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検索対象: SFマガジン 1977年7月号
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1. SFマガジン 1977年7月号

ら」 びはねるように駆けぬけた。 街の灯を片頬に浴びて、二人の女がビルの狭間を駆けぬけた。 「 : ・ : ・男の子が道を走「ていくわ。こんな夜ふけに、どこの子かし凝固した暗黒の世界を、素足の足音をたてて少年がけぬけた。 そして 「窓の外ばかり見るのはよしなさい、外聞が悪い」 四人の男女が、踊りながら夢の地平でめぐりあった。鍵番と時間 「たって、部屋の中には何も見るものなんてないもの・ーー、・ああ走っ ぎめの巫女ふたり、それに水番の少年の四人。 ていく、どこまで走っていくのかしら、あんな勢いで」 一瞥のもとに互いの正体を了解しあうと、 「カーテンをしめてくれないか。窓ガラスに自分の顔が映っている 「意味なんてものは、どこにもありやしない」 といらいらする」 踊りながら、鍵番が言った。 「他人の顔だとなおさらでしよう。あら ! : : : 真暗よ」 「それさえ分れば、誰でもこうして踊ることができるのに」 「停電だろう。蝋燭を取ってこよう」 踊りながら、二人の女が言った。 「行かないで、こわいわーー外も真暗よ、窓の灯も街燈も、車のラ 「でももちろん、そんなことはどうだってかまやしないんだ」 イトもみんな消えてしまった」 踊りながら、少年が言った。 手と手が触れあい、四人の影が輪になった。 ・ : どうしたのかしら空も真暗、さっき 「あなた、出ていったの ? ・ 小男が踊る。 まで月が明るかったのに星も見えない。急に静まりかえって : : : あ 女たちが踊る。 なた、どこにいるの ? 」 少年が踊る。 爪先立って回転しながら、世界の縁を飛びはねていく ふと、地平線が色を変えた。 一気にあふれた光芒の中に、四つの顔が呑みこまれた。踊る姿が ゆらめいて逆光に溶けこみ、手と手がほどけて見えなくなる。 フェイド・イン 薔薇色の朝あけが、地平にひろがる。 編集部の手ちがいで、石渡尚子さんのイラストのハ フトーンがとんでしまいました。おわびいたします・ 「こわいわ、私どこにいるの ? 手を伸ばしても何も触れるものがな ・ : 窓ガラスも壁も、何もないわ。みんな真暗で音もしない : 支えてくれないと私倒れそう。お願いここに来て、どこなの、み んなどこへ行ってしまったの ? 」 <t 4 邂逅 氷りついた星々の間を、鍵東の音を響かせながら痩せた小男が飛 へり 335

2. SFマガジン 1977年7月号

立体スクリーンには、すでに、あいまいな球状にしか、その姿は 舷窓からのそく光景は、急速にかすんできた。かわって、立体ス フラックホール映らなくなった。 クリーンに、強烈な緑の大密林が映り、また、″・ 「ここまで来れば、大丈夫かな ? 」 人″の住居の跡や陸地の中央にある《・フラックホールの樹》の林が 「ほくの計算によれば、そうだ」 映し出された。 ヒノの問いに、シオダがこう答えた時、立体スクリーンの中で、 「人は助けたが、樹は移植させるわけにいかなかったなあ」 大爆発がおこった。シオダが心配していたとおり、《プラックホー ヒノが、残念そうに言った。 ル惑星》は、プラックホールの第三の法則によって、一個の単一の シオダは、静かに答えた。 ・フラックホールと化し、それが惑星の芯と反応して、核爆発を起こ 「″・フラックホ 1 ル人″は、・フラックホールがなくとも生きていか れるが、《・フラックホールの樹》はマイクロ・・フラックホールのあしたのだ。 「″プラックホール人″は大丈夫だったろうか ? 」 る土壌でないと育たないのだから、しかたがない。それに、新しい ″ヒノシオ号″にはなんの異常もないことを確かめてか 惑星に、また妙な・フラックホールができても困ったことになるし ら、一一一一口った。 な」 「本当の孔の中にかくれているように言っておいたから、無事だと 「それはたしかにそうだが、なんとなく惜しい気がするんだ。とに プラックのホール は思うがね : : : 」 かく、あの黒い孔がたわわに実った様子というのは、忘れられな シオダも、心配そうな声をだした。 いからなあ : : : 」 ヒノの口調は、また、残念そうだった。シオダも、かすかにうな「しかし、それにしてもーー」と、ヒノがシオダに向き直った。 「ーーー爆発の予測は、どういう理由からきたんた ? 《プラックホ ずいた。 ール惑星》が、単一・フラックホールになってしまうことは、時間遅 「たしかに、あの樹の外観というのは、絵にも描けない物凄さた し、説明してもなっとくしてもらうのに時間がかかりそうだし、サれの関係をのそけば分かるが、超新星でもないのに、どうしてあん なことになるんだね ? 」 ンプルを持ち出せなかったのは残念だね」 「さあ、そろそろ、ス。ヒードを上げるぜ」 「反重力物質のためさ」 「そうしてくれ。一時間以内に〇・三は離れないと、あぶない シオダは淡々として答えた。 かもしれない」 「反重力物質 ? 」 「よし ! 」 「うんーーー」シオダは、ゆっくりと説明した。「・・ーーあの惑星は、 スペシフィック・マス ヒノは、超高比質量のエンジンを全開させた。 ″ヒノシオ号中心部に、反重力物質を有していたんだ。おそらく人工の瞬間移動 は、光よりも早く、《プラックホール惑星》から離れた。 用プラックホールを作ろうとした時、何らかの理由で持ちこまれた 454

3. SFマガジン 1977年7月号

怒りだした加代子の手をキャスリーンが握った。キャスリーンはけかけていた千代子の姿が消え、キャスリーン・レイトンの姿が現 ほかの連中に聞こえないように、体を接触させてささやきかけた。 われた。 しばらくすると加代子はうなずき、ポールにむかっていった。 ( キャスリ ( いいわ、ポール。あんな母親なんだもの ) ( みんなであなたをからかったのよ。加代子が腹を立てたので、ヨ どこかで笑い声がひびいた。 シオと三人がかりでね ) ( この淫売女が ! ) ポール・・フリーンは加代子の母親・千代子の家を訪ねた。玄関に キャスリ 1 ンの顔をたたきつけようとした手が、ぐいとねじられ 姿を現わした千代子の顔色が変わった。 た。三人がかりで念動力を使ったのだ。 「あなたは : : : 」 ( 殺してやる ! ) ポールはうなすいた。 十ールは怒鳴り、全身の力をふりし・ほってその手をふり離すと、 「そう、・ほくだよ。きみを捨てていって悪かった : ・ : 謝まりに来たキャスリーンに飛びついてゆき、その細い頸に両手をかけた。その んだ」 背中に果物ナイフが飛んだ。キャスリ 1 ンが好きになっていた良夫 千代子の心の中で、憎悪と、生涯でただひとり知った男性の肉体が、無意識のうちに、できるはずのなかったテレキネシス能力を発 への愛着が錯綜するのが感じられた。そして、ポールの口説きかた揮して、台所にあったナイフを飛ばしたのだ。 はまったく天才的であり、千代子にとっての昔の関係が復活するの ある山村にったわる繩飛び唄 に時間はかからす、彼女はすぐポールの腕に抱かれていた。だがポ 气ひと月・鯛 ールの手が彼女の体を探ぐったとき、かれの顔に恐怖が走った。 「おまえは ! 」 ふた月・貝 みつつ遠慮で 千代子はすっと立ち上がった。下着を脱がされた彼女の下半身 は、マネキン人形のそれのように、つるりとしていたのだ。愛欲 よっつ泊めるか 泊めればいつよ にわれを忘れかけていたはずの上品な中年女性の顔がするりと溶け こ。 いつよ重ねてむいか ( だれだ、おまえは ? ) むいかの星は見えた 十ールは悲鳴に似た声を心の中であげた。同時にかれのペニスが ななつの星も見えた やまか 水車のように回転しはじめた。恐怖と驚愕にポールがさけび声をあ やつつ山家の娘 げかけたとき、まわりで女たちの笑い声がひびき、目の前で顔が溶 ここのつ恋しく泣いてそろ 262

4. SFマガジン 1977年7月号

( わたしが応援していたのよ。わたしが信者の心をのそいて : : : ) は努力によって変わるものでしてね」 ( どういうこと ? 教祖のやつは、能力がないんだろう ? ) 「あたしたちを占ってくれないあるか ? 」 衛門がそういうと、加代子は答えた。 六十歳ぐらいに見える泥王教祖は、夢を見ているような顔つきの ( だれだって、ほんのかけらぐらいはあるんじゃないかしら、かりままうなずいた。 にも新興宗教をおこそうというような人間には : : : わたし、自分の「それをわたしもいい出そうと思っていました。あなたがた、ここ 心を教祖の心の中に潜りこませて、こう、 しいなさいと暗示を与えた にいま残っていられるかたは特に、生きておられるあいだに、生き ている喜びを満契すべきた、と : ・ の。わたしの操り人形にしたわけね ) : ・なぜなら、あなたがたの全員に 死相が現われているからです : : : 」 ( じゃあ、・ほくらの未来も占ってもらおうじゃないか ) テレバシーのゆきかう中で、教祖の肉声がひびいた。 ( 馬鹿よ ! ) 「さあ、今日のお話はこれで終り。新しく人信されたかたたけは、 - ( 加代子、きみがそういわせたのか ? ) ここにお残りくたさい。あとのみなさんは奥へ : : : 」 ( 違うわ、違う ! わたしはみんなのデータをざっと教えただけ。 六人とエレノアがあとに残ると、教祖は話しかけた。 占っているのは、本人なのよ ! ) 「この教団では最初から申しあげています、セックスにはこたわり ( もちろん、こいつはでたらめをいっているんだ ! ) を持っぺきでない、 と。ところが、あなたがたはまた、おたがいに と、音にならぬ言葉が空間を乱れ飛んた。 セックスを楽しむことに対して、どうもかたくなな態度を取ってお もちろんそんなことは露知らぬ教祖は、話しつづけた。 られるようです : ・・ : 」 「 : : : 人はみないっかは死ぬものですから、死相が現われているの ( 大きな笑い声が、教祖に聞こえない波長でひびきわたる ) は当然なことですね」 「 : : : それで、あなたがたとよくお話ししてみたいと思いましてね みんなの笑い声がもれたが、その何分の一かは加代子にむけられ : おたがいの気心を知ってからのほうが、わたしの話もよくおわていた。否定しても、彼女がそういわせているものと信じているの かりいただけるでしようから : : : なんでもお尋ねください」 教祖は、目の前に外国人とはっきりわかる男女が四人もおり、そ「でも、いちばん長生きする人相をしていられるのは、あなたです の連中に日本語が通じないかもしれないということを、まったく考ね・ : : ・」 えていなかった。 と、教祖はマルグリット・モリヤクラストを指さした。 蘭芳は尋ねた。 みんなは、小供といっていいほど体の小さな彼女に対する教祖あ 「あなたの占い、よくあたるありますが : : : 」 るいは加代子の同情がそういわせたのだろうと一瞬思ったが、すぐ 「あたると信じてくださる信者のかたは多いようですが、人の将来に教祖は意外なことをいい出した。 254

5. SFマガジン 1977年7月号

御飯に、その臭いが移ってしもて」 某アルミニウム会社に勤めている友人から聞いた、失敗談。 二千八百食分の弁当、何とも甘ったるい臭いがしみこみ、とても 0 アルミ製の。フレハゾ冷凍庫をある寿司屋に納入したところ、数日食べられたものではなかったという。 「で、どうなった、 後電話がかかってきた。 「すぐこい。腹くくってこいよ」 「仕方ないから、俺と課長、むこうの労組委員長と弁当業者。四人 「どうかしましたか」 が徹夜で、また新しい飯炊きましたがナ」 夜食の弁当が冷たいのは、労働者に対する帝国主義的侮辱である 「どうかしたか ? ネタが全部腐ってしもとるんじゃ」 とか何とか、労組委員長が演説したのかどうかは知らないが、 ガチャンと電話が切れた。仕方がないので、技術者を連れて恐る 恐る行ったところ、冷凍機の故障で、大将の言うとおり、ネタは全その特注品は労組からの発注であったらしく、そのため委員長が飯 炊きになったのたろう。 減していたという。 「すみません」と謝ったら、大将曰く、 三島由紀夫日く、 「すまんですむ話か」 『私たち小説家は、懐中電灯を手にして暗闇の道を探し歩いている 出刃庖丁をふりかざして突進してきたという。瞬間、本気たとわ人のようなものた。 かる眼たったそうだ。 ある時、路上のビール瓶のかけらが、懷中電灯の光りを受けて強 「で、どうした」 くきらめく。そのとき私は、材料と共に主題を発見したのである』 ま、そない大層なもんでもおまへんねやが、 ドタタの材料は、 僕が聞くと、彼はこたえた。 かくのごとく、どこにでもあるという例であります。 「とりあえず、逃げたよ」 とりあえすというのがおもしろい また、某工場から特注を受け、夜勤工員のための夜食弁当用保温中学校で、美術の先生をしている女性から聞いた話。 「雑誌とか週刊誌の写真やイラスト切りぬいて、コラージュ作りな 箱というものを作った。 さい一一一口うでしよう。 結構であるというわけで納入したが、これまた大失敗作品となっ そしたら、赤ん坊の写真たくさん集めて大鍋で炊いたり、高層ビ てしまった。 「アルミを二重にしてな、その間に断熱材をサンドイッチしたわけルの上から落としたりするのよ」 それを作る中学生、真面目でやってるのか洒落でやってるのか、 どっちたろう。 「うんー 「とこらが、その接材にホルマリンが人っててな。あったかあい ・フラック・ユーモアというものは、使いこなすにはある程度の年

6. SFマガジン 1977年7月号

男は窓枠で身体を支えた。四階の窓の下、駐車場の狭い空地で、 十人ほどの子供が口々に金切り声をあげながら走りまわっている。 追われているのは、一匹の汚れた孕み犬だ。けたたましく哭きなが ら逃げまわる雌大と、それを追う子供の卑猥な顔ーーその様子を眺 めながら、一人だけ離れて立 0 ている子供がいる。十二、三の男の - 」デ 子、この陽気にア / ラックを着てフードをかぶり、なこうを向いて 0 「・ーー窒息しそうだ」 声に出して言うと、急に眼球が充血した。女 ? そんなことじゃ これは すると、突然窓の桟が眼の中に飛びこんできた。 「さっき、救急車が来てたわ。隣りの部屋の人、運ばれていったん ですって」 「・・ : : 自殺か ? 」 329

7. SFマガジン 1977年7月号

おかしな ことたー こんな 便利なものが 一台も売れな いなんて なによりますいのは 作りだしたのが町の発明家 だったってことですな しかも無限動力を研究中に 偶然できたとなると一そう 話がマュッパめいてくる なるほどね 大企業とか大学とかの しかるべき研究機関に しとけばよかったね . % 冫 4 : 4 う 0 まったくね : 無限の用途が 考えられる のにね たとえばさ ばくがタイムマシン を持ってりや どんな品物でも 売りつくして みせるがね そりやまた どうやって ? , イイ . 豸 : ・・イ ~ ・イニしンゞ・ : ん彡 ・グ ! , : ・ゞにク・′ィ′ジ′ 4 ノ戸 / シ 0 0 もちろん ジョークとして ・ヘルトの貸し賃は マージンの % で いかがです 成功すれば ね ーセントで あげますよ やってみせま ン 2 : 仁く > = 千見し 4 」い ですな ジョーク と して 1 0 2 引

8. SFマガジン 1977年7月号

した。すると、柱がぐらぐらとゆるいだ。 「おお、こいつはおもしろい。ひとつ、こいつをぶちこわそうでは独歩さんが、 「これで、わが大日本帝国も安泰だ」 ないですか」 わけのわからぬことをいう。そこで、・ほくも独歩さんにならっ 「うむ、海水浴をするのに、こんなところに着物を脱いでいくやって、 「大日本帝国万歳Ⅱ天皇陛下万歳い」 はなまいきだな。よーし、ぶちこわしてしまおう。こんなものは、 ひとり花袋さんが、困ったような顔をしていた。 ないほうがいい」 〈明治三十六年七月十九日、余輩等此の小屋を倒壊す〉 独歩さんが、・ほくのことばに同調して無茶苦茶なことをいった。 ぼくは、倒れた小屋の脇の砂の上に、指で記した。 「賛成、賛成リ」 「上出来、上出来」 花袋さんもいう。 独歩さんが、手を叩いて笑った。 「では、ます、・ほくがやってみよう ・ほくは手にもっていた扇子を腰の帯にはさんで下駄を脱ぐと、ど はてな ? 頭の中で疑問が交差した。どうにもわからない。な すんどすんとしこを踏むまねをして、丸柱に組みかかった。 ところが、丸柱は倒れそうでなかなか倒れなかった。それをみてぜ、北海道に向かう汽車に乗っていたぼくが、いま鎌倉海岸にいる どこか、おかしいの ふたりが加勢する。ようやく、柱が傾きかけたところに、海岸に人のか ? そして、独歩さん、花袋さん : 影が見えた。 いつのまにカ 、、・ほくはまた、白い闇の中にいる。白い闇、なん 「おい、だれかきたそ。歌をうたおうー ・こ、これよ・ どうして闇が白いのだろう。でも、これは、たし 独歩さんがいった 「煙りも見えす、雲もなく、風も起こらず、波たたす。鏡のごときかに闇た。たしかに白い。 あいかわらす、身体はここちよくだるい。少し寒くなってきたの 黄海は ~ 」 ・ほくと花袋さんが、声を合わせて歌った。 やがて、人影もとおりすぎたので、またまた小屋の破壊に精をた「方存、方存 : : : 」 遠くで、また、声がする。あれはだれの声だ。でも、もう思いだ す。時を経ること十五、六分。ついに小屋はみりみりと音をたてて めんどうくさくなった。こんなに、いし 、気持なの せなくてもい 倒れた。 だ。このままでいい 。今日はなん日たつけ。そう、大正元年十一月 「万歳 ! 万歳い」 二日た。そうだ、今日は橋戸頑鉄と舟に乗る約東だった。 ・ほくが大声をあげると、続いて花袋さんが、 、刀 9

9. SFマガジン 1977年7月号

「よし ! 」 メ 1 トルほどの所にいったん垂直に静止し、それから、徐々に降下 ヒノの太い指は、コンソールの上を、シンセサイザ 1 をあやつるしていった。 ように、動いた。″ ヒノシオ号″は、シオダが指定した着陸候補地 五十メートルほどの所まで降下した時たった。 のうち、三番めの、密林の中を流れる河の周辺に拡がる草原に向か 「ややッい」 って、高度を下げた。 ヒノが頓狂な声を出した。 密林の緑色のいやらしさは、近づくにつれて、ますますはげしく「ふうむ ! 」 なってきた。地球の緑とはまったくちがっており、まるで、安物の シオダも唸った。 ネオンが束になっているような感じである。 ″ヒノシオ号″の舷窓に、奇妙な生物の顔がのそいたのである。 ア「ゾンのような大河が風景の中でひとつの救いた「たが、そのイ。 ' ト席のすぐ前にある立体スクリーに映る、全体の光景に眼 水の色も、緑に近かった。 をうばわれていたので、直接外界を見ることのできる左右の窓に 「やけに緑がはげしいな」 は、これまで気をつけていなかったのだが、ふと見ると、そこに、 ヒノがうんざりしたような声をだした。 何とも言えないふしぎな生物の姿が浮かんでいたのだ。 「緑便を流した といった感じだ」 どうやら、背中に・ ( タ・ ( タ式の飛翔装置をつけて、ここまで飛び シオダが文学的に表現した。 上がってきたらしい 「何という顔つきだ ! 」 ヒノは肩をすくめた。 ヒノがあわてて、降下を中止させながら叫んた。 シオダは笑った。 「表現のしようがないな ! 」 「スペクトラム型が緑に寄っているからしかたがないよ。惑星のせ さすがのシオダも、一瞬論理的思考能力を失ったようだった。 いじゃなくて、中心の恒星のせいだと思うね」 たしかに、奇妙な姿だった。 " 何とも言えない。とか " 表現のし 「なるほど : : : 」 ようがない。とか記しておきながら、それを文章に表すのは矛盾が 話している間にも、高度はぐんぐん下がり、植物の形状までもあ「て作者としても気がひけるが、無理を承知でふたりにかわ 0 て が、スクリーンで見分けられるようになってきた。 ご説明すると、要するに顔に孔があいた生物たったのである。 「さて、いよいよ着陸を敢行する。準備してくれたまえ」 孔といっても、その孔から向こう側が見えるわけではない。向こ ヒノの口調が真剣なものにな 0 た。シオダとアールはベルトを締う側の見える孔のあいた生物なら、広い宇宙にはいくらでもいる。 土ール め直した。 ふたりがおどろくようなことはない。その孔は、ふつうの孔とちが " ヒノシオ夛は』ノの巧みな操縦によ 0 て、目標地点の真上、百 0 て、先の見えない底なしの孔だ 0 たのである。だから、 " 孔あ 426

10. SFマガジン 1977年7月号

「そういうこともあるかも知れない。だが、われわれはまだマイクホールを集めるのは大変だが、ホワイトホールはさらにそれ以上ー ロ・プラックホールを集めたことがあるわけではないし、・フラック ーということだな」 ホール中毒の患者を、その現場で捕えたことがあるわけでもない。 「なるほど、 7 Ⅱ F ( 登 7 。でしかできないわけですね。よく分かり つまり、すべては億測の域を出ていないというわけだ。だからこました」 そ、きみたちふたりの調査員に課せられた使命は重要なのだ」 シオダはやっと納得のいった顔つきになって、頭を下げた。 課長はするどい視線をふたりにはしらせた。ヒノは立ちあがりか「よく判らないけど、とにかく分かりました」 けたが、シオダは最後の質問をした。 ヒノもカづよくうなずいた。 「ほとんどのことは理解できました。しかし、もう一つおたずねし課長は頼もしげにふたりを見た。 たいことがあります」シオダの表情は真剣だった。「フラックホー 「よく理解してくれた。さすがにきみたちは頭が良い。マガジンの ルと対をなすものにホワイトホールがあります。マイクロ・ホワイ読者にも負けないくらいだ。では、気をつけて行ってきてくれたま トホールというのも当然あるでしよう。・フラックホールを飲んだ患え : 者にホワイトホールの粉を注射したら、どういうことになるんでし ようか ? 解毒剤の役はしないのでしようか ? 」 「きみの質問はいつもながら鋭いーーー」課長は満足そうにうなすい 「ーーーまさにそのとおりで、ホワイトホールによって・フラック説明話がだいぶ長くなってしまったが、なにしろ《・フラックホー ホール中毒をなくすことができるという学説を唱えている学者もい ル惑星》の調査なので、話題は最初から最後まで″プラックホー ると聞いている。しかし、ホワイトホールはプラックホールとちが ル″づくめなのである。かんべんしていただきたい。 って、この宇宙では非常に存在しにくい。 ・フラックホールは恒星間 むろん以上の会話は、着陸を前に緊張したふたりの頭を瞬間的に 物質によって一応形成させることができるが、ホワイトホールはそよぎったものである。 れがきわめて難しい。現存するほとんどの大型ホワイトホールは、 宇宙創造時から存在したものの名残りだと言われているくらいだ。 「さて、いよいよ着地姿勢に入るが、いいかね ? 」 とくにマイクロ・ホワイトホールは、シンジケートから流れてきて ヒノがシオダをうかがい、そしてアールの錆色の顔を見た。 いる情報によると、素粒子の中に時々見つかるという程度のものら「 ox だ」 しい。名人芸の持ち主が、素粒子をメスで分解し、その中からビン シオダはゆっくりとうなずいた。 セットでホワイトホールをつまみ出し、少しずつ集めるーーという『了解い』 完全手工業的な生産しかできないらしいのだ。マイクロ・プラック アールはハッスルしたギシギシ声を出した。 425