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検索対象: SFマガジン 1977年7月号
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1. SFマガジン 1977年7月号

ものの十分も放心していたろうか。この地点にキャンプをすえて 三日目、初めて出会った完璧ともいえるタ景に、私は文字どおり没 ふと、視界のすみにうごめくいくつかのオレ 頭していたのだ。 私は、自分のテントの前の、雪塊の上に腰を下ろし、目の前にひンジいろの点を認め、我に帰って、瞳を凝らした。右手、五百メート ルほど上方の、尾根筋から、氷河へと下って来る三人の人影だった。 ろがる壮大な光景に目を放っていた。 : いかなる形容詞も、その光景のすべ パトロ 1 ルが戻って来たのだ。焦りをお・ほえるほどにその足どり 壮大、森厳、華麗、神秘 : てを一言で表現することは不可能である。その属性の一部を、辛うは遅い。氷河の徒渉は、慎重を期することももちろんだが、少なか して伝えるにすぎない。私の目前に在るのは、おそらくこの地球上らず疲労している様子だった。 私は目をほそめ、その接近を見守った。雪を踏むかすかな足音 で、もっとも苛烈で、同時に繊細な美しさを持っ光景である。 ーカーが、・ハイプをくわえながら立 風は熄んでいた。打てばひびくほどに澄み、凍てついた空気は、 に、振り向いた。ろコット・・ 吸うごとに喉と肺に沁みたが、私はもう自分が呼吸をしていることっていた。サングラスを外した顔は、褐色に雪焼けした頬と、目の すら忘れていた。 まわりとの白さがくつきりして対照をなしている。ダンヒルの芳香 キャンゾの前からは、所々に黒い岩肌を露呈させた氷河が、瀕死が、私の鼻腔をきつく搏った。 の巨龍のように大きくうねりながら上方へと伸び上がっている。左「戻って来たな」 手には、無名のいくつかの屋根ごしに、トリズル山を頂きとする峰おちつきはらったキングス・イングリッシュで呟いた。いかなる 峰が、鋸の歯のようにそびえ立っている。そして私の正面には、あ時でも失われぬ冷静さが、彼の身上だった。 の鋭い霊峰が見える。タ陽を浴びてサフランいろに輝く神の白き玉「そうだ」 座。女神がすむといいならわされて来たナンダデヴィ : : : 海抜七八 私は英語で答えた。 一七メートルの、紫紺の空に突き立てられた大地の牙だ。 「今度は、手ぶらでないといいが : : : 」 山々はそこに在り、世界のすべてを充たしている。静寂という比「今日で三日目。そろそろッキが回って来てもいい頃だよ、サム」 おさむ スコットは髭面をほころばせた。私の名は治たが、時々サムと呼 類ない音楽が、その純粋な光景を、さらに透明にさせていた。 私の心は敬虔な思いで充たされた。見るたびにそれが一つの体験んでいるのである。 となる光景だった。心の屈託を忘れ、自分を無に向かって解放して「今まで多くの探険隊がそう信じて来た」 くれる。なぜ私がここに、 ナンダデヴィの南方六キロ、海抜六 私は呟いた。 千五百メートルのジョシマ氷河上に存在しているのか、そのきわめ「だが、結局期待は裏切られたんだ」 て世俗的な理由をも忘れさせてくれるのだった。 少くともおれはそう信じている。サム、 「われわれは特別だ。 6

2. SFマガジン 1977年7月号

ほら その目 話を切り 出したとたんに みんなそんな 目つきでばくを 見る " そのあと ド ~ 夭いたす力 おこるか : さもなきやノ おひえたように ハタンとドアを 閉めるんだ ゃあ、やあ わるかった はじめに ュメ物語って いわれたのを 忘れてましたよ 売りにくい なんてもんじゃ ありませんよ 今の日本で タイムマシンを 売るのが こんなにも 困難なことだ しかにそのロは 売りにくいでしょ 6 でく受まな すれけ よんったい のけ か て 広告とか 、プリシティ なんか 広告界も いろいろ規制が うるさ . くてね もちろん やりましたとも 実演 ? 0 個人的に 勝手に合理化 ちゃったりね つまり 暑さのせいで 一時的に幻覚を 見たんだとか でも反応が , きまりきって いるんです さもなきや 精神病院に 入っちゃうん です 290

3. SFマガジン 1977年7月号

で考えていた。むしろわれわれにとっては僥倖かも知れぬ。 1 トルの氷河である。猫の目のように変りやすい峻烈な天候の他に 繰り返すようだが、われわれは新たな謎を欲しているわけではなも、雪と岩が織りなす罠が、至るところに仕掛けられているのだ。 いのだ。ただでさえ余裕がない仕事を、さらに混乱させることにな人間の生存と行動が、辛うして許されている環境であることに変わ る。 りはなかった。 おとり 風がおさまったのを見定めてから外へ出、出発の準備をとと囮は、稜線上、谷底、および向かいの山腹の岩場の三か所に、ほ 0 、 のえた。メンノ ・、ーよ私にスコット・ 1 カー、そして緒方だった。 ・ほ五百メートルずつの距離をおいて仕掛けられている。私たちはそ の稜線上のポイントをまず目指していた。 肉の運搬役をつとめるシェル。 ( も、三人が同行することになる。 縦列をつくって、出発した。各目が。ヒッケル、アイゼンに身をか風で、稜線上の新雪は吹きとばされ、凍った万年雪がむき出しに ため、私と緒方はカメラと双眼鏡で、スコットは麻酔弾を装填した なっている。濃いサングラスごしに、蒼みがかってぎらついた雪 ライフルで武装している。アフリカなどで大型獣捕獲用に用いられと、わすかに露出した、ナイフを東ねたような岩峰が見える。 る、即効性の注入針付きカプセルを射ち出すタイプだった。 その岩場の一つに、私たちは近づいて行った。ポイント。 氷河をよぎって、北尾根と呼んでいる右手の稜線にの・ほるまで岩のすき間に、血をまぶされたヤクの頭部と片腿が挾み込んである に、一時間を要した。稜線の向こうは比較的なたらかな斜面を経てのた。 いったん谷になり、突兀とした岩肌がところどころむき出しになっ 先頭のシェレ : 、 ノノ力。ーーーチュンビという名で、シェルバのリーター た、名もない峰の山腹につながっている。 格だーー 、肉塊の傍にひざますいた。次の瞬間、立ち上がって大声 その小さな谷こそ、かってスコットがイエティを見かけた場所たを上げた。 った。目撃時の状況はきわめて悪かったと、スコットはいった。雪「サープ ! 早く ! 」 嵐が吹き荒れ始め、視界が閉ざされつつある時、彼は偶然に、谷の 私たちは可能なかぎりの速度で、彼に近づいた。出来るものなら だが、過激な運動は肺が許さないのだ。 向かいの斜面中腹の、岩棚の一つに立っているものを目に止めたの走りたい チュンビの指し示すものに目を走らせた。腿が、岩陰から半ば引 だ。黒々とうすくまったそのもののかたちは、巨大な猿を一瞬思わ せ、彼を観察しているかのようだった。スコットは、カメラをセッきずり出されている。切り口に近い部分が大きくはじけ、骨が露出 ティングするべく俯向いた。だが三十秒後、カメラを構えつつ再びしている。 目を上げた時には、その姿は消えていた。風は急速に脅威を増し始「イエテイだ」 チュンビがしわがれ声で囁いた。不精髯におおわれた唇が震えて め、彼がその場に止まることを許さぬ状況になっていた。 好天にたすけられ、私たちの前進ははかどった。だがむろん、慎いた。 重なリズムを崩すわけには行かなかった。何といっても標高六千メ「彼が、やって来たんた」 6

4. SFマガジン 1977年7月号

7 / ・朝海気いれ 7 に第に暠ない / 鬲第のにを lhe 口 - 私が、この人物を日本にはじめて 紹介したのは今から十三年前、当 時、本誌に連載していた〈英雄 群像〉の一回としてだった。 そのときの反響の大きさにはびつ くりしてしまった。そしてその反響 は、邦訳が文庫に入って以来今 ている。 日に至るまですーっと続い ジェイムスン教授がどうしてそん A 」いは、 なに人気があるのか やつばり、そのゾル人のスタイルた ろう。 一枚目の絵が一九三一年七月号の 〈アメージング〉に載った、ジェイ ムスン教授シリーズ第一作のイラス トである。画家はレオ・モー いうまでもなく、ジェイムスン教授 のは遠く銀河の彼方からやってきたゾルの機械の死後四千万年目に、ゾルの機械人 ジェイムスン教授 死後、なんとか自分の肉体を永久に保存する人。かれらは、自ら開発した御覧のような形のたちが教授の遺骸をおさめたロケッ 方法はないものかと考えに考えたすえ、甥に命体のなかに脳を移植して不老不死を獲得し、趣トを自分達の宇宙船へ収容したとこ じて自分の棺桶をロケットごと打ちあげさせ、味の宇宙旅行にいそしんでいる。かれらの手にろ。 人工衛星となって未来永劫、地球のまわりをめよって復活させられ、機械人ー 392 ところが これなら となった教授はあたらしい仲間達とともに勇 ぐりつづける : それから四千万年後、太陽系内へと入ってきた躍、はてしもない星の海へ・ 二枚目、前の絵とよく比較してみ て欲しい。これは第二作〈二重太陽

5. SFマガジン 1977年7月号

「まだだ」 私は叫び返した。 その足跡のかたちは、私の目前にあるそれとに、びったりと重な 7 「 < ポイントまではすぐた。少くともそこだけは調べる」 っていたのだ。深々と沈み込んだ踵の跡が、それを印した者のおそ 私の決断は冷静さを欠いていたかも知れない。しかし木俣への言るべき体重を示している。 葉は嘘ではなかった。ポイントまで、もう十分もかからなかった 私はほとんど恍惚とそれに見とれていたようである。スコットが ろう。ーー私たちは強引に雪煙をかいくぐって進んだ。 目を上げ、ふいに緊迫した声でいった。 覚えのある岩塊がゴーグルに・ほんやり浮かび上がった瞬間、私の 「あれを見ろ ! : やつは、よろめいている」 胸はすべての不安を忘れて高鳴った。 私は彼の視線を辿った。足跡は、五十センチほどの間隔で続いて 息と胸とをはすませながら足を運んた。スコット がびったり私に いる。五メートルほど向こうで、大きく乱れていた。よろめき、辛 尾いて来るのを感じていた。岩の間に顔を近づけ、肉塊の変化を読うじて体を立て直したかのように、横に逸れ、一部が重な 0 てい み取ろうとした。白く雪が吹き溜ろうとしている肉の山は、たしか た。目を凝らすと、その向こうの足跡も、必ずしも直線を保っては に大きくかき乱されているようである。 しないよう - ・こっこ。 ぐいと肱をつかまれた。振り向いた私に、スコットが無言で岩の 「やつは餌を食った。ーー薬が回り始めたんだ」 北側の雪面を指さした。悪化してゆくゴーグルの視野ごしに、私は スコットは喘ぐようにいった。立ち上がり、雪を蹴散らして、私 い 0 しんに目を凝らした。ーー・何かが点々と雪に刻まれている。稜たちを見守 0 ていたシ = ル。 ( たちの傍に戻 0 た。その一人の肩か 線を、北の斜面へと下って行っている。足跡に紛れもなかった。 ら、ライフルをもぎ取った。私には目もくれず、足跡を追って進み 私とスコットはもつれ合うように進み、足跡の傍に、同時に膝を始めた。 ついた。顔をすりつけるようにして、それを見つめた。 私は茫然と立ち尽していた。とっさにその行動を理解しかねたた 「こいつだ・ : : こ めである。ふいに何かが閃き、私に叫んだ。 スコット・、 , 甲、こ。 「スコット、馬鹿な真似は止せ ! やつに追いつく前に、嵐に巻か 「シ。フトンが撮ったものにそっくりだ」 れるそ ! 」 私もすぐに、あの有名な写真を脳裡に呼び起こしていた。一九五「止めてもむだだ」 エリック・シプトンとマイケル・ウォード が、メンルング叫びが戻って来た。 氷河で撮影した写真。幅三十二センチ、長さ四十五センチの巨大な「こんな機会を、見逃せるか ! 」 足跡。太い親指をふくめ、五本乃至四本の指をそれは示していた。 魔女の悲鳴に似た風の音とともに雪煙が舞い上がり、スコットの 今までに知られた猿、熊、豹、そして人間のものでないことは明白姿を白い闇の中に呑み込んた。

6. SFマガジン 1977年7月号

がはじめての客だ、と。それなのに、自分たちのやっていることた。銃 ? 銃た。彼が見たことのあるものとは少々形が異なってい を、あんなに簡単に話してくれた。おれたちが二度と外へ出られな たが、確かに銃だった。重い いという確信があるからに決まっている。おれはこのビルの中を探「太く平たい方を唇にあて、先を目標に向けろ。そしてその引き鉄 ってみる。ョアン、おまえはその寝台でやすんでいろ。じきに戻っを指で引くんだ。そうだ、それで・いい。そいつがあれば、ケルべ てくる」 スに襲われても、何とかなる」 そのとき、ヨアンは、ジョッシュの足が黒い線をはずれ、天色の ョアンは袋を背負い、両手で銃を握りしめながら、ジョッシュと 床を踏んでいるのに気付いた。ジョッシ = はヨアンの顔を見、自分 リリアンのあとに従った。たしかにこの二人には、共通する部分が の足元を見、謎めいた表情を浮かべた。そして彼の言葉も謎めい ある。年月の重みというのだろうか、少なくともョアンには永遠に こ 0 そなわることのない重さが、二人からは感じられた。そしてそれが 「おれの身体は、ここの住人たちと同じような性質を持っているら二人を床の内に沈みこまないように支えているように思えた。何と 、つヒレ。こ 0 しいな」 ノナここでは重いものが浮かび、軽いものが沈む。この私 では千年も生きるというのか。ョアンの疑問は声にならなかつのように軽いものが沈んでいくのだ。早く出ていきたい、ケルべ た。それは彼の心の内にとどまり、ジョッシ = がしなやかな足どりスのほうがまだましだ。少なくとも、あの獣は正当に生きている。 で部屋を出ていった後も、反復して彼の心にこだました。あの男はたとえ人間を食うとしても。 何者なのだ。少年のようで老人のようで、ヨアンは不安を噛みしめ柱の中から出、足の下に草を感じたとき、ヨアンは思わずため息 る。やがてその不安は疲れに浸食され、ヨアンは眠りにおちていつをもらした。外はまだ夜だった。見えない壁は、光と闇の間にくっ た。目を覚ましたときには、ジ , ッシ = が部屋に戻 0 ていた。そしきりとした境界をつく 0 ていた。見上げてみれば、その境界は傾斜 てリリアンも。 しながら、どこまでも続いていた。彼らは、白い巨大な扉に向かっ 「彼女が案内してくれる」 て歩いた。リリアンが扉の前で、手を振ると、ゆっくりと扉が左右 「おまえに脅されて、ね」 にわかれていく。 女の顔に浮かんでいたのは軽蔑だった。あとは怒り。ジョッシ = 「さあ、行くがいい。人間の世界へ」 は、そうした女の感情には無関心に、ヨアンに棒のようなものを渡 リリアンに言われるまでもなく、ヨアンは駆け出した。そのと した。彼の目には、はじめて会ったときに見せた硬い光があった。 き、ジョッシュの叫び声を聴いたように思った。振り返ると、ジョ あのケルべロスの目にも似ている、ヨアンは思う。 ッシ = は、まだ光の中にいる。何をしているんだ。ョアンは声をか 「銃だ」 けようとして、気付く。ジョッシ、は外へ出られないようなのた。 ジ ' ッシ = の言葉に、ヨアンは自分が手にしたものに目をやつまるであの地獄の大のように、ヨアン自身のように、見えない隔壁

7. SFマガジン 1977年7月号

いう発言だ。若手会員が反撥している」 くて、落っこちた人もいる。その点、。フラサットなら、大丈夫だ」 おれは、答えた。ただでさえ忙しいのだから、これ以上、面倒に 「ありがとうございます。獣持込みで練習すれば、コース使用料だ まきこまれたくなかった。 けですから、安くあげられますわ」 「先生、出版社から再版の通知が来ています。『非文化ペット おれたちが、そんなことを話しあっているうちに、まもなく教習 門』と『禁断のヘ 。ット』と『ペット族の叛乱』です」 所についた。 「あ、そうか」 おれが相談を受けている町田という客は、おれの顔を見るなり、 おれは、うなすいた。ゆったりと象の背でゆられていると、優雅象のところに駈けよってきた。なんでも、大会社の社長だそうで、 な気分になってくる。上から見おろすと、せかせかした自動車ども自宅には、孔雀を放し飼いにしている。それが、今度は、ライオン が、哀れにおもえてくるくらいである。 を飼いたいというので、大型免許にとりかかったわけである。 「先生、プラサ ット、お借りしていいんですね。助かります。教習動物好きなのはけっこうだが、ちょっと気の弱いのが玉にきずで 所も値上げになって、たいへんなんです」 ある。哺乳類のなかでも、食肉目は、霊長目についで、高い知能を 「教習獣は、おとなしいのが取得たが、すれつからしになってい持っているから、相手の人をみる。こっちが、すこしでも恐れてい て、扱いにくいことが多い。いくら鞭をいれても、教習馬が走らなるそぶりを見せれば、なめられてしまうのである。 リアン・メモ ズ レ ( ノ 。異星の人 価一〇〇〇円 ) 田中光ニ 本地球人類の本質を観察すべく外字宙から地球にやってき 日 た異星人工ナリーの目に映った人類とは ? 若き種人類 に対して共感と愛を詩情ゆたかに謳う気鋭の最高傑作 ! 幻覚の地平線 価一一九〇円圭日 わが赴くは蒼き大地 価三ニ〇円 スフィンクスを殺せ早 四六判上製価八五〇円 田中光ニの作品

8. SFマガジン 1977年7月号

セ宏 モ第昌ト フジテレビはく第三の目〉のテスク宛て ふとしたミスから、毎週送られてくる 関東地方の衛星写真を見ているうちに 富士の回りの異変に気づいたスタッフは・・・ 363

9. SFマガジン 1977年7月号

、吠え声はヨアンの足をすくませた。白く尖った歯、赤いロ、よ中央の継ぎ目が幅を広げはじめた。ジョッシ、は腰の剣に手をやっ だれにまみれた顎、張りつめた首の筋肉、漆黒の毛。けれども、そた。ョアンはただ立っていた。 開いていく扉は音一つたてなかった。まるですべるように動いて のすべてが無駄な努力のために費されているのがわかったとき、ヨ いく。扉の中は柔らかな光で満ちていた。やがて扉は完全に開い アンもまた笑い声をあげていた。馬鹿なやつだ、いつまでもそうや っている力いし 私たちはビルの中に入っていくのだ。ビルの中た。そしてョアンは自分の足の下にあるのと同じような草が扉の中 に連なっているのに気付いた。そこにはたった今動いていった筈の ョアンの前に広がっているのは、草原であり、そ 再び振り返り、見上げたヨアンの視界のほとんどすべてはビルの扉の跡すらない。 壁に占められていた。たたの一つの窓もない。だが、何と巨大なのの向こうにあるのも草原たった。ビルの壁は存在してないように思 だ。そして入口の扉もまた巨大だった。その幅はおそらくは三十人えた。ただ、正面に一本の太い柱が立っており、それだけがそこが ほどが横に並んでも、また足るまい。高さはまたその倍ほどもあるビルの中であることを示していた。剣の柄を握りしめたまま、一言 と思えた。ジョッシ、の横に並んで、ヨアンはおそるおそる手を伸もいわすにジョッシ、が歩きはじめた。あわててョアンはそのあと にしたがう。二人が完全にビルの中に入ってしまうと、扉が閉じだ ばし、扉に触れた。思いもよらす滑らかで、ひんやりとしている。 ョアンはジョッシ、の顔を見、彼がまだケルペロスの方を見つめてした。それは何と異様な光景だったことか。振り返った二人の目に いるのに気付いた。 は、白い扉が空間から徐々に姿を現わし、支えるものが何もないに 「まさか。だがあれはヴァリアーだ」 もかかわらず、両脇から中央にむかって動き、やがてかすかな継ぎ ョアンには最後の言葉は聴きとれなかった。というより意味がわ目を残して合わさっていくのが見えた。それは草原のただ中に突立 っている一枚の巨大な石板のように思えた。ジョッシ、の唇がわす からなかったというべきたろう。だがヨアンは気にもとめなかっ かに歪んだ。ョアンは小刻みに体を震わせた。今にも黒い肌をした た。このジョッシュという男は、あまりにも謎めいている。たかが あの老人たちが現われるのではないかと思えた。悪魔め。そう思っ 言葉の一つや二つ、わからなくともかまいはしない。それよりも、 このビルにはどうやって入るのだろうか。ョアンは自分でためしてた途端、ヨアンの心のどこかにひびが入った。逃げるんだ、逃げる みようとは思わなかった。ジョッシ = だ。何もかも彼にまかせておんだ。ョアンは叫び声をあげ、目の前の扉にむかって駆けた。そし てこぶしで打った。いくら叩いたところで開くわけもない。白い扉 ~ 、の、がいし そしてョアンは、おすおずとジョッシュの肩をたたい た。どうすればいいのか ? に血の跡がついていく。だがヨアンは痛みを感じなかった。必死に あたりを見回したヨアンの目に入ってきたのは、扉の横の空間だっ ジョッシュは扉の中央の継ぎ目のあたりを軽くこぶしでたたい た。もはや彼には、そこが本来は壁であるべき筈であるということ 5 た。もちろん、何が起きるのでもなく、扉は閉じたままだ。ジョッ シ、が横を向き、ヨアンに話しかけようとしたときだ、突然、そのすらわからなくなった。ほとんど喜びといってもいいわめき声と共

10. SFマガジン 1977年7月号

作ったのだからな : : : 。救助班の連中は〈テセウス〉号と命名してた。 それがこの惑星の地底に拡がる、底知れぬ迷言の入口だった。 いるんだが」 ありがたい命名にもかかわらす、タキはかえって不安を感じた。 つ」 辺境調査基地のシミ、レーション装置で操縦は一応慣れたものの、 艇体から受ける印象までは訓練されていなかったからだ。 カリフォル = アの乾いた空気は、二日酔いの臭気を薄めるのに絶 ( それに今度の任務は宇宙空間の飛行ではない。何しろ地底の迷路 マ。こ 0 へ潜るのたからな : : : ) タキは〈テセウス〉の艇体をながめなが タキはペッドから体を伸、はして、窓を少し開けた。カーテンが風 ら、改めて任務の困難さを実感した。 目の前の艇体が血のような赤味を帯びたような気がした。錯覚でにあおられ、抜けるように蒼い空が見える。 酒の臭気と、五年間堆積している中年男特有の汗臭い体臭が、少 はなかった。赤い光が射しているのだ。 地平線から二つ目の太陽が昇ろうとしているのたった。すでに赤しずつ抜けていくような気がする。 ( ここは空調が完全な宇宙船の操縦室ではないんた ) タキは依然と 色巨星化の兆候を見せはしめた型スペクトルの恒星〈ポルへウス ウへウスと連星を成す伴星だ。今、二つの太陽は三十して頭痛が残っている頭で、そう思った。 Ⅱ〉 ッドに潜り込み、目を閉じた。 タキはふたたびべ 度の差で昇ってきたのだが、やがて数十日のうちには、角度はさら その時、部屋の隅で、映像電話のブザーが断続的に鳴り始めた。 に拡がり、出没の時差はますます開いてゆくだろう。な、せなら、こ の惑星〈ミノタウロス〉は、二つの太陽の間を通り抜けようとする起き上がる気力はなかった。タキはシーツを頭からかぶりながら、 軌道にあって、連星の共通重心に向いつつあるからだ。温度はさらそういえ、は操縦席を連想させる機器といえば、この部屋では映像電 にヒ昇し、夜は交互に昇る二つの太陽のために、さらに短くなって話装置くらいのものだなと思った。 タキは核融合推進の宇宙船が人類の獲得した最高速度であった時 いくにちがいない。 代に、最も高度な訓練を受けた宇宙飛行士だった。高に耐え、長 それだけは確かだった。 救出作業を急がねばならない 期間の密室生活に耐え、高度な操船技術をこなす能力を持つ、数少 「出発の時間は決まったのか」タキは局長に説ねた。 「まだだ」局長は断言した。「この整備が終りしだい、最後の打合ない人種のひとりだ「た。文字どおり、人類の最先端に位置する任 ワー。フ航行船が、何の苦もなく数光年の距離 務にあったのだ。 せを行なうことになっている。五時間もかからないだろう」 タキはさらに整備塔へ近寄った。それはなしろ油田の試掘櫓のよを一瞬のうちに移動しはじめるまでは。 ワー。フ航法の開発によって、タキの持っ操船技術は色褪せたもの うな印象を与える。吊された艇体の下には、艇体よりもやや大き になった。核融合推進による飛行は、せい・せい百天文単位程度の距 、」目一釜十メートルはあろうかと思われる暗黒の穴が口を開けてい