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検索対象: SFマガジン 1977年7月号
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1. SFマガジン 1977年7月号

奮した小動物のような様子で駆けこんできた。廊下の熱気がむっとるところだった。 顔を打っと同時に、あたり一面、夥しい紙片の東がぶちまけられ「 , ーー《城》の主の声だよ、今のは」 鍵東の音がして、画面の中央にだしぬけに鍵番の姿が現れた。雌 「《本》」 猫たちは驚いて画面の隅にひとかたまりになった。 「おまえか。それより完成した《本》はどこにあるんだ ? 」 「《ォワリ》」「《ォワリ》 ! 噛みつくように 0 氏が怒鳴ると、鍵番はいつもの薄笑いを浮かべ 「《本》が完成したのか、完璧なのが ? 」 乱れ飛ぶ紙片をはらいのけながら 0 氏は叫んだが、娘たちは顔をた。 目わー 、ものを見せてやろう。《城》の様子をな」 「その蔔こ、 寄せあって呻くような笑い声を漏らすと、たちまち背をむけて飛び だしていった。その間にも、数十人の娘たちの集団が、大量の紙片声と同時に画面が消え、《城》の全景に変わった。暗闇の中に、 百数十階建てのビルの窓の、四角いガラス面のつらなりだけがくっ を投げ散らしながら次々にドアの外を駆けぬけていくのが見えた。 きりと明るく浮かびあがっている。地上に近い方から順に大きく映 0 氏は息を切らしながら、紙屑に埋まった長い廊下を走った。 「私の言葉 ! 《本》の中に見つかるはすだ。今夜こそ捜したせるしだされていくのを見ると、ガラス窓の内側に水が満々とたたえら れているのが分った。どの窓も内側から発光して金の輪をゆらめか どのドアの中からも同じジンタが流れだしていた。スカートの下せている水ばかりで、今まで働いていたはすの男たちの気配もな に若い腿の動きを見せて飛びはねていく娘たちの後ろ姿は、廊下の 「下の階から順に水が上がってきているところだ。今にこの階にも ずっと先にもう見えなくなっている。 O 氏はふと気づいて、走りな がら幾つものドアの中を覗きこんでみた。他の男たちの姿はどこに届いてくる」 も見えない・ 声がして、今度は屋上を下から見あげた画面になった。屋上の無 とにか数の人影の中で白い腕が忙しくひらめき、夥しい紙吹雪が夜空に撒 「娘たちと一緒に行ってしまった様子も見えなかったが きちらされている。上空の風に吹き乱される白紙の渦の中で、数十 《本》を最初に読むのは私た。先を越されてたまるか ! 」 廊下の端の階段にたどりつくと、はるか高みから若い笑い声がか人の娘たちは一団になって踊り狂い、転がるように屋上の端までた すかに反響しながら降ってくる。突然、 0 氏は立ちどまった。男のどりつくと、急にくるくるとひとかたまりにもつれあった。と同時 低い哄笑が同時にどこからか伝わってきたのだ。それは《城》中のに白いかたまりは数万の紙吹雪に分裂し、闇を八方に舞い散った。 「ーーーあの娘たちの役割はもう終わったのたからな」 無数のスクリ 1 ンの中から響いているのだった。 9 手近な部屋のひとつに飛びこんでみると、画面の中では三匹の雌背後で鍵東の音がして振りむくと、そこに立っていた鍵番が、ど うた、と言わんばかりの身振りをしてみせた。 猫と寄り目の司会者が、笑い声の主を捜すように四方を見回してい

2. SFマガジン 1977年7月号

中で何かつぶやく。真新しい靴の皮のにおいの中で、耳たぶにイヤして淡く明減しているが、四十階五十階の高みへと眼を移してい リングをつけ、ルージュをもう一度強く引きなおすと、もう準備は くにつれて、下界のにぎわいは薄れていく。街の上空に林立する 2 3 終わっている。 高層ビルの群は、豪雨の中に黒々と沈黙し、その中央、ひときわ そして、マ = キ、アされた指が壁のくぼみに並んだスイッチのひ高く天にむかって突出したホテル《シャングリラ》の頂上のあた とつを押した。 りは、地上の群集の眼の届かない高みに孤立しているように見え る。 一瞬、頭蓋骨の容器の中で脳が浮かびあがるような感覚があり、 部屋全体が垂直に下降し始めた。女たちは。 ( フで鼻を叩き、スカー : その屋上に、黒い森は水繁吹に覆われてうずくまっている。 トの襞をなでつけ、最後の点検に余念がない。部屋が静止すると、強い雨のにおいに包みこまれて、森は眠っている孤独な獣のよう。 棚の裏に隠されていた扉が左右に開いた。 濡れた毛皮をけばたたせて夢の中に閉じこもっている、大きな黒い シャンデリアの光の中に、すべるように歩み出してきた二人獣のよう。 の女を見て、まずポーイ長が慇懃に頭を下げた。続いて支配人が目そして、その森の奥に取り残された館の一角に、消し忘れられた 灯がひとっ 礼を送り、ロビーの全員の視線が女たちに集中する。中二階のカク テルラウンジから漏れてくるビアノの音をかきわけるようにして、 女たちはフロアを横切り、低頭したドアポーイの前を抜けて玄関に 3 星男 出た。 外の大通りには、風のない垂直の雨が降りしきっていた。土曜の この世の果てにいちばん近い荒野に、星男が住んでいた。 夜の雑踏が傘の波をつくり、水を蹴たてて疾足する車の〈ッドライ樹齢一千年を越すという枯れた巨木の上に、星男のねぐらはあっ トの渦を背景に、間断なく続いている。 た。東にむかって一本だけ張り出た太い枝に寝そべって木の頂上を えんじ 正面玄関の石段の上で、女たちは同じ臙脂色の雨傘を開いた。 見あげると、髭のように絡みあった枝々は天を支えているように見 「では、月曜日の朝にまた」 える。 「よい週末を : : : 」 ″これは星の生る木なのだ″ 臙脂の傘が左右に別れると、急に雨足が強まった。またたくま と星男は考えていた。″今はまだひとつも生っていないが、いっ に、街全体が豪雨の煙幕と激しい雨音に包みこまれていく。 かは枝もたわわに実るだろう。な・せなら、この私、星男の住む木な 水の膜に覆われた舗道は、忙しく行き来する車の波と人ごみの倒のだからな″ 立図を鏡のように映しだし、さらに繁華街の街あかりの点減を反射星男の見あげる空には、夜になっても星の輝くことは一度もなか して濡れ光っていた。大通りに面したビル群の壁面は地上の灯を映った。

3. SFマガジン 1977年7月号

れと気付かないほどだった。だから、自分が一人切り倒すごとに、 丸を射ち尽くすと、また別の銃を拾、 し、射つ。人々の悲鳴と銃声が 四方の壁のスクリーンの一部がゆらぎ、その数が増えていくにつれ混り合い、巨大な部屋の中にこもる。最後の銃を射ちはじめたと て、画像を失っていくスクリーンも増えていくことに気付くわけもき、突然、部屋そのものが揺れ出す。弾丸の一つが、致命的な設備 ない。床が赤く染まり、足が滑りはじめる。人々の悲鳴は部屋中にを射ち抜いたのだろうか。壁際の機械の列が白煙を吹き上げはじ ひびき、絶えるひまもない。ジョッシ = は、あえぎはじめる。目にめ、それは青白い火花を呼び、燃え上る。やがて白煙を吹き出す機 汗が人り、血溜りに足をとられ、片膝をつく。そのときだった、轟械の数が急速に増えていく。瞬く間に部屋中の機械から火が吹き出 音とともに、何かが彼の頬をかすめる。熱い す。同時に壁のスクリーンのすべてが画像を失い、黒く変色する。 ジョッシ、の目は、右手の壁際で数人の男が銃を構えているのをすべての悲鳴と銃声をあわせたよりも凄まじい轟音が部屋中に響き とらえる。跳ね起き、床の機械の裏に身を濳める。同時に銃声が渡り、床が傾き、ジョッシ、も放り出され、床の上を滑る。そして し、ジョッシ = の背後で悲鳴があがる。おびえ、固まっていた人々何か硬いものに頭がぶつかり、ジョッシ = は意識を失う。だが激し の中に銃弾が飛び込んだのた。それはジョッシ、に一つの啓示を与い労働のあとでは、それは何と甘美な救いだったことか。最後の瞬 える。彼は隠れ場所から飛び出すと、自分の背後に人々の集団を置 間に、ジョッシュは誰かが自分の身体を抱き上げたように思った。 くようにして駆ける。何発かの弾丸が彼をかすめ、人々に悲鳴をあ入口からもれてくる光の帯の中に身を置いて、震えながら、ジョ げさせる。狼狽した射手の顔がみるみる近付き、ジョッシ = は、 ッシュを待ち続けていたヨアンは、ビルの中の光が脈動しはじめた とまどう彼らの中に突っ込む。そうなれば、あとは同じだった。ジのを見て、一層、おびえた。あまりにも時間がかかる。銃をんだ ' ッシ = の剣は空気を切り裂き、男たちの肉を切り裂く。一人の男両手が冷たい汗で濡れる。夜明け前の薄明りにほの白く光るビルの が撃っことを忘れ、銃で殴りつけてくる。それをむかえうとうとし外壁が一瞬、震えたように思った。それに続いて、ビルの奥底から たジョッシ、の剣は、銃身と激突し、鋭い音とともに、半ばほどか低い雷鳴のような音がきこえ、光がひどくちらついたかと思うと外 ら折れてしまう。それでもジョッシ、は、半分ほどになった剣でそ壁に裂け目が走った。ョアンは飛び起き、逃げようとしたが、それ の男の頭を叩き割る。全身から血と汗が滴り、ロをあけ、肩であえよりも早く、外壁は陥没するように内側へ落ち込み、崩れ込んでい いでいるジョッシ、の姿は、人間とは思えなかった。いったい何が くのたった。ョアンは茫然としてそれを見つめている。何が起きた これほどに彼を駆りたてているのか。ジョッシ = 自身にもわからな というのか。ジョッシュは ? これほどに巨大なビルであるのにも かった。自分とこの人々とが似ているという気持がそうさせるのかかわらず、すべてが崩壊するのに何分もかからなかったように思 か。ジョッシの破壊への情熱は、まだ納まりはしない。無理やりえた。あの白い柱だけが残り、あとは瓦礫の山だった。まだかすか 両手を折れた剣の柄から引き離す。床に放り出された銃を拾い上に息がある人々の呻き声が、ビルの崩れるときの轟音で遠くなった 6 げ、射ちはしめる。どこを狙っているわけでもない。一つの銃の弾ョアンの耳に達してくる。空がゆっくりと白んでくる。森が黒くそ

4. SFマガジン 1977年7月号

、吠え声はヨアンの足をすくませた。白く尖った歯、赤いロ、よ中央の継ぎ目が幅を広げはじめた。ジョッシ、は腰の剣に手をやっ だれにまみれた顎、張りつめた首の筋肉、漆黒の毛。けれども、そた。ョアンはただ立っていた。 開いていく扉は音一つたてなかった。まるですべるように動いて のすべてが無駄な努力のために費されているのがわかったとき、ヨ いく。扉の中は柔らかな光で満ちていた。やがて扉は完全に開い アンもまた笑い声をあげていた。馬鹿なやつだ、いつまでもそうや っている力いし 私たちはビルの中に入っていくのだ。ビルの中た。そしてョアンは自分の足の下にあるのと同じような草が扉の中 に連なっているのに気付いた。そこにはたった今動いていった筈の ョアンの前に広がっているのは、草原であり、そ 再び振り返り、見上げたヨアンの視界のほとんどすべてはビルの扉の跡すらない。 壁に占められていた。たたの一つの窓もない。だが、何と巨大なのの向こうにあるのも草原たった。ビルの壁は存在してないように思 だ。そして入口の扉もまた巨大だった。その幅はおそらくは三十人えた。ただ、正面に一本の太い柱が立っており、それだけがそこが ほどが横に並んでも、また足るまい。高さはまたその倍ほどもあるビルの中であることを示していた。剣の柄を握りしめたまま、一言 と思えた。ジョッシ、の横に並んで、ヨアンはおそるおそる手を伸もいわすにジョッシ、が歩きはじめた。あわててョアンはそのあと にしたがう。二人が完全にビルの中に入ってしまうと、扉が閉じだ ばし、扉に触れた。思いもよらす滑らかで、ひんやりとしている。 ョアンはジョッシ、の顔を見、彼がまだケルペロスの方を見つめてした。それは何と異様な光景だったことか。振り返った二人の目に いるのに気付いた。 は、白い扉が空間から徐々に姿を現わし、支えるものが何もないに 「まさか。だがあれはヴァリアーだ」 もかかわらず、両脇から中央にむかって動き、やがてかすかな継ぎ ョアンには最後の言葉は聴きとれなかった。というより意味がわ目を残して合わさっていくのが見えた。それは草原のただ中に突立 っている一枚の巨大な石板のように思えた。ジョッシ、の唇がわす からなかったというべきたろう。だがヨアンは気にもとめなかっ かに歪んだ。ョアンは小刻みに体を震わせた。今にも黒い肌をした た。このジョッシュという男は、あまりにも謎めいている。たかが あの老人たちが現われるのではないかと思えた。悪魔め。そう思っ 言葉の一つや二つ、わからなくともかまいはしない。それよりも、 このビルにはどうやって入るのだろうか。ョアンは自分でためしてた途端、ヨアンの心のどこかにひびが入った。逃げるんだ、逃げる みようとは思わなかった。ジョッシ = だ。何もかも彼にまかせておんだ。ョアンは叫び声をあげ、目の前の扉にむかって駆けた。そし てこぶしで打った。いくら叩いたところで開くわけもない。白い扉 ~ 、の、がいし そしてョアンは、おすおずとジョッシュの肩をたたい た。どうすればいいのか ? に血の跡がついていく。だがヨアンは痛みを感じなかった。必死に あたりを見回したヨアンの目に入ってきたのは、扉の横の空間だっ ジョッシュは扉の中央の継ぎ目のあたりを軽くこぶしでたたい た。もはや彼には、そこが本来は壁であるべき筈であるということ 5 た。もちろん、何が起きるのでもなく、扉は閉じたままだ。ジョッ シ、が横を向き、ヨアンに話しかけようとしたときだ、突然、そのすらわからなくなった。ほとんど喜びといってもいいわめき声と共

5. SFマガジン 1977年7月号

( ええ ) ( 衛門、どこにいるの ? ) ( こういうことに慣れている連中らしいな。きみの両側にいる男 ( いま入るところ。わかったよ、きみが心配したとおりだった : は、どちらも白人だ ) そいつは、きみに麻酔薬を注射してからつれ出すつもりらしいよ ) わたしはふらっと目まいをお・ほえ、いままで見えていたスクリー : こわいわ、あたし ) ンの画面がかすみはじめました。そしてわたしの両側から手がの ( いざというときは、・ほくが助けるから、注射されるままにしてい び、抱きかかえるようにして外へつれ出すのがわかりましたが、ど てくれ ) うすることもできません。ゆっくりと意識を失いかけながらわたし ( ひとのことだと思って、そんな ! ) はさけびました。 ( もうひとりほかに見張っているやつがいるらしい。きみが変なこ とをすると、かえ「て怪しまれる。殺人集団の正体が・ほくらた 0 て ( 助けて、衛門 ! あたし、気を失いそう = = : ) ( 大丈夫、・ほくがついている ) ことは気づかれたくないんだ。きみだってそうだろ ? ) 衛門と話しているあいだに、わたしをつけてきた男が、そばに立衛門の心は・ほんやりとわたしの心の中で木魂し、麻酔薬がきくの はディオス人も地球人も同じだわと考えながら、わたしはまっしぐ ちました。 ( こんな小さな女をどうして ? な・せこんなやつをさらうのに、薬らに深い闇の中〈沈んでゆきました。 が必要なんだろう ? ) 6 そいつ自身、なぜわたしを誘拐しようとしているのか、わかって いないのか、無意味でした。わたしをねらっているふたりの背後 に、何かの集団があるのでしよう。それにしても、そのふたりが行衛門は、「ルグリ , トをつれてゆく男たちを尾行した。大都市の 動をうまく隠していることには驚くほかありませんでした。普通人混雑の中をかれらは何度も自動車を乗り換え、しまいにはある建物 に入り、そこで彼女は白い救急車に乗せられた。 が能力者を相手にそこまで気づかれないでいるのは、よほど のプ。ということになります。わたしが肉体的な危険を感じた瞬ふつうの人間には非常に困難な尾行だ 0 たろうが、衛門にと 0 て は容易なことだった。灰色に変わったマルグリットの心と、そのそ それほど近くにいるとは気づいていなかった反対側の男がやっ たのでしよう、お尻にちくりとかすかな痛みをお・ほえました。小さばにいる男たちの心を 0 けていけばいいのだ。それはまるで、闇夜 たいまっ に炬火をかかげてゆく連中を追っているようなものといっていいぐ な針がっき刺されたのです。あっと、思わず小さな声をあげるし、 まわりにいた人々が不思議そうにわたしのほうを見ました。同時にらいだった。 9- その救急車はアメリカ大使館に近い病院の中に入り、マルグリッ 6 衛門の声がしました。 トを下ろした。衛門の心は彼女につきそって病院の中を歩く男の心 ( やられたね ? )

6. SFマガジン 1977年7月号

「ありがとう」 そんな生い立ちのリンクは日本へやってきた。そして、黒人の血 心の中がわかる衛門にとっては、英語で話されようと、日本語でが四分の一混じっているが、まっ白な肉体を持った女エレノアを知 4 2 話されたのと同じことたった。 り ( その過去もひどいものだったが ) 、求婚をつづけ、やっと結婚 ( きれいな人だね、リンク ) にこぎつけた。かれはいまや、女神とくらしているような幸福感に ( ありがとう。でも、彼女には黒人の血が混しっているんた。それ包まれており、彼女を抱くことがこの世で最高の喜びたった。 にしても、よくぼくと結婚してくれたと思うがね ) そのリンクにしても、心と心で話しあえる相手ができたことは、 ( しばらくいて、・ほくは帰るよ。別に、一緒にいなくても話はでき一時的にではあっても、エレノアを忘れてしまえるほどの喜びだっ るから ) たのた。 ・ : 新婚早々の外出禁止たったから ) ( そいつはありがたい : 衛門はエレ / アの苛立ちがたかまってくるのを知って、別れを告 衛門はかれの心の中を探ぐって、その過去を知った。例によっげた。 て、そのセックスにまつわる部分たけだったが。 その黒人兵リンク、本名リンカーン・。ハウエルは、フィラテルフ 3 ィア近くにありハリスパーグの生まれで、十六分の一ほど白人の血 が混じっており、町はずれの石炭置場の裏にある豚小屋同然の家で 「これで七人 : : : お仙、ばく、おじいさん、加代子、蘭芳、リンク 育った。 男か、女か ? 」 そこは石造りの建物がつづく美しい町で町の中を流れるサスケハ 衛門は、またもはっきりと、放射してくる心を感じた。そのビー ンナ川にも切石をつみ重ねて作った美しい石の橋がかかっていた。 ムをたどっていくと、それは後楽園にかかっているサーカス団のテ だが、黒人には住みにくい町だった。 ントから出ていた。アメリカから来たサーカスだ。 リンクの姉は弟を食べさせるために子供のころから売春をつづ切符を買って中に入ると、その感じはより強くなったが、だれが け、弟とならべたべッドで客を取る女だった。姉の拾ってくる客にその当人なのかはわからなかった。 ロ淫をやらせられ、五十セントにつられて白人女に自慰するところ ( 声をかけるべきだろうか ? ) を見せることもたびたびで、それも射精しないというのでその金を衛門はそう考え、そしてためらった。どことなく、ためらわせる もらえないことが多かった。その ( リスパーグにも住めなくなってような感しが e-«A.* 波にあるのた。どことなく遠慮させられるところ ニューヨークへと流れていったのたが、姉の頭はしだいに変になっ 、カ てゆき、リンクが軍隊に入るころには、弟なのか客なのかわからな 出し物を見つづけているうちに、小人たちが何人か出てきた、奇 くなっていた。 術とアクロ・ハットを組み合わせたものを見せはじめた。その中でい 0 、 0 いらだ

7. SFマガジン 1977年7月号

とはたしかだな。マイクロ・・フラックホールというのは、さっきもと、ほとんど完全に現実の世界と遊離して精神が活動をはじめ、 言ったように、質量が一グラム以下のプラックホールのことだが、 わゆる妄想のとりことなる。この妄想は人によって少しずつ違う ブラックホールの公式から、このような小さなブラックホ 1 ルの直力 ・、、まとんどの場合、きわめて系統的なもので、アインシュタイン 径は、顕微鏡でやっと見えるビールスみたいなものに比べても桁外の相対性理論を初歩から勉強し、・フラックホールやホワイトホール れに小さいことがわかる。したがって、大きさがどうのというのの理論を強力で開拓し、実験によって確認し、ノーベル賞を受賞 は、もはや意味がないほどなのだが、逆に、測定できないほど小さし、太陽系中の美女に囲まれ、さらに大発明・大発見をつづけ、タ いのに、″存在感″があるーーということが重要なのだ。・フラック イムマシンに乗ったり透明人間になったりして、銀河せましと駆け ホールといえども、シュヴァルッシルトの半径から離れた外側からめぐり、 宇宙怪獣を退治し、殺されかけていた異星の王女を助け、 見れば、ふつうの物質と変わらないわけだから、このことは理解で銀河の神様、宇宙の大元帥として皆にたてまつられ、銅像が立てら きるだろう。つまり、マイクロ・・フラックホールというのは、無視れ、古い雑誌に埋まって永眠する所でおしまいとなる。この効 できるほど小さく、かっ無視できないほどの重さがあるというふし果は十時間から二十時間ぐらいつづくが、覚めたあともはっきりと ぎな理由で、それが体内に入った場合、他の物質と混合されなが記憶していて、どちらが現実か分からなくなり、すぐにまたマイク ら、身体のすみずみの細胞にまでゆきわたり、血液の中にも入りこ ロ・プラックホールがほしくてたまらなくなる。血管に直接注人し み、そこで、人体になんらかの影響をおよぼすことになるのだ」 てもよいが、ご飯にふりかけて、お茶漬けにして食べると、もっと 「その影響が問題なんですね」 も効果が大きいと言われているんだ」 ヒノが声を大きくした。 「そりや、まるで幻覚剤ですねに」 ヒノが唸った。 「そうだー、・ー」課長は嬉しそうにうなすいた。 題なんだ」 「マイクロ・プラックホールを一万も集めるのには、どうするんで ~ 「教えて下さい ! 」 ヒノの声はさらに大きくなった。ョダレが出そうな口もとであ シオダはしすかにたすねた。 「なにしろ、眼に見えないから大変らしい」課長は答えた。「 「われわれの所にとどいている情報では、こういうことだ」 どういう形状・状態で宇宙から太陽系に密輸されてくるのか、宇宙 課長は笑いをやめ、ファイルを眺めた。 警察でもまたはっきりとは掴んでいないらしいが、何トンもある岩 「マイクロ・ブラックホールを質量にして十グラム、数にして一万をくだいて粒にし、その中から反重力ビンセットで探し出すのでは 以上体内に入れた場合のことだが、ます第一に、恍惚とした精神状ないかと言っている人もいる。干草の中の針どころではない。超 ・クリーンルームの中でホコリを集めるようなも 態となり、宇宙のことがすべてバラ色に見えてくる。数分もたっ co —用のスーパ 1 る。 「ーーその影響が問 5

8. SFマガジン 1977年7月号

「どうしたのよ」 林に立ちこめた霧は、土曜の午後になっても動く気配を見せ なか 0 た。建物の中では、宿のしまい仕度を急いでいる女たちの気「建物は一見ただの旅宿のように見えても、その領地であるこの空 間は、やつばりただの林じゃなかった。《館》以外のものが、こん 配があちこちを動きまわっている。 な奇妙な林をまわりにめぐらせていると思うか ? 」 「ーーねえ見てよ、どう思う ? 」 は大股に庭を横切りはじめた。「あと一カ所だけ確かめれば、 叫びながら、霧の中へが駆けだしてきた。の前に立ちどまる 完璧だ」 と、裾をつまんでポーズをとってみせる。 「待ってよ ! 」 「何て格好してるんだ ? 」 —があわてて後を追った。「待ってよ、駄目よ。あの岩穴、危険 「貸してもらったの、どう ? 」 な気がするのよ」 濃いうぶ毛を丹念に剃った—は、荒い皮膚を女たちのように白く 「あそこを通って来たんじゃないか。後をつけてきたやつらも、も 塗りつぶしていた。退行した種族の血がもたらした姿勢の崩れを、 ういなくなっているだろうからな」 長い衣装が覆い隠している。 「そんなことしゃないのよ、本当に悪い予感がするんだから ! 」 「何とか言ったらどうなのよ , 隧道の昏い口が見えてきた。はを振りきって中に踏みこもう 「それどころじゃない」 「この林、やつばり変だ。何度試してもとした。 は顔色を変えていた。 「せめて、試してみる間だけ待って」 同じところへ戻ってきてしまう」 —は小石を拾い、暗闇の奥へ投げこんだ。白い石は、放物線を描 「あんたが抜けてるからよ , いて闇に吸いこまれた。 「霧のせいだけじゃない。幹に一本ずつ印をつけて歩いているうち に、全部の木が印だらけになっちまったんだ」 「音がしないわ」 「ー・ーーどういうこと ? 」 「聞こえなかっただけだ」 「つまり、いくら歩いても印のない木に行き当たらないんだ」 が拳大の敷石の破片を投げた。軌跡が闇に消えると、後は何の と * は建物の横手を迂回し、裏の林の奥をめざして歩き始め た。霧の中から次々に現れる木立ちのどの幹にも、石を擦りつけた気配もない。 跡が真新しい白い口をあけている。二百歩ほど真 0 すぐに突き進ん「ーーきのうの占いが気になったのよ」 しばらくして、—が口を開いた。 だ後、二人は行く手に食堂の灯を認めた。 「印が何も現れなかったということか ? 」 「ーーーやつばりだ」 「つまり凶兆よ」 の声は喜色を含んでいた。 323

9. SFマガジン 1977年7月号

こ 0 を透視してみていた。そいつは廊下を歩き、 = レベ 1 ターに入り、 地下何階かに下りてゆき、ついで大きな部屋に入った。 ( ああ、気がっかれましたか ? 英語はおわかりになりますね ? ) 7 「来たか : : : 」 2 男の声が聞こえ、「ルグリットは思わすうなずこうとした。だ と、白衣を着た男が迎えた。白人であり、アメリカ英語を話してが、衛門の声がその動きをとめさせた。 いる。不思議なことに、話すこと以外のことは考えないようにして ( 怪しいそ、どこか ! ) また男の声がした。 「薬はあと二、三十分間、きいている。つぎの薬は、気が 0 いた直 ( 気が 0 いたかとい 0 たのです ) 後に飲ませたほうがいいらしいそ、フ = ル。フス」 マルグリットは気づいた。そいつはロを動かしていなかったの と、映画館からず「と「ルグリ , トのそばにいた男が話しかけだ。じ 0 と見「めると、そい「はもう一度、こんどはロをひらいて こ 0 尋ねた。 「本当かな、これほど小さな女が ? 」 「気がっきましたね ? 」 その声が、灰色だったマルグリットの心の中で何度も木霊した。 彼女は弱々しくうなすいた。 意識を取りもどしはじめたのた。 「すぐよくなりますよ」 ( マルグリット、 気がっきはじめたね ? ) 「あたし : : : どうしたのかしら ? 」 ・ : こわいわ、あたし ) 「映画館で気を失い、病院へ運はれてきたんです : : : さあ、この薬 ( そいつらは、きみが目を覚ますと、何かの薬を飲ませるんだと、 を飲んで」 さっきい「ていた : : : 強制自白剤というやったろうと思うよ ) 白衣を着た男は、マルグリットのロにコップを近づけた。 「ルグリ , トの心に恐怖が走 0 た。それは衛門が想像したものと「あなたは ? 」 違っていたが、正体を知られては困るという点では同じたった。 「医者のフ = ル。フスといいます。さあ : : : 」 ( 大丈夫だよ = : : きみとぼくとで力を合せて、そいつらが薬を飲ま ( いまよ ! ) せたような暗示をかけよう : : : きみは尋ねられたことに答え、。ほく ( うん ) はそのあいだにそいらの心の中を調べてみる : : : きみを尋ねている 衛鬥とマルグリットは力を合わせ、その男に暗示をかけた。そい あいだは、心の中にあるものを隠していられないはずだからね ) つの心はささやいた。 ( わか 0 たわ。でも、なぜ心の中を隠そうとしているのかしら ? ) ( 女はコツ。フを持った ) ( それをいまから調べるのさ ) マルグリットは医者の手からコップを受け取った。そして、そい 「ルグリ , トは、うめき声をもらし、身じろぎすると、目をあけつの目をし「と見つめた。

10. SFマガジン 1977年7月号

巨大な、想像を絶するほど巨大な、ギャラ クタスの本拠地、宇宙ステーションであっ だが、その中に何が潜むにせよ、時間は 、 - あまりにも少ない。急げ、ジョニイ・ス ーム、地球を救えるのはおまえたけた , ( 以下次号リ ) しかがでしたか ? と、まあこんな具合 にこれから半年の間、 一九六〇年代のアメ ーリイを中む リカン・コミックスを ( ス として ) いろいろ紹介していくつもりで す。いい意味でも悪い意味でも、のびのび と大らかな、センス・オプ・ワンダー險れ - るアメリカン・コミックスのス ーローたち。みなさんのお気に召せばうれ しいのですが。 0A4 次回は〈放浪者シル・ハ ーサーファー〉と 1 ゞ題して今月の続きを紹介します。どうそお / 〔楽しみに・ を 0 製第三 当 09 を能 0 ~ つ 5