。 をさらって調べる、調べなければならないというのはどうしたこと毎年、多くの目撃報告がなされる。その全部が全部、真実 であろうか ? 超光速飛行を自由に駆使できるかれらが、地球の生を伝えているとは言えないのかもしれないが、百にひとつ、千にひ 物を調べるのに、二千年もかかっているのだろうか ? とつの報告が、あるいは想像を越えた事実を伝えているのかもしれ 真実を、百にひとつ、千にひとっとし・ほって見ても、そこに あちこちで、が着陸したというニュースもある。人間に発よい。 見されて逃けたり、あるいは攻撃してくるようなそぶりを見せておのべられている現象が、どうして科学的事実との間の深淵を充填る どすなどして、飛び去ってしまう。二千年もたっているのに、まだのだろうか ? そんなことをしているのだろうか ? 目撃した。というそのことだけに、 いったい何の意味があるの 人間の社会や、地球の自然環境を乱さないために、かれらは人間か ? いつも私はそのことを思う。 との接触が禁じられているのだろうと言った人がいた。接触が禁じ られているものなら、やって来るわけもない。この考えの中には、 昭和七年。私は四歳たった。そのころ、私の家は南千住にあっ 現代の人間の、自然保護の思想が、かなりはっきりあらわれてい た。太平洋戦争で、そのあたり一帯は焼野原になり、さらに戦後の る。自然を保護するというのは、そこなわれた自然がもう二度と復興で町筋は変り、その後、ビルやマンションも立ちならび、今で よみがえらない恐れがあるからするのであって、宇宙を対象とするは、私の家がどのへんにあったのかもわからないほど、変貌してし 規模の自然保護であれば、それは一千億の恒星からなる銀河系の中まった。私のお・ほえているそのころの南千住は、常磐線の高い土堤 の、幾億ともしれぬ惑星系の自然全体がどうなっているかという判の下の、ほこりつぼく、騒々しい町だった。 断からなされるものであろうし、単に地球人との接触うんぬんとい それは、たぶん夏に近いころの午後だった。梅雨の晴れ間どきで う種類と程度のものではないはずだ。 あったのかもしれない。 こうして、考えれば考えるほど、科学的実在としてのは稀私の家の二階は、座敷に沿って縁側があり、その外側は窓ではな いつけん 薄になってゆく。 くて、ひとむかし前の二階家にはふつうの、一間の高さのガラス戸 6 らんかん は、タイム・マシンであり、地球の歴史の未来から、あるがはめられていた。私はそこの手すり ( その頃は、欄干と称した )

7. SFマガジン 1977年7月号

ョアンはすわりこみ、右肩を左手でおさえて呻く。 こに浮き出る。そしてョアンはビルの残骸の上を、自分の方に向か ってくる人間のシルエットを見た。 「別にどうするつもりもなかったのた。それどころか、この男と出 6 それはヨアンの最も恐れていた者の姿だった。締め殺されるよう会うことができて、おまえに礼を言わねばならぬほどだ」 な声をあげ、ヨアンは逃げようとする。だが、その者の声が、ヨア老人は、 ~ 苦痛に油汗を浮かべているヨアンを見おろしながら話 す。ョアンが聴いていようといまいと、かまわぬように。 ンの足を針付けにする。ョアンの全身の毛が逆立つ。 「我々の楽しみが一つ、完全に破壊されてしまったが、それもこの 「逃げなくとも良い。こちらを見ろ」 男を手に人れる代価と思えば、たいしたことではない」 ョアンの眼は黒い肌の老人をとらえ、その両眼がないのを知り、 「楽しみ ? 」 その両手がジョッシュを抱いているのに気付く。まただ、まただ。 ョアンの心はどうどうめぐりをする。黒い肌の老人は、彼から十数それはジョッシュの声だった。ョアンは涙でかすむ目を上げた。 たいしたものだ。そうだ、実験 歩のところまで近付いている。両腕にかかえられたジョッシュが弱「まだ、話す元気があったのか ? 弱しく身体を動かしているのが見える。だが老人の両腕はジョッシ材料とでもいうかな、この建造物の中の人間どもは、我々が飼い、 ュの身体を放さない。 育ててきたのだ。もう千年近くになるか、昔の人々に似た者どもを 集め、我々が調べた太古の世界の知識をうえつけておいたのだ」 「またおまえか」 「何のためだ ? 」 老人の言葉にヨアンはすくみ上る。そのときだった。 「ヨアン、射て、射ってくれ」 「もしもあの大破壊のような愚行のあとで存在しなければ、我々の おそろしくしやがれた声が聴こえてくる。思わず目をこらしたヨ ようなものが、どのような世界になっていたか、おまえには興味が アンは、それがジョッシュの口から発せられたものであるのに気付ないかオ よ ? この建造物の中で、大きなスクリーンを見ただろう。 く。だがあのジョッシュのものとは思えぬほどにおびえた声だつあそこに映っていた世界が、本来あるべき世界に最も近いものだっ た。そしてそのことがヨアンの身体からしびれを解き去った。あの たのだ。この建造物の中で生き続けた人間どもの意識がそれを造り 老人が悪魔でもないかぎり、この銃で射ち倒すことができる筈だ。 出していた。奴らは自分たちが世界の支配者だと思っていたが、そ 修道士は銃を持ち上げ、ゆっくりと近付いてくる老人にむかって引れは間違いというわけでもなかったのだ。あと千年とは言わぬ、五 鉄を絞った。思いもよらぬ衝撃があった。そして音。生まれてはじ百年でも、相当な見物であった筈た」 めて銃を射った男は、銃が生命を持ち、自分の手から逃げていった老人はまるで新しい玩具を与えられた少年のように、浮わっいた ように感じた。そして反動で台尻が激突した右肩に激痛が走った。 口調で語るのだった。ョアンは苦痛に呻きながらロを開いた。ここ 右手そのものが感覚を失っていた。 で尋ねなければ永遠に後悔するだろうと思えたのた。 「馬鹿な男だ。その右肩は折れたかもしれんな」 「ジョッシュをどうするつもりた ? 」

8. SFマガジン 1977年7月号

がはじめての客だ、と。それなのに、自分たちのやっていることた。銃 ? 銃た。彼が見たことのあるものとは少々形が異なってい を、あんなに簡単に話してくれた。おれたちが二度と外へ出られな たが、確かに銃だった。重い いという確信があるからに決まっている。おれはこのビルの中を探「太く平たい方を唇にあて、先を目標に向けろ。そしてその引き鉄 ってみる。ョアン、おまえはその寝台でやすんでいろ。じきに戻っを指で引くんだ。そうだ、それで・いい。そいつがあれば、ケルべ てくる」 スに襲われても、何とかなる」 そのとき、ヨアンは、ジョッシュの足が黒い線をはずれ、天色の ョアンは袋を背負い、両手で銃を握りしめながら、ジョッシュと 床を踏んでいるのに気付いた。ジョッシ = はヨアンの顔を見、自分 リリアンのあとに従った。たしかにこの二人には、共通する部分が の足元を見、謎めいた表情を浮かべた。そして彼の言葉も謎めい ある。年月の重みというのだろうか、少なくともョアンには永遠に こ 0 そなわることのない重さが、二人からは感じられた。そしてそれが 「おれの身体は、ここの住人たちと同じような性質を持っているら二人を床の内に沈みこまないように支えているように思えた。何と 、つヒレ。こ 0 しいな」 ノナここでは重いものが浮かび、軽いものが沈む。この私 では千年も生きるというのか。ョアンの疑問は声にならなかつのように軽いものが沈んでいくのだ。早く出ていきたい、ケルべ た。それは彼の心の内にとどまり、ジョッシ = がしなやかな足どりスのほうがまだましだ。少なくとも、あの獣は正当に生きている。 で部屋を出ていった後も、反復して彼の心にこだました。あの男はたとえ人間を食うとしても。 何者なのだ。少年のようで老人のようで、ヨアンは不安を噛みしめ柱の中から出、足の下に草を感じたとき、ヨアンは思わずため息 る。やがてその不安は疲れに浸食され、ヨアンは眠りにおちていつをもらした。外はまだ夜だった。見えない壁は、光と闇の間にくっ た。目を覚ましたときには、ジ , ッシ = が部屋に戻 0 ていた。そしきりとした境界をつく 0 ていた。見上げてみれば、その境界は傾斜 てリリアンも。 しながら、どこまでも続いていた。彼らは、白い巨大な扉に向かっ 「彼女が案内してくれる」 て歩いた。リリアンが扉の前で、手を振ると、ゆっくりと扉が左右 「おまえに脅されて、ね」 にわかれていく。 女の顔に浮かんでいたのは軽蔑だった。あとは怒り。ジョッシ = 「さあ、行くがいい。人間の世界へ」 は、そうした女の感情には無関心に、ヨアンに棒のようなものを渡 リリアンに言われるまでもなく、ヨアンは駆け出した。そのと した。彼の目には、はじめて会ったときに見せた硬い光があった。 き、ジョッシュの叫び声を聴いたように思った。振り返ると、ジョ あのケルべロスの目にも似ている、ヨアンは思う。 ッシ = は、まだ光の中にいる。何をしているんだ。ョアンは声をか 「銃だ」 けようとして、気付く。ジョッシ、は外へ出られないようなのた。 ジ ' ッシ = の言葉に、ヨアンは自分が手にしたものに目をやつまるであの地獄の大のように、ヨアン自身のように、見えない隔壁

9. SFマガジン 1977年7月号

タートレックの″エンタープライズ号″みたいな形にしようとして菅原都々子の『連絡船の唄』 いたんだ。おれが設計部にどなりこんで、修正させたから良かった气思い切れない未練のテープ、切れてせつない女の恋心 : ようなものの : : : 」 都はるみの『涙の連絡船』 「たしかに、いろいろむずかしい時代になってきたことはたしかだ气いつも群れとぶカモメさえ、とうに忘れた恋なのに・ さらに分析をつづけると、事例は数多くあり : : : 」 シオダは、あやしい宇宙船がスクリーンの奥に消えるのを見とど「ヒュー け、その軌道とべクトル速度を記録しながら言った。 ヒノはロ笛をふいた。そして、頬に残るニキビの跡をなでまわし 「ヒノの意見とは少し違うかもしれなし力を 、・ : ・まくは″恒星間連絡ながら言った。 船″という存在が問題だと思うんだ : : : 」 「おまえ、それをネタに、また学位論文に挑戦する気だな ? 」 「それほど高級な話じゃないがね : : : 」 シオダはまじめな顔で、小首をかしげて話した。 ″惑星開発コンサルタント社″の万年調査員ヒノとシオダの会話は 「宇宙進出黎明期におけるロケットは、ただひたすら目的地に向け次第にとりとめなくなっていったが、立体スクリーンに映る目的の て突きすすむのが使命だった。むろん帰路のことも考えられてはい星系の姿は、それとは逆に、加速度的に明瞭なものになってきてい たが、カプセルの中に宇宙士が閉じこめられて大西洋にポチャンー ーっまり生命が無事ならみつけもんだという発想だった。ところ が、スペース・シャトルあたりから、事情が変わってきた。繰り返ふたりの話の中にも出てきたように、今回の調査行の目的地は し使用可能というのが、そもそも女性的なんたな。形状も何とはな 《プラックホール惑星》と呼ばれる惑星だった。母船″プラ Q ″ しに女性的になってきた。それから幾星霜、幾変遷、現代は″恒星から離れた調査艇″ヒノシオ号″は、銀河座標図をたよりに、この 間連絡船″の時代になった。この、″連絡船という概念が、ぼく惑星の属する星系を発見し、接近する途中だった。 は、形状よりもむしろ宇宙船女性化現象の原因をつくったと考えて スクリーンに拡がりはじめたその星系は、ニックネームとはうら いる」 はらに、ごく平凡なもののように思われた。 シオダの口調は次第に学問的になってきた。ヒ / は、また始まっ カタログ・ナンバーは 0 0 9 2 9 ー 0 9 8 9 であり、銀河系 たなーーという顔つきで、背伸びをした。シオダはつづけた。 第二渦状枝の第 8 辺境恒星区にあった。つまり太陽系から銀河の中 「″連絡船″というイメージが女性的であることは言うまでもない。 心とはほぼ反対方向に二万光年ほど離れた所である。 7 歌謡曲の歴史が証明している。連絡船二大名曲を聴けばすぐに分か中心の恒星は単一で、質量はつまり太陽の約二倍であり、光 度は太陽の一一・三倍ほどあった。スペクトルは質量や光度と正常 こ 0

10. SFマガジン 1977年7月号

「なにイ ? よし、ビンク・レディ・スリーだ」 畜生 ! 人の気も知らねェで : ・ ″古矢の吹き出した気配が伝わってきた。 すると今度は " え = 、こちら、キャンディ・キャンディ・ワン、 のプラス。フラスで入っております″と小野の声。 衛星写真で割り出した地点から、いよいよ樹海へ足を踏み入れる キャンディ・キャンディなどとはしゃぎくさって : " オイ、小野 ! 。とチ = ' ク , イトが言 0 た。 " おまえたち、おむと、これはもうまさに地獄だ 0 た。樹木が茂る凄まじい凹凸の熔岩 すびを間違「て積んだろう ? こ 0 ちはタラ「一のおむすびば ' かしの上にはび「しりと苔が密生していて、一見やぶなんかよりも歩き よさそうたが、ひとっ間違えばズボッと熔岩のすき間へ膝のあたり でよオ、喉がかわいて仕方ないよ″ " 了解、了解、こちら、おかかとしらすです、どうそ。とキ乙一まで足を 0 ' こんでしまうのだ。とにかく這うしかな」。先に着い た簾畑と富沢が迎えにきてくれたときはもう半死半生の態たらく : ・ イ・キャン一アイ。 ″すると、 0 班はシャケだぜ″ 「済まね工なあ、迎えにきてくれて」 ふざけた奴等だ、こっちはヒイヒイ言ってるというのに : 「いえいえ、背中のおむすびが気掛りで」 どうした、 O 班は ? / パックをかつぐと、あっさり行ってしま 簾畑は私のショルダー 河口湖インタ 1 で別れましたん こちらチェックメートー 樹海ン中へ迷い込んだかな ? え = 、 やっとのことで私が目的の地点へたどりついたのは、マイナス 三十分をちょっと過ぎた刻限だった。 カ私はありったけの声でマイクにさけんだ。 「うるせ工、 「さて : ・ : ・ここじゃ、カメラの回しようもないなあ」と宮崎が言っ 「てめ = ら、。ヒク = ックやってるんじゃね = ンだそ ! 」 こ 0 「どこへレンズを向けりやいいんだか : : : 」 ″アレレ、 O 班は荒れてるよ″と古矢。 「手持ちで待とうよ。ここじゃ、同心円もなにもないし」と私、 ″なンせ、あの体重で山道はきついよなあ。と小野が言った。 「黙れ ! 馬鹿 ! なで、きさま、ジープは野田さん運転して下「ほんと、なにが出るんだかね = 」原重が言 0 た。「がおり るといっても、この原生林じゃ、ひっかかってしまうだろうに」 さいと言わんのか ! 」 いつの間にか ″ええ、こちら空中指揮機ビ = ーティ・ペア・ワン″ ャヤンディ・キャンディは沈黙した。 コールサインを変更していやがる。 " 只今、マイナス二十分。 " 拾 0 てやろうか ? 。気の毒になったらしく、古矢が言った。 簾畑がマイクをとりあげた。 「大きにお世話た。それより現在位置は ? 」 「富士山北方を飛行中の〈リ = プターへ、こちら、富士山レーダー 川口湖上空、八千フィート″ ・サイト。巨大な一機が背後より接近中」 「高工なア」 ″止めてよ ! へんないたずらするのは ! 。おタマさんの悲鳴がか " 寒いよ。その代り、でも現われりや、ばっちり撮れるぜ。 えってきた。 「宇宙人に食われてしまえ」 マイナス十五分 ″そっちのコールサインきめてくれよ当 っこ 0 3 刀