言っ - みる会図書館


検索対象: SFマガジン 1977年9月号
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1. SFマガジン 1977年9月号

「安いもんだ、百万なんて。それで無罪放免だし、フィリップ・カ「手は早く打った方がいいんだぜ」 彼は、俺が金の算段で考えこんでいると思ったらしく、せつつぎ ードに会社名が出てもかえっていい宣伝になるし。え、そうだろ」 にかかった。 「金をケチったり遅らせたりすると、スタッフの連中がつむじを曲 俺は黙りこんだ。 百万という金は、無いことはない。定期を解約し郵便貯金をおろげることもある」 俺もそうするそと言いたげに、ヘらへらと笑って駄目押しをした。 せば、明日にでも揃えることはできる。 しかし、果してそれでいいのだろうか。この = セ大衆社会に腹を「この方法は、絶対安全というわけではないんだからな。現場の堅 ・コートだと見ぬいている俺がそれをやれ物が首を縦にふらなきや、犠牲者は犠牲者として扱われるんだ」 立て、番組をカメガルー ば、結局奴らに負けたということになるのではないか。 「ま、そこが九百万と百万の違いだな。一度、本番直前にプロデ、 俺は密告して謝礼をせしめた小男、態度を豹変させた同僚、俺の ことをではなく自分のことを心配して怒り狂った妻。あるいは、社ーサーがチ = ックを始めて、現場の勘違いを改めさせたこともある の上司達とこの男。さらには機構の係員や、まだ顔を見たことのな ・退屈な青春にしたくない・ い局の連中。残酷な期待感を抱いて画面を見つめる全国の視聴者達。 そして、それら一切をひっくるめて大衆とおだてあげ、好き勝手 に操作して「安泰」を確保している人間。 読書志願 そういった奴らに、俺はひれ伏して許しを乞い、おめこ・ほしを願 うということになるのではないのか。 大宮新栄堂開店十周年記念 真実を知っていながら知らないふりをし、物言わぬ無名氏になっ 文庫 ^ 小型廉価本〉フェア て拍手をしろと言われれば拍手をし、笑って暮せと命ぜられればそ 文庫一一千点を展示販売いたします うしていく。そういう人間の集団であり、俺が感情的にも理性的にも 昜所大宮ステーションビル 拒否し嫌悪しているいまの大衆社会。そこへひきずりこまれてしま 6 階崔事場 う、その第一歩を自ら踏み出してしまうことになるのではないのか。 日時 8 月 3 日 58 月新日 職業と収入と家庭とを守ろうと思えばその代償に、俺は百万円と い合せ先 いう金などとは比較できないほどの、自分の「生き方」「考え方」 0 4 8 ・ 4 4 ・ワ朝っ 4 を捨てなければならないのである。あるいは、捨てたふりをつづけ なければならないのである。 2 2 7

2. SFマガジン 1977年9月号

、刀 に出ると、ディジ ー・メイが見つかった。彼はすつばだか すごい、と彼は思った、すごい、すごい、すごいそー 8 。、ールは夢心地のようにリビングル 1 ムにもどり、大きな革色ので、毛布の上に横になっていた。もどりかけたとき、ディジー 椅子にぐ - ったりとすわりこんだ。彼は大きなため息をついた。「ディが目を上げた。「おはよう、お寝・ほうさん、よく眠れた ? 」 ジョン・リ 1 はもじもじし、ディジー ・メイから努めて目をそむ ゾー・メイ。母親になるというのがどういうことか、やっとわか ノ , いー けた。「うん。たつぶりね。 ったような気がするわ」 あくる朝、ジョン・リーはゆっくりと目ざめると、筋肉がはじけ「仕事。メイ・カンパニ ・ ) のウインドウ装飾をやってる るまで体をのばした。天井を見上げたが、しみあとのある色あせたの、 「きようはパラマウントの仕事は ? 」 壁紙はなく、しゃれた白いタイルがはめこまれているたけだった。 「二、三日休暇をもらったわ。〈妻と恋人〉というのを撮り終えた タイル一枚一枚の中心には、花の浮出し模様がほどこされている。 彼はべッドの横に体をずらし、絹のシーツが水のように肌をすべるばかりだから。くだんない映画。朝食にする ? それとも、 / スルームに行き、緊張を解き放っと、冷たい水を顔ょに横になりたいフ のを感じた。・、 「うう : ・ : 何してるんですか ? 」ディジー ・メイは自分がはだかな にあびせ、もじゃもしやになった髪をとかした。そろそろ床屋に行 のを、まったく意識していないようだった。 ったほうがよさそうだ。それともハリウッドに来たからには、この 「日光浴してるのよ、この魚の腹みたいなまっ白い色をなんとかで まま長くのばしたほうがよいのだろうか。 リウ・ツ・ト 0 きないかと思って」 「いつも・ : ・ : そのう・・ ・ : 服を着ないでやるんですか ? 」おまえ、ま すっかり忘れていた。マハン先生はきっと心配しているだろう。 。ヒーコック。畜生、と彼 大好きなマ ( ン先生のことを思いたしたとたん、良心の呵責がこみたいなか者まるだしだぞ、ジョン・リー・ は思った。 あげてきた。この秋にはもう学校に帰らないと先生には伝えておく ディジ ー・メイはクスッと笑った。「そうよ。でなければ、ツー べきだった。ママの葬式にも来てくれたし、あんなにやさしい先生 ・トーン・カラーのフォードになっちゃうもの。あなたが困るよう だったんだから。しかし、もう何もできることはない。カットサン ほかのみんなにもーーー彼がどこに行だったら、何か着てもよくてよ。 ガ 1 氏が先生に話すだろう 「いえ」彼はあわてて制止した。「いえ、困ってなんかいません。 ったかを。 ・ジーンズをはき、 、つしょに寝ころんでみようかな」 彼は部屋にもどると、いちばん上等の・フルー 「どうそ」彼は顔もあげず、自分のうしろを指さした。「寝椅子の 白いシャツを着、グレイのスニーカーをはいた。みなはどこにい るのだろう。家は静まりかえっていた。二人とも仕事に行ったにちところに毛布一枚あるでしよ」 、。、ールはデッキと呼んでいる ジョン・リーはポーチに毛布をひろげ、シャツを頭からぬい がいない。裏のポーチーーもっとも

3. SFマガジン 1977年9月号

けこんでくるのが見えた。だがその動きはどこか変だった。二人は「唇が裂けたの。紫色にはれあがってるわ。でも安心なさい、坊 泳ぐようにゆっくりと近づいてくる。ところが近づくにつれ、遠のや。それが、とってもセクシーなんだから」 いてゆくのだ。そのロが動いているが、クラクションを鳴らすよう ジョン・リーは笑おうとしたが、痛みがそれを許さなかった。 な音しか聞えない。そしてフロアが彼の顔を打った。 「スーは帰ってきた ? 」 ーが最初に感じたのは、たれかの手たった。それは彼「一晩中あなたにつきつぎりだったわ。眠ったほうがいいと思っ の手をにぎりしめていた。目をあけたが、まぶたがはりついてしまて、あたしが帰らせたの。はじめ大部屋に入れられてたのを、この ったようたった。。 ( ールの緊張した心配そうな顔が目の前にあり、 きれいな個室に移したのはスーよ」 おずおずと笑みをうかべた。「 / 。、ール ? 」顔に痛みが走り、ロがう「あいっ : : : 」彼は記憶をとりもどそうとした。「あいっ : まく動かない。まるでロの中に綿をいつばい詰めこまれたまましや「彼は死んたわ。パ トカーと救急車と赤いライトをあんなにたくさ べっているようだった。 ん見たの、はじめて。これから連中、どうする気なのかしら、ジョ 0 、 1 レ 0 、 「黙ってなさい、 ノ・リー ー坊や」 ーノカ気づかわしげにいっ 。、ールは取り乱した。 た。「あなたは病院にいるの。軽い脳震盪ですって。死ぬほど心配 スーがはいってきた。「彼を興奮させなして 、。、。、ール。何もか , も したわ。何日も意識をとりもどさなくて。きようは木曜日よ」 うまくいくわ」彼女の明るい笑顔を見て、ジョン・リーも、きっと ジョン・リーは顔に手をやった。ロのあたりに包帯が巻かれ、唇そうなるだろうと思った。「気分はどう、ジョン・リー ? 」 の下には圧定布があった。「ロ、どうなったんだろう ? 」息をのみ「最低」うめき声でいい、笑おうとしたが痛みが大きすぎた。 こみ、かろうじてそれだけいった。話すのは苦痛だった。 。、ールは彼の腕をたたいた。「あたしはそろそろ帰るわね。メイ ~ 思考の憶え描き気 賛古【鍋博十四色使用変形版価 2800 円 幺イラスト界のパイオニアが繊細で秀麗なイラストレイションと奔放 なイマジネイショシを駆使して織りなす四十二の字宙改造計画 ! 早川書房 6

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てもけっこうだが。これがあの晩おこったことなのだ。その影響がかったことが判明した。しかしほかのことで、なんだかひっかかる あらわれたのはしばらく後だったが、ハ、 ノグマンの最後の故障の原んですよ。ヘルメット。ハングマンはディ・フを殺すと、わざわざ、 因は、これだという確信はある」 防水区画へへルメットを入れてセントルイスへ運んた、単に次の殺 わたしはうなずいた。「なるほど。それで、そのためにあれがあ人現場にそれを転がしておくという目的のためだけに。なにがなん なたを殺したがっていると信じておられるのですねフ でもこれは筋が通りません」 「殺したくはならないだろうか ? 」彼がいった。「もしきみが、一 「通るよ、じっさい」彼はいった。「あとでその点をいおうと思っ つの物として出発して、われわれがきみを一人の人間に変え、そしていた、だがいま話しておいたほうがよかろう。 しいかね、ハング てまた一つの物としてきみを使ったとしたら、そうしたくはならなマンは音声装置をそなえていなかった。われわれはあの器械によっ いかね ? 」 てコミュニケートしていた。ドンの話ではきみは、エレクトロニク 「ライラは大きな診断もれをやりましたね」 スについての知識があると : 「いや、彼女はきみに話すときにそれを省いたにすぎない。それだ「ええ」 けのことだよ。しかし彼女は読みちがえた。彼女は怖がっていなか「まあ、要するに、ぎみにあのヘルメットを調べてもらって、なに った。あれは単なるゲームだった、あれがーーー他の連中といっしょ か手が加えられているかどうか見てもらいたいのだ」 にやったゲーム。あのことについてのあれの記憶は、悪くないかも「それはむずかしいでしようね」わたしよ、つこ。 ーしナ「、もともとどう しれない。わたしは、あれをじっさいに指示した人間た。わたしの いう配線になっているのか知らないし、そのしろものをちょっと見 見るところ、ライラは、あれが追いかけているのはわたしだけたと ただけで無線作動装置として機能を果すかどうか即断できるほど理 考えていたようだ。明らかに、彼女の読みちがえだ」 論に強い天才じゃありませんからね」 「ところで・ほくに理解でぎないのは」わたしはいった、 「なぜ・ハー 彼は下唇をかんだ。 ンズ殺しが彼女をもっと悩ませなかったかということです。あの事「とにかくやってみてくれないか。物理的な痕跡があるかもしれな 件はハングマンでなくて、恐怖にかられたギャングの仕業たと即断 ひっかき傷とか、割れ目とか、新しい接続とか。 よくわ する根拠はないんです」 からんが。それはきみの領分だ。さがしてみてくれ」 「わたしにわかるのはただ、非常に誇り高い婦人なのでーーーたしか わたしはただうなすき、彼の言葉のつづきを待った。 にそうだったーー明白な証拠もものともせず自分の診断に固執した「 ( ングマンはライラと・話したかったんだと思う」彼はいった。 のではないだろうか」 「彼女が精神病医で、彼は、機械的な範囲を超えた段階で機能に狂 「・ほくはそうは思いたくありません。しかしあなたは彼女を知って いを生じたことを知っていたから、あるいは彼女を母親として考え おられるし、ぼくは知らない、それに、あの部分の彼女の判断は正していたからかもしれない。けつきよく彼女は関係者の中では唯一の 4

5. SFマガジン 1977年9月号

彼はびかびか光るヘルメットを顎でしやくった。 こっちの方面もちょっとばかしのぞいてみましたしね」 「あれで」彼はいった。 「なるほど」 「どうやって ? 」わたしはくりかえした。 「なぜ、スペース・エージ = ンシイにこの件をもちこまないんで 「ハングマンのテレファクター回路はまだ損われていない。そうにす ? 」わたしはいった、立場を逆にするためた。「最初のテレファ ちがいない、回路はあれの不可分な一部だ。あれ自体を停止させすクター装置はあれだけの。 ( ワーと作動領域があってーー」 あんた、政府関係の仕 「あれはすいぶん前にとりこわされた。 にあれの回路を切ることはできない。 もしあれがここから四分の一 マイル以内に近づけば、この装置が作動しはじめる。大きな震動音事をしていたんじゃないのかね ? 」 わたしはかぶりを振った。 を発し、前面の張出しの下に、ある網目のかげでライトが点減しは ハングマン じめる。そうしたらわたしはこのヘルメットをかぶり、 「すみません。あなたを惑わせるつもりはなかったんです。さる民 をコントロールする。ここへ連れこんで、あいつの頭脳の回路を切間の調査機関と契約を結んでいるんですよ」 どうということもないが。彼 「ふうん。するとジェシイだな。 る」 にいってやってくれ、どうやらこうやら、万全の手は打っていると 「回路の切断はどのようにしてするんです ? 」 ころだと」 わたしが入ってきたとき見ていた設計図を彼は指さした。 「もしあなたの神意説が誤っていたらどうします」わたしはいっ 「ここた。胸部のプレートをひつばがさなければならない。ばらば た、「他の方が正しかったら ? つまり、あれが抵抗するのが当然 らにしなければならない。四箇のサプュニットがある。ここと、こ であるとあなたが感じるような情況のもとで、あれが近づいてくる こと、ここと、ここ」 んだとしたら ? もしあれが、あなたではなく、ほかのたれかのと 彼は顔をあげた。 「だが、順序よくやらなきゃいけませんよ、さもないとひどく熱くころへくるんだとしたら ? もしあなたがそれほど罪について敏感 なってしまう」 であるならば、あなたはあの死に対して責任があると思わないんで わたしはいった。「まずはじめに、ここ、それからこの二つ。そすかーーもう少し話してくたさることによってその死を防げるとし たら ? もし機密ということをご心配ならーーー」 してこれと」 「いや」彼はいった。「あんたがそうしてほしいと望んでいる方向 顔をあげると、灰色の眼がわたしの眼に注がれていた。 にもっていってしまうような仮説的な情況を並べて、そこにわたし 「あんたは石油化学と海洋生物学が専門たと思っていたが」 「ぼくはとくに何かを専門にやっていたわけじゃないんです」わたの原理を適用させようたってそうはいかない。そんなことは起りつ こないという確信がわたしにあるかぎりはね。なにがハングマンを 5 しはいった。「技術関係のライターだから、あらゆる分野をちょ・ほ ちょ・ほかしっているわけでーーーそれに、この仕事を引き受けたとき驤りたてているにせよだ、あいつは次はわたしのところへやってく

6. SFマガジン 1977年9月号

かちあたえてきたー、ーというのも、自国の科学者や技術者の才能を巣 ) のほうへ向きなおった・ 信頼し、それによって、将来も他国への優位を保ちうることに、絶入り口の一方の壁には、それそれ高さ三フィートのトマス・エジ 9 大な自信をいだいているからだ。それに、なんといっても、安全な ソンと、マリー・スクロドウスカ・エジソンの・フロンズ像が並び、 へぎがん 飛行船旅行の発達に、間接的ながら重要な貢献をなしたのは、父と反対側の壁の壁龕には、フォン・ツェッペリン伯と、トマス・スク 子である二人のアメリカの天才科学者なのである ( そしてさらに、 ロドウスカ・エジソンのそれとが並んでいたが、そのあいだを通り そのひとりの妻であり、ひとりの母であるポーランド女性の果たし抜けたわたしは、祖国以外の土地ではもっともすばらしいこのドイ た役割も忘れてはなるまい ) 。 ッ料理店の、磨きぬかれた店内に足を踏みいれた。そしてそこでし 今回わたしがニューヨーク市を訪れたのは、これらの書類を取得ばらく立ち止まって、室内に目をさまよわせ、黒褐色の落ち着いた することが第一の、そして公的な目的だったが、それと平行して、 パネルや、そこに彫られたみごとな《黒 森》の風景と、怪奇 社会史学者である息子と、魅力的な息子の嫁とに会うという長年ので超自然的なそこの住人たちーー小鬼、小人、地の精、木の精 ( こ れはなかなかセクシーだった ) の像、そういったものをじっく 懸案も、同時に果たすことができたのはさいわいだった。 こうしたわたしの楽しい回想は、エレベーターが一〇〇階の終点りとながめた 3 それらはわたしに興味をいだかせた。というのも、 に音もなく到着したことによって打ち切られた。あの恋に憑かれたわたしはアメリカ人の言う日曜画家たからで、もっともわたしの画 キング・コングが、必死の奮闘ののちにようやく達成した登頂を、題は、もつばら青空とふんわりした雲を背景にした飛行船の勇姿に かぎられているのだが。 わたしたちは苦もなく成し遂げたのだ。銀色の扉が大きくひらい た。あたりの壮麗さにたいする畏怖の念と、おそらくはこれからの給仕長が左脇にメニューをかいこんで、急ぎ足に近づいてきな がら言った。 「これはこれはー ようこそお越しくたさいましたー 旅にたいする軽い武者ぶるいとからだろう、ちょっとのあいだ、ほ ハドソン河を見おろす舷窓のそばに、とてもよいお一人様用のテー かの乗客はだれも動きだそうとしなかったので、わたしがーー、・飛行 ・フルがあいておりますが」 船の旅に慣れきっているところを見せてーーー・まっさきに歩きだし、 びちびちとした、だが冷静なニッポン娘の乗務員に、下にたいすだが、ちょうどそのとき、奥の壁ぎわのテー・フルから、ひとりの るいたわりをこめた笑顔を向けながらエレベーターを降りた。 青年が勢いよく立ちあがり、聞き慣れた若々しい声で、「ここです よ、おとうさん ! 」と呼びかけてきた。 ドアの正面にある大きな、曇りひとつない窓と、一、二五〇フィ ナイン ート、マイナス二階分のその高さから見おろす壮大なマンハッタン 「いや、かまわんでくれ」わたしは給仕長のそばを通り過ぎなが ープ・イヒ・アイン・ゲゼ心シャッター の風景にはほとんど目を向けず、わたしはきびきびした動作で、出ら、彼にほほえみかけた。「今日は連れがいるんでね。倅だよ」 発ロビーと塔屋エレベ 1 ターのある右側の入り口ではなく、左側 そしてわたしは自信に満ちた足どりで、白人と黒人双方の、りつ の、豪華なドイツ・レストラン、《クレーエネスト》 ( からすのばな身なりの客の坐ったテー・フルのあいだを縫っていった。 十ー・ヘルケル亠・ー

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た。これは金星上にいる装置のテレビカメラを操作するものだ 時間がかかった。われわれはこれを二つの方法で調整しようと試み カメラは装置のターレットにしつかり固定されていた , ー・・それによた。第一は、待て , ーー動け、待てーー動けの反復を採用すること 3 って眼下の光景がオペレーターの視野いつばいにひろがるわけだ。 だ。第二はもうちょっと複雑でね、ここでコンビュータが、統御系 それから装置のオーディオ・。ヒックアップに連結したイアホーンも統において役割を占めるという形で登場するわけだ。これには既知 着けていた。オペレーターが後年、書いた本を読んだことがあるの環境のファクターに関するモデルが設定される。このモテルはは ・、。彼はこう書いているよ。しばらくはキャビンのことは忘れ、自じめの待てーー動けをくりかえすあいだに、環境からあたえられる 分が装置の統御者の側にいることも忘れて、まるであの地獄のようデータで肉づけされていく。これにもとづいて、コンビータは、次 な風景の中を闊歩しているような感じがしたとね。それを読んだとの瞬間なにが起るかを予測するのに使われた。最後に統御系統をひ き、・ほくは子供たったから、すっかり魅せられちまってねえ、そい きついで、予測条件の統御を待てーーー動けの反復の組み合せによっ つの超小型のやつが欲しいとおもったよ。そうすりや、泥んこの中て統御系統を操作できるようになった。しかし、思わぬ事態が生じ を徴生物とたたかいながら歩きまわれるしゃないかと思ってね」 たときよ、、・ しせんとして人間の助けを求めなければならなかった。 したがって外惑星においては、完全にオートマチックなものでもな 「なぜ ? 」 、し、完全にマニュアルでもなかったしーー・完全に満足すべきもの 「たって金星にはドラゴンはいなかったからね。とにかくこれがテし レファクター装置なるもので、ロポットとはまるつきり違うものなでもなかったんだよーーー当初はね」 んだ」 「オーケー」彼はいって煙草に火をつけた。「で、次の段階は ? 」 「よくわかるよ」彼はいった。そして、「じゃあ、初期のテレファ 「次はテレファクターにおける技術的進歩ではなかった。経済的変 クター装置と最近のやっとの違いを話してくれないか」 化だった。財布のひもがゆるめられて、われわれは人間を送りたせ るようになった。彼らをおろせるところにはおろし、おろせない多 わたしはコーヒーを二ロばかり飲んた。 「外惑星やその衛星についていうと、あちらはいささかやりにくい くのところではテレファクターを惑星上におろして、人間は軌道に ところがあった」わたしはいった。「あそこじゃ、はじめは軌道上のせるというやり方にもどった。昔のようにね。オペレーターがま にオペレーターをおかなかった。経済的な面と、ある未解決の技術た装置に近くなったから、時間のおくれの問題はとりのそかれた。 上の問題があったからだ。いずれにせよ、装置は、目標の世界に着まあ、初期の方法に戻ったと考えれ・ま、 。しい。これはいまでもやって 陸させられたが、オペレーターは本土に残った。そのために操縦経いることで、うまくいっているんだ」 路を通して命題を伝達するのにむろん時間のおくれが生じた。あち彼はかぶりを振った。 らからの通信のインブットをこちらが受けるまでに時間がかかり 「コンピ 1 タと予算の増額のあいだに、きみはなにかを省いた それからこちらからの反応命令がテレファクターに届くまでにまた な」

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わたしはうなすいて、棚へ行き、二つのグラスに注いだ。 1 クグリーンのシャツを着て、毛髪は真白、縁なしの読書用眼鏡を 「おすわり」彼のところへもっていくと近くの椅子を示した。「だ かけ、われわれが入っていくとそれをはすした。 がまず、きみがもってきた器械を見せてもらおうか」 頭をうしろにそらし、横眼で、わたしを観察しながら下唇をゆっ わたしは包みをひらき、ヘルメットを手わたした。彼は酒を一口 くりとかんだ。わたしたちが前に進んでも彼は無表情のままだっ た。骨太の体格で、おそらく一生の大部分は肉付きがよか 0 たにち飲み、「ツ。フをわきにおいた。〈ルメットを両手でもち、眉をよ がいない。最近の体重の減少のせいで肉がたるみ、不健康な肌の色せ、しげしげと眺め、すっかりひっくりかえして見た。 「悪くないしろものた」彼はいった。そしてはしめて微笑をうかべ をしていた。眼は中がうすい灰色だった。 ニッコリ笑ってい たので、一瞬、ニュースで見なれた顔になった。 彼は立ち上らなかった。 たいていそのどちらかだ。どんなメディア 「あんたがそうか」彼はいって手をさしだした。「よろしく。なんるか、怒っているか でも、彼の気おちした顔を見たことがない。 と呼べばよいかね ? 」 彼はヘルメットを床の上に置いた。 「ジョンでけっこうです」わたしはいった。 「みごとな細工だ」彼はいった。「古き時代の芸術品には及びもっ 彼がラリイにちょっとした手振りをすると、ラリイは出ていっ かんが。しかしディビッド・フェントリスがこれを作ったのだ。そ 「外は寒かったろう。酒でもひとりでやってくれ、ジョン。棚にあうだ、彼が話してくれたよ : ・ : ・」彼は酒をとりあげひとロ飲んだ。 「きみはこれをじっさいに使った唯一の人間なのだ。どう思うね ? るから」彼は左の方を手で示した。「わたしにも一杯くれないか。 役に立ったろうか ? 」 ー・ホンをコップに半分な。それでいい」 星新一さんと東南アジアへ行こうー。黠 女性のためのハタヤ。ハンコワ 5 日間の旅の 9 月日 5 灰 9 月日阯 ( 572 ) 3451 て、「花 0 会タ 第 129 000 円 ( 特別会員価格 ) 東京都中央区銀座 5 の 5 の 4 催援 市内観光および全 3 食 ( 1 昼食・ 1 夕食は除く ) 主後 取扱代理店日通大手町航空支店 ディナーショーも費用に含みます。 7

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した。彼は目をとじた。 いるのかのそいてみたい気もしたが、彼には動く勇気はなかった。 ふいにスーの指が髪にひっかかり、彼をゆすった。彼女は笑い スーは彼の心を読みとったようだった。「そんなにかたくならな 5 くてもい , いのよ、ジョノ・リー その温かな、やわらかい胸にジョン・リ ーを抱きしめた。胃がビョ 。動きたくなったら動きなさい」彼 ンとはねあがった。彼女はすばやく離れると、両手を腋の下にあては姿勢を変えたが、それでも見えなかった。いきなりパンキンが膝 がい、腕を組んた。そして落ちつかない笑い声をあげた。「あな にとびのり、彼をとびあがらせた。猫は胸によじのぼると、彼の目 た、。 ( ンキンそっくり。耳のうしろを掻いてやれば、すぐ膝の上でをのそきこんだ。そして喉をならし、ジョン・リー のあごの下に頭 をおいて丸くなった。 眠ってしまう」 ス 1 は笑った。「あなたは魔術師ね、ジョン・リー。 いつも王者 「パンキン ? 」 彼女は猫を指さした。「あんなふうに丸まって寝ていると、か・ほみたいに、だれが来ても知らんぶりしてるパンキンがこの始末」ジ ョン・リーはにつこりし、猫をなでた。。、 / ンキンは恍惚と身をよじ ちゃとまちがえそうに思わない ? 」 った。そのときジョン・リー のおなかがグーツと鳴った。 「うん」彼は笑った。 「はじめていいかしら ? 」 彼女はスケッチ・・フックをおいて笑った。「かわいそうに。あな 「いいです」 たを餓死させるところだったわ」そして腕時計を見ると、「たいへ 「ようし。じゃ、その椅子にかけて、体を楽にして」彼女は製図台ん、もう二時半。なに食べたい ? 」 の下からスツールを引っぱりだすと、椅子の前においた。そしてス「何でも」 「何でも食べさせてあげるわよ」 ツールに足を組んですわり、膝にスケッチ・・フックをおいた。タ・ハ コに火をつけ、左手に持ったが、そのあいだも木炭を忙しく動かし ジョン・リーはパンキンを抱いて立ち、彼女が、卵とハムとビ つづけた。「話したければ話していいのよ。あなたのことを聞かせマンと玉ねぎ、それに・ハター・トーストを使って、すばらしい料理 てほしいわ」 を作りあげるのをながめた。彼はスクランプル・エッグが好きだと ミラーズ・コーナ 1 ズのこと、ホーリイのこ しし、彼女は笑いながら、はい、おおせのとおりスクランプル・エ 彼は話しだした。 ッグ、わたしのオムレツを一度食べてごらんなさい、そしたらもう と、農場、学校、絵は好きだが花しか描かないマハン先生のこと、 カットサンガー氏のこと、母親のこと。母親については話すことは永遠にわたしの奴隷たから、と答えた。そして壁にたたみこまれて いたテープルを出し、湯気のたちの・ほる皿を二つおいたのち、よく たくさんあったが、父親のことにはあまりふれなかった。考えてみ ると、ほとんど何も知らないことに気づいたからだ。ロ 1 ズおばと冷したミルクのグラスを添えた。ジョン・リーには、オムレツなし ライラおばの話には、スーはクスクス笑いだした。彼女はスケッチでも喜んで奴隷になってよい気分だった。 ハンキンは、尻尾を彼の足にからみつかせてフロアにうずくま ・・フックのペ 1 ジをめくっては、何枚も描いていった。何を描いて

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ての楽しい闘いで、負傷者も死者も、暗くなると同時に健康そのも 問題は、もちろん、〈地獄〉では目新しいことが何も起こらない のに戻るのである。しかし、人を殺し殺されるのに、どれほどの方ということである。しばらくすると物語はすべて語り尽くされ、新 法があるというのだろう。狩りや闘いの快感ですら、ある程度の時しい物語がないのだから、語ろうにも語るような話はなくなってし 間がたっと、妙味がなくなってしまう。前にも同じことをしたようまっていた。会ったり話したりしようにも、新しい人間すらいなか な感じを抱き始めるのである。長い長い時がたっと、フィアンナのった。王国の外から、フィアンナの前なり後なりにやって来た人が いたとしても、彼らはいっさい知らなかった。フィオン・マク・ク やってきた事はすべて混ざりあって、まるで強すぎる火で長く煮込 ーメイルはさんざん知恵の親指を噛みしめた末に、こう推理した。 みすぎたアイルランド風シチューのようになってしまう。肉片もじ やがいもも野菜も個性をなくして、単なるどろどろして味もないご他の者は、〈地獄〉の中のどこか彼の知らない、行けない所にいる った煮になるのである。 ー 03